機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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最近サブタイを考えるのがなかなか難しくて…。
センスがなくて申し訳ない(汗)


PHASE‐24 思いと決意

 

 

 「おい、ヒロ。起きろ。」

 ルドルフの声に閉じていた瞼を開ける。

 「あれ…ルドルフ?」

 まだ覚めてないぼうっとした顔でヒロは、目の前になぜいるのかという疑問を口にした。

 夜が明けたのか、もう明るくなっていて彼の後ろには青々とした空の色があった。

 「おまえな~、見張りが寝てどうするんだ、まったく…。」

 ルドルフは呆れながら溜息をつく。

 あっ、そうかとヒロは申し訳ない気持ちになりながらふと右肩の方をみると、ルキナが顔を寄せて寝ていた。

 「…ジーニアスが異変を知らせてるぞ。」

 ルドルフが真剣な顔つきで言い、その言葉にヒロも驚いた。

 その声に隣のルキナも目が覚める。

 「どうしたの?」

 「わからない。とにかくコクピットに向かうよ。」

 そう言い、ヒロはすぐにクリーガーのコクピットに向かった。

 「何かあったの、ジーニアス?」

 計器類をいじりながら、繋げていたジーニアスに聞く。

 『ザフトの機体が複数いる。3時の方向だ。』

 ヒロはモニターを拡大し、その方角を見やる。

 ルドルフも警戒しながら、ジーニアスに聞く。

 と、そこに黒いシルエットがあった。

 それをさらに拡大すると、そこに見えたのは、たしかにザフトの機体であった。

 

 

 

 「間違いないのだな?」

 ブライスがバクゥ戦術偵察タイプのパイロットに確認する。

 ここからでは肉眼では捉えることはできない。

 (はい。間違いありません。)

 「他には?」

 マシューも聞く。

 それがいるなら、そこかに戦艦がいるはずだ。

 (いえ…今のところ確認はできません。)

 「この場合、どうした方がいい?」

 パイロットの報告を聞き、マシューはブライスに聞く。

 「それを判断するのは、お前の役目だぞ?」

 ブレイスは呆れながら答える。

 「副官としての意見を聞きたいんだよ。俺としては、これからバルトフェルド隊と合流しなきゃならないから、このまま交戦せずにいたい。けど…俺たちの隊が地球軍の新型を前に引き下がれるか?」

 マシューは心外そうに言う。

 現在、ノヴァーク隊は隊長のアルテナが新型のテストパイロットの任務を受け、本国に呼び戻されているため、代理としてマシューが指揮を執っている。『足付き』が北アフリカに降下したという報を受け、ザフトの試作機のテストも兼ねてバルトフェルド隊と合流しともに撃つ任務を受けている。

 ここで交戦すれば、損害が出るのは必然だ。そうなると増援の目的が果たせない。それが、たとえ後でまた交戦しようとも。それでも、バルトフェルドの指揮下で連携するか単独で行うかでも大きな違いがある。が、心情的には見過ごせない。自分たちはかつてMSが開発されるかもしれないということでデータ及び鹵獲されたジンのパイロットの抹殺の任務を行った。

 しかし、パイロットを撃ったがMSは開発されてしまった。それはマシューたちが思っている以上の性能だった。

 「ふーむ…。さきほど救難信号を出していたという報告があった。ということは、あのMSは動けない可能性もある。だが、それは、今が好機であることも可能だ。墜とすにしても、鹵獲するにしても。」

 ブライスが助言する。

 マシューはしばらく考えたあと、決断した。

 「よし、パイロットは全員MSに搭乗。射程ギリギリの距離で警戒を行う。バクゥ戦術偵察タイプは輸送機の護衛。敵MSがなお動かないのであれば、順次引き上げバルトフェルド隊に合流する。殿は俺とブライスで行う。ブライス、バルドで出撃してくれないか?俺もギブリで出る。」

 「なるほど、その2機なら追いつけるからな。まあ、大破しないように扱おう。みな、持ち場につけ。」

 ブライスの号令でパイロットは各々のジンオーカー、ザウートに乗り込んだ。

 

 

 一方、ヒロもクリーガーのコクピット内でザフトの攻撃に備えていた。しかし、ザフトのMSは近づいてくるだけでいっこうに仕掛けてこない。

 「…撃ってこない?」

 ヒロは訝しんだ。モニターから見えるのは、全部で6機。ザウートが2機とバクゥ、ジンオーカー。そして見たことがないMSが2機いた。

 ジーニアスもそのMSには「識別、未確認MS…新型か?」と表示している。

 『救難信号出していたからな…。』

 「このまま去ってくれるといいんだけど…。」

 できれば戦闘は避けたい。

 ザウートは機動力もない。実質1対4となる。

 あきらかにこちらが不利であることは明白だった。

 

 

 「う~む。」

 ルドルフも岩場の陰でこの状況を歯噛みした。

 逆に、こういう状態の方が危険だ。

 何かの拍子で、交戦してしまう。

 ルドルフはルキナの方に目を向けた。

 症状がよくなったとはいえ、今もまだ倦怠感が残っているのか、座っていてもつらそうだった。

 自分も出ると言っていたが、この状態では危険だ。

 それにまだ[トゥルビオン]はバッテリーの充電が終わっていない。

 そして、MSに乗れない自分の装備と言えば、ランチャーが2丁である。

 ふたたびクリーガーとザフトの方に目をやる。

 立ち去ってくれることを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 バクゥ、ジンオーカー、バルド、ギブリが少しずつ前進する。

 みな、いつ向こうが攻撃しているか警戒している。

 この状態が一番、パイロットの神経をすり減らす。

 バクゥのパイロットもそうであった。

 近づくにつれ呼吸が荒くなるのが自分でもわかった。

 操縦桿の手が震えている。

 隊長代理は、あくまで警戒であるといったが、もし先に向こうが攻撃してきたら、どうなるのか。地球軍の新型の話は聞いている。ビームライフル1発当たれば、バクゥなんかひとたまりもない。

 そう、最初の1発がもし自分だったら…?

 コクピットに直撃すれば、即死だ。自分は焼かれて死ぬ。

 いやだ…。そんなのは。

 フットペダルの足の力も強くなり始める。

 (おい、早すぎるぞ!前へ出過ぎるな!)

 通信からの声もパイロットの耳には届かなかった。

 彼の頭の中にあるのは、撃たれる前に撃たなければならないという思いだった。

 命令違反だということも、もう関係なかった。

 「うわあああぁぁぁぁ!」

 言葉にならない声を叫び、パイロットはトリガーを引いた。

 

 

 「撃ってきた!?」

 ヒロはシールドでレールガンの弾を防ぐ。

 マシューたちも驚きの事態だった。

 「おい、前へ出るな!下がれ!」

 マシューの呼びかけも空しく、レールガンを放ったバクゥはそのまま前へと進み、頭部に搭載されたビームサーベルを展開し、クリーガーに向かっていく。

 (隊長代理!?)

 他のパイロットからも困惑の通信が来る。

 自分だって、困っているのに。

 (マシュー!)

 そんな様子を知ってか、ブライスがマシューを奮い立たそう叫ぶ。我に返ったマシューは他の機体に指示する。

 「ザウートはそのまま配置について援護を!他は前進!バクゥの援護を行う!」

 

 

 「来る!」

 ここでは、ルキナたちに被害が及んでしまう。

 ヒロもクリーガーを動かした。

 迫って来るバクゥにビームライフルを構える。

 照準器を出し、狙いを足に定める。

 外れるな!

 ライフルの砲口から火が噴き、バクゥの左脚に命中する。

 左脚を失ったバクゥは前へ倒れ込む。

 その時、コクピットから警告音が鳴る。

 見たことがない機体が近くまで迫っていて。刀を振り下ろす。

 重斬剣とは違う、細身の刀身だった。

 それをシールドで防ぐ。

 とっさにギブリは空いている手でアサルトナイフを持ち、クリーガーの胴体を突く。

 が、PS装甲のため効果はなかった。

 

 「くそっ!」

 マシューは吐き捨てる。

 (マシュー、避けろ!)

 ブライスの通信にマシューは急いで、ギブリを下がらせる。

 その場所にバズーカ―の弾頭が着弾し、爆風を起こす。

 「うわっ!」

 思わず、クリーガーがよろめく。いくらPS装甲とはいえ衝撃までは防げない。

 「やっぱりダメか…。あれが、噂に聞く…。」

 (いくらPS装甲とはいえ限界がある。が、我々もそれをしている程の余裕もない。)

 「…どうする?ジンオーカーは退かせるだろ。」

 (それが賢明だな…。なかなかの腕のようだが…。ようは止めればいいんだ。)

 ブライスは意味ありげに言う。

 「おもしろい方法見つけたのか?」

 マシューも笑みを浮かべ彼に問う。

 

 

 「…下がるのか?」

 ヒロも様子を伺っている。大気圏中ではビームの減衰率が高い。バッテリー切れの懸念もあるので、下手に撃てない。

 ジンオーカーが前脚を失ったバクゥを運び、退いていくが…。

 その時、2機こちらに迫って来た。

 そのうちの1機、重量がありそうな、機体がこちらに向かって来る。

 ビームライフルを構えたとき、その機体の速さに驚いた。

 「これは…?」

 まるで砂場をすべるような形で、迫って来る。その速さはバクゥと変わらない。

 『ホバークラフトと同じ原理か!?』

 ジーニアスも驚く。そして、モニターにホバークラフトに仕組みと図が表示される。

 が、それをじっくり見ている暇はない。

 バルドが無反動砲を構え、砲弾を放つ。

 クリーガーのシールドでそれを防ぐ。

 その時、横から来る気配を感じ、ヒロはそちらを向く。

 そこにさきほどの機体がいた。

 ギブリが散弾銃を構える。

 そちらに備え、シールドを構えるが、別の機体が後ろに回り込んだのを見る。

 そちらが再び無反動砲を撃ったので、そちらに向き直り、シールドで防ぐ。

 

 「なるほど…。反応は早いが…。」

 ブライスは笑みを見せる。その方がかえってこちらに好都合だった。

 うまく引き込めた。

 「それが命取りになる!」

 

 シールドで防いだヒロはハッとした。

 さっき銃を構えていた機体は!?

 さっきいた方をみるが、いない。

 ハッと上に何かをいるのを感じ、見上げる。

 そこにいた。

 ギブリはバルドに注意を向かせたとき、ジャンプして高く飛び上がっていたのだ。

 「しまった!」

 ライフルを構えるが太陽によって、目標を捉えられない。

 「これで!」

 マシューはギブリの左腕に装備されたアンカーロッドをクリーガーのコクピット付近に向け、射出する。そして電流がアンカーロッドを通し、クリーガーに流れる。

 ヒロは驚く。

 一瞬やられると思った。

 しかし、次の瞬間、メインコンソールがショートしたように激しく光った。

 そして、目の前が真っ暗になった。

 

 クリーガーの目の灯が消え、メタリックグレーを戻り、そして力なく倒れた。

 「何が起きたの?」

 様子が分からず、ルキナはルドルフに聞く。

 「いや…一体なにが?」

 しかし、彼も分からなかった。

 急に動かなくなった。だが、外見上損傷が見受けられない。

 ルキナは急いで[トゥルビオン]へ向かう。

 「おい、君はまだ…!?」

 「このままだと、捕獲される。もう捕獲されかけている!助けないと!」

 ルキナはコクピットに乗り込んだ。

 「本当にいいのか?」

 ルドルフがコクピット入り口から顔をのぞかせ念を押すように聞いた。

 「君はこれに乗るのに恐怖を抱いていたのであろう?」

 まるで見透かされた目にルキナは思わずそむけたくなった。しかし、俯くことせず、ルドルフを真っ直ぐ見た。。

 「…ええ、怖いです。でもここでこれを動かさなかったら後悔する。だから…!」

 その思いに嘘偽りはない。

 それを聞いたルドルフは深く息を吐いた。

 「俺もできる限り援護する。いいな、決して無茶はするな。」

 そしてハッチから砂地へ飛び降りた。

 「…はい!」

 ルキナはハッチを閉め、[トゥルビオン]を起動させた。

 ルキナは何とか落ち着こうと深呼吸する。

 大丈夫、先日も動かせた。

 たしかにルドルフに言われたことは事実だ。不安もある。

 でも、なにより自分がしたかった。

 [トゥルビオン]のスラスターを吹かせ、沈黙してしまったクリーガーとザフトの機体の所へ飛ばした。

 

 

 

 

 「ふ~、こっちはもう動けないな。出てこないけど…。パイロットは死んでないよな?」

 「…これで死んだら、落雷にあった車や飛行機に乗っている者は感電死しているぞ。それにまだ終わってないぞ。」

 マシューの言葉にブライスは呆れながら答える。そして、目をもう1機に向ける。

 [トゥルビオン]がこちらに向かって来る。

 「リック、コイツを頼んだぞ。向こうの心理的抵抗を突ける。」

 タンクモードをMS形態に戻ったザウートに動かなくなったクリーガーを渡す。

 ザウートはクリーガーの頭部を鷲掴んで、2連複砲の銃口を背後に構える。

 ギブリとバルドは臨戦態勢に入る。

 そして、ブライスが[トゥルビオン]に向け、全周波放送で呼びかけた。

 「そこの機体、この新型のパイロットは生きている!」

 

 いきなりの全周波放送にルキナは訝しむ。

 いったい、彼らは何を…。

 しかし、次の言葉に愕然とする。

 (機体を引け!もし、退かずに抵抗するのであれば、パイロットの命はない!)

 「そんな!」

 ここからでもザウートの2連複砲がクリーガーに向けられるのが見えた。

 ルキナは[トゥルビオン]を止め、その場から動けなかった。

 「なにやってんだ、あいつは!」

 応戦するために出て行ったのに、動けなくなってしかも人質になるなんて、そんな話あるかい!

 ヒンメルストライダーから引っ張り出してきた小型の通信機でその放送を聞いたルドルフは悪態をついた。

 

 

 

 しばらく、膠着状態が続いた。

 バルド、ギブリは警戒し銃を構えるが、[トゥルビオン]は動かない。

 「…退くか?」

 マシューがブライスに聞く。

 「気を付けろ。その瞬間を狙っているかもしれない。向こうにとってこの機体を奪われてはならないものだからな…。」

 2人はザウートに合図を送りながら、慎重に後退をしようとする。

 その様子はルキナからも見えた。

 うまく隙を突けば…。

 操縦桿を握る手が自然と力がこもる。

 その時、[トゥルビオン]の近くで爆風が舞った。

 [トゥルビオン]に衝撃が襲った。

 

 

 「今度は誰だ!」

 マシューが叫ぶ。先ほどバクゥを抱え離脱したジンオーカーが無反動砲を持ち、[トゥルビオン]へ向かって行っていた。

 (隊長代理、アレを放っておけと言うんですか!鹵獲されてナチュラルが乗るなんて…!)

 MSは自分たちコーディネイターの兵器だ。それをナチュラルが扱うなんて、許せなかった。このまま、ナチュラルに使われるなら、自分たちの手で葬ってやらなければならない。

 パイロットは怒りに震えていた。

 「~、ったく!」

 まったく何なんだ。いくら許せないからと言ってもこれは命令違反だ。アルテナがいればこんなことにはならない。自分が指揮しているからか?

 マシューは歯噛みした。

 

 

 ルキナはすぐに態勢を立て直し、応戦のため突撃機銃を構える。

 が、下手に撃てばクリーガーを撃たれてしまう。

 そのまま後退しながら、弾を避けていく。

 バルドが迫って来る。

 [トゥルビオン]はそれなりに機動力をもっているが、その機体も早い。

 追いつかれないよう、スラスターを吹かしていく。

 横からもう1機ギブリもやって来る。

 その瞬間、後ろから衝撃が襲ってきて[トゥルビオン]は砂地に倒れ込む。

 ジンオーカーが背後より殴りかかったのであった。

 ジンオーカーが銃を構え、こちらを狙って来る。

 その時、ジンオーカーの頭部に砲弾が2発命中した。

 ルドルフが岩場からランチャーで狙ったからである。

 メインカメラをやられたのか、ジンオーカーは銃を左右に振っていた。

 ルドルフはMSに巻き込まれないようすぐに岩場を後にした。

 

 

 

 その頃、ヒロはコクピット内が暗いなか、そしてジーニアスが無反応の中、必死に操縦桿を引くが、反応はなかった。コクピットの外から戦闘の音が聞こえてくる。

 ルキナが今戦っているんだ。

 助けにいかなければ…。

 キーボードを打って再起動しようとするが、エラーの表示ばかりがでる。

 「動いてくれよ!」

 歯がゆい思いで拳をシートに叩くが、そんなものは無意味な行為だった。

 『で、電子回路が…やられ…たんだ…。』

 ジーニアスが意識を取り戻し、ヒロに告げる。

 彼もその影響を受けたせいか、表示がおかしい。

 「電子回路が…って、ここじゃ修理できないよ。」

 本来なら電子回路版を取り出し壊れているチップなどがあれば交換して修復するが、今はそんな時間も物もない。

 どうする、どうする…。

 ヒロは目いっぱい頭を回転した。

 「…ジーニアスは大丈夫なの?」

 こっちのほうで考えるのはいっぱいのはずだが、もしジーニアスにも電子回路に異常があり、機能停止になってしまっては直すことはできない。

 『私はこんなことでは壊れやしない!なぜなら私は天才なのだから!』

 そんな論理が破たんした理由を言うのはコンピュータとしてどうなのかと思いながら、ふと思いついた。

 「そしたら、ジーニアスとシステムをリンクさせて使えなくなった部分を補うことってできる。」

 『…おい、待て。と言ってもどうせスクラップになるぞとか言うのであろう。』

 「わかった?」

 『すでにお見通しだ。緊急事態だ。背に腹はかえられない。一度、回路を出してダメなところを言っていけ!』

 ジーニアスは半ばやけくそ気味だった。

 ヒロは小さい懐中電灯を手に持ち、明かりをつけ回路の取り出しにかかった。

 

 

 バドルの無反動砲から放たれた砲弾を突撃機銃で撃ち落とす。

 ルドルフのおかげで危機は免れたが状況は変わらない。

 リックはなかなか墜とせない[トゥルビオン]を見て、歯噛みした。

 このままクリーガーを撃ってもいいが、それで[トゥルビオン]を墜とせる保証はない。

 とはいっても、このまま何もするわけにはいかない。

 [トゥルビオン]を牽制するため、2連複砲を上に放った。

 

 

 真近くで砲の音が轟きヒロは思わず伏せた。

 が、何もない。

 威嚇か?

 とにかく何もわからない。

 必死に自分を急かしながら、ジーニアスに電子部品の番号を告げる。

 ヒロは悔しい思いといつ撃ってくるかわからない恐怖の中で自問をした。

 こうなる前に撃つべきだったのか?ただ、退かすことだけではなく…。

 だが、果たしていざ敵が目の前にいて撃てるのか?

 …敵。

 敵って何だ。撃ってくる…相手?

 ‐生き残るために敵を撃つ。‐

 バナディーヤでのオデルの言葉が自問しているヒロの中に蘇える。

 そうだ、僕だって死にたくない。…死ぬのは怖い。あの時、ジンを撃ったのは、心の奥では自分に向けられた銃から逃れたい思いもあった。いつもそうだ。守るためにと言いながら、人を死なせたくないといいながら、自分も死にたくない。

 結局、自分は臆病で偽善者なのか。

 そんな中途半端な思いで人を撃ってしまう。

 …違う。違う!

 銃の重み、命の重み…。

 人が死ぬというのがどういうことか、それを見てきた自分だからこそ、人を死なせたくないんだ。僕がそうしたいと決めたんじゃないか。

 ‐自分が自分を裏切るな。‐

 ルドルフの言葉がよぎる。

 そうだ。僕がしたいのは…。

 電子回路を戻し、システムとリンクしたジーニアスのモニターに次々表示され、同時にコクピットのモニターも表示されていく。

 計器類が明るくなり、モニター画面が再起動を始める。

 

 

 

 ザウートの砲音がルキナたちにも響く。

 ルキナは一瞬躊躇し、ザウートの方へ目を向ける。

 どうやら威嚇なのか、クリーガーは無事だった。

 しかし、バルドは一瞬の隙を見逃さなかった。

 無反動砲が突撃機銃を捉えた。

 [トゥルビオン]はすばやく突撃機銃を手放した。

 宙に放られた銃は爆発する。

 低く腰を構え斬機刀を高くあげたギブリが[トゥルビオン]に一気に打ち下ろす。

 [トゥルビオン]は左肩のシールドで受けようとするが、その斬撃の速さにとっさに後ろに避ける。振り下ろされた刀が、左腕を斬り落とす。

 もし、後ろにすこし下がらなかったら、胴体ごと真っ二つに斬られていた。

 打ち下ろされた勢いの衝撃に押されるが、スラスターを吹かし、何とか体勢を立て直す。

 が、振り下ろした刀から再び腰を落としてそれを振り上げる。

 とっさに横に避けようとするが、間に合わず右腕を切り裂かれた。そのまま砂地に倒れ込んでしまった。

 「動かない…!」

必死に操縦桿を動かすが、倒れ方が悪かったのか、動力系が不具合を起こし、動かない。

 その間にもギブリが近づいて、刀を振り上げる。

 コクピットから脱出してもここは宇宙とは違い、すぐ見つけられてしまう。

 もう、打つ手はない。

 

 

 

 クリーガーの目が光りだし、ギクシャクと四肢が動き始める。

 それにリックは驚いた。

 そのつかの間、腕を掴まれ、そのまま背負い投げされるようにクリーガーの前へと投げ倒される。

 状況は!?

 再起動したせいか、バッテリー残量が大きく減っていた。

 PSを展開はできない。

 そして、回復したモニターから外を見る。

 [トゥルビオン]にギブリの刀が振り下ろされそうだった。

 僕がいまできること、したいこと。

 だから…間に合え!

 スラスターを目いっぱい吹かした。

 

 

 「本来、こちらのものだった機体を墜とすのは抵抗があるが…。」

 マシューは動けない[トゥルビオン]に向け、刀を振り上げる。

 しかし、もう自分は手を汚している。

 今さら躊躇などするなど、そんな偽善的なことをすることなどできるわけない。

 刀を[トゥルビオン]に向け、振り下ろした。

 ルキナは息を飲み、目を閉じた。

 しかし、来るであろう衝撃がなく、ルキナは不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。

 その視線の先にあったのは、ギブリでもなくバルドでもなく、クリーガーの背中だった。

 間一髪、クリーガーがシールドでギブリの刀を防いでいるのであった。

 

 

 クリーガーがこの場にいることにマシューもブライスも驚いた。

 「なぜっ!?リック!」

 ザウートはのびた様に仰向けで倒れていた。

 リックは投げ倒された衝撃で気絶していた。

 その隙を狙ってシールドで刀を抑えていたクリーガーが右こぶしでギブリを殴りつける。頭部に思いっきりヒットしたギブリは後方へと吹っ飛んだ。

 

 

 (マシュー!?)

 ブライスが驚きの声を上げる。

 「大丈夫だ、ブライス。メインカメラを損傷して少し視界が悪くなったが、まだやれる!」

 (向こうもパワーが限界のはずだ。)

 「まったく今日はなんて日だ!」

 (文句は終わってからだ!)

 「わかってるよ!」

 マシューはスラスターを吹かした。

 

 

 ビームライフルはさっきの場所に置いてきてしまったので使えない。しかしすぐ後ろには動けない[トゥルビオン]がいるので接近戦は避けたい。

 が、その間にもバルドとギブリが迫って来る。

 2機を相手に行けるかっ…。

 クリーガーを2機へ向かわせる。

 ギブリがまずこちらに斬機刀を振り下ろすため、刀を高く上げる。

 シールドは…。ダメだ。次にもたせなければ(・・・・・・・・・)…。

 そう直感し、クリーガーの右手を腰部に伸ばそうとする。

 「こっちの方が速い!」

 それを見えたマシューがサーベルを出させまいと刀を振り下ろし始める。斬機刀にはビームコーティングがされてないので、打ち破ることはできない。

 が、クリーガーは右側のサーベルを出し、逆手状態で振りあげ斬機刀を迎えうつ。

 「行けー!」

 斬機刀がビームサーベルによって両断された。そのまま頭部に来る斬撃を何とかかわす。

 「なにっ!」

 マシューは歯噛みをした。そんな戦い方あるかっ!?とは思いかけるが、その時後ろに飛ばされたよう激しい衝撃が再び襲った。

 ギブリを踏み台に蹴り、クリーガーは反転して[トゥルビオン]に急いで戻る。

 バルドがバズーカを[トゥルビオン]に向け放ったのであった。

 ギリギリで砲弾をシールドで防ぐ。

 ヒロは息を荒げ、肩を上下する。

 なんとかできたが、まだ向こうは動ける。

 対して、こちらはもうエネルギーの残量が少ない。

 どうする…。

 

 その時、ギブリとバルドの近くに砲弾が2発着弾し、爆風と衝撃が襲う。2機は突然のことで一旦後方へと退いた。

 一体今のは…?

 ヒロは驚き上を見ると、ヒンメルストライダーにのっているフォルテのジンをシグルドのディンがいて、そして、こちらに降り立った。Gコンドルもいる。

 (ふい~、なんとか間に合ったか。)

 (無事か、ヒロ?)

 昨日振りなのに、どこかなつかしく感じられた。ヒロは思わず喜びと驚きの声を上げる。

 「フォルテ、シグルド!…どうして!?」

 (説明は後だ。ヒロ、クリーガーはバッテリーがもうないのか?)

 「…あと、少ししか。」

 (Gコンドルを装着しろ。あれはストライカーパックと同じで予備電源を兼ねたバッテリーが内蔵されている。)

 「でも…。」

 (援護は俺たちがする。行け!)

 (ヒロ、行けるか?)

 有重力の地上で、しかも戦闘中にパックパックの装着は至難であった。

 どのみちバッテリーもわずかである。やるしかない。それにシグルドもフォルテも援護してくれる。大丈夫だ、できる。

 「…そうか。」

 ふとヒロは気付いた。入ると決めたとき自分に言ったシグルドの言葉が浮かんだ。

 忘れていた。ずっとどこかで自分がやらなければ、守らなければと思い、余裕がなくなっていた。そのせいか見えなくなっていた。こうやって仲間がいることに。

 そうだ。僕1人では何もできない。でも、今は…!

 「アバン、行くよ!」

 ヒロはアバンにこたえる。

(アバン、それはこっちでするからアバンはGコンドルを近づけて。ヒロ、そっちもシークエンスに入って。)

 フィオの指示する声が聞こえる。どうやらGコンドルの後ろのナビゲータコンソールに座っている。

 Gコンドルが低く飛び始める。

 ヒロも息をつめ、それを見やる。

 クリーガーが砂地を蹴り、飛び上がった。

 それに合わせ、Gコンドルの機首部分が分離し、それ以外の本体が翼を上に起きあげ、こちらに降りてくる。

 それを背中にドッキングさせようと態勢に入る。

 

 

 

 「まずいぞ!」

 ブライスは歯噛みする。

 今までこの機体がバックパックを装着する話は聞かなかったが、もう1機奪取し損ねた機体の事もある。それも同じかもしれない。ということは、装着されれば厄介だ。向こうはバッテリーがふたたび満タンになり、こちらが不利となる。

 「アレを止めるぞ!」

 マシューがやっと起き上がったザウートと後方に控えているもう1機のザウートに促す。

 が、ディンとカスタムされたジンに阻まれる。

 後ろに控えていたザウート2連キャノン砲を2機に向け放とうとした時、目の前を爆風と衝撃が襲う。

 そのビームの射線が来た先、上空を見上げると、そこには、クリーガーがいた。背中には先ほどの航空機の後方部分を装備し、滞空している。砲身が長いライフル-125㎜長射程ビームライフルを持ちこちらに向け構えている。それを再びギブリとバルドに向け放つ。

 ギブリとバルドは避けるが、その近くにビームが着弾し、激しい衝撃が襲う。

 ストライクのアグニとはいかなくても、バスターの超高インパルス長射程狙撃ライフル並の威力があった。

 「まずい…。」

 もうこちらの打つ手がなくなった。

 するとクリーガーから声が聞こえた。

 (今のは、威嚇です。もし、まだ攻撃してくるなら輸送機を攻撃します。)

 その声は少年の声だった。

 自分たちが戦っていた相手にも驚いたが、その内容に驚いた。

 「輸送機って、遠いぞ!」

 戦闘に巻込めれないよう離しているが、あの砲はそこまで射程が届くのだろうか?

 (…退くぞ、マシュー。このまま戦えばバルトフェルド隊に合流できなくなる。)

 「…ああ。」

 自分たちから仕掛けてこの結果だ、悔しいが仕方なかった。

 機体を後退させていく。

 下がりながらブライスは先ほどの声の主の事を考えていた。

 あの声…、間違いない。あの時の少年だ…。

 それと同時に彼がなぜこの場にいることにも疑問を持った。

 

 

 

 機体が退いていくのを確認し、クリーガーは砂地に降り立った。

 ヒロは大きく息を吐く。

 (馴れないハッタリかますからだよ。撃つことで来ても、撃つ気ないのに。)

 フォルテがからかう。

 「でも、退いてくれてよかった。」

 ヒロはふたたび大きく息をついた。

 「…どうやら、吹っ切れたようだな。」

 シグルドがそんなヒロの様子を見て微笑んだ。

 (しかし、シグルド。よくヒロができるって思ったな。今まであれだけウジウジしていたのに、しかもいつ敵の攻撃が向かうかもしれない状況で…。)

 フォルテは先ほどのバックパックユニットの装着を話題にした。

 「信じてたからな。それにフォルテも敵の攻撃が届かないようにしっかり守るだろう?」

 (信用されてるってか。)

 「信頼してるんだよ、仲間だからな。」

 (よくそんな格好いいこと言えるな、まったく。)

 その言葉を聞いたフォルテはきまり悪そうに苦笑した。

 

 

 クリーガーとGコンドルは近くの砂場に着地し、そこにディンとジンも来る。

 「しっかし、探しに来てみたらこんなことになっているとはな~。俺たちが来なかったらヤバかったんじゃね?)

 どうやら、シグルドとフォルテ、アバンは捜索を出せないアークエンジェルとアンヴァルの代わりに3人の捜索を、フィオはアバンにGコンドルをいじらせて損傷させてたくない気持ちでついてきたとのことだ。

 フィオは[トゥルビオン]の応急措置をしている。クリーガーもこのままジーニアスとリンクさせておけば動ける。

 あとは…。

 「ルキナ…。」

 ヒロはルキナの所に向かう。

 「…戻るわ。」

 ヒロが聞くより前にルキナが答える。

 「私にとって、今はあそこが、アンヴァルが居場所よ。…だから、戻らないと。」

 そしてルキナは遠くの方へ目を向けた。その顔はどこか寂しげでもあった。

 ルキナがどうして軍に身を置くことになったかは知らない。ハーフであることでどれだけの思いをしたのかも自分でも想像できないだろう。でもルキナにとっては、その矛盾の中にある居場所なのだと、ヒロは思った。

 「そうだ…。」

 その様子を見たヒロは何を思ったか、クリーガーのコクピットに行き、何かを探し始めた。

 「ええと、ここに。無事だといいんだけど…、あった。」

 コクピットの後ろに置かれた袋から小さな箱を取り出し、それを持ってルキナのとこに向かった。

 「ルキナ…いいかな?」

 ヒロはドキドキしていた。これを今ここで渡していいのかという思いと本来渡す時が違うためである。でも、それ以上に今ここで渡したいという思いが強かった。

 「…どうしたの?」

 ルキナはヒロの様子に不思議がっていた。

 「えっ…と…。」

 いざ口に出そうとするが、なかなか出さないもどかしさの中で、必死に言葉をつむいだ。

 「あの…これ。」

 小さな箱をルキナに差し出す。

 「まだ…、1ヶ月先だって聞いてるんだけど…誕生日プレゼント。」

 その言葉にルキナも驚いた顔をしていた。

 「…僕は、僕は本当の親を知らないけど、ずっとみんながセシルがいてくれた。でも、心の中では、そのうれしさとともに怖さもあったんだ。本当の親がいないのは、僕が…僕がコーディネイターだから捨てたんじゃないかって。…もしかしたら、セシルも、みんなも僕の事を捨てるんじゃないかって。…でも、でもそんなことないって思えたのは、僕の誕生日の時だった。『誕生日おめでとう。』ってその言葉を聞くだけでも、僕はいてよかったんだって心から思えてた。だから…。」

 ヒロはルキナに小さな箱を渡した。

 おそらくこれが、自分がルキナに対してできることだ。これだけかもしれないけど、せめてものではあったもしたかった。

 そうこう考えていると、急に照れくさくなりそのままぐるっと半周し、「じゃ、じゃあっ」とその場を去ろうとした。しかし、「ちょ、ちょっと待って。」とルキナに後ろから腕を掴まれふたたび向き直った。

 「中身、見るまで…いいかしら。」

 ヒロは顔を赤らめ、何も言えずコクコクと頷いた。

 ルキナが箱に包まれ袋を開き、箱を開ける。その中を見て、ルキナは驚きそれを取り出した。リビアングラスのペンダントであった。

 「こ、こんなにいいものを…。」

 「リ、リビアングラス…!」

 本当にいいのかと尋ねる前にヒロが話始めた。

 「…幸運のお守りになるんだって。気に…、入らなかった?」

 ヒロはハラハラと窺うように聞いた。

 「そんなことないわ。とてもきれいで…。」

 しばし2人の間に静かな時間が流れる。

 ヒロは急に後ろからヘッドロックをかけられた。

 「ヒ~ロ~、おまえ嘘ついてたな~。」

 誰がしたのかは後ろからする声で誰だがすぐに分かった。

 「ちょっ、アバン…!これには…。」

 必死にいいわけをしながら、肩ごしに振り返って腕を払おうとした。

 「わ~、きれい。見せて。」

 いつの間にかフィオも来ていた。

 「なんだ、なんだ~?俺たちが一生懸命探しにきたって言うのに…。よし、今からみんなに知らせにいくか~。」

 「わ~、ちょっと待って!アバン~!」

 面白がった顔をしながら走っていくアバンをヒロはあわてて追いかけた。

 「まったく、何やってるのよ2人とも。」

 それを呆れながら見ていたフィオはルキナの方に向き直り、手に持っていたペンダントへ目を向けた。

 「あっちはほっといて…。本当にきれいよね~。」

 「ええ。」

太陽の光に照らされ、リビアングラスは透き通るような鮮やかな黄色に輝いていた。

 

 

 

 

 




後日、加筆修正入るかもしれません。

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