機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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新年、あけましておめでとうございます。
どうぞ、今年もよろしくおねがいいたします。


おまたせいたしました。
それでは、再開いたします。


第11話 別れ、そして旅立ち Ⅺ

 

 

 パナマ宇宙港。

 そこにガウェインは居た。

 シャトルに乗るためである。

 なんとか、サンディアゴ基地に辿り着いたが、MSとパイロットを失ったことで査問会を受けた。普段、厄介者と思っている者たちにとって、最大のチャンスだった。

 特殊遊撃部隊は解隊、そして各々、転属が出された。

 ガウェインは、ザフトと地球軍の戦闘がまったくない宇宙要塞の司令へ着任命令が出された。

 ようは左遷、である。

 その彼のもとに、一人、黄褐色の口ひげをたくわえた、将校がやって来た。

 「なんだ、案外、元気そうじゃないか。」

 聞いたことのある声というかあまりこんなところで出くわしたくない人物の声だと思い、ガウェインが振り返ると、ハルバートンがいた。

 隣には彼の副官である若い男がいた。

 「…何で、ここにいるんだ。」

 ガウェインがやはりと溜息をつきながら聞いた。

 「サンディアゴ基地にいると思ったら、パナマにいるって聞いてね。いや~、これでも忙しい身なのだぞ。そんな、サッサと行かんでくれよ。暇なんだろう。」

 「…その忙しい身の上の第八艦隊の司令官が暇なヤツに何の用か。」

 ハルバートンはガウェインの横に並んだ。

 「なに、前線から辺境に移されて、落ち込んでるんじゃないかと思ってね。」

 「思ってもないことを…。」

 同期であり、共に長い付き合いだからこそできるやりとりであった。

 

 「…で、例のモノは?」

 ハルバートンは、今までのやり取りから、一転して厳粛な顔を向け、ガウェインに尋ねた。

 「ああ。…ここにある。」

 ガウェインはポケットよりメモリーを取り出した。

 その中身は今までの任務で得たMSの運用のデータであった。

 ハルバートンが来た最大の目的はこれの受け取りであった。

 「まあ、うまく隠したっていうのもあるが、上の連中は積極的じゃなかったからな…。優秀なオペレーターがまとめたデータだ。しっかり、活用してくれ。」

 「そうか…、ありがとう。これでG計画も一歩進める。」

 ハルバートンはメモリーを受け取った。

 「おまえにそう言ってくれると、ありがたいよ。」

 ガウェインは少し、悲痛な面持ちになった。

 「…ウェインは…ギュンター少尉は、たとえ裏切り者と罵られても、自分の意志を貫いて戦っていた。ユリアも…アカマツ軍曹も、MSを投入しなければいけない、MAだけでは太刀打ちできないと、オペレーターとして気付いていたからこそ、この部隊に来てくれた。二人とも、守りたいという思いを胸に戦った者たちだ。だが、上にとって、数字の上でしか、数が二人減ったぐらい、としか思ってないだろう。だが、だからこそ、俺は二人の思いを無下にしたくない。…報いてやらなければならない。」

 「ザイツ…。」

 「…大丈夫だ。だが…、やはり…馴れないものだ。いつも…。」

 しばらく、二人に沈黙が流れた。

 

話を変えようとガウェインはハルバートンに言った。

 「ハーディのこと…話さなければな。」

 

 

 

 

 

 ガウェインと別れ、彼の乗ったシャトルを見送ったハルバートンは副官にデータを渡した。

 「これをラミアス大尉に届けてくれ。」

 若い副官はハルバートンからデータを受け取った。

 さらに、ハルバートンは続けた。

 「そして、君にはカリフォルニア基地に異動してもらう。G兵器が完成し、MS開発の軌道に乗せるのと同時にパイロットの訓練・育成も行わなければならない。今、海軍や戦車部隊など多くの分野よりMS運用に携わっている士官が集めって来ている。MAのパイロットであった君にも、携わってもらいたい。…頼むぞ、アスベル・ウォーデン少佐。」

 「『エンディミオンの鷹』には及びませんが、微力ながらも尽力いたします。」

 若い男は敬礼し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 いよいよ、ヴァイスウルフも町から去る時が来た。

 ヴァルファウには町の人たちから町を救ったせめてものお礼として、ここの特産品など色々なものが積みこまれていた。

 「いいのか、こんなに一杯?」

フォルテは言った。

 「いいんだ。あんたたちには、町を救ってもらったんだ。感謝しきれないぐらいだ。」

 ダグラスが答えた。

 フォルテはシグルドを見た。

 彼はそういうことだ、というような顔をした。

 シグルドも彼らの気持ちを汲んで受け取ろうという、そんな風に言っている感じだった。

 そこへヒロがやって来た。

 シグルドがヒロに近づいてきた。

 「…改めて聞くが、本当にいいのか?」

 シグルドはヒロに尋ねた。

 「うん、僕自身が、自分で決めたんだ。」

 「自分にどこまでできるか、わからない…、それでも…やりたいんだ。」

 「そうか。」

 シグルドは頷いた。

 「一つ…このヴァイスウルフに来る前に、覚えておいてほしいことがある。一人でできることは限られている。だが、ここに仲間がいる。お前は一人じゃない。…それを、忘れるな。」

 ヒロはそれを聞き頷いた。

 

 

 「親方!車の用意できました。」

 カイルがダグラスを呼んだ。

 「そうか、ありがとう。ヒロ、来てくれないか。…いいですか、少しだけ。」

 ダグラスの頼みにシグルドは了承した。

 ヒロは何なのか、わからなかった。

 ダグラスと共に車で向かった。

 「おまえにとってはつらいかもしれないが…、見せたいものがあってね。」

 

 

 

 着いたのは、村があった場所であった。

 だいぶ片づけられていた。

 もう、ここには何もない。

 ヒロは改めて思い、寂しくなった。

 もう、あの日々はもう戻ってこないんだ、と。

 ふと、ヒロは目に留まった。

 かつてあった広場の中央に、大きくはないが石碑があった。

 「これって…」

 ヒロは驚きながらダグラスに聞いた。

 「墓を置くことができなくてな…。でも、それじゃあ何か、と思い色々考えてたんだ。この下にみんな眠っている。嫌…だったか。」

 「ううん。そんなことない。ありがとう、ダグラス。」

 石碑には村のみんなの名前が刻まれていた。

 うまく、言葉にはできないものが込み上げてきた。

 

 ヒロはこの数日の事を思い出した。

 すべてを失って、自分にはもう何もないと思っていた。

 けど、それは違った。

 色々とあった。

 出会いもあった。

 別れもあった。

 裏切り者と言われながらも、憎しみを広げたくないと自分で道を進んだコーディネイター。

 その彼に向けられた、怒り、そして銃口。

 そして、ずっと自分を遠くで見守ってくれていた人たち。

 それらがあったからこそ…。

 

 

 ヒロは再び石碑に目を向けた。

 「母さん…、みんな…、僕はこれから行くよ、外の世界へ…。僕自身、この道を選んでよかったか、まだ…よくわからない。それは、まだよく世界の事を知らないからだと思う。だからこそ…僕は踏み出したいんだ。自分が…どうすればいいか、見つけるために。しばらく、ここには戻れないけど、いつか…。だから…行ってきます。」

 

 

 ヒロはかつて村があった場所を後にし、ヴァイスウルフ、仲間の下へ向かうため、一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし…いいのですか?親方。」

 カイルがダグラスに尋ねた。

 ダグラスは笑いながら言った。

 「俺があいつにしてやったのは、そこで終わらせないためだ。それに、これはあいつが自分で決めたことなんだ。…まあ、後はあいつの頑張り次第だろうけどな。」

 ダグラスはもう出発したヴァイスウルフたちの面々を思い浮かべた。

 果たして受け入れてくれるか、これから彼らもあいつに苦労するだろうか。

 

 

 

 

 ヴァルファウの中ではちょっとしたひと騒動だった。

 無断で乗りこんでくる者たちがいたからである。

 ことに、一番驚いていたのは…ヒロであった。

 

 「何で…アバンとリィズがいるの?」

 彼らは荷物の中に身をひそめ隠れていたのである。

 「もー、お兄ちゃんがあんな大きいくしゃみするから、バレちゃったじゃない!」

 「仕方ないだろ。てか、なんでおまえも付いてくるんだよ!」

 二人はまわりの驚きをよそに言いあっていた。

 そんな様子に、ルドルフはただ、笑っていた。

 シグルド、フォルテ、ミレーユはやれやれとし、さてこの状況をどうするか、という感じだった。

 「え?待って。だから、何で、いるの?」

 ヒロは質問に答えない、彼らにふたたび尋ねた。

 アバンは自分に質問されているのに気付き、そうそう、とみんなに高らかに宣言するように言った。

 「俺、この傭兵に入りたいんだ。なあ、入れてくれよ。」

 

 

 




いや~、このタイトル「別れ、そして旅立ち」もこれで終了です。
しかし…長かった。
本当は5話ぐらいで予定だったのですよ。
しかも、これでも、いくつか話を省いたのですよ。
…いつか、その話もどこかで出したいなっと思ってはいます。

と、言っても、まだ序章はこれで終わりではないので、おいおいこの序章については語りたいと思います。

それでは、改めて、この一年、よろしくお願いします。

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