機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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お久しぶりです。
しばらくゆっくり休んで8月に入ってから再開するぞってしていたら、
いつの間にか5日も過ぎてました(汗)


PHASE-27 動きはじめる影 

 ラグランジュポイント(L)5に浮かぶ無数の砂時計型のコロニープラント群。その周辺に設置された浮きドッグから次々と戦艦が発進していった。その中に、クルーゼ隊の所属艦、ヴェサリウスの姿もあった。オペレーション・スピットブレイク。その作戦準備のため、地球に降下するためである。地球衛星軌道上まで移動した後、クルーゼ隊のモビルスーツパイロットたちはローラシア級戦艦のカプセルを使って降下する。

 そして、その宙域周辺で2機のモビルスーツが模擬演習がてらその船団を見送っていた。1機はバルド、もう1機はジン系統ではあるが、ジンおよびジンハイマニューバとは別の姿をしていた。

 「か~!ホント、毎日毎日、発進していくな~!ザフトの軍規模ってこんなに大きかったか?」

 ジン系統のモビルスーツに乗っているバーツは呆れと感嘆の声を上げながら素朴な疑問をバルドのパイロットに投げかけた。

 「いや~、俺、指揮官やったことないし、分からないっすよ。けど一応、宇宙(そら)の規模を維持しなければいけませんからね…。」

 バルドのパイロットも今更ながら、自分の所属する組織の大きさを感じたようだ。このパイロットはヘルメットのバイザーによって顔はよく判別できないが20そこそこの若者であった。

 「まっ、俺たちには関係ない事かっ。今は思う存分、休暇を楽しみますかっ、なあ?」

 そう言いながら、バーツはジン系統のMSをバルドの方へ向き直らせた。模擬戦の再会である。

 「そうっすね。」

 バルドのパイロットも頷く代わりに、ジン系統のMSの前に正面に向いた。

 「そういや…この休暇明けからこっちの隊に異動するんだろう?久々に腕がなるなぁ。」

 「ははっ、オデル…、そっかその時はちゃんとしなくちゃいけないか…。オデル隊長も驚くだろうな、俺が来るのに。」

 2人はフットペダルを踏み、己の機体を相手に向け加速させた。スラスターを吹かせ、互いにぶつかり合う様は遠くより見るとまるで2つの光が互いに意思疎通をとっているかのように点滅していた。

 

 

 

 

 

 ユーラシア司令部。

 この一室でユーラシア軍上層部は先ほどもたれされた報告に苦々しい顔をしていた。

 「まったく、セルヴィウスのヤツめっ!また身勝手なことを!」

 1人の将官は拳を机に叩きつけた。

 北アフリカに駐留しているザフトの名将、アンドリュー・バルトフェルドの戦死についてである。表向きはアークエンジェルが撃ったことになっているが、この件にアウグスト・セルヴィウスが関与していることは間違いなかった。

 「大西洋連邦の新型艦、MSに接触したにも関わらず、データをよこしもしない。」

 「監視役はどうしたんだ?この時のための監視だろう。」

 「無駄だよ。そんなものは…。」

 「ヤツのことだ。問うても、演習に行っていたと言うつもりだろう。」

 別の将官が半ば諦めたように言う。

 「それに別にMSのデータがなくとも…我々には我々の、がある。そうだろう?」

 将官の1人が口ひげを蓄えた別の将官に目を向ける。

 「ええ。こちらはアクタイオン・インダストリーと共に開発中です。後数か月後には完成予定です。またロールアウト後の試験運用パイロットも用意しております。」

 将官は彼らに説明しながら各々の席の前にあるモニターにMSの映像が映し出された。GAT‐Xシリーズを反映したようなV字アンテナにツインアイの頭部。背中のバックパックはこのMSの最大の特徴と言えよう。次の映像では、ウィングバインダーが前方に旋回し、そこから発振器が展開され、MSを覆うような防御壁が出現した。

 それを見た将官たちが笑みを浮かべる。将官たちは大西洋連邦がモビルスーツを独自に開発し、その技術を独占することで連合内の地位を強めることに対抗して、ユーラシア連邦もモビルスーツ開発に乗り出した。

 「これでコーディネイター共の戦争の後、大西洋連邦に対抗できますな。」

 「ええ、そうですな。」

 それを聞きながら会議室に集まった将校の1人、ヴァルトシュタインは顔には出さないがこのやり取りに半ば呆れた思いであった。これまで何度も上申されてきたMS開発にようやく重い腰を上げたかと思えば、目的はただ自分たちの力の維持のためである。それも、まだ今の戦争が終わってないのにである。戦いの「次」を考えろという言葉があるが、まだプラントとの戦争の終息の道筋も見えてない。

 この本部では、一連のやりとりのようなことが日常的に行われている。前線では多くの兵が死んでいくのに、それを鑑みず、責任もとらない。守るべき国民の生活が苦しい中でも、彼らは己の利益と繁栄のため華やかなパーティーを行い、国民が食べるものがなく飢え死にしていくなか、豪勢な料理を食している。

 会議が終わり、将官たちが歓談する中、1人の男が会議室より出ていくのがヴァルトシュタインは見えた。男の名はセルゲイ・ドヴォラック。

 ヴァルトシュタインはドヴォラックにある企業、組織との繋がりがあるという疑念の目を向けながらその後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 「あまり、この場では接触しない方がいいと言わなかったか?」

 男は少し冗談めかした口調で話した。

 「だからこうして用件を伝えるのを装っているのでしょう?」

 そうと知りつつも女はつい怒った口調で返してしまった。一度、落ち着こうと息を吐き、ふたたび口を開いた。

 「…先方はアークエンジェルがアラスカに着かないことを望んでいるとのことです。」

 「要は、パイロットがコーディネイターだからだろ?それで、我々が動け…と。そんなことしなくても、ザフトが勝手にやってくれる。そっちの方が、一石二鳥だろう?」

 「中将もそう言っていました。」

 わざわざこちらから動かなくても、ザフトは部隊を向けるだろう。そうすれば、ザフトも兵力を消費するし、アークエンジェルもアラスカに着かなくなる。また、うまく着けたとしても、多くの損害を被るはずだ。彼らの本来(・・)所属する部隊の指揮官も同じことを考えているようだ。

男は、やはりという顔をしながらも、しばし考え、ふたたび口を開いた。

 「だが、それでは少々困ることもある。万が一、ということもある。私としてはパイロットは確実に始末してほしいからな…。キラ・ヤマト…。彼はまさしくこの歪んだ世界の象徴だからな。」

 「はい?」

 男の言葉の意味が分からず、女は思わず聞き返した。それに対し、男は話し続けた。

 「ザフトに潜入しているあの者に連絡しておいてくれ。ストライクとクリーガーを仕留めるように仕掛けておけ。なんならあの男、『協力者』に頼んででもいい。だが、『彼女』は撃つな。そう伝えてくれ。」

 「わかりました…。」

 女は言いそうになった言葉を飲みこみ、了承の旨だけを述べた。先の話からストライクは撃墜したい理由はわかるが、クリーガーも?

 もしや彼は嫉妬しているのだろうか?

 「クリーガーの撃墜もはいっているのに、君も疑問に思うだろう。だが確証はないが、クリーガーのパイロットも墜とさなければいけない、そのような存在だ。」

 まるで自分の思っていることを見透かされたような口調で男は話し、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 「…今回は見事に充実した演習(・・)になりましたな。」

 アンヴァルも目的は達成したとはいえ司令部の目をごまかすために、まだ北アフリカにとどまっていた。

 現在は「明けの砂漠」の本拠地から北西の離れたところで演習を行っている。

 「…演習での死亡と戦死では遺族への保障が違う。いくら部下が了承しているからというのは言い訳にはできん。ユーラシアに戻ったら手続きと同時に裏で行う。一番身近にいた遺族をほっといた人間の贖罪と思ってくれてもいいさ。」

 アウグストは苦笑交じりに話した。

 「私は何も言っておりませんぞ、将軍。では、いつも通りにやらせていただきます。」

 それに対し、フェルナンはいつもどおりの様子で応えた。

 「…そうか。ところで例の件はどうなった。ちょくちょく来てたんだろ、アイツ?」

 「ええ、内偵の報告では…。」

 フェルナンが真剣な表情で説明を始める。

 「…例の部隊が関わっている、との見方です。」

 「例の部隊か…。」

 フェルナンもアウグストもあえて部隊名を口に出さなかった。いや、正確には口に出したくなかったのかもしれない。実のところ、その部隊が「ある」というのを、正確には知らない。ただ、あるというのを聞いたぐらいであった。それは、部隊の特殊性にあった。軍とは、「戦争で勝つために、人を殺すことが許されている組織」である。その組織において、勝利を得るためなら、軍規の範囲内で手段を選ばず行う。だが、実際に行われるものには軍規から逸脱したものがあり、それは嫌悪感や後ろめたい気持ちをおこすものでもあり、みずから手を下して行いたくはない事である。その部隊はそれら汚れ仕事を行う特殊部隊である。

 「大方は予想していたがな。アレはブルーコスモス、そのバックにある軍需産業複合体とつながりがあるしな…。」

 軍の裏の任務を行う部隊は、不必要となれば抹殺され、社会にも知られることなく闇に葬られてしまうという結末があるのは歴史が証明している。ある男がその部隊の指揮官に就任した際、彼は軍と密接な関係にある組織に近づき、彼らと関係を持つことによって、軍からの切り捨てから逃れ、さらに今まで以上に軍の中で高い地位を持ち始めている。

 「…こっちもあまりゆっくりはしてられないな。」

 これからますます地球連合軍内部においてタカ派、というよりブルーコスモスの力が増していくだろう。アークエンジェルも…。

 「そういえば、将軍。アークエンジェルの件ですが…。」

 アウグストが思案していた時、フェルナンからアークエンジェルの事について話題に上げられた。

 「アラスカまで無補給・単独でインド洋、太平洋を向けるのは難しいでしょうからね。インド洋までですが、()に救援を頼みました。あそこをザフトや海賊を通り抜けることができて、頼めるのはあの艦だけですし…。」

 アウグストはフェルナンの言葉に思わず目を丸くした。彼はすでに先回りして手は打っていたのであった。

 「それに、将軍がじかに彼に連絡することに抵抗するでしょう?なので、私がやっておきました。」

 フェルナンはにんまりと笑みを浮かべた。

 「~たく、お前というヤツは…。まったく…、俺は公私を混同しないと言っているだろう。」

 「それをルキナのいるときに欲しいですね~。」

 「ぐっ…。わかった。俺の負けだ。まったく…。」

 今回はフェルナンの方が一枚上手だったようだ。

 

 

 

 海の中はほの暗く静かであった。それはまるで宇宙空間と似ている。違いがあるとすれば。ここには、光が届かぬがゆえ独自の進化を遂げた生命がいる。その中を進んでいく黒く大きな長い、まるで鯨のような物体が航行していた。が、それは鯨ではなく鉄の塊、潜水艦であった。それは地球連合軍のものとも、ザフトのものとも違う形をしていた。

 その潜水艦の艦長室に1人の男がいた。潜水艦がいま航行している海域は、地球軍もザフトもあまり来ない。そのため半舷休憩をとっている。この男もそうである。艦長という立場ではあるが、人である。今はクルーの任せ椅子にもたれかかって仮眠をとっている。

 

 

 その部屋が出す独特の雰囲気であるがゆえだろうか、そこに向かって行くにつれ空気が重く感じていった。突然の報せだった。まさか、嘘であってほしい、そんな一縷の望みにすがりながらここまで向かってきた。

 その部屋の扉を開けると、すでに子供たちと父親がそこにいた。自分が着いたのに初めに気付いた息子は「父さん…。」と声を震わせていた。娘はずっとぎゅっと口を結び下の方を見ていた。自分は息子に対して何も言わず、周りを見回した。そして部屋のちょうど真ん中あたりに置かれた簡素なベッド、そしてそこに横たわっているもの、それを覆っている布に目を向け、そこに近づいていった。自分の心臓がドクンと脈打つ音が聞こえる、それ(・・)を確かめたら自分が壊れてしまうのではないかという恐怖と認めてしまう不安がよぎった。

 顔を覆っている布をとると、そこには最愛の人の姿があった。その顔はまるで眠っているようで今もまた起きるような…。未だに信じられない思いを胸に静かに己の手を最愛の人の頬に触れる。が、手から感じたのは温もりではなく冷たい感触だった。

 「死んでいるのが嘘なくらい…、顔がきれいだろう。だが…。」

 それまでずっと黙っていた父親が重い口を開いた。だが、自分の耳に言葉は入って来ても頭の中にまでは届かなかった。それまでの世界がぐにゃりと歪んだような、視界が見えなかった。

 最愛の人、妻の同僚から細かく何が起こったのか、自分に話し始めた。近くでコーディネイターのテロが起こったこと、妻も同僚たちとともに救命活動に加わっていたこと、コーディネイターであるゆえに治療にあたったナチュラルに殺されたこと…。

 「…娘さんは今とてもつらい思いをしているだろう。」

 その時、娘はその病院に来ていて、現場に遭遇してしまった。「目の前で傷ついていいるのを救うのにナチュラルもコーディネイターも関係ない。どちらも同じ、1つの命だ。」そのような考えを持ったナチュラル、コーディネイターの医師たちが集まって創設した医療ボランティアの手伝いを娘はすることがあった。それは妻の考えもあったし、自分も娘に多くの人にふれてほしい、外に目を向けてほしいという考えもあり同意していた。その日も手伝いにやって来たのだが、状況が状況のため、妻が娘を帰らせようとした時に襲われたのであった。娘は妻が庇ったこともあって無傷だったが、自分の目の前で、そして自分を庇って母親が死んだことに呆然自失となっていた。

 それなのに自分は…。

 妻が死んだ後、必死に自分を抑えるようにしていた。それは妻が望まないことだ、しかし、真実を知った時、絶望と憎しみがあふれるようになった。近くに、助けを求める声があったのに…。

 

 船内通信のアラートが鳴り響くのが、覚醒しつつある意識に聞こえ始めて来て、思わずガバと起き上がった。激しい息遣いになっており、落ち着くのに少し時間がかかりそうだったが、とらないわけにはいかなかった。

 「…どうした?」

 なるだけ低く抑制した声をだした。モニターがないタイプなので顔が映らないのは幸いであった。

 (ネモ船長、暗号電文を受け取って、発令所まで来てくれますか?)

 通信士はこちらの様子がおかしいとは気付かず、事務的に用件を述べた。もしかしたら、わかっているがわざと気に掛けないようにしているのかもしれない。それがこの声の主、ハックことハックルベリーの性格のいいところだ。

 「わかった。今から行く。」

 こちらも短く答え、通信を切った。そして、深く息を吐きながら椅子にもたれかかった。

 なぜ、昔のことを…。偽りの名で、まるで世間から離れるような潜水艦生活をしている今の自分の身には、もう置いてきたものだというのに…。

 あの時のこと…。許せなかった。どうしても果たしたかった。たとえ理屈でわかっていても。だが、それをしたことによって多大なものを引き換えにしなければならなかった。本当の「己」をこの世から消すのはもちろん、それ以上に父親として、あの子たちとともにいることはもできなくなった。子どもが一番辛い目にあい助けを求めても、手を差し伸べることもできなかった。そして今も…。

 

 

 ネモが発令所に入ると、ハックが頷き、ネモもそちらの方へ向かい、モニターに目を向けた。

 「『海を渡る大天使、マラッカまで鯨が道案内せよ ハネウマ』だ、そうです。もうちょい、センスあってもいいような気がしますが…。」

  もうすでに彼らには何を指しているのか、理解しているようだった。「ハネウマ」は暴れ馬を意味する。自分たちが知っている暴れ馬は1つの部隊しかない。

 「で、どうしますか、ネモ船長?」

 ネモといわれた男はしばらく思案した。これはアンヴァルの、というよりフェルナン准将からだろう、彼の頼みであるならば断わるわけにはいかない。

 「…行けそうか?」

 ネモは他の者たちも見渡しながら、尋ねた。自分たちは正規の軍人ではない。普段は戦闘をなるだけ避けているし、戦闘を行うのであれば普段は非武装にしているこの潜水艦に武装をつけたりと準備しなければいけない。必要とあらば、この住み慣れた潜水艦を一時乗り換えることもある。確認の意味もあった。

 「船長、修理に出し終えたばっかりなんですよ。これで沈んだら、修理業者にクレームものですよ。」

 彼らを代表し、ハックが応じた。その言葉に周りからも笑い声がこぼれる。

 「…そうか。」

 ネモも笑みを浮かべ、どこか納得したような顔になった。そして、艦長としての毅然とした顔つきになり号令した。

 「では、これより我が艦はインド洋へと向かう。向かう先は…アークエンジェルだ。」

 

 

 

 

 




ガンダムの新作が待ち遠しいこの頃です。

…久々の投稿で、いつも後書きにどんなこと書いていたっけって思いだせない(汗)
ちなみに間隔が結構あいた理由は前書き以外にもありまして、おいおい語ります。(まだ、それが不確定なので…。)



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