機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

24 / 74
機体設定も合わせて投稿しました。



PHASE‐6 包囲網を突破せよ!

 アークエンジェルの居住区にいる避難民はみな不安を感じていた。

 仕方がない…。これまで、戦争で自分の身にいつ危険が及ぶか、という不安のない生活をしていたのだ。それが、当たり前だった。

 本当にいいところだった。

 ルキナはもうなくなってしまったヘリオポリスの街を思い出していた。

 コーディネイターだからとか、ナチュラルだからとか、それでお互い差別し憎しみ合うなんてことはない。お互いが関係なく暮らしている。さっきヘリオポリスの学生たちもそうである。

 キラがコーディネイターであること。

 しかし、彼らはキラを大切な仲間、大事な友達と言っていた。

 カタパルトで兵士に銃を向けられた時も、彼を庇おうとしていた。

 だからこそ、艦の仕事を手伝いに行ったヘリオポリスの学生たちの事を心配した。

 いくら手伝いとはいえ、一旦こうやって戦争に巻き込まれたら、戻れない。

 自分自身が身をもって味わったからこそ、そう思えた。

 

 

 ヴェサリウスよりMSが発進したのと同時に、ガモフ、ゼーベックからもそれぞれMSが発進した。

 それは、アークエンジェルからも確認できた。

 「後方より接近する熱源5!MSです。」

 「対MS戦闘用意!ミサイル発射管、13番から24番コリントス装填。バリアント両舷起動。目標データ入力急げ。」

 ナタルが対MS戦闘の用意の指示を出していった。

 ブリッジでは来たか、という緊張が走った。

 「機種特定‐ZGMF‐1017Mジンハイマニューバ、ZGMF‐515シグー、そして、これは…!Xナンバー…デュエル、バスター、ブリッツです!」

 一瞬、クルーたちは凍り付いた。

 「…奪ったGをすべて投入してきたというの…!?」

 マリューは呟いた。

 

 

 「まずいな…。俺の持っている武器じゃ、通じないか…。キラ、ヒロ!なるだけ戦艦から離れるなよ!…て、あれ?」

 その情報はフォルテにも通信で伝えられた。

 そして、2人に指示を出した瞬間、ストライクは何かに気付いたのか、前方の方に行ってしまった。

 「キラ!」

 「待て!お前まで行ったら、こっちが手に負えなくなる!キラも距離的に何とかなる!今は、こっちだ!」

 キラを追おうとしたヒロを止め、2機は後ろからくる5機に応戦の構えをした。

 

 

 「ゼーベックから2機来てくれたようですね…。シャン達は出撃してないのですね。」

 ニコルは自分の同期が出てこなかったのを心配した。

 機体は破損していないと聞いていたが、何かあったのか。

 「はん!あんな軟弱者、足手まといなだけだ!それよりヴァサリウスからは、もうアスランが出ている。遅れをとるなよ!」

 「ふん、あんなやつ。」

 それに対し、デュエルのパイロット、イザークは一蹴し、アスランに対抗心を燃やしていた。バスターのパイロット、ディアッカも同じであった。

 2人は、シャンルーのことを、「赤服」になれなかった落ちこぼれ、という認識している。

 向こうは迎撃してきている。

 それらを避けながら、イザークはアスランが戦闘しているMSが目に入った。

 「ディアッカとニコルは艦とあの傭兵を。俺とアスランであのMSをやる。」

 「わかりました。」

 「ええ!?」

 「文句はなしだ。でかい獲物だろ?」

 ディアッカは不満げだった。艦と傭兵ごときを相手にするより自分としてはあちらのMSを倒したかった。

 イザークはそれを一蹴し、ストライクの方へバーニアを吹かした。

 

 

 

 

 「隊長~、いいんすか?向こうにガンガン行かせても?」

 「バーツからその言葉が出るとは…意外だな。実弾系しかない俺たちの機体では、あの2機に対抗できない。…ところで、どうだ?その機体は?」

 (最高だぜ!この加速力…ノーマルとは断然違います。いいんですか、使っても?)

 「バーツ、遠慮しているのか?まあ、気にするな。俺の判断だ。」

 もともと、このジンハイマニューバはオデルに配備されたものであった。

 しかし、見ての通りオデルはシグーに乗っているため、そちらのほうは、現在乗っていない。機体を余らすよりはというのと、バーツの戦闘スタイルを考え、彼に搭乗させた。

 近づくにしたがって、警告音が鳴った。

 ジョルジュから通信が入った。

 (隊長、作戦通り自分はゼーベック周辺で待機します。バーツ、時間までヘマはするなよ?)

 (だ~れに言ってるんだ?こんなのでヘマしていたら、俺はここにはいないぞ。)

 (ふっ、それもそうだ。)

 3機のGに続き、彼らもスラスターを全開に迫った。

 

 

 「…来る!」

 5機。こちらからも確認できた。

 そのうち1機はストライクの方へ行ってしまった。

 追おうとしたかったが、すぐに2機のGの攻撃にさらされた。

 とにかく、こっちがまず先だ。

 ヒロはクリーガーを駆った。

 

 「…あれが、もう1機の…。」

 ディアッカはそちらの方に向けた。

 向こうの獲物はイザークにとられてしまった。

 せめて、こっちの方を落としてやる。

 バスターのバックパックに装備されているガンランチャーと高エネルギーライフルを展開し、クリーガーに向け発射した。

 

 ビームを避けながら、ヒロは右腕ガトリング砲を放った。

 とはいえ、実弾なのでさほど、効果はない。

 ビームライフルを使いたいが、エネルギーの消費もある。

 クリーガーは、今度は銃身に対艦刀が付けられたカービンを構え、放った。

 

 

 

 一方、ジンはアークエンジェルより離れないようにした。

 ブリッツがこちらの方にやって来る。

 ジンは突撃機銃を放ち、応戦した。

 アークエンジェルからの砲撃も加わるので、向こうは近づけない。

 「偶然か、狙ったか…。」

 ヒロがバスターを相手にしているので、長距離からの攻撃には心配しなくて済む。

 もう1機、ブリッツと呼ばれる機体が迫って来る。

 たしか、武装は近接戦闘を意識したのがほとんどだ。

 落とせなくても、近づけさせないことはできる。

 向こうも、アークエンジェルの防戦態勢もあってか攻めあぐねていた。

 それよりも…もう2機の動きが気がかりだった。

 さっき通信ではシグーとは言っていたが、あの形状はシグーアサルトだろうと思いながら、アークエンジェルの防衛線を越えにくいこともあるが、妙におとなしかった。

 その時、ビームが舷側に直撃した。

 バスターがこちらに向けて撃ってきたのだ。

 一瞬ヒヤリとした。

 アンチビーム爆雷のおかげで装甲が赤く白熱した程度で済んだが、これを見て、改めて、従来のMSと桁が違うと実感した。

 

 

 

 

 

 ヴェサリウスのブリッジではラウは考え込んでいた。

 こちらからも、後方からも確認されたのはMS3機であった。

 MAは出ていない。

 機体があれだけの損傷だった。ということは、まだムウ・ラ・フラガは出られないのか。

 なれば、こちらは思う存分やらせてもらう。

 「敵戦艦、まもなく本艦の有効射程圏内に入ります。」

 「こちらからも攻撃開始だ。」

 その報告にラウはアデスに命じた。

 「MSが展開中です。主砲の発射は…。」

 「友軍の艦砲に当たるような間抜けはいないさ。むこうは撃って来るぞ。」

 ラウはアデスの言葉を一蹴した。アデスは仕方なく号令した。

 「主砲発射準備!照準、敵戦艦!」

 

 ヴェサリウスがこちらをロックされているというのはアークエンジェルのブリッジからも確認された。

 こちらからもローエングリンを発射させたいが、そうはいかなかった。

 ムウのメビウス・ゼロが接近していたら巻き込まれてしまう可能性がある。

 そうなったら、この奇襲作戦は台無しになってしまう。

 (ダメです、艦長。)

 ヒロから通信が入った。

 (大尉が近くに…もうすぐ、ヴェサリウスに届きます。)

 「わかるのか!?」

 ナタルは彼の言葉を半信半疑だった。

 (…何となく、そんな感じがするんです。)

 「何となくって…。そんな勘だけで事を言われても…。」

 ナタルの言葉にマリューも同感だった。

が、彼の言葉を信じたい気持ちもあった。

ムウが間に合うのを祈るしかなかった。

 

 

 ラウは突然、はっとした。

 この感覚は…

 「機関最大、艦首下げ!ピッチ角60!」

 突然の命令にアデスは虚をつかれラウの方を見た。

 その時、

 「本艦底部より接近する熱源っ!MAです!」

 アデスは驚き、すぐさま指示をだした。

 が、間に合わない。

 ムウはガンバレルを展開し、リニアガンと同時に機関部に向けて発射した。

 ヴェサリウスの機関部はそれらの砲撃を受け、火を噴いた。

 「よぉっしゃあー!」

 それを確認したムウはガッツポーズした。

 そして、ヴァサリウスの外壁にアンカーを撃ち振り子のように方向転換し宙域を離脱した。

 

 作戦成功の報告はすぐアークエンジェルにもレーザー通信で伝えらえた。ブリッジでは歓声が上がった。

 マリューは先ほどまでの緊張を解くように一度息をつき、再びしゃんとした。

 「機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます。」

 「ローエングリン1番、2番、斉射用意!」

 「陽電子バンクチェンバー臨界、マズルチョーク電位安定しました。」

 それに合わせ、ナタルも指示を出した。CICは発射の準備を進めた。

 そして、

 特装砲‐ローエングリンがヴェサリウスに向け放った。

 ヴェサリウスは傷ついたエンジンで何とか回避行動し、右舷をかすめた。

 が、すさまじい衝撃が襲った。

 完全に戦闘能力を失ったのである。

 

 

ガモフよりヴェサリウスが被弾し、戦闘宙域の撤退という内容のレーザー通信が来た。

 その知らせにアスラン、イザーク、ディアッカ、ニコルは驚き呆然とした。

 先程までの有利な状況が覆されたからである。

 

 

 それはオデルたちにも知らされた。その報告を見たオデルはシグーの銃突撃機銃の上方にあるマガジンをはずし、新たに補てんした。

 その様子はフォルテからも見て取れた。その行動を不可解に思った。

 この状況から撤退するであろう。なのに、なぜ補てんする必要がある。

 思わずはっとした。

そしてアークエンジェルに通信を開いた。

 「アークエンジェル!後方から追って来るヤツじゃない、もう1隻のローラシア級は?どこ行った!?」

 

 「え?」

 その連絡を受け、このまま振り切るつもりでいたマリューは驚いた。

 CICでも、そうであった。

念のため、それを確認した。

 「…これは!」

 トノムラが驚き、急ぎ報告をしようとした瞬間、

 アークエンジェルが衝撃で揺れた。

 「何!?」

 どこからの砲撃か。

 すぐさま、CICから次づぎと報告が上がった。

 「ヘリオポリスの残骸に紛れ、MSが潜んでいます!」

「ローラシア級1機、こちらに近づいてまいります!いつの間に…。」

 ゼーベックはアークエンジェルの右後方に展開していた。

 デブリより新たに1機ジンが確認された。

 手にはパルルス改を持っていた。

 おそらく先ほどの攻撃はそれだろう。

 

 その攻撃はMSからも見えた。

 「ったく、やってくれるぜ!あいつはよ!」

 フォルテは毒づいた。

 「フォルテ!これは?」

 ヒロはわけが分からなかった。

 「第2ラウンドってことさ。」

 シグーアサルトとジンハイマニューバ―、ジンが接近してきた。

 「ジョルジュ、バーツ、おまえたちはうまく立ち回って。敵戦艦の砲撃を分散させるんだ。俺はあのMSたちのおとりになる。」

 (隊長もお気をつけて。)

 ジョルジュのジンがシグーアサルトにパルルス改を渡した。

 一方、シグーアサルトはロングライフルの方をジンに渡した。

 (ここでエリートぼんぼんに鼻を明かしますぜ!)

 3機は打ち合わせ通り、散開した。

 

 

 「火力は向こうが上よ。MSとうまく連携して。」

 エレンはブリッジで指示を出した。

 「この距離を絶対に崩すなよ。先ほどの戦闘から見て取れるように、特装砲と主砲が脅威だ。」

 ハルヴァンは操舵手に指示を出した。

 「…うまく行きますかね。」

 ハルヴァンはエレンに尋ねた。

 「わからないわ。…けど、こうなったらやるしかないわ。」

 

 

 

 

 もちろん、その様子はアスランたちからも見えた。

 「一体、何が?」

 彼らも状況が飲み込めてなかった。

 が、しばらくしてイザークのデュエルが先程まで相手にしていたストライクに打ち掛かった。

 これだけでも落としたいと考えたのだろう。

 クルーゼ隊は精鋭パイロットの集まるエリート部隊。その部隊が完敗し、エースパイロットのオデルが隊長とはいえ、ただの一部隊が敢闘するということ。そして、ナチュラル相手に後れを取るのはプライドの高い彼にとって屈辱であった。

 「イザーク、撤退だぞ!」

 それを見たアスランが止めようとした。

 どうであれ、いま自分たちには撤退命令が出されている。それを無視することは出来なかった。

 が、イザークはそれを聞き入れなかった。

 「おもしろそうじゃないか。」

 ディアッカもイザークに乗っかり、ストライクへと向かった。

 「まずい!」

 ヒロは4機に囲まれているキラの下へ行こうとしたが、シグーアサルトに阻まれた。

 ミサイルを放ち、それらが一気にこちらに来た。

 

 

 「ヒロ!」

 フォルテはジンをクリーガーの方へ向けた。

 オデル相手にヒロでは敵わない。

 今、落とされてないのは機体の性能のおかげだ。

 このままだと…。

 しかし、ジンからロングライフルの銃弾が来た。

 そして、ジンハイマニューバが襲う。

 ストライクにも、クリーガーにも加勢できない状況であった。

 

 

 アークエンジェルでも慌ただしく対応していた。

 襲ってきた戦艦は右後ろにいるため、そして、フォルテが応戦しているジンとジンハイマニューバの連携で火力を集中できない。

 何より、1番の心配はストライクのパワー残量であった。

 これまでの戦闘を考えると、だいぶ残量はないはずである。

 しかし、MSが入り乱れる中、援護することは出来なかった。

 

 ムウのメビウス・ゼロにもその状況がレーザー通信で伝えられた。

 「間に合ってくれよ!」

 ゼロのスラスターを全開にし、アークエンジェルへ急いで向かった。

 

 

 「このパイロット…。」

 先程からミサイル、突撃銃、バルカン砲と撃ちこんでくる。

 なんとか避けようとするが、猛攻に避けきれず当たる。

 それによりフェイズシフトの電力消費でバッテリーが減っていく。

 狙ってやっているのであった。

 こちらも応戦するが、向こうはなんなく避ける。

 まったく歯がたたなかった。

 

 

 

 そして、恐るべき事態が起きた。

 ストライクのフェイズシフトが落ちた。しかもイージスに捕獲されてしまったのである。

 イージスのMA形態によって、4本のかぎづめになった手脚にがっじり掴まれ、ストライクは身動きがとれなかった。

「キラっ!」

仲間が叫び声を上げる。

クリーガーもジンも助けに行ける状況ではない。

マリューも愕然とした。

その時、トノムラがムウからの通信に驚き、マリューに報告した。

 「艦長!フラガ大尉よりレーザー通信『ランチャーストライカー、カタパルト射出用意せよ!』」

 「え?」

 その内容にマリューも驚いた。

 

 

 

 その通信はフォルテとヒロにも伝えられた。

 予備電源のパックをつけるということはわかるが、この状況ではできない。

 イージスはストライクを確保したまま、後ろの戦艦に連行しようとしていた。

 他の3機もイージスの後ろについて行ってしまった。

 このままじゃ、連れていかれる。

 ダメだ…!

 ヒロは無力感に襲われた。

 さっき発進前の自分が守ると決めたこと。

 それが遠のいていく。

 自然とレバーを握っている手に力が入った

 なりふり構っていられなかった。

 

 

 「よそ見して…。もらったー!」

 ジンハイマニューバが、クリーガーがストライクの方に目がいた隙を狙い、剣を振りかざした。

 その瞬間、

 クリーガーのサーベルで斬られた。

 「なっ!?」

 さらに衝撃が走った。

 クリーガーの腕がモニターを覆っている。

 押し倒されたようである。

 そして、クリーガーはスラスターを全開にし、イージスへと加速した。

 「…行かせるか。」

 オデルのシグーアサルトも追っていった。

 フォルテは一瞬向かうべきか迷ったが、レーダーの反応を見て、追いかけた。

 「っ行かせるかよ!」

 バーツはジンハイマニューバを起き上がらせ、阻もうとしたが、離脱の直前、ジンから閃光弾と発煙弾が投げられた。

 視界が一瞬、見えなくなりようやく晴れたころ。

 ヴェサリウスを撃ったMAが迫ってきていた。

 すぐさま応戦に入った。

 それに、敵戦艦の事もある。

 結局、バーツは彼らを阻むことはできず、追いかけることもできなかった。

 

 

 「艦長、アスラン・ザラより通信です。こちらの方に捕獲した機体を一旦、収容したいとのことですが…。」

 リーネがアスランから来た通信をエレンに報告した。

 「この状況でか!?」

 ハルヴァンは驚いた。

 たしかに、ガモフよりこちらの方が近い。

 しかし、敵戦艦から距離はとっているが、安全に着艦できるかはわからなかった。

 「リーネ、アスランに伝えて。『ハッチは開けるけど、保証はしない。』と。」

 

 

 イージスに捕獲されたストライクのコクピットではキラは何が起きたのか分からなかった。

 フェイズシフトが落ちてしまった。

 そして、デュエルのサーベルが迫ってきて、やられると思った。

 が、感じた衝撃は加速時のGであった。

 通信機から目まぐるしくやり取りが交わされていた。

 「アスラン…、どうするつもりだ!?」

 キラはアスランに叫んだ。

 (このまま連行する。)

 その言葉にキラは驚いた。

 「いやだっ!ぼくはザフトの艦になんか行かないっ!」

 (いい加減にしろ!…来るんだ、キラ。でないと…俺は、お前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!)

 「アスラン…。」

 (「血のバレンタイン」で母も死んだ…。俺はっ…これ以上…。)

 アスランの苦渋の声が響いた。

 2人が交わす言葉を失った。

 

 その時、イージスから接近の警告音が鳴った。

 「何だ?」

 アスランが確認すると、もう1機がこちらに向かって来るのが見えた。

 (キラァァァァ!)

 ストライクからヒロの声が聞こえた。

 「ヒロ?」

 ということは今近づいてきているのは、クリーガーなのか。

 

 「あっちの方を落とす!行くぞ。」

 イージスの後に付いてきていた他の3機のうち、イザークがクリーガーの方に向かった。せっかく、ストライクを落とせそうだったのにアスランに邪魔されてしまい、鬱憤がたまっていた。

 この際、あっちを落とそうと向かった。

 バスター、ブリッツもデュエルに続いた。

 「飛び込んでくるなんてバカじゃないのか?」

 ディアッカはバスターのバックパックの大型砲を構えた。

 「援護します。」

 ブリッツが近づいて左腕に装備されているトリケロス‐攻防一体になっている装備のライフルを向ける。

 「俺が落とすんだからな!」

 デュエルが背部にマウントされているビームサーベルを持ち接近してくる。

 3機が同時に迫って来る。

 そんなの相手にしている暇はない。

 まずどこから来る。

 その瞬間、攻撃してくる順番が直感で見えた。

 まずは!

 

 バスターからガンランチャーとライフルが放たれる。

 それを避ける。

 避ける動きを予測して、その左足にニコルはライフルを放つ。

 が、瞬間。

 スラスターを使い、ギリギリのところで避けられた。

 「避けられた!」

 ニコルは驚いた。

 だが、上から間髪いれずデュエルが迫る。

 「もらったー!」

 イザークは勝ちを確信した。その体制からでは防御は間に合わない。

 サーベルで突こうとした。

 それを狙ったかのように一気に脚部のスラスターを全開にし、クリーガーは一回転した。

 そして、下の方に行ってしまったデュエルの背中を蹴り跳び、イージスへと再びスラスターを全開にして向かった。

 「何―!?」

 3人はただ驚いた。

 その間にシグーアサルト、ジンが追い越して行った。

 

 

 

 クリーガーがイージスにガトリングガンを放った。

 「クっ!」

 この状態では迎撃できない。アスランは防御態勢をとるため、イージスはMA形態からふたたびMS形態に戻した。

 それによってストライクも自由の身になった。

 クリーガーがストライクに近づく。

 「キラ!アークエンジェルからランチャーストライカーが射出される。早く行って!」

 「う…うん。」

 キラは一瞬イージスを見やり、アークエンジェルへと向かった。

 「キラ!」

 アスランは追いかけようしたが、クリーガーに阻まれた。

 「行かせるかー!」

 ビームライフルを向けた。

 キラの方を気にしていたためとっさに防御態勢がとれなかった。

 まずい…。

 (アスラン、その盾借りるぞ!)

 通信から声が聞こえた。

 「え?」

 近くにシグーアサルトがいた。

 イージスから盾をかり、クリーガーが放ったビームライフルを防いだ。

 そして、そのままクリーガーの方へミサイルを放ち、向かった。

 手にはパルルス改を持っていた。

 

 クリーガーはミサイルを防ごうと盾を構えた。

 その反動で盾が破壊さえた。

 その間に近距離でシグーアサルトがいた。

 パルルス改をこちらに狙っている。

 いくら、威力がビームライフルより劣っていてもこの距離では。

 そして、防ぐ手立ても今失ったばかりである。

 やられる…。

 そう思った瞬間、

 爆炎が周りを覆った。

 その衝撃でオデルも一瞬怯んだ。

 追いかけてきたフォルテが無反動砲を撃ったのである。

 そして、狙ったようにフォルテはパルルス改を奪い、ある場所へ向け放った。

 その場所。

 ゼーベックがいる場所であった。

 

 ゼーベックでは警告音直後のいきなりの砲撃に驚いていた。

 衝撃が走る。

 「艦の損害は!?」

 「機関部が、やられました。」

 「航行ができません!」

 クルーたちが報告する。

 「一体、どうやって?」

 クルーは困惑していた。

 たしかにあの距離から撃つことは可能だ。だが、照準から撃つまでの動作があまりにも早すぎた。

 その疑問にハルヴァンが口を開いた。

 「…ゼーベックは敵戦艦の火力を一気に向けさせないため、そして、こちらの火力をすべてふるうため、横後ろをとった。そして、その間隔をずっと均一にしていた。敵戦艦、この艦、そして、打つ際の角度を読んでいれば、撃つことは可能だ。…理論上は。」

 「そんな凄腕のパイロットがいるのですか?」

 「フォルテ・ブライトンは…MS戦において、オデルより上よ。」

 エレンが険しい顔で言った。

 

 

 「すごい…、フォルテ。」

 ヒロは感嘆しているのも、つかの間、警告音が聞こえた。

 シグーアサルトがものすごい勢いで迫って来る。

 気迫もさきほどよりもすさまじく感じた。

 もうほとんどエネルギー切れに近いクリーガーには銃剣で防ぐしかなかった。

 シグーアサルトの剣と鍔迫り合いし、お互いの剣がバウンドした後、フェイズシフトが落ちた。

 「しまった…。」

 そう気にしているのもつかの間、向こうは次の動作に入っていた。

 腰にさしていた鞘からアサルトナイフを反対の手に持ち、突こうとしていた。

 間に合わない!

 (ヒロ!)

 フォルテのジンも向かってきているが、間に合わない状況だった。

 

 

 その時、ゼーベックから撤退の信号弾が出された。

 どうやらこれ以上の戦闘は出来ないと判断したのであろう。

 それを確認したのか、シグーアサルトのナイフが止まった。

 クリーガーのコクピットからギリギリの距離であった。

 (隊長!これ以上は…こっちももうムリです。)

 ジョルジュから通信が入った。

 どうやら先程のストライクも無事、換装し終えていて迎撃していた。

 4機のXナンバーも離脱していく。

 「わかった…。こっちも撤退する。」

 

 「終わったのか…。」

 ヒロは息を荒げていた。

 もし、信号弾が出されなければ…、

 もし、止めてくれなかったら…、

 自分は落とされていた。

 自分はこのシグーアサルトに手も足も出なかった。

 

 その時、シグーアサルトから通信が入った。

 (経験なしか…状況を見ながら慎重に戦闘を行うが、いざ仲間のためなら身を危険にさらしても行く…、か。)

 自分が、全く歯が立たなかった相手、その姿を今初めて見た。

 その声には先ほどの戦闘の鬼気迫るものからうって変って、落ち着いた雰囲気があった。

 (…名前は?)

 「ヒロ…グライナー。…傭兵です。」

 まだ息を整えられないながらも名前を名乗った。

 (…そうか。フォルテ、いい仲間ができたんだな。)

 (めっちゃ、世話が焼けるけどな。)

 シグーアサルトも離脱していった。

 ヒロは離脱していくのをずっと見ていた。

 

 (ヒロ。)

 フォルテから通信が入った。

 ジンがこちらに近づいてきていた。

 ジンの手をクリーガーの肩においた。

 (俺たちも帰るぞ。…守りきれたんだ。)

 彼はヒロの様子をみて、察したように、優しく接した。

 そうか、守れたんだ。

 そこでようやく彼も落ち着くことができた。

 

 

 

 宙域からの離脱途中、オデルのシグーアサルトはイージスに近づいた。

 「アスラン、すまなかったな。盾を返す。」

 (すみません。エーアスト隊長…。)

 「どうした?アスラン…。」

 アスランが暗い様子だったので尋ねた。

 彼の優秀さは聞いている。ゆえに先ほどの戦闘であのように割って入ったりするなど、おかしいと思った部分はいくつかあった。

 (いえ…。)

 「隠しても…わかるぞ。…何があった?」

 しばらくアスランは黙ったままだったが、重い口を開いた。

 (…先ほど自分が捕獲しようとした機体には、キラ・ヤマト‐自分の友人が乗っていたのです。彼もコーディネイターです。地球軍にいることがおかしい、こっちに来るように説得を試みたんです…。あのまま連れていけば、彼もいっしょに来てくれると思い…。)

 アスランから悲痛な声が聞こえた。

 「…そうだったのか。すまない。気が利かなくて。」

 (…いいえ。申し訳ございません。迷惑をかけてしまい…。)

 「いいんだ…。そのことを、他に話したりは?」

 (クルーゼ隊長には、話しました。が、他に誰も…。)

 「そうか…。」

 

 

 オデルはアスランがガモフに戻っていくのをしばらく見ていた。

 その時、ゼーベックより通信が入った。

 

 

 オデルは帰投後、ブリッジにすぐに向かった。

 そこには、バーツ、ジョルジュもいた。

 「何かあったのか。」

 「オデル、本国からあなたに出頭命令よ。」

 彼が来るのを待っていたエレンはプリントアウトした通信文をオデルに手渡した。

 渡された内容をみて、オデルは息をついた。

 「…やはりか。」

 ヘリオポリス崩壊の件で、評議会で臨時の査問会が行われることになった。クルーゼに出頭の命令がだされ、オデルにも出頭命令が出た。

 「ゼーベックの方はどうするんだ。クルーゼ隊はガモフに追わせるだろうが…。」

 そこへ、船外作業服をきたアビーが入って来た。

 「艦長、一応の応急措置はしたので航行はできますが、本格的な修理が必要です。それに、他に損傷したMSの修理もあるので、本国に戻った方がいいですね。」

 「…だ、そうよ。私たちもどの道本国に戻るわ。」

「なら、このままでいいな。…すまない、俺は少し休ませてもらう。」

 そう言い、オデルはブリッジを後にした。

 その様子を見ていたリーネが口を開いた。

 「先ほどの通信でもそうでしたが…、エーアスト隊長、元気ないですね。」

 「そりゃ、敵の新型艦とMSを取り逃がしまっちたからな…。」

 「そのために兵をまた向かわせなければいけない。今回、あれだけの犠牲者でも落とせなかった戦艦とMS。ということは、ふたたびおおくの犠牲を払わなければいけなくなる。…オデル隊長はそれが一番嫌なことだからな。」

 バーツとジョルジュのやり取りを聞きながら、エレンは彼の事を心配した。

 確かに2人の言ったこともあるだろうが、別の事もあるのではないか。

 エレンはそう感じた。

 

 

 オデルは1人部屋に戻りながら、先程の名前が脳裏によぎった。

 キラ…ヤマト、だと。

 そして、ヒロ。

先ほどの通信から、バイザー越しではあったが、あのヒロであった。

 なぜ!?あの二人が戦場にいるんだ!

 彼をそんな場所に居させたくなかった。

 だから…。

 それなのに…!

彼はこぶしを強く握りしめた。

 

 

 

 

 アークエンジェルはユーラシアの要塞、アルテミスの宙域まで来た。

 物資の搬入もロクにしなかったため、月本部まで補給なしではいけないためである。

 軍の認識コードを持たないこの艦を入れてもらえるかという懸念があったが、それに反し、あっさりと入港の許可が下りた。

 

 「そうだ、キラ、ヒロ。おまえたちに言うの忘れてたことがあったんだ。」

 ムウは格納庫から居住区へ戻る途中、呼び止めた。

 「…ストライクとクリーガーの起動プログラムをロックしておくんだ。きみたち以外に動かすことができないように。」

 2人はムウの言葉の意味が分からなかった。

 「やっぱり…なのかい?大尉さんよ。」

 近くにいたフォルテが意味ありげに聞き返した。

 「まあ、念のためってね。」

 この2人のやりとりにヒロとキラはますます意味が分からなかった。

 しかし、ほどなくして知ることとなる。

 

 

 




遅くなり、すみません。
初めて…1万字を超えた。
うう…、なるだけアルテミスまではテンポよく投稿しようとしたのに…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。