「おい、どうだ。見つかったか?」
夜も深まり、町が静かになった頃、町の外れに数人の集団がいた。リーダー格の男が様子を探りに行っていた男に尋ねた。
「聞いた通りで間違いないです。あまり町の人間たちも立ち入れない奥の森に道がありました。」
「そうか。では明日決行する。いいな!」
報告を聞いたリーダー格の男は周りの者たちに指示を出した。
「この地球にコーディネイター、宇宙の化け物が住んでるなど…あってはならない!」
「青き清浄なる世界のために!」
海辺の町は村から遠くはないが、村に通じる道を複雑にしているために時間がかかる。
実はもう一つ近道があるのだが、それは緊急用であり四輪の自動車が通るには狭い道なので通ることはできない。
町に着いたときはもう日が暮れていたため、ヒロはダグラスの家に泊めてもらい、翌日の朝からダグラスの工場に向かった。ダグラスの家と工場は直結しているので町の人にも見つかられずに行ける。ダグラスは午後には出発するといい、午前は町長のところへと行った。ヒロは早速ジャンクの山からパーツを探し始めた。
そして、もう一人ヒロの手伝いをする人間がいた。彼の名はアバン。ダグラスの所に住み込みで働いていて、村にも訪れたことがあり、ヒロにとって1つ上の友達であった。
「あと、もう少しで完成するのか?」
「うん、あとは操縦系統だけだよ。まあ、そこが一番の難関なんだけど…」
「なあなあ、完成したら俺にも動かせてくれよ!」
作業の手を止め、アバンはジンが動くさまを想像し、ワクワクしていた。
「お兄ちゃんじゃ、ムリじゃない。MSってコーディネイターしか動かせないしょ?」
女の子の声をした。振り向くとアバンの妹であるリィズがいた。彼女もパーツ探しに手伝いに来てくれた。
「それにお兄ちゃん、すぐ壊しそうだし…ヒロさん、絶対乗せない方がいいですよ。」
それに応じるようにジーニアスも『そうだ、そうだ』とビーと音を立てた。
「何をー。」とアバンが反論をしようとしていた。
何やかんやと探している途中、ふと、ヒロは何かを感じた。
何だろう、この感じは?
言葉では言い表せない、何か直感のような感じ、とても嫌な、そんな感じがした。そして、それを感じる方へ向けた。
そんな…そっちは…。
このいやな感じが当たってほしくないという思いを胸に見た先に、ヒロは驚きそしてだんだんと顔から血の気が引いていった。
そんなヒロの様子にアバンは不思議に思い彼を呼んでみたが返事がない。気になり彼のもとに近づきアバンもリィズもヒロが見ている方に目を向けた。そして、二人とも驚いた。
「あれは…煙?」
「あっちの方角って…」
その時、ヒロいきなり走り出した。
「おい、ヒロ!」
アバンが追いかけようとしたが、ヒロはもう森の方へと消えていった。
町の中央のところに町長の事務所がある。そこでは今、ダグラスは町長に今回の報告をしていた。
「それで町長、あれからどうですか?見慣れない集団は?」
ダグラスに尋ねられ、町長と呼ばれた、穏やかな雰囲気の男性はため息交じりに答えた。
「いえ、まだ町にいます。一応は様子を見張ってはいますが、あまりこちらも目立つことは出来ないですし、他の住民も不審がります。」
下手に行動を起こしては町の方にも危害が及ぶ。町長という立場として、あまり踏み込んだことをできないのであった。
「さらに、気がかりなことにトムがここ数日行方不明なのです。今、探させていますが…」
それを聞いたダグラスは驚いた。村の事は、町の人でも限られた人しか知らない。トムもその一人であった。彼の身に何もなければいいが。心配と不穏な空気がしばらく流れた。
それの静けさを切るようにダグラスを呼ぶ声がした。何事かと思いダグラスは町長室の扉を開けると、リィズそしてアバンの姿がいた。ダグラスは不審に思い、どうしたのかと尋ねた。二人ともゼイゼイとかなり息を切らした様子であった。
「親方、大変だ…村の方角から煙が…煙が…」
まだ息が上がっていて途切れ途切れではあったアバンの言葉に、ダグラスと町長はまさかという思いで外に出て村の方角を見、ここからでも見える煙にさらに驚いた。
ダグラスはハッとしてリィズにヒロはどこにいるか聞いた。
「それが…」
「全く、こんな十人ぐらいしかいないこの村に、あんな装備で来るかぁ?こっちは猟銃と普通のハンドガンしかないんだぞ?」
「まあ、その代わり色々なもの利用してるけどね…」
ジェラルドとレクサスは即席のバリケードを盾に相手の様子を見ながらいつもの調子で言った。いや、振る舞っていた。
襲撃は突然であった。見張りをしていたアルフレッドの声を聞いた直後、銃声や爆音が鳴り響いた。なんとかバリケードを作って、備えていた銃で応戦したが、みんな散り散りになってしまった。今ここにいるのは自分の他にはイネース、レクサス、エルサ、そしてセシルであった。
今は予想外の抵抗だと思ったのか、向こうはこちらの出方を伺っているようであった。
「てか、何でセシルおまえはまだここにいるんだよ!」
思わぬ言葉を受けセシルは何を言いたいんだと心外そうにジェラルドを見た。ジェラルドはそれを無視し、
「何のためにこっちにバリケードを作ったと思っているんだ!早く後ろの抜け道から逃げろよ!」
この状況下では全員が逃げ切ることは出来ない。せめて、セシルだけでも逃がそうとしていた。
「そんな!私よりもエルサの方でしょ!お腹に子供がいるのよ!」
「だからです。私では逃げ切れません。それにアル…アルフレッドを置いてって行けません。」
「それに、ヒロが町にいるのよ。母親であるあなたがいてあげなきゃ。」
イネースがセシルを諭した。セシルもこの状況は理解していた。
しかし、この村を作ろうと自分が言い出したことだ。自分だけ逃げることなどできない。そんな思いであった。
「まずいぞ。向こうが動き出したぞ。」
「早くしろ!」
「けど…」
それでも動こうとしないセシルにとうとう、
「いい加減にしろ!」
と、ジェラルドが怒鳴り彼女を抜け道に続く茂みに押し飛ばした。
その時、
激しい閃光と爆音が響いた。
もうどれくらい走ったか。先程からする嫌な予感が消えない。何かの間違いであって欲しい。そう願いながらヒロは村への道を急いでいた。
と、そこに見慣れない車-ハーフトラックや装輪装甲-が道を塞ぐように止められ、その周辺に数人の男たちがいた。
男たちもヒロに気付き、手にしていた銃を発砲してきた。
ヒロはすぐに危険を感じとっさに横の茂みに飛び込んで銃弾を避け、このまま森の中に逃げ込もうとしたが、今まで走ってきた疲労もあったせいか転んでしまい追いつかれてしまった。
「何だ?おまえもあの村の者か?」
男たちが向ける銃口にヒロはすくみ動けなくなってしまった。
「さっきの運動神経…、おまえ…コーディネイターだろ。」
それだけではない。男たちが自分に向けている憎悪、差別感情、それらがヒロに恐怖を与えていた。
「お前たちのせいで、一体何人の仲間を殺されたか!」
「消えろ!宇宙(そら)の化け物め!」
殺される!ヒロは目をつぶった。ゴメン、みんな…。
そう思ったとき、銃声、男たちのうめき声がした。何があったんだと思いヒロが目を開けると、あたりから白煙が立ち込めていた。男たちの姿がない。しばらく呆然としていると、誰か大きい男の手に引っ張られ走りだされた。
「大丈夫か?ヒロ。」
「ハーディ!」
ハーディと会えた。
「村のみんなは?」
ハーディは黙っていた。もうみんなは…そう思い、ヒロ顔を曇らせた。
それに気づいたハーディは、
「大丈夫だ。ジェラルドもいる。きっと無事だ。」
と、励ました。
しばらくハーディに引っ張られて走ってはいたが、遠くから他の男たちの叫ぶ声が聞こえてきた。どうやら、先程の銃声に他の仲間たちが気付いたらしい。
ハーディは、軽くクソッと悪態をつきヒロに行くよう促した。ヒロは思わず戸惑った。
「何で?ハーディ…」
「ここで足止めする。ヒロ早くお前は森を抜けて町の方に逃げるんだ…」
「そんな!…!」
「俺はもう手遅れなんだ。」
ヒロは思わずハッとした。今まで何で気がつかなかったのか。ハーディの左わき腹から血が流れていた。しかも、かなり多くの血が。
ここで別れたらもう二度と会えない。そんな思いが込み上げヒロの目から涙が溢れていた。ハーディはフウっと息を付き、
「ヒロ、俺の最後の…」
「嫌だよ!聞きたくない!…」
信じたくない、そこからヒロは何も言えなくなった。
「ヒロ…」
ハーディは屈み込み、いつもと変わらぬ諭すような穏やかな口調でヒロの目を合わせて言った。
「ヒロ!俺はかつて軍人としては正しい行いでも、人として最低なことをした。俺はずっと逃げていた。逃げ続けていた。あれから何が正しくて何が間違いなのか、わからない。その答えに辿り着けなかった。だが、最後にやっとその答えの一つが分かった気がする。自分がしたかったことをできる。それはヒロ、お前を守ることだ。その思いは俺にとって本当なんだ。ヒロ、今日という日がお前にとってとてもつらい日になるかもしれない。だが、だからこそ忘れるな。そして…俺の、俺たちの思いも。いいな。」
そう言い、ハーディは男たちの声がする方へ向かった。
「行け、ヒロ。」
ヒロは何も言えなかった。ハーディの言葉が胸に突き刺さる。今はただ走って行った。
「それでいい。生きろ。おまえは俺たちの希望なんだ。」
だんだんと遠くなるヒロの後ろ姿にハーディは呟いた。
涙が止まらなかった。何でこんなことになったんだ…。昨日まであんなにいつもと変わらないのに…
そんな思いを巡らしながら駆けていた。
水の音が聞こえる。いつの間にか沢の近くに来ていた。ここから町に行くにはいったん下って沢を越えなければいけない。ふと下る道の前に誰か人が座っていた。
よく目を凝らしてみると、セシルがそこにいた。
「セシル!」
ヒロの声にセシルもこちらの方を見た。どうやら足を怪我しているようだった。
「ヒロ…無事だったのね。」
ヒロは他のみんなの事、村の事を聞こうとしたが、セシルの疲れ切っている様子を見て、とても話を切り出せなかった。
自分も疲れ切っていた。ハーディがいなかったら自分は死んでいた。けど、ハーディはもう…。
再び溢れそうな思いを振り払おうとした。今は自分がしっかりしなくちゃ。
「セシル…、行こう。僕がおぶるから…この沢を抜けたら町は近い。」
再び込み上げてくる思いを振り払うようにヒロは屈んでセシルに言った。
「ヒロ…大きくなったんだね。」
急にセシルがいつも言わないことを言ったのでヒロも思わず驚いた。
「いきなりどうしたんだよ。セシルらしくないよ。」
「うん…背中見てたらね…。あんなに小さくて生意気だった子がもうこんなにも大きくなったんだなぁって思ったの。」
「なに?僕、生意気だったの?」
「そう。生意気で、言うこと聞かないで…覚えてない?」
「うーん。どうだろう…」
さっきまで殺伐とした雰囲気だったのに、今は穏やかであった。このまま続いて欲しい…そう願っていたが、またあの集団の声が聞こえてきた。向こうは本当に全員を殺すつもりでいるらしい。
ヒロは急いで背中にっとセシルに促した。その時、銃声が響いた。その音を聞きセシルはヒロを庇おうと前に被さったとき二発の銃声が響き、そのセシルの右肩を貫き、セシルは悲鳴を上げた。
「セシル!…うっ…あああ!」
どうやらヒロも左ふくらはぎに当たったらしい。焼けつくような痛みが襲った。
うめきながらセシルはヒロに早く逃げるよう言おうとしたが、とてもそんな状況ではなかった。だんだん足音が大きくなってくる。そして銃の音もする。このままでは二人とも…
何かを決意したのか、セシルは怪我した足を引きずりながら、左腕でヒロを支え崖の近くまで来た。
「セシル…何を…」
痛みを耐えながら、そして不安な顔のヒロにセシルは優しく言った。
「大丈夫、ヒロ。最後に母親として…今まで母親らしいこと出来たかわからないけど…せめて…あなたを…」
「セシル…母さん…」
ヒロが言いかけた時、セシルはヒロを抱えるように崖から飛び降りた。
落ちるまで、数秒なのか長い時間を感じた。ヒロは空の方を見ていた。
空はいつもと変わらず青かった。
自分で言うのもなんだけど…長いよ!(泣)
本当は第1話、第2話でひとつにする予定だったのですが…
なんか話数が多くなりそうな予感…
次からは1話の長さが短くなる予定(たぶん)