機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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どうもお待たせしました。
虚空の戦場編、といううべきか、第1のステージの後半に入ります。
…の前の、ちょっとした話です。



PHASE‐8 閑話

 地中海の海域の1つで、イタリア半島とバルカン半島に囲まれた海、アドリア海。

 この海の沿岸の都市の多くは、かつて貿易によって繁栄した美しい街並みが海の美しき色と相まって、今も多くの人々を魅了し続けている。

 ホテル「カルロッタ・スメラルド」はそのような海に浮かぶ島に建てられている。

 

 

 「本当に…いいのですか?私が…このようなきれいなドレスを着ても…。」

 美しいドレスに身を包まれたリィズは困惑気味に言った。

 「あらっ、とってもお似合いよ。それに、手伝いをしたいといったのはあなたよ。」

 ジネットが微笑んだ。リィズはジネットにお世話になってばかりでは悪いと思い、何か手伝いをしたいと申し出た。

 そこでジネットはホテルの接客の手伝いをしてもらおうと思い、彼女にドレスをプレゼントした。

 「…しかし私、こういうの、まったく無関係な世界で育ってきましたし…。」

 リィズは自分には不相応なのではと思っていた。

 「大事なのは心よ。」

 ジネットはしゃがみ、リィズと同じ高さの目線になって静かに話した。

 「心からこの『カルロッタ・スメラルド』にいらっしゃるお客様を気持ちよくもてなすこと。あなたが今、身に着けている美しいドレスはその心の表れ。育ちや身分は関係ないわ。」

 ふたたびジネットはリィズに微笑んだ。

 「…ありがとうございます。」

 リィズは気恥ずかしそうにお礼を述べた。

 「さあ、もうすぐお客さまがいらっしゃるわ。ロビーの方へ行きましょ。」

 そう言い、リィズを促した。

 ジネットは、リィズが不慣れながらも歩く後ろ姿を見て、数年前の事を思い出した。

 そういえば、あの子もこんな感じだったわね。

 最初は恥ずかしく、自分にできるか不安そうであったが、今では経営を一部任せられるまでになった。

 しかし、別の方は…どうやらまだ途上のようであった。

 窓からこのホテルから少し離れた小島を眺めた。

 あそこの一室で、ここ数日、連絡を待ちながら、情報を収集している。

 後で、様子を見に行こうとジネットは思い、ロビーへ向かって行った。

 

 

 ホテルより少し離れた小島にはヴァイスウルフの面々が根城にしている。

 外見上からはただホテルの離れのように見え、実際、彼らはその建物で寝泊まりしているが、島の海岸の下にはMSや任務に必要な時の移動手段が置かれている格納庫がある。

 

 

 ラジオからのニュースや音楽を聞きながら浜辺で、アウトドア用の椅子を傾けさせ、ルドルフはうたたねをしていた。

 昔から仕事がないときはこのように浜辺でワインやウィスキーなど酒を飲み、気ままに過ごしてきた。このように建物ができた今でも、それは変わらない。

 人の気配を感じたルドルフがそちらに目を向けると、ジネットがこちらにやってきていた。

 「相も変わらずだけど…今は2月よ。そろそろ、年齢も考えたらどう?」

 「寒かろうが、暑かろうが、自分が好きなことはやめられないんだよ。」

 (…次に、ユニウスセブン追悼、1周年を控え…)

 プラント側のニュースが流れた。内容はこの戦争の発端となったユニウスセブンのことについてである。

 さまざまな人がやってくるこのホテルは中立のスタイルをとっている。政治的な立場で客を選ばないし、やってくる客の情報をどこかに流すこともしない。

 ゆえに、ニュースなどの番組も、プラント、大西洋連邦、オーブといったさまざまな国のを流す。

 ジネットはこのユニウスセブンのニュースを聞き、溜息をついた。

 「あれから70年。…結局また、核が使われることになるなんて…。」

 「…70年も経ったんだ。もう当時を知る人間はほぼいない。俺たちだって、その当時を体験したわけではない。」

 ルドルフは起き上がり、胡坐をかいてそこに肘をついた。

 「…そうね。」

 ふたたびジネットは溜息を付いた。

 コズミック・イラ。その統一暦が制定する前、世界は混迷の時代だった。石油資源が枯渇、環境汚染が深刻になり、不況の嵐が訪れた。それと相まって、宗教・民族紛争が激化し、世界は国家統合・再編を目指した戦争へと突入した。

 さらに、S型インフルエンザが流行したため、多くの死者を出していった。

 終わりの見えない地獄が続いていく中、中央アジアで核兵器が使用される。このことが多くの人々に衝撃を与えたのか、それを契機に、世界中で紛争終結の機運が高まっていった。

 そして、C.E.9年、新しい統一暦、コズミック・イラの制定と現在の国家の枠組みになっていった。その元年とされたのが核兵器を使用された年である。そして、その核兵器の仕様を「最後の核」と呼んだ。

 「これから…どうなっていくのでしょうね?」

 「…さあな。」

 ルドルフもジネットも紛争終結の機運が高まっていく中、生まれた世代で実際自分たちはその混迷を経験していない。しかし、親から見てそれを直に感じ取って育った部分もあり、その残りつづけた暗いものを味わったこともある。

 ゆえに、今の戦争に何とも言えない思いであった。

 「ところで、何か用事があって来たんじゃないか?」

 ルドルフがジネットに尋ねた。

 「…そう言えば、あなたに依頼が来ているわよ。」

 ジネットがルドルフにプリントアウトした依頼を渡した。

 「珍しいな…。」

 ほとんど依頼はもうミレーユを通じてきて、ヴァイスウルフの面々に任せているため、ジネットから、そして自分あてに来るということは滅多にない。

 来るのは前から知っている者のみだ。

 ルドルフは依頼に目を通した。

 その内容に思わず笑みがこぼれた。

 「懐かしい人間からと思ったら…、確かシグルドたちは中にいたよな。」

 ルドルフは中へと入っていった。

 

 

 格納庫の隣には大きくドーム状の部屋がある。そこは、実際のMSを動かし、MS同士の模擬戦ができる場所になっていた。

 今、そこに2機のプロト・ジンが向かい合って立っている。

 手には訓練用の剣を持っている。

 「…準備はいいか?」

 そのうちの1機に乗っているシグルドは向かいのジンが準備できたかを尋ねた。声の調子はなかばやれやれといった感じだった。

 (いつでも、いいぜ、シグルド!)

 そんな彼とは逆にアバンは意気込み十分という様子だった。

 「では、始めるぞ。」

 そう言い、お互い剣を構えた。

 なかなかシミュレーターでなかなか動かせないでいたアバンは「習うより慣れろだ!」と実際に乗ると言いだし、訓練相手をちょうど任務から帰って来たシグルドにせがんだ。

 シグルドはフォルテやヒロが戻って来れないため、その分の任務もあり、本当はゆっくり休みたいのだが、あまりの執拗なアバンの頼みにとうとう折れ、いまに至る。

 「行くぜ!」

 意気揚々とアバンはレバーを押し、フットペダルを踏んだ。

 が、彼の強い調子に反して彼のジンはのろのろと動き、ぎくしゃくとした動きだった。

 「ちくしょー!」

 アバンは何とか必死にバランスを保とうと、必死にレバーを動かす。

 なんとかバランスをとり一息ついた瞬間、警告音がないコクピットの扉がから叩かれるような音がした。

 モニターで見ると、すでにシグルドのジンが近くにいて、アバンのジンのコクピットに訓練用の剣を当てたのである。

 勝負は一瞬でついた。

 「これで…終わりだ。わかっただろ?まだ、MSを動かせないって。」

 そう言い、シグルドは反転し、戻ろうとした。

 アバンは悔しがり、シグルドに通信を入れた。

 「シグルド、もう1回…!もう1回だけ!」

 その言葉に大きくため息をつき、シグルドは答えた。

 「アバン、戦場にもう1回はないんだぞ。おまえのその行動力は認める。だが、急ぎすぎて失敗したら意味がないんだぞ。」

 そう言い、ジンを動かした。

 が、戻りながら足元が何か引きずる重い感じがした。

 モニターをそちらに移すと、アバンのジンがシグルドのジンの左脚をもっていた。

 アバンのジン自身は操縦できないこともあってか引きずられる形になっていた。

 「お願い!もう一度~!」

 「いい加減にしろ、ふざけてやってるんじゃない!」

 必死にしがみつきしつこいアバンのジンを振り払おうとシグルドも必死に動かした。

 

 

 兵器として使われ人によっては恐怖の対象のMSがこんな珍妙なやり取りをしているのをドームの上部にある窓からフィオリーナが見ていた。

 ヒロの作業用ジンのメンテナンス料やフォルテにむりやり注文し作らされた特注のジンの請求書を渡しにしたのだが、不在のため、渡せず、その時ちょうど、模擬戦をやると聞いたので、興味をもって見に来たのだ。

 「こうやって見ると、シグってすごいですよねー。ナチュラルなのにあそこまでMSを動かせるなんて…。天才って彼の事を指すんですね~。」

 フィオリーナが感嘆し、オーティスに話しかけた。

 オーティスは模擬戦を見に来たというより自分の趣味のコーヒーをブレンドしたりしてコーヒーを淹れているのに夢中であった。

 そんな彼であったが、フィオリーナの言葉に微笑んで返答した。

 「才能があるからって。何もしないでできるものではないよ。君たちコーディネイターもそうだろ?ナチュラルでも、コーディネイターでも、何もしなければ何も得れない。シグルドも努力したからこそ、あそこまで動かせるのだよ。」

 オーティスはそう言いながら、彼女に自分が淹れたコーヒーを渡した。

 そして、続けた。

 「しかし、自分の才能の限界は自分ではわらないものだよ。限界だと思っていても、遠く及ばないと思っても、そこが限界点ではないのかもしれない。そして、それは周りと比較して決められるものではない。競争というのは、あくまでも実力をはかる方法の1つだ。そればかりに目がいっては本当の実力も限界も、己がしたいことも見えなくなってしまう。」

 言い終え、オーティスはにっこりした。

 「とはいっても、いきなりステップを踏み越えるのは尚早だよ、アバン。」

 「…何?」

 ちょうど、訓練場から戻ってきて入って来たアバンに声をかけた。ゼィゼィと息を荒げている。いきなり声をかけられ、意味がわからなかった。シグルドは呆れ顔でその様子を見ていた。

 「自分にできることをゆっくりと着実に行う。そうすれば、いつかできるようになる。MSだろうと、何であろうと同じことさ。」

 アバンにオーティスは説明した。

 「けどよ~。俺もはやく仕事がしたいんだよ。」

 アバンは口を尖らせた。

 「さっきも言っただろ。それで死んでしまったら、すべてがお終いだと。それをわかっていて、行かせる気はない。…ミストラルにも乗れるんだ。方法はいろいろある。MSに乗れるのがすべてではない。」

 シグルドも窘めるように言った。

 アバンは彼らの言葉に理解はしつつもどこか納得していない顔だった。

 そこへ、ルドルフとミレーユがやって来た。

 ここ数日、ミレーユはフォルテたちからの連絡を待っていたり、ヘリオポリスの件の情報収集等に追われていたためか、疲れ気味の顔であった。

 「何かわかったか、ミレーユ?」

 シグルドがミレーユに尋ねた。

 ここに来たということは、何かわかったのだろう。

 「2人からは連絡は来ないけど…、連合の新造艦と行動を共にしていることがわかったわ。一応、彼らなりに任務を続行しているのでしょう…。今回の件も踏まえて、私はこれからハルバートン准将に会いに月に行くわ。…まあ、先客がいたらしいけど。オーティスも一緒に来てくれるかしら?」

 ミレーユはため息交じりに答え、そして、オーティスに聞いた。

 「ええ、月まで美女とご同行できるとは…、うれしい限りですよ。」

 オーティスがコーヒーを注ぎながら答えた。

 そして、今度はルドルフが言った。

 「で、俺個人に珍しく依頼がまた来てね…。アバン、準備しておけ。行くぞ。」

 それを聞いたアバンは先ほどの沈んだ様子から一変した。

 「なに?仕事?行く。行く!MS乗るの?」

 「おまえな…。」

 「ああー、MSには乗らない。ただ、ランチャー背負って、ハーフトラック乗ったりしてMSを相手にする。」

 「え~!?」

 MSに乗れないと知り、アバンは残念がった。

 「仕方ないだろ。レジスタンスなんだし…。とはいえ…、シグルド、次の任務が終わったらお前も来てくれないか?あった方が心強いし。」

 ルドルフはシグルドに言った。

 「わかりました。けど…どこへ?」

 「あれ?言ってなかったっけ?北アフリカだ。あそこで『砂漠の虎』と戦っているレジスタンスを助けるために…だ。とは言っても、本当は…。まあ、いいや、シグルド。お前には見せてもいいだろう。」

 そう言い、先ほど、ジネットから受けとったプリントアウトした依頼内容を渡した。

 シグルドはルドルフ個人の依頼を読むことはめったにないことなので、不思議に思いながら手渡された紙を読み始めた。

 「…これは。」

 読み進むにつれ、思わず苦笑してしまった。

 「おもしろいだろ?」

 「…面白いというべきなのですか?」

 「というわけだ。じゃあ、俺は早速、準備をしてくるからな。」

 そう言い、部屋から出て行った。

 「一体何ですか?」

 シグルドとルドルフのやり取りにアバンとフィオリーナはわからなかった。

 フィオはオーティスに尋ねた。

 「まあ、立ち入るわけにはいかないだろ?」

 オーティスは苦笑しながら答えた。

 

 

 

 その頃…

 

 アルテミスからからくも脱出し、それと同時にザフトの艦の追尾を振り切れたアークエンジェルであったが、問題は山積みであった。

 補給を受けられなかったため、物資がなく本部がある月までもたないのである。

 その影響が今アークエンジェル内にて、様々なところで出ている。

 

 ヒロはクリーガーのコクピットでOSの調整をしていると、人が来た気配がした

 フォルテかなと思いそちらの方に目を向けると意外な人物がいた。

 「あれ?ルキナ…、どうしてここに?」

 ヒロは驚いた。

 ここにいることもそうだが、ここで作業しているメカニックたちと同じ作業服を着ていた。

 「…もう正体は話したし、ラミアス艦長たちは今までのままで、って言ってくれたけど…、この艦人手不足でしょ?民間人の学生たちが手伝っているのに、私たちが何もしないっていうのは、と思って…。で、今一番人がいなくて大変な整備の方を手伝っているの。」

 ヒロはコクピットから出てきた。下の方を向けると、ギースもいた。

 「もちろんあなたたちの機体のデータを盗み取るなんてことはしないようにってバジルール少尉から釘を刺されたけどね。」

 「なら、ここに来ていいの?」

 ヒロが茶化した。

 「マードック軍曹からキラとヒロに言伝を頼まれてきたのよ。あまり弾もないから、戦闘ではあまり実弾系は使わないでほしいって。」

 ルキナが返した。

 そう、弾薬も補給できてないので、ある分でしかやっていくしかない。

 ヒロは溜息をついた。

 「といってもね…。」

そこへキラがやって来た。ストライクのメンテナンスを終えてきていた。

 「ヒロ…、ガンダムの武装の弾が少ないってことなんでけど…。」

彼もルキナから言伝を聞いていたようである。

「ん…?ガンダム?ストライクじゃないの?」

 聞きなれない単語を耳にしたヒロは気になり尋ねた。

 「ああ…。起動画面の文字、General Unilateral…て出るでしょ?あれの頭文字から『ガンダム』って。そのあとストライクって名前だって知ったんだけど…ついね。」

 「ふーん。」

 そういえば、クリーガーを起動するときもその文字が出る。普段気にしてなかったが、言われればそう読める。

 「じゃあ、クリーガーもガンダム…かな?」

 「…そうかな?」

自分がなんとなく言ってはいるが…そう改めて聞かれ、キラも返答に困った。

 「ところで…キラは何か用があるんじゃなかったの?」

 「ああ、そうそう。弾が少ないことで…。」

 ルキナに言われ、キラはヒロに機体の弾薬、ストライクとクリーガーの共通に使うイーゲルシュテルンについての事を改めて聞いた。

 「ああ、そのこと…。キラはどうするの?」

 「僕は、エールストライカーを装備すれば何とかやっていけるよ。まあ、どのみちそっちの方がいいし。」

 「ということは、一番気をつけなくちゃいけないのは僕だけか。フォルテのは、持ってきた僕が乗る予定だったジンから使えるし…。」

 実弾系を多く備えているのはランチャーストライカーであった。が、キラにとって、重装備であり、エールストライカーのほうが使いやすいと思い、その装備で基本戦闘に臨むとのことだ。

 アルテミスの脱出の際、同時にザフトの艦も振り切れたのが、唯一の幸いだった。

 

 

 ヒロとキラはメンテナンスを終え、2人は食堂へ向かった。

 ルキナはまだやることがあるとのことで、格納庫に残った。

 食堂では、トール、ミリアリア、カズィ、サイそして、サイがいて食事をしていた。

 サイの隣には、ヘリオポリスが崩壊し、遭難していた救命ポッドからみかけた赤い髪の毛の女の子もいた。

 彼女の名前は、フレイ・アルスター。

 この艦では、いつもサイと仲睦まじくいる様子を見かける。

 ヘリオポリス、アルテミスの脱出から、落ち着いた後、トールとミリアリアが話したが、手紙とは、フレイがサイから手紙をもらったという話である。そして、キラはフレイにほのかに好意を寄せているとのことだ。

 そのためか、キラはその様子を見るたび、少し顔を曇らせていた。

 「おっ…、整備完了したのか?」

 トールたちはこちらに気付き声をかけてきた。

 そして、気まずげな表情のフレイがキラに声をかけた。

 「あ…の、キラ、この間はごめんなさい。私…考えなしに言っちゃって。」

 「あんなこと…?」

 突然のことで、キラはどきまぎした。

 隣にいたヒロも唐突なことに驚くだけだった。

 「アルテミスで…、キラがコーディネイターって…。」

 「いいよ、別に。気にしてないから。…ホントのことだしね。」

 キラは無理に笑顔を作って答えた。

 「…ありがと。」

 キラからの言葉を聞いたフレイはホッとした顔になり、サイの方をみた。

 これらのやり取りをみて、ヒロは納得した。

 取調室であの司令からキラがロックの解除に協力をしている、と聞いたとき、こんな横暴な人たちにキラが協力するのかと思った。

 後で、聞こうとも思ったが、戻ってしばらくキラは元気なかったので、聞けなかった。おそらく、キラもひどいこと言われたのだろう。

 そう考えているとふと、ズボンをぎゅっと握られる、そんな感じがした。

 下の方をみると女の子がこちらを見て、おねだりの顔をした。

 それを見て、ヒロはああと納得し、彼女の目線と同じになるようにしゃがんだ。

 「また遊びたいんだね、エルちゃん。」

 そして、ジーニアスを彼女に渡した。

 「ありがとう、お兄ちゃん!」

 女の子は嬉しそうに母親のもとへと向かった。

 女の子の母親はこちらの方に向け、いつもありがとうございます、と頭を下げた。

 彼女はこの艦に乗っている人々の最年少で、今では避難民たちのマスコット的存在の女の子である。

 はじめはこの艦に乗って来たときは不安な顔をしていた。

 脱出後、少し艦内も落ち着いてきたころ、ヒロが持っているジーニアスに興味津々な顔を向けてきた。

 そこで、ジーニアスには時折、この子の遊ぶ相手になってもらっている。

 ジーニアスもなんだかんだと言いつつ、まんざらでもない様子だった。

 すこし、気分が軽くなったが、みんなが食べている食事に目を向けるとふたたび気が落ちた。

 ここにも補給を受けられなかった影響が出ていた。

 だが、しばらくして、アークエンジェルは補給を受けることになった。

 それは、このとき誰も考えてなかった方法で。

 そして、彼らは目にすることになる。

 あの…、悲劇の地を。

 

 

 




まさしく、タイトルどおりなのに、なぜか時間がかかった…。不思議だ。

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