12月ごろまでには原作の第1話まで行けるように頑張ります。
第1話 別れ、そして旅立ち Ⅰ
深い森の中、自然あふれる景色に合わない巨大な機体が座していた。
ZGMF-1017「ジン」というザフトが兵器として開発した初の量産型MSであった。
しかし、その機体は戦闘によってなのか今はまったく動かないものとなっていた。 今、ヒロはそのコクピット周辺で何か作業をしていた。
「うーん。これで動くかな?ジーニアス動かしてみて。」
コクピット周りで作業していたヒロは中の機器に繋いでいた人工知能を搭載したタブレット‐ジーニアスに声をかけた。
『了解!』
ビープ音を鳴らしながらジーニアスは巨大な人型のモノを動かし始めた。
プラント・地球連合間で戦争が始まってから、壊れてしまったジンの中にはジャンク屋に回収され作業用として改造されるものもあった。今、ヒロも壊れていたジンを知り合いのジャンク屋兼運び屋から買い、作業用に改修しているであった。
今まで沈黙していたジンのモノアイが光り、立ち上がろうとしていたが、途中で止まり再び座ってしまった。
それを見て、ヒロはコクピットに向かった。コクピット内ではジーニアスがビービーと鳴らしながらエラーの表示を出していた。
「またダメだった?」
ようやく完成したと思っていたヒロは溜息まじりに尋ねた。
『うーん、コクピットはいちばん複雑だからなぁ…このパーツでは無理だったな…他にないか?』
「もうここにはないけど…ダグラスがまだいれば、あるかもしれない。」
昨日から運び屋のダグラスが来ている。このジンの改修のパーツもそこから調達していた。ヒロはジーニアスを連れ、村へ戻っていった。
しかし、いくらジーニアスの助けがあるにしてもやはり独学では無理なのだろうか。そんな気持ちがヒロにはあった。
いつも運び屋が来ると広場で物資の作業をしている。村は基本的に自給自足ではあるが、村で賄えないものもある。それらを月に1度来るダグラスに注文し、この村に近い海辺に運んでもらっている。10人前後しかいない静かなこの村でも、運び屋が来ると、みんな出てきて、それぞれ前回運び屋に頼んだものをもらったり、次来るときまでに欲しいものを注文したりと、賑やかになる。
広場に向かって行くとその入り口にハーディとアルフレッド、カイルがいた。ダグラスがどこにいるか聞こうとしていたヒロはハーディが持っていた手紙に不思議に思った。この村に手紙がくることは今までダグラスを通じてもなかった。ヒロはハーディに尋ねた。
「ハーディ、その手紙…?」
「ああ、どういうルートか知らないが、俺宛だとダグラスが持ってきてな。昔、軍にいた時の同期からでな。自分が上申したMS開発がようやく行われるらしい…。ところで、どうしたんだ?ジンを今日で完成させるって言ってなかったか?」
「うん、あともうちょっとだけどね。」
「しかし、凄いよ。一人であそこまでできるなんて…えらいよ。ヒロは。」
アルフレッドはヒロを褒めた。
「ありがとう。でも肝心な部分がまだで、しかもパーツがなくて…カイル、まだダグラスはいる?」
カイルはダグラスの下で何年も働いていて今ではダグラスの片腕として多くの事を任されている青年である。
「ああ、親方ならまだセシルさんと話していると思うよ。」
と広場の中央に目を向けた。
「今回はいつもより多いのね。大丈夫なの?」
村の代表であるセシルは運ばれた荷物を確認しながら、ダグラスに尋ねた。地上は、ザフトがニュートロンジャマーを散布したことで、地上はエネルギー、食糧危機になってしまっていた。
「物資が回らなくなる、なんて心配なら大丈夫だ。そっちはそっちでやっている。今回多いのは、また来月来られるかわからないからな。」
「この前話していた不審な集団の事?」
ここ最近、海辺の町では不審な人物を目撃したという情報が多くなった。ダグラスがまず一番に疑ったのは、ブルーコスモスであった。
「大西洋連邦に併合される前は、この国は親プラントだったからな。コーディネイターが住んでいるかもって思って各地をまわっているんじゃないか。」
それを聞いていた。ジェラルドは、
「何か、ご苦労なことするねぇ。戦争中なのに。暇なのか?」
と、皮肉を言った。それに対して、近くにいた研究者風の男、レクサスは珍しく窘めた。
「おまえもその標的だろうが…それだったら私達は一応この村から離れた方がいいじゃないか。」
この村は、それぞれの事情をかかえ、この混迷の世界から逃れた人々が集まって作った集落である。セシル・グライナーを代表として、ナチュラル・コーディネイター関係なく共に暮らしている。
ゆえにコーディネイター排斥を掲げるブルーコスモスにとって格好の標的であった。彼らの一部にはコーディネイターだけでなく、コーディネイターと共にいるナチュラルも許せないと思う者もいる。
それらのやり取りを聞いて、ダグラスは改めて
「まあ、まだブルーコスモスと決まったわけではないし…あと、こないだセシルが言っていた傭兵にもたのんだから、数日後には来てくれるだろう。」
そうこうとやり取りをしていた時、面々はヒロがこちらにやって来るのに気付きその話題をいったん区切った。
ヒロはみんなの様子がおかしいので気になったが、それには触れずダグラスに話した。
「ダグラスに頼みがあって…。ジンのパーツ何だけど…持ってきてくれたんのじゃダメだったから来月これらを持ってきてくれる?」
ヒロはジーニアスをダグラスに渡してパーツの一覧を見せた。それを見ながらダグラスは、気まずそうに答えた。
「うーん、来月は来られないかもしれないんだが…」
ヒロは、えっ!?と驚き、どうしようかしばらく考えた後、
「それじゃあ、僕が取りに行くよ。町から森までの道は知っているし、それぐらいの距離なら一人でも…」
「今はダメよ!」
ヒロが言い終わる前に、セシルに反対された。
この村の外に行くことはよく反対されている。去年も工学を学びたいといったら、村から出るのを反対された。たしかに今、外は戦争しているし危ないのはわかる。しかし、今回は近くの町である。ヒロはなんでと思いながらセシルを見た。
それに対し、セシルはヒロにはなるだけ隠していたかったと思いながら、
「ここ数か月、町に不審な集団がいるの。もし、この村が見つかったら大変なことになるの。この村だけじゃない、ダグラスや町の人たち、そしてこの土地を使わせてくれた人にも迷惑がかかるのよ。」
と答えた。ヒロはガックリした。
自分も村にできることをしたい。その思いでジーニアスにも手伝ってもらってジンを作業用に改修しようとしていたが、あと一歩まで来たのに…
それを聞いていたダグラスは、セシルとヒロに提案した。
「確かに町に行くのは危険だが…。これから帰るときに連れて行って明日の夕方までに俺がこっそりヒロ連れて帰る。俺のところの工場までで町も外にはでない。それでどうだ?」
それを聞いたヒロは、改めていいか尋ね、とうとうセシルも溜息を付きながら了承した。
「わかったわ。けど、ちゃんとダグラスの言うこと聞くのよ。」
「もちろん!ダグラス、すぐに準備してくるね!」
ヒロは支度をしに急ぎ家に戻っていった。その様子を見ていたジェラルドとレクサスがセシルの所に来た
「心配なのはわかるが、少しはヒロを信じてやれよ。プラントじゃ15歳はもう成人だぜ。」
「そうそう。それで私が『ジーニアス』を作るハメになってしまったし…。」
工学を学びに行かない代わりに、レクサスが独学をサポートに役に立つとして、人工知能を搭載したタブレットを作った。それが「ジーニアス」である。
「そろそろヒロにだけ隠すってのは、ヒロにとってもつらいしな。」
と、村唯一の居酒屋の店主サムがいった。
それを聞いていた彼の妻のイネースが反論した。
「ヒロは、あんたやジェラルド、レクサスと違って心優しい子よ!あんた達みたいな悪い人間に染まったらどうするのよ!」
「なんだと!この俺のどこが悪い人間だ!こんな格好いい男、どこ探したっていないぜ!」
それを聞いたジェラルドが言うと、エルサから
「顔がすでに悪人顔ですよ…」
ドッと笑いがおこり、ジェラルドもスネながらも、
「全く…そりゃ、エルサにとったら一番かっこいい男はアルフレッドだよな~。」
とちゃかしていた。
「何です!もうっジェラルドさんは!」
すっかり話題が変わっている村人たちのやり取りを見ながら、この村の最年長のマルコがその落ち着いた声でセシルに話しかけた。
「大丈夫、あの子はちゃんとわかってくれてるよ。」
一方、ヒロは一日だけでも外に行けることにワクワクしていた。この二年ぐらい町にいってない。支度を終え、玄関の戸を開けると、そこにハーディが待っていた。
「えっ…と、ヒロ、お前にとったら外に行けなくて辛いのはわかる。ああいう風には言ったが、セシルも出来ればおまえに外の世界を見せてあげたいと思っている。けど、今のこの状況を考えると…心配なんだ。」
「わかってるよ、ハーディ。わかってる。セシルの気持ちも…。セシルに出会わなかったら、僕はここにはいない。セシルだけじゃなく、村のみんな全員僕にとって大切なんだ…。」
外の世界を見てみたい、けどそれで村に何かあってほしくない。ヒロはここ数年そんな気持ちの板挟みになっていた。しばらく沈黙が流れ、それを切るようにハーディが口を開いた。
「何か、近くの町に行くだけなのに…これから長旅に行くみたいな重い雰囲気になってしまったな。すまない。ほら、ダグラスが待っているぞ。」
そして、ヒロをダグラスたち運び屋の四輪駆動車まで送ってた。村のみんなも見送りに来ていた。思わずヒロはさっきハーディも言っていた言葉を思い出した。
全く…たった1日なのに大げさだなと心の中で微笑み、そして四輪に乗り込んだ。ヒロが乗るのを確かめた後、ダグラスがセシルに
「じゃあ、明日の夕方までには必ず。」
と改めて約束し、行くぞと運び屋たちに声をかけ、出発した。
「それじゃあ、行ってきます。」
こうして、ヒロはみんなに手を振り、彼を乗せた車は近くの海辺の町へ向かった。