マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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コントルノ14

 1月17日

 

 渋谷区――風俗店の一室。

 趣味がいいとは言えない内装/部屋を一ヶ月以上借りている青年一団――元江東をホームにしていた無頼少年集団(アウトローチーマー)

 部屋に響く打撲音/肉を打ち付けあう音――本格的な拘束具が垂れる寝台の上で見るに堪えない性交を繰り広げる。

 拘束された少女――二の腕に付いた鬱血の跡/前後を「同性」のモノがいきり立つ男根で突き上げる。

 前後で男性の快楽を貪る女性――“ダックカッセラー”で同様のプレイをしていた少女たち=小夜(さよ)小夜(さや)の娘たち。

 いつもならもっと引き伸ばす薬物投与を既に終え、嬲る少女を壊しに掛かっていた――二人の少女は下着も付けず、全身を覆う淫らなボディーストッキング/双方の好きな色で小夜(さよ)は赤、小夜(さや)は白を着ていた。

 顔は蕩けていなかった――冷たい表情/怒りの表情。

 小夜(さよ)は憤慨の表情を浮けべ少女の喉を蹂躙する/小夜(さや)は冷徹な表情を浮かべソドミーで得る快感の為、逸物をさらに奥へ進める。

 怒りの穂先――“ダックカッセラー”に乗り込んできた女/白灰色の髪をした少女。

 お気に入りの下着を破られ、身体を穢された――何よりも怒れていた。

 小夜(さよ)の激しいストロークに堪えかねた嬲る少女/三週間の監禁生活で与えられたキューブ型の栄養剤を吐き戻してしまった。

 小夜(さよ)は手加減はしなかった/吐瀉物を掻き出す様に動きは激しさを増した。

 

小夜(さよ)チャン。今日はすっごく激しいジャン。俺コーフンしちゃうゼ」

 

 ベットの横で性交をしていた男/アウトローの一員。

 上半身裸/胸板を飾る筋肉は無く、あるのは人工筋肉で構成された胸筋とそれを覆う軟化金属スキン。

 異常性癖の持ち主――暴行でしか快感を得られない暴力夫。

 椅子に拘束された小夜達が犯す少女の連れ――顔を腫らし、涙と鼻血が滴る。

 男の性癖は捻くれている――暴行で快感を得ているのではない、暴行で生まれる鼻血を垂らす姿に快感を得ている。

 腫れた顔を掴み、滴る鼻血を舌で掬う――血の凝固した塊を舌の上で潰す感触/ほのかに感じる鉄分の味。快感のあまりズボンの中で射精していた。

 

「死ねよ! 将輔。汚ねえ精子撒いてんじゃねえよ!」小夜(さよ)は叫ぶ。

 

 暴力夫のかすれた笑い声――小夜(さや)はソドミーを切り上げる。「あんたの笑い声は萎えるんだよ。口縫うぞ」

 

 男は言われたとおり黙った/小馬鹿にしたような表情は消えない――暴行(せいこう)を再開する。

 来訪者――部屋に入ってくる男。アウトローの一員。

 

「おお、ショーグン。他の客に容器(チェンバー)は打ち終ッタ?」

 

 ショーグンと呼ばれた男/あだ名――名前負けした姿、動き。

 将輔と同じようにメトロで機械化している/筋力も脚力も、身体的能力は通常以上――窶れた雰囲気。

 忙しなく体中を掻いている/感じる筈の無い関節痛――電脳に混入した汚染物質=違法薬物。

 部屋を歩き回ったる/椅子に座る――両目が左右別々の方向を向いている=ヘロイン中毒。

 

「ぺー、どこだ......俺のペーどこやった」

 

「さっき切らしたって言ったジャン。メトロで買ってきなヨ」

 

 ジョーグンは苛立ったように耳の奥を掻き毟る。

 シャワー室から現れる者――このアウトローの頭/男達に共通した違法な機械化跡。

 

「ねー、孝也(たかや)ー。この子潰れそうなの。容器(チェンバー)打つー?」

 

 小夜(さや)はアウトローの頭に訊く――拘束された少女は白目を剥き、泡を吹いていた/将輔の相手をしていた子も遂に潰れていた。

 

「全員だ。容器(チェンバー)を打て。それが四十崎(あいさき)さんの指示だ」

 

 イタリア風のソファーに座る/数をめっきり減らした新聞紙を見る――機械化して以来、旧式メディアを好んでいる。将輔は薄笑いを浮かべながら容器(チェンバー)を袋にした少女の首筋に打つ。

 明らかに身体にいい色はしていない――容器(チェンバー)/彼らを機械の身体にした四十崎(あいさき)が渡した薬品。

 

「これなんなんスカネ」

 

「知らん。不要な死体、不要な人間に打て。それがあの人の指示だ」

 

 将輔はリーダーの無関心さに興味が湧いていた――機械化してからずっとこの調子だ。セックスのときも食事のときも寝るときも。シャブをキメたとしても。

 

「さっき榊山の旦那から連絡あったスヨ。回収品の“キリエ”がまだ21機ほど戻ってきてないッテ」

 

「居場所は?」

 

「都内に集中してるッスヨ。GPSもバッチリデス」

 

「そうか」

 

 男は立ち上がり服を羽織る――トカゲの鱗を彷彿とさせる防弾ベスト/電気的筋肉刺激装置(EMS)はもういらない――それを越える義体がある。

 

「将輔、ショーグン、行くぞ」

 

 ショーグンは震えた身体で頷く。

 将輔は薄笑いを浮けべ恍惚の表情を浮かべた――メトロに墜ちても変わることのないリーダーの姿を。

 

「リョーカイ。タカさん」

 

 

 ****/***

 

 

 放課後――またリーナの姿はなし。

 定期診断――戦闘後のメンタルケア+肉体機能診断/西条レオンハルトの見舞い。

 警察病院/共同捜査のために一時的に設備が貸し出されている――「力」を診断するには規格が合わない/使うことは無い。

 ドクターとイライジャが二人でナナを診断する――いつもの問答=急に不安にならないか、動悸や眩暈はないか、身体に不調は無いか。該当する症状なし――唯一の不安=不眠。

 ドクターに相談――脳検査/脳波検査――後日検査結果を知らせると。

 面会時間を確認/病室の場所を聞き西条レオンハルト見舞いへ。

 目的地――意外な人物。千葉エリカ。

 

「ナナ? あなたも来たの?」

 

「ええ、西条君にはお世話になってるしね」

 

 第一高校でのナナの生活態度――浮き気味/深夜の捜査に神経を使い、生徒同士の交友関係が疎かになっている。

 僅かな交友関係。女性/千葉エリカ、柴田美月。男性/吉田幹比古、西城レオンハルト、稀に司波達也。

 人と拘れば生まれる情――見舞いに行く事になる。

 病室に入る――個室/広い割りに何もない――テレビ、ソファー、簡素な棚。

 ベットに寝そべり暇そうにしているモノ――西城レオンハルト。

 

「お、珍しい奴が来たな」

 

 言われて当然の言葉/立て続けの捜査にここ最近あまり話していかった。

 軽い笑顔を浮かべようとする/電子的な視線と聞き耳。

 野外に設置されたカメラ、小型マイク――電子撹拌(スナーク)で電源を落す。隣の部屋から微かに驚きの声が聞えた気がする。

 

「こんにちは? もう暗いし、今はこんばわの方がいいのかしら?」

 

「どっちでもいいだろ」

 

 血色のいい肌――精神的疲弊が窺える。

 

「ドラキュラに合ったて?」椅子に座る。「血を吸われたにしては健康そうだし、同属になった感じはしないわね」

 

「なってねえよ。昼食に豚肉のにんにく炒め食ったばかりだ」

 

「よかった。軽口を叩けるだけの元気はあるのね」

 

 元気そうな姿。ビジョン――抜け殻の姿。

 嫌なビジョンを頭の中から振り払う――レオがナナの顔を眺める。

 

「この時間にお前の顔を見るなんて初めてだな」

 

「そうかしら。......うん、そうかもしれない」

 

「イースターは放課後何してるのか想像がつかねえな。何してんだ」

 

「そうね......」捜査のことは触れず話す。「知り合いに合って話したり、三校の友達と電話したり。こうしてお見舞いに来たり、かな」

 

「ふーん」其と無く感じる興味なさげな空返事。

 

 別の話題――本題。

 

「レオ君。襲ってきたっていう吸血鬼ってどんな姿だった?」

 

「そう......くるよな。いいぜ話してやる」ベットから身を起こし向き合う。「ついさっき達也たちにも話したから面倒だな」

 

「ごめんね。もう一回話して」

 

「ガキの扱い見てぇだな」小さな溜め息。「ふざけた格好してたぜ。目深にかぶった帽子に白一色の口無し仮面だ。性別はたぶん女。ガチガチのハードタイプアーマーを付けてた」

 

「義体、て可能性は?」

 

「ないだろうな。動きがギクシャクしてなかった」

 

「ギクシャク? 義体の動きはギクシャクしてる?」

 

「あー、格闘番組で良く見るだろ。義体って。生体パーツは分からねえけど、機械部品は動きが妙なんだよ」

 

 動物的直感――確かに義体の運動系は神経伝達速度で言えは機械部品を使っているものより、生体パーツのほうが伝達は早い/行動の確実な再現を行える機械部品は生体パーツのように運動誤差(セル・エラー)は少ない。

 見るだけ――レオは画面越しで見る動きでサイボーグの微妙な違いを見抜いている。

 

「うん。分かった。じゃあどうして女ってわかったの?」

 

「拳の大きさだな。薬でぶっ飛んでたかは知らねえが、力はふざけてるぐらい強かった」考え込むような表情。「見舞いに来た幹比古が相手は『パラサイト』じゃねえかとか言ってたな」

 

「『パラサイト』て悪霊の一種て言われる次元仮説上生物のこと」

 

「ああ、なんでも俺はその『パラサイト』ってのに身体の同じ形の幽体ってのを吸われたそうだ」

 

「ふん......『パラサイト』ねぇ」

 

「信じるのか?」

 

「彼が嘘をいう理由もなし、疑う意味も無い」

 

 ナナ/あるいは『失楽園』には『パラサイト』を信じる者は多い――情報体次元(イデア)に漂う、情報のみで形成された有意識生物。

 別次元に生物は居るのか/生存できるのか――そんな懐疑的な疑問は一匹の生物が居る可能性を証明している。

 ナナのチョーカー/ウフコック自身である。

 彼は肉体を分割(、、)して自身が形成する亜空間、多次元に存在させている――分割して存在する肉体は意思を持ち、一つの次元で破損した肉体を修復する。その意味は別次元に生命体が存在する確実性を持っている。

 ナナも『パラサイト』の存在は疑わない――情報体次元(イデア)を意識的に認識する事ができないだけで。

 

「なら俺は形を得た幽霊もどきを殴ったてことになるな」楽観的なレオ。「形があるなら倒せるだろ」

 

「相手は幽霊の類よ。外側を倒しても中身は無事よ。潰す(マッシュ)ならまず茹でないと」

 

「茹でるったてな......締め上げるのか」

 

「それで相手が出てくるならそうした方がいいじゃない。問題は潰す方だけどね」

 

「非実体の意識を持つ生物ねえ……俺の専門外だ」

 

「私もよ......(ガン)で弾けない相手は苦手」

 

 倒れこむように背をベットに預けるレオ――天井を眺めながらふと思い出す。

 

「ああそうだ。達也たちに言い忘れてたこと思い出した」

 

「伝言? 伝えるわよ」

 

「そんなんじゃないんだ。襲われたときに変な奴見た気がするんだよ」

 

「変な奴?」曖昧な表現に首を傾げる。「どんな姿だった?」

 

「吸血鬼を追ってたのかも知れねえ。真っ赤な髪をした鬼を見た」

 

 引っかかり/嫌な予感――険悪な相手の姿が浮かぶ。

 

「そいつの姿とか覚えてる」

 

「あーと......たしか、金色の目してたな。あと小柄だった」

 

「跳ね毛の多い赤毛の長髪? 目元を変なマスクで隠してた?」

 

「ああ、確か。......知ってるのか」

 

 怒りで腸が煮えくり返る――知っている/その姿、容姿、立ち姿、性格まで。

 正体――アンジー・シリウス/存在偽装魔法、仮装行列を使用した――アンジェリーナ・クドウ・シールズ。

 顔に出ないように必死に耐える/詰めが甘い作戦――結果がこれだ。

 標的を逃し、あまつさえ身近な人間の被害者まで出している――スターズの隊長の未熟さが知れる。

 

「おい、イースター......?」怒りを気取られてしまう。「大丈夫か......」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「知り合いか? 知ってんなら挨拶はしておきたいな」

 

 お茶を濁す。「メトロ関係の知り合いよ。係わり合いにならない方がいい」

 

「......わかった。そう言うならこれ以上は深入りするのはやめるぜ」

 

「ありがとう。そうしてくれると嬉しい」

 

 にわかに聞えるアナウンス――面会時間の終了を知らせる。

 八時前――これ以上は迷惑/速やかに退散する。

 

「遅くまでごめんね。これ暇だろうから」

 

 古い音楽再生機――マルドゥック市で売られていた骨董品。ナナの私物。

 

「カセットテープって......いつの時代のモノだよ」

 

「テープは改造品で100曲は入ってるから。好きなだけ聴いて」

 

「おう......暇してたんだ。ありがとな」

 

 病室をあとににする――ふと降りてくるビジョン。虚無が囁く。

 

    

 

       俺が、お前の願いを妨げるものを全て取り除いてやる

 

 

 

 爆弾はそう囁いた――そうしてくれればありがたい/盗聴、盗撮をしていた機械に電源を戻す。

 リーナへの皮肉を考えながら病院を出た。




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