機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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春になったなぁと感じる瞬間…。
いくら寝ても眠いことかな…?


PHASE‐10 プラントの歌姫

 ストライクが格納庫に持ち帰った救命ポッドを開けるため、皆が集まった。

 「つくづく君は落とし物を拾うのが好きなようだ。」

 ナタルが半ばあきらめたような口調で言った。

 

 マードックが「開けますぜ」と言い、ロックを操作した。

 待機していいた兵士たちが銃を構え、緊張が走る。

 ハッチがゆっくりと開いていった。

 その時、

 『ハロ、ハロ!』

 とピンク色のボール状のロボットが出てきた。

 あれっ?あれってたしか…。

 ヒロには見覚えがあった。

 「ありがとう。ご苦労さまです。」

 そして、ポッドの中からふわりと、ピンクの髪をなびかせ、無重力空間と相まってふわりとした雰囲気をまとった少女が出てきた。

 やっぱり、ヒロはプラントで出会った少女、ラクス・クラインであった。

 でも、なぜ彼女がここに…?

 そう思っていると、ラクスはそのまま、慣性で通り過ぎてしまいそうになった。

 「ラクスっ。」

 ヒロはそちらの方に向かった。

 そのまま行きそうになったラクスは近くにいたキラが手に掴んで止めた。

 「ありがとうございます。」

 ラクスはキラにお礼をいった。

 「あ…いえ。」

 キラは彼女に目を奪われ、赤くなった。

ラクスはヒロに気づいたようだ。

 「あらっ?ヒロ、お久しぶりですわ。」

 にっこりとほほ笑んだ。

 「お…お久しぶりです。」

 えっと…。この状況を知っているのか。ヒロはなかなか切り出せなかった。

 ふと、ラクスはキラの制服の徽章に目を止めた。

 「あら?…あらあら?」

 彼女はあたりを見渡した。

 「ここは…?ザフトの船ではありませんのね?」

 ヒロの方をみておっとりした口調で言った。

 「えっ…ええ。」

 ヒロはただ、そう答えるしかなかった。

 後ろでは厄介ごとがまた舞い込んだ、とナタルが溜息をついた。

 

 

 昨日の査問会を終え、オデルは自宅でゆっくり過ごしていた。

 ゼーベックの修理にはまだ少しかかる。ちょうどいい休暇だ。

 隣の部屋からヴァイオリンの音色が聞こえてくる。

 エレンだ。

 ザフトは国家の正規軍ではなく「義勇軍」である。

 ゆえに、平時はそれぞれ本職がある。

 彼女はヴァイオリニストである。

 オデルはしばらく、その音色を聞いていた。

 リストウォッチから非常呼び出しベルが鳴った。

 オデルは渋々ながらとった。

 

 

 エレンはヴァイオリンを弾くのをやめ、軍服に身をつつみ、出かけ支度をしているオデルに尋ねた。

 「何か…あったの?」

 「…わからない。けど、せっかくの休日も返上になってしまった。」

 オデルは答えた。

 エレンは心配そうな顔を向け、何か言いたそうにしていた。

 「どうしたんだ?」

 彼女の手がオデルの頬に触れる。

 「オデル…あなた、ヘリオポリスの件から、ずっと様子がおかしいわ。」

 その彼女の優しさをいたたまれなかった。

 「大丈夫さ、エレン。」

 「でも…。」

 なおも心配の顔を向ける。

 もしかしたら、彼女は勘付いているのかもしれない。

 困ったような顔をしたオデルは、エレンの腰を抱き寄せ、唇を重ねた。

 いきなりの事でエレンは戸惑ったが、そのまま目を閉じた。

 しばらく静かな時間が流れた。

 唇が離れたとき、エレンは半ばあきれながら、微笑んだ。

 「…男って、卑怯ね。」

 「言葉にするのが不器用な生き物なのさ。」

 オデルも微笑んだ。

 「本当に…大丈夫だ、エレン。…行ってくる。」

 そう言い、彼は自宅を出た。

 

 1人の残った部屋。

 エレンは指輪に目を向けた。

 1年前、彼が言った言葉…。

 待ってほしい、と。自分が本当の自分を取り戻せるまで、と。

 彼女も了承した。

 「オデル…。」

 エレンは不安であった。

 

 

 

 

 「嫌ったら嫌!」

 積み込み作業が終わり、ヒロ、キラ、ルキナは廊下を歩いていると、ふと食堂から声が聞こえた。

 3人は立ち止まり、何があったのかと食堂へ入っていった。

 「なんでよぉ!」

 ミリアリアとフレイが何か言い争っているようだ。

 近くのいたカズィに何があったのか尋ねた。

 「あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに、持っていって、って言ったら、嫌だって。…それで揉めてるわけさ。」

 「嫌よ!コーディネイターの子のところに行くなんて、怖くって。」

 「フレイっ!」

 フレイの言葉をキラとヒロがいるのに気付いたミリアリアが慌てて窘めた。

 フレイも気付き、慌てて言葉を言った。

 「あっ、キラやヒロは別よ?あの子はザフトの子でしょ!?コーディネイターって反射神経とかすごくいいんだもの…。もし、飛びかかってきたら…。」

 キラもヒロもなんて言っていいのか戸惑った。

 「まあ、誰が誰に飛びかかったりするのですの?」

 その時、この場の空気にそぐわないおっとりとした声が聞こえた。

 一同、驚きその声のする方へ振り返り、そのまま固まった。

 当の本人がここにいたのである。

 近くにハロが、相も変わらず、マイドッなど間抜けな声を発してピョンピョンしている。

 「まあ、驚かせてしまったのならすみません。わたくし、喉が渇いてしまって…。それに、笑わないでくださいね、だいぶお腹もすいてしまいましたの。こちらは食堂ですか?なにかいただけるとうれしいのですが…。」

 「…って、ちょっと待って!」

 「鍵とか、してないわけ!?」

 ようやく我に返り、慌てた。

 「やだぁ!なんでザフトの子が勝手に歩き回ってるわけの?」

 フレイは嫌悪感をあらわにした。

 「あら、勝手に…ではありませんわ。わたくしちゃんとお部屋で聞きしましたのよ。でかけてもいいですかって…。それも3度も。」

 そのままフレイのところまで行った。

 「それに、わたくしはザフトではありません。ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック・アライアンス・オブ…。」

 「なっ、なんだって一緒よ!コーディネイターなんだから!」

 「同じではありませんわ。確かにわたくしはコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの。…あなたも、軍の方ではないのでしょう?でしたら、わたくしとあなたは同じですわ。」

 そして、右手を差し出した。

 「ご挨拶が遅れました。わたくしは…。」

 「ちょっと、やだ…やめてよ!」

 ラクスが名乗りかけた時、フレイはあからさまに嫌な態度を見せ遮った。

 「冗談じゃないわ!なんで私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ。」

 その顔に嫌悪が浮かんでいる。

 そして、フレイは叫んだ。

 「コーディネイターのくせに、なれなれしくしないで!」

 その言葉に周囲は凍り付いた。

 そして、改めて思い知らされた。軍の人間だけではない。コーディネイターかナチュラルか、それによって、本人が決して変えることのできないその生まれを、嫌う人間がいることを。

 

 

 ラクスはキラとヒロが食事をもって、戻っていき、そこで幕を引いたが、食堂は空気が重かった。

 「フレイって、ブルーコスモス?」

 カズィがぼそっと聞いた。 

 「違うわよ!でも、あの人たちの言ってることって間違ってないじゃない。病気でもないのに、遺伝子を操作した人間なんて、やっぱり自然に逆らった間違った存在よ!…みんなだって、ほんとはそう思ってるんでしょ!?」

 心外そうに声を荒げたフレイであったが、むっとした表情で言いい、周りを見回した。

 ブルーコスモス。

 もともとは前世紀からC.E.初頭にかけ誕生した自然保護団体である。法律で禁止下のなかでも極秘裏に誕生していったコーディネイターが社会で活躍するにつれ、既存の宗教団体の保守勢力も加わり、反コーディネイター、反プラントの思想潮流になっていた。

 当初は、遺伝子改変に対する抗議活動が中心であったが、次第に過激化していき、迫害やテロ行為を行う者も多くなっていった。

 ヒロがいた村を襲ったのも、そうした過激化したブルーコスモスである。

ただ、反コーディネイターの感情を持つ人すべてがブルーコスモスというわけではなく、その中にもブルーコスモスを嫌う者もいる。

 しかし、賛同者は多く、政界、軍の有力者まで及んでいる。

 フレイのように心情的に同情、同意している者もいる。

 ミリアリアもカズィも黙ってしまった。

 「…だから…。」

 そんな中、ルキナは口を開いた。

 「…間違った存在ってなんなのよ…。そんなの誰が決めたのよ…。」

 ルキナはフレイに非難の目を向けた。

 「だって…禁止だって決められたじゃない、それでも遺伝子を操作するのよ。間違いを間違いって言って悪いの!?」

 同意されると思っていたフレイは、負けじと反論した。

 「間違いって言っても、今もこうしているのよ。さっき、あなたの目の前で話をしていたのよ。…生きているのよ…。」

 立ち上がった。手がその言葉に許せないのか、こぶしを強く握りしめていた。

 「…そう、言われたこともないのに…。勝手な論理を押し付けないで。」

 そのまま立ち去ろうとした。

 「ルキナ、待って!」

 ミリアリアが立ち上がりルキナを止めようとした。

 「さっきの子のところに行くだけよ。ヒロとキラだけだと困ったことあったら、大変でしょ。」

 振り返らず食堂を後にした。

 

 

 「またここに居なくてはいけませんの?」

 ラクスは寂しそうな顔を2人に向けた。

 「ええ…そうですよ。」

 キラが食事のトレイをテーブルに置き、答えた。

 「つまりませんわ。ずっと1人で…。わたくしも向こうでみなさんとお話ししながら頂きたいのに…。」

 残念そうに言い、椅子に座った。

 「仕方ないと思います。コーディネイターのこと…あまり好きじゃないって人もいるし…。」

 「でも、あなたは優しいのですね。ありがとう。それに…、ヒロも。」

 「…僕はついでですか?」

 ヒロは肩を落とした。

 「…僕は、僕もコーディネイターですから…。」

 キラは後ろめたい気分になりながら思い切っていった。

 ラクスは不思議そうに訊いた。

 「あなたがやさしいのは、あなただからでしょう?…お名前を教えていただけます?」

 「あ、キラです。キラ・ヤマト…。」

 キラは顔を赤らめて名乗った。

 「そう。ありがとう、キラさま。」

 2人の沈みかけた気分をラクスのほんわかな雰囲気が和ませた。

 「もし…ここで、一人で寂しかったら、僕たちが来ますよ。」

 ヒロが提案した。

 「それもよろしいですわね。」

 話し相手ができ、ラクスは明るく賛成した。

 「それも、いいけど…。2人とも、忘れてない?」

 そこへルキナが入って来た。

 「彼女…。女の子なのよ。そんなに気安く入るのは…。」

 2人ともハッと気づいた。そして、急に顔を赤らめた。

 「私も、来るのから…。それでよろしいですか?」

 ルキナはラクスに尋ねた。

 「まあ、お話相手が増えまして、うれしいですわ。まだ、ご挨拶がまだでしたね。わたくしラクス・クラインですわ。」

 「…ルキナ・セルヴィウスです。」

 先の食堂での出来事を振り払うように、この一室は和やかな雰囲気になった。

 

 

 

 

 「オデル・エーアスト。出頭いたしました。」

 オデルが入っていったのは国防委員長執務室。

 部屋には人が一人椅子に座っていた。

 この部屋の主、国防委員会委員長、パトリック・ザラである。

 「うむ。さっそくだが、エーアスト、ユニウスセブン追悼式典のため視察に行った民間船が行方不明のことはしっているな。」

 「はい。」

 さきほど、ニュースで流れていたが…。

 「その捜索にクルーゼ隊を向かわせる。だが、先の戦闘でパイロット、MSが十分とはいえない。」

 その言葉からオデルは、パトリックが呼び出した理由が分かった

 「自分も加われ、と。捜索の任であれば、さほど人手は必要ないと思われますが…。」 「ユニウスセブンは現在、地球の引力にひかれデブリの中にある。そして、すでに捜索に向かったユン・ロー隊の偵察のジンも戻らない。その意味がわかるな?」

 なるほど。もしかしたら、地球軍と遭遇してしまった可能性もある。ゆえに人員が必要となったわけか…。とはいえ、ザラ委員長の事だ。ナチュラル相手に、多く割けたくもない。

 「クルーゼ隊は明日、18:00に出航する。これは特務だ、エーアスト。今は、アスナール隊の麾下にあるが、フェイスだということを忘れるなよ。」

 「わかりました。」

 オデルは敬礼し、その場を後にした。

 

 

 「そんなことがあったのか…。」

 ギースはミリアリアとトールから食堂での出来事を聞いた。

 「あの…ギースさん。食堂でのルキナのこと…。」

 聞いていいのか分からない思いがあった。

 が、自分自身ちゃんとこのことについて考えたい。

 ミリアリアは思い切ってギースに尋ねようとした。

 「ミリィちゃん…君が聞きたいことなんとなくわかるよ…。もちろん、興味本位じゃなくてルキナ少尉の事を心配してのこともね。…けど、それについては自分からは言えないことなんだ。これは…ルキナ少尉が自分の口からじゃないと…。」

 トールはいったい何なのかわからない顔をしていた。

 「…コーディネイターもナチュラルも、こう戦争していて、お互い憎んだり、差別したりして忘れがちになってるけど…。」

 ギースは話を続けた。

 「どちらもヒトであるんだけどね。」

 

 

 通信士のシートのついていたパルは計器が反応をしたのを見て、持っていたドリンクを放り出し、計器をいじった。

 「艦長!」

 そして、マリューを呼んだ。

 「つ、通信です!地球軍第八艦隊の暗号パルスです。」

 

 地球軍第八艦隊の麾下の部隊が先遣隊として、アークエンジェルを探していたのだ。

 ようやく仲間の下に合流できる。

 その知らせに艦内はほっとした空気が流れた。

 あともう少しの辛抱だ。

 希望の光が差していた。

 

 しかし、その先遣隊を捉えたザフト艦がいたことをアークエンジェルはこのとき知る由もなかった。

 

 

 

 


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