しかし、この展開になったのは、自分でも驚きだ~。
数十にのぼる駆逐艦、戦艦に取り囲まれ、アークエンジェルはゆっくりとその旗艦メネラオスの横に近づけていった。
その様子をモニターより見ていた避難民たちは、その艦隊の威容に圧倒され感嘆し、また安堵の表情を浮かべたのであった。
地球連合軍第八艦隊、智将ハルバートンが率いる艦隊にとうとう合流できたのであった。
メネラオスのブリッジより白亜の戦艦を見て、ハルバートンは感慨にふけった。
ヘリオポリスの件を聞いたときは、本当にこの計画がすべて水に帰したと思ったが、今こうして目の前にある。
これらのために関わってくれた者たちに報いることができる、そう思った。
「改めて…このように見ると素晴らしいものです、閣下。」
ハルバートンの隣に、副官のホフマンとは別の若い男性が立っていた。
「君も来るかね、ウォーデン中佐?」
ハルバートンはアスベルに尋ねた。
アスベル・ウォーデン。
元はMAのパイロットその後、ハルバートンの副官を務めていたが、現在MS運用のためのパイロット訓練および実用戦術のため集まった士官たちのまとめ役としてカリフォルニア基地に所属している。異動の際、少佐から中佐へとなっている。
「…では、少しだけ。アークエンジェルより戦闘データを受け取りすぐにパナマ、そしてカリフォルニアに行かなければなりませんので…。」
「…そうか。まったく、君が動かなければ、進まないとは、大変なもんだな。」
「いえ…。閣下のおかげでこれでもやりやすい方です。」
「そうか?私としては君に戻ってきてほしいくらいだよ。」
「…そのようなこと。ヴァイスウルフの代理人も行かれるのですよね?」
「ああ、彼らには本当に礼を言わなければな。」
G兵器のうち4機が奪われたとはいえ、2機残り、それを今まで守ってくれた。
しかも…話では、その傭兵部隊にあの子がいるとは…。
かつての同期が、死の前日、久しぶりに送ってくれた最初で最後の手紙。
そしてガウェインから聞いた話。
「…早く行きたいものだな。」
ハルバートンは白亜の戦艦を見ながら、今か今かと待ち焦がれた。
アークエンジェルの格納庫ではせっかく第八艦隊に合流したというのに慌ただしかった。
「艦隊と合流したってのに、なんでこんなに急がなきゃならなうのです?」
メビウス・ゼロのハッチから首を出しキラはムウに不満を漏らした。
ムウは無重力空間でうたた寝をしていたが、突然のキラからの問いにあわてて飛び起き、憮然として答えた。
「不安なんだよ、壊れたままじゃ!」
先の戦闘で被弾したところを急ピッチで修理が行われ、キラも駆り出されてしまった。
マードックが笑いながら言った。
「第八艦隊つったって、パイロットどもはひよっこ揃いさ!なんかあったときにゃ、やっぱ大尉がでられないとな。」
近くにいたフォルテも頷いた。
「まあ、たしかにメビウス・ゼロを扱えるのはフラガ大尉だけだしな…。」
その時、クリーガーの調整を終えたヒロがこちらに来た。
「フォルテ、クリーガーなんだけど…OSはどうする?」
今まで、人員・戦力不足から使わしてもらっていた機体である。
第八艦隊と合流した今、彼らに返却することになるのだが…。
それに続いて、キラもムウに尋ねた。
「ストライクも…、あのままでいいのですか?」
「わかっちゃいるんだけどさ…。わざわざ元に戻してスペック下げるってのも、なんかこう…。」
ムウは困った顔をした。
2機ともナチュラルには扱えないOSである。しかし、それを初期化するのは、今までの2機の活躍を考えると、今の性能のままでいたかった。
「できれば、あのままで誰か使えないか、なんて思っちゃいますよね。」
全員驚いて声をした方へ顔を向けた。マリューがこちらの方へやって来る。
「艦長?」
「あらら、こんなむさ苦しいとこへ。」
マリューは軽くうなずいた後、キラの顔を見た。
「キラ君、ちょっと話せる?」
どうやら、マリューはキラに用があってここに来たようだ。
キラとマリューが話をするため上のキャットウォークへ行った。
その間にもメビウス・ゼロの修理は行われている。
ムウはふと考え、ヒロに尋ねた。
「…なあ、機会があったら、これに乗ってみないか?」
「え?」
ヒロは思わず驚いた。
ムウが指さしているのはメビウス・ゼロである。
「いや…なに、こないだの戦闘でヤツのこのガンバレルに似たヤツ、かわせただろ?もしかして…適正あるんじゃないかな~と思って。」
ムウは興味本位で薦めた。
このメビウス・ゼロに装備されているガンバレルは、普通のパイロットでは扱えない。高度な空間認識能力が求められる。
「うーん…。自分でもよくわからないですよ。その空間認識能力ってどうわかるんですか?」
ヒロにはいまいち、自覚がなかった。
「さあ、俺にもじつはよくわからないんだよね。」
ムウの答えに思わずヒロはガクっとした。
「うーんでも、直感みたいなのもあるんだろ?なんか俺もよくわからないけど、俺の家系もなんかそういのがあるらしいし…、もしかして俺の親戚だったりして?どう?」
ムウは冗談めかして聞いた。
「知りませんよ…。僕、本当の親の顔なんて知らないんですし…。」
少し冷たい空気が流れた。
「大尉ぃ、さすがにそれはまずいんじゃないですか、いくら何でもまだ10代ですぜ?」
「そうそう。微妙な年頃なんだから。」
「冗談でも言っていいことと悪いこともありますぜぇ~。」
マードックとフォルテがヒロに聞こえないようにぼそぼそとムウに言った。
さすがにムウもまずいと思ったのか、
「あー、わりぃ。そういうつもりで言ったわけじゃなくてな…。」
必死に言いつくろった。
「あらあら、大尉、何いじめてるんですか?」
キラとの話を終え、戻って来たマリューはムウを茶化した。
「いや…そんなんじゃないって。」
ムウは一生懸命言い訳をしていた。
「いや~、ヘリオポリス崩壊のしらせを受けたときは、もうだめかと思ったよ!それがまさかここで諸君と会えるとは…。」
ハルバートンはマリューたちの姿を確認しランチから降りてきた。
マリューをはじめクルーたちが一斉に敬礼をした。
「ありがとうございます、閣下。お久しぶりです。」
マリューも嬉しそうに挨拶する。
「ナタル・バジルールであります。」
「第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガであります。」
ハルバートンは士官たちとの挨拶をしていった。
そして、一通り終えるとキラたちの方に目を向けた。
「…彼らが、そうかね?」
「はい、操艦を手伝ってくれたヘリオポリスの学生たちです。」
「君たちのご家族の消息も確認してきたぞ。みなさん、ご無事だ。」
それを聞いて彼らはパッと明るくなった。
「とんでもない状況の中、よく頑張ってくれた。私からも礼を言う。あとでゆっくり話をしたいものだな。」
「それと…。」
ハルバートンはルキナとギースの方に目を向けた、そちらの方へ行った。
周りも少し固くなった。
「閣下…その…。」
そう…忘れたはいないわけではなかったが、この件もあったのであった。
確かに ユーラシアの軍人が大西洋連邦の機密のデータを不法に得ようとしたのである。本来なら外交問題になる大事である。
しかし、アルテミスで彼らが助けてくれなければ、もっと大事になっているはずだ。 それに、正体を明かした後、彼らはデータを盗み出そうというそぶりもなかった。
マリューはそのことも含め、ハルバートンに話そうとした。
が、それは杞憂だった。
「君たちのことは、伺っている…。お互い、いろいろあるようだが…。まずは、この艦を助けてくれたことを心から礼を言う。」
その言葉には偽りもないまぎれもないお礼の言葉だった。
どうやら、お互いに水面下で話をつけたらしい。
「ルキナ・セルヴィウスです。」
「ギース・バットゥータであります。」
その言葉を聞き、2人は改めて敬礼し、ハルバートンに挨拶した。
ハルバートンも敬礼を返す
「閣下、それと…。」
「ああ、わかっている。ヴァイスウルフの君たちにも礼を言わなければな。」
「いえいえ、結局、4機は奪取されましたし、任務を全うしたとは…。」
フォルテが答える。
「いや…、この艦と2機を守ってくれただけでも、我らにとって大きい。それと君たちに頼みたいこともあるしな…。詳しい話はここに来てくれた代理人から聞いてくれ。」
そうしてハルバートンは士官たちと共にこの場を後にした。
先ほどのやり取りからもわかるとおりの人柄で、マリューたちがこの人のために働いているのも納得した。
そして、もし…話す機会があったら、…できれば聞きたかった。
そう思うのは、今自分が悩んでいるのもあるのかもしれない。
知りたかった。
ハーディのことを。
そこへランチよりもう1人降りてくる人影があった。
「無事でなりよりだ。フォルテ、ヒロ。」
オーティスであった。
第八艦隊より離れた位置にヴァサリウスはいた。
そこで、ガモフ、ツィーグラー、ゼーベックとの合流を果たした。
「やっぱり…ゼーベックに戻ると家に戻ってきた~、って感じですね、隊長!」
「そうだな。」
アビーはゼーベックに着き、ランチから降りるとグッと背伸びした。
同じザフトの艦とはいえ、各々艦の色というものがあり、雰囲気も違う。
彼らにとっては、このゼーベックはまさしく家(ホーム)なのである。
「隊長!」
MSパイロットたちがオデルの帰還に大喜びで出迎えた。
「ちょっと、ちょっと。あたしが戻って来たことには反応なし?」
「いや…そうじゃないんですよ。」
「てか、勝手についていったのに…か?」
ムスっとしているアビーにみんななだめる。
「しかし…、本当に第八艦隊を相手に撃つのですか?」
ジョルジュはオデルに聞いた。
「『足つき』が地球へ降下しそうだからな。その前に仕留めたいんだろう。」
とはいえ、いくらMSがMAより優位性が高いとはいえ、本当に戦艦4隻、MS十数機で、艦隊を相手にするのか。
それは疑問だった。
が、ラウは何としてでも撃とうとするだろう。
オデルは、この後起こるであろう戦闘に思いを馳せた。
「しっかし、スカイグラスパー2機とは…。やはり本気なのですか、艦長?」
マードックはハルバートンとの会談を終えたマリューに聞いた。
「ええ、そうよ。」
アークエンジェルは人員現状のまま、アラスカに降りることになった。
ルキナとギースもハルバートンの計らいでアークエンジェルに組み込まれ、またアラスカまでヴァイスウルフが護衛の任務を受けてくれたが、もともと足りない人員に操艦を手伝ってくれたヘリオポリスの学生たちが抜けるのだ。
とはいえ、この艦とMSは地球軍にとって大事なものである。
「じゃあ、こっちの方はお願いね。」
マリューは、搬入および避難民のメネラオスの移送を任せ、格納庫を後にした。
「ラミアス大尉。」
ブリッジへ向かう途中、声をかけられた。
彼女は振り返り、その姿を確認し、嬉しそうに敬礼した。
「お久しぶりです、ウォーデン中佐。」
彼も敬礼を返す。
「中佐はどうしてここへ?」
「アークエンジェルが得たMSのデータをね。しかもこの後すぐに戻らなければならない。まったく、ゆっくりこの艦を見学できないよ。」
彼は少し残念気味に言った。
「中佐ならいつでもご覧になれますよ。しかし、残念です。もし地球に降りられるなら、中佐に指揮していただいてもよかったのに…。」
「…自信ないのか?」
その問いに、一瞬マリューは表情を曇らせた。
が、それは事実だ。
これまでも自分が艦長に向いてないと思うことが何度もあった。
自分は甘いのではないか。
しかし、それを今まで誰かに打ち明けることは出来なかった。
できるわけがない。艦長なのだから。
艦長がそれではだめなのだと。
ここまでこれたが、その堂々巡りがマリューにはあった。
「大丈夫だ、ラミアス大尉。君が艦長だからここまで来れたのだよ。ラミアス大尉とバジルール少尉。2人の指揮があったからこそだ。…それに君を陰ながらに支えている人もいる。」
そのまま、アスベルは続けた。
「それに自分が指揮しても何も役にも立たないさ。俺はもともとMAのパイロットなんだぞ?…自分がやれることを自分の意志を持って行う。…それが、生き残った者が死んだ者たちに対して、報いなければならないできる限りの事だ。」
アスベルの言葉にマリューは胸を締め付けられた。
そうだ…。
先ほどのハルバートンの言葉もそうだ。
今までザフトのMSに抵抗することもできずに散っていった、多くの兵たち。
それを見て来たからこそ、自分はこの開発に心血を注いだ。
改めて、これをアラスカへ届けなければとマリューは決意した。
たとえ、自分が艦長に向いてなくても。
「…では、地上で先に、待っている。」
そう言い、アスベルは去っていった。
「え~、本当にいいんですか?」
ヒロは戸惑い、クリーガーを見上げた。
オーティスの話によると、このクリーガーをここまでのアークエンジェルとMSの護衛の報酬として譲り受けることになったのである。
本来、地球軍にとって重要なはずの機体である。傭兵の護衛の任務の報酬として渡せるものではない。が、そうなったのには、わけがあった。
『いいんじゃね?もらえるものはもらっちゃえ!』
ジーニアスは軽い感じで促した。
その代わり、アークエンジェルがアラスカに降りるまでの護衛の依頼を受けることになった。
「…キラたちは降りるよね?」
ヒロはフォルテに聞いた。
「さっき、除隊証持っていったから、そうだろ?」
その時、
「君が…ヒロ・グライナー君だね?」
ヒロはキャットウォークより声をかけられた。
「はい…。」
コクピットより顔を出すと、そこにはハルバートンがいた。
ヒロはコクピットからでて彼の下に向かった。
「君の事はザイツやハーディから聞いていてね…。一度会ってみたかったんだ。」
「ハーディが?」
「そう…私が書いた手紙が届いたその日に、運び屋に渡したから…。君の事を書いてあったよ。」
ヒロは驚いた。同時に聞きたかった。
が、なかなか切り出せなかった。
「しかし、本当にすごいものだよ。先ほどキラ・ヤマト君にも話したんだが、君たちが扱うと、とんでもないスーパーウェポンになってしまうなんてな。」
ハルバートンはクリーガーを見上げた。
「本当に…いいのですか?もらってしまって?」
ヒロは尋ねた。
「いいのさ。これはもともと、アークエンジェルではなく別の部隊に送ろうとしたものだしな…。今は解散してしまったが…君が乗ってくれるのがいいと思ってな。」
ヒロはハルバートンの意味がよくわからなかった。
その時、1人の士官がやってきてハルバートンに声をかけた。
「閣下、メネラオスから至急お戻りいただけたいと…。」
「やれやれ…、とのことだ。」
ハルバートンは肩をすくめた。
「また今度機会があったら、ゆっくり話したいものだな。…良い時代が来るまで、死ぬなよ。」
そのまま身を返してハルバートンは去った。
ヒロは結局、何も聞けず彼の背中を見送った。
メネラオスでは敵艦発見の報が知らされた。
「ナスカ級1、ローラシア級3、方位グリーンアルファ距離500、会敵予測15分後です!」
「くそっ!こんなときに!」
ハルバートンは毒づいた。
敵艦の発見の報を聞き、アークエンジェル内でも慌ただしくなった。
敵艦発見はアークエンジェルも捉えらていた。
「搬入作業中止、ベイ閉鎖!メネラオスへのランチは!?」
「まだ出ていません!」
「急がせて!…総員第一戦闘配備!」
(全隔壁閉鎖、各科員は至急持ち場につけ!)
ザフトの方も戦闘準備が着々と行われていった。
格納庫でも発進準備が行われ、つぎつぎにMSが発進する。
「…本当に行うなんて。」
ロベルトはガックシした。こんな低軌道での戦闘なんて初めてだ。
(どうせ、お前は援護射撃だろ!)
バーツより通信が入る。
(そうですけど…。けど、なんで自分なんです?ジョルジュさんの方が腕いいでしょう?俺…射撃苦手なのに…。)
(低軌道での戦闘だからだよ…。それとも…ロベルト、バーツのブレーキ役をやるか?)
地球の重力を考えなければならない。突っ込みすぎてもし重力に引っ張られカプセルもなしに降下すれば、いくらMSといえども灼熱に焼かれてしまう。
(おいおい、ブレーキ役って、いつおまえが俺のブレーキ役になったんだ?)
バーツが不満げにふくれっ面で言った。
(え?私たちがゼーベックに着任した時はすでにジョルジュさん、バーツさんのブレーキ役やってましたよ。)
(シャルロット…。)
シャルロットが茶化した。
(たっく~、シャルロットは…。隊長、どうなんですか?)
バーツはオデルに振った。
「…さあ、どうかな。」
オデルはこのやり取りをほほえましく聞いていた。
(そんな~、隊長…。)
(あなたたち、もうすぐ交戦になるのよ?いいかげん、私語は慎みなさい!)
ブリッジよりエレンから窘められてしまった。
みんなエレンに窘められしゅんとしてしまった。
それらのやり取りをみて、オデルは思わず笑みがこぼれた。
やはり、この隊にいるのは居心地が良かった。
地球軍の戦艦からも次々とMAメビウスが飛び立っていく。
(全艦密集陣形にて迎撃態勢!アークエンジェルは動くな!そのまま本艦につけ!)
通信機よりハルバートンから命令が下される。
アークエンジェルを後方へとやり、それを守る形で戦艦、駆逐艦は固まって陣形をとった。
物量と火力によって敵を迎え撃つのが、従来の地球軍の戦い方であった。
MSの登場はこれまでの兵器を大きく一変した。
MSが登場するまでの主力兵器はMAであった。それは、様々な武装に対応できる汎用性はあったもの従来の宇宙戦闘機の延長にあるものだった。
また、戦艦やコロニーなどを攻撃目標とした運用を想定しており、制宙戦闘やドッグファイトは考慮されていなかったため、複雑な機動ができるなど運動性はそこまでなかった。
が、MSはその人型のため、MA以上の運動性を発揮、また、武装も持ち替えることができ、MA以上のあらゆる局面での対応が可能になった。
そのようなMSに対しての地球軍の対抗策は物量と火力によってのみであった。
が、その戦法は同時に味方を多く犠牲にするものだった。
MSが初めて実戦に投入されたC.E69年、ハルバートンはMSの有用性を見抜き、MS開発を上申した。このときは却下されてしまったが、ようやくC.E70年7月にようやく本格開発が行われるようになった。
それが、G計画である。
しかし、試作機の4機が奪われてしまい、まだ量産化は行われていない。
彼もまた、従来の地球軍の戦い方でしか応戦できなかった。
アークエンジェルのブリッジはみな重苦しい感じだった。
「イーゲルシュテルン起動、後部ミサイル管コリントス装填!ゴットフリート、ローエングリン発射準備!」
ナタルが武装の準備を命じていく。
次々と準備をしていくが、手いっぱいだった。
「くそっ!」
小さくトノムラが毒づいた。
もともと少ない人員、今、ヘリオポリスの学生が抜けさらに足りないのだ。
ルキナとギースは足りなくなったCICに入っている。しかし、それでも手いっぱいだった。
その時、
「すみません、遅れました!」
ドアが開き少年たちの声が響いた。
マリューは驚き振り返った。トール、サイ、ミリアリア、カズィであった。
「あなたたち…!?」
マリューは呆然とした。
「志願兵です。ホフマン大佐が受領し、私が承認いたしました。」
ナタルが短く説明する。
トール、カズィは空いていた、サイとミリアリアはルキナ、ギースと代わり、今までの自分たちの席に着いた。
その様子をはじめは呆然としたクルーたちも、嬉しそうに彼らを受け入れた。
が、彼らの決断が今後の彼らの人生にどのように与えるか、その時は誰も知らなかった。
戦艦より次々とミサイルが飛んでくる。
シグーアサルトは、それらをかわしこちらに向かってくるメビウスを落とす。
1機、ジンが戦艦の砲に当たり散開するのが見えた。
あの機体はヴェサリウスかツィーグラーのジンであろう。
(ったく、数が多い!)
ジンハイマニューバのバーツから通信が聞こえた。
いかにMSがMAに対してアドバンテージを持っていても、この艦の多さでは攻めあぐねていた。
が、奪ったあの4機の機体は違った。
次々にMAはもちろん、戦艦を難なく戦闘不能にし、撃墜していく。
その様子はメネラオスからも確認できた。
「くそ…、Xナンバーか!」
「確かにみごとなMSですな…。だが、敵に回しては厄介なだけだ。」
ハルバートンはうめいた。
それに対し、ホフマンは冷ややかに言った。
が、次第にその様子も変わっていった。
ザフトは手を緩めず、次々と戦艦に迫って来る。
「セレウコス被弾、戦闘不能!カサンドロス沈黙!」
「アンティゴノス、プトレマイオス撃沈!」
「なんだと!?戦闘開始でたった6分で…4隻をか!?」
その報告にホフマンも愕然とした。
これまで、従来の敵MSでもこんな短時間で艦を4隻もやられることはなかった。
MSの後方にいた戦艦が動く。
その動きはメネラオスもキャッチした。
「敵ナスカ級、およびローラシア級接近!」
「セレウコス、カサンドロスにレーザー照射!」
2隻が狙っているのは戦闘能力を失い、離脱中の戦艦だ。
ヴェサリウスとガモフの主砲が放たれ、2隻の駆逐艦は沈んだ。
ゼーベックの中は少々重たい雰囲気だった。
奪取したMSがあっても、MSが有利だとしても、4隻で一艦隊と交戦するのだ。
それに、このような大規模な戦闘は宇宙では半年近くなかった。
彼らパイロットの無事を祈るしかなかった。
エレンはふとハルヴァンの方に目を向けた。
彼もまた、ここから見えないパイロットたちを心配していた。
できれば自分も行きたい、そんな風に見て取れた。
「ハルヴァン…。あなたも行く?機体は1機余っているわよ。」
エレンはハルヴァンに言った。
「…できることなら出撃したいのですが、この足では足手まといだけです。」
彼は苦笑した。
爆散するセレウコス、カサンドロスをモニターから見え、アークエンジェルのクルーたちは冷たい沈黙が流れた。
艦長席の通信機が着信し、マリューは受話器を取った。
ムウからだった。
「おい!なんで俺は発進待機なんだよ!」
ムウはいらいらと落ち着かない様子であった。
「第八艦隊ったって、あれ4機相手じゃヤバイぞ!」
「フラガ大尉…。本艦への出撃指示はまだありません!引き続き待機してください!」
マリューは通信を切った。
ムウの気持ちはわかる。この味方の劣勢を見ているだけの現状だけなのである。
しかし、もしここでアークエンジェルが落とされたり、降下のタイミングを逃したら意味がなくなる。
マリューはしばし思い悩み、そして決断に至った。
「メネラオスへ繋いで!」
彼女はハルバートンに通信を入れた。
「降りる!?この状況でか?」
ムウはメビウス・ゼロのコクピットに来たマードックに聞いた。
「俺に怒鳴ったってしゃあねえでしょう?ま、ズルズルよりゃいいんじゃねえんすか?」
マードックが答える。
そのことをクリーガーのコクピットで待機していたヒロはそのことを聞き、しばらく考え、決断した。
そして、ブリッジに通信を開いた。
「マリューさん、クリーガー、出ます!発進許可を。」
その言葉にマリューもムウも驚いた。
(ちょっと…ヒロ君!)
「ギリギリに戻ります!万一間に合わなくても、カタログ・スペックではクリーガー単体でも降下できます!」
(焦りすぎだ、ヒロ!)
フォルテから窘める通信が入った。
「焦ってない。けど…向こうは、あの4機がいるんですよ。それにせめて対抗できるのは、このクリーガーだけです。」
ジン3機、そしてイージスで先遣隊は壊滅したのである。
今回、これだけ数がいてもあの4機相手では第八艦隊も危ない。
アークエンジェルが降下できなくなる可能性もある。
(…わかった。俺も出る。絶対限界点までにはお前を連れ戻さなきゃならねえ。艦長、発進させてくれ。俺が出る分には問題ないだろ?)
ヒロの意志の固さにフォルテは根負けした。
(しかし…。)
マリューは心配した。確かに彼らの申し出はありがたい。が、下手をすれば重力に引き込まれる。
(はぁ…なあ、艦長、普通なら傭兵を危険な場所にパッパと出すもんだぜ?)
「そんなこと…。」
できるはずがない。彼らはここまで損得抜きでアークエンジェルを守ってくれたのだ。そんな人たちを簡単に危険な場所に出撃させるなんてできない。
(…まあ、そう言って止めてくれるのは嬉しいけど…、ヒロのやつ、このままじゃまた勝手に発進させちゃうぜ?)
確かに協力もあったが、彼には勝手にカタパルトを開いて出て行った前科がある。
そして、その間にもザフトは戦艦、MAを撃沈させている。
決断するしかなかった。
(…わかりました。フラガ大尉はそのまま待機してください。ヒロ君、フォルテさん、お願いします。)
マリューは2機を発進準備させた。
アークエンジェルのカタパルトハッチが開き、ヒロ、フォルテは機体を発進させた。
出た瞬間、一瞬圧倒された。
今まで、発進した時はどこまでも広がる宇宙空間だが、今は下に地球が見える。
しかし、感嘆している暇はない。
(ヒロ、フェイズスリーまでには戻るぞ!)
フォルテから通信が入る。
その口調は普段に比べ、すこし固かった。
「…わかった。」
スラスターを全開にし、火戦入り乱れる戦場へ向かった。
MA、MS、戦艦が入り乱れ、各々攻撃によって爆散し、散っていく。
その光が闇を照らしていた。
それを見たヒロは何か嫌なものを感じた。
それはムウやあのザフトのクルーゼとかいう人がいると認識した、別の冷たい感じだった。確かにそれも感じる。
「なんなんだ…これは。」
ヒロもそれが何か分からなかった。
「俺だけ待機かよ…。」
ムウは独り言ちた。
とは言っても、自分が出て行っても大した戦力になるわけでもないが…。
しかし、せっかくメビウス・ゼロを修理し、万全の態勢にしたのにこのまま見守るだけというのは、つらかった。
その時、格納庫を人影が通った。
「いくらヒロとフォルテさんでも、あの数を相手にするのはキツイですよね。それに向こうにはあの4機がいます。」
それは、聞きなれた声であった。
「坊主!?」
ムウはしばし唖然とした。
「ストライクで待機します。まだ第一戦闘配備ですよね。」
キラはそのまま、ストライクのコクピットへと向かって行った。
アークエンジェルが降下する様子はヴェサリウスからも確認された。
「アークエンジェルが動く!?ちぃっ、ハルバートンめ…、第八艦隊を盾にしてでも『足つき』を降ろすつもりか!?」
ラウは苦々しく口にした。
こちらの目的は戦艦とMSを落とすことである。
「追い込め!何としてでも地球へ降下する前に仕留めるのだ!」
その報告は各々艦よりレーザー通信で届いた。
MSが2機こちらに向かって来るのも確認できた。
モニターでそれを確認したが、その機体をみてイザークは顔をゆがませた。
自分が狙っていたもと違ったからだ。
「出てこないのかよ!」
その眼光は自尊心を傷つけられた怒りをにじませた。
前回の戦闘において、デュエルは電気系統にダメージを受け、コクピット内で小規模の爆発を起こした。その爆発によってイザークはヘルメットを損傷し、破片が彼の顔を傷つけた。
幸い、コクピットに亀裂が入ってなかったので生還できたが、イザークにはそれを喜ぶ気持ちはなかった。
ストライクにコーディネイターが乗っているとは知らないイザークには、もちろん相手をナチュラルだと思っていた。しかし、その自分より劣っている種のナチュラル相手に後れをとり、かつ傷をつけられたというのは、彼にとって恥辱であった。
この恥辱を晴らす。
その思いで、この怪我をおしてでも、この戦闘に参加したのである。
しかし、ストライクはなかなか出てこない。
「出てこい、ストライク…。出ないと…出ないと傷がうずくだろうがー!」
彼は吠えた。
クリーガーはカービンでジンの突撃機銃や無反動砲、ミサイルランチャーを撃ちぬく。
または、その武装した手足を狙う。
そのうちの1機がなお、こちらに攻撃を仕掛けようとする。
「やめるんだ!もう戦える状態では…。」
ヒロは聞こえるはずもないが、なんとかかの機体を退かせようとバルカン砲を撃つが、なおも退かない。
その時、偶然近くにいたメビウスがリニアガンを放ち、ジンは爆散した。
「くっ…。」
ヒロはなんとも言えなかった。
わからない。
撃つ覚悟はしているのに、いざとなると撃てなかった。
撃つのが怖いのか…。
撃たなければいけないのか…。
だが、自分がどんなに殺さないで戦っていても、周りは今も多くの命を散らしていった。
分からなかった。
その時、コクピット内にアラートが聞こえた。
ロックされたのである。
見ると、バスターがこちらにライフルを向けている。
マズイ…。
一瞬やられると思ったが、フォルテのジンがクリーガーを飛び蹴ったため、ライフルを避けられた。
その間にジンは背部にマウントしていた無反動砲を2つとりバスターに放ち、牽制した。バスターも離れていく。
(ぼけっとするな、ヒロ。)
フォルテから通信が入った。
「ごめん…。」
いつもとは違う様子のヒロにフォルテは気付いた。
(…ヒロ、しっかり自分を保て。でないと…、呑まれるぞ。)
「え?」
(とにかく…、ここでぼさっとしないでまだまだ来るんだぞ。)
そう言い、去っていった。
ヒロもまた、戦闘の中へ戻っていった。
しかし、第八艦隊の必死の抵抗、フォルテとヒロの奮戦かなわず、とうとうバスターとデュエルが先陣隊列を突破していき、メネラオスと交戦を始めた。
その報告を聞いたキラはメビウス・ゼロに通信を入れた。
「フラガ大尉!」
(ああ、わかっている。)
ムウはブリッに通信を入れた。
(艦長、ギリギリまで俺たちを出せ!あと何分ある!?)
「何を…『俺たち』?」
マリューは途中怪訝にある。
先ほど、ヒロとフォルテが出撃して残っているのはムウ1人だけのはずだ。
その時、キラが通信を割り込んだ。
(カタログ・スペックはクリーガー同様、ストライクも単体でも降下可能です。)
「キラくん!?」
マリューは驚いた。
ブリッジのクルーたちも同様であった。
「どうして、あなた…そこに!?」
とっくにかれは艦を降りたと思っていたからだ。
ここに残ることがどういうことかわかっているはずなのに…。
(このままじゃ、メネラオスも危ないですよ!)
マリューは決断できなかった。
彼にこの大気圏ギリギリの場所で…。
そのようにマリューがなかなか決断を出せない中、ナタルがキラに向けて言った。
「わかった!ただしフェイズスリーまでに戻れ。スペック上は大丈夫でも、やった人間はいないんだ。中がどうなるかは知らないぞ。高度とタイムはつねに注意しろ!」
(はい!)
そう言い、通信は切れた。
思わずマリューは立ち上がった。
「バジルール少尉!」
「ここで本艦が落ちたら、第八艦隊の犠牲がすべて無駄になります!」
2人はしばしにらみ合った。
ヒロはアークエンジェルから2機発進されるのを見た。
ストライクが出てきたことに驚いた。
乗っているのはキラであろう。
しかし、トールたちの話では、艦を降りたと聞いていた。
が、このようにストライクを動かせるのは彼以外考えられなかった。
ストライクはデュエルと交戦し始めた。
戦況が加速する中、1隻のローラシア級が敵の戦列の内側まで入り込んでいた。
「ガモフ、出過ぎだぞ!何をしている、ゼルマン!?」
アデスが身を乗り出して叫んだ。
(…ここまでおいつめ…引くことは…もとはと言えば我ら…、『足つき』は、必ず…。)
そこで通信が途絶えた。
おそらく、ゼルマンは責任を感じているのだろう。
しかし、それは彼だけの責任ではない。
が、生真面目な彼の事だ。
それを言い訳にせず。彼は覚悟の上で、今、敵艦へ前進した。
ガモフを止めようとしたメネラオスの前にての応射してくるドレイク級の戦艦を、沈ませたガモフはメネラオスへと向かう。ムウのメビウス・ゼロが接近し、ガンバレルを展開して撃ちこんでも、その勢いは止まらない。
メネラオスにガモフの砲が当たる。
メネラオスの主砲もガモフを貫いた。
メネラオスとガモフの撃ちあいはクリーガーからも確認できた。
このままでは…。
ヒロはクリーガーを反転させ、急いでメネラオスへ向かった。
「MSたちを戻らせて!」
ゼーベックでも、MSたちに戻るよう指示を出した。
が、オデルがいないことに気付いた。
(隊長が前に行ってしまったんです!?)
(さっきガモフの方に向かっていたから…。)
各々パイロットがオデルを探す。
(…俺が行く。バースはみんなを戻らせてくれ。)
(おいおい、ジョルジュ…。)
(大丈夫だ。すぐ戻る。)
そう言い、ジョルジュのジンはオデルの所へ向かうため、ふたたび前に出た。
メネラオスがガモフはお互い、満身創痍ながらも撃ちあっていた。
ふいに、ガモフが次々と連鎖的に爆発がおき、弾けた。
「メネラオスは!?」
急いで向かっていたヒロは確認した。
メネラオスはまだかろうじて持ちこたえていた。が、エンジンがほとんど機能してなく大気圏に呑まれていく。
そして、メネラオスは艦体が燃え上がり散っていった。
ヒロはふとメネラオスがあった下方のシャトルを目にした。
避難民を乗せたシャトルである。
(ヒロ!戻って)
(ヒロ、もう限界だ。戻れ。)
通信から聞こえてくる。
もうザフトのMSも退きはじめている。
シャトルは大丈夫だろう。
ヒロはクリーガーを反転し、アークエンジェルへ向かおうとした時、シャトルの降りる先を目にした。
ストライクとデュエルが戦闘をしている間を通って行った。
まさか…!?
デュエルがシャトルの方にライフルを構えている。
「それは…それには…民間人が…。ダメだー!」
ヒロはクリーガーのスラスターを吹かせ、急いで向かった。
が、すべては遅かった。
デュエルのライフルのビームが放たれ、シャトルを貫いた。
シャトルは次第に内部より膨れ上がり燃え爆発した。
「ああああっ!」
何もできなかった。
自分は何もできない。
なぜ…!?
その時、何か来るのが感じた。
狙っているのか?
まだ、続けるのか。まだ、命を奪うのか?
…させない。撃たなければ…。
もうこれ以上…、これ以上、
ヒロはとっさにその方向にビームライフルを構えた。
「間に合わなかったか。」
ガモフが前に出たので、シグーアサルトを駆り急いで向かったが、間に合わなかった。
しかし、もうこの状況ではアークエンジェルも落とせない。
だいぶ行ってしまったが、ここからなんとかギリギリ戻れるか…。
ふと、下の方に、クリーガーがいるのが見えた。
こちらに上がる気配も、アークエンジェルへ戻る気配もない。
戻れないのか…。
あの機体も他の4機と同じで単体で大気圏に降りられるはずだ。
が、しかし…。
「何をやっているんだ…、俺は。」
気が付いたら、シグーアサルトのスラスターを吹かし、戻れるギリギリの状態でクリーガーの所へ向かった。
相手は傭兵だ、しかも今は地球軍側にいる。
なのに…。
向かってしまった。
情か…。
自分でもわからなかった。
「おい、戻れないのか?おい…ヒロ・グライナー!」
通信を開くが、応答はない。
このままでは…。
その時、
(オデル隊長、早くもどってください!)
別の声が来た。
ジョルジュからだった。
モニターを見ると、こちらにジンが向かってきている。
ジョルジュはギリギリの中、ジンを操縦し、シグーアサルトへ向かって行った。
が、モニターを見て驚いた。
クリーガーの目の前にいたのである。
こんなところで…!
「隊長!」
ジョルジュはオデルを庇うように立ち、銃を構えた。
が、
クリーガーの方が早かった。
クリーガーがこちらを向き、ビームライフルをすでに構えていた。
なぜ気付かなかった。
そう思ったジョルジュであったが、目の前をライフルの先から放たれた光がジョルジュの肉体も意識も包み込んだ。
ジョルジュのジンがクリーガーのビームライフルにコクピットを撃ちぬかれ、動きが止まった。そして、まず上半身つづいて下半身が爆散していくのをオデルの目ははっきり捉えた。
その光景は先ほど止められたバーツのジンハイマニューバからも見えた。
「なに…やってるんだよ、ジョルジュ!」
バーツは声を震わせ、通信を開いた。
「熱くなるな、突っ込みすぎるなって、いつも俺を窘めていただろ!…、一体これから誰が俺のブレーキ役になるんだよ!おい、返事しろ!」
バーツはもう返事が来ないジョルジュに向け何度も叫んだ。
その一部始終はオデルのシグーアサルトのモニターから見えた。
一体何があった…?
俺がクリーガーの近くまで行っている時に、ジョルジュが俺を助けに来た。
それだけだったはずだ…。
なのに…なぜ、撃たれたのだ?
お互い撃たれると思ったからか?
オデルは呆然とした。
だが、沈むような振動で我に返った。
手を止めたがため、大気に引っ張られ始めたのである。
「…戻れない。」
必死にフットペダルを踏むが引力に勝てなかった。
引き金を引いたヒロも呆然とした。
一連のやり取りを通信から聞こえ、ヒロは震えた。
何をやっていたんだ…自分は。
今のジンはシグーアサルトを助けるためにきたのに…。
それを自分が撃った。撃ってしまった。
先程感じた気配はもう感じない。
それはどういうことか。
震えが止まらなかった。
クリーガーは大気圏へそのまま降下していく。
ふと下には青い地球が写った。
どこまでも青く輝く星。
ヒロはその青さにどこか既視感を覚え、そして胸に突き刺さった。
シグーアサルトはどんどんと降下していく。
コクピット内はアラート音が鳴り響いている。
いくらフッドペダルを踏んでも、レバーを引いても、高度は下がっていく。
もうだめか…。
オデルはあきらめかけた。
いくら追加装甲があっても焼かれない保証がない。
俺も…このまま死ぬのか…。
上では、MS、戦艦が戻っている。
ジンハイマニューバがこちらに来るのを他のジンが必死に止めているのも見える。
そして、ゼーベックも見えた。
「エレン…。」
俺が出かける前、彼女はとても心配していたな…。
すまない。君の懸念は当たったよ…。
ジョルジュが死んだのは自分のせいだ。
結局、一度自分から…過去から逃げたのに、もう一度自分と向き合おうとするのが、愚かだったのか。
こうやって、己の過去にふれる者たちを目の前にして、自分は恐ろしく感じ始めていた。
オデルは瞑目した。
いざ死を目の前にするのはやはり嫌なものだ。
おかしなはずだ。
ずっと自分は死に急いでいたはずなのに…。
その時、まるで暗闇を照らす一筋の光が見えたような気がした。
オデルは不思議とそこに導かれるようにその光に向かって行った。