「ブライスさん、自分たちは加勢しなくてもいいんですか?」
後方より追いついたブライスら三機は他の地球軍を警戒して後方に位置していた。
雨が降っているため、視界も悪く、かなり慎重に進んだため、予定よりは遅れた。
今、追いつき、二人の戦いをみて一人が尋ねた。
「見たところ、隊長のシグーが押している。それに…ハワード、ジョン、お前たちではあの二人の間に入れないさ。」
ウェインのジンをアルテナのシグーは激しい剣のバインドが繰り返された。
シグーの盾についてるバルカンを撃つことで間合いを作っているアルテナの方がやや有利であった。
「ウェイン、私は…あなたを許さない!ナチュラルの味方をしたあなたを!」
キィン
剣のバインドの音が鳴り響く。
「アルテナ…。」
「ナチュラルがしたこと…。あの時のこと忘れない…。マンデンブロー号の事を…。」
あの中にアルテナもいた。両親と共に。
食料を理事国側が輸出を制限したために、プラントは食料難に陥りかけていた。
このままでは生きていけない。
そのために、南アメリカより食料の輸入を行った。
これでプラントを救える。
が、
理事国側は突如、船を撃ってきた。
どうすることも出来ず、船団は次々と沈められていった。
沈みゆく船の中、救命ポッドから見た両親の最後が忘れられない。
「あの時、ナチュラルが私たちに向けた目…。私達だって生きている。家畜でもない、奴隷でもない!なのに、あんな風に踏みにじられて…許せるか!」
再び、剣が振り下ろされた。
ジンはそれを受け止めた。
「アルテナ…。僕もそれを…したことには許せない。けど、許せないからと銃をとって、君たちも殺しているんだ。アルテナ、このままでは君も…。」
「…黙れ!」
シグーのバルカンが放たれた。
ジンはそれを避けるため、後退した。
ウェインの言葉は遮られた。
「例え何を言っても、あなたはザフトにとって、裏切り者!ここで…あなたを撃つ!ナチュラルにMSは作らせない…。それを手に入れたら、ナチュラルはプラントを破壊する。…させない。もう、奪わせやしない。私は、プラントを…守る!」
「ダメだ!」
突如、彼方より声が響いて聞こえた。
お互い、手が止まった。
その方向を向くと、見たことない形のジンが来ていた。
「あれは…その声、ヒロ!?なぜここに?」
「これを…止めに来たんだ!」
「止めに来たって?」
アルテナも疑問に思った。
「二人とも知り合いなんでしょ。何でお互い殺そうとするんだ?」
先ほどの通信を聞いていたんだろう。
「一体誰だか知らないけど、あなたに止めることはできない。これは軍としての命令よ。裏切り者をここで討つ。それだけよ。」
「ヒロ、この場から離れるんだ。これは僕たちの問題だ。軍として、戦争なんだ。君がかかわってはいけないことだ。」
なお、ヒロは引き下がろうとしなかった。
「命令だから。裏切り者だから。戦争だから。そんな理由で人を殺すなんて…おかしいよ!」
「おかしいなど…戦争しているんだ。そういうことなんだ。」
ヒロの言葉は聞き入れられなかった。
「おまえ、もしかして地球軍か!それで時間稼ぎをしているのか!」
ハワードが敵と認識し、ヒロの方に向かっていった。
「おい、勝手に行くな!」
ブライスが止めようとしたが、聞かなかった。
「まずい…ヒロ!」
ウェインはヒロを助けに向かおうとしたが、シグーに阻まれた。
「お前の相手は、私だ!」
再び剣が振り下ろされた。
「アルテナ、あの子は違う。地球軍じゃない!君は…そんな人間も巻き込むのか!」
ウェインが叫び、応戦した。
ジンの剣がヒロに迫ってきた。
『来るぞ!避けろ!』
ジーニアスが警告する。
どっちに避ければ…、右か!?
直感で感じた。
操縦桿を思い切り操作して避けた。
しかし、初めての操縦…よけた勢いにバランスを崩してしまった。
「マグレで…」
避けられてしまったジンは再び態勢を直し、剣を振り下ろした。
間に合わない…
キィィィン!
音が鳴り響いた。
ヒロのジンの前で見たことのないジンが振り下ろされた剣を剣で止めていた。
ヒロは驚いた。
一体誰が…。
するよ、横に別のジンが来て起こしてくれた。
「まったく、無茶するぜ…大丈夫か?」
通信が入った。
「一体何が…」
見たことのないジンに立ちふさがれ、ハワードは驚いていた。
「あれは…ジンハイマニューバか!」
そしてブライスはそのMSの左肩のマーク、白い狼のを見て、ハッとした。
すると、ジンハイマニューバのパイロットから通信が入った。
「我々はヴァイスウルフ…傭兵だ。この戦闘に介入するつもりはない。ただ、この少年を守る任務を受けている。もし銃を向けるのなら、我々が相手する。」
この声は…シグルド?でも何で、僕を…
ヒロは不思議に思った。
「ハワード、下がれ。俺たちの相手はウェイン・ギュンターだ。こっちを相手にしている暇はない。」
「ブライスさん、この少年だって、あいつの仲間かもしれないじゃないですか。それに、傭兵ごときにここまで言われて下がるわけにはいきません。」
「そうです。ハワード、俺も加勢する。」
ジョンも向かって行った。
「あいつら…」
ウェインとアルテナ、二人の事は気にかかるが、今はあっちの突っ走った二人を止めるのが先だ。
「まあ、そうは言っても…か。どうする、シグルド?」
フォルテはやれやれという感じで、尋ねた。
「フォルテ、お前はヒロの方を頼む。」
シグルドはそう言い、バーニアを吹かした。
「墜ちろー!」
ジョンは突撃銃を撃ち続けた。
シグルドはそれを避けた。
そして、ハワードが剣で切りかかろうとした。
が、遅かった。
シグルドのジンは一瞬で横にかわし、右に回り込んだ。
そして、振り切ったジンの手を切り落とした。
「しまった!」
ハワードが言ったつかの間、
ジンハイマニューバはジンの首に当たる部分を掴み、そのまま、もう一機のジンに向かって投げた。
ジョンは驚き、銃を撃つ姿勢をとき、投げ出されたハワードのジンを受け止めた。
前方を見たときにはジンハイマニューバはいなかった。
「どこだ!」
すると警告音が鳴った。
「上か!」
上から跳びかかって来る。
銃を構えたが、間に合わなかった。
やられる!
その時、ジンハイマニューバはなぜか、倒れているハワードのジンを踏み台に跳び、後退した。
一瞬、何なのかわからなかったが、すぐ近くにブライスのジンがやって来て、銃をジンハイマニューバに向けていたのだ。
二人は安堵した。
「もう一機加わったのか?まあ、シグルドなら大丈夫だろう。おい、下がるぞ。」
シグルドの戦っている間、フォルテはヒロをこの場から離れさせようとした。
しかし、ヒロはウェインとアルテナの戦っている場へ向かおうとしていた。
「おいおい、そっちは危ないって。」
向こうは戦闘が激しさを増していた。
とても、止めることはできない。
「あの二人を止めなきゃいけないんです。それに…何でここに来たんですか。」
フォルテは困ったなぁと思いつつも、ヒロの問いに答えた。
「そりゃ、任務を受けているんだよ。お前がそういう無茶して死なないようにって。守ってくれって。」
「一体誰から?」
「…セシル・グライナーからだ。」
一旦、後退したシグルドがヒロに言った。
「え?」
「自分の道を決めるまで、見守ってほしい、そう依頼を受けた。」
「…でも、セシルはもう…。」
「俺たちは、例え依頼人が亡くなっても、その思いが続く限り、任務を全うする。それだけだ。」
「何を勝手に動いている!」
ブライスは二人に怒鳴った。
「しかし…傭兵ごときに」
「大ばか者!それでお前たちは命を落とすつもりか!それに、もうすぐ終わる。」
ブライスはウェインとアルテナの方に目を向けた。
ウェインとアルテナの戦いは増していった。
が、一歩ずつウェインが押され始めた。
性能の差か…
「ここで終わらせる!」
シグーがジンを突こうとしてきた。
ウェインもこれをよけ、剣で突こうと態勢にはいった。
が、
一瞬、ジンの動きが鈍くなった。
避けきれず、ジンは倒れ、シグーの剣はジンの左足付け根からそのまま地面に刺さった。
これで、
とアルテナが思ったのもつかの間、コクピット内から警告音が聞こえた。
「しまった。」
ジンの剣先がシグーの胸部に刺さっていた。
このままでは、シグーは爆発する。
「ブライス!」
アルテナはブライスを呼び、脱出した。
ブライスはアルテナを救出し、他の二機と共にグゥルを駆り、その場から離れた。
「くっ…ダメか。」
ウェインは何とかジンを動かそうとしたが、無理だった。
もともとはザフトの機体であり、地球軍にとっては未知の兵器だったもの。
いくらロブの腕がよくても、自分も整備にかかわっても、限界があった。
ここに居れば、シグーの爆発に巻き込めれる。
しかし…
その時、ヒロからの通信が入った。
「ウェイン、早くそこから脱出するんだ。」
見ると、ヒロがこちらに向かおうとして、ヴァイスウルフに止められていた。
「ヒロ…来てはダメだ。爆発に巻き込まれる。」
「でも!」
「ヒロ…ゴメン。君につらい思いをさせてしまって。今更だけど、これをジーニアスに送る…。これが僕の最後の…」
その時、シグーが爆発した。
ジンも爆発に巻き込まれ、爆炎の中に消えてった。
上空からも爆炎は見えた。
これでは助からないだろう。
マシューから通信が入った。
「すいません…。輸送機は…サンディアゴの防空圏に入り、基地からのスピアヘッドが多数来たため、後退しました。…隊長、そちらの方は…。」
「こっちの方は、もう終わった。そっちは仕方ないわ。向こうもMSを失った…。マシュー、母艦へ帰投して。こちらも今向かう。ブライス、他の機体にも指示出して。」
アルテナはブライスのジンのコクピットの通信を借り、マシューに連絡した。
「わかりました。」
ブライスはウェインがザフトの脱走した時のことを思い出した。
「止めないのですか、ブライスさん。」
「ザフトは義勇軍だ。志願であり、「強制」はない。無理に引き留めることはない。それが…行く先がどこであっても…」
しばらく沈黙が流れた。
「そうです…。ザフトは、国を守りたい、その思いで入ってくる人が多いです。…しかし、その国を守るっていうのは、どこまでを指すのでしょうか。」
「ふっ…、国を守るために、地上に攻め込む…か。まあ、俺はプラントの評議委員会の政治家の考えはわからん。ただ、ユニウスセブンの核攻撃、あれで多くのプラントの人間はナチュラルへの怒りを頂点にした。」
「それが…怖いんです。その怒りで戦争することに…。人はどこまでも残酷になれる。この後、起きてしまうかもしれないこと。それが…怖いのです。」
ウェインは続けた。
「たとえ、そしりを受けても、僕は戦います。プラントを相手に。そして、戒めとしてほしい。…それだけです。」
…ウェイン、何も変わっていないぞ、プラントは。何も…。
ブライスは心の中で独り言ちた。
ヒロは呆然としていた。
「そんな…そんな…。」
その時、ジーニアスの電子音が鳴った。
『ヒロ…、ウェインからだ。爆発直前に…送ったんだ。』
「え?」
ジーニアスはそれを再生した。
「ヒロ…、こんな形で話すことになってゴメン…。」
ウェインの声だった。まるで今自分に話している、そんな感じがした。
「ずっと、言うべきかなって思ったんだけど、なかなか言い出せなかった。君はどう思うんだろうって、不安になった。
僕は…ザフトを脱走して地球軍に寝返ったんだ。…裏切り者、というわけだ。他の人にとったら、戦争を是とする人間から見たら…。僕は…最悪な人間だ。そういう考えの人もいるんだ。僕は…それを否定しない。
僕は悲しいことが嫌いなんだ。…理不尽も。
ヒロ、君に聞けなかったことがあるんだ…。
君は、君の大切な人たちを殺した人を憎んでいる?
もし、そうだったら、この言葉を受け入れられないと思う。けど、ほんの少しでもいい。心に留めといて欲しい…。
相手が憎い。その気持ちで銃を撃つこと。それがどんなに恐ろしいことか…。そして、とても悲しいことか…。
人はずっと繰り返してきた。憎いから、殺されたから、踏みにじられたからって。人はどこまでも残酷になれるんだ。どんなこともする。けど、その世界は一体どんなものなのか…。地獄でしかないんだ。もう、いつものように誰かと一緒に毎日を楽しく過ごすことができなくなる。
僕はそれが嫌だった。それを…何とかしたかった。
…ゴメンね。こんなメッセージになってしまって。」
「不思議なんだ。僕は君と一緒に過ごしていて、君がどんな道を進むのか、見てみたいって思ったんだ。何故だろう…。たぶん、君は君なりに見つけられると思っているから、かな?
それじゃあ、ヒロ…また。」
そこでメッセージは終わった。
ヒロはただ泣いているだけだった。