桜木町駅前広場付近。
司波深雪/千葉エリカ/西城レオンハルト/柴田美月/吉田幹比古チーム。
大亜細亜兵の相手――敵を凍らせ、直立戦車をスクラップに。
一角――アメリアが頭上に向けベアリングを飛ばす。
頭上――奇妙な怪物=ツインポール・モスキート。焔に揺れる柱でタップダンス/地面を砕き楽しく
不敵な笑み/アメリアも共に踊る――降注ぐ柱を避ける。
ツインポールは遊び相手を得て喜んでいる――不愉快な笑い声。「キシ! キシシシシキシッ!」
「きもいんだよ。お前の笑い声は!」砕かれたコンクリート片を二つ掴み取る。
弾丸に変わったコンクリート片/空に飛翔。
飛び上がる蚊――回転し着地。口元の鋸歯が伸張。
身を傾ける――すれすれを通過。
疾駆――柱の足を振り高速に/僅かに引きずった足――火花が散る。
不思議な現象――火花を吸い取る青銅色の柱。みるみる両足に広がる。
青銅色から緋色に変化――熱を放ち灼熱の
横振りの蹴り――街灯を溶かし蹴る。接近。
ブリッチのような姿勢。前髪が焼ける。
「はあああああ!」
威勢のいい掛け声――疾走するエリカ。追随するレオ。
片足立ちのモスキート――足の破壊を狙う。
鋸歯を伸ばす蚊――鋭利な先端はレオの心臓に。
叫び。「パンツァーッ!」
得意の硬化魔法――衣類/自身を硬化。鋸歯の先端が数センチ刺さる/致命傷は防ぐ。
巨大な刃=大蛇丸。上段で構えるエリカ――滑るように移動。
踏み込み――振り下ろす大蛇丸/今まで消えていた慣性力が戻る。
刃が緋色の柱に触れる――奇妙なことが起きる。
既視感――あったことがあったようなないような。
時計が逆さに回転しているように使用中の山津波が巻き戻される。
不意に自身の体に過負荷――元の位置に戻された慣性が本来掛かるべきものに負荷を与える。
体の重心が前に――不快な笑い声。「キシギシ! ギギギシシキシギシ!」
ベアリングの弾幕/双頭の顔目がけて撃つ。――ぴょんぴょん飛び上がる。
わめくエリカ。「どうなってるの! 魔法が効かない?!」
「メトロ原産の
「クソ、どうするんだ」レオの悪態。「高所の相手にこっちは剣。しかも足元は魔法が
効かないって」
「自分で考えな。援護はしてやる」
義手の超伝導体が輝く――飛び出す。双頭に向けベアリングを撃つ。
鋸歯と柱の多段攻撃――
両腕、両足+目と脳以外は生身のアメリア――人体強化の効果が発揮。すべて避ける。
隙あらば撃ちこむベアリング/ツインポールの複眼に命中――金切り声。
割れた複眼から赤い液体がアメリアの顔に散る――猛々しい叫び/追随するレオ。
ピンと張った極薄の刃=薄羽蜻蛉――片手に構え、睨みを利かせる。
足以外の攻撃法を一切考えていない――押し留めアメリアが前に。
レオの後ろに影/滑り走るエリカ――レオを土台に飛び上がる。
驚き顔のレオ――ただ利用されただけ。
空高く飛翔する――頭に向かい大蛇丸を振り下ろす。後ろに倒れこんだツインポール――細い腕で地を掴む/足を振り上げる。
身を丸める――ブレイクダンス/ウィンドミル。
嘘のように身軽に動く――緋色に輝く柱が周りのもの全て巻き込み蹴り飛ばす。
「ウッソだろ! なんで!」驚きで腰を抜かしているレオ。
アメリアが首根っこを掴み投げ飛ばす/空中のエリカ――大蛇丸で防ぐ/肉厚の刃が盾となる。
遠心力で速度を増した柱/エリカを蹴り飛ばす。アメリアがキャッチ。
「何なのよ......あの化け物!」
「あたしが訊きたいよ」
残りのベアリングを確認――徐々に回転が弱まる/駆けつける人物=司波深雪。
即座にCAD操作――汎用型CAD/タブレット形状の画面から吹き出る冷気――凍結魔法。
地面一帯が凍土に変容――凍土はツインポールの腕を伝い緋色の足を除き体全体を固める。
回転停止――聳え立つ緋色の二本の柱――ゆっくりと倒れた。
「ありがと、深雪」
エリカは深雪に感謝を述べる/何処かを打ち付けたのか痛む箇所をさすっている。
久しく体を動かしていないアメリア/疲労が襲う。「最初からあんたに頼のみゃあ良かったね」
二本目の煙草に火を灯す――にわかに騒がしい音。
エンジン音――ヘリの音。
エリカが反応。「来たんじゃない」
深雪の携帯端末に着信=七草真由美。《皆、ロープを下ろすから掴まってくれる?》
どこからともなく落ちてくる六本のロープ/目を凝らす――ほんの僅かにヘリの輪郭が確認できた。
「これで私の仕事はお開きだね」疲れと溜め息が出る。
無線通信。《横浜を出るまでが仕事よ》
イライジャの注意。《あんたこそ確りしな。ハッキング受けてたね》
全員ロープに掴まり上昇が開始する――バッシ! という何かが割れる音。
目を走らせ音の原因を探した――更に割れる音が聞こえてくる。不吉な魔物が息を吹き返す――ゆっくりと体を捩りだす。
声を発した。「キシキシ! キシキシギシギシ!」
「ウッソだろ......」あんぐり口を開けたレオ。「なんで」驚いた深雪。
睨みを利かせたエリカ。ロープにしがみ付く美月/呪符投げる準備に手間取る幹比古。
「ふざけんな、化け物」
ベアリングを撃つ――離陸を急かす。《早く飛ばしな!》
遂に立ち上がるツインポール――薄氷が鉄の肌から落ちる。
「ありえない。凍らしたのに、死んでもおかしくなのに」不信な目でツインポールを睨みつける深雪。
深雪の不信感が膨れ上がる――通常なら生物は凍結すれば、組織が破壊され、高次機能が失われる。体内水分は粗大の結晶となる。組織の構造を破壊、溶けた場合は漏れ出してしまう。機械化もしてもこれは変わらない。細胞素子でなくとも油や内包する液体で機能は停止する。ましてや腹に液体を溜め込んでいたツインポール、死なない方がおかしかった。
「なんで......」
ベアリングを引っ張り出すアメリア。「落ち込む暇はないよ。凍らなかったのはこれのせいだよ」
アメリアは顔に付いた赤い液体を深雪に見せる。「不凍タンパク質だよ」
フリーズドライ、医療に使用される物質。
移植用臓器や血液の保存や利用可能時間の延長/冷凍食品の解凍と冷凍を繰り返すとまずくなる現象などの回避/全て可能にした――不凍タンパク質。
「あの蚊野郎、腹にこれを抱え込んでたんだ。体中に循環させてやがる!」
ベアリングの固め撃ち――短い冬眠から覚めたツインポール/生気の満ち機敏に動き出く。
「早く上げな! 来るよ!」
高度が上がっていく――ツインポールが迫る。「キシキシ! キシギシギシ!」
ジャンプ――ツインポールは手を伸ばす/アメリアの足首を目いっぱい掴む。
悲鳴を上げる踝――ベアリングを下に飛ばす。
「這いずってろ! You dumbass!」
眉間の中心にヒット――赤い液体を散らし落下していく。
落ちたツインポール――割れた複眼がヘリを睨み続けた。
***/****
桐原武明/五十里啓/千代田花音/壬生紗耶香チーム――地面に転がる下半身のない死体=リアム。
さんざん突き回される/あげくに腹より下を二軸破砕機に巻き込まれて絶命。
残された4人――
ミニバン並みの巨体が襲い掛かってくる――悪夢そのもの。
捕まったら惨い死に方をする=ミンチ。大亜細亜兵の弾丸を浴びた方が幾分かましだった。
徐々に意識が戻ってくる――大量の吐血/食道から詰まったポンプのようにゴボゴボと音が鳴る。血の塊を吐き出す。無かった筈の下半身の感覚が戻ってくる。
「ごっ......ごはッ! おえッぇぇ! あぁ、こんな酷い死に方は久しぶりだ」
細かな肉片より黄泉還ったリアム。
服も大鋸屑にされすっぽんぽんになっていた――粗末なものを保護証人見せる訳にもいかず天に召した大亜細亜兵の作業着を腰に巻く。
にわかに爆音――遠くに見える街灯が倒れる。
「ゲッホっ、......やってますねぇ。......そろそろ行きますか」
ロザリオをいじりながらリアムは目を細める――かすかに聞こえる産声たち。
この体を手に入れてから聞こえる声を神の声として讃えながらリアムは進んだ。
「
「フギギギギギギギギギギッ!」
緋色に輝く破砕刃/牙――
蹄が地面を叩く――割れる。破砕機が迫る。
右に避ける――通過したクラッシャー/廃車に突っ込む。
鉄が砕ける音/軋む音――キャビネットが浮き上がりクラッシャーの腹から吐き出される=散らばる残骸。
懐かれた桐原/忌々しく叫ぶ。「化け物め!」
刀を振りかぶる――振り下ろす。得意の高周波ブレードは使用していなかった。
少し前に無効化された――無くなった制服の袖/危うく刀と両腕を巻き込まれかけた。
脇腹にキツイ斬撃を見舞う――ぱっくりと開いた傷=クラッシャーの唸り声。
傷口から腸のような紐が溢れ出す。「フガアアア! ギ、ギギギ、ギギギギ!」
クラッシャーはキャビネットを飲み込み咆哮を上げる――牙を振り回す。
向きを変え驀進――腸を引きずりながら走る。
避ける位置を探す――足の下=股下。
滑り込む/通過する――ビルに激突――コンクリートを喰らい腹から吐き出す。
対処に慣れてくる=基本的に突撃しかしてこない/ただ途轍もなく速い。
柄を握り直す――やけくそな笑いが出てくる。
「大亜細亜兵の相手からどうしてこうなった、俺はいつの間に闘牛士になった」
コンクリートから脱け出した――蹄を叩きつける。
機械単眼が桐原を捉える――荒い鼻息/破砕機が回転を始める。
「フガッ! フガッ! ギ、ギギギギギギギ!」
疾走――蹄が地面を割る――緋色の牙が迫る。
にわかにクラクション――曲がり角からいきなり現れる大型トラック。
クラッシャーを跳ね飛ばす――ミニバンサイズの巨体が飛んで転がる――運転席からある人物が顔を出す。
「乗ってくか、保護証人?」
ソフトモヒカン/野獣の眼光=上半身裸のノア・アラル・ラグレー。
助手席から顔を出すもう一人。全身をミンチにされたリアム。
相変わらずのにへら顔。「ああ、いたいた。他の子達は?」
ひへら顔に眉を顰めならが答える。「チリジリに逃げた。合流地点はさっきの場所だ」
破砕刃の噛みあう音――体を起こしだすクラッシャー。
ノアの声。「早く乗れ!」
飛び乗る――狭苦しい運転席/二人乗りようを三人乗り――野郎二人に囲まれ化け物とのカーチェイス。
アクセルを踏み込む――速度を上げ逃げる。
追ってくるクラッシャー――緋色に輝く牙/後部左サイドの荷台に突き立てる――大きく揺れる車体。
ドアから体を乗り出すリアム――ジョットガンをクラッシャーに向け発砲/荷台の陰に隠れる。
右から現れる――運転席側にぴったり追走。
ドアごとノアが蹴飛ばす。「俺の隣を走るな。ボケ」
大亜細亜兵から奪った手榴弾もついでとばかりに投げる――後ろで爆発/僅かに揺れる。
ちらりとサイドミラーを見るリアム。「元気ですね。まだ追ってきますよ!」
「そうかい!」ノアが左にハンドルを切る。
衝撃――車体が傾く/リアムの笑い声。「荷台の後輪やれましたよ!」
一緒に笑うノア/楽しんでいる様子。「わかってるよ! 楽しいドライブだ!」
ガタガタ震動が伝わってくる/荷台を引きずっている――破砕音/金属の軋む音。
サイドミラーに写った光景――クラッシャーが走りながら荷台を飲み込んでいる。
ノアに向かって叫ぶ。「飲まれてるぞ!」
笑い声/状況がわかっているのか訊きたくなる。
「運転代われ!」いきなりノアが外に飛び出る――荷台を飲み込み続けるクラッシャーに向かう。
「おい!」
慌ててハンドルを握る/運転なんてしたことがない。
リアムの補助――どうにか立て直す。打撃音/金属音――聞いた事のない音が響く。
荷台がいきなり外れる――ノアが走って戻ってきた。
速度メーター=時速70キロ。「どうやって戻ってきた!」
「走ってだよ」平然としている/運転を代わる。
合流地点――五十里啓/千代田花音/壬生紗耶香――大亜細亜兵との攻防。
後方からの位置――ノア、リアムが笑い声を上げる/その意味を察する。
シートベルトを確り握る――アクセルを踏み込む。
速度を上げる――廃車の陰に隠れる大亜細亜兵を盛大に撥ねる。
急停止――到着。「到着だぜ。保護証人」
吐き気。「......あんたの運転する車はもう二度と乗らないよ」
にわかに爆音――蹄の音/桐原が切った傷口から腸らしきものを引きずり追ってくる。
ノアが車を降りてウォーミングアップ/ファイティングポーズ。
銃弾――残った大亜細亜兵が銃弾を浴びせる。意に介さずクラッシャーの相手をする。
真っ黒に染まる肌/角を掴み押し留める。
ようやく本来の土俵に戻った気分――高周波ブレードをしよう大亜細亜兵を斬りつける。
残存兵力も残りわずかといった様子/最後の敵を切り倒す。
ノアとクラッシャーの遊戯を尻目に壬生紗耶香が駆け寄る。「桐原君......大丈夫?」
「ああ、......なんとか」
荒い運転に気が滅入る――着信音。千代田花音の携帯端末に着信。
発信者=七草真由美。
僅かに聞こえるヘリの音――クラッシャーの唸り声。
押し留められるクラッシャー――踏み込みノアを押し退けようと必死。
「少し落ち着けよ。豚野郎!」
腹に蹴りを入れられる――動きが鈍る。
単眼が桐原たちを睨み付けた。「フガッ! フガッ!」
牙が桐原たちを狙う――撃ち出される。
四本の凶弾――ノアが一本掴み取る。「リアム行ったぞ!」
壬生を庇う/五十里啓が千代田花音を押し退ける。
守りに出たリアム――身を張り盾に=一本減らす――腹を引き裂き吹き出す腸。
二本があたった。
一本は桐原の足に。
一本は五十里啓の背骨を砕いた。
牙は桐原の足を貫き焼く――足が千切れる。
尋常じゃない痛み――意識が飛びそうになる/絶叫は出なかった。
身を焼く痛さが体中を駆け回る。
耳にかすかに聞こえる壬生の悲痛な声――返事をしたくても声が出ない。
蘇るリアム――焦り顔。「止血、あ、傷口焼けてる。縫合」
硬い地面にかすかに冷気が漂う――薄れた視界/司波深雪の姿が見える――空に向かい叫びを上げている。
ノアが相手をしているクラッシャー――単眼が空を見た途端目が泳ぎだす――脱兎の如く逃げ出す。
視界の半分が黒く染まる/空に捉える黒い影――死神と思えた。
息が続かない――間近に感じる”死“の影――走馬灯も三途の川も見えやしない。
まだある足が痙攣している――過呼吸気味に息を吐く。
10月の道路は今の桐原には冷たすぎる――硝煙と血の匂い/化け物に食われないだけマシだと思い込む。
徐々に息が細くなる――薄っすら開いていた目も閉じる。意識を誘う”死“の感覚。
ほんの僅かな目も閉じてしまった。
明るさも暗さも、暑さもも冷たさも、全感覚が閉じている――死んだと核心できる感覚。
その感覚は長くは続かなかった――にわかに意識が引き戻される。
体中に嫌な汗をかく――壬生の膝の上で寝ていた。
目を見開き歓喜の雄叫びを上げるリアム。「はは、ハレルヤ! 主はヒーリングをお授けになた!」
なくなった足が元通りに――似たような状況だった五十里啓も何が起こったか分かっていない様子。
混乱――確かに足はなくなた筈。
訳が分からない――目を回し何が起こったかを探る――黒い人間。
空に浮いていた死神――司波達也。
「し、司波......」
原因を訊きたかった――言葉がつっかえ出てこない。
黒の死神は横目で桐原を見て飛び去る――桐原は今の司波達也が本物の死神に見えた。
生命の死を司る神の姿に。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。