機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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本日はPHASE‐8も少し直しました。大事なことを抜けていて…。
自分もびっくりしました。というか、忘れちゃダメでしょ~。


PHASE‐12 分かれし道

 

 

 とりあえず危機を脱したアークエンジェルであったが、事態がよくなったというわけではない。事実、離れてはいるが、ナスカ級の艦はアークエンジェルを追っている。

 ヒロは居住区を歩いていた。

 結局、先遣隊を助けることも出来なかった。

 ふと向こうから悲鳴が聞こえた。

 フレイの声であった。

 「いやぁぁぁぁっ!パパっ…パパァぁ!」

 「フレイ…。」

 どうしていいか分からないサイの声も聞こえる。

 どうやら医務室のようである。

 「うそ…うそよぉ!」

 中に入ると、半狂乱のフレイをサイとミリアリアがなだめていた。

 ヒロよりちょっと前にキラも来ていたようであった。

 そうだ…。

 先遣隊の中に、フレイのお父さんもいた。

 近くに救命ポッドもなかった。

 つまり…。

 守れなかった。

 自分たちはフレイの大切な父親を死なせてしまったのだ。

 キラとヒロに気付いたのか、フレイは2人に目を向けた。

 「うそつきっ!」

 その目はギッとしていた。

 「大丈夫って言ったじゃない!僕たちも行くから大丈夫って!何でパパの船を守ってくれなかったの!?なんであいつらをやっつけてくれなかったのよぉ!」

 「フレイ!キラやヒロだって必死に…。」

 2人を罵るフレイをミリアリアがなだめようとした。しかし、彼女は聞く耳を持たず、続けた。

 「あんたたち…、自分もコーディネイターだからって本気で戦ってないんでしょ!」

 その言葉がキラの胸に突き刺さった。いてもたってもいられず、キラは医務室を飛び出すように出て行った。

 「キラ!」

 ヒロは追いかけたかった。

 が、自分が追いかける資格があるのか。

 「なによ!傭兵のくせに、ちゃんと戦いなさいよ!」

 「パパを返して…返してぇぇぇ!」

 なおもフレイは叫ぶ。

その言葉にヒロは何も言えなかった。

 ヒロもまたそのまま医務室を出て行った。

 

 

 足取りが重い…。

 今からどこに向かっているのか。

 自分でもわからなかった。

 ただ、あの場にいることも出来ず、誰にも声をかけられたくなかった。

 フラフラと向かった先は展望室だった。

 ふと、そこから話し声が聞こえた。

 キラと…ラクスの声だった。

 「アスランは…とても仲のいい友だちだったんだ。」

 耳に入ったキラの言葉にヒロは耳を疑った。

 そこからキラがラクスに話している内容。

 アスランという人は、キラの幼いころからの親友であること。彼があの赤い機体、イージスのパイロットであること。

 本来立ち聞きしていいものではないが、その内容にヒロは驚愕した。

 そんなことって。

 確かに、戦闘中、あのイージスとは何か様子がおかしかった。

 まさか、友達同士だったなんて…。

 ヒロは展望室を後にした。

 

 

 

 夜、フォルテがあくびをしながら士官室に入っていった。

 居住区兵舎の方は避難民たちが使っているし、艦の正規クルーで士官なのは3人だけなので、ヒロとフォルテは士官室の方を使わしてもらっている。

 ベッドの上でヒロは寝ずに考え事をしているようだった。

 「…寝れるうちに寝とけ。持たないぞ。」

 フォルテは溜息を付きながら反対側のベッドに向かった。

 「フレイの言ったこと…。」

 ヒロは静かに口を開いた。

 「事実だろ…。俺たちは何もできなかった。そんなもんさ、傭兵に対して…。できて当たり前と受け止められ、出来なきゃちょっとしたことでも非難する。」

 「わかってるよ…。」

 しかし、フレイの言葉がずっと残る。

 「…電気、消すぞ。」

 そう言い、部屋を消灯した。

 ベッドに横になりながら、ヒロは考え事をしていた。

 フレイのこともあるが、もう1つ。

 さきほどの展望室での会話。

 ラクスの婚約者がアスランであったこと。

 あのハロもアスランが作ってくれたものだということだ…。

 2人の会話から伝わるアスランという人の人物像。

 ダメだ…。

 このまま、ラクスを人質にして何かあったら、キラとアスランはお互いに戦う。そんなことさせたくない。かつて、それを見たから…。

 ヒロは起き上がり、そっと部屋を出て行った。

 その様子を寝ながらもフォルテは伺っていた。

 まあ、いいや…。

 フォルテは気にせず、ふたたび眠りについた。

 

 

 ヒロは寝静まった居住区を静かに駆けた。

 そこでキラと出会った。

トールも一緒だった。ラクスを連れていた。

お互いに驚いた。

 「…ヒロ。ごめん、見逃して。」

 どうやらキラも彼女をこのまま人質にしたくないようだ。

 その時、トールに会い、彼も賛同してくれて現在に至る。

 「…僕も、行くよ。」

 「…え?」

 キラはその答えに驚いた。

 「ゴメン…。展望室で2人の話を聞いた。」

 キラは驚いた。

 「ラクスに何かあったら…、あって欲しくない。だから…僕も行くよ。」

 その時、誰か近づいてくる音が聞こえた。格納庫のメカニックの人である。

 ここでは、隠れる場所がない。

 どうする…。

 4人に緊張が走ったその時、

 「あっ、ここにいたのですか。マードック軍曹が格納庫に来てほしいって呼んでましたよ。」

 ルキナの声がした。

 「わかりました。」

 それを聞いたメカニックは格納庫に向かって行き、難を逃れた。

 4人はホッとした。

 「行くなら…、今のうちよ。」

 どうやらルキナにばれていたようだ。

 「ありがとう。でも…。」

 「いいから早く。」

 彼らはなんとかパイロットロッカーへ辿り着いた。

 トールが入り口で見張りをし、キラ、ヒロ、ルキナはラクスを連れ、中に入った。

 キラがノーマルスーツを取り出した。

 「これ着て。その上からで…。」

 と言いかけたが、果たしてその服から着れるかなと思った。

 ラクスはキラの視線に気づき、納得した。

 そして、突然ロングスカートの部分を脱ぎ始めた。

 その行動に思わず3人は驚いた。

 「あなたたちは外にいる!」

 ルキナはヒロとキラを放り出すように外に出させた。

 いきなり出てきたヒロとキラにトールは驚いた。

 

 そんなハプニングもあったが、なんとかラクスが着替え終わり、ヒロとキラもパイロットスーツに着替えた。

 格納庫は人がまばらだった。

 「えっ!俺は呼んだ覚えはないぞ?」

 マードックが先程のメカニックの人と話している。

 気づかれぬうちに、ヒロはクリーガーのコクピットに乗り込み、キラはラクスを連れ、ストライクのコクピットに向かった。

 コクピットに入り、キラの膝の上に乗っかったラクスが彼らにおっとり話した。

 「ありがとうございます。また、お会いしましょうね?」

 「それは…どうかな。」

 トールは苦笑した。」

 「ルキナさんも…ありがとうございます。やさしくしていいただいて。」

 ラクスは視線をルキナに移した。

 「いいえ…。そうおっしゃってくれるのも、私のこと…知らないからです。」

 ルキナはどこか暗い顔をした。

 「それでも…あなたのやさしさは知っていますわ。たとえ、あなたが何であったとしても、あなたのやさしさ、心は変わりませんわ。」

 ラクスはおっとりとほほ笑んで、返した。

 いよいよコクピットを閉じるとき、トールは何を思っていたか、キラに尋ねた。

 「キラ…。おまえは、帰ってくるよな?」

 その言葉にキラはハッとした。

 「おまえはちゃんと帰ってくるよな!?俺たちんとこへ!」

 ハッチを閉じる寸前、キラは頷いた。

 「きっとだぞ!約束だぞ!」

 なおもトールは声を上げた。

 ストライク、クリーガーが動き出して、あたりにいた作業員が驚いた。

 「おい!何をしている!?」

 マードックの声が響いた。

 が、すべて無駄だった。

 (ハッチを開放します!どいてください!)

 ヒロが対外スピーカーで呼びかける。

 クリーガーを先導に出ていき、そしてストライクも出て行った。

 

 

 アークエンジェルから離れ、ヒロは全周波でヴェサリウスに向けた。

 「こちら傭兵部隊ヴァイスウルフ、ヒロ・グライナーです。ラクス・クライン嬢を乗せたストライクと同行している。彼女の身柄を貴艦に引き渡す。ただし、ナスカ級は停止、イージスのパイロットが単機で来ることが条件です。ストライクのパイロットからイージスのパイロットに彼女を引き渡します。」

 それはヴェサリウスに届いていた。

 なおも通信は続く。

 (自分はラクス・クライン嬢引き渡しの立会人として行います!ザフトからも立会人としてオデル・エーアストを指名します。もしこれらが破られた場合…彼女の命は保障しません!)

 「どういうつもりだ。『足つき』め!」

 アデスは眉をひそめた。

 (隊長、行かせてください!)

 アスランから通信が入った。

 アデスは止めようとしたが、

 (…向こうは立会人として俺も同行を要求している。…行かせてもらう。)

 そう言い、オデルからも通信が入った。

 「…わかった。許可する。」

 「よろしいのですか?」

 「チャンスであることも確かさ。」

 ラウはにやりとした。

 これを機にあの機体、そして『足つき』を落とすことができる。

 「艦を止め、私のシグーを用意しろ、アデス。」

 彼もまた格納庫に向かった。

 

 

 イージスがヴェサリウスより発進し、ストライクの手前で止まった。

 後ろには青いシグーアサルトもいる。

 クリーガーがイージスとストライクの間ぐらいの位置についた。

 (2機のパイロットの確認をする。両方コクピットを開いて。)

 ヒロの指示に従いお互い開いた。

 (…双方、間違いないないね。)

 ヒロは2人に尋ねた。

 (…確認した。)

 (こちらも確認した。)

 あのパイロットはおそらく自分たちの事を知っているのだろう。

 そう思いながらアスランはキラに続き、ヒロに通信を入れた。

 2人とも確認できた。

 (ラクス、話して。)

 (え?)

 (あなただってこと、彼にわからせない、と。)

 (ああ、そういうことですの。)

 ラクスは納得し、アスランに向け話した。

 (こんにちは、アスラン。お久ぶりですわ。)

 (確認した。)

 (では、彼女を引き渡す。キラ…ラクスを。)

 ヒロに言われた通り、キラはコクピットの外に出し、彼女をイージスの方に優しく押し出した。

 真空に漂いこちらに来る彼女をアスランが受け止める。

 (ザフト立会人、オデル・エーアスト、確認しましたか。)

 ヒロは彼に確認の念を押させるため尋ねた。

 (…こちらも確認した。)

 これで受け渡しはひと段落した。

 その時、

 (キラ!おまえも一緒に来い!)

 (え?)

 アスランの言葉にキラは驚いた。

 (おまえが地球軍にいる理由がどこにある!?来い、キラ!)

 おそらくこれが最後のチャンスだ。

 一緒にいる機体が自分たちの事を知っているのであれば、これをわかってくれるはずだ。

 今ならキラを連れて行ける。

 そう思いアスランはキラに叫んだ。

 ヒロはその状況を黙って見ていた。

 キラにとってこれが最後のチャンスになるかもしれない。

 キラはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 (僕だって、君と戦いたくない…。でも、あの艦には守りたい人たちが…友だちがいるんだ!)

 行けるのであれば、どれだけいいか。けど…。

 キラは泣きたい思いを押さえ、声を振り絞った。

 (ならば仕方ない…。)

 アスランは苦しげな表情で叫んだ。

 (次に戦うときは、俺がお前を撃つ!)

 (…ぼくもだ…!)

 今、2人の道は分かれた。

 

 (…これで引き渡しは終了します。キラ…。)

 ヒロはキラを促し、クリーガーとストライクはアークエンジェルへ引き返した。

 アスランはストライクが離れていくのを見送っていた。

 (いいのか、アスラン?)

 オデルから通信が入った。

 自分のことを心配してくれているのだろう。

 「ええ…。」

 アスランは短く答えた。

 もう戻れない。

 

 

 一方、この好機を逃さない者たちがいた。

 (敵MS、離れます!)

 「エンジン始動だ。」

 ブリッジからのアデスの通信を受け、ラウは命じた。

 そして、ラウはシグーを発進させた。

 

 

 「クルーゼ隊長!?」

 シグーが横切りアスランは驚いた。

 (ラクス嬢を連れて帰投しろ、アスラン!)

 クルーゼ隊長ははじめからこうするつもりだったのだ。

 たしかに、今なら叩ける。

 しかし、これでは…。

 その時、クルーゼのシグーを青いシグーアサルトが阻んだ。

 

 一方、アークエンジェルでは…。

 ヴェサリウスの動きも、シグーも動きも捉えていた。

 そうなる動きを予測していた。ムウのメビウス・ゼロは、先の損傷でまだ出られないので、フォルテのジンを待機させていた。

 が、フォルテのジンは出ようとはしなかった。

 (出さないのか!?)

 発艦許可はすでに出ているが、発進しようとしないジンにムウは通信を入れた。

 「今、ここで出たら、向こうはやはり罠だったと、本格的に攻撃してくるだろう?」

 (…しかし!このままでは…。)

 アークエンジェルが危険になる。

 今度はブリッジからナタルから通信が入った。

 「だから、ヒロは保険を掛けたんだろ?今はあいつらを信じるしかない!」

 フォルテは通信を切った。

 先程CICより状況報告を聞いたとき、オデルも出撃していると聞いた。

 そして、今、シグーを阻んでいる。

 彼に賭けるしかなかった。

 

 

 「何をする、エーアスト!?」

 「クルーゼ、下がれ!」

 「今が好機だぞ、それを逃すのか?」

 「俺はいま、ザフトからの立会人として、ここにいる!ここを戦場にするか否か、俺の判断に従ってもらう!」

 「ここで見逃せば、多くの兵をしなすことになるぞ!?」

 「先遣隊を打つ際、貴様はこう言ったはずだ、『後世、歴史家に笑われたくない』と。クライン議長の令嬢たるラクス嬢を保護し、引き渡してくれた者を背後より攻撃することは、まさしくそれではないか?」

 「宋襄の仁、という言葉は知らんか?」

 「どの道、我々で、あれは落とせん!」

 ラウとオデルの応酬が目まぐるしいやり取りが行われている。

 アスランはどうしたらいいかわからなかった。

 その時、

 「ラウ・ル・クルーゼ隊長!」

 凛とした声でラウに通信をいれたのは、ラクスだった。

 「やめてください!追悼慰霊団代表のわたくしのいる場所を、戦場にするおつもりですか!?そんなことは許しません!」

 いきなりの通信を受け、ラウもオデルも驚いた。

 それは、アスランもだった。

 普段、いつもおっとりしている彼女しか知らないからだ。

 「すぐに戦闘行動を中止してください!聞こえませんか!?」

 しばしの間、沈黙が続いた後、ラウは応答した。

 (…了解しました、ラクス・クライン。)

 3機はヴァサリウスへ帰投し始めた。

 途中、ラウはシグーアサルトに目を向けた。

 そして、独り言ちた。

 「やはり…気付いているのか?あのパイロットが『弟』であることに。」

 

 

 「…よかった。」

 その姿を見て、ヒロはホッとしたように大きく息を吐いた。

 一瞬、このまま戦闘になってしまったらという不安もあった。

 が、あの青いシグーが止めてくれると思っていた。

 出会ったのは、戦場で2回だけしかも、刃を交えたのに…。

 なぜ、そう思ったか…不思議ではあった。

 (…ヒロ。)

 「行こう…、キラ。」

 2人もアークエンジェルへ戻っていった。

 「よかったの…、行かなくて?」

 ヒロはキラに尋ねた

 もしかたら、キラも向こうに行く可能性もあった。

 もし、キラが行きたかったら行かせたかった。

 (ううん、いいんだ。僕は…。)

 同じコーディネイターの…、同胞のところへ行きたい気持ちがあった。

 しかし、それでもキラはこちらに残ることを選んだ。

 友達がいる場所を。

 

 

 


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