マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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戦闘描写を書きたい病が発症。


コントルノ12

 2096年1月16日

 

 登校――リーナを探すが居らず。帰宅――そして夜の街で捜査。

 

 電話――千葉寿和。「イースター捜査官。ちょっと耳寄りな情報を聞きまして報告します。『例の薬』の売人が商売をしているという場所を数箇所絞り込んだので今後の捜査はそちらを当たっていきます」

 

「その場所とはどこです? メトロですか?」

 

「いや、さすがに。出入り口の場所も確かじゃあない場所を目星にはしませんよ。千葉港三番瀬の海岸線に違法営業を続けているナイトクラブが売人が居るかもしれないと」

 

「確かな情報ですか」

 

「麻薬課が前々から目を付けてますし、当たりの可能性は高いかと」

 

「分かりました。合流地点の座標を送ります」――電話を切る/合流地点を送る。

 

 身支度を始める――動く易い服装/羽織る男性用の外套(トレンチコート)――不意に感じる感覚。

 

 還ってきた。

 

 チョーカーに変身(ターン)しているウフコック――五六口径リボルバーを取り出す。スピードローダーと数十発の弾をポケットに収める/銃を背に隠す。

 CADをホルスターに収める――切り替わる感情。人格そのものが変わった気がする。

 夜の街に――誘惑(テンプテーション)危険(デンジャラス)の居場所に飛び降りる。

 暗闇の中の街灯――凍る心をさらに冷めさせる。自身を火とすることで事件を燃え広がすのでは?。

 犯人を捕まえる/中毒者(ジャンキー)の行く末――病棟の奥で囚人同然と暮す/新たな薬を求め地下(メトロ)へ。

 自身が火なら最後の末路は一つ――加熱限界(ヒーティング・リミット)が訪れ消えるだけだ。

 それが訪れるのはおそらくナナ自身の事件――いじらしい。犯人は山中に潜む四葉――いっそ狂って乗り込んでやりたい。ウフコックをありったけ使い、六四口径の枷も叩き壊し、ありとあらゆるものを燃やし尽くしたい。

 心の根底は焦げ付いている――誰よりも復讐に取り憑かれる/イライジャが報復心よりも。私を、私たちを穢したやつらを穢し返す。

 私を犯した研究員――貴様のものを貴様の中に捻じ込んでやる! 両手足ともに切り落として生命維持装置に繋いでどこまでも苦しませ続けてやる。貴様が私の口に流し込んだその精液を飲まし返してやる! 私たちにしたことをすべて返してやる! 死んで死体になっても私の身体に移植して苦痛を与えてやる。

 煮詰まった感情――虚無が覆い隠す/凍りついた感情が戻ってくる。

 周囲のものから興味か消え失せる――目の前の事件に意識が戻る。今は売人の居場所を探す。それだけだ。

 指定している合流地点――寿和の用意した警察の公用車に乗り込む。

 県を越える――海岸際の港に/深夜にも拘らず騒がしい。すべて若者――柄の悪いものたちの見本市/あちこちにタトゥーを掘り込んだアウトローの少年/ど派手な下着姿の女性/奇抜すぎるアナーキストの一団。

 向かう先――倉庫街/ライトの明滅が激しい倉庫/立て看板――“ダックカッセラー”。

 

「ここがそのナイトクラブ......私だけ場違いな気がしますけど」

 

 運転席に座る寿和/助手席の稲垣――場所にあわせた服装/擦り切れたジーンズ、黒の光沢が目立つスカジャン。

 寿和はなぜか似合い、稲垣のなりきれてない感じが上下関係を表しているようだ。

 

「いや、一応捜査官の服装も用意してありますよ」

 

「......そういう趣味が」

 

「違いますよ。昔少々遊んでいたんですよ。その服を引っ張り出したのと、捜査官の服は知人から借りたんですよ」

 

 寿和が数人の取り巻く姿が脳裏に浮かぶ――違和感は生まれなかった。

 紙袋に詰まった服を見る――どれも可愛さが掛けている、格好いいとも言い辛い。

 

「外に出ててください。着替えます」

 

 そういい寿和と稲垣をキャビネットから追い出す――服を睨むが着たさというもの湧かない。

 外を見る――ふと目に留まる女性客の姿。よくよく見れば服を着ているもの方が少ない。

 上着を脱ぐ/ズボンも脱ぐ――簡素な下着/ウフコックを握る。

 

「ウフコック。ある?」

 

「年頃の娘に着て貰いたくはないがしかたがない」

 

 そういいウフコックは変身(ターン)――ナナは新たな姿に生まれ変わる。

 黒色のランジェリー――黒の薔薇が刺繍されたブラ、ショーツ/極めつけにガーターベルトにストッキングまで付いている。

 

「外は寒い。防寒用のナノスキンスプレーもしておけ」

 

「ありがと」

 

 ナノスキンスプレーを露出部に吹きかける――オブラートよりも薄い膜が張られる/皮膚から浸透するカプサイシンが体温を上げたと錯覚させる。

 車を出る――待っている刑事両名の驚愕の顔。

 

「捜査官、服は......」

 

「着ませんでした。可愛げがありませんし、女性客の殆どがこの姿です」

 

 ダックカッセラー――逃げることなく犯罪の口を開き続けている。

 向かう/『血浓于水』を探しに。

 

 

 ****/***

 

 

「うーこりゃまた凄い人数がいるな」

 

 メインホールに渦巻く熱気――興奮から生まれる汗/スポットライトの明滅は目にきつい。

 電子音楽――トランス状態に導く素材/生み出されるもの=ダンスとして姿を表す。

 ひどく原始的で形に囚われない、荒々しく粗悪、エナジーに満ち溢れた祈りに近いダンス――社会の拘束を拒む世代のいい息抜きの場。ぶち壊すのが悔やまれる。

 

「本当に凄い数ですね。こんな人数が今の時代に集まるのはイレブンスリーだけだと思ってましたよ」

 

「稲垣君。君もしかしてこういう場所で遊んだ事ない人?」

 

「はい」素直に応える。「自分はこの世代の頃は勉学に生を出しておりました」

 

「ああ、稲垣君は二世代目詰め込み教育の世代か。どうりでお堅い筈だ」

 

 こうした「遊び」を知っている寿和/「遊び」の初心者である稲垣にレクチャー――数世代前の知識だがいまだ通用すると信じて教える。

 

「こういう場所は大抵、踊ってるやつとか酒飲んでるやつはハズレ。一番ヤバイやつらはどっかこに潜んでる。便所とかに。奴さん強情なのが多いからね、締め上げても売ってもらえない。やつらから売ってこさせないと」

 

「売ってこさせるてどうやるんですか」

 

「暇そうにしてりゃいい。目星をつけて売ってくる」

 

 半裸の女子高生が自分を買わないか言ってくる/寿和は断り、奥の席を陣取る。

 

「もしくは、こいつで見分ける」テーブルに置かれる目薬――銘柄/『オーグメント』

 

 稲垣は手に取り注意深く見つめる。「目薬......じゃあないですよね」

 

「オクトーバー社製の拡張現実装置(オーグメントリアリティ・システム)だよ。日本じゃ浸透してないからいいマーカー探しに使われてる。向こうの国じゃあ街中の広告としてバンバン使われてるそうだよ」目薬を稲垣から取り上げる/目に垂らす。「自分の身体にマーカー貼り付けて売人であることを教えてるんだ。拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ)だから店のガサ入れとか来ても警官には気づかれない。でも」

 

「これを使用している客側は分かるってことですか」

 

 稲垣も拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ)を受け取り目に垂らす/世界が変貌する。

 簡素で打放しコンクリートが色鮮やかな壁に――若者たちの服装は豪華に変容し体中に貼り付けた拡張装飾(オーグメンテッド・アクセサリ)で奇人の群れとなっていた。

 

「凄い、ですね。うあ、あれ頭の中のライブ映像を出してるんですか」

 

 指差す先の若者は頭の中、脳のリアルタイムのライブ映像を拡張装飾(オーグメンテッド・アクセサリ)で晒していた。それはもうある種の露出癖とでも言っていい。

 

「今のトレンドてとこかな。稲垣君あれ皆よ、頭に電極パット張ってトリップの状態を映し出してる」

 

「潜入の可能性を考えてないですかね」

 

「あんなもんだよ、この年頃は。法がない場所はニュージェネレーションの天国だ」

 

 舌を巻く稲垣/同時にうんざりしてくる。

 

「ここで大規模検挙なんてしたらどれだけの人数が引っ張れるんですか」

 

「半数以上は持ってきるだろうね、気を引き締めろ。あの捜査官、だぶんその気だ」

 

 稲垣は息を吐く。「そんなに彼女はお堅い(ボイルド)ですかね」

 

「女遊びもしてないの? 君」メインホールを歩く捜査官を見て目を細める。「ああいう子こそ、固ゆで卵(ハードボイルド)になれない片面目玉焼き(サニーサイドアップ)なんだ」

 

「やけに詩的な表現ですね。警部」

 

「よしてくれ。俺はそんな詩人なわけでも、感受性の高い人間なわけでもない」

 

 寿和の薄ら笑い――メインホールで踊り踊らされる客の中から薬物売人(ジャンキー・メイカー)を探す。

 

薬物依存者(ジャンキー)は多いが、売人は早々見つからんな。銃刀法違反者も大勢いるな」

 

「警部、あの黒服の違反者たち店側に雇用された難民ですか?」

 

「んーそうだね。難民雇用は違法じゃないし、衣食住を与えれば賃金なんて要らない連中が多いからな、宣伝用の店のロゴが袖口にバッチリだ。――お、稲垣あれ見ろ。捜査官の尻に釣られた奴がいるぞ」少々気取ったような男/捜査官の尻に釘付け。「は、こりゃ入れ食いだな」

 

 携帯端末に着信――送信者/ナナ・イースター。

 いつの間にか送られてくる――端末の操作さした仕草が見えなかった。“薬物売人(ジャンキー・メイカー)を釣りました。液状無線の着用を”

 捜査官の指示どうりに無線を取り出す――霧吹きタイプの容器=ナノテクノロジーの産物。通称「耳薬」。

 液状のナノマシンが鼓膜に張り付き外部からの音声信号を受信し直接鼓膜を振動させる――特殊急襲部隊(Special Assault Team)や国防軍の限られた部隊にしか配備されていない最新型の無線機/五貫(いぬき)課長の驚異的な警察省内での立ち回りの結果。

 耳の奥に吹きかける――寿和の端末と外に待機させている車の端末で録音を開始する。

 

《素敵な髪色(ヘアカラー)だ。どこでそのエクステを買ったんだい》

 

 捜査官の鼓膜を通し送られてくる音声/男の姿が目に入る――第一印象=少々下卑た優男。ド派手な色のウェストコートを着こなし捜査官の肢体を隠そうともせず視姦している。

 

 哀れみ。「気持ちは分かるが。狙う女が悪すぎるぞ......」

 

 捜査官の気怠そうな視線/カウンターに寄りかかった姿勢――黒の下着が合わさり、実年齢とはかけ離れた「大人」の印象が強調される。

 

《失礼ね。地毛(ノーマルヘヤー)よ》

 

《マジか、何をどうしたらこうなるんだい》

 

《ただの過剰服薬(オーバードース)よ。体重もここまで戻すのに時間が掛かったのよ?》

 

《ダイエットの結果がガリガリの骸骨じゃあ意味が無いだ、か。苦労しただろうね》

 

 共感するような口調/少なくとも危険薬物に関しては少なからず知識を持っている。

 

《今日は何をしにここに? 憂さ晴らしに酒を煽りに来た訳じゃな無いだろう?》

 

《......手持ちを切らしたのよ。新しいのをカクテル探しに》

 

《カクテルね......来る場所間違えってるんじゃないかい。このご時勢にデジタルトリップじゃなくて「物」がほしいなら、ナイトクラブより難民街のほうがいいものが揃ってる》

 

《そうかしら? 知り合いから聞いたのよ。ここの扱ってる物は飛び切り気持ちよくなれる、って》

 

《誰だよそれ。店の雰囲気が壊れるから言触らすなって言っといてくれ》

 

 男は下心のある視線を捜査官に向ける/僅かに頬が釣りあがった。バーテンダーに二つのウォッカマティーニを頼む。

 

《君はどんなカクテルを探してるんだい? もしかしたら力に慣れるよ》

 

《ほんとに? それは嬉しいわ、いつも使ってるのが効き目が薄くなってきてきたから》

 

《はっ、とんだ薬物依存者(ジャンキー)だ。もっとぶっ飛びたくてうずうずしてる》

 

《分かるかしら?》

 

《誰だってわかるさ。その見た目まるっきり薬物依存者(ジャンキー)だ》

 

《客を良く見てるのね》

 

《そりゃそうさ。見てなきゃ客引きは出来ない》

 

 捜査官は頬杖を付きほんの少し笑いを見せる――まるで男を誘惑する悪女のような表情。

 男を誑し込む適切な行動や口調を心得ているようだった/引っかかる男がちょろかったのもあるだろうが、それでも無駄なものをそぎ落とした洗練された毒婦(ヴァンプ)の姿だ。

 

《あなたもしかしてこの店の店主?》

 

 一瞬だけ見せる驚きの表情。《そうだよ。社会階級に唾を吐くためにここを作った。ニュージェネレーションの楽園をね。君も社会階級が嫌いなんだろう》

 

《嫌いというより、ほどほどの楽しみがほしいだけよ》

 

《楽しみがないのかい?》

 

《痺れるような楽しみは今の日本じゃ無いわね》

 

 男は笑い声を上げる/遠間でも聞える大きな笑い声――その視線は捜査官を気に入った様子。

 

《いいじゃないか。いいよ売ってあげるよ。何がほしいだい》

 

《この刻印が彫られてるのがほしいの。呑んで病み付きになったの》

 

 誘惑するようにブラの隙間に挟んだ写真を出す――僅かに加工した写真=『血浓于水』。

 男はしげしげとそれを見る――含み笑い。

 

多幸剤(ヒロイック・ピル)とはまた劇薬(ハード)なものを。――少し待っていてくれ、部下に倉庫を探させる。少し踊っていれば持ってくるさ》

 

《そう、嬉しいわ。探すのに骨を折ってたの》

 

《簡単だよ。君のような綺麗な女の探し物に協力できて、こっちも嬉しい限りだ》

 

 男は捜査官に手を差し出す/手の平にある電極パット――電子ドラッグの誘い。

 

《いいわ》

 

 捜査官は電極パットを手に取る/うなじに貼り付ける――男に導かれるようにメインホールに向かう。

 

 稲垣の焦り。「警部、あのままでいいですか。捜査官電極パット付けちゃいましたよ」

 

「焦るなよ」寿和は店のサービスのタバコを吸う。「デジタルトリップは結局のところただの電気だ。予め魔法や何やらで飛ばずにすむ安物の紛い物(コピーキャット)だよ」

 

 捜査官と男のダンス――派手派手しく踊る周囲とは違う雰囲気/前戯にも似た手付きで男は捜査官を覆い隠す。

 

《本当にいい身体をしてる。元薬物依存者(ジャンキー)とは思えない》

 

《嬉しいわ、感度のほうも自信があるの》

 

 誘うような口調/どこまで本気か分からない。

 ただ「遊び」慣れた寿和が分かるのは――あの手の女は身を滅ぼす。

 

 捜査官の甘い声。《ねえ、聞かせて。『血浓于水』をどうやって仕入れたの》

 

《聞きたいかい》首筋に鼻を押し付け匂いを嗅ぐ男。《少しだけ危険な賭けをしたんだ》

 

《賭け?》

 

《ああ、この店の二階に個室がいくつかある。そこで話そう》

 

《もう、気が早いわ。もう少し踊りながら聞かせて。それで賭けって?》

 

《ある男とポーカーをしていくつか流してもらったんだ。今二階に運び屋の娘二人が楽しんでるところだ》

 

《娘? 女性なの?》

 

《ああ、顔や身体は極上なんだがな、性格が捻くれまくってる。その上、レズビアンで同性を犯したいがために男性器を移植しちまう奴らだ》

 

《へー、ねえその人たち紹介してくれない?》

 

《やめておいたほうがいい。君はあいつら好みだ。......あいつらに壊させるなら僕が壊したいね》

 

《そう》

 

 するすると男の腕が捜査官の股座に伸びる――にわかに入る通信/大音量の捜査官の声。

 

《制圧します。行動を》

 

 驚きで身体が跳ね上がる――捜査官が動く。

 後ろに回りこんでいる男を背負い投げる――ガラス張りの床に叩きつけられガラスが割れる。

 悲鳴――捜査官を中心に出来上がるリング/騒がしく動き出すスタッフ/銃の金具がぶつかり合う音。

 隠しているCADを引き抜く――黒い柄/仕込み刀/武装一体型CAD。

 走りメインホールに向かう

 

「稲垣。入り口の封鎖。応援も頼め! 今夜は留置場が溢れるぞ!」

 

「はい!」




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