掃き溜めに鶴、そのことわざがこの状況を言い表していた。
突然の編入/現れた“カルタヘナの天使”――
授業の一環――魔法実習/簡単な起動式。
悪戦苦闘するものたちの中に一際優秀性を見せている彼女――ナナ・イースター。
遠巻きで観察する達也――差障りのない態度/誰しも平等に、同等に接している。
二科生に対する威圧的態度は微塵も見せていない――まるで誰かに設定された
この時期、「灼熱のハロウィン」直後の入学――原因である達也の目からは相手側も大胆な行動を取った。
機械化兵――魔法も使えるハイブリッド/調査に適してはいるが、
「気になるの? 達也」
野郎二人――幹比古/レオ。
観察に徹する事を選んだ男子三人――授業といっても監督教諭が付かないためサボる人間もちらほら/野郎三人、課題を終わらせ編入生の話題に。
「まさかのスパイが
「スパイって思ったてだけだよ。だいたい彼女がこっちに来てるのは九校戦より前だ、違うかも」
「邪推してたお前がね」
相手の予想がハズレかもしれない――それだけでレオは面白そうにしていた。
「まあ、あいつも分っかねぇからな」
達也は訊く。「どういうことだ?」
「そういや話してなかったな。あいつ十月ぐらい、事変の前位に夜の渋谷に居たんだよ」
「レオ、どういうこと」詰め寄る幹比古。
幹比古を押しのけながら話す。「何でも人探しとさ。危なそうなアウトローの写真片手に渋谷をうろうろしてた」
初耳――10月/しかも横浜事変以前に。
さらに不審な「夜の渋谷」をうろついていた――勇気のあることをするものだ/「夜の渋谷」いえばこの時代若者の繁華街だが、別の視点で見れば「犯罪発生率トップのホットゾーン」でもある。
中央区から離れているわけでもなく、江戸川区のように
夜に姿を変貌させる街に一人で歩いているとなれば、少々審議の余地が出てくる/しかもその探している人物が渋谷のアウトローともなればさらにだ。
「それで、彼女をどうしたんだ」
「一応、人探しに手を貸した。失踪なんてされたら目覚めが悪いしな」
「見つかったのか、その探している相手は」
「いるかもしれない場所に連れてった、それなりの収穫はあったみたいだぜ」
「夜の渋谷でかい。もしかして変な場所じゃないだろうね」幹比古は目を細めながら訊く。
小声で周囲を気にしながら言う。「あー、知り合いが経営してるストリップティーズに連れてった......」
頭を引っぱたく幹比古。「なんで女の子をそんなとこに連れて行くの!」
「しゃーねーだろ! 連れてかねーと話が拗れそうだったんだ」
やかましくわめく二人/周囲の目が気になり止める。
「それでレオ、彼女はそこで何を聞いてたんだ」
「そこのママが裏っ側のゴシップや仕事を紹介してる人なんだ、探してたやつの居場所を聞こうとしたけど突っぱねなれてた」
「なぜ」
「あれだよ。“メトロ”」
腫れ物を話すような幹比古。「レオ、もしかしてメトロにも連れてったとか言わないよね」
「そこまで俺も馬鹿じゃねえよ。それにメトロ入り口は俺もしらねぇ」
誰もが触れようとはしないが認知こそしている地下都市/日本のアンダーグランド。
東京メトロは構内に蓋こそされてはいるが、出入りの方法はいくらでもある/迷宮のように入り組んだ下水管の中にあるというのが最有力候補だ。
そしてメトロは三段階に構成されているとも――構内の深さによって「危険度」が上がる、簡単なランク分けである。
「何でも探してたやつがメトロのヤバイ仕事やってる奴みたいだったみたいで――」うまく記憶が出てこない様子で唸るレオ。「薬がなんちゃら」
「薬が目的でヤバイ仕事をしている連中の事か......嫌な臭いしかしないな」
「でも、相手は見つからなかったからな」
「それで他に何か言ってたのか」
「いいや、特に何も。いや、薬の種類とか話してたな」
幹比古はレオの素行に気が気ではない様子。「薬って頭痛薬とかじゃないよね......」
「なわきゃねーだろ。ドラッグ、違法薬物の事だよ」
友を思う心労から大きな溜め息が洩れる幹比古/レオは薬の話を続ける。
「何でも飲むだけで天国が見られる薬――だっけか」
「ただ単にアップ系の違法薬物の話じゃないのか」天国を見られるの言葉で予想する達也。「あの区では夜間だけ手売販売をする輩もいると聞くぞ」
「違うな。あの口調だとUSNAが起源の国認可の薬みたいだな」
「国がそんなものを許可するのかい?」驚きを隠せない様子の幹比古。「あまりにも危険だ」
「そうか? 1939年から1945年の大戦だと連合国軍と枢軸国軍の双方の軍で使用のゴーサインが出てたそうだぞ」
「それは昔の話だよ。ジュネーブ条約の保護もない、ましてや麻薬単一条約や向精神薬に関する条約もない。本当の混沌とした戦争だったからだ」
修正を入れる達也。「二人とも、話の方向性が無茶苦茶だ。薬は決して戦争のために開発されたわけではないだろう」
いまいちピンこないレオの顔。「と、言うと」
「医療だ。これは一例だが麻薬乱用者の麻薬から抜け出す方法の一つに医療機関からベンゾジアゼピンを処方するというのがあるらしい」
「それ返っていけねえじゃねぇのか」レオは口をぽかんと開けている。
「無論、ずっとではない。徐々に量を減らしていく方法があったそうだ。荒療治のベットに縛り付けてひたすらに耐えさせる方法に比べれば苦しみは減る......かは分からないな。今みたいに催眠療法や情動魔法で薬物への肉体の薬物欲求を遮断する方法が確立していない頃の話だ」
「医療のために作られたって達也はいいたいのかい」
「その可能性が一番大きいっと言う事だ。ただ本当に乱用のために開発されているのかは俺には分からない」
「そりゃそうだ。戦争以外で日本から出られない俺らにとって外の国は所詮テレビやネットからみる世界だしな」
少々興味をそそる話――国が認可するほどの薬品/犯罪にせよ医療にせよ許可が下りたこと時点で有用性は認められている。
この時代新薬開発は莫大な金がいる――日本に流れてくる違法薬物。
自身の探究心と好奇心が先に立つが、風紀委員としての立場でも気になるところだ――統計データで違法薬物は年を重ねるごとに件数は増えている。
特に「未成年」の発生件数――大戦が終結しその後の時代は復興と治安回復/行われた犯罪一掃で日本の薬物事情は“ほぼ”クリーンになってはいるが外国はまた違う/外の国は薬を求める人間は大戦で死亡し、買う相手は極限られた富豪や国家、そして小規模な移動難民だ。
日本の難民受け入れで大量に流れ込んだ薬物は、死に物狂いで生を謳歌する難民にとって「商品」だ。格安で売られトイレットペーパーの切れ端以下の値段で売られている。
そして安価で手にはいる「娯楽」の標的になるのは、どの時代も知識の乏しい未成年――安価が故にいくらでも手に入り薬物中毒で死んでいく。過去の金銭の縺れで首が回らなくなるみたいな事は発生していない。
薬物は高校生世代で粋がって服用、そして虜になりズルズルと――全国津々浦々、少年犯罪は突発的な万引きか薬物案件/この二つに限られてきている。
そして魔法科にも薬物は着実に蔓延している――風紀委員の活動は校内の治安維持そして、薬物所持者の強制確保である。ビタミン剤や頭痛薬などと言われれば成分検査にも時間がかかる――幅広い薬品知識も必要となってくる。
少し離れた場所で実習をしているイースター――今はエリカや美月とも親しく話しているように見える/だがその目は虚無を覗き込んでいる。
深い膨大な虚無を見つづけている。
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笑顔を表に――ダレた感情を裏に。
目の前に座る相手――個人的因縁無し/組織的因縁有り。
「えー! ナナとリーナって幼馴染!」
詰め寄るエリカ/その話題に達也、深雪、レオ、幹比古、美月、ほのかは驚いていた。
ナナ。「幼馴染って言うより......腐れ縁?」
リーナ。「ナナの家と私の家が関係してるの。彼女の家は市警関係の家で、私の叔父が主任検屍医なの」
外向きの顔を両者している――ナナ自身心の中で大きな溜め息が幾度も洩れている。
横浜で起きた巨大爆発の調査――スターズの隊長/アンジー・シリウスであるアンジェリーナ・クドウ・シールズの役目。
リーナが一高に留学してくるなら、三高から一高に編入ではなくただ単に長期休学届けを出せばよかった。
彼女と何かしらの悪い因縁がないわけでもない/だがそこまで嫌っているわけでもない――ただ両者とも属している組織が悪かった。
連邦政府直轄独立組織マルドゥック機関/USNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊――両者とも性質が相容れないのだ。
機械化と魔法――受容と拒絶。双方とも戦争で生まれ育ち、双方とも憎みあってすらいる。
決定的な原因となった事件――まだ『失楽園』が『失楽園』でも『楽園』でもない、政府所属の兵士改造の一研究施設だった頃に起きた強襲/『楽園』が連邦政府から独立し閉鎖したフェイスマンの楽園になる事件/
概要――ただ単純/大戦が終結し軍総括部もしくはUSNAにとって研究所は不必要になった/故に壊した、故に殺した。研究員、被験者、意識が有ろうが無かろうが/動ける体で有ろうが無かろうが――その施設すべての人員を殺処分しようとしたのだ。
僅かな生き残り――その時の最高責任者三人の政府との合意により戦闘行動が終結。楽園はひと時ではあるが閉ざされ。
強襲に一枚噛んでいた組織――当時のスターズの隊長ウィリアム・シリウスが手を貸したのだ。
それ以来、スターズと
にわかに脳のハードに送られてくる無線通信/送信者は分かっている。出る。
不満の音。《何であなたがここにいるの》
リーナの無線通信――
この無線通信も耳小骨経由送受信機を通して会話をしている。
《あなたたちは
《同じ
無線通信でわめかれる――うるさくて仕方が無い/このまま癇癪でも起こされても困る。
無線通信の外では一高生徒と話をしている――無線通信の中ではそれは汚らしい罵詈雑言が飛び交っている。
《第一、横浜の件はスターズが当たっている筈よ》
《御生憎様、私たちはその件で動いていない。別件よ》
《別件って......?》
《部外者であるあなたに話す必要、ある?》
ほのかと話していたリーナの目線が一瞬だけナナに向けられる/憎くて仕方が無いといった視線だ。
《そんな視線してたら新しいお友達に変に思われるわよ。“補欠”》
《“補欠”って呼ばないで! ――なんでバラッカ大尉はあなた達になんて付いたのよ!》
《さーね、愛の力じゃない》
《回答になってない!》
無線通信でわめき散らすリーナを鬱陶しく感じ出す――雰囲気を周囲に出さないように苦労させられる。
《今回の横浜の件にあなたたちは関係ないのよね?》
《関係なくはない。あの場にいたもの私たち》
《ちょ、ちょっと! 報告書にはそんな項目見てないは!》
《紙の書類に記載されている事だけが真実じゃない。実際横浜で戦闘を行ったし「大爆発」も見た。......言っておくけど間違いなくあなたの手には余るわよ》
《甘く見ないで、こう見えても経験は積んでるのよ》
《同胞殺しでいい気にならないほうがいいわよ。血は赤いウチはまだいい》
《それはそうでしょうね。海外にまで行って違法機械化者の白い血液見に行ってるあなたたちよりは楽な仕事でしょうけどね》
自分でも聞いていて馬鹿らしくなる/時間が立って聴けばまさにガキ同士のいい争いだ。
外の達也たちとの会話でこう聞かれる――ほのかが言う。
「お二人とも仲が良いですね。信頼し合ってるというか」
ナナとリーナは双方の顔を見た/言葉が重なる。
「「ええ、信頼はしてる」」
無線通信でも重なる。
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