アークエンジェルの周りに、さきほどバクゥを倒した集団を乗せたバギーが集まって来る。見たところ、アラブ系の男たちであった。が、正規の軍人とは違っていた。もう一方の集団もこちらにやって来る。そちらはラフにしているが、軍服や作業服を着ている。よく見るとユーラシアの軍人っぽい。
お互い、仲は険悪なのか、どちらもアークエンジェルの前でにらみ合いをしている。が、そこでお互い撃ちあうというようなことまでには至ってはいなかった。
「味方…と判断されますか?」
シートを立ったマリューにナタルが尋ねた。
「少なくとも二勢力ともこちらに銃口は向けられてないわ。」
短く答え、エレベータに向かった。
「…ともかく、話してみる。向こうにもその気があるようだから。うまく転べがいろいろと助かるわ。…あとはお願い。」
そう言い残し、マリューはブリッジを後にした。
ハッチの前では、ムウやライフルを持った数人が駆けつけにきた。
「俺、あんま銃は得意じゃないんだけどねぇ…。」
ムウはやれやれといつものように飄々と語る。
ルキナとギースもやって来た。
「ラミアス艦長、私たちもいきます。」
「あっちの集団の方は知り合いなのでね…。」
「…助かるわ。」
「…開けるぞ。」
ハッチが開き、近くに兵を伏せ、マリューとムウはその集団の方へ向かった。
ヒロたちはコクピット内からアークエンジェル、そして近くに集まっている集団たちの成り行きを見ていた。
「大丈夫…かな?」
(まあ、艦長次第でしょ?しかしまあ、シグルドたちがここにいたとは…。)
(ここにいるのは偶然だ。俺たちは『明けの砂漠』から依頼を受けてここにきたんだ。そこにお前たちが来た。…それだけだ。)
シグルドが答える。
たとえ、ここに傭兵の仲間同士がいたとしても、彼らの今所属している人たちが共闘しないということもある。
(ふ~ん、しかし、アレ、初めて見たが…いったいなに?)
フォルテが視線を戦闘機のようなものに移し、シグルドに聞いた。
今まで、ヴァイスウルフにもなかったし、かといって今彼らが共に戦っている者たちのというふうには見えなかった。
ちょうど、ルドルフの運転するバギーもやってきて、アバンはフィオに怒られていた。
(あれか…。まあ、贈り物、と言った方がいいかな?詳しくはフィオに聞いた方が早い。)
(そうか…。あっ、アークエンジェルのハッチが開いた。)
ともあれ、彼らはコクピット内で会談の行方を見守るしかなかった。
「お前たちはとっくに帰ったと思ったけどな!さすが、アウグスト・セルヴィウスが総帥の部隊だな。」
このアラブ系の男たちの集団のリーダーとも思われる髭を生やした頬に傷のある男は向かい合っているユーラシアの軍人に皮肉交じりの言葉を投げつけた。
が、その口調からは邪険に思っている節がある。
「おいおい、おっさんたち、簡単に俺たちが帰るとでも思ったのか?それに俺たちはあんたらではなくて『天使』に用があるの。それに、あんたらこそなぜ助けたんだ?地球軍とは手を組みたくないんじゃなかったのか?」
眼鏡をかけた士官が不敵に答える。
「…出て来たぞ。」
にらみ合いが続く中、隊長格の男がアークエンジェルに目を向けた。
ハッチが開いて艦長らしき女性士官と男性士官がこちらに向かってきた。
眼鏡をかけた男はふうと息をついた。
「…じゃあ、交渉の順番は譲りますよ。俺たちは成功確率が高いのでね…。」
そう言い残し、少し後ろに下がった。
「助けていただいた…とお礼を言うべきなのでしょうね?地球連合軍第八艦隊所属、マリュー・ラミアスです。」
マリューが髭面の男に口を開いた。
「あれぇ、第八艦隊ってのは、全滅したんじゃねぇの?」
彼女の名乗りを聞き、少年があざけるように笑った。
マリューはその少年を睨みつける。
髭面の男が「アフメド。」と、その少年を制した。
そしてふたたびこちらの方に目を向けた。
「俺たちは『明けの砂漠』だ。俺の名はサイーブ・アシュマン。礼なんざいらんさ、別にアンタ方を助けたわけじゃない。こっちもこっちの敵を討ったまででね。」
どうやら、この一団は地元の反ザフトの、ゲリラ活動をしているレジスタンスといったところか。
「…力になっていただけるのかしら?」
この敵地のど真ん中。自分たちで乗り切れるとは思っていない。たとえ、レジスタンスであっても味方が欲しかった。
「話そうっていうなら、まずは銃を降ろしてもらねえとな。…それに、アレのパイロットもだ。お互い傭兵の方も降ろさせようぜ。」
どうやら伏せていた兵の存在に気付いていたようだ。
マリューは兵士たちに合図し、そしてストライクに向き直り、キラに出てくるよう指示した。
ストライクのハッチが開きキラが降りていくのを見ていたヒロたちもコクピットを開ける。
キラがヘルメットをとると、レジスタンスはどよめいた。少年がMSに乗っていたなど思ってもいなかったのだろう。その中で、彼の姿に息を飲んだ者がいた。
金髪の少女だ。
そして、彼女はキラの前に飛び出していった。
「おまえ…!」
その動きにムウは危害を加えるのか、と思い警戒したが、長身の男に阻まれた。
金髪の少女がいきなりキラに手を上げた。
「おまえがなぜ、あんなものに乗っているっ!?」
キラは一瞬驚き、反射的に彼女の拳を受け止めた。
その声はさっき自分に接触した少女であるが、今の言葉から自分を前から知っているようだが…。
拳を受けられて悔しそうにしている少女の顔を見て、キラはハッとした。
「きみ…あのとき、モルゲンレーテにいた…!」
そう…ヘリオポリスがザフトに襲撃された日。避難の際、モルゲンレーテの奥へと行った彼女と共に自分が見たのは、このストライクだった。そして、キラは彼女を避難用シェルターに行かせ、自分はストライクに乗ってしまった。
まだ1ヶ月もたってないのに、ずいぶん前のように感じた。
そんなことを思っていたキラであったが、一方の少女は彼の手を振りほどこうとしていた。
「くっ…離せ!このバカっ!」
そして彼女のもう一方の拳がキラの頬に当たった。
思わぬ一撃を食らったキラは殴られら頬を押さえ後ずさった。
「カガリ!」
サイーブに咎められ、カガリと呼ばれた金髪の少女は引き下がり、彼女の仲間たちの方へ戻っていった。
その姿を見送りながら、頭が混乱していた。
なぜ、彼女がここにいるのか?
一連のやり取りを見ていたヒロたちは呆気にとられていた。
シグルドは大きくため息をついていた。
「…大丈夫なんだよね?」
ヒロが困った顔でシグルドに聞いた。
「大丈夫だが…。まったく、カガリは…。」
まっすぐなのはいいが、これでお互いの協力しあうかもしれない空気を壊してしまったら、元も子もないだろうと思いながら、そして何より心配したのはこれで、自分の正体をバラしてしまうのではないかということだった。
「そっちの用事は終わった?」
今度は先ほどの軍服を着た者たちがこちらに来た。
「こっちは終わったさ。」
サイーブは睨みつけながら言った。
「おいおい、あまり冷たく言い放つなよ。もしかしたら、手を組みかもしれない相手に…。」
「ふん、これだけは言わせてもらうぞ。お前たちの都合がどうであれ、俺たちは俺たちの敵を討つだけだ、ということをな。」
そして、後ろの方にさがった。
「あ~らら。随分と嫌われてしまったようで…。」
そして、男はマリューの方に振り返った。
「…あなたたちは?」
マリューは尋ねた。
その時、眼鏡をかけた士官が先ほど打って変わった物腰でマリューに近づく。
「いや~、すみませんねぇ。このような二度手間をかけさせてしまって。彼ら頑固者で困るでしょ?申し遅れました、自分はユリシーズ・スヴォロヴと言います。中尉です。ユーラシア連邦特別独立部隊、アンヴァルの参謀を務めております。」
ユリシーズは自己紹介を始めた。
右目に眼帯をかけた隊長格の男も名乗る。
「アンヴァル隊長のディアス・ホークウッドです。」
「アンヴァルって…。」
マリューはちらりとルキナとギースの方に目を向けた。
「はい、この度はルキナ・セルヴィウス少尉とギース・バットゥータ曹長がお世話になりました。しかし…新型戦艦の艦長がこのような美人な方であったとは…。まさしくこの艦の名前のごとき天使のような方ですな。しかし、アラスカに降下するはずだったのに、このような地に降りてしまい、さぞ大変だと思われます。どうでしょう、あちらに我らの野営地がございますので、こんなところでなんなんですからこれからのことでもお話しいたしましょう。なに御心配にはいりません。海も陸も平気で走ることができ、乗り手の無事を守るといわれた神話の馬、部隊名にもなっておりますアンヴァルのごとき、どのような場所にも、繰り出せます。」
もはや、交渉というか口説いているのではないかというような言葉に、マリューもたじろぐしかなかった。
後ろにいたムウをはじめ他の兵士も唖然としていた。
そもそも隊長のディアスを差し置いてここまで言っていいのかとも思ったが、彼は彼で勝手にユリシーズが話してくれて労力を使わずに楽なのような雰囲気だった。
ギースとルキナ、他のアンヴァルのメンバーはいつものことというばかりのあきれ顔であった。
もちろん、「明けの砂漠」のメンバーもあまりいい顔をせず、聞いていたが、サイーブはユリシーズが発したある単語を耳にし、思わず驚いた。
「セルヴィウス…だと?まさか、アウグスト・セルヴィウスの孫娘か?」
「隠すつもりもないので言うが、そうだが。…何か言いたいことでも?」
サイーブの質問に近くにいたディアスは短く答えた。
先ほどのこともあるから、大将の悪口の1つや2つ言うのかと思っていたが、予想外の言葉が出てきた。
「…ということは、ヴェンツェル・セルヴィウスの娘…。」
その言葉を口にした瞬間、先ほどまでの空気が一変した。
そして、この後の一連がほぼ一瞬であった。
ユリシーズ、ディアスとともにいたアンヴァルのメンバーたちが銃を取り、サイーブたちに向けた。対して、サイーブの周りにいた「明けの砂漠」のメンバーも銃を向けた。
まさに一発触発状態だった。
が、お互い撃ちかねない状況にも関わらす、彼らは撃たない。
撃てなかった。
彼らの間に入るように1人の男が立っていた。
彼もまた軍服を着ていて階級章からは将官であることがうかがえた。
お互いが銃を出した瞬間に割って入って来たのだろうが、みな、そのような言葉も出すことができない。
老年ながらも、その長年軍に、戦場の中に身をおいていたためか、みな、その男発する威圧に圧倒されていた。
その男がアンヴァルの方を見やった。
「…何をしている。交渉の場に銃を向けろとは、俺は言った覚えはないが…。」
その言葉を聞いたアンヴァルの者たちはみな抗議の言葉も発せず銃を下げた。
そして、今度はサイーブの方に目を向けた。
「…サイーブ・アシュマン。あまりこの場に関係のないことを持ち込むことはやめていただきたいが…。」
「いや…、すまない。もう何も聞かない。」
サイーブも圧倒されながら、そのまま身を引いた。そして、メンバーたちに銃を引かせた。
お互いは銃を降ろした時、その中で身一つ動かなかったディアスはやれやれといった感じ嘆息した。
「…まったく、大将も含め血の気が多いようでホント困りますよ。」
それをきいた将官がにやりとディアスの方に向いた。
「…おまえもそのポケットの中で、銃をとってただろ?おまえもそれから手を放せ?」
「…バレてましたか。」
そう言い、ディアスは軍服の上に羽織っていた上着のポケットから短銃を取り出し、地面に置いた。
マリューたちは、一体どういうことか分からず、ただ、このやり取りを見ているだけだった。一方、近くにいたルキナは顔をこわばれせていた。ギースは銃こそはとらなかったが、サイーブに非難の目を向けていた。
その彼に遅れて他の隊員たちが待機しているところから、その男のもとに、口髭を生やした中年の男が急ぎ足でやって来た。階級章をみる准将であった。
「はぁ、はぁ…。セルヴィウス大将…いきなり、行かないで下さいよ…。こっちが…駆け足に…。」
男はゼィゼィいいながらアウグストに言った。
「おいおい、俺より若いのにそんなに息を切らしてどうする、フェルナン?」
「仕方ないじゃないですか。こっちはアラスカ行ったり、戻ったりそしてこっちに来たりと大移動なんですよ。」
男の抗議を尻目に将官はマリューたちの方に振り返った。
「それよりも、すみませんな、こんな見苦しいところを見せて。このことは忘れてください。」
「ラミアス艦長、この方が、アウグスト・セルヴィウス大将です。そして、こちらがガリツォ・フェルナン准将です。」
ディアスより紹介を受けマリューは敬礼した。
「あー、そう固くならなくていいよ。俺が勝手に来ただけなんだし…。話はハルバートン少将より聞いている。詳しく話を聞きたいが…、ここじゃぁなんだから、どこかゆっくり話せる場所ないかな?」
今度はサイーブたちの方を見、彼は言った。
「…大将にすべてもっていかれた…。」
一連の件で、己の言が途中で遮られたユリシーズはがっくりと肩を落とした。
レセップス級大型地上戦艦、スケイルモーターによって砂を振動、液状化させて移動することができ、海上でも航行可能だが、ボズゴロフ級が海洋戦力を担っているので、主に砂漠で運用されている。
そのネームシップであるレセップスが「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドの旗艦である。
「もう彼、目が覚めたって?」
「はい、軍医が言うには、もう大丈夫だと…。」
昨日、バルトフェルド隊はこの砂漠に、落下に近い形で降下してきたMSを収容、パイロットを保護した。
隊員たちは、さすがに生きてないだろうと思ったが、なんとパイロットは奇跡的に生きていた。
降下地点が砂丘でであったこと、パイロットが降下時の操縦がよかったこと、MSの整備がよく行き届いていたことによってけがで済んだ
とはいっても、しばらく養生しなければいけない怪我ではあるが。
ダコスタから話を聞きバルトフェルドは医務室に赴き、扉を開いた。
医務室のベッドではそのパイロットは起き上がっていた。
「やあ、起きたって、しっかし驚いたね~。宇宙からMSが落ちてくるんだもの。今まで誰もやらないことだよ。」
群青色の瞳がバルトフェルドの方に目を向ける。
「…やりたくてやったのではない。しかし、整備士には悪いことをした…。」
シグーアサルトの方はもう直すことは出来ない状態であった。
「でも、機体の整備が行き届いているからこそ、君は大けが程度で済んだものさ。君の認識番号も照会させてもらったよ。ジブラルタルには連絡したから、君の事は本国にも届くだろう。しばらくゆっくりしたまえ、『青い迅雷』オデル・エーアスト君。」
そう言い、彼は部屋を出て行った。
バルトフェルドが出て行ったあと、オデルはふたたび横になった。
確かに、今までMSが単独で大気圏突入するなんてなかった話だ。まあ、あの奪取した機体はスペック上可能だが…。
ザフトの従来のMSが単独で降下したら、途中で燃え尽きる。
しかし、燃え尽きないで残ったこと。
おそらく、コクピット内の戦闘記録を見ているはずだ。
バルトフェルドがそこに言及しなかったこと…。
そこには感謝しなければと思った。
…あれから、まだ1日と経っていないと、話を聞いて分かった。
オデルにとってはとても長い日にちが経ったように感じていた。
「ジョルジュ…すまない。」
オデルはあの時、散った戦友の名を口にした。
届くことなどもうないにもかかわらず。
砂丘を抜けた岩山に近づき、その谷底まで明けの砂漠、そしてアンヴァルの順にそして最後にアークエンジェルと進んでいく。
ここが「明けの砂漠」の本拠地なのか、他にも人がいたり、弾薬が置かれていた。
ザフトの偵察を警戒し、隠蔽用のネットをMSや人の手で広げていった。
サイーブに伴われ、マリューたち士官3人、アンヴァルからはアウグストの他にフェルナン、ディアスが奥の司令室らしい部屋へ辿り着いた。
その部屋には、通信機やコンピューターなどの機械類が並んでいる。
ある意味、1部隊並の設備である。
「ひゃ~、こんなところで暮らしているのか?」
「ここは前線基地だ。タッシル、ムーラ、バナディーヤ。みな家は街にある。…まだ焼かれてなければな。」
「艦のことも、助かりました。」
マリューは改めて礼を言う。
さっき一緒にいた金髪の少女がサイーブに耳打ちし、外へと出て行った。
「彼女は?」
その姿を見送ったあと、ムウは尋ねた。
「…俺たちの『勝利の女神』だ。」
「へぇ…。で、名前は?」
だが、サイーブからの答えがなかなか返ってこなかった。
「女神様じゃ、名を知らなきゃ悪いだろう?」
ムウは肩をすくめながら言った。
「…カガリ・ユラだ。」
サイーブはカップを置き地図を広げた。
「アンタらはアラスカに行きてぇってことだが…。」
サイーブのあからさまに話をそらそうとするのを、マリューは不思議に思ったが、話題が話題なだけに地図に注意を引いた。
サイーブが現在の情勢を話し始めたのだ。
「Gコンドル?」
それが先ほどアバンが乗っていた戦闘機のような機体の名称だ。
アークエンジェルの隠蔽用ネットを張り終え、休憩がてら、キラとヒロはストライクとクリーガーに興味津々のメカニックたちの餌食になってしまった。
「これって、クリーガーのバックパックにくっつくの?」
そして、ヒロは渡されたマニュアルを読みながら、ヒロはクリーガーの調整をしているフィオに尋ねた。
「そう。Gコンドルの機首の部分が分離して、それがバックパックになるの。でも、まだ合体試験はまだだし、何より、ちゃんと接続できるかもわからないから、今こうしてお互いを調整しているの。これもしなきゃいけないし、フォルテのジンも修理しなかきゃならないし…。これはしばらく徹夜続きになりそうだわ~。」
と言いつつも、フィオの目はキラキラ輝いていた。
「…なんか、その割にうれしそうだな。」
アバンが半ばあきれながら言った。
「そりゃ、そうよ。こんなすごい機体をいじれるのよ!メカニック冥利に尽きるわ。」
今までとは違うMS、そして、最新機体をいじるということの方が大変さよりも上回ってるのだろう。
一方、別の目を輝かせている人間はストライクの方にいた。
「うわ~、モルゲンレーテと大西洋連邦のすべての技術をそそいだ機体!こんなにも、すごいなんて~!操縦桿はスライダータイプになっているんだ。フットペダルも4枚になっているし…。あっ、これがキーボードでOSを調整できるのか?ねえねえ、これでさっきの運動プログラムも変えたの?」
キラたちとは2、3歳ぐらい年上のスポーツバイザーを被っており、黒縁眼鏡をかけた整備士がキラに次々と質問する。
「…、そうです。ええっと…。」
キラは困りながらも質問に答える。
なぜなら、彼はユーラシア所属の整備士である。
このレジスタンスの本拠地に行くまでの間、マリューとアウグストとの間で何か話があったのか、これらの機体をユーラシアにも見せてもいいと言われた。
彼からもデータはとらないと言われた。
が、 アルテミスでの1件のこともあり、キラは不安だった。
もし、これが奪われたりでもしたら、アークエンジェルを守ることも出来なくなる。
「あれ、まだ名前言ってなかったっけ?僕はススム・ウェナム。ススムでいいよ。そうか…これなら…。」
だが、ススムと名乗ったその整備士は、ただ己の好奇心のみで機体を見ていた。
杞憂かなと、キラは少し安心した。
「まったく、こんなものを造るから…こうやって調子に乗るやつが出てくるんだ。」
そこにカガリがこちらにやって来た。その目は先ほどキラに対してと同じようにストライクを睨みつけていた。
さきほどの事もあってキラは少し警戒した。
ヒロも少し身構える。
「…さっきは悪かったな。」
が、彼女はこぶしを振るうわけでもなく、キラにボソッと謝った。
「殴るつもりはなかった…わけでもないが、あれははずみだ。許せ。」
一生懸命謝ろうとはしているが、態度が謝っているようには見えなかった。
その様子におもわずキラは吹き出してしまった。
「なにがおかしい!」
「なにがって…。」
カガリは心外そうに睨みつけるが、キラはまだ笑っていた。
その様子を見ながら、ヒロはキラに聞いた。
「…2人、知り合いだったの?」
「知り合いっていうか、あのときモルゲンレーテにいた子だよ。ほら、ヒロ、覚えてない?」
「そういえば、おまえもあそこにいたな?傭兵だったのか。しかも、アレに乗っているなんて…。」
キラに言われたこと、そして、カガリが自分を見ているようなことを言って、ヒロは一生懸命記憶を探っていた。
そういえば、あの日ラボに金髪の帽子を被った人がいたような…。
でも、あれ…。
「…女の子、だったんだ…。」
帽子を深々とかぶっていたこともあり性別まで分からなかった。あの時のお客さんが、初めて知った。でも何でだろう…。
と、考えていたが、ヒロが思わず、口に漏らした言葉にカガリはムッとし睨みつけた。
「まったく、おまえもか!一体、なんだと思っていたんだ!」
「えっ…、ゴメン。」
カガリの語気に思わずヒロは謝ってしまった。
「ふーん、ヒロがねぇ…。そうなのか、フォルテ?」
ルドルフはピタパンを口にしながらオーティスの話を聞いていた。
シグルドもフォルテも共にいる。
ピタパンとはこの北アフリカでは主食として食べられていて、主に肉や野菜類などを挟み、サンドウィッチのように食すのが一般的だが、ルドルフはそのまま口にしている。
「う~ん、たぶん、というかほぼ…。さっきの戦闘見てたなら、なんとなくわかるだろ?」
フォルテが答える。
「まあな…。とは言っても、これはヒロ自身が解決しなきゃならんことだしな…。」
「そうですね…。だからといって、ほっとくこともできません。あとで、それとなくヒロに聞いてみます。」
シグルドは静かに答える。
サイーブから現在の情勢、そしてアラスカまでの道のりを見たマリューは深いため息をついた。
ここから、アラスカまでは紅海を抜け、インド洋、太平洋を渡るしかない。
が、目下、ここには「砂漠の虎」がいる。
まずはここをどうにかしなければいけない状況になった。
サイーブたちが自分たちを助けたのも、親切心からではなく、『敵の敵は味方』ということだ。
「サイーブ、そちらの話は終わりました。」
すると、女性の声がした。
マリューらが振り返ると、入り口から流れるような美しい金髪の女性が入って来た。
その女性を見たムウは、ヒュゥと口笛を吹いた。
さっき、サイーブがカガリと言っていた子よりもこちらの方が女神と呼んだ方がふさわしいのではないかと思ったが、それを言ったら、周り(特に2人ほど)が後で怖いだろうと考え、口に出すのをやめた。
「ああ、こっちは終わった。」
サイーブはその女性の問いに答える。
女性はマリューたちの方に歩み寄り挨拶をした。
「初めまして。ヴァイスウルフのミレーユ・アドリアーノと申します。この度、護衛任務の件、我々の力及ばず申し訳ございません。」
「いえ、そのような。あなた方のおかげでここまで来れたのです。しかし、どうしてここに…?」
マリューはミレーユと握手する。
そう言えば、さきほどリーダーと思しき人と仲間もいた。
このレジスタンスから何か依頼を受けているのだろうか。
「はい。レジスタンスより依頼を受けております。しかし、くわしい内容までは…彼らに迷惑をかけますので、明かすことはできません。申し訳ございません。しかし、今、お互いが協力し合う以上、我々も力の限り尽くします。」
「ええ、ありがとう。」
このような敵のど真ん中、思わぬ味方をえて、ホっとする。
そして、さらにここにユーラシアの部隊とも会うことができたのも幸いであった。
「…けど、ユーラシアもいるっていうのは驚きましたよ。やはり『砂漠の虎』を?」
ムウがアウグストに尋ねた。
「そうさ。だが、ユーラシアの戦車部隊を何度もやられているからな。つい先日もぼろ負けだ。しかし、我々も手をこまねいていられない。ビクトリアが落ちた今、尚更だ。しかも、ことを隠密にやらねばならない」
アウグストの言葉にマリューたちは訝しむ。
それにフェルナンが話を加える。
「できることなら、この部隊が倒したとは大っぴらにはしたくないのですよ。だから、レジスタンスの協力を仰ごうとしたら、最初はつっぱねられてね。はははっ。しかし、君たちがここに来てくれたおかげで我々も当初の予定通りに事が進めたわけで、とても感謝しているよ。」
彼は笑いながら言う。
「しかし、なんで?」
ムウはふたたび尋ねた。
普通正規の軍隊がゲリラに協力を申し入れるなどないことだ。
しかも、『砂漠の虎』を倒すことを前面に出したくないなんて、普通は逆だ。
「それは…いろいろあるんだよ。」
アウグストが不機嫌な顔をして答える。
「…なにか、聞いちゃまずかったのかな?」
気まずくなったムウはディアスに聞いた。
「いえ…、少佐の質問で機嫌が悪いのではないので…。」
「ルキナに久しぶりに会えたのに、再会の喜びを見事に突っぱねられたので…。」
フェルナンが笑いながらムウの問いに答えた。
不機嫌の意外な言葉に、ムウら3人は呆気にとられた。
「当たり前だろう!1ヶ月ぶりだぞ、1ヶ月ぶり。しかも、ヘリオポリスには、俺に黙っていくし!」
「そりゃ、ちゃんと人選はこちらでしましたので。」
「だからってなぜルキナだ。他にもMSが乗れるやつはいるだろう。」
アウグストとフェルナンのやり取りを聞かされた3人は呆気にとられていた。
ディアスはというと、いつものこととばかりの顔をしていた。
「…じじバカなんですね。」
ムウが苦笑交じりにディアスに話す。
「ええ、自他ともに…です。」
「じじバカでなーにが悪い!孫は可愛いモノだろう!」
ムウの言葉が聞こえたのか、反論した。
まったく身内には甘い人間なのか、それともこれも何か考えがあっての事なのか。
アウグスト・セルヴィウスの名は大西洋連邦にも名をとどろかす軍人だ。先ほど、場を収めた威厳をもち、まさしく軍人として見習うべき鑑と思いナタルは尊敬の念を抱いていたが、そのイメージをほんの数時間で壊されたナタルは頭を抱え、溜息を付いた。
「ははは、それは私も見てみたかったな。」
アンヴァル所属の軍医、ショウセイ・スアレムはアウグストがルキナから突っぱねられた時の様子を想像し、笑った。
「少し、こっちの身になってもらいたいです。もうすぐ16ですよ。なのに…。」
「孫というのは、いくつになっても可愛いものなんだよ。しかし、無事でよかったよ。しかもアルテミスではMSに乗ったんだってね。」
ショウセイは和やかな話題からそれとなく本題へと話を変えていった。
「はい…。でも、まだ交戦してはいないので…。」
「慌てる必要はない。ゆっくりとで、いいよ。」
「しかし…。」
「いいの、いいの。その時できることをする。ゆっくり休むのも仕事よ。MSに乗るのは今はディアス隊長たちに任せて、てね。」
看護師のモニカ・シーコールがにこやかに言った。
「そうそう、まったく普段は仕事してないんだからここでさせないと。」
「といいつつあなたもでしょ、オリガ?」
「そんなことないわよ、姉さん。」
そこへ医療物資を運んできたオリガ・クラーセンと姉でベルトランの秘書官のタチアナ・クラーセンが入って来た。
「スアレム先生、これ、こっちに置いておきますね。」
「ああ、ありがとう。これで全部かい?」
ショウセイはタチアナに尋ねる。
「はい、そうですね。もし、足りなくなった言ってくださいね。」
「では、私も自分のやれることをしてきます。タチアナ大尉、シミュレーターも持ってきているんですよね?」
ルキナは立ち上がりタチアナに聞いた。
「ええ、今、ジャン曹長が調整していると思うけど…。」
「そうですか、では行ってきます。」
そう言い、テントから出て行った。
「ルキナ。」
出てきたルキナは声をかけられた方に目を向ける。そこには、理知的な雰囲気をまとった士官がいた。
「久しぶり、アレウス。」
「久しぶりだな。これからどこへ?」
「シミュレーターの方へ…。」
「そうか…。」
2人はシミュレーターが設置されているトレーラのところに向かうと、その前でジャン・ヤーノシュとエドガー・ズィーテクが言い争っていた。
近くで、ラドリー・タルボットとパーシバル・フォルカーはやれやれといった顔でそのやりとりを見ていた。
「いったい、どうしたんですか?」
「ああ、なんか射撃精度についてと機体性能についてとか…。」
ラドリーは一体どれくらい時間がたったであろう2人のやりとりの方へ目を向けた。
「だから、もう少し火力上げないと、無理だって!」
「だが、それしたら機動力が下がるだろう!?」
「それはわかっているけど…。」
こちらの方まで聞こえてくるやりとりにラドリーとパーシバルは辟易していた。
アンヴァルの部隊の中では(アウグストを除く)最年長で、職人気質の頑固なところがある整備士長のジャンと砲術のエキスパートでその時は冷静ではあるが、熱くなりやすいエドガーの言い争いは止める術がない。
「シミュレーターのシステムからOSに反映させるから、わかるんだが、早くこっちも作業を終えたいんだけどね、もう夕方になるし…。」
ラドリーは空を見上げた。もう空はどこまでも広がる青々とした色から、オレンジに変わり始めていた。
「炊事班にも怒られてしまうし、なにより、セロの餌をあげなければ…。」
今後は視線を下の方へ向けた。
そこには子犬のセロがいた。
彼も2人のやりとりに飽きたのかあくびをしていたが、ルキナたちが来たのを見ると近づいてきた。
「…セロも連れてきたんだ。」
「いや…、今回人が結構出払うから、基地で留守番させるわけにもいかないしね…。あっちはまだ終わらなそうだな。…悪いけど、2人とも手伝ってくれる?」
2人の言い争いに構っていたら、作業が終わらない。ラドリーはルキナとアレウスに申し訳ない顔で彼らに協力を仰いだ。
「いいですよ。」
「すまないね、ルキナはようやく落ち着けたばかりなのに…。」
「いえ、タルボット大尉の頼みですし…。」
2人のことはほっといて作業を始めた。
「しかし、なんか大所帯になったな~。」
「うん…。というか、なんでアバンついてくるの?」
ヒロはルキナにお礼を言うため、アンヴァルの部隊がいるところまで向かっていた。が、なぜかアバンもついてきていた。
「だって、ヒロが一目ぼれしたっていうそのルキナって子に会ってみたいじゃん!」
「ア、アバン!」
ヒロは思わぬ言葉に動揺した。
「照れるな、照れるなって。フォルテから聞いたんだ。『あいつ、俺がMSを何機も相手にして大変な時に夢中になっていた。』って。」
『なるほど。ほぼ事実だな。』
ジーニアスも乗っかってきた。
「そ、そんな、僕は…。」
「まあまあ、落ち着け。大丈夫だ。さあ、行こう。」
「ちょっと、アバン!待って!」
アバンに押される形で、アンヴァルが駐留している野営地についた。
「さて、どこにいるか…。」
岩陰より探し始める。
「なんで、こんな形に…。」
ヒロは溜息を付いた。
これではまるで…。
『おっ、いたぞ!あそこのトレーラのところだ!』
「えっ、どこ?」
ジーニアスが先にみつけたのか、ビープ音を鳴らす。
それを聞いて、アバンはジーニアスが指し示した場所に目を向ける。
『ほら…。なんか、士官と何か楽しそうに談笑している…。』
「ホントだ。」
彼らのやりとりを聞いてヒロもそちらに目を向ける。
その視線の先には、ルキナが物資の搬入の手伝いをしながら青年士官と談笑していた。
「ほらっ、ヒロ。行けっ!」
アバンが促そうとした。
「…いいよ。なんか忙しそうだし…。今は、僕たちもやることあるし…。行こう。」
しかし、ヒロは行かず、その場を後にした。
「…え、いいのか?お礼は早めにしろって教わらなかったか~。って、おーい、ヒロ!」
アバンは驚き、ヒロを止めようとするが、ヒロは構わす、戻っていった。
夜、すでにあたりは暗くなった。この時期の砂漠は一桁の温度となり寒い。
レジスタンスとて、軍人とて、四六時中戦いに臨んではいない。
今は、みな体を休めたり、仲間たちと談笑したりしていた。
もちろんアークエンジェルのクルーたちもである。
ただ、こういう場は慣れていないのか、みな重い表情だった。
そんな中でも1人、休まずにいた者がいた。
キラであった。
彼は1人、コクピットの中でOSの調整をしていた。
どうやらデータを取った形跡はなかった。
マードックがその様子をみて、半ばからかいにきたが、キラには関係なかった。
やるしかない。もう同胞を手にかけることにためらいはない。そうでなければ誰がこのアークエンジェルを、みんなを守るんだ。
そんな思いであった。
カガリはキラがアークエンジェルにいるとは知らず彼を探していた。
考えてみたら、実はまだ彼の名前を知らなかった。
さっき彼に会ったのは、そのことも含め、あの時分かれ心配だったが、なぜMSに乗っていたのか、聞きたいことがいろいろあったからだ。しかし、MSに乗っていたことを問いただすと、彼の言葉にこれ以上聞けず、結局名前も聞けなかった。
そこにシグルドと会った。
「あっ、シグルド!あのさ、地球軍のMSパイロット見かけなかったか?」
アークエンジェルの護衛でヴァイスウルフの仲間も乗っていると聞いていた。なら、シグルドならわかるのではと思い、尋ねた。
「…キラ・ヤマトのことか?彼なら、たぶんアークエンジェルにいるのではないか?」
「そうか…。あいつキラって言うのか。」
シグルドを通してであるがやっと名前を知れた。
「…名前、知らなかったのか?」
シグルドは呆れながらカガリに言った。
「えっ、ああ。その、だな…。ほら、いろいろあってだな…。」
ごまかそうとカガリは顔をそむけた。
「…カガリ、気を付けろ。正体がバレるぞ。」
シグルドが嘆息し、カガリに注意を促した。
「大丈夫だ!…たぶん。というか、ありがとう。アークエンジェルへ行くよ。」
これ以上、分が悪いと思ったのか、カガリはそそくさと行ってしまった。
その姿をやれやれといった感じでシグルドは見送った。
「まったく、世話のやける…。」
と言いつつ、カガリの正体がばれないか、心配している自分も自分だ、と思った。
シグルドは振り返り、広場の方へ向かった。
その途中、ヒロが薪に座っているのが、目に入った。一人でなにか考え事をしているようであった。
「どうした?他のみんなのところに行かないのか?」
「シグルド…。」
シグルドはヒロの隣に座った。
「…初めての任務で、こんなに大変なことになったが、ここまでよく頑張ったな。」
「…そんなことないよ。結局、守り切れなかった。」
どうやら、そのことについてヒロは一人考えていたようだ。
ここに来るまで、何とか守りたいと戦ってはいた。確かに、今、アークエンジェルは無事ではいるが、その間に多くの人の命が失われた。
そして、自分も。
「僕は、全然ダメだよ。人を…撃つことも躊躇ってばかりで、撃っても、ずっとそればかりが頭によぎって…。迷惑かけてばかりだ。」
人を撃つことに覚悟がなかった。
この仕事をしていたらいつかはその時はくるとは思っていたが、できればそんなことはしたくなかった。
しかし、現実は厳しく、人を撃たなければいけないという選択に迫られることもあった。
シグルドはしばらくだまって聞いた後、口を開いた。
「人を殺すことにためらいのない人間なんていないし、人を殺したいからという理由で殺す人間はほとんどいない。…戦場は、お互いが生きるために戦う、生と生がぶつかり合う場所だ。みな生き残るという思いで、引き金を引く。人を撃つという手段をもって…だ。ヒロ…、人を殺すというのは、あくまで手段だ。手段だから、もし他に方法があればそれを行えばいい。手立ては必ずしも1つではないからな。」
しばらく2人の間に沈黙が流れた。
「けど…、ぼくにはそんなことができるほど力を持ってないし強くはないよ…。」
自分はシグルドやフォルテのように操縦がうまいわけではない。
「強いっていうのと、力があるというのは、違う。それに…できるか、できないかは強さとか、力とかだけではない。…お前自身に意志があるか、だ。」
シグルドのこの言葉の意味をこの時、ヒロはまだわからなかった。
「けど、なんで私を通すの?直接頼めばいいじゃない。」
ルキナは呆れながら言う。
「いや~、だって、あの機体は機密だからね。ちょっと聞きづらいというか…。でも、やっぱりデ実物を見るのとデータで見るのとは違うよ~。」
それにススムは笑いながら答える。
しかしもう彼の頭はMSのことでいっぱいであった。
昼間あんなに見たのに、もう1度見たくなったらしい。
しかし、直接キラに頼む勇気もなく、こうしてルキナとギースに介してもらおうとアークエンジェルまで来ている。
「けど、フォルカー少尉まで来ることなかったのに。」
ギースが横を見やる。
「そんなこと言われても困る。俺だってなんでここに一緒にいるのか…。ん?」
パーシバルは半ば無理やりの形でついてくることになってしまった。彼は不機嫌そうに答えながら、正面にだれか岩塊よりのぞき見をしている金髪の少女を見かけた。
カガリはシグルドの言葉を受けアークエンジェルの近くまできた。
しかし、さっきの会話…。
まったく、キサカといいシグルドといい、人を子ども扱いして…。
自分の正体を明かすつもりなど毛頭ない。というか、できるわけがない。
それぐらい自分でもわかっている。
…ただ、気になっていた。
あの機体もこの戦艦も関係のないことではない。
だからこそ、という思いがあった。
「ちょっと待ってよ、フレイ!そんなんじゃわからないよ、ちゃんと話を…。」
「うるさいわね!話ならもうしたでしょ!?」
その時、ハッチの近くでなにか男女のやり取りが聞こえた。
カガリは思わず岩の物陰に隠れた。
サイとフレイがなにか言い争いをしていた。
「えーと、カガリさん…だっけ?どうしたの?」
いきなり声をかけられ、カガリはびっくりし振り向いた。
そこに、数人いたのであった。
「えっ、いや…しー。」
なんと答えていいか言葉を探っていたが、先ほどのぞき見していたところより声が聞こえたので、ふたたび目をやる。
ルキナたちもその場所をのぞき込む。
アークエンジェルのハッチからキラが出てきて、フレイはキラの下に駆け寄り、腕にしがみつき背後に隠れた。
3人の間に気まずい空気が流れる。
「…なに?」
先に切り出したのはキラだった。サイに向け尋ねる。
「…フレイに話があるんだ。キラには関係ないよ。」
「関係なくないわよ!だって、私、昨夜はキラの部屋に居たんだから!」
フレイが背後でサイに叫ぶ。
その言葉にサイは衝撃を受ける。
隠れて聞いていたカガリたちもその言葉に顔を赤くした。
盗み聞きするつもりはなかったのだが、そのまま3人のやり取りを全員聞き続けてしまった。
生真面目なパーシバルもこれ以上の盗み聞きは良くないと窘めつつも、自らも聞き入っていた。
キラはフレイの言葉を聞き、愕然としているサイの様子に耐えられなくなり、目をそらす。
「キ…ラ?ど、どういうことだよ…フレイ、きみ…。」
サイはなんとか言葉を続けようとするが声が震える。
「どうだっていいでしょ!サイには関係ない!」
フレイはなお叫び、キラの背後にうずくまる。
それまでだまっていたキラが口を開いた。
「もうよせよ、サイ。」
「…キラ?」
サイは驚き、キラの方に目を向けた。
「どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけるようにしか見えないよ。」
「…なんだと?」
「昨夜の戦闘で疲れてるんだ。やめてくんない。」
そう言い、キラはフレイの肩によせ、アークエンジェル内へと戻ろうとした。
その姿を見たサイは、それまでのキッと顔をしかめ、キラの背後につかみかかろうとした。
だが、その手をキラによって一瞬にして逆手にひねりあげられてしまった。
「やめてよね。本気でケンカしたら、サイがぼくにかなうはずないだろ。」
キラは冷たくサイに言い放ち、彼を突き放した。
サイは地面にしりもちをつく。
「…キラ。」
サイはキラに驚愕の目を向けた。
これまで、キラはこのように力でねじ伏せたり、暴言を吐くことなどしてこなかった。
それが信じられなかった。
「…フレイはやさしかったんだ。」
キラは振り返り彼に背を向けて言った。
「ずっと、ついててくれて…、抱きしめてくれて…、ぼくを守るって…。ぼくがどんな思いでたたかってきたか、誰も気にもしないくせにっ!」
キラは目に涙を溜め叫んだ。
これまでずっとみんなを守るために、戦ってきたか。同胞に手をかけてきたか、それまでその同胞に手をかけられなかった結果、守れなかった命。
それをブリッジからしか見ていない人間に何がわかるんだ。
誰もわかってくれない。フレイだけが自分の気持ちを理解してくれている。
どこか、自己憐憫の主張であったが、サイは彼の叫びに返す言葉がなかった。
そんなキラをフレイは抱きしめた。
これまでのやりとりを盗み聞きしていたカガリたちもそのまま俯く。
その時、その沈黙を破るようにするどい笛の音がこの谷底に響き渡った。
どうやらレジスタンスにとってこれは警報の意味であった。
サイーブが急いで見張り台の方へ向かった。
「どうした!?」
見張りにいた少年が叫んだ。
「空が…空が燃えているっ!タッシルの方向だ!」
その言葉にみな、はっと息を飲んだ。
今回、多くの人物が出てきましたが、追々キャラクター紹介に載せます。
オマケ(続けられたら…いいな~)
アバン「どうも~!アバン・ウェドリィです!」
ヒロ 「いきなりなに!?そもそもこれはなんなの?」
アバン「いや~、ガンダムってさぁ、けっこう暗い部分とか、つらい話とかあるじゃん?」
ヒロ 「まあ、確かに…。」
アバン「だから、せめてここだけでも明るくやっていこうというわけさ。」
アバン「そういうわけで今回初試みしたというわけさ。」
ヒロ 「なんか、すこし悪ノリしている感が…。」
アバン「だって、後書きの文字制限が2万字なんだぜ。使わなくちゃ、もったいなくね?」
ヒロ 「そんなところでもったいない精神出さなくても…。」
アバン「ちなみに、あまりにダメだったら、打ち切りなるかもしれない。」
ヒロ 「すでに、打ち切り前提でモノを言っているよ。」
アバン「てなわけ、余力があればここで、本文では語ってない豆知識等をやっていきます!よろしくぅ!」
ヒロ 「えっ、もう終わり!?」
アバン「だって、イントロダクションだもん。」
ヒロ 「本当に大丈夫かな…。」