原作では第18話、後半部分になります。
キラは先ほど撃ったビームの射線が不自然に逸れていた。がおかしいことに疑念を持った。
「それる!?…そうか、砂漠の熱対流で…。」
この地域の砂漠の気候は一番過ごしやすいとされるが、夜は気温が氷点下まで下がり、昼は30℃近くまでと気温差が激しい。そのため、大気が滞留している状態ができるときがある。それのため、ビームが曲がってしまうのである。
キラはすばやくキーボードをたたき、熱対流をパラメータに入れた。
ストライクに少し遅れて[プロクス]が上空より状況を確認し、砂漠に着地した。
バクゥによって、すでに大破したバギーが見受けられた。
内心苦いモノを感じながら、ディアスは通信回線を開く。
アレウスの乗った[ロッシェ]はすでに配置についており、レールガンを構えている。
「ネイミー、配置についたか!?」
その視線の先、トレーラーがやって来た。
別方向からユリシーズたちが乗って来たバギーも数台見えた。
(はい!先ほど、中尉から送られてきたデータそして、いまの状況、この作戦内容を説明します。ヤマト少尉、聞こえていますか?)
「…聞こえています。」
ミサイルの着弾をシールドで受けながら通信を聞いたキラは小さくうなずく。
(現在、バクゥは3機。その内、1機が破損したのか、動いておりません。しかし、また動く可能性があります。注意してください。また、ジープの近くにトレーラーがあります。MSが待機している可能性もあります。レジスタンスのバギーですが、8台のうち4台が大破しています。我々の今作戦の目的は、レジスタンス救援および、安全圏までの脱出です。バクゥの撃破は2の次でお願いします。機動性のあるストライク、を主攻とし、中距離のディアス隊長の[プロクス]とソレル中尉の[ロッシェ]は援護をお願いします。その間にスヴォロヴ中尉たちの地上部隊がレジスタンスの救援をお願いします。なお、敵および味方の位置はこちらで随時知らせますので、気を付けてください。)
(…いいな、あくまでもレジスタンスの退避が最優先事項だ。
ネイミーからの話が終わった後、隣にすわっているフェルナンから念を押すように指示する。
アレウスは[ロッシェ]の盾を砂地に差し、レールガンの砲身を上部に乗せ、構える。
レールガンは大きいため、撃つときはこの方法がベストである。
また撃った後、砲身冷却、充電、再装填と時間がかかるため、[ロッシェ]の移動範囲は限られている。そして、なにより、このレールガンの精度はあまりよくない。
(レールガン、間もなく発射されます。射線上に入らないよう注意してください。)
「レールガン、発射する!…当たるなよ。」
ネイミーからの警告指示、アレウスの言葉の後、トリガーが引かれた。
構えていた砲身から強力な電磁加速をかけた弾頭がバクゥに向け、発射された。
発射された弾頭がバクゥの脇をすり抜ける。
弾に気を取られたパイロットは次の瞬間、目の前にストライクが現れ、驚愕した。
ストライクのビームライフルが発射され、それを何とか回避するため、バクゥのミサイルポッドをパージした。
「…ちぃっ。」
キラは敵を仕留められなかったのに、少し苛立ちを感じた。
「よし、行くぞ!」
ユリシーズは防弾チョッキを着、ヘルメットを被りながらバクゥとストライクたちが交戦したのを確認し、指示を出していく。
彼はゆりーシーズが率いるチームとエドガーが率いるチームに分かれる。
「エドガー、あまり気をとられるなよ。MSを倒すことが目的じゃないからな。」
「わかっています。中尉も気をつけて。」
彼らを乗せたバギーは走り出した。
バクゥが地球軍のMSに気をとられている間に、カガリはアフメドの所に急いで向かった。カガリは必死に呼びかけてはいるが、すでにアフメドは虫の息だった。
「カガリ…おれ…おまえ…。」
彼は何かを言おうとしたが、言い終わる前に息を引き取った。
「アフメド?…アフメドー!」
カガリは何度も呼びかけるがもう彼は返事はしない。
カガリは涙を流し彼を抱きかかえた。
それをモニターから見えたキラは苦いものを感じた。
「なんでっ!」
本当にバギーやランチャーでバクゥを倒せると思ったのか。そんな過信が、甘さが、この結果に至った。
そう自分と同じであった。自分は守れるはずだった命を自分の甘さで失った。彼は自分の命を失った。
そう、だから守るために、もう迷わない。撃つことを躊躇わない。
倒せるものはいま倒す。
キラはライフルをバクゥに向けた。
カガリとキサカがいる場所に1台のバギーがやって来た。
「はやく、乗れ!今から安全圏まで移動する。」
助手席に座っていたユリシーズがカガリとキサカに促した。
キサカは頷き、カガリを移動させようとするが、彼女は動かず、ただアフメドを抱え泣いていた。
「…カガリ。」
呼びかけるがカガリは頑として動かない。
ユリシーズが席から飛び降りた。
「おい、嬢ちゃん!」
そして、カガリの肩をつかみ、自分に向かわせた。
「嬢ちゃん、いいか。
その時、ユリシーズのインカムからネイミーの切迫した知らせが流れた。
(中尉、早くそこから逃げて下さい!そこにMSが…。)
「え!?」
彼が見るとそこにバクゥがこちらに近づいてきていた。向こうはまだ横を向いててこちらに気付いていない。
ユリシーズはバクゥが対峙している相手を見て、どうしてこうなったか分かった。
「おい!なんでストライクがいるんだ!俺たちが向かうポイントは知らせているはずだ。」
ネイミーに怒っても仕方ない。
(さっきからヤマト少尉には伝えています。しかし…。)
しかし、様子を見ると、ストライクはバクゥを撃つことに気を取られていた。
このままやり過ごせればいいが、流れ弾に当たる可能性もある。
「~たくっ!」
悪態をついても仕方ない。
バクゥを少しでも足を止めなければいけない。
そうすれば、キラの方も気付くだろう。
ユリシーズはバギーからバズーカ―を取り出し運転している兵士に告げた。
「バギーで2人を安全圏まで絶対に連れて行けよ。」
「…中尉。」
「おいおい、俺はそんな自己犠牲精神は持ってないよ。こっちも撃ったら、全力で駆けるよ。隊長も来てるんだろう。」
そう言い、急いでカガリとキサカ、そして少年の亡骸をバギーに乗せ発進させた。
ユリシーズと残った兵士がバズーカ―をバクゥに向け構えた。
「カッサーノ、あくまでも足止めだからな。撃ったら全力で逃げろ。」
「ええ。」
カッサーノと言われた兵士は頷く。
「お前が撃ち終わって、俺がまだ撃ってなくても、逃げろよ。」
「ラジャーっす。」
「…そこは少し、考えてほしかったな。」
「だったら、給料を上げてください。」
「それは大将に言ってくれ!」
冗談交じりの会話もつかの間、バクゥは射程距離に入る。
2人はバズーカを撃ち、即座に後方へ駆けた。
こちらに向かっていたバクゥの首付近に当たった。
バクゥは一瞬足を止め、それが来た方にモノアイを向けた。
「急げ、来るぞ。」
己の何倍ものある機体がその来た方向にミサイルを発射させる。
こちらにミサイルが迫ってくる。
一か八かの賭け…。
南無三!
キラからもそれは見えた。
「え!?」
いつの間に近くにいたのか、驚いている暇はなかった。ストライクはビームライフルを放ち、ミサイルを撃ち落とす。
着弾する前に…間に合え!
上の方で激しい爆音を耳にしながら一生懸命かける。
そこへ、こちらの異変に気付いた[プロクス]も2連副砲で撃ち落とす。
全部撃ち落とせたか、その時、近くで激しい轟音が鳴り響き、背後でなにか衝撃を感じた直後、ユリシーズの視界はどちらが上か下か分からず回った。
どうやら、1発撃ち落とせなかったのが着弾したらしい。
そんなことを考えている暇もなく、ユリシーズは砂地に体をぶつけながら転がっていく。
ようやく止まった時、しばらく全身打ち付けられた痛みでなかなか動かない体をなんとか起こし顔を上げる。
そして、もう1人の仲間に声をかける。
「おい…カッサーノ!」
口の中に砂が入ったのかジャリジャリする。見れば全身砂まみれだ。
口の中の砂を何とかつばで出しながら、ユリシーズが必死に叫ぶが、反応はない。
轟音で受けた耳がまだ戻ってないせいか、分からなかった。
ふと視線にひしがれたヘルメットがあった。
自分の頭をとっさに探るが自分のはまだ被っている。
それしかなかった。
ミサイルによって巻き上げられた砂の煙が腫れてきて、MSの姿が目に映る。
バクゥは2機を相手にしていて、もうこちらのほうには来ない。
が、まだ流れ弾の危険の範囲内だった。
「~くっそー!」
ユリシーズはそのひしがれたヘルメットを持って、ただ懸命に安全圏までかけた。
レジスタンスの本拠地。
無線からその場にいなくても状況は捉えることはできた。
あまり、いい状況ではない。
なにより、MSたちの連携が出来ていない。
(おい、キラ。こっちの指示が聞こえないのか。)
(こちら…ユリシーズ。早く…バギーを!)
なおも無線で目まぐるしいやりとりが聞こえる。
それを聞いていたルキナは苦い表情をした。
この状況において、動けるMSはいない。
いや1機だけある。しかし…。
ルキナは一人何かを考え瞑目した後、決意した。
「ヤーノシュ曹長、[トゥルビオン]使えますか?」
ルキナは作業をしているメカニックたちに指示をしているジャンに聞いた。
「ああ、使えるよ。いつでも動かせるように、メンテンスはしっかり…て、ええ!?ま、まさか、ルキナ…。」
ヤーノシュは答えている間に彼女の意図を悟ったのか、驚きの声を上げた。
「ええ、乗ります。準備お願いします。」
それだけ言い、ルキナは行った。
「お願いしますって…ええ!?えっと、おい、だれか!大将に連絡を!」
何十年も整備士をしてきて数えきれないパイロットを相手にしていたジャンであったが、この状況を飲み込めず、慌てた。
(何だとー!?)
ブリッジで報告を聞いたアウグストは驚いた。
「一体、どういうことだ!?」
「どういう事と言われても…。今、来ましたから聞きます?」
ジャンがどうしてこうなったかと困っていたところにちょうどルキナがパイロットスーツにすでに着替え、ススムから機体について説明を受けていた。
そこへ話を聞きつけたパーシバルもやって来た。
(これは一体どういうことなんだ!?)
気が気でなかった。
「[トゥルビオン]なら飛行能力ありますし、現状で一番早く戦場に向かえます。」
(だが…。)
「このままでは、救援に行ったみんなもやられてしまいます!」
確かに、このままでは救援に向かった自分たちも大損害を受ける。
それは、わかっている。が…。
アウグストは苦虫を噛み潰したような表情で、拳を握りしめた。
そして、拳をシートに叩きつけ、怒りに震える声で言った。
(ルキナ・セルヴィウス少尉…。今すぐ、[トゥルビオン]に乗り、ガイツォ・フェルナン准将の指揮の下、レジスタンスの救援に向かえ!)
ルキナは静かに敬礼し、ジン戦術航空偵察タイプがベースの機体[トゥルビオン]に向かった。
[トゥルビオン]は出撃の勢いを利用するため、また久々に起動させたための慣らしもありアークエンジェルのカタパルトハッチに一旦移動し、今、カタパルトシャトルに接続中であった。
ルキナはコクピット内で最終確認をしていた。
ここまでの移動だけでもわかる。
動かすは久しぶりなのに、依然と変わらない。
行き届いた整備をしてくれたジャンやススムに本当に感謝の言葉もない。
ふとコクピットの上部に下げられている小さなもの。
小さいころから大事にしていたものであるが、今では「お守り」となっている。
これもそのままにしていてくれていたんだ…。
そう思っていると、アークエンジェルのブリッジから通信が入った。
(ルキナ、[トゥルビオン]発進、どうぞ!)
ミリアリアの言葉を受け、ルキナは静かに息を吸った。
いよいよだ。
「ルキナ・セルヴィウス![トゥルビオン]、発進します!」
カタパルトから勢いよくは射出され、[トゥルビオン]は外へ飛び出した。
そして射出の勢いから重力がかかる直前の滞空中、[トゥルビオン]は可変翼を展開し、スラスターを全開に戦場へと駆けた。
「ルキナ!」
パーシバルは心配そうに[トゥルビン]が発進していくのをみ、自分もなにか決心したようにコンテナの方に向かった。
「よろしいのですか?」
マリューはアウグストに窺うように尋ねた。
「…いいも悪いも、現状を打破するにはこれしかない。」
アウグストは静かに答える。どこか寂しげに。
アウグストはモニターの方を見上げた。
祖父としてだけではない。一人の大人として、自分には大きな責任がある。
どんなに言葉を繕っても、言い訳にしかならない。
それでも…。
ルキナがアンヴァルに配属された日、その言葉を言わずにはいられなかった。
「ほう…。」
「なぜ、ストライクが…?それに…あのMSたちは、地球軍なのか?しかし、なぜ…。」
ダコスタは地球軍がレジスタンスの救援に来ていることが不思議であった。
しかも、昨日の戦闘では見受けられなかったMSも2機いる。
地上部隊がいるし、地球軍のマークがあるから傭兵でもないが、アークエンジェルにあれほどの戦力があるのか。
それとも、昨日アジャイルを落とした別の一団か。
それらがなぜ…?
ダコスタは今起きていることが解せず、頭を巡らせた。
しかし、バルトフェルドは別のことを考えていた。
「そのストライクという機体、先日とは装備違うな。」
「は、あ、たしかに。」
「それにビームの照準。即座に熱対流をパラメータに入れたか。」
が、しかし、そのような離れ技をしているが、他のMSと連携が取れていない。
他のMSといえば…。
「あれは改造されたものだが…。ストライクと一緒にいる機体も今回は見受けられない。」
思案しつつ、MSの戦闘を見ているバルトフェルドはにやりと笑った。
まったく、面白い。
先ほど砲撃をくらって動けなかったバクゥが復調したのか、問題がないことを確かめながらのそりと立ち上がる。
バルトフェルドはそのバクゥのパイロットに向かって無線をとった。
「カークウッド、代われ。」
(はっ!?)
カークウッドと呼ばれたパイロットは思わず聞き返した。
「バクゥの操縦を代われと言っている。今度一杯おごってやるから!」
バルトフェルドは構わず続けた。
(…じゃあ、アルコールの入ったもんでお願いします。)
パイロットは渋々答えた。
「隊長!」
ダコスタは非難の目で呼びかけた。
バルトフェルドは困った顔をしたダコスタに向かって、にやりと笑う。
「撃ち合ってみないと分からないこともあるんでね。」
そう言い、バクゥに乗り込み、行ってしまった。
残されたダコスタは深くため息をついた。
その様子を見ていたオデルは思わず笑みがこぼれた。
「…ダコスタ副官も苦労が多いことで。」
彼に同情しつつ、ふたたびストライクの方へ目を向けた。
ストライクの戦い方、宇宙での戦闘に比べ格段に良くなっている。
パイロットの腕が上がったのだろう…。
しかし…。
「ダコスタ副官、ジンオーカーお借りしますね。」
「えっ、しかし、まだ…。」
オデルも車から降り、ダコスタの制止を聞かず、歩き出した。
自分もバルトフェルド隊長のことは言えないな。
そう思いながら、トレーラーの方へ向かった。
ジンオーカーのコクピットに乗り込み、メカニックから簡単な説明を受ける。
「武装は…重斬斧、剣、そして突撃機銃か…。」
オデルは発進させ、ストライクの方へ向けた。
バクゥの放ったミサイルをかわし、ストライクはジャンプする。それを追うように敵もジャンプし蹴りつけようとしてくる。
それをキラははじき返し、バクゥは空中で態勢を崩した。
それに照準を定める。
その時、ストライクに横殴りの衝撃が襲った。
どうやら右側面にミサイルが当たったようだ。
さらに数発のミサイルが襲う。
「3機目!?まだ、動けたのか?」
すでに戦力外と決めつけていた1機が戦列に加わっていて、キラは驚いた。
3機はすかさず、編隊を組み、こちらに高速で突っ込んできた。
避けきれず、はね飛ばされしまった。
衝撃に耐え、再びモニターに目をやると、ミサイルがこちらに向かって来る。
まずい…。
あまりミサイルを被弾し続けると、PS装甲が落ちてしまい、ビームライフルも使えなくなる。
が、避けきれない。
その時、横からの砲撃で、こちらに来るミサイルが撃ち落とされた。
ハッと、キラが周りを見渡すと、ちかくに[プロクス]が来ていた。
(…大丈夫か。)
どうやら、先ほどのは[プロクス]からのであった。
「ええ…。ありがとうございます。」
(礼を言うのは構わんが、少しこちらに協力してもらいたい。…わかるだろう、この3機のバクゥ。)
ディアスはキラにいろいろ言いたいことがあったが、今は目の前の問題が優先であった。
「ええ、急に動きが…。」
キラも3機のバクゥの統制がとれ、高度な戦術を取っていることに気付いた。
その間にバクゥたちから大量のミサイルがこちらに迫って来た。
(むっ、まずい。ヤマト少尉、少し借りるぞ。)
「ええ!?」
いきなりシールドを取り上げられ、キラは驚いた。
しかし、今はそれに抗議する暇はない。
懸命にストライクを駆り、ミサイルを避けようとしていく。
(すまないな。これ、装甲が厚くても足が遅いのでね。)
ミサイルの爆風と砂ぼこりのなか、[プロクス]がストライクのシールドでミサイルを受け止めているのを捉えた。
その時、
(ヤマト少尉、ディアス隊長!そちらに1機MSが…!)
ネイミーから切迫した情報が伝わる。
が、瞬間、
「うわっ!?」
キラの乗っているストライクに衝撃が走る。
モニターの方に向けると、ジンオーカーがこちらに体当たりをかけてきていた。
「…もう1機いたのか!?」
キラは驚きの声を上げた。
その様子はバルトフェルドからも確認できた。
そのジンオーカーに乗っているパイロットも容易に想像できた。
「これは、これは。君も加わる必要がなかったのに。」
バルトフェルドはストライクとの戦いに水を差され、すこし残念そうに通信を開いた。
「すみません、バルトフェルド隊長。しかし、あれは我々が宇宙で取り逃がしたものです。責任はここで取らせてもらいます。」
オデルは口にした言葉に自嘲した。
明らかに詭弁だ。しかし、バルトフェルド隊長には悪いが、この機体はどうしても自分が相手したかった。いや、相手にいなければならなかった。
おまえは気付いているか…。
「こういう戦い方を選ぶのか、お前は!」
オデルの奥底でなにかが弾ける音がした。
その途端、あたりの視界はクリアになる。
周りの状況、ストライクがこちらに気付いたのか、応戦の構えをとる瞬間、銃口、モニターの表示、それらが瞬時に知覚できた。
オデルはジンオーカーのバーニアを吹かせた。
「まったく…。仕方ない…か。」
バルトフェルドはやれやれとためいきをついた。
せっかく面白いと思い、部下に代わってもらってまできたのに…。
彼らに割って入ってもいいが、戦いをここで見ていると入っていけるようなものじゃないと感じた。
彼はバクゥをストライクの援護に行こうとしている改造したジンの方へ向かった。
「くぅ、しまった。」
ディアスは舌打ちした。
さすがにバクゥを3機相手にするのは無理がある。
ストライクを助け、それからとも考えるが、そこに行くのに阻まれる。
[ロッシェ]からの援護にも限りがある。
「もう1機のジンのレールガンにさえ、気を付けろ!それがなければ、こちらは翻弄し、相手を切り崩す。」
バルトフェルドは他の2機のパイロットに指示し、フォーメーションをとった。
3機のバクゥが迫って来る、その時、
横にいたバクゥが何かに蹴り上げられた。
蹴られたバクゥは飛ばされながらもなんとか姿勢を戻したが、一瞬何が起こったか分からなかった。
「一体、何が!?」
バルトフェルドもそちらに向ける。
すると、そこには他の2機のジンと同じように改造されたジン、正しくはジン戦術航空偵察タイプがいた。
手には、ビーム突撃銃ではなく、ジンハイマニューバの武装、27㎜銃突撃銃と先端に銃剣があった。腰部にはコンバットナイフとそれを収めたホルダーがあった。
左肩にはシールドが備えられている。
「ほう…、これも地球軍の、かな?」
バルトフェルドは笑みを浮かべた。
「ルキナ…か?いいのか、来ても?」
(ルキナ!?大丈夫なのか?)
ディアスは助けにきたジン[トゥルビオン]に通信を入れる。
アレウスも同じ反応だった。
さきほどネイミーからこちらに向かってきていると聞いたが、本当のことだったでの、驚いた。
「来なかったら、隊長、今頃危ないですよ。」
「そりゃ、そうだ。状況は、ネイミー?」
ディアスはネイミーの方に通信を入れた。
敵に1機加わり、こっちも1機加わりとめっまぐるしい状況が続く。
(はい。先ほど割り込んだジンオーカーはずっとストライクと対峙しています。そして、ソレル中尉の[ロッシェ]のレールガンは残弾1です。あと…。)
「そうか…。」
あっちは1対1、こっちは実質2対3、ということになる。
「まずはこっちを何とかしなければな…。ルキナ、アレウス、連携するぞ!」
((了解!))
まずは[トゥルビオン]が前にで、バクゥ3機を相手にする。
「いくら機動力があっても!」
いくら改造したとはいえ、元はこちらの機体だ。性能はわかっている。
先ほどのエールストライカーを装備したストライクの機動力には劣るが、バクゥよりは早いことは確かだ。しかし、PS装甲はもっていない
3機のバクゥは連携し、ミサイルを[トゥルビオン]に向け、発射した。
これだけのミサイルを避けきれるか。
ルキナは操縦桿を握っている手が震えていることに気付いた。
やはり戦闘で動かすのはまだ無理があったのか。
先ほどから口にするみんなの懸念。
わかっている。しかし…。
‐すまない。‐
アンヴァルに配属された日、数か月ぶりにあった祖父の発した言葉、今も忘れない。
そんな祖父の姿を見たのは、あの時が初めてだったかもしれない。
父の事があったときも祖父は表立ってそんな態度を見せなかった。
が、それがすべてだったのかもしれない。
祖父に会った際なじってしまうかもしれない。祖父にも、自分にもどうすることもできないのに。
祖父の言葉がすべてだった。
あの時、キラがサイに向けた言葉、それは前の私の気持ちと同じだった。
誰もわかってくれない。
有無を言わさずにMSに乗れと迫る。
乗りたくもない、戦いたくない、しかし、一度コクピットに乗ったら、そこは戦場。生きるために撃つしかない。
けど、もうここでは今までと違うのだ。
そして、それまでの間、見てきたこと。
守りたいと、苦しみながらも戦おうとする姿を見たからこそ、決めたのだ。
自分の意志で戦う、と。
だから…。
なにか弾けるような音が聞こえたように思えた。
途端に、視界がはっきりと見え、撃ちこまれてくるミサイルの軌道、どこにくるかがはっきり捉えられた。
ルキナは操縦桿を強く引いた。
ミサイルの間を縫うように避けながらこちらにやってくるミサイルを引き付け瞬時に後退し、ぶつからせる。
その爆煙があがる中、すでにフットペダルを踏み[トゥルビオン]はバクゥに向け、突っ込みはじめ、突撃機銃を放つ。
「こんなもの、バクゥにはっ!」
バクゥは一瞬、足をとめた。
その瞬間、横から光が見えた。
パイロットが知覚するころはすでにそれに飲み込まれていった。
バクゥがとまるのを狙って、[プロクス]の肩部キャノンが放たれたのであった。
1機のバクゥは爆炎の中に消えていった。
2機のバクゥが[トゥルビオン]に襲い掛かる。
向こうはまだ気が付いてない。
しかし、バクゥたちの視界を砂煙が襲った。
[ロッシェ]の放ったレールガンがバクゥの目の前に着弾し砂を舞い上げたのだった。
「な!」
視界が晴れたとき、驚愕した。
そこにいたのは、ジンだけではなくスピアヘッドがいたのだ。
「行けー!」
スピアヘッドのパイロット、パーシバルはバクゥに突っ込んだ。
スピアヘッドの主翼がバクゥの翼の部分を切り裂く。
バクゥは体勢をくずし、その場にくずれこみ、スピアヘッドはよろよろと砂地に不時着した。
最後の1機が、[トゥルビオン]に向かって来る。
ルキナはそれを銃剣で切りかかった。
[トゥルビオン」の肩部がバクゥの前脚によって損傷を受け、バクゥは片方の前脚を切り落とされた。
一方、ジンオーカーを相手にしているキラはビームライフルを放った。
が、それをかわされた。
「…正確な射撃だ。だが…!」
精確なゆえ銃身の傾き、トリガーを引く瞬間でビームがどのようにくるかわかる。それらがはっきりと見える今ならなおさらである。
そして…。
ジンオーカーが重斬斧をライフルに向け振り上げる。
武装もPS装甲されているわけではない。
ビームライフルの銃身に斧が食い込み、使い物にならなくなった。
「く、どうすれば…!」
今から予備のをとりにはいけない。
ライフルを放り投げ、左右腰部のホルダーからアーマーシュナイダーを取り出す。
が、一歩ジンオーカーが速かった。
左肩の付け根と胴の間に、重斬剣で突かれ、もう一方の右の方は先にアーマーシュナイダーを奪われた。
そして、勢いによってストライクは押し倒される。
被さった状態になり、ジンオーカーこちらにアーマーシュナイダーを向けている。
「まさか…!?」
残り少ないとはいえ、まだPSは落ちていない。
が、機体からか…機体を通じてからかパイロットからの殺気がこちらを圧倒する。
…やられる!
キラは目を閉じた。
オデルはアーマーシュナイダーの刃を出させ、ストライクに向ける。
PS装甲…。だが、装甲と装甲の継ぎ目なら…。
オデルのその冷淡な目がコクピットハッチの隙間を捉えていた。
そこに向け、ナイフを振り下ろす。
その時、彼の脳裏に、ずっと己の中にしまい込んでいた深淵の記憶が蘇える。
研究施設のような建物。その一室。
部屋には、静寂の中、電子音のみが反響し、響く。
その部屋に竈のような装置があった。
モニターには胎児らしきものが映し出されていた。
その装置の前に5歳ぐらいの男の子が立ち、それを見ている。
…あの男は知っているだろうか。
いや、知らないだろう。
先日、ここであの男は助手たちに高らかに演説をしていた。
助手たちからは彼の言葉に賞賛の拍手を送る。
あの男が欲しいのは、己の功名だ。
自分の子供を優秀にさせるとか、そんな親心があるはずがない。
男の子の手があるスイッチに伸びる。
この装置の構造などわからない。
しかし、機器の性能のことだ。勝手にいじれば、どこかで問題は生じる。
自分にとって「弟」というべき存在。
自分と同じ目に合わせたくなかった。
最高の技術といえども、この後さらに技術が上がればこの子もあの男に捨てられる。
捨てられ、邪魔な存在だと、あの男に向けられる視線。
しかし、この男の子の中にはこの胎児を哀れむ気持ち以外、別の黒いものがあった。
…恐ろしかった。
もしも…、母親が彼を選んだら、
自分は父親だけでなく、母からも捨てられるのか。
「…止めないのか。」
ずっと見ていたのか、入り口のドアより幼子が覗かせていた。
男の子はそちらを振り返らず、ただその幼子に尋ねた。
幼子はただ口をつむぐだけだった。目には涙をためている。
しばらく佇んだ後、その男の子は幼子の方に来た。
「…行こう。ここにいたら怒られる。」
男の子は幼子の手をとり外へ歩きはじめる。
「…言わないから。」
幼子がか細い震える声で言う。
「…言わないから…僕…。」
泣きながら言うその幼子に男の子はしゃがみ、手を頭に乗せた。
「…ありがとう。」
キラは一向に来ない衝撃に不審に思い、閉じていた目をおそるおそる開けた。
目の前のジンオーカーはナイフをそのままに動かない。
なぜ…?
キラは不思議に思った。
それはオデルも同様だった。
この躊躇したのが、すべてだった。
(後退する。君も退いてくれ。)
バルトフェルドより通信が入る。
モニターを見ると、どうやら決したようだった。
オデルも彼らと同様に引き下がった。
…終わった。
それらを見送り、キラはシートにへたり込んだ。
それはトレーラーからも確認できた。
「…司令。」
ネイミーがフェルナンの方を見る。
「…深追いは禁物だ。ネイミー、他の者たちにも連絡しろ。」
フェルナンはそう言い、おおきく息を吐いた。
戦場となったあちこちで、報せを聞き、MSが過ぎ去るのを見ながら、隊員たちも息をつく。
「…終わったか。」
途中、エドガーが乗っていたバギーに拾われたユリシーズも力が抜ける。
「…結構、被害が出ましたね。」
エドガーは重い口調で言う。
「いろいろ言いたいが…。それは隊長か司令が言うだろう。…俺は疲れた。ここで寝かせてもらうぞ。」
ユリシーズがMSやレジスタンスのメンバーたちがいる方に目を向け、ひしがれたヘルメットを横に静かに置き、仰向けで寝はじめた。
ディアスがコクピットから降りきて周りを見回す。
レジスタンスたちの者たちがどこか気まずい表情をしていた。
先に降りていたキラもずっと俯いている。
ディアスは[トゥルビン]の方に目を向けた。
まだ、コクピットからルキナは出てこない。その前にアレウスとパーシバルがいる。
彼女の事は2人に任せ、ディアスはレジスタンスたちの近くに歩み寄る。
「開けるぞ。」
アレウスは外部ロックを操作し、パーシバルに合図した。彼も頷く。
戦闘終了後、[トゥルビオン]がなかなか指定の場所に動こうとしなかったので、[プロクス]や[ロッシェ]がなんとか引き連れここまで来た。
「ルキナ…。」
ハッチを強制開放させ、中にいるルキアに呼びかけた。
ルキナは中でヘルメットを取って、それを前に置き、うずくまるような形で震えていた。
「…大丈夫…アレウス。今から出るから…。」
出た言葉とは逆に震え、こちらを見ずに答えるルキナにアレウスは悲痛な表情を浮かべた。
「ルキナ、戦闘は終わったんだ。…もう心配ない。」
アレウスは右手で彼女を優しく近くまで抱き寄せた。
まだ彼女の小さくも震える感じが伝わった。
「…わかったろ。バクゥを倒したと自分たちがどれほど浮かれていたか。」
ディアスはレジスタンスの者たちに言う。
その口調に冷たさがにじんでいた。
「なんだと!?」
泣きそうな顔のカガリがディアスの言葉にまっさきに反応した。
「みんな必死に戦っていたんだぞ!大事な人や大事なものを守るために必死で!みんながバクゥをどれだけ必死に倒そうという思いだったのか知っているのか!?」
彼女は叫ぶ。
「…勇気と無謀は違うのをわかっているか!?今回おまえたちは必死に策をめぐらすことも準備も怠ってただ怒りという感情で戦ったに過ぎないんだぞ!」
「しかし!タッシルの街が焼かれたんだぞ!食料も家も失ったんだぞ!それを…。」
カガリはなおも反論する。ディアスは続ける。
「こういう言葉があるの知っているか。『怒りで、感情で戦争してはならない。怒りはいつかは喜びに変わる。死んだ人間は生き返らないのだから。』」
その言葉にカガリはハッとする。
ディアスはそのまま振り返り、キラの方へ向かった。
「…ヤマト少尉、俺が言いたいことわかっているか?」
そのままキラは黙ったままであった。
「おまえも感情で銃を撃つな。でないと、痛い目見るぞ。」
「…自分の甘さで、もう失っています。感情で撃ってはいません。」
キラは静かに応える。
「言い方がおかしかったな。少しは周りを見ろ。そうしないと、また失うぞ。」
そう言い残し、ディアスはその場を去った。
…なんか、主人公の出番が、ない。