飛び出た数人――全員の手に握られる銃/大口径/対魔法師用小銃=ハイパワーライフル。
壁に飛び込む/銃声が響く――通常の物ではない/爆音。
隠れた壁に大きな穴が穿たれる。
悲鳴/怒号――共同警備隊の生徒はすべて統制が取れ壁に隠れる。
市民――統制の取れない蟻/どこに逃げればいいのか慌てふためく。
警備隊の数人が飛び出す――途轍もない速度=自己加速魔法/市民を戦場から遠ざける。
壁から顔を出す敵――銃口が救出中の警備隊の方へ。
「くそったれ! 狙ってやがる!」将輝が悪態をつく。
隣から飛び出る――素早くCADのコンソールを操作/発散――弾丸を粉微塵に。
市民を助ける警備隊の盾に。
「将輝、前に出ないで!」
ナナも後に続く――
小銃型CAD/
火薬で撃ち出される鋼鉄の弾丸――七つの
柱に隠れる敵――迂回した弾丸が胴体を撃ち抜く/背骨を砕き、腹に抱える内包物をぶちまける。
壁に隠れる二人――全弾丸が襲いめちゃくちゃに/二人分のひき肉が出来上がる。
残り二人。
一人が飛び出る――死んだ仲間のハイパワーライフルを拾い狙いも定めず乱射。
無茶苦茶に飛んでくる銃弾=対魔法師用――威力の増した銃弾。
乱射する男に変化――異様に膨らむ/ばきっ、ぱきっ、と骨が折れる音が響く――炸裂。
一つの爆弾のように敵が破裂――ナナの『膨張』に似た魔法=一条家秘術――爆裂。
敵側から小さな悲鳴――飛び出てくる男/何かを腹に抱える。腹に抱えたものを曝け出す。
手榴弾――つなぎに吊るした死の果実。
目を覆うような強烈な光/腹に堪える震動――音。炸裂した男は無数の破片となって降り注ぐ。
警備隊――呆然/状況が飲み込めない様子。
すすり泣き――市民の涙。
インカムから聞こえる声――南出入り口警備の
《ナナ! 敵よ! たくさん雪崩れ込んできた!》
《分かった。今からそっちに向かうわ》ナナの冷静な状況判断。
《わかったわ。急いで!》覚悟の声――途切れる。
駆け寄ってくる将輝/どこか落ち着いた様子――実戦経験者の余裕。
「ナナ、南出入り口に向かうたってここの警備はどうするんだ?」
「もう警備じゃない、防衛戦よ。それに東スタッフ入り口から別働隊が侵入してる。もう会場ホールに入った」
「本当か! くそ! ジョージ......」
「他の三高警備隊を集めて。南出入り口の警備隊と合流後、代表チームを救出します」
「分かった警備隊長に言ってみよう」
「よろしくね」
将輝が三高警備隊を集め警備隊長に話を付けに――ナナはイライジャに無線通信を飛ばす。
《イライジャさん。聞こえます?》
《感度良好。ばっちり聞こえるしさっきの攻防も見えたわ》
不意に後ろを振り向く――ドーム型防犯カメラがナナを覗いていた=イライジャの
《ついさっきお客様がご来客したけどお引取り願ったわ》
《殺したんですか?》
《一人の学生がね。残り数人は現在拘束中よ。いざとなればベンジャミンが
《分かりました。三高メンバーはどうしていますか?》
《多少の混乱が見られるわ。あら?》
無線通信にノイズが走る――頭に直接響いてくる。
「くそ......」
思わず下品な言葉が漏れる――三高警備隊が集合する。
「ナナ。集合し終えたぞ。隊長とも話を付けた、行こう」
「ええ」
CADを担ぎ移動を開始――遠くで鳴ったブレーキ音。
振り向きそれを見る――肌を鋭敏に/捉える――大型トラック。大亜細亜連合の尖兵。
トラックの荷台から数人が飛び降りる――機械化した人間/足に隠したローラーブレードが露になる。
ブラックドックに仕える子犬たち――猛烈な速度で南出入り口に向かっていく。
ビジョンがちらつく――
意識のそこで燻る火種が徐々に燃え上がる感覚がした。
2095年10月30日(日) 15時41分-横浜国際会議場 ホール
通信が混断する/舌打ち――落ち着きいたはずのイライジャが不機嫌になった。
理由=通信妨害/
魔法師であるイライジャ――09ライセンスを取得してからは通信兵。
通信兵としてのプライドがこのような状況を招いててしまったことに苛立ちを隠せなかった。
通信障害の原因を探る――ありとあらゆる回線に妙な防壁が張られている。
防壁を潜れば行き着くのはどこぞのアダルトサイト――明らかな挑発。
ホール中の生徒が混乱を始める――イライジャの苛立ちを更に加速させる。
「バラッカ」
名前を呼ばれ振り向く――静かに老紳士が覗き込んでいた/異様なまでに落ち着いて。
「焦っても解決することは少ない。落ち着きなさい」
静かな声――身を鎮める獅子の様。
「そうね。あなたの言う通りね」
僅かに深呼吸――状況の整理。
予測――敵は大亜細亜連合/ハイパワーライフルで武装=対魔法師戦想定。
現状――通信の遮断/外界との連絡を絶たれる。孤立。
模索――打開策=障害の排除/原因が不明/街灯監視カメラの使用が効かない。
「通信が出来ればプロフェッサーが呼べる」愚痴のように漏れる。
「通信は先ほどホールを出て行った学生がしております」
驚きの言葉――納得/ベンジャミンはいつの間にか会議場内すべてに
「どこまで視界が届いてるのかしら?」
「会場全体と会場外半径一キロぐらいには」
「分かった。ではあなたの視界を使って藤林響子を探してくれないかしら?」
行動――移動。藤林の元に。
散発的に起こる戦闘――銃声/正面玄関は増援が到着し戦争に逆戻り/ナナ第三高メンバー――南口に移動中。
「藤林さん? お時間頂けるかしら?」
唐突に話を持ちかけたイライジャ――対処に困る藤林/携帯端末片手に受けあう。
「すいません。今少し時間が――」
「委任事件担当捜査官イライジャ・バラッカです。
委任事件担当捜査官の言葉に反応する――驚いた表情/イライジャとベンジャミンを見比べる。
「ごめんなさい。気づきませんでした」姿勢を正し敬礼。「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊――」
「堅苦しい挨拶はやめませんこと。お時間がないのでしょう?」
足早に移動するイライジャ――その後に続く藤林/どこに向かうのかといった雰囲気。
「その端末外部との通信が?」
「いえ......つい先ほどから遮断されています。他の端末も」
「そう。ベンジャミン、あなたの言う通信が出来た学生たちの場所は?」
後ろに付き従うベンジャミン。「彼らは会場ステージ裏に行きました。どうやらデモ機のデータを処分しているようです」
困惑する藤林。「何を言って――」
くすりっ、と笑うイライジャ。「説明をし忘れたわ。彼はベンジャミン・バトラー。私たちのサブリーダーよ」
「はぁ」よくわからない/そういったように顔に表れている。「それで何で生徒達の動向が分かるんですか?」
楽園の技術を知らない者の当然の反応/ベンジャミンの含み笑い。
イライジャの説明。「彼は大戦中に目を失ったの。そして失楽園の技術で無数の目を手に入れた」
意味わからない説明に更に困惑。「それはどういう――」
曲がり角から敵が飛び出してくる――薬物をキメて来たのか、目が血走り、唾液を垂らしながら定まらない銃口を向ける。
敵の周囲――きらきら光る粒子/一本の糸に。
ベンジャミンの指先を起点に伸びる糸/引く。血飛沫――胴も足も首も/すべて輪切りになる。
手に握る銀色に光るか細い糸。「こういうことです」
ベンジャミンが閉じていた目を藤林に見せる――白く混濁した虹彩/網膜剥離の影響。
「彼はもう目は見えないわ。その代わりに目の替わりになるワームを体で生成できる。ワームは戦闘にも使用が出来る、さっきの敵が死んだのワームの『力』よ」
まだ分かってない表情の藤林/イライジャの目に冷ややかさが宿る。
「私たちは国際法的にはもう人間とは定義されていないの。ベンジャミンは多眼偵察装置か移動可能の切断機。私は小型量子コンピューター。法が許す限り私たちはこの『力』を行使できる」
言葉に詰まっている/質問が出てくる。「私と組んだあの子の扱いは何?」
冷たい表情のまま答える「ナナは人工知能搭載の燃料気化爆弾よ」
VIP会議室前――藤林に別れを告げる。
「少々諸事情があるの。失礼するわ」
「あの、どこに」
「そんな捨てられた子犬みたいな目で私を見ないで。09本体との連絡でここの通信端末を借りるだけよ」
妙な例えに困った表情。「分かりました。私は特尉に呼ばれていますのでこれで失礼します。あなたたちの救出部隊を手配しますので、ここにいてください」
「私たちの救出で人員も運搬機も割けるの? 私たちは武力も移動手段もあるわ。空路だけど逃げ遅れた市民の救出できるわ」
「確かに空の方は相手も攻撃手段を持ってないようですけど。ミサイルが......」
「大丈夫よ。敵の対空装備は調べが付いてる。それにハンプティはミサイルじゃ割れないわ」
微笑むイライジャ/その顔に藤林の緊張も抜けてしまう。
「わかりました。出来るだけ多くの市民を移動させます。落合う場所はシェルター付近の駅でいいですか?」
「ええ、もちろん。プロフェッサーに伝えるわ」
そういいイライジャはVIPルームの扉をあける/思い出したように振り替える。
「藤林さん。一高生徒にデータの消したデモ機をステージに配置するように伝えてくれないかしら?」
意図を汲み取れず困惑する藤林。「えぇ......分かりました伝えます」
結局考えても一切分からない――氷のように冷たい態度の白雪姫は静かな切り裂き魔を連れVIPルームに姿を消した。
15:56-大型特殊車両専用駐車場
壁を駆け回る犬――猟犬の二人。
踊る二人――歌姫/血塗れの王子。息が合い援護しあう――猟犬は常に喉笛を狙う。
飛び出す将輝――カバーするように後ろに付くナナ。爆裂と膨張。
猟犬二匹は避ける――後ろの大亜細亜兵に当たる。
ぱきっ、ぽきっという音――炸裂/真っ赤な赤血球が外を目指す。
全体が膨れ上がる/皮膚が裂け、筋肉繊維が外気晒される――炸裂。一人分の血が撒かれる。
猟犬は構いもせず突っ込んでくる――ローラーブレードが唸る。
斬撃――鋭い蹴りがローラーブレードと合わさり鋭利な刃物に。
身を屈め避ける将輝――飛び避けるナナ。
もう一匹が踵落とし――ナナが小銃型CADで防ぐ。
猟犬の手が開く――内部に隠れた魔法殺し=
エイドスを撒き戻し正しい位置に――斜め上に向け蹴りを放つ。
思ってもいない援護――
彼女が何年も掛けた徹底的に反復練習――内功、自身を保有するCAD無使用のエイドス操作体術。
力は骨より発し、勁は筋より発する――発勁。魔法で起こした電磁誘導が乗せられる。
猟犬がまともに喰らう――絶叫。電磁誘導が猟犬の電脳を焼く――地獄の苦しみ/酸の風呂に叩き込まれたような。力なく倒れ伏す。
怒りで顔を歪めたもう一匹の猟犬――
身を屈めていた将輝――空を見上げナナから受け取った拳銃を構える。
装填された荷電式の弾丸――空に向け発砲。
撃ったと同時に射線上に猟犬の一匹の足が入る――直撃。
足を感電させた弾丸――来ると予想して撃った弾丸がタイミング良く当たった。
悲鳴を上げのた打ち回る――爆音。
ナナの五六口径リボルバーが火を噴く。のた打つ猟犬の首を消し去る。
地獄の叫びのようなリボルバーの銃声/車内に隠れる三高メンバーの耳にも届く。
戦闘を経験したことのない者達は実感した。
ここは地獄に成った――
退き口の戦/逃げ戦。
尚武を謳うたった第三高校/己を守れる牙を持ちえた猛竜の数は――極僅かであった。
次回こそはヴェルミを出したいな。
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