マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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コントルノ9

 夕暮れの時の街――停車させたキャビネットに待機する刑事二人。

 

「どんな人なんですかね警部」

 

 外国の魔法師との対面――僅かに浮き足立つ稲垣。外敵/時期的にどこの国の人間であれ、魔法師であるのなら疑いにかかる――国防を任された者の定め。

 

「蓋を開けてからのお楽しみ…じゃないの、そこは」

 

 ハンドルにもたれ掛かりながら欠伸を一つ――夕日の中歩く学生を見て溜め息が出る。

 歳を数え27になる寿和にとってこの様な草臥れたモノになる予定は学生の頃にはなかった――草臥れる原因の五貫(いぬき)は歳を追うごとに活力を取り戻しているのだから怨みたくもなる。

 

「......たぶん、大人しい人たちじゃない」

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

「それね、修次が愚痴洩らしてたよ。こっちにも案件が回ってきたって」

 

「修次くんが愚痴ですか、想像がつかないですね」意外そうな様子。「それに防衛大の学生に連邦捜査官の監視なんて無茶じゃないですか」

 

「御上は魔法万能主義の一点張りだから。所詮機械化は魔法の二の次ってことなのよ」

 

「暴論過ぎませんか警部。いくら魔法が機械化にたいして優位にあっても、横浜はそれが覆りかけたんですよ」

 

 不意に横浜の光景が蘇る――フラッシュバックとも違う、ただ単に気味の悪い「何か」の姿が蘇る。

 

「それを言うなよ稲垣君」

 

「警部、結局どんな姿だったんですか、報告書だとよく分からないんです。魔法を無効化する兵士たちって何なんですか」

 

 好奇心が先に立つ稲垣/怪物の姿を訊こうと執拗に迫る。

 話したくもない、気味の悪い姿が頭から離れない――兵士たち/はっきりと見たのはただ三匹。

 まじかでの戦闘――現れた畸形の猪/遠くの大空を飛ぶマンタ/そして肉の塔に鎮座していた異形の童女。

 思い出しただけでも嫌になってくる。

 

「寄るな、むさ苦しい。思い出したくないんだよ」

 

「感情マスキング検診受けてないんですか」

 

「どうせ薬の効果が切れたら噴出してくる。だったら元から受けないほうが時間短縮になる。そうだろう」

 

「薬どうこうの前に的確な報告を自分は優先します」

 

「僕、君より刑事歴長いんだけど」

 

「人生では自分のほうが上です」

 

 不意に車の窓が叩かれる/叩いたモノ――少女が一人立っている/窓を開ける。

 

「なにかな君。僕たちお仕事中だよ、春を売りに来たなら別を当たる事だ」

 

 制服を見て溜め息――白と緑/第一高校の制服。

 冗談で言った春を売る/本当にそうであるのなら補導しなければならない。

 

 少女は冷たい視線で寿和を見る。「春をひさぐ為だけにここに来たわけじゃない」

 

 どことなく感じさせた男性的口調――鞄の中から取り出される学生証明書、身分証明書。

 疲れでしょぼつく目を細め見る。学生証明書、身分証明書に書かれる文字。

 学生証明書――国立魔法大学付属第一高校/1年E組[二科]/名前は身分証明書に隠れて見えない。

 身分証明書――USNA所属認定魔法師/連邦司法局所轄マルドゥック機関――ナナ・イースター。

 

「うおッ! すみませんでした!」少女は何も言わず、ただ無言で返す/その態度に冷や汗が背を伝う。

 

「後ろに乗せてもらえる?」

 

 慌ててドアを開ける――後ろのシートに彼女が座る。

 ワーストコンタクト/稲垣は非難の雰囲気を出しいた――謝罪を彼女に。

 

「売春婦と間違えてなら気にするな。制服で着たこちらも悪い」

 

「そうですか。いえ、こちらの勝手な考えで言ってしまったことです。謝りたい」

 

「気にしてはいない。それより今後の捜査(ハンドル)についての所見を訊きたい」

 

「えーとですね、ガイシャのここ数週間の行動、通信、交友関係はウチの大久保警部と09(オーナイン)の一員が捜査します。自分たちはまずガイシャの死因、と死亡前数時間を洗います」

 

「そう、では先に死因の調査に行きましょう」

 

 少女とは思えないほど落ち着いている/稲垣の顔を見る――稲垣も驚きが消えない様子。

 黙ってエンジンを入れる――走る/奔る。

 09(オーナイン)との共同捜査――暮れる日、宵闇の夜はすぐそこまで来ている。

 

 

 

 ****/***

 

 

 冬を通り越した寒さ――死体の冷凍庫の中/死体安置所。

 新宿警察所の中にある死体安置所は外の喧騒と完全に隔離されて空間――人がいなければ物音の一つしない。

 そんな室内に並べられた医療台にパックに詰められた義体/壁に備え付けられた簡易火葬機に冷凍保存機。屠殺場よろしく吊るされたオレンジ色の真空パックには壊された義体が詰められている。

 恐怖とも違う、どこか美術館のような雰囲気すら感じさせた。

 寒さに震える暇もない/ナナは稲垣巡査部長に渡された防寒コートを着て隔離された空間に立ち入った。

 静かに吊るされた死体パックを見ながら歩く――隙間から検死官の男性見える/医療台に乗せられた死体を開き調べている。

 

「よしてくれよ。何度来ても共同検査はしない」

 

 不思議な人生を悟ったような声/目はどことなく眠たげでトロンと虚ろな眼差し/ドクターとも「研究所」の研究員とも違った雰囲気。

 

 警察手帳を見せる寿和、稲垣。「魔法犯罪対策課の千葉です。こっちが稲垣」

 

 監察医が手帳を横目で見る――気だるそうな溜め息。「検死官のエドガー・ヘロフィロス。言っておくが密入国者ではない。国籍も獲得しているし、日本人になって今年で26年目だ」

 

「別に疑ちゃいなよ。『六道ビル事件』のガイシャについて訊きに来たんだ」

 

 ヘロフィロスは検死の手を止める/寿和の後ろにいる私を見る。

 

「あれは」

 

「共同捜査中の人だ。それで(ほとけ)の死亡診断書の提出がまだなんだ。担当はあんたかい?」

 

「そうだ。ついさっき会話を終えてパックに詰めたとこだ」

 

 ヘロフィロスはデルク・フェンフールの遺体まで導く――携帯端末を軽く操作し吊るされた義体が前に進み出てくる。

 パックに収められたバラバラにされた遺体/過去の友の燃え滓――魂の入っていた器。

 

「被害者はデルク・フェンフール。死亡推定時間は午後10から11の間、暖房の効き過ぎで死体のセルライト細胞が溶け出す一歩前だった。身体に付けられた外傷は、刃傷は68箇所、明らかにわざと(、、、)多く斬り付けてる。そして胴体から足先までを横に両断した刃傷が25箇所、縦に10箇所ある。かなりの高出力義体、もしくはあんたらみたいな魔法師しかできない芸当だ」

 

「よくここまでこま切りにする。......異常犯、ですか」

 

「さあ、それは君たちが調べる事だ。一つ言っておくが刃傷を与えた人間は彼を殺していない」

 

「どういうことです?」

 

「決定的な死因は刃傷を与えられる数分前に脊椎の破損だ」

 

「脊椎の破損?」

 

「ああ、首周りの皮膚装甲の傷痕は刃物では付かない傷だ。例えるなら裂かれている」

 

 死体パックを降ろし中にに空気を入れる/首周りの部位を取り出し指差す。

 

「圧迫痕も僅かならある。おそらくこの圧迫痕を着けたモノが殺害した犯人だ」

 

「首を絞めて殺したと?」

 

「いや、違う。羽交い絞めにして力任せに引き千切っている」他の切断されたパーツも取り出す。「刃傷を与えた人間は“これ”が死んだあと切り刻んだろう。切断面は焼き塞がれている、近頃出回っている高電磁(ハチソン)ナイフに近いもので切りつけている。刃渡りは70センチ~80センチあたり。日本刀に近い形状で切り口も鮮やかだ」

 

「刃傷は何の意味が」

 

「詳しくは分からない。ただ、斬り方が執拗過ぎる。恨みの表れかもしれない」

 

「恨みね」

 

「逓信省の次官ならありえそうだが。難民の非難を多く浴びている」

 

 ヘロフィロスが携帯端末を操作/冷凍保存機の中からいくつか出てくる人工臓器/ビンに詰まった脂。

 細かく、繊細に食道、胃、十二指腸、小腸、盲腸、虫垂、大腸、直腸、肛門/心臓に肺、目玉からアキレス腱に至るまで腑分けされている。

 

「『刀傷(かたなきず)の相手』はバラした後優雅に腑分けまでしている。冷蔵庫に消化器系、免疫系、循環系、脂肪組織脳神経回路網(セルライト・ニューロチップ)まで抽出している」

 

 稲垣。「実行者の精神異常、異常趣味って事ですか。――本当に難民がやったてわけじゃないです、よね」

 

 寿和は瓶詰めの脂肪を見ながら、「どうだろうね。今のとここういった(、、、、、)医療技術は日本より難民居住区のほうが技術は上だし。あながち難民がやったてこともありえるよ」

 

 ヘロフィロスは懐から煙草を取り出す/火を点ける。

 冷えた死体冷蔵庫の中に灯った火――煙草の煙は死体たちの冷気に掻き消される。

 無音の室内/ヘロフィロスは検死中の臓器の中に置かれたビニール袋を手に取る。

 

「忘れていた。“それ”の検死中に面白いものが見つかった」

 

 ナナは冷凍庫を死体パックたちを見飽き寿和たちの元に向かう/ヘロフィロスは台の上にビニール袋を置く。

 中身――ピンク色の錠剤。円盤型で両面に刻印されている漢字。表面に『血浓』/裏面に『于水』

 小型のメモリーセル。それを包んでいた紙。デルクからのメッセージ――『J4Y』

 

「錠剤の成分検査はまだ行っていない。メモリーセルの中身は薬品の成分表だ、おそらくこの錠剤の成分だ」

 

 ナナが錠剤を手に取る。「この錠剤は何の用途のもの」

 

「おそらく違法薬物だ」

 

 驚きからで出た笑い/寿和の疲れた声。「逓信省の次官は薬でハイになって殺されたか。やだねー」

 

「刑事さんは何か勘違いをしている」ヘロフィロスが煙草を吸殻で一杯になったコップに突っ込む。「そいつが出てきたのは腹の中じゃない。骨盤と大腿骨の間に埋め込まれていた」

 

 ヘロフィロスの顔を見る稲垣。「何でそんなところから」

 

「それはしらない。それを調べるのはあんたらの仕事だ。“それ”の健康状態の報告もいるか? 薬の反応は電脳を調べないと確かではないけれど、食道や精子の数は正常値だった」

 

 ヘロフィロスは新たな煙草に火をつける――新たな死体(バディ)との会話を始める。

 パックを医療台の上に降ろす時に洩れた検死官の愚痴。

 

「刑事さん。今度鑑識の人たちに死体の寄り分けはしっかりするように伝えてくれ」

 

 手を擦り合わせていた寿和。「どうしてだい?」

 

「死体とガイノイドのパーツが混じって届いたんだよ。その死体の案件は」

 

「ガイノイドね。ホントいい趣味してる」

 

 ナナはデルクの死体パックに触れる。

 ビジョン――イライジャとデルクの姿/笑いあう恋人だった頃の姿。

 ピンク色で鷹の羽を持つ猫が飛び立つ姿――あの悪戯好きな人がもういないのだ。

 さらに深く、色濃くビジョンが広がる。

 デルクが楽園を出る姿――希望ともまた違った責務を背負って。

 そして見える――最後にあった姿。でっぷりと太った姿。小さなガイノイドを連れている。

 あのガイノイドも壊されたのか気になった。

 

「ヘロフィロス検死官。壊されたガイノイドの中に幼児タイプのガイノイドは居た?」

 

「幼児タイプ? いや全て細切れだが成人女性タイプだ。幼児のパーツは紛れてない」

 

 不意に現実が軋む――虚無が漏れ出てくる。大きな爆弾のビジョン。

 火の姿が目の前一杯に。

 

「あー捜査官?」寿和がナナの肩を叩く。「ガイノイドの話、関係ありますか」

 

「足りないんですよ。ガイノイドの一体が。私が以前彼にあったのは『灼熱のハロウィン』より前、その頃には幼児型ガイノイドを所有していた。全部パラされていても小柄の機械が見間違うわけがない」

 

「ガイノイドが一体足りないと言うんですか」

 

「ええ」

 

 寿和はこれ以上面倒ごとが増えてほしくなさそうに頭を掻く。訊いてくる。

 

「そのガイノイドの型番とか分かります?」

 

 虚無が口を動かした。「ミームナード社製Type4498”キリエ“」




どうも皆様こんにちはこんばんは。
運珍です。

最近は書く気力を仕事に吸い取られております。
なんだよ、クリスマス、正月の書き入れ時なんて、年なんて明けるもんじゃないですよ。
はい、ただの愚痴でした。

マルドゥック・マジック~煉獄の少女~、早は書き始めて祝一年目です。やったね。
話数のわりにあまりアクセス数が伸びないのは私の文才がないためだと願いたい。
さてさて、2015年ももうすぐ終わりです。
今年の更新も今回で終わり、今見ている方々、来年もよろしくお願いします。


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