2095年10月17日(月) - 東京都渋谷区
夜――3日も寝ずに行動/一向に来ない眠気。
機械化手術を行っている医療機関を当たる――全て合法的なもの。機械化項目に引っかかるものなし。
個人で手術を請け負っている人間に方針を変える。
もっとも手術を行っている人間が渋谷区に集まっていた。
理由は単純明快――魔法師中心社会を良く思わない人間が集まっているから。
アウトローから暴力団関係――魔法とは無縁の人層が群れを成し集結している。
魔法への対抗/そうそう出来ることではない。
それを可能とした技術――大戦で培われた人体を義体化することによって常人を越えた力を手に入れる=機械化。
無免許医師などはそれを食い扶持とし集まり出来てしまった歓楽街。
渋谷にいる医師に違法機械化者名簿を調べる――どれも合法/居ても刑務所の中。
その中で不穏なゴシップを聞く。
(地下のメトロなら今でも違法機械化を行っている奴等が居る)
地下のメトロ――大戦前にあったとされた地下鉄構内/閉鎖中。
その中を難民やアウトローなどが勝手に占拠していと――行き方を聞く。
皆が口を揃えて行かない方がいいと言う――”殺される。“ばらされて売られる”。“レイプされる”。
どれも不穏な理由。携帯電話が鳴る。
「はい、何でしょう」藤林の声。「街灯カメラのデータが送られてきたわ。ビンゴよ」
話す――映っていたもの。「大胆な犯人よ。トラックの荷台にコンテナをつけた物だったわ。抜いた壁にぴったりコンテナ引っ付けて」
「それで中の物を運び込んでいたと、トラックのナンバー照合できますか?」
「今検索中よ――出た、盗難ナンバーのようね。運転手の顔写真もあるわ。送るわね」
携帯電話に送られる写真――明らかな若者/人目で分かる機械化された体=アウトローの線が強い。
「該当車両はこっちで探すわ。ナナさんは運転手をお願いできる?」
「分かりました」電話を切る/送られきた顔写真――顎下まで広がっている金属パーツ=明らかに複数回手術を受けている。
午後十一時四十二分。
近所のファストフード店/僅かな休憩――椅子に座る、外を眺める。
行き交う若者/アウトロー。目的無くうろうろと。
浮浪者が見当たらない――足の下=メトロ内。
携帯電話を開き顔写真を再度確認する――ハッカー探しからアウトロー探し。
次々と変わる目標/人探しの伝手が無い――行き詰る。
「あんた第三高のイースターか?」
突然声を掛けられる――話しかけてきたのは若い男性。
大柄で骨太な体格/客観的にはゲルマン的な彫りの深い顔立ち。どこかで会っただろうか?
「誰ですか、貴方」
「すまねえ、こっちが一方的に知ってるだけだ」向かいの席に座る。「俺は、西城レオンハルトだ」
「それで一方的に知っている西城君が私に何の用?」足を組み/前のめりになる。無意識的に出てしまった警戒の体勢。
「そんなに警戒しないでくれよ、九校戦で見たってだけだ」
「九校戦?」ふいに思い出す灯子が名前を言っていた――”エリカちゃんやレオくん、幹比古くんとも仲良くなったんだよ“
「灯子が言ってわ、仲良くなったって」警戒を解く/腕を組み微笑む。
「三島か、あいつどうしてる、どこか走り回っているのか?」
「そんな所、にしても貴方無用心ねこんな時間帯に出歩いているなんて。アウトローに襲われない?」
「そんな事ねえぜ、ただ歩いてる分には。襲われるってんあらあんたの方が襲われそうだ」
「お姉さんを舐めないで、こう見えて白兵は得意よ。襲ってくる奴等みんな玉を蹴り潰してやるんだから」
「おっかね」
西城は自分で買ったハンバーガーに齧り付く/ナナも飲み物に口を付ける。
「そういやあ、あんたなんでこんな所に居るんだ?」早々にハンバーガーを食べ終わる西城。「停学にでもなったか」
「ちょっとした仕事よ、人探しをしているんだけど。伝手が無くてね、行き詰ってる」
「どんなや奴なんだ、あんたが探すような奴って」
携帯電話を取り出し写真を見せる/携帯を受け取り凝視する西城。
携帯をナナに返す。「機械でごてごてだな、アウトローか」
「見覚えない?この人に用があるの」
「知らねえな、でも知ってそうな所ならあるぜ」
「何処?教えて」
少々言いづらそうに頭を掻く西城。「女だったら行ったら気分悪くなるぜ、あそこ」
「構わないわ、教えて」揺るがず聞く。
根負けする西城。「分かった、一応ついて行くぜ。教えてあんたの身に何かあったら寝起きが悪いからな」
「ありがと、西城君」
「レオでいいよ」
席を立ちファストフード店を出た。
***/****
裏路地に入り奥へ進む/猥雑とした路地。
柄の悪い人間達――一部は機械化/一部は薬に溺れた廃人。
悪世に身を投じた世捨て人たち。ひたすらに快楽を求める。
ピンク色のネオン――”エンジェルダンサーズ“。
ありていなSMストリップティーズ/入り口に立つ男。半身を機械化。
「第一高の兄ちゃんじゃねぇか。また夜遊びか」
「放浪癖って言ってんだろ。それに今回は人探しだ」ストリップ劇場に入っていく。
入り口を塞ぐ男。「
レオは男にガントレットタイプのCADを投げて渡す。
「そこの姉ちゃんも」MOWを渡す/入っていくレオ。跡を追う。
扉をくぐって感じた最初のもの――匂い。
汗/涎/涙――人から出る匂いが凝縮された性臭。
ステージに立つ豚のような素っ裸の男――
鞭を振るいう
これを見て思う/人の
殴られ/蹴られ/叩かれ/焼かれ――そんな
その瞬間は彼らにとっての愛なのだろう。
「あら、レオちゃんじゃない。どうしたの相手なんて連れてプレイにでも参加しに来たの?」
メリハリの利いた長身の
垂れ目気味な目元でレオとナナを見比べる。
「可愛い子じゃない。貴方達のプレイならステージに上げてあげてもいいわ」
「セックスをしに来たんじゃねえよ。人探しだよ」
前に出る。「この人を知りませんか?」
携帯電話の画面を突き出す――少し膝を曲げ画面を見る。
「ああ、彼ね、つい先日くらいから来てないわ」
「居所は分かりますか」
「知らないわ、でも仕事で躍起になってたわね」思い出すように頭を押さえる。「いい仕事をくれる人に会ったとか」
「それは誰」
「そんなに怖い顔しないでくれる? ショーの真っ最中だし聞きづらいわ」
そう言い店の奥へ――個室がある方へナナとレオを手招く。付いて行く。
四つほどある個室/一つを除き全てが使用中――中から聞こえる喘ぎ/絶叫じみた嬌声。
「入って」女が一番奥の部屋に入る。続いて入る。
中は灰色と白を基調とした部屋。ベット/ソファー/冷蔵庫/シャワー室/僅かに暗くされた照明。
完全にそれをするための部屋。
「遅ればせながら、ここのオーナーをやっているジョエルよ、よろしく」
「俺まで入れる必要あったのか」居ずらそうにしているレオ/部屋にある冷蔵庫を開ける。「酒しか置いてねぇ」
ナナの咳払い――「写真の男について教えて」
「気が早いわね、せっかちな女は嫌われるわよ」ソファーに腰掛ける。「彼は常連さんよ。名前は何だったかしら?思い出せないわね、確か『ウォーリアーズ』なんてアウトローに入ってる子よ」
「その人の居場所は?」
「さっきも言ったとおり知らないわ」
「......仕事がどうとか言っていましたけど」
「それこそ知らないは、と言うか知りたくないわ。どう考えてもメトロ関係の仕事だし、景気よく薬でハイになって夢見心地で店を出ってたわ」
「何のために仕事を?」
煙草に火をつける――特有の匂いが香る。「さあ。金、女、薬、何でも理由はあるわ。でもあの様子だと薬ね」
壁にもたれる。「薬のためだけに危険なゴシップしか聞かないメトロに潜る理由がないです。大麻や
ジョエルは紫煙を吐き艶やかな笑みを浮べる。「あなたなら知っててもおかしくないはずよ。あなたの出身地、マルドゥック
はっとする。「
「そう、飲むだけで天国を見れるって言う魔法のお薬よ。こっちで出回っているのは純粋なものじゃなくて
「驚きですね、
甲高い笑い――ジョエルは心底可笑しそうに笑った。
「よく言うよ、最近ここいらの店ハッキングしているのはあんたらだろう」
ナナ――見覚えのない事に首を傾げる。「ハッキング......?」
ジョエルは怒りを混めた視線を送る。「経理データから店の内情まで桜田門にリークしたのはマルドゥック機関だろう。あんた等のおかげでこっちは上がったりだよ、姉妹店はいくつか潰れた。どうしてくれるんだい」
「知らないですね、何故貴方達の店を潰す必要が?」
「白を切る気かい、こっちも長いことやっているんだ、電脳関係の事も関わってきてる。ちょっと探れば分かるもんさ、あの手口は09のやり口だったね」
「何を根拠に私たちだと?」
煙草を灰皿に押し付け立ち上がる。「あんたと同じで調べられたものは、あんたが探してる男の事と、メトロの傭兵集団の事をねちねちと掻き回すようにして来た。それで置き見上げにハンドルネームまで置いていきやがったねぇ」
イライジャと同じやり口――掻き回し/ぐちゃぐちゃにした後に”
イライジャが09に入った経歴を表した名前――飛行機事故で植物状態/
「それでどんな名前を書き残したんですか。そのクラッカー」
「”ルイスの鷹“なんて書かれてたよ、こんな――」
「それ09の人間じゃないですよ。09の場合、白雪姫です」
これ以上長居しても何も出ない/そう判断する。
レオは何を話しているのは分からないといった様子で暇そうにしていた。レオが先に部屋を出る。
ジョエルの声。「メトロを調べたいなら金剛石を掘りな、それをオカズにあんたのビックブラザーが最近よろしくしてたわよ」
それを聞き返事をせず出て行った。
***/****
路地を抜け大通りに戻る。
正常な空間/人の正しい姿を目にほっとする。
「すまねぇ。気分悪いだろ、あんな店紹介しちまって」申し訳なさそうに頭をかくレオ。
ナナは呟くように言う。「レオ君はいつもあんなところに行くんですか?」
「あー、あそこはふらっと立ち寄った場所なんだよ。それでジョエルに気に入られて――」
「あの人、男ですよ」
「......え」何を言ったか分からない様子だった。
「分からなかったんですか?化粧やなんかでうまいこと隠してましたけど少々継ぎはぎな皮膚が丸見えです」
悪寒を感じたのか体を摩っているレオ。「じゃあ何だ、俺はゲイの旦那に気に入られたって事か」
「いい体してますし。もう少ししてたら食べられてたんじゃないんですか」
それを聞きさらに気分を悪くする/気分を悪くするのはナナはなくレオの方であった。
近くのベンチに腰掛ける。バブルガムを差し出す。
「噛めば少しは気分が変わりますよ」
受け取り口に放り込む。「そうだな、そうさせてもらうぜ」
横に座ったナナ。「人探しに手伝ってもらって。ありがとう」
「いいて、俺の放浪癖の延長だったんだし。そこそこ楽しめたしな」
そう、と呟くナナ/レオは重たくなり始めた目蓋を開けようとする。
「レオ君、出来ることならもうあの店には行かないでね」
レオに襲い掛かる眠気/必死になって抗うが勝てず目が閉じていく。
「じゃあ、また遭えたら」
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