機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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最近、暑いですね。
風邪も流行っています。
ちなみに、自分もうつされました。…家族に。


PHASE‐19 慢心、ゆえに。

 レジスタンスの者たちは大慌てで車を発進させていた。

 サイーブをはじめ、メンバーの大半はタッシル出身だ。

 無線はノイズだらけで状況がつかめない。

 「弾薬をはやく!」

 「あいつら…!お袋は病気で寝てんだよっ!」

 「はやく乗れ!もたもたしてっと置いていくぞ!」

 そんな状況の中、サイーブはなんとかまだ冷静だった。みんなをなんとか落ち着かせようと車の近くまで駆けてきた。

 「待て!慌てるんじゃない!」

 「サイーブ、ほっとけって言うのか!?」

 「そうじゃない、半分は残れと言うんだ!落ち着け!別働隊がいるかもしれん!」

 その様子を見ていたマリューは隣のムウにささやいた。

 「…どう思われます?」

 「うーん、『砂漠の虎』は残虐非道…なんて話は聞かないけどなー。」

 「じゃあ、これはどういう…?」

 「さあ、だって俺、知り合いじゃないしねえ。…何かご存じじゃぁないですか?」

 ムウは近くにいたアウグストとフェルナンに尋ねた。

 「うーん、実際対峙したことがないので、なんともいえないが…。」

 「…無意味なアクションを起こすヤツではない。」

 フェルナンの言葉にアウグストが続けた。

 「…では、別働隊があるかもしれないと…?」

 「それは、わからんが…。一応、準備はした方がいいな。まあ、アークエンジェルは行かない方がいいだろう?あの図体じゃ、動くよりとどまるほうがいいだろう?誰かに行ってもらおう。状況が分からなければ何とも判断できない。」

 マリューの問いにアウグストは笑いかけながら答える。

 「そうですね。…少佐、行っていただけます?」

 「俺?」

 マリューが言うと、ムウは自分を指さした。

 よもや、自分が行くということは考えていなかったようだ。

 「スカイグラスパーが一番早いでしょう?」

 マリューは微笑みながら答える。

 「でもなあ…。まだ調整が…。」

 昨日の戦闘で飛ぶことは出来たが、まだ調整は完全ではない。そう言いつくろおうとしていたムウにマリューの援護の形になるようにシグルドが提案した。

 「それなら、俺のディンも行く。」

 後ろから声がした。シグルドとヒロが騒ぎを聞きつけ、こちらにやって来た。

「スカイグラスパーよりは遅いが、いざ戦闘になってもいいだろ?Gコンドルが動かせるからヒロも付いてこさせる。こっちの方はフォルテを残す。…それでどうだ、艦長?」

 シグルドから援護を受けたマリューはふたたびムウににっこりと言った。

 「…だそうですので、心配せずにお願いいたします。」

 「…んじゃいっちょ、行ってきますか。」

 ムウは億劫そうにもアークエンジェルへと向かった。

 その後ろ姿にマリューは念を押した。

 「私たちにできるのはあくまで救援です!バギーでも医師と誰かを行かせますから!」

 シグルドとヒロも機体の方へ向かった。

 アンヴァルの者たちも準備に取り掛かり始めていた。

 そしてマリューも他のクルーたちに向かって呼びかけた。

 「総員!ただちに帰投!警戒態勢を取る!」

 

 

 

 タッシルの街は火の海と化していた。

 ダコスタがバルトフェルドのいる指揮車に戻ってきて、運転席に座った。

 「…終わったか?」

 彼の帰りを待っていたバルトフェルドはダコスタに聞いた。

 「はい!」

 「双方の人的被害は?」

 「はぁ…?あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないんですから!」

 ダコスタは半ばあきれた様子で答える。

 「双方だぞ?」

 しかし、バルトフェルドはふたたび念を押すように尋ねた。

 「…そりゃまあ、街の連中の中には、転んだだの火傷しただのってのはあるでしょうが…、ないですよ。」

 そう…。今、目の前で街は燃えているが、バルトフェルドは攻撃前に、ダコスタに命令し街の人間に警告を出し、焼き始めた。

 もちろん、他の部下たちも命令を守り、住民たちが自分たちの狙った目標、武器や食料などの近くにいれば警告を出し、住民たちが安全圏に退いた後、焼き払ったのである。

 ただ、それだけである。住民に死者がでるなど皆無だった。

 「では、引き上げる。ぐずぐずしているとダンナの方が帰って来るぞ。」

 「それを待って討つんじゃないのですか?」

 「おいおい、それじゃ卑怯だろ!?ダコスタくん、ボクがやつらをおびき出そうと思って街を焼いたとでも思ってるの?」

 「はあ…。」

 ダコスタは彼の言葉に呟くだけだった。

「ここでの目的は達した!帰投する!…ね、君が来る必要はなかっただろ?」

 バルトフェルドはダコスタに指示をし、さらに後ろの席に座っているオデルの方を見た。

 出撃準備をしているのが、オデルの耳にも入ったのか、オデルはバルトフェルドに世話になっているお礼も含め、なにか戦闘の手伝いをしたいと進言した。

 バルトフェルドは来ても何もすることはないと言ったが、退かなかったので、とりあえずジンオーカーをトレーラーに乗せ、彼を車の後部座席に乗り来たが、結局必要なかった。

 「…なるほど。バルトフェルド隊長、あなたは面白い人だな。」

 面白いという表現が正しいかわからなかったが、それ以外このバルトフェルドの行為を言い表す言葉が思いつかなかった。

 「そうかい?」

 「…それに、あなたが今思い描いていることがあるのであれば、まだわかりませんよ。」

 オデルが不敵に笑った。

 「おやおや…、君もなかなか面白いね。」

 バルトフェルドは先ほど自分に向けられた言葉をそのまま返した。

 2人のやりとりにダコスタは何が何だかわからなかった。

 

 

 スカイグラスパー、とGコンドル、その後ろにディンがタッシルの上空に着いた頃、すでにザフトの姿は見えなかった。

 街はいまだに燃えていた。

 「ああ…ひでえな…。全滅かな、こりゃ…。」

 さすがのムウも口調が苦くなった。

 上空から見ると、無事に残っている区画はなく、街に動く人影もなかった。

 (あっ!ムウさん、あそこに。)

 絶望がよぎったその時、ヒロは町はずれの小高い丘に人影を捉えた。ムウもその方向を見て、驚いた。生存者が残っていたという安堵感もあったが、ここからみえる人の数からほとんどの住人がいるように見える。

 ムウは通信回線を開いた。マリューに報告した。

 「こちら、フラガ…。生存者を確認。」

 (そう…よかった。)

 「というか、ほとんどみなさんご無事なようで。」

 (え?)

 いったい何がどうなっているのか…。さっぱりわからなかった。

 そうこうするうち、レジスタンスたちのバギーたちも到着してきた。

 みな、家族の無事を確認し、喜んでいた。

 遅れてアークエンジェル、アンヴァルのバギーも到着した。

 「少佐…これは?」

 ナタルも意外そうな顔をしていた。それはアンヴァルの部隊も同じ気持ちだった。

 「動ける者は手を貸せ!けが人もこっちへ運べ!」

 サイーブは車から降りてさっそく指示を出し歩き回っていた。

 すると、「サイーブ」と声をかけられ、そちらの方に目を向けた。

 老人と、彼に付き添っている少年がいた。

 「ヤルー!長老!」

 人ごみの中からカガリが喜びの声を上げ、その場所へ来た。

 「カガリ!父ちゃん!」

 少年も同様であった。

 どうやら、この少年はサイーブの子供のようだった。

 「無事だったか、ヤルー。母さんとネネは…?」

 「シャムセディンのじいさまが、逃げるとき転んで怪我したから、そっちについてる。」

 「そうか…。」

 サイーブは安堵の表情をし、大きな手で頭をなでた。が、すぐにリーダーの表情にもどり長老に尋ねた。

 「…どのくらいやられた?」

 「…死んだ者はおらん。」

 その言葉にサイーブもカガリも驚いた顔をした。

 事情を聞くため、ムウやナタルたちも彼らの近くに来る。

 長老は続けた。

 「最初に警告があったわ。『今から街を焼く、逃げろ』とな…。そして、焼かれた。家。食糧、弾薬、燃料…すべてな。」

 「本当に…どういう事でしょうか、中尉?」

 オリガがユリシーズに耳打ちをした。

 「う~ん、俺に言われてもなぁ、オリガ。これと似たような話はあるけど…。エドガー、エル・アラメインでぼろ負けした戦車部隊の一員としてあの時はどうだった。」

 エル・アラメインにて、モーガン・シュバリエ率いるユーラシアの戦車隊はバルトフェルドの奇策によって大敗した。戦車車両は甚大の被害を受けたが人的被害は軽微だった。

 エドガー・ズィーテクは、その戦車部隊に属していたが、大敗後、MSの投入を上層部に進言したモーガンが厄介払いに近い形で大西洋連邦に配属されたため、彼もこのアンヴァルに異動させられた。

 「…その、ぼろ負けしたとか口に出して言う必要ありますか?…あの時人的被害がなかったのは、バクゥの威力の恐ろしさを連合軍内に広めさせるために意図的にしたのだと、シュバリエ大尉は言っていました。」

 エドガーにとっては苦い経験を思い出しながら答える、

 「今回もなにか意図がある、ということ?」

 「たぶん、あれだな。」

 ユリシーズが何か意味ありげなことを言い、オリガは彼の視線の方へ目を向けた。

 「『こんなこと』?街を焼かれたのが『こんなこと』か!?これのどこがやさしい!?」

 その時、先ほどの場所からカガリの怒りの声が聞こえた。

 彼らはふたたびそちらの方へ視線を向けた。

 どうやらムウが言ったことに対しての反論のようだ。

 「失礼、気に障ったんなら謝るけどね。けどあっちは正規軍だぜ?本気でだったらこんなもんじゃないってことぐらい、わかるだろう?」

 ムウは少し言い方を変えながら話した。

 彼の言葉の言うことはもっともだった。

 が、それが逆にカガリの怒りに火をつけてしまった。

「あいつは卑怯な臆病者だ!我々が留守の街を焼いて、それで勝ったつもりか!?我々はいつだって勇敢に戦ってきた!昨日だってバクゥを倒したんだ。だから臆病で卑怯なあいつは、こんなやり方で仕返しするしかないんだ!何が『砂漠の虎』だ!」

 「おい、サイーブ!ちょっと来てくれ。」

 そこへシグルドがサイーブ方へやって来た。

 サイーブはシグルドともに他のメンバーたちの下へ向かった。

 「どうした?」

 サイーブの言葉にレジスタンスの1人が口を開いた。

 「やつら、街を出て、まだそうたってない!今なら追いつける!」

 「なんだと!?」

 その言葉にサイーブは驚いた。

 「街を襲った直後の今なら、連中も弾薬も底をついているはずだ!」

 「俺たちはやつらを追うぞ!こんな目に遭わされて黙っていられるか!」

 男たちは次々に言い、興奮していた。

 「ちょっとちょっと、マジ?」

 それを聞いてムウは思わずつぶやいた。

 サイーブは冷静を保っていて、彼らを説得している。

 ムウはそんな彼らを見ていたがカガリはキッと彼らを睨みつけているの気付き、戸惑った。

 周りを見回してもみんな視線は冷たい。ナタルもであった。

 「あ…えーと、ヤな奴だな、『虎』って。」

 ムウはごまかし笑いで何とか取り繕うとした。

 「あんたもな!」

 カガリは彼らの耳元で怒鳴ると、サイーブたちの所へと向かった。

サイーブは彼らを懸命に止めていた。

 「馬鹿なことをいうな!そんな暇があったら、けが人の手当てをしろ!女房や子供についてやれ!そっちの方が先だろう!」

 だが、男たちは彼の言葉に耳を貸さず、怒鳴り返した。

 「それでなんになる!?見ろ、タッシルはもう終わりさ!」

 「まさか…、俺たちに『虎』の飼い犬にでもなれって、そんなこと言うんじゃないだろうな、サイーブ!」

 そう吐き捨て彼らは行ってしまった。

 取り残されたサイーブは地団駄を踏んだ後、「エドル!」と叫び、彼の運転する車に乗った。

 「行くのか?サイーブ。」

 やって来たカガリは彼に聞いた。

 「放ってはおけん。シグルド、ここを頼む。」

 サイーブはシグルドに向け言った。

 もしレジスタンスが敗れ、万が一『虎』の気が変わり、誰も守る者がいないここを攻めてきたら、ひとたまりもない。

 「…わかった。」

 シグルドも彼の意をくみ了承した。

 「私も行く!」

 カガリは飛び乗ろうとしたが、払いのけられた。

 「お前は残れ!」

 そう言い、バギーは走り去った。

 サイーブとしては、この戦闘で生きて帰って来れる保証はない。そんな場所に彼女を連れて行くことなどできなかった。

 その意図も知らず、カガリは恨めしそうな視線を送るが、その横にバギーが止まった。

 アフメドが運転席にいて、その後ろにキサカがいた。

 「カガリ、待て!」

 意図を察知したシグルドはカガリを止めようとしたが、彼女は聞かず、飛び乗りバギーは走りだした。

 「シグルド、本当に行かなくていいの!?」

 ヒロはシグルドの方を見た。

 彼もレジスタンスの事をほっとけなかった。

 「…俺が行ったら、ここを誰が守る。」

 「それだったら僕が…。」

 「…撃てるか?」

 「え?」

 ヒロは自分が行くと言いかけたとき、シグルドにいきなり尋ねられ当惑した。

 「レジスタンスたちが危ないからと、相手を撃てるのか?」

 その言葉にヒロはハッとした。しばらく考えるように俯き小さな声で言う。

 「それは…。」

 「今、お前は迷っている。迷うことは悪いことじゃない。だが、俺はその状態で戦場に行かせるなど、できない。」

 「じゃあ、どうすればいいの?」

 ヒロは半ばすがるような思いで尋ねた。

 これまで考えてきた、でも答えが出ない。

 その間にもしなければいけないことがあるのに。

「それは自分で見つけるしかない。他人から答えを与えられたても、それは自分のものではない。結局、また迷いが生じる。…それに、今はここに残っていてもやれることはある。」

 彼は振り返り、そのまま避難した人たちの所へ向かった。

 「考えてるよ。どうすればいいのかって。そんな中でも、やってきたんだ。けど…、僕はあんな結果望んでなかったんだ。なのに…。」

 1人残されたヒロはぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

 (なんですって!?追っていった?なんて馬鹿なことを!)

 ムウはユリシーズたちと共にマリューにレジスタンスのことを報告したが、彼女の反応は案の定の反応だった。

 (なぜ止めなかったのです、少佐。)

 「止めたら、こっちと戦争になりそうだったの。で、どうする?」

 ムウは周りを見渡した。

 行ってしまったレジスタンスたちもそうだが、街の人たちの方も気がかりである。

 人々は疲れ果てている。死者がいなくてもけが人は多く、一緒にきた人員だけでは追いつかない。

 ふと、ナタルが子どもをあやしているのが見えた。

 5歳くらいの男の子で腕を骨折したのか、母親の腕の中でいつまでも泣いている。

 「えー、い、痛いのか?ほら、もう泣くな。」

 子供を相手にするのが慣れていないのか、ぎこちないナタルは、制帽をかぶせ、ポケットから菓子を取り出す。

 男の子はその菓子を見て、泣くのをやめ、夢中で頬張る。その様子にナタルはほっとしたが、周りに菓子が欲しそうにしている子ども達に驚き、あくせくしていた。

 めったに見れない光景に思わずムウはニヤニヤした。

 その時、マリューから返事が来た。

 (ヤマト少尉を行かせます。見殺しにはできません。そちらには、残った車両と水や物資を送ります。)

 マリューの言葉に、共に報告を聞いていたアウグストが続けた。

 (こっちも部隊を送る。このアークエンジェルからじゃぁ指揮は出来ないから…今からフェルナンを向かわせ指揮を執らす。ユリシーズ、お前も行け。)

 「えー!?何でですか?」

 ユリシーズは驚いた声を上げた。

 (救援の地上部隊の指揮を執るヤツが必要だろ?ラミアス艦長、ヤマト少尉もこちらの指揮下に入ってもらうが、いいか?)

 (ええ、こちらも動けないで、現場で指揮を執ってくれる人がいて助かります。)

 (というわけだ、ユリシーズ。こちらからMSを送るから連携して行え!)

 「わかりました。やりますよ!」

 そう言い、ユリシーズはエドガーとオリガの方に向いた。

 「…てなわけで俺たちも行くぞ!オリガ、お前たちはここに残って街の人たちの対応を頼む。」

 そう言い、ユリシーズはバギーに乗り込み、レジスタンス救援に向かった。

 

 

 アークエンジェルはもちろんアンヴァルの野営地では準備に追われていた。

 フェルナンの指示を受け、兵士たちは出撃準備をしていく。

 そこにアウグストからフェルナンへの通信が入る。

 (フェルナン、ありったけの弾薬を持っていけ。今は出し惜しみするな!)

 「ええ、わかってます。が…いいのですか?」

 タッシルの街にある物資はすべて失われているのだ。そちらに回すのもある。確かに今は出し惜しみしている暇はないが、それを補えることは出来るのだろうか。

 (それは、タチアナに補給を任せてある。司令部の連中には後で何とでも言い訳する。それが…ダメだったら。ヘソクリを使う。それだけだ。)

 「なら、使います。」

 しかし、ヘソクリとは…この人とはもう何十年の付き合いだが、一体いくつ隠し玉を持っているのか、いまだに分からなかった。本当、恐るべきというか、敵でなくてよかったか。

 (あと…。)

 訂正、やっぱりメンドクサイ人だ。

 ずっと心の中で思っていた彼の評価するのをやめ、フェルナンは呆れ返った。

 一体、あんたは自分の保護者か。

 「まったく、一体何十年の付き合いだと思っているのですか!?そんなにやりたいのなら、自分で行って前線で指揮を執ったらいいじゃないですか!?」

 (行ったら行ったで、指揮官はどっしり構えていろとおまえがうるさいだろ!?)

 「いいのですかディアス隊長、止めなくても?」

 2人のやり取りをよそに着々と準備を進めていく中、ネイミー・アッカーソンはディアスに尋ねた。

 「ずっと軍に長いこといるんだから、こんな忙しい中で程度はわきまえているだろ。ネイミー、あんなやりとりにずっと付き合っていたら身がもたないぞ。」

 ディアス自身の経験か、半ば悟ったような口調であった。

 「えーと、救援部隊の弾薬はこれぐらいで。あっ、街の救援物資はそっちだ。」

 ギースはアンヴァルの物資の分別対応に追われていた。

 形式上はアークエンジェル所属だが、マリューの配慮もありこちらの本来の役目を担っている。

 「俺は待機ですか?」

 パーシバルはスピアヘッドの乗降用タラップに足をかけながらジャンに聞いていた。

 「さっき、隊長が言っていたぞ!お前と傭兵のMSがこっちに残るんだ!」

 周りが騒がしいこともあり、ジャンは大声で返した。

 その後ろ、なにか者が地面に叩き落ちた音がした。

 どうやらススムが慌ててしまい、部品の入った段ボールをひっくり返したようだ。

 「気ぃ付けろ!」

 ジャンが注意をする。

 命令であれば仕方ない。

 パーシバルは悔しそうに降りた。

 その近くにルキナがいた。

 「ん?どうした、ルキナ?」

 「…私も待機、ということよ。隊長やアレウスは出るのに。」

 「…ルキナ。」

 心配そうにパーシバルは言う。

 「…わかっている。わかっているけどね…。」

 自分が行けないことが歯がゆく思うのは初めてかもしれない。

 彼らは他の人たちの出撃を見送ることしか出来なかった。

 

 

 大型トレーラーからコンテナが引き離され、アンヴァルのMSが出される。

 どれも、ザフトの従来のMSを繋ぎ合わせたような形状である。頭部のメインカメラはゴーグル状になっているが、その奥はモノアイである。また、彼らが運用しているMSはすべてジン、および派生機で区別するため、名称を付けている。

 アレウスはジン長距離強行偵察複座型がベースで改修された機体[ロッシェ]に乗り込んだ。手にはリニアガンタンクの備えられているキャノンより大型のレールガンとシグーのシールドと同じくらいの大きさの盾を持っていた

 もともとの偵察機の特性を活かし、敵の特定等をしなければならないため、一番先に出なければいけない。

 [ロッシェ]は、それらの武装をまるでハングライダーをMS大にしたモノにマウントし、ベースバーに手にかけた。

 その名は、ヒンメルストライダー。

 アンヴァルがザフトのグゥルを参照に、地球連合規格で開発したサブフライトシステムである。

 ここは砂漠である。地上を歩くよりもこちらの方が速い。

 (では、発進するぞ。)

 アレウスは周りにいる作業員たちが巻き添えを食らわないよう警告し、退避を確認したのち、発進した。

 続いて、ノーマルのジンに肩部にザウートのキャノン砲が1対、腕に2連副砲があり、背部にはバックパックが通常より大きめで、その他にプロペラントタンクが備えられた機体[プロクス]も同じようにヒンメルストライダーのベースバーを手に持った。

 「ディアス!ヤマト少尉はこっちの指揮下に入る!ストライクの機動力と合わせ連携しろ!」

 大声でフェルナンが[プロクス]のパイロット、ディアスに告げる。

 (わかりました。では、こちらも発進する!)

 そう言いディアスもヒンメルストライダーを駆り、レジスタンス救援へと向かった。

 「では、こちらも行くか。ネイミー、アレウスからデータが送られたら、すぐにオペレーティングを頼む」

 フェルナンはトレーラーに乗り込んだ。

 すでに運転手と助手席にネイミーが乗っていた。

 このトレーラーは、コンソールに電子装置やモニターが設置されていて、陸上での作戦時に指揮をとれるようになっている。

 上部に45㎜バルカン砲を備え付け、砲手が手動で行う。

 その砲手の担っているテムル・バータルが乗り、それを確認した運転手がトラックを発進させた。

 

 「いいのか、フォルテ?俺たち何もしなくても…。」

 彼らの様子を見ながらアバンはフォルテに尋ねた。

 「とは言ってもね~。俺のジンじゃ、今から追いかけるなんて無理だし。このアークエンジェルの方に戦力を残した方がいいだろう?」

 「けどよ~!」

 アバンは悪態をついたが、フォルテの言うことももっともだった。

 だが、アバンにとって自分が何もできないということが一番嫌で悔しかった。

 

 

 

 タッシルを壊滅させたバルトフェルドたちは帰路についていたが、その行軍速度はゆっくりであった。

 「隊長…もう少し急ぎませんか?」

 ダコスタが隣に座っているバルトフェルドに言う。

 「そんなに早く帰りたいのかね?」

 「じゃなくて、追撃されますよ、これじゃ。」

 もうすでにタッシルでのことはレジスタンスに知られているだろうし、なにより、帰投の際、彼は迎え撃つつもりもない反応を見せていた。

 それなのにこんなにゆっくりとしていて彼の意図が読めなかった。

 しかし、彼の懸念の言葉をよそにバルトフェルドはぼそっと呟いた。

 「…運命の分かれ道だな。」

 「は?」

 ダコスタは彼の言葉の意味がわからず、聞き返した。

 「自走砲とバクゥじゃ、ケンカにもならん…。死んだ方がマシ、というセリフはけっこうよく聞くが、本当にそうかね?」

 「はあ?」

 その時、バクゥのパイロットから通信が入った。

 (隊長、後方から接近する車両があります。6…いえ、8、レジスタンスの戦闘車両のようです。)

 その報告を聞き、ダコスタはバルトフェルドの方を見た。

 そう、さっきの独り言といい彼の行動といい、これを見越していたのだ。

 「…やはり、死んだ方がマシなのかねえ?」

 その時、彼らの左横より、レジスタンスのバギーが現れ、指揮車に向けランチャーを発射した。

 指揮車はなんなく避ける。

 「隊長!」

 「仕方ない。交戦する!」

 彼の言葉と同時にバクゥは臨戦態勢に入った。

 

 

 アークエンジェルのブリッジ。

 そこでシートに座っているアウグストは話し始める。

 「…よく忘れがちになるが、戦いの後の事も考えなければいけない、ということだ。」

 「はぁ。」

 独り言を言っているのか、それともこちらに話しているのか分からない彼の言葉に、マリューはとりあえず返事をする。

 「…そういった意味で、今回の『虎』の行動は見事なものだ。」

 敵を褒めるアウグストに他のクルーも一体何が言いたいのか、という目を向ける。

 「…ザフトは地球軍の地上封じ込めのためにマスドライバーを攻撃している。しかし、これにはどうしても地上の軍事拠点の確保、物資が必要となる。このアフリカ共同体の鉱山もその一環だ。しかし、見ての通りそれに反発してレジスタンス活動をしている者たちがいる。さて、そんな彼らにどうするかな?そこ操舵手の君ならどうする?」

 「え、自分がですか?」

 いきなり指名され驚いたノイマンであったが、しばらく考え答える。

 「そりゃ、彼らを撃ちますよ。彼らによって戦力を失ってしまいますし。」

 「そうだ。実際、先の戦闘でこの艦とMSに気を取られていたとはいえ、バクゥを5機も失った。それを放っておくことは出来ない。が、問題もある。それは、彼らは俺たち軍人と違い、地元の人間(・・・・・)であることだ。」

 「もしもタッシルをレジスタンスと通じているから住民ごと街を焼き払ってしまったら、今、彼らの支配を受け入れている街の者たちはどう思う?それに恐怖して抵抗しなくなる。が、それと同時に、関わっていない人間も殺した、非戦闘員も殺した、それならばいつか自分たちも逆らってなくても向こうの都合で殺されるのではないか、なら今のうちに抵抗しよう、と彼らの同情し、味方する者も出てくる。第2、第3のレジスタンス組織が出てきてしまう。出てきたら、また排除すればいいと思うだろうが、そうしているうちに本来以上の戦力を消費してしまう結果なってしまう。」

 「が、今回どうだ?非戦闘員も殺さず、待ち受けるようなことはしない。レジスタンスたちはMSを倒したということに慢心を見せ始めているから絶対に攻撃してくる。明らかな戦力差であってもな。客観的に見たら、挑発に負けて自分たちが倒せたように錯覚し、増長したレジスタンスがMSとランチャー、明らかな戦力差も考えず無謀な戦いをした、と思うだけだ。なんて愚かなんだ、と思うぐらいだろう。」

 「…そんな。」

 そうこれはすべてバルトフェルドの作戦の内なのである。

 もしかしたら自分たちが救援に行くかもしれないことも、考えているのではないか?

 本当に出撃させて大丈夫だったのか?

 そして、そんな相手と戦って勝機があるのか。

 マリューは不安に思った。

 そして、この人はそこまで考えていながらあえて彼の思惑に乗るのか、それとも何かあるのか。

 「まあ、ともあれ、この後のことも含め、レジスタンスが全滅してしまったら、こっちは意味がない。あいつらが間に合うといいが…。」

 アウグストはマリューの不安をよそに独り言ちた。

 その言葉にいろいろな意味を含めて。

 

 

 レジスタンスたちの反攻はバルトフェルドやアウグストの予想通りの展開になっていた。

 3機のバクゥのうち1機が、レジスタンスのミサイルが関節部で爆発し、不調を起こし動けなくなったぐらいだけだった。

 のこりの2機は彼らの砲撃にビクともせず、レジスタンスたちを追い詰めていく。

 4本脚で駆けていた1機がキャタピラに切り替え、下のバギーを押し潰す。

 さらに、近くを駆け抜けたバギー2台を急激なターンをしえ彼らにつき、1台を前脚で横に払い、もう1台を踏みつぶす。

 「ジャアフル!アフドー!」

 サイーブがバクゥの犠牲になった仲間の名前を叫ぶ。

 「くそぉ!」

 アフメドはハンドルを切りバクゥに近づく。そして、その巨大な機体の腹の下に入る。

 カガリとキサカがその隙を狙って各々、手にした武器を腹部に放つ。

 脚の間を抜け、バクゥは一瞬、足を止めた。

 が、この後のことは一瞬にして起こった。

 「飛び降りろ!」

 何かに気付いたのか、キサカは突然叫び、同時にカガリを抱え、バギーから飛び降りた。

 「…え?」

 運転していたアフメドは何が分からず、反応が遅れた。

 瞬間、アフメドがまだ乗っているバギーがバクゥの前脚に蹴り飛ばした。

 キサカに抱えられ砂地に転げ落ちたカガリはつぶされたバギー、そして宙に舞う少年の姿が目に入った。

 「アフメドー!」

 カガリは悲痛な叫びをあげる。

 が、バクゥはまさしく獣のごとく次の獲物を狙っていた。

 先ほどアフメドのバギーを潰したバクゥはターンをし、こちらの方に迫ろうとする。

 その時、そのバクゥにサイーブが放った砲が肩に当たる。

 バクゥがサイーブの方に気を取られた隙を狙ってキサカはカガリを引きずってこの場から走る。

 バギーに迫って来るバクゥをサイーブはバズーカ―を放つが、意味をなさない。

 その間に距離は縮まっていく。

 「ちっくしょー!」

 サイーブはバズーカ―を構える。

 その時、一筋のビームがバクゥの脇に走った。

 そして、その後、キャノン砲がバクゥの前を遮った。

 「接近する熱源!隊長!」

 指揮官車からもそれらを捉えた。

 ダコスタがバルトフェルドに報告する。

 カガリたちからも先ほどのビームを放った姿が見えた。

 「…ストライク。」

 彼女は青、赤、白のトリコロールの機体の名を呟いた。

 

 




まさか、この話が二分割になるとは思わなかった(汗)。
後半は2,3日後に出せるようにします。



オマケ
ヴァイスウルフで一番強いのは?
アバン 「一体誰だろうか?」
ヒロ  「シグルドかルドルフ、かな?でも、フォルテも意外と強いよね。」
アバン 「白兵戦はルドルフだよな~。しかしあの爺さん70超えてあんなだもんな~。」
ヒロ  「シグルドとフォルテはどう思う?」
シグルド「ミレーユ、だな。」
フォルテ「うん、ミレーユ。」
ヒロ  「へ?」
アバン 「これまた意外な答え。」
ヒロ  「ルドルフは?」
ルドルフ「協力者込みなら、ジネット。含まないなら、ミレーユだな。」
アバン 「いったい、どうしてだ?」
シグルド「彼女を怒らせたらいけない。」
アバン 「たとえば?」
シグルド「仕事が回ってこない。(経験談)」
フォルテ「報酬金が来ない。(経験談)」
ルドルフ「俺の秘蔵のワイン、奪われた。(経験談)
     1ヶ月以上口きいてくれない。(経験談)
     ホテルから追い出された。(経験談)」
アバン 「…なんというか。」
ヒロ  「家庭内で立場の弱い世の父親と同じ…。」

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