マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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セコンド・ピアット16

 懐かしい夢を見た――研究所に居た頃の一番楽しかった夢。

 遊具室でお兄ちゃんが絵本を読んでくれた――塀の上にいる卵の話。

 

―― ハンプティ・ダンプティ 塀の上に座ってた(Humpty Dumpty sat on a wall,)

 

 その情景を想像し楽しくなった/挿絵もずんぐりむっくり、可笑しな顔がついた卵の姿。

 

―― ハンプティ・ダンプティ 落っこちた(Humpty Dumpty had a great fall.)

 

 少し怖かった――お兄ちゃん、なんでハンプティ・ダンプティはおこっちたちゃったの?/お兄ちゃんは困ったように笑って続けた。

 

―― 王さまのお馬と(All the king's horses,)

 

 私にはこれに出てくる王様が、私と他の子を助けてくれると思っていた/童話に出てくる王様が私の中の救世主だった。

 

―― 王さまのけらい みんなよっても(And all the king's men,)

 

 そこから先のことがいつも思い出せなかった――思い出したくもなかった。嫌なことが起こった気がするから。

 私は震えてお兄ちゃんに縋っていたと思う/そしていつも顔を隠して聞いていた最後の一節を。

 

―― ハンプティ・ダンプティ(Couldn't put Humpty)もとに戻せなかった( Dumpty together again.)

 

 

 

 2095年10月27日(木) -能登島難民街

 

「......うっ」

 

 硬いベット/背骨が軋んだ。薄汚れた天井/自宅のではなかった。

 体を起こし周囲を見渡した――日当たりの悪い窓の縁に将輝が寝ていた/腕を組んで器用に座った状態で。

 ぼんやりと昨日のことを思い出した――難民街に来たのだった。

 目を擦りながら洗面台に向かった――のっそりとした動きでのろのろ動く。

 ウフコックはネズミ本来の習性で朝が弱く未だに寝ていた。

 浴室――LEDの白がタイルに反射し目に刺さる/そうだ、昨日はこれのせいでフラッシュバックの前兆が現れたのだった/私たちが押し込まれた研究所の寝室に似た部屋だったために。

 蛇口をひねり出てくる水――お湯で顔を洗った。あちこち蒸気管(ホットパイプ)が張巡らされ能登島は年中無休で南国のような湿度と温度を誇っていた。

 その影響か水道の水もお湯に変わっていた/火山地帯の水道がお湯であるように。

 顔洗い大分気分も目も覚めてきた――昨日の痴態を見せてしまったことに恥ずかしくなる。

 あんなに泣きじゃくり怯えてしまった――死んでしまいたいくらい恥ずかしかった。彼の前では出来る限り気丈に振舞っていたい。

 

「あぁ......へんなとこ見せちゃったな」

 

 弱点が故に他人に見せたくない――ウフコックが居て助かった。居なかったらもっと長引いていた。

 将輝にどう接すれいいのか分からない。同情はされたくはない――私自身レイプされたことには踏ん切りをつけたつもりでいる。

 考えれば考えるほど分からなくなっていく/顔の温度が上がる――心臓の鼓動が早まる。

 彼のことを考えただけで/ナナも鈍感ではない――この感情が何なのかうすうす感じはじめた。

 

「~っ!」

 

 自宅のベットなら飛び込んで悶えていたかもしれない/そんな事を考えているとその人が来た。

 扉が開く――眠そうに目を擦っている/大きな欠伸を一つ。それとまったく同じ行動を肩に乗るネズミもする。

 

「おはよう......」

 

「お、おはよう」

 

 能登島に来て二日目の朝――ネズミが塩抜きのピスタチオを齧る/ナナと将輝がどこかよそよそしい朝食をとった。

 

 

 ***/****

 

 

「知っているよ」

 

 無関に居た強面の電脳技師が野太い声で答えた。

 多くのガイノイド改造を請け負っている店/一見すると奴隷を売っている中世の商人にも見えた。

 腕/足/胴体/頭/目/耳/指/電脳――ありとあらゆる女性型義体の高級品が吊り下げられていた。

 私たちが探しているロリコン――”ルイスの鷹“がここでガイノイドをつい先日購入したと。幼児型ガイノイドを。

 わざわざ新型のアンドロイドを入れたそうだ――居場所を聞く=百万石町の市民街のビルに居る。

 移動――能登半島方面へ。

 人層も上流者階級(ワンダーランド)から中流者階級(チーププラチナ)――さらにひどくなる。

 高層ビルからバラックな即席の小屋に変わる/一条将輝が考えていた難民街に。

 400年は帰れない能登半島――誰も近づきたがらない/この世の果てのさらに果て――労働者階級(プロレタリアート)の居場所/この世の終わり。

 ”難民街の上流者(アフターデス)“を望み見るように”難民街の労働者(ザ・デス)“の住居の群れが立ち並ぶ。

 異質なものが一軒。

 バラックの中に建設中の住居ビル/青色の落下防止ネット/”安全第一を目指しております“の文字。

 その上に更なる垂れ幕――あまり良い趣味と言えない。

 コミカルな排泄物の絵/汚い文字=”クソうまい飯(ファキング・グッド・フィード)

 ”ルイスの鷹“――デルク・フェンフール/元失楽園の科学者の拠点。

 

「ひどい絵だな......」

 将輝が呆れたように垂れ幕の絵を見る/その通りだ。

 

 眉間に皺が寄る。「同じ場所に居たことが恥ずかしいわ」

 

 歩みを進めビルの根元に――一箇所に市民が群がっている。礼儀正しく一列に並ぶ。

 何事かと思い遠目から覗く/成人女性型ガイノイドが炊き出しをしていた。

 

「あのガイノイド、君の言うデルク・フェンフールのガイノイドじゃないのか?」

 

「たぶんね...... 慈善事業のつもりでやってるのよ。どこにそんな資金があるのやら」

 

 ビルの正面ホールを抜ける――住民票/一つを除き全て空白。中心にでかでかと書かれた名前=デルク・フェンフール。

「行きましょう」

 階段を上る――エレベーターなどの物はない/作られてない。

 デルクが居る部屋に向かう――他の部屋から尋常じゃない物音がする。

 予想はついた――全ての部屋に演算処理サーバーを突っ込んでいる。いわばこのビル自体がネット端末のようになっている。

 そうこう考えているうちに目的の部屋に。

 扉に書かれた張り紙/『ひれ伏せ神に』

 

 心底呆れた将輝。「で、これからどうする。インターホンでも鳴らすか? 出そうもないが」

 

平和的に(イン・ピース)

 

 そういいウフコックを震動型粉砕器に変身(ターン)さした。扉を壊す。

 

「さっき平和的にって......」

 

「行きましょう」

 

 土足で入っていく――将輝は粉砕された扉の破片を飛び越えながら入る。

 几帳面に整理されたリビング――使っていない様子。

 ガタッ――奥の部屋/物音。書き殴られた文字の羅列/意味は無い――一つの部屋/蹴破る。

 

「ぬああぁああぁあああ!!」

 

 叫び――真っ暗な部屋/ネット端末のディスプレイだけが煌々と輝いていた。部屋には一人と一体。

 

「デルク、難民街で神様気取り? そんなとこでオナニーしてないでさっさと出てきなさい!」

 

「蹴破ることはないだろ! ここじゃ修理費も馬鹿にならないんだぞ!」

 

 わめき散らす男性の声――巨大な影が部屋から出てくる。

 その姿に唖然とする/失楽園を出た姿とは懸け離れたビジュアル。

 タイヤを縦に並べたような腹/金属質な皮膚が考えられないくらい波打つ。

 

「久しぶりだな。ナナ」

 

 

 ***/****

 

 

 リビングのソファーに座る将輝/隣にナナ/向かいにデルク――その隣に座るナナに似た幼児ガイノイド。

 ”ルイスの鷹“――落胆してしまう将輝。その姿に。

 これは勝手な想像が肥大化した姿。

 スマートな義体/不健康そうな顔立ちだったとしても知的な顔。

 巨大な外部記憶装置の中でネットの海を回遊し、必要な情報を取り出す――そんな妄想が将輝の中にはあった。

 だが出てきた男はそんな妄想を打ち砕いた――巨大な腹/ドラックマシーンのタイヤのように太い。

 顔も知的とはほど遠い――温厚そうな人懐こい顔。隣に座るガイノイドを娘のように頭を撫で続ける。

 巨大な外部記憶装置はあった――ビルそのもの。

 

「ひどい義体ね。換装したほうがいいじゃない?」

 

 ナナはその姿が心底嫌なのか眉間に皺を寄せていた。

 

「ひどいとは失敬だな。この義体はあるべきしてこうの姿なのだ。この腹の中には皮下脂肪組織(セルライト)ベースの脳神経回路網(ニューロチップ)が使用してある。これが俺の電脳と並列して処理能力を高めている。いわばこの体が俺の脳味噌だ」

 

 大きな腹を前面に押し出す/自慢げな顔。ナナが溜め息を吐いた。

 

「それで、俺に聞きたいことがあってきたんだろ?」

 

 将輝は無言――ナナが前のめりになる。

 

「この事件の全てよ」

 

「一口に全てて言ってもどの事件だ? 火之迦具鎚(ひのかぐつち)の方か? それとも第三高で起きた生徒発狂事件?」

 

「そうね......じゃあ、火之迦具鎚(ひのかぐつち)の事件から」

 

火之迦具鎚(ひのかぐつち)ね。これはいたって簡単だ。大亜細亜連合の特殊工作員の差し金で奪われた」

 

「それは陳 祥山(チェン シャンシェン)の指示?」

 

「そう。見事にヴェルミとキドニーの手引きで火之迦具鎚(ひのかぐつち)は人の規定から逃げ遂せたわけだ」

 

「その言い方だと火之迦具鎚(ひのかぐつち)が自分から出てったみたいね」

 

 デルクが一瞬驚いた顔をする――すぐに何かを理解した。

 

「もしかして火之迦具鎚(ひのかぐつち)のAIに関して何も聞いていないのか」

 

「AI?」

 

 ああやっぱりといった表情。

 

火之迦具鎚(ひのかぐつち)は次世代型思考戦術AIを搭載した聖遺物(レリック)複合合金の機体だ。機体はどうでもいい。本当にすごいのは中身だ。あの中身は通常の演算リソースの倍以上の性能を誇っているんだ」

 

「そこだけ聞くとどこにでもありそうな兵器の売り文句ね」

 

「これは冗談じゃないくらい性能がいいぞ。現に火之迦具鎚(ひのかぐつち)は自己可決の結果、国防軍から出て行った」

 

「自分からじゃおかしいじゃない。作ったのは日本よ、そんなへまはしないわ」

 

「だから言ったろ。火之迦具鎚(ひのかぐつち)は次世代型思考戦術AIを搭載してるって。このAIが厄介なほど良くできてる。ニューロチップは溶解性蛋白質ベース。使用頻度によって消耗する。だがその消耗した情報は別の場所に貯蔵される仕組みになっていて。経験して事を失わないでいる」

 

「そのニューロチップ欠陥まみれに聞こえるんだけど?」

 

「まあ聞け。ニューロチップはただ蛋白質を入れるだけで補充は利く。一番厄介なのは蓄積した情報だ。本当に一つも失われずどんどん記憶する。その情報は記憶キャッシュとして補充される、戦闘のたび劣化する通常の自立戦車のAIとはまったく異なる。しかもその蓄積したデータが事件の起こる数日前から面白い結果が出始めてたんだ」

 

 無言でナナは聞き続ける――俺は言っていることがまったく分からなかった。

 

「記憶キャッシュが脳神経を模倣しだしたんだ。人間の脳と言ってもいい、第三研究所の学者は大喜び、人間の脳をクローン技術以外で模倣できたって。観察が続いて自我も確認された」

 

「AIが自我をね......昔の映画みたい」辛辣な声でナナは言い放つ。「ありえないわ、そんな事。あなたが考えたならナンセンスね」

 

 にやりと笑うデルク。「信じないならいいさ。これは真実だが」

 

 彼らのいう火之迦具鎚(ひのかぐつち)が大亜細亜連合に狙われた/そして自分から出て行った。という事なのだろうか。

 事件そのものを将輝は顔に「?」が浮かぶ。

 

「一条の御曹司が分からないみたいだ。発狂を話そう」

 

 デルクは幼児型ガイノイドに飲み物を入れるように頼む/たどたどしい動きで台所に向かっていった。

 その姿をデルクは本当の娘のようにだらしない顔で眺めていた。

 

「さてと、結論から話そう。発狂の概要を」態度をいきなり切り替えたデルク。「発狂はヴェルミが仕掛けた壮大な実験だよ」

 

「何言ってるの?」本当に頭がおかしくなったのかといった表情。「魔法も薬も使わないでそんな事が出来るわけ?」

 

「出来る。出来るから発狂が起こっている。ヴェルミの一人がそれを起こしている」

 

「どんなやつなのそれ」

 

「第三研究所を襲った奴だ。カメラ映像にも映っている」

 

「あのワンピースの子がヴェルミだって言うの?」

 

「そうだ、変態共(フリークス)の一人だ。あの事件で別の奴も動いていた」

 

「それで。どうやって精神異常を起こしたの」

 

「方法が分かれば探っていない。今絶賛検索中だ」

 

「当てにならないわね......」

 

 幼児ガイノイドが紅茶を入れて持ってくる/ナナはそれを受け取り口を付ける。

 受け取る――おぼつかない足取りは割れ物のように危うい。

 

「で、どうして第三高の生徒が狙われたの?」

 

「これは個人の暴走だ、君たちがオリハルコンの奪還時に殺害した男。覚えてる?」

 

「足にローラーブレードを内蔵した義体使い達のこと?」

 

「そう、あれらはここを拠点に活動をしているアウトロー。日本指折りのやばい奴等ってやつ。奴等は、特にリーダーのブラックドックは仲間を家族と思ってる節がある。仲間は家族、家族は絶対って感じ。それが陳 祥山(チェン シャンシェン)の依頼で聖遺物(レリック)の奪取を請け負ったてわけ」

 

「殺されるかもしれないのに。報酬は?」

 

「さあ。だだわかっていることが一つ。報酬に特殊部隊の入隊許可って事だけ」

 

 ナナが吹き出した/おかしくて仕方がないといった様子。

 

「入隊許可? 嘘に決まってるのに。見え透いた罠に引っかったわね。ブラックドックて馬鹿なの?」

 

「いいや、利口な子だよ。でないとここでは麻薬の総元締めなんてやってけない。恐らく電子金蚕(でんしきんさん)での擬似記憶だ」

 

「外部記憶装置で分かるはずよ。なのに協力するの?」

 

「胸を張って生きていたいんだ、たぶん。捨て駒にされることも分っているはずだ」

 

「......で、そのブラックドックが私に復讐をするために他の生徒を巻き込んだと」

 

「残念ながら」

 

 本当に残念そうに肩を落とすデルク。

 

「他の質問は?」

 

「あるわ。あるに決まってる」

 

 ナナはコートの内側に手を入れる/あるものを取り出す――青銅色をした金属。

 

 聖遺物(レリック)の奪取を使用とした男が使用した聖遺物(レリック)/デルクが目を剥く。

 

「どこで手に入れたこんなもの」

 

陳 祥山(チェン シャンシェン)に依頼されたアウトローが持ってたものよ。何なのこれ?」

 

 デルクはそれに目を輝かせながら答える。

 

「これは夏ぐらいから東京メトロを中心に出回ってる聖遺物(レリック)だ」

 

 俺はようやく口を開く。「メトロは都市伝説だろ」

 

「いいや、存在するよ。都市計画書の個型電車(キャビネット)動力歩道(ムーブ・パス)より下の区画が消されている。間違いなくメトロを隠すためだ」

 

「何のために」

 

 ナナが答ええる。「犯罪の温床を隠すためよ。日本は世界屈指の防犯率の高さを持ってる。政治家がそれを揺るがすものを見過ごすわけがない」

 

「覆い隠したと」

 

 デルクが手を叩いた。「ご明察」

 

 ナナが話を戻す。「それで、これは何なの」

 

「これか、これは色々な呼び方がある。対魔法石とか魔法遮断金属とか。でも俺たちはこう呼んでる。『日緋色金(ヒヒイロカネ)』って」

 

「三種の神器に使われた聖遺物(レリック)のこと」

 

「さすが。学生なら分かるか。そう、俺達が知ってる中だと唯一人工的に鋳造できたと古代文献に記される聖遺物(レリック)だ」

 

「それがなんであるのよ」

 

「だから言ったろメトロを中心に出回ってるって。誰かが再現に成功して売り捌いてる。それして『日緋色金(ヒヒイロカネ)』を売っているのは今まで話した事件に全て関わっている傭兵」

 

「ヴェルミ・チェッリ――何のために」

 

「わからない、魔法師社会の崩壊の下準備。情報庁はそう睨んでいる」

 

「あなたの見解は?」

 

共有は出来ない(イット・カーント・ビー・シェアド)

 

「そう。だったらいいわ、これの能力が失われた要因は?」

 

「熱量の喪失だ。ミク、ライターを取って来てくれ」

 

 幼児ガイノイドは頷き――ライターを取りにいく。

 

「やけにあのガイノイドに入れ込んでるわね。どこが製造したの」

 

「ミームナード社製Type4498”キリエ“だ。自慢のガイノイドだ。自己進化型行動クラウドで表情象嵌や表情が何とも愛らしいだろ」

 

「......気持ち悪る」ナナの心から出た言葉であった。

 

 その”キリエ“がライターを持ってきた/危うさは消えない――本物の子供がいると錯覚してしまうほど行動プログラムは良く出来ていた。

 デルクがライターを受け取り火を灯す。

 

「見てろ。今から魔法が起こる」

 

 そういいライターの火を『日緋色金(ヒヒイロカネ)』に近づけた――途端に火が『日緋色金(ヒヒイロカネ)』に吸い込まれていく。

 ライターの火を吸い込みあの時の輝きを取り戻す/朱に染まる――揺らめき/火が結晶化したかのように。

 

「これが『日緋色金(ヒヒイロカネ)』が本来の性能を発揮した姿だ。どうだ、まるで芸術だろ」

 

「そうね。で、これの性能は?」

 

「授業で習ったろ。この状態だとオリハルコンと同質だ」

 

「本当に? ヴェルミの創始者は何がしたいの?」

 

「さあね。あれやこれやとばら撒いてる科学者だ。何を望むかももう分からない」

 

 デルクはナナに『日緋色金(ヒヒイロカネ)』を返す――慎重に受け取るナナ/相当な熱を放出させていた。

 

「他にはない?」デルクは退屈そうに腹を揺らす。

 

「では、これで最後、<ヴェルミ・チェッリ>の姿と構成人数、名前を」

 

「やっぱりそう来るよね。姿を写した写真はない。ただ名前と、そいつらの大まかな姿なら」

 

 そういい話す。先ほどから出てきた奴等/<ヴェルミ・チェッリ>の名前と大体の姿を。

 

 ツインポール・モスキート――踏み潰し趣味/名前の通り蚊の姿。

 

 クラッシャー・ワイルドポー――猪突猛進/何もかもをクラッシュ。

 

 センティピード・プレグナント――電子戦担当/ムカデ姿の妊婦。

 

 スキュアリング・ジェットスター――大空を飛ぶマンタ/串刺し趣向。

 

 ニンフ・ナイトメイカー――発狂の元凶/幼児だとか。

 

 スチーム・バーサーク――前戦担当/巨大な石刀使い。

 

 オウル・ドライファイヤー――人間大の梟/他不明。

 

 ユナボマー・ラーフマン――爆弾魔/口が裂けた笑い男

 

 フィニークス・ヘルファイヤー――化け物の司令官/つがいの二人組み。

 

「あと1枠残ってるって噂だ。審議は定かではない」

 

「そう」

 

 将輝は敵の多さに目を回しそうになる――これだけの化け物を相手に/しかも相手は『日緋色金(ヒヒイロカネ)』を生み出している/装備に持っている。

 

「カルト・カールに似てるは......」

 

「やっぱりそう思うか。俺たちも思っている。どうにも酷似した点もある、何か接点が――」

 

 デルクの話が止まる/空を覗く目つき。ナナが立ち上がり外を見る。

 あとに続く。

 外には見覚えのある姿――アウトロー/ブラックドックの姿。

 

「ナナ裏口から出るんだ」

 

「あなたはどうするの。ここにいても殺される失楽園に――」

 

 嬉々と笑う。「アダムは追放されたもう戻れないさ。それに逓信省からお誘いが着てる」

 

 幼児ガイノイドがナナの手を引いた。「さあ、行きなさい」

 

 ナナが連れてかれる/後を追う。

 

「一条くん」

 

 デルクが呼び止める。「何だ?」

 

「ナナは危なっかしい奴(ハンプティ・ダンプティ)だ。気に留めてやってくれ」

 

「......分かった」

 

 ナナの後を追う/暗く細い裏口は難民街から俺たちを逃した。

 加熱――燃焼――敵の姿が燃えるのが見えた気がした。




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

最後が無茶苦茶長くなってしまいました。
これで難民街は終わりです。
次回ようやく始まる騒乱、大亜細亜連合との戦闘。そして出しますようやく。
ヴェルミ・チェッリを。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。

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