機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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おまたせしました。
しばらくは投稿がスローペースになるかもしれません。


PHASE‐16 胸に秘めしもの

 

 

 「ここにいたのですか。」

 アスランがパイロット控室で1人物思いにふけっていると、そこにニコルが入ってきた。

 「イザークとディアッカは無事に地球に降りたようです。ただ…エーアスト隊長は見つかってないそうです。」

 「そうか…。」

 アスランは相槌をうつが、どこか上の空であった。

 「帰投は未定ですって。しばらくはジブラルタル基地にとどまることになるようです。エーアスト隊長も、地上から捜索隊が出るそうです。」

 ニコルが仲間の無事の安堵と心配を話す姿をみて、アスランは少し後ろめたい気持ちになった。

 もちろん、イザークやディアッカが無事なのはうれしい。それにエーアスト隊長も、ラクスはが消息を絶った時も、ともに捜索に参加してくれた。

 が、アスランの頭の中にあったのは、同じく地球に降下した、自分たちが取り逃がした目標、そこにいる友、キラのことであった。

 ‐次に戦うときは、俺がお前を撃つ!‐

 もう、彼を連れて行くことはできない、それが分かった時に自分が放った言葉ではあるが、今もまだこうして心配している。

 この戦闘では、直接対峙することはなかったが…、本当に自分に撃てるのだろうか。

 そんな思いがアスランにあった。

 

 

 

 「え?キラ、気が付いたの?」

 「うん、ちょっと前にね。」

 ミリアリアが声を弾ませる。答えるサイもトールも安堵した顔であった。

 降下後、アークエンジェルに収容された2人はコクピット内の高温もあってか、意識を失っていて、高熱を出していた。

 地球降下前に乗って来た軍医は楽観的に見ているが、コーディネイターを診たことのあるオーティスもいてくれたのだが、やはりみんな心配であった。

 「うん。ヒロもまだ目は覚まさないけど、だいぶ容体は安定したって。キラの方はもう大丈夫らしいってことで、自分の部屋に戻ってる。食事はフレイが持ってったけど…、あ、戻って来た。」

 サイは食堂の入り口にフレイの姿を確認した。

 ミリアリアがフレイに声をかける。

 「どう、キラの様子は?」

 「もうほんとに大丈夫みたい…。食事もとったし…、昨夜の状態が嘘みたいよ。先生には、今日は寝てろって言われたけど、…やっぱり違うのね、私たちとは、体のできが…。」

 一瞬、冷たい空気が流れたが、それを打ち消すようにミリアリアが明るい声を出した。

 「そっか…よかった、これでひと安心ね。」

 「フレイも疲れたろ?昨夜はずっとキラについていたもんな。少し休んだ方が…。」

 サイはフレイを気遣ったが、フレイはそっけなく答える。

 「私は大丈夫よ。食事もキラといっしょにしたし…、まだみんなみたいに艦の仕事があるわけでもないんだから。キラには早くよくなってもらわなくちゃ。」

 フレイはカップにドリンクを注ぎ、そのまま出て行こうとした。

 「フレイ…でもさ。」

 サイが止めようとフレイに近づいたが、意外な態度がかえってきた。

 「何よ!?」

 「いや、なにって…。」

 いつもとは違うフレイの態度にサイは戸惑った。

 「サイ…。あなたとのことは、パパが決めたことよ。そのパパも…もういないわ。まだお話だけだったし、いろいろ状況も変わったんだから、何も昔の約束に縛られることはないと思うの…。」

 そのまま、フレイは食堂を出ていった。

 一連のやり取りに一同は唖然としていた。サイは特に信じられないような呆然としていた。

 今までずっとフレイはサイとともにいて、仲睦まじかった。そしてなによりフレイがキラのことをずっと看病しているということもある。

 先日の保護したコーディネイターの時に、フレイはコーディネイターに対し嫌悪感を現した。キラに対しても、面と向かって嫌悪を示さなかったが、一定の距離は置いていた。

 それなのに、今の彼女はキラをかいがいしく看病している。

 彼らの中に不穏な空気が流れ始めた。

 

 

 だめよ…。

 自分が放った言葉にサイがショックを受けていることに苦しい思いをしながらフレイはかぶりを振った。

 フレイはキラの部屋に向かいながら、今までのことを思い返した。

 父親が乗っていた艦が撃沈された瞬間。

 キラが敵のパイロットと友人関係と知ったとき。

 私は賭けに勝ったのよ。

 しかし、フレイが志願することで、婚約者である優しいサイが自分をほっとくはずがない。残るという。そして、みんなのことだからきっと同調する。それを知ったキラが自分だけ降りるというわけにもいかなくなる。

 そう、フレイが軍に志願したのは、キラを戦いに引きずり込むためであった。

 それは、まさしく博打だった。

キラには戦って、戦って、戦って死ぬの。

 そこには、フレイの大きなそして黒い思惑があった。

 

 

 「少し、休んだ方がいいんじゃないか?」

 オーティスに声をかけられ、ルキナは思わずはっとしった。

 うたた寝をしてしまったというわけではないがどこかぼっとしていたらしい。

 「大丈夫です…。」

 ルキナは答える。

 『本当に大丈夫か?私が代わりに看ているぞ。』

 そばに置かれているジーニアスも心配し、気遣ってくれた。

 「ヒロも、もう熱は下がったんだ。今度は看ていた君が倒れてしまったら意味ないだろう。」

 オーティスはルキナにドリンクを渡し、少し苦笑いしながら、椅子に座った。

 「そうですが…。」

 「…私が言うのもなんだが、手伝ってくれて感謝するよ。医学の知識もあって、本当に助かったよ。」

 オーティスは持ってきたコーヒーを口に入れた。

 「…軍に入るまでは、医学生だったので…。」

 ルキナはどこか暗い表情で話す。

 「…そうか。」

 オーティスは頷くだけでそう言いまたコーヒーを口に含ませた。

 「…コーディネイター、嫌いなのかね?」

 「…どうして、ですか?」

 突然の質問にルキナは戸惑った。

 「いや、何となく…かな。すまない。言い方が悪かったかね。」

 『一体なにを言いたいんだ?』

 「…コーディネイター自身は嫌いではないです。ただ…、ただ、考え方が嫌いなのかもしれません。プラントの能力重視主義って聞こえのいいように見えるけど、あれは自分たちが優れた種であるからこそっていうのが根にあるというか…。」

 「…けど、私もすこし偏見があったのかも。彼がコーディネイターで傭兵だ

ってわかった時、ただ自分の能力に自惚れているんじゃないかって。でも…。」

 違っていた。

 自分の力を誇示したいとか、ではなく、ただ純粋に、一生懸命に守りたいという気持ちで戦っていた。

 -僕は…守りたいだけなのに…。-

 高熱にうなされながらつぶやいたヒロの言葉が思い出された。

 オーティスは何も言わず、ただ彼女は言葉を聞きながらコーヒーを口にした。

 

 

 

 

 ここは…?

 ふと目を開けると見慣れない場所にいた。

 どこかテントなのか。

 人の声が聞こえる。

 あたりは夜なのか、松明の音も聞こえた。

 「いたっ…!」

 ゆっくり起き上がる中、左足に走る強烈な痛みで意識が覚醒した。

 「…目が覚めたか。」

 ゆっくりと近づいてくる人影がいた。

 「…ダグラス。」

 だが、彼はどこか暗い表情だった。

 目覚めたばかりのヒロはまだ状況を掴めてなく、今までなにがあったのかを思い出そうとしていた。

 ようやく、ハッとし、あわててダグラスに尋ねた。

 「みんなは!?村が襲われて…。」

 「ヒロ…。」

 ダグラスはどこか沈痛な面持ちで話しかけるが、ヒロはそれに気づかず、話す。

 「…そうだ、セシルは?あの後…。」

 起き上がろうとしたが、左足の激しい痛みによって、倒れた。

 その時、ダグラスがやって来た方に目線がいき、ヒロは驚愕した。

 「ヒロ!」

 ダグラスはヒロを起こそうとしたが、ヒロが見たものに気付き、いたたまれない気持ちになった。

 「…そんな。」

 ダグラスに肩を支えながら、のろのろとテントを出る。

 いつも見慣れた村は、別の様相を呈していた。家があった場所は、崩れ、ところどころまだ火が残っており、煙が暗い夜空に吸い込まれるように立ちのぼる。

 周りにある木々も焦げているのもあった。

 そして、目の前に並べ置かれている袋があった。

 「ヒロ…。」

 ヒロはダグラスの制止も聞かずそれらの近くまでいく。

 袋の大きさはちょうど人間サイズであった。そして、袋の口周辺などところどころ人の血が黒ずんだ赤い色のものがついていた。

 誰だかわかるためそばには名前がある。

 それをたどっていき、その名前をみたとき、そこで膝をついた。

 セシル・グライナー

 「…そんな。」

 …母さん。

 ヒロは震える手を袋の口まで伸ばす。

 が、そこで止まる。

 開けることはできなかった。

 そうだ、これは悪い夢だ。

 だから、起きたらきっと、こんな夢を見たと話したら、笑い飛ばすだろう。

 いや…違う。

 心の奥底ではそんな甘い期待を押しのける。

 みんなは死んだんだ、と。

 自分だけが生き残ってしまったんだ、と。

 「…なんで、僕だけ…。」

 何で…?

 ‐おまえたちのせいで、一体何人の仲間が殺されたか!‐

 ‐消えろ、の化け物め!‐

 みんなが…なにをしたんだ。

 ここで、暮らしていただけなのに…。

 

 ヒロは答えがでない問いをずっと自問し続けた。

 ‐俺たちは依頼人の思いを命をかけて守る。それが…ヴァイスウルフの戦い方だ‐

 ‐憎しみで銃を撃つこと。それがどんなに悲しいことか…、恐ろしいことか…。僕は悲しいことが嫌いなんだ‐

今までの出来事がまるで走馬灯のように流れた。

 戦艦が爆散していく光景。

 MAやMSが散っていく光景。

 その中でいつも目にするのは、人の死だ。

 何故だろう…。

 こんなにも簡単に命が失われるのか?

 いいわけがない…。

 なのに、僕は…。

 ‐良い時代が来るまで、死ぬなよ‐

 ハルバートンが最後に言った言葉がよぎった。

 

 

 

 

 ヒロはゆっくりと目を開けた。

 今度は見たことのある天井だった。

 あれから僕は…。

 ヒロはゆっくり起き上がった。

 『起きたか?』

 近くに置かれていたジーニアスが呼びかける。

 「ここは?」

 見たところ、アークエンジェルではあるが…。

 ふと視線の先にルキナがうっぷつして眠っているのが見えた。

 ヒロはわけが分からない状態だった。

 「ずっと看病してたんだよ。」

 扉が開き、オーティスが入って来た。もってきた毛布を、寝息をたてているルキナにかける。

 「大気圏突入して、高熱で気を失ったんだよ、君たちは。」

 「君たち?」

 「キラも…さ。ヒロより前に目が覚めて、今は自室にいるよ。」

 「そう。ここは…アラスカ?」

 『よく見ろ、ここがアラスカだと思うか?』

 ジーニアスが回線を繋いでモニターに外の様子を出させた。

 あたりは砂漠であった。

 ちょうど、日が沈みかけており、夕日のオレンジと影のコントラストで彩られていた。

 「…きれいだ。」

 その景色に思わずヒロは感嘆とした。

 『反応するの、そこか!?』

 ジーニアスが突っ込む。

 「ははは、砂漠での日の出と日の入りはとても幻想的なものだからな。そう思うのも無理はない。ちなみに、ここはサハラ砂漠だ。降下地点がずれたからね。」

 その話を聞き、ヒロはだんだんと大気圏での記憶がよみがえって来た。

 「シャワー浴びてきたら、どうかね?汗もかいたんだし…。」

 オーティスにすすめられ、ベッドから起きたはいいが、ルキナをどうしたらいいか困った。起こすのも悪いし、かといって、今寝ていたのは…。

 そこへオーティスは助け舟を出した。

 「こっちの方が空いている。新しいシーツに替えている。」

 

 

 「図面でしかみたことないからわからないが、間違いないだろう。あれは、ヘリオポリスでつくられた地球軍新型の強襲起動特装艦アークエンジェルだ。」

 スコープを手にその戦艦を目にした金髪の少女は、後ろを振り返り仲間たちに言った。

 彼らは、明らかに正規の軍事というには程遠い雰囲気のものたちだった。

 それらのやりとりを聞いていた彼らとも違う数人がいた。

 「じゃあ、あれにヒロやフォルテも乗っているのか?」

 そのうちの1人、少女と年齢が近い赤い髪の少年が、彼らにとってリーダーにあたる20代後半の男に聞いた。

 「そうなるな…。」

 そう言い、彼もその戦艦の方に目を向けた。

 その時、その一団のバギーから着信が鳴った。

 「どうした?」

 (虎がレセップスを出た。バクゥ5機を連れ、その艦へ向かっているぞ!)

 その通信を聞き、金髪の少女は真っ直ぐの瞳を、ふたたびアークエンジェルへと向けた。

 

 

 シャワーを浴びながら、ヒロは自分の右手の手のひらを見つめた。

 あの時…、

 自分は引き金を引いた。

 …人を殺した。この手で。

 右手をぎゅっとする。

 僕は…何をしたいんだ。

 ウェイン…、僕は…。

 なぜウェインはこの道を選んだんだろう…。

 なぜ、その道を進めたのか。

 僕は別に彼に憎しみなんてなかった。

 …とは言い切れない。

 あの時、多くの命が失って、それでも戦っていて…。

 それが許せないからと、撃った。

 あのパイロットのせいではないのに…。

 守りたい、そんな思いで戦っていても、これでは、自分もあの時の彼らと同じではないか。

 同じように悲しみを広げているだけではないか。

 自分でも分からなくなってきた。

 

 




頭では考えられても文字におこすのは大変なんだ、と本当にしみじみ思います。

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