この小説をアップしてから半年たちます。(驚)
しかし、まだ半分もいっていないという現実…。
「真のオペレーション・スピットブレイク…?いったい…。」
届けられた情報をある一室で女は、その内容を最後まで見続ける。
それはこれから議会に提出され可決されるであろう内容とは異なるものであった。
そして、他にこれとは別の情報もあった。
これは…、まさか。
思わず息を飲んだ。
「なーにか、オモシロい話でもありましたか?」
その時、いきなり後ろから声をかけられた。
まだ10代半ばであろうあどけない少年の声であった。
その女は誰だか知っているのだろう。溜息をついて振り返った。
「あまりこの場には現れないようにって言われているでしょ?それとも…監視かしら?」
「そうでしたっけ?でも、いい加減ヒマでヒマで。早く遊びたいな~って。別にカンシしにきたわけではないですよっ。」
少年は意に介していないようだった。
その少年は、袖の部分を腕まくっていてかつ前をしめず羽織った状態ではあるが、連合軍の士官候補生の服を着ている。
が、軍内部において彼を知る者はほとんどいない。
「…まだその時ではないわ。変な行動起こして『あの人』の計画を壊すことはしないのよ。」
女は半ば呆れ混じりに注意を促す。
「そんなこと…言われないでもわかっていますよ。あなたこそ、あまりにも疑わしい行動は慎んでもらいたいですね。ボクは許しませんよ、『あの人』を裏切ることは。」
注意を受けた少年は、さきほどの子供っぽい口調をやめ、うって変わって人を威圧するような冷淡な声になった。
対する女も冷たい目を少年に向ける。
しばらく長い沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのは、別の存在だった。
彼ら以外の別の男が入って来た。
「イタっ!」
そして、ゴンと少年の頭を叩く。
「なにやっているんだ…。他にやることあるだろう?」
男は少年を咎める。
「だからって、なんでボクだけ叩かれないと…。」
「人を挑発するような態度をとるからだろう?」
少年は抗議の声を上げるが、鋭い目で男はおさえる。
少年は憮然とした表情をしながらも、渋々と身を引いた。
「まったく…。わかりました、ボクがいけませんでした。」
「なら、やるべきことをしろ。」
「はいはい、わかりました。」
そう言い残し、少年は部屋を出て行った。
男も彼が出ていくのを確認した後、何も言わず部屋を出た。
女は、ザフトからの情報の方へ目を向けた。
先ほどの少年の言葉が頭に残った。
私が…裏切る?
彼の目には、「あの人」にはそう映っているのか?
いや、「あの人」は知っているはずだ。私は裏切らないと。できるわけがないか。もう、ここまできたのだ。引き返すことは…できない。
ジブラルタル基地。
イベリア半島にありジブラルタル海峡をのぞめるこの基地はザフトの地球上においてヨーロッパ・アフリカ侵攻の橋頭堡として使われている。
オデルはその基地より本国へと戻るため、シャトルに乗り込んだ。
機内には彼以外に別の先客がいた。
年齢は40代後半で、あご鬚を生やしたその男はオデルに気付き「よっ。」と手を上げた。
「お久しぶりです、ローデン艦長。なぜここに?」
オデルは通路を挟んだ隣の席に座る。
「…おまえを迎えに行けとの命令でな。まったく、人を年寄扱いしやがって…。もう怪我も十分治ったと言っているのに。」
その言葉を聞いて、オデルは思わず苦笑した。
現在、怪我が治ったダンクラート・ローデンはゼーベックの艦長に戻らず、補給艦の艦長に就いている。
本来は、軍事要塞の司令としての打診があったが、前線に出ることを望み、今に至っている。周りから、年齢も年齢だからとか、負傷の原因であった、戦闘で被弾し不調に陥った機関部に自ら行って、そこで巻き添えにあったからというのもあり無茶をしてほしくないという周りからの配慮もあるが、本人はお構いなしだ。
自分より若い兵士たちが懸命に前線で戦っているのに、指揮官が安全圏で居座っているわけにはいかないというのが、ローデンの言い分であり、まさしく彼らしいとオデルは思った。
「どうだった?バルトフェルドと共にいて?」
ローデンは笑いながら聞く。バルトフェルドがどういう人物か知っているのだろう。 オデルも彼に振り回されたのではないのかと、それもそれで見ていたいという気持ちもあった。
「ええ、まあよくコーヒーをいただきました。バルトフェルド隊長の薀蓄と共に。しかしとてもブレンドが美味しくて…。いつか、また頂きたいものです。」
オデルは笑みを浮かべ答える。
期待していたのとは違い、ローデンは少々残念な顔をした。
「それなら、本国への帰還命令を断って残ってもよかったのではないか?」
「いえ…。命令は命令ですので。」
オデルは答えつつ、内心自嘲した。
命令であることを理由にあそこから離れることに。
あんな形で会うとは思わなかった。
キラ、ヒロ、そして…。
彼らはやはり知らないのであろう。自分たちの事を。
でなければ、あんな風に成長しないだろう。
そして、それと同時に疑問がでた。
だが、それを考えることのをオデルは止めた。
もう会うことはない。だから…。
しばらくして、シャトルが離陸し大気圏を越え無重力空間に入っていった。
ローデンはフウと息をつき真剣な顔つきに変わり話し始めた。
「まあ…俺を今度の議会案の審議の場にいさせたくない、というのが本音だろう。」
もうすぐ、プラントの最高評議会においてオペレーション・ウロボロスの強化案の決議
が行われる。
強硬派は、この戦争以前より軍務に身を置き、戦歴を重ねてきたローデンの意見を求めることにより、軍事増強という必要性を説き、彼を審議の場に召喚したことがあった。
が、彼は、軍事の事を冷静に客観的に話すので、強硬派の意図以上の事、つまり彼らの不利なことも話すため-例えば、軍事増強は必要だが必要すぎるとか、これらを配備して他の戦線の方に物資を回すことができるのか等-、それ以後呼ばれることはなかった。
今、彼らは自ら選んだ情報をもって、市民たちに危機感をあおり法案を通そうとしている。
とはいえ、世論も開戦以後、物量が上である地球軍に善戦していること、己の脅威として登場した新型MSが公になったことによって好戦へと傾いている。
「…なんというか、浮かれ始めている。プラントは…。」
強硬派の者たち、そしてプラント市民たちは理解しているのだろうか。戦うことを決めて、戦地へ行くのは…誰なのか、を。
プラントの群の1つ‐アププリウス・ワン。
その中の閑静な住宅街をアスランはエレカを走らせていく。今日は、ある人物に会うためであった。助手席に置かれた花束はいい香りがしていた。
やがて高級住宅地のなかでも、広い敷地をもつ一軒の邸宅に辿り着く。
その邸の主の社会的地位もあるのか、セキュリティはしっかりしている。アスランは門の前に取りつけられたカメラに自分の身分証をかざし、それを受け、門が開かれ、彼は車を進める。
そして執事に取り次がれ、花束を持って邸宅に入ると、階段の上から愛らしい声でかけられた。
「いらっしゃいませ、アスラン。」
アスランも上の方をみると、そこにはラクス・クラインがいた。周りには色とりどりのハロが跳ねまわっている。
アスランは軽く会釈をする。
「すみません、少し遅れました。」
「あら、そうですか?」
彼女は階段を降りながら、ほっとりとほほ笑む。そして、アスランのところまでやってくる。
「これを。」とアスランが持っていた花束を渡すと、彼女は「まあ、ありがとうごさいます。」とうれしそうに受け取り、花の香りをかいだ。
その2人の周りをずっと「ハロ」といいながら多くのハロが跳び回っている。
「…なんですか、このハロたちは?」
「お客様を歓迎しているのですわ。」
アスランが戸惑いながら聞くのに対し、ラクスはいつものことなのかおっとりと答える。
「しかし、すみません。これではかえって迷惑では…。」
初めてピンクのハロを造りラクスにプレゼントした時、とても喜んでくれたことから、ラクスの誕生日など記念日のたびにプレゼントしていったのだが、こうも多く騒がしいと、考えもせず造りすぎたのではないかと、アスランは反省してしまう。
「お客様があなただから余計にはしゃいでいるのでしょう。家においでになるのは本当に久しぶりですもの。…さ、どうぞ。」
ラクスはにっこりと笑みを受け、彼を奥の、屋敷の裏手にある庭へと案内した。
このような穏やかな時間が流れてはいるが、このプラントの別の場所では慌ただしい1日となろうとしていた。
(私は、なにも『地球を占領しよう』、『まだまだ戦争をしよう』と申し上げているわけではない!しかし、状況がこのように動いている以上、こちらも相応の措置を執らざるを得ない…。)
プラント国防委員長の猛々しい口調で語られる言葉は街のモニターでも流される。
その街中の一角の屋外カフェでエレンとイェンはいた。
「いいの、ゆっくりとしていて?」
エレンがくつろいでコーヒーを飲んでいるイェンに尋ねる。まもなく最高評議会にて、オペレーション・ウロボロスの最終段階であり最後の宇宙港パナマを攻略する作戦、オペレーション・スピットブレイクが採決されようとしていた。
そのため、このアププリウス市の1区は、各市の代表を迎えたり、審議の準備におわれ、せわしない様子であった。
「だからこそさ。これから忙しくなる。どうせここから歩いて数分もかからない。たまにはゆっくりとしたいものさ。」
イェンが笑みを浮かべ、返した。
「しかし…よかった。」
「何が?」
「ようやく笑顔が戻って来たな、ってね。数日後にオデルがこっちに戻ってくるというのも、かな?」
オデルが低軌道会戦にて地球に単独降下し行方不明となっていた間、エレンはふさぎ込んでいた。
艦長としての立場もあり、表にはそのような様子をみせてはいないが、人がいない場所ではずっとオデルのことを心配していたのであろう。
「さてと、そろそろ行くとするか。あまり長くいて君といるところをオデルに誤解させてしまったら、1ヶ月以上口をきいてくれなくなる。」
半ば冗談めかしたことを言いながら、イェンは立ち上がって、ウェイターを呼び会計を始め支度にとりかかる。
「あらっ、そもそも誰のせいでこうやってイェンが時間をとってまで会いに来てくれたかと、言ってあげるわ。」
エレンは笑みを浮かべ、返す。
そうなったら、きっとオデルは彼女の機嫌を直すため、奮闘するだろう。その姿が安易に思い浮かぶことができ、イェンは思わず内心笑った。
とはいいつつもお互いを大切に想っている。きっと…。
「戦争が終わったら…、結婚式だな。」
イェンは静かにいった。
エレンはただ微笑んでいる。
「そのときはちゃんと招待してくれよ。あと、フォルテもな。」
そう言い、イェンは鞄を持ち、カフェを後にした。
最高評議会議事堂の小会議室のスクリーンでパトリックは映像をチェックしていた。
「そんなものを見せて、まだ駄目押しをしようとするのかね?」
そんな折、背後より声をかけられる。そこにはシーゲル・クラインが立っていた。
「君の提出案件、オペレーション・スピットブレイクは本日可決されるだろう。世論も傾いている。もはや、止める術はない。」
シーゲルは重い口調で言った。
それに対し、パトリックは心外であるという顔で返す。
「我々は総意で動いているのです、シーゲル。それを忘れないでいただきたい。」
「戦禍が広がればその分憎しみは増すぞ!どこまで行こうというのかね、君たちは!?」
シーゲルは語気を強めた。
「そうさせないためにも早期終結を目指さねばならんのです!戦争は勝って終わらなければ意味がない!」
「どこで終わりになるのかね!プラントの戦争の目的を越えてまで!主権国家を勝ち取るだけではなく、すべてを滅ぼすのか!?」
パトリックは映像を止めた。スクリーンから映像は消え、部屋が明るくなる。
「我らコーディネイターは、もはや別の新しい種です。ナチュラルとともにある必要はない。」
「早くも道の行き詰った我らの、どこが新しい種かね!?婚姻統制を敷いても、第三世代の出生率は下がる一方なのだぞ!」
シーゲルの言葉にパトリックも反論する。
「これまでとて、けっして平坦な道のりではなかった!今度もまた、必ず乗り越えられる。我らの英知を集結すれば!」
「パトリック!命は生まれいずるものだ。創り出すものではない!」
シーゲルはテーブルを激しく打ち、叫んだ。
「そんな概念、価値観こそがもはや時代遅れのものと知られよ!人は進む!常によりよき明日を求めてな!」
「そればかりが幸福か!?」
しかし、いくらシーゲルが言おうともパトリックには届かない。
(ザラ委員長、お時間です。議場へお越しください。)
その時、スピーカーから呼び出しの声がし、パトリックは出口へ足を進めた。
そして彼は背を向け、言い放った。
「これは総意なのです、クライン議長閣下。我らはもう今持つ力を捨て、進化の道をナチュラルへと逆戻りすることなど出来ぬのですよ。」
彼が部屋を出て、残されたシーゲルは拳を握りしめた。
「我らは進化したのではないぞ、パトリック。」
彼はやりきれない思いであった。
今度の議長選ではパトリック・ザラが着くであろう。そして、プラントは一層強硬な道をとっていく。しかし、いくら訴えようが、もはや届かない。止めることができない。しかし、止めなければならなかった。このままでは…。
今日、これまでプラントのために歩んできた2人は決定的に道を違えた。
イェンと別れたエレンは1人自宅に帰って来た。
プラントのコロニーのライトが夕暮れの色を出し始めていて、薄暗い部屋に窓からほんのりとした明かりがさす。
エレンはオーディオの再生ボタンを押し、ベランダに出た。
外は柔らかい風が吹いているその風に乗っていくように、オーディオから音楽が流れ始める。
先日、イェンから奪取し損ねた機体の提出される前の未編集のレポートを見せてもらった。これをどこからどうやって手に入ったのかはわからない。だが、そうしても気にかかっていたことがあった。
キラ・ヤマト。
‐それが、俺の「弟」の名前だ。生きていれば、だ。‐
かつてオデルが自分のことを話してくれた時に聞いた名前がそこにはあった。
‐いや、きっと生きているだろう。「叔母」がきっと守ってくれる。‐
オデルの話を聞きながらエレンは彼が言葉にする「家族」について、違和感を覚えた。どこかまるで「家族」としての血縁はあるけど、遠いような…。
そのことを彼に話した。
そうするとオデルは苦笑しながら話す。
‐そうかもしれないな…。俺は、誰しもが暖かい母親の体より産まれたのではなく、命のない機械から生まれた存在だから…かな。その事実が「家族」の事に対して暖かみを帯びることができないんだと思う。‐
その姿はどこか寂しげであったことをエレンは覚えている。
忘れないで、オデル…いえ、シュウ。
エレンは、今ここには居ない最愛の人に、本当の名前で呼びかける。
あなたは、簡単に人の命が消えていくこの世界で機械から生まれた自分はさらに命が軽い存在だと言った。
たとえ、あなたがどんな存在であっても、誰であっても、私にとってあなたはこの世で一番大切な人。愛する人であることを。
オーディオから流れる静かな音楽をエレンは目を閉じ、聴き入った。
レジスタンス「明けの砂漠」の本拠地。その司令室でサイーブ、アークエンジェルの士官、アウグストが中央の机に広げられた地図を前に面した。
「このあたりは廃坑の空洞だらけだ。そして、こっちには、俺たちがしかけた地雷原がある。戦場にしようってんならこの辺だろう。
サイーブが地図の一点とその付近の円を描く。
「…たしかに、これを使わない手はないな。ここら辺は?」
アウグストはその近くの場所を指し、サイーブに尋ねる。
「ここは…。しかし、よく聞くな。」
「ちゃんと納得するまで聞くタチなんでね。」
その時、フェルナンが司令室に入って来た。
「将軍、到着しました。ちゃんと届けてくれました。」
その言葉にアウグストは笑みを浮かべる。
「そうか。サイーブ、少しいいか?あと、長老も呼んでくれるとありがたい。」
その言葉に、サイーブと士官たちは訝しむ。
が、サイーブと長老にいてくれないと困るとフェルナンからいわれ、仕方なく向かった。
本拠地の入り口近くまでいくと、まえにトレーラーが数台あり、数十人の一団がいた。その前にはアラブ系の壮年の男がいた。
見慣れぬ一団が来たことが周りにも耳が入り、やってきて見に来る者たちもいた。
長老とサイーブは思わず驚きの声をあげ、その男の近くまでいった。
「おお!サルマーン・ハルドゥーン殿ではないか。どうして、ここへ?」
どうやらこの男性は長老と知己の関係であるようだ。
「タッシルの街が大火によって焼かれたと聞き、その見舞いに来たのです。わずかながらではありますが、食糧や医療品、衣類などもあります。」
謙遜の言葉を口にはするが、トレーラーには多くの物資が乗せられていた。
長老は大火という言葉に訝しむが、すぐにその言葉の意味を悟り頷いた。
「そうか…。わざわざ遠い所よりありがとう。」
長老は頭をたれ、サルマーンに謝意を述べた。
「それと…、アウグスト・セルヴィウス、貴様の使いが来たときは何か嫌な予感がしたが、また会うことになるとはな…。」
長老に一通りの挨拶をしたあと、サルマーンはアウグストの方へ向かった。
先ほどとうって変ってあまりいい顔をしてない。
「そう嫌味を言いつつも、いつもちゃんと品をくれるから俺はありがたく利用させてもらっているんだ。」
アウグストの褒め言葉にも不機嫌そうな顔をし、サルマーンはトレーラーの方へ目を向けた。
「…純正品だ。貴様の使いにも言っている。確認しろ。」
そこへ一団のほうから1名こちらの方へやってきて、アウグストの前に歩み出た。
「タチアナ・クラーセン大尉。ごくろうであった。」
アウグストが労いの言葉をかける。
「いえ、こちらがリストになります。」
タチアナはアウグストに物資のリストを渡した。
「うむ。では、搬入作業始めてくれ。」
そう言うと、近くに控えていたユリシーズにリストを渡し、彼の指示をもとに物資の搬入作業を始まった。
その様子をみていたアークエンジェルのクルーたちは彼らが何を言っているのかよくわからなかったが、見舞いの品の物資の奥から見えたものに驚いた。
「あっ、あれは!?」
チャンドラが声を上げる。
それらは武器や弾薬であった。中には、ザフトで使用される弾薬もある。
一体どうやって、そもそもどうしてなのか、という疑問が彼らの頭を駆け巡る。
「…貴様たちや『明けの砂漠』と違って、表立ってにはできないんだ。少しは控えてもらいたい。」
搬入作業を見守りながら、サルマーンは呆れた様子でアウグストに話す。
「敵の支配地域で物資を補給できるのは、おまえしかいないからな。助かるよ。」
サルマーン・ハルドゥーンはここより西の地域に居を構えている、北アフリカ共同体の有力者の1人であった。有力者なだけあって、この北アフリカ共同体のほかの有力氏族にも顔を利かすことができるし、また、商いを営んでいるため表では手に入りにくいものも得ることができる。そのためか、ザフトも彼には手を出せないでいる。
考えとしては「明けの砂漠」のように大国の支配をよしとは思わないが、長く結ばれていた交流の歴史を断ち切りたいという考えでもなく、また暴力で抵抗するのも好ましくないと考えている。
そんな彼ではあるが、縁のあるアウグストの頼み事のため、イヤイヤながらもこうやって引き受けたのであった。
「しかし…いったい何を考えているんだ?」
サルマーンはアウグストに尋ねた。
「何が…だ?」
一方、アウグストはサルマーンの問いの意図に気付かぬふりをする。
「とぼけるな。おまえがただ対MSのために部隊を創ったとは考えられん。何を考えている?」
「そうだな…、あえて言うなら、俺の軍人生活の集大成とでも言おうか。」
「…集大成、か。あの事か?」
しかしアウグストは答えない。
「アレはもうアレで終わったことだ。もし、それについて詫びる気持ちを持たれても困る。」
そう言い放ち、サルマーンは去っていった。
「ギース、この物資をあっちの方に運んでくれ。」
ユリシーズはリストを見ながらギースに指示する。
「わかりました。…しかし、ハルドゥーン氏が来るとは思いませんでしたよ。」
「そういえば、前にそんなこと言っていたな。大将、紹介されて…。」
「ええ。そして、いつのまにか軍属です。まあ、そうじゃなかったら今頃刑務所行きの処刑ですからね。ホント、2人には感謝しますよ。」
もともと、ギースは若いながらも父親の後を継ぎ貿易会社を経営していた。しかし、地球とプラントの対立の激化の影響を受け、さらにプラントに密輸を行っていると疑いをもたれ危機に瀕した。その際、助けてもらったのがサルマーン・ハルドゥーンである。今は、会社を父親の代から片腕として働いている人に任せ、さらに、身の安全を図るため、カモフラージュとして軍へと入った。
「ははは、ここでこき使われるか、処刑されるかの2者択一か。俺としては、どっちもイヤだけどな。」
「まったく、他人事だと思って、あの時は本当にもうダメだっとおもったんですから。ところで、けっこう食糧ありますね。」
ギースが物資を見ながら、ユリシーズに聞く。
「まあな。避難民もいるし…。だが、たしかに少々多いよね。」
ユリシーズはリストを確認しながら嘆息する。
これでは食べきる前に傷んでしまうような…。
「そしたら、少し使っていいですか?」
ギースが何か思いついたのか、笑いながら聞く。
「ああ、炊事班と主計のヤツらに聞いてからな…。」
「では、運んだと聞いてみます。」
そう言い、ギースはリフトカーに乗り、物資を運び始めた。
「さて、俺はと…。」
「これも、お願いします。」
その時、ハルドゥーン一行の者らしき人物が物資を運んできた。
「ああ、ありがと。そこに…。…おまえか。」
ユリシーズはそのまま物資を置いてもらおうと指示を出そうとしたが、その人物をよく見ると心当たりある人物だったため、驚いた。
「しかし…、ほんと気付かなかった…。なんで、俺の所に?」
「…大将や准将の所では怪しまれる。」
ユリシーズの質問に男は答える。先ほどの抑揚をつけた感じではなく、淡々とした口調となった。
その男の特徴は言い表せそうで言うことは出来ない。顔だちとかははっきりとはわからない。衣服もそうだ。今は民族風の衣装を着ているが、会う場所によって変わる。そこにいる多数の一般人に紛れ込むのがうまいのである。
「…で、わかったことは?」
ユリシーズはリストを見ながら話す。男はただ黙っていた。
「収穫はなしか。でも…目星はついてるんだろう?」
「…確証はない。」
男も渡した物資の受領書をとり、ユリシーズに渡す。
「攻め方を変えるのはどうだ?これだけ、つかめないならバックにそれなりの大物が控えているかもしれないぞ。なんせ影なんだから。」
「…やってみよう。」
ユリシーズが受領書にサインする。
「では、お願いします。」
男は抑揚がついた口調で述べ、その場を去っていく。
ユリシーズはその姿をなるだけ見ないように、物資の方へ目を向けた。
アークエンジェルでも先日得た補給物資の搬入作業にとりかかり始めた。
その通路にある倉庫として使われている小部屋の前に食事のトレイを持っていたカズィは立ち止まった。そして小声で後ろについてきたキラに小声で話した。
「キラは顔を出さない方がいいよ。鍵開けたらドアの陰にいて。」
その言葉に思わずキラは怪訝な顔をした。
「また、キレちゃったら嫌だろ。あのサイがさ…。」
カズィの言葉にキラは俯くしかなかった。
カズィがカードキーをスリットに通し、暗証番号をうつのを確認した後、キラは一歩退き、隠れるようにした。
「サイ…大丈夫?」
「あ…うん。」
とはいえ、キラもサイのことは気にかかっていた。
そっと様子をうかがった。
「1週間、きついだろうけどさ。規則じゃしょうがないもんな。我慢して。」
「わかっている。大丈夫だから。」
その様子を見て、キラはまた俯く。
その時、ふと長く濃い赤色の髪をした人物が通路の陰に隠れるのが見えた。
ポーンと白いゴムボールが地面を跳ねる。
それをセロは小さい体を同じように飛び跳ねながら追いかける。
その内、ボールの跳ねるのが低くなり、コロコロと転がるだけになると、セロはボールを口にくわえ、ふたたび跳ねさせてもらおうと飼い主のところにトコトコと向かった。
が、飼い主はうたた寝をしてしまっていて、いっこうにこちらに反応しない。セロも飼い主がこうなったらなかなか起きないのを知っているので、一生懸命前脚を出し体を揺さぶらせようとするが、人間の大人と子犬ではなかなか効果がなかった。
セロは「く~ん」と鳴きながら諦めかけたとき、別方向からボールが跳ね飛んできた。
セロはそれにいち早く反応し、口にくわえたボールをはなし、喜びながら追いかける。
ボールを投げた主は、うたた寝をしている飼い主に呆れながら、声をかける。
「ホークウッド大尉、サボリですか?」
ディアスは目を開け、答える。振り向かなくても声の主はわかっていた。
「サボってはいない。セロの遊び相手をしていただけだ、クラーセン大尉。」
「では、周りをよく見てください。」
ディアスはセロが違うボールを追っかけて遊んでいるのをみ、さらに自分の足元には持ってきたボールがあるのを見た。
とても言い訳ができる状況ではなかった。
「…で、何か用か?」
話を変えようと、ディアスはタチアナに尋ねた。とはいっても、寝ていたことには悪びれた様子はなかった。
「物資も揃ったことで、今後の事を話すことで、大尉も呼んでくるようにとセルヴィウス大将よりの言伝です。」
「…そうか。」
「用件は伝えましたので。あと、ちゃんとボールは片付けといてください。」
それだけを言い、タチアナはその場を去った。
ディアスは立ち上がり、誰もいないであろう岩陰に声をかけた。
「…というわけだ。後は頼むぞ、オリガ。」
「バレてました?」
「…ああ。で、おまえは何しに来たんだ?」
ディアスはセロを呼び寄せた。
「いえ…特に。強いて言えば、姉さんと隊長が何を話すのかな、って。」
「聞いての通りだ。ただの連絡だ。それとも何か他に話すことあるのか?」
ディアスは呆れながら答える。
「本当に、何も話すことないのですか?」
オリガは不満そうに言う。
「…いったい何が言いたい?」
「…なんで、姉さんと別れたんですか?」
突然の問いにしばらくディアスは黙った。
「もう、何年前の話だと思っているんだ。」
「でも、2人とも未練ありそうな雰囲気ですよ。」
「お互い決めたことだ。それを妹が蒸し返してどうするんだ。おまえも仕事があるだろう。早く、済ませろ。」
そう言い残し、ディアスはセロを抱え、その場を去った。
オリガはこれ以上の追及は出来なかった。
搬入作業が終わり始めたころ、食糧が手に入ったこともありギースが気晴らしを兼ねて、野営テントで炊事班と共に料理を振る舞い始めた。
「うわー、おいしそう。」
「ほんとー!」
トールとミリアリアが料理をみて感嘆の声をあげる。
この地域特有の料理が並ばれていてどれも珍しいものだった。
「あー、でもこのあとブリッジに行かなくちゃいけないんだよな…。」
トールが残念そうな顔をする。
「大丈夫さ。あとでアークエンジェルの食堂にも持っていくから食べられるよ。」
そんなトールにギースは笑って答える。
それを聞いたトールは打って変わって喜んだ。
所々で食べようと人が集まり賑やかに食事を食べている。
街を焼かれここにやってきたタッシルの避難民たちも少し明るい顔になっていた。
ヒロもアバンに誘われて来ていた。
目の前には串焼きのケバブ、クスクス、肉団子と卵のタジン鍋がある。
どれもおいしそうなものでアバンは喜びながら皿にとって食べている。
ヒロもとってはいるが、頭では強盗から助けた店の店主の話を思い出していた。
店は小さなこじんまりとしているが、いくつかのきれいな色を放つ石が並ばれている。それには細工された金属細工とともにアクセサリーとして並ばれていた。
これはすべてこの店の店主が1つずつ手がけたものである。
「いやぁ、本当に助かったよ。そこに掛けて、もう少し待っててくれ。すぐに終わるよ。」
店主の老人に促され、ヒロは近くの椅子に座る。
そして、店主は一角にある作業場に向かい、なにやら始めた。
強盗を撃退したお礼をさせてほしいといわれ、最初は戸惑ったが、今ある頼み事をしてもらっている。
「しかし…この辺では見かけない顔だね?観光かい?」
作業をしながら店主がヒロに尋ねる。
「はい。」
「しかし、ここはこんな街、来ても何もないだろう?」
「そんなことないですよ、人が活気にあふれて…いい街です。」
「そうかい…。」
その間にも店主は手を動かしている。
「ここいらは、昔から砂漠の中で暮らしてきた。そんな環境もあってか、豊かになるのは難しかった。そんな中でも、と見つけたのが鉱物資源さ。」
店主が今作業している石を見せる。大きさは長さ2cmぐらい幅1cmぐらいで黄色く透明な輝きを放っている。
リビアングラス。ここから東側のあたりで産出される天然石である。
「しかし、それらを欲する者たちがいた。彼らはそれを独占したいため、それを欲する別の者たちと争ってきた。そして、勝った者は負けた者と共に戦った者たちと取決め我々から搾取していった。…全部、我々の意志などお構いなしに、だ。今度の戦争もそうさ。」
「だから…、もう支配されるのが嫌だから、戦っている人もいます。」
「そうだね。それで、多くの命を失うこともある。この街は逆に支配を受け入れて安寧を得ている。彼らに逆らわないようにして、彼らを怒らせないように、してね。我々はこの両方の姿勢を繰り返してきた。」
老人は淡々と述べる。
「どっちがいいんでしょう…。」
戦ってタッシルの街のように住む場所を焼かれるか、支配を受け入れいつか彼らが横暴になり虐げられようとも安寧を得るか。
「…難しいものだな。どちらも根にあるものは同じだからね。昔…そんな歴史の繰り返しを断ち切ろうとした動きもあった。それは、宇宙だった。」
「宇宙…ですか?」
「そうだ。再構築戦争が終わった後も地球資源は枯渇していた状態だった。それを打開するために宇宙ビジネスが活発化していく中、それに目をつけた男がいた。今のプラントを見ればわかるだろう?もしも、北アフリカもコロニーを持てれば、この砂漠での農作物を育てることもできるだろうし、資源も得ることができる。そこにかつての大国と対立関係にある南アフリカも協力を得させることで、搾取からの歴史を終わらせる、そんな希望を持っていた。だから、過酷なコロニー建設にも耐えられた。しかし、そこに待っていたのは理不尽だった。共同体の官とその産業の企業との癒着によって富は独占され、彼らのもとに分配されなかった。彼らも抵抗運動をしていったが、軍を掌握していた官は彼らを押えていった。ついに、彼らも武器をとり、コロニー内では戦争となったのだ。しかし、その戦いも簡単なものではなかった。彼の純粋の思いとは裏腹に周りは利権など思惑が渦巻いていた。そちらに味方し、軍事援助したユーラシアもそうだ。戦闘は激しさを増していく中、ユーラシアも撤退してしまった。何を思ったか残って戦い続けたバカもいたが、結局努力むなしくコロニーは人の住めぬものとなってしまい、どちらも放棄せざるを得なくなった。すべて…水泡に帰してしまった。」
「…よし、できた。」
そう言うと、老人は立ち上がった。
リビアングラスを周りにシルバーの型を施しペンダントトップとなり、チェーンがつけられた。
「いやいや、老人の長話に付き合ってくれてありがとう。」
「いえ、僕が頼んだことですし…。」
ぼんやりと思い出していると、突然人の顔が目の前に現れ、そこで現実に引き戻された。
「なーに、考え事してるんだ?」
アバンが怪訝な顔でこちらを覗いていた。
「えっ…と。」
ヒロはたじろぐ。
「あんまり考え事しながら食うとせっかく美味いモノも楽しめないぞ。」
「…そうだね。」
『まあ、アバンのように何にも考えてないのもどうかと思うがな。』
「悪かったな。」
ヒロは串焼きケバブに目を向けた。
そういえば、その人はどうなったのだろうか。
しかし、ここで考えていてもどうしようもない。
今はアバンの言う通り、料理を味わう。
そう思いながら、ケバブを口に運んだ。
暗い自室でベッドに横になりキラは天井を見上げている。
その時、ベルの音がして扉が開いた。
「キラ?」
キラはその声に飛び起きた。
「やあねえ、なーに?暗いままで。」
フレイが照明のスイッチをつけ、部屋に入って来た。
「さっきはどうしたの?」
キラはおずおずとかおをそむけながら尋ねる。
「サイのとこ…来てたでしょ。」
あの時見たのは間違いなくフレイだった。
フレイはキラの横にすわり、頭をキラの肩に寄せた。
「…サイ、馬鹿よね。」
その言葉にキラは驚いた顔をした。
フレイはつづける。
「あなたに敵うはずなんかないのに…、馬鹿なんだから。」
「…フレイ。」
その言葉を聞き、キラは表情が暗くなった。
「キラ?どうしたの?」
それに気づいたフレイが尋ねる。
が、キラは答えず、フレイから離れる。
「キラ?」
それでもなお黙ったままのキラにフレイは体を寄せ近づける。
「大丈夫よ、キラ。あなたには、私が…。」
「やめろ…よ!」
キラは思わず、フレイの体を突き放した。
「キラ!?」
フレイは目を見開き、驚いた顔をした。
「…ごめん。」
キラは小さく呟いて部屋を出て行った。
「キラ!」
フレイの声が聞こえるが、キラは構わず走り去った。
キラの中に絶望が渦巻いた。
フレイはサイの事を愛していたことに。自分のことを好きになったわけではないことに。
キラは通路の壁にもたれ、そのまま座り込んだ。
フレイはキラを追いかけたが、見失ってしまった。
彼女は部屋に戻って、ベッドに座り、モニターをつけた。
しばらくもしかしたらキラは外にいるかもしれない。
そう思い、あちこち切り替えていたが、ふとその光景が目に留まった。フレイは眉をひそめ、モニターを切った。それは、今の自分にはないものを見せつけられているようなものだったからだ。
ギースが料理を振る舞っている話は機体を整備しているアンヴァルの整備士たちやパイロットたちにも届いた。
「た、食べたい!」
それがススムはその話を聞き、第一声であった。
とはいえ、まだすべてのメンテナンスが終わってない。が、このままではなくなってしまう。
どうしようと悩んでいる姿にラドリーはススムに言った。
「大丈夫だ、ちゃんと今仕事している者たちの分も作っている、だろ、ユリシーズ?」
ラドリーはこの話を持ってきたユリシーズに確認する。
「もちろん。じゃなきゃ、困る。俺もこれからテムルを伴って、ちょっと行かなくちゃいけないし…。」
「いつもサボっているからでしょう。おかげでとばっちりがこっちに来て。」
ユリシーズの言葉に呆れながらオリガが返す。
そこへ[トゥルビオン]からルキナが降りてきた。
「こっちのほうは大丈夫よ。この間の戦闘での損傷もあったのかとは思えないぐらいちゃんと動いたわ。」
ススムに報告する。
「そうですか、まずはこっちは終わりっと。」
ススムはチェックボードに記す。が、まだまだやることは残っている。
「怪我の方はもう大丈夫か?」
アレウスはルキナに先日の怪我の具合を聞いた。
「ええ、もう大丈夫よ。かすり傷だったし。」
「そうか。けど、無理はするな?」
「うん、ありがとう。」
その時、パーシバルが暗い顔でやってきた。
「ダメだ、と言われた…。」
「まあ、そりゃあなあ…。」
ユリシーズも呆れて言葉が出なかった。
先日の戦闘で墜落したスピアヘッドの代わりに新しい機体を補充できなかったので、なんとか修理できないか、ジャンに頼んだがムリと一蹴された。かつ、もっと機体を大事に扱えと小一時間説教をくらってしまった。
「そして、ユリシーズの目付け役をしろと言われた。」
「ええ!そんなに信用ないんかい、俺…。」
ユリシーズはがっくりした。
「それ、私が言いたいわよ!」
この後、ギースの振る舞われた料理を食べに行く予定だった
もともとアレウスは別件で来れないのだが、ユリシーズはこの後テムルとともに将軍に言われたことをやるのに、まだ他のことをやり終えてなかった。そのため、彼がふたたびサボらないようにオリガがお目付役をうけさせられ、さらにパーシバルもという形になった。
そのため手が空いたのはルキナ1人という現状になってしまった。
「それじゃあ、私もここで何か手伝おうか?1人でも待っているのもなんだし…。」
「いや、それじゃあ飯を確保するのがいなくなるから、それは困る!」
「だったら、早く仕事終わるようにすればいいだろう…。」
ユリシーズの言葉にアレウスがツッコむ。
「まあ、私たちはその他のだからすぐに終わるようにするから大丈夫よ。ねえ、ユリシーズ?」
オリガはユリシーズを見ながらいう。その目がなにか怖い。
「じゃ、じゃあ、オリガとパーシバルが早く来れるように頑張るよ。だから、先に行っていて大丈夫だぞ、ルキナ。」
ユリシーズはオリガの威圧に押されながら言う。
「そう…。じゃあ、先に向かってるね。」
ルキナはアークエンジェルへと向かった。
「で、どうだった、サイは?」
トールは先ほど食事を運んだカズィに聞いた。
「うん…。思っていたほど、落ち着いていたよ。」
「そっか、あともう少しだもんね。サイも食べれればいいんだけど…。」
カズィの言葉にミリアリアも安堵する。
彼らもようやく積荷作業が終わり、アークエンジェルの食堂でギースの料理を食べている。
しかし、どうしてこんなことになったのか。
コーディネイター嫌いでかつあんなことがあったのにも関わらず、フレイがキラのことを看病する姿をみたときはほほえましく思う中に危ない雰囲気もあったが、それが現実となってしまった。
なんとなくぼんやりとしたフレイの意図を感じながらもミリアリアは口には出せなかった。
が、結果としてキラがフレイをとるような形となり、サイはあんなことをしてしまった。今まで仲がよかったゼミの仲間たちに隔たりができ始めてしまった。
「やっぱMSって動かすの、大変なんだなぁ。」
トールが話題を変えた。
「そうね。とは言っても、私たちなんかシミュレーターでさえスカイグラスパーにもダメだったよね。」
ミリアシアも重い雰囲気を払しょくさせるように努めて明るい調子で言った。
先日、スカイグラスパーのシミュレーションをしたのだが、カズィとミリアリアは戦場に出た直後、落とされてしまった。その後、割って入って来たカガリが高スコアを出していた。その後もトールがやったのだが、なかなか意外といい成績だった。
「そしたらさ…。」
そこへカズィがぼそっと口に出した。最後の方がよく聞き取れないほど小さかった。
「ん?何だよ?」
トールが怪訝な顔をして尋ねる。
「ルキナもMSあんなに動かせるじゃん…。」
「あのシグルドって人はナチュラルだけど、MS動かせるじゃんか。」
トールが言う。
「そうだけどさ…。そういう人って滅多にいるわけないじゃん。…ルキナってコーディネイターなのかなって思ったんだけど…。」
「そんなに知りたいのか?」
トールはとがめるようにカズィに聞く。
「そういうわけじゃ…。」
「もう、やめようよ。どっちかなんて…。」
ミリアリアが窘め、この話題を終わらせようとした。
そんな彼らのやり取りをルキナは食堂の入り口のかげから偶然聞いていしまった。
その言葉を聞いた瞬間、ルキナは動揺した。
心臓が激しく波打つのが感じられた。
いったい彼らがどんな会話をしているのか。
なんとか落ち着かせて整理しようとするが、その内容がさらに彼女に追い打ちをかける。
自分がコーディネイターではないか、そうじゃないか。
自然と後ろへ後ずさっていた。
というより、そこから食堂に足を踏み入れることができなかった。
怖かった。もし、彼らに尋ねられたら、と。
自然と息が荒くなる。
気づいたときはすでにこの場を離れ駆け出していた。
ちなみに店主の昔話はあくまでもオリジナル設定です。