突如、ジーニアスが電子音をけたたましく鳴らした。
『大変だ、大変だ!』
通信を通して聞こえてくる警告音に驚いていたシグルドとフォルテだが、別の音も聞こえてくるのに気付いた。
上空からローター音が聞こえてくる。
上を見上げると、ヴァルファウが飛んできて、近くに降り立った。
「シグルド、フォルテ、大変なことが起きた。」
ヴァルファウから通信が入った。
「あー、レーベン。お前、今までどこに。」
「そんなことはどうでもよくて…、急いで!」
フォルテの言葉を尻目にレーベンは二人を急がせた。
「どうしたんだ、レーベン?」
「町の近くに泊まっていた艦船が動き出した!」
「はあ?一体誰が?」
あんなもの動かせる人間がいるのか、フォルテはレーベンに聞いた。
「それを言っている暇はないよ!それが、町に向かっているんだ。このままだと…。」
「止めなきゃ…」
それまで黙っていたヒロが言った。彼もジーニアスから聞いたらしい。
「あの船を…止めなきゃ。」
あれだけの大きい船が町にぶつかれば大惨事になる。
ヒロは作業用ジンを動かした。
「待て、ヒロ。」
その時、シグルドが止めた。
「自分一人で止めに行くつもりか?できるのか?」
「でも…、これ以上…人が死ぬのを…黙って見てたくない。あそこにも、僕にとって大切な人たちがいるんだ。自分にできること…何とかしたいんだ!」
ヒロは振り絞って言った。
その言葉を聞いたシグルドはしばらく黙っていた。
「そうか…。レーベン、ヴァルファウの中に前の任務で持って行った装備、まだあるんだろう?」
「うん。そうだろうと思って、だから来たんだ。」
レーベンが答えた。
「シグルド、俺たちで止めるのか?」
フォルテが聞いた。
「ああ、もちろん。ヒロ、お前にも手伝ってもらう。」
初めからシグルドも止める気でいたらしい。
ヒロはえっ?と、驚いていた。
「自分にできること…したいんだろう?」
シグルドがヒロに言った。
「シグルド、これだけだが、どうだ?」
フォルテが格納庫より取り出してきた。グゥル二機とキャットゥス500㎜無反動砲があった。
「要は、止めれればいいからな。が、これだけじゃ、足りないか…。確か、あの町は漁業が盛んだったよな?」
「そうだけど…」
「そうか…。よし、それで行こう。いいか、みんな、よく聞いといてくれ。」
シグルドがフォルテとヒロ、レーベンに作戦を話した。
町はパニック状態だった。とにかく、町の人たちを避難させていた。
ダグラスはカイルと共に漁船置場の近くまで来ていた。
「親方!」
「船に乗って、今からあの艦船に何とか乗り込んで止める!」
「しかし…何で、いきなり…。」
「動かすくらいならできるだろうな!」
「一体誰が?」
「わからん!とにかく今は止めに行くぞ!」
漁船置場には漁師たちや他の人もいた。彼らもどうすればいいかわからない状態だった。
そこへ…
「ちょっと、ゴメンよ!」
と巨大なMSがやって来た。
みんな慌てて、その場から離れた。
「さてと…、この網借りていくぜ。」
フォルテは近くで驚いている漁師たちに聞いた。
「一体…何するんだ!?」
「あのどでかい艦船を止めるために使うんだ。おっさんたちも手伝ってくれ。それらを繋げて、でかくしてくれないか。」
「なっ…、何だって、何を…!」
「手伝うぞ。」
他の何人か抗議したが、今この状況でそれを文句言っている暇はなかった。
彼の言葉通り船を止めるとないうなら、彼にかけるしかなかった。
「ったく、シグルド。無茶苦茶だぜ…。本当にできるのか?…どうだ、繋げたか。」
フォルテもMSで作業し、漁師たちのほうもできたか、確認した。
「ああ、こんぐらいでいいか?」
「十分だ。」
そして、
「レーベン、しっかりキャッチしろよ。」
繋ぎ合わせた網に碇を付け、やってきたヴァルファウに投げた。
「うまく引っかかってくれ。」
ヴァルファウの開いている後部ハッチに碇を引っかけた。
フォルテは上手く固定しているのを確認した後、グゥルに乗り、ヴァルファウと共に左右に展開し、艦船が来るのを待ち構えた。
まるで…漁をするように。
艦船は網にそのまま突進したが、そこより進まなかった。
「なんとか、止まったな。シグルド、ヒロ!あとは任せた!」
力いっぱい艦船を取り押さえたフォルテは二人を呼んだ。
すると、動きを止まったのを確認し、ヒロの作業用ジンがジンハイマニューバに支えられながらグゥルに乗り、無反動砲を構えていた。
「これで、狙いやすくなる。ヒロ、それで艦船の推進器を撃つんだ。それで止められる。一発しかないからな…、慎重に。」
「うん…。」
シグルドの指示にヒロが緊張気味に答えた。
「なに、ジーニアスにもサポートしてもらっている。自信をもて。」
『そうだ、うまく私が計測しているから大丈夫だ。』
ジーニアスをコクピットの計器に繋いで、射撃の照準をサポートしてもらっている。
「まずい…。」
少々、無理があったかヴァルファウに付けていた碇が取れそうだった。
「ヒロ、後はお前自身だ!…頼むぞ。」
そう言い、シグルドはグゥルから降り、フォルテの乗っていたグゥルを踏み台にしながら、ヴァルファウの後部ハッチにつき、碇を持って支えた。
「危ないな!シグルド。」
「網の方は何とかもちこたている。フォルテ、気を抜くな。」
二人の通信が聞こえる。
後は自分が撃たなければいけない。
ヒロは無反動砲を推進器に照準を合わせようとした。
その時、艦橋が見えた。
これを動かしている犯人が見えた。
ヒロは思わずハッとした。
あそこにいるのは…村を襲った者たちだった。
「おい!動かないのか!」
「あの網が邪魔して…」
「ミサイルとかもないので、切れないです。」
「くそ!」
指示を出していた男は悪態をついた。
あの村に生き残りがいたとは…しかも、町にいるだと?あの町もグルだったのか?
「この地球は我らのものだ。化け物がいていいわけがない。…この地球(ほし)にいらないんだよ!」
ヒロは鼓動がだんだんと早くなるのを感じた。
村を襲った人たちが今度は、町を襲うとしている…。
セシルやみんなを殺した…あいつらが!
ヒロの頭に一つの事が思い浮かんだ。
推進器ではなく、あの艦橋を撃てば…
それでも、止まるのではないか…そう思い始めた。
だって、あいつらは…。
『おい、ヒロ!どこを狙っている!こっちではない!』
ジーニアスが推進器とは別の場所に照準を定めたヒロに注意をしている。
しかし、ヒロには聞こえなかった。
「君の大切な人たちを殺した人を憎んでる?」
ウェインのメッセージ。聞いたときは、自分がそう思ってるかわからなかった。
でも、今目の前にして、わかった。
憎い!
奪って行った。家族を。みんなを。すべて!
あいつらが…いなければ!
今しかなかった。
僕は…。
「それが…願い。」
引き金を引く準備をしたとき、
ふと以前、セシルが言っていたことをヒロは思い出した。
「えっ?何で、この村を造ったかって?」
セシルがヒロの言ったことを聞き直した。
「うん、みんなに聞いても、セシルに聞けっていうんだもん。」
ヒロが今のテーブルで、ココアを飲みながら言った。
最初、ヒロはセシルに聞こうとしたが、はぐらかされてしまった。そこで、他の人に聞きに行った。結局、めぐりめぐってセシルの所に戻った。
「そもそも、どうして、そのことを聞きたくなったの。」
セシルも椅子に座り、聞いた。
「…外の世界は、ナチュラルとコーディネイターが対立していて…戦争になりそうって言われてるし、気になって。というか、みんな何で外の世界に行かせてくれないの?僕だって知りたいのに。」
ヒロは外の世界に関心があるからこその疑問であった。
「そうね…。」
セシルは言葉を探りながら話した。彼はまだ知らないからである。
「こうやって、ヒロと毎日過ごすため…かな。」
ヒロは思わず、え?と驚いた。
「毎日、ご飯食べて、こうやってのんびりしたり、私が酔いつぶれても世話してくれて、朝寝坊しても起こしてくれて…それが、できるからかな。」
「それって…、答えになってる?」
ヒロはあまりに予想外な答えに呆気にとられた。
「なってる、なってる。…ねえ、ヒロ。今、世界はこんな簡単なことがなかなか出来ないの。ナチュラルだからとか、コーディネイターだからとか、相手が憎いからとか。そして、相手を傷つける。だから…、ヒロも忘れないでね。」
「え?」
「ここでの毎日の事を。それが…私の、そしてみんなの願い。」
セシルは笑顔を向けた。
ヒロは何を言っているかよくわかってなかった。
「まあ、今はわからなくてもいいのよ。いつか…分かれば。」
ヒロは目に涙を浮かべた。
セシルがあの時言った言葉。
そして、ウェインのメッセージ。
「…ずるいよ、みんな…。」
そして、ヒロは引き金を引いた。
無反動砲より放たれた弾は艦船に命中した。
…推進器に。
艦船は動かなくなった。
先ほどまで、網を突破しようとする力もない。
どうやら、これで本当に止まった。
「…でも、ありがとう。」
ヒロはコクピットの中で独り言ちた。
ヴァルファウの後部ハッチ。
まだ、不慣れなヒロをそこにフォルテが連れてきてくれた。
コクピットを開き、格納庫に降りた。
シグルド、フォルテが待っていた。
「よくやったな、ヒロ。」
「まったく、初めてなのにやるじゃないか。」
二人が喜んで出迎えてくれた。
「…うん。これで…大丈夫なんだよね。」
ヒロは艦船に目を向けた。
「ああ、大丈夫だ。…すまないな。」
「え?」
「いや…。町に被害はない。おまえが…町を、守ったんだ。」
「…そうか。よかった…。みんな、無事で…。」
シグルドの言葉を聞き、安心したヒロは、そのままフラフラとしてしまった。
シグルドが驚き、支えた。すでにヒロは寝息を立て、寝ていた。
「…寝ちまったのか?」
「いろいろあったからな…。」
「さっきまで、あんなに俺たちの事、嫌がってたのに?」
「…信頼された、ということだ、フォルテ。」
二人は彼の、まだ少年のあどけない寝顔を見ながら、微笑んだ。
「くそ!なんでだ!」
艦橋では男たちが怒り心頭だった。
「他の連中との連絡は、まだか!」
最後の手段として、陸に残した者たちと合流して、叩き潰そうとした。
「それが…連絡が取れません…。」
「何だと!?」
その時、ヘリコプターが近づいてきた。中から人が窓を割って艦橋に入ってきた。
「ちょっと、失礼するよ。」
老人であった。片手には銃を、もう片方には刀を持っていた。
「なっ、じじい、一体…。ぐぁー!」
近くにいた者が驚き銃を構え撃とうとしたが、先に銃を放たれた。足を撃たれ、倒れた。
「銃構えるってのは、撃ってくださいって言ってるんだぞ。」
その老人は殺気を放って行った。
「なっ、そのじじいを殺せ!」
逆上したリーダー格の男は他の者たちに指示をした。
みんなハッとし、迎え撃とうとした。
が、すべて遅かった。その老人の方がはやかった。
ある者は銃で撃たれ、ある者は刀で斬られた。
そして、残ったのは、リーダー格の男だけだった。
「このぉ。」
銃を構えたが、体が震えていた。
その老人に圧倒された。
近づいてくる。
なにもできないまま、銃を構えてた腕を刺された。
「あー、痛い。」
悲痛の叫びが響いた。
「さんざん、人を殺しておいて、それはないだろう。」
老人は不気味な笑みを浮かべていた。
男は半泣き状態だった。
老人が顔を近づける。
「陸にいるお前たちの仲間…、あれ全員俺がのしといた。あとな…、おまえらが殺したがってたコーディネイター…、俺たちが預かることになった。もし、また殺しに来ようとすれば…わかるか?」
男は泣きながら助けを求めるだけだった。
「わかったら…、そとにボートあるから全員連れてって、ここから立ち去れ。」
全員逃げるように去って行った。
「もう全員いなくなりました。」
ミレーユが確認と報告に来た。
ルドルフはやれやれといった感じだった。
「まったく…甘いね~、あいつは。まあ、俺も…人のこと言えないか。」
そして、ヴァルファウの方に目を向けた。
「…だが、いいか。…セシル・グライナーには、本当に感謝しきれないな。」
ルドルフたちも、その場を後にした。
町では歓声と驚きの声で一杯だった。
その中で、
「すげぇ…。」
…ただ一人、別の意味で、彼らヴァイスウルフに驚いていた者がいた。
え~、まず、読んでくださっている方々にお詫び申し上げます…。
本編には12月中には入りたいといってましが、どうやら年をまたぐことになってしまいました(泣)
本当にすみません。
よもや、ここまで長くなるとは…
この序章は予定として、このタイトルのエピローグ的なものと、ちょこっとしたお話で本編に入ります。
新年は4日か5日ごろに再開する予定です。
投稿し始めてまだ1ヶ月ですが、今年見ていただいてありがとうございました。
また、来年もよろしくお願いします。