2095年8月8日(月)アイス・ピラーズ・ブレイク会場
頭痛/セロトニンの減少で起こる痛み。
生理がピークに達する――ここ三日の最大の痛み/決勝戦前なのに気が散ってしまう。
苛立ちが続く――生理現象とはいえ割り切れない/衣装の拘束具が揺れる。
壁伝いに櫓に向かう/準決勝を抜け決勝、なのに気分はすこぶる最悪だった。
「大丈夫か?」微かに聞こえるウフコックの声。
「無理はしないほうがいい、棄権するのも――」
「冗談。ここまで来て棄権はしないわ」
痛みを堪え言葉を搾り出す/目には余裕は無く、今にも痛みで転げまわりそうな感じであった。
ネズミの困惑――ナナは言い出したらそうそうには言葉を曲げなかった/それを知っているためどうにか負担を減らす方法を探る。
「朝食もあまり喉を通ってなかった、せめて何かを腹に入れてくれ」
「もう試合開始3分前よ、何を食べろってのよ」
ウフコックの言葉を聞き入れず櫓に進んでいく。
「君は忘れているかも知れないが、一応言っておく。君は委任事件担当捜査官だがその前に保護証人だ、君が倒れたりしたら俺達の有用性を証明できない」
「もし倒れても私は
どう止めればいいのか分からず唸り続ける/小言を言われる前にナナは早足で櫓に向かう。
歩くたびに振動が腰に刺さる/痛み――薬を飲んでいればよかったと後悔する。
櫓に着く/CADを抜き強く握る/決勝――早撃ちとは違う緊張/責任/義務感。
数日前に見た夢も燻りだす――焼かれた子供達/あの姿は今でも確りと思い出せる。
肌が黒く染まっていく瞬間/肉が焼ける匂いと髪が焦げる匂い/焼かれた時の絶叫/筋肉の収縮で骨の折れる音/助けを求める悲壮で遺恨の視線。
一人一人の言葉も声も全てが鮮明に思い出せた――何故このときに思い出す?/あの瞬間はもう終わったはずなのに。
焼かれた子供たち/今もナナを『煉獄』に招こうとしている。
楽しく綺麗な焔は今でもナナを焦がし続けていた。
忌々しく愛おしい者達/フラッシュバックする記憶/全てはレイプのトラウマと生理の痛みが見せる現象。
腹部に手を当てる/爪を立てる――子宮を抉り出したい衝動に駆られる。
上昇を始めた櫓=試合の開始/動き出したことでハッとする。
今は憎しみよりも責任の方が優先――上昇した床/会場が見えた。
大勢の観客/24本の氷の柱/相手の櫓/相手の姿。
白の単衣/赤の女袴=巫女服/顔とも合い神秘的にも感じられた。
背後のディスプレイに表示される名前。
司波深雪。
相手は冷ややかに見つめてくる/柱と同じ氷を連想させる瞳――黒くどろりとした感情があふれ出す。
身体的な要因もあった/だが、それ以外に大きな殺人衝動が襲い掛かってくる。
俺が全てを消す
ナナに囁きかける虚無/試合中に何度も響いた声――
声の主はナナと入れ替わろうともがく/頭痛が増し頭の中で騒ぐ。
「......黙っ......てッ!」
「どうしたナナ?」
ウフコックの声/ポールに明かりが点く。
冷静になろうと強くCADを握る/グリップを握り潰しかねない力で。
赤/黄/青――三回点灯したポール=試合開始。
CADを構える/活性化したサイオンに反応するCAD/『膨張』を撃つ――ビジョンがCADに重なる/重厚なリボルバー=六四口径/ウフコックの過去のパートナーの愛銃/はっきりとビジョンが現実を覆う。
ビジョン――柱が少女になる/幼さが残るナナと似た衣装の早熟の
爆音の幻聴――CADが怪物の咆哮のように聞こえた。
真っ直ぐに柱を目指す光の弾丸/CADから生まれた破壊の申し子――空を引き裂き突き進む/防がれる。
障壁魔法が『膨張』を防ぐ――幾重にも折り重なった障壁魔法。
相手が汎用型CADを操作――サイオンか光を放ち煌めく/フィールドの全面を覆う魔法。
中規模魔法――熱気と冷気――灼熱と凍土=
振動系の魔法――膨大な熱がナナの陣を覆い燃やし尽くす。
柱が溶け出す/内部で気泡が発生し亀裂が入る。
身に纏わり付くような熱――再度ビジョン/今度は『煉獄』実験。
自陣の溶ける柱が子供達に/相手の柱が研究員に。
ぐるぐる回る記憶=フラッシュバック/血の気が引く/吐き気がこみ上げてくる。
CADが手から落ちる/会場がざわめいた――気分が悪くうずくまる。
さっきまで騒いでいた虚無も消えうせる――別の声――幼く嬉々とした声。
(どうしたの、燃やさないの?)
子供の声が問いかける――言葉の意味が分からない。
声=燃えた『三番』/ビジョンが躍り出て現実を染める――半身を燃えしながら遊ぶ子供。
(燃やしてよ、新しい友達をちょうだい!)
顔の半分が溶けて爛れている――もう半分が笑い手を伸ばす。
(早く!僕も新しい友達がほしい!)
もう無い腕を伸ばす『四番』/動かすたびに炭化した身体が崩れ落ちる。
(燃やせないの?なんで、もう持ってるよ僕たち同じ炎を!)
血が沸騰する感覚――体が熱くなる/脳が煮え立つ/頬を伝っていた汗が蒸発する。
息が苦しい/過呼吸のように息が途切れる/ビジョンがはっきりと見える/燃えた子供達の背後――失敗した子供達も/血を振りまきながら。
近寄ってくる/ナナの手を取ろうと必死になって手を伸ばす――どれだけ酷い顔になっても友達がほしくて。
半分が焼け焦げた顔/血を流し続ける顔/顔/顔/顔/顔/顔/顔/顔。どの顔も笑顔。
燃えた腐臭を漂わせ友を欲する――子供たちは手を伸ばす/ナナを攫おうと。そして唱える
(
子供達は
美しく激しく終わりへの炎、炎、炎、炎。
(
叫び続ける/子供たちの大合唱=浄化を、浄化を、浄化を。
ウフコックの叫び声――もうナナの耳には聞こえていなかった。
一つの言葉を耳にした時から。
「
**/*****
スタッフ用観客席――観戦中の一条将輝/顔面蒼白のナナを見て焦っていた。
身体計測モニターが警告を発する/心拍数が異常に上がる。
36.5℃であった体温が上昇し800℃を示す/体温800℃/これは熱の低い火と同じ温度。
これ以上試合が続けば彼女が死んでしまう。
三高のスタッフ/パニック――大会委員に試合の棄権を知らせようと何人か部屋を出る。
にわかに衝撃/窓を揺らす振動――フィールドを見る。
火を纏う者がいた。
火を着込むように/佇む――踊り舞う炎=形を成し九人の子供。
フィールドを走り回り/遊びまわる――無邪気な子供のように。
火を着る彼女=ナナ/神々しささえ感じるその姿――走り回る子供のように嗤う。
何も持たず手を振る――フィールドを覆っていた灼熱が逆転する。
手を振ると同時に熱気――悪意と純粋さが混じる何か/咄嗟に障壁魔法を展開。
抜けていく熱気/フェイールド全てに通った風――突如、声。
「燃やせ!」
観客の一人の声/それが波紋のように広がる。
徐々に巨大な合唱のように会場を支配する/燃やせ!/燃やせ!/燃やせ!
障壁魔法を張っている人間もいた――どの人間も困惑/この光景に/この事態に。
CADを使わずナナは魔法を発動/灼熱が消える――自陣にあった冷気が流れ込む。
粉砕――爆音と共に氷の柱が押しつぶされる/熱の影響で柱に気泡が発生していた――流れ込んだ冷気=大気圧を利用した圧縮。
いくつもの柱が砕ける/対抗――CADを操作する司波深雪。魔法を発動、展開。
子供達が踊りでる/発動した魔法へ/動作――何かを掴み引っ張る。サイオンが光を失う。
子供達が群がり/それを取り合う――おもちゃのように。
気づく――奪い合っている物=エイドス。
子供たちはエイドスを引っ張り、司波深雪の改変したエイドスをぐちゃぐちゃにしていた。
破壊された魔法――爆発/別の人間の干渉=ナナ。
引き裂かれたエイドス=複数事象の混在――それを決定するナナ。
爆発した柱――爆風を発生させる。会場がさらに大きくコール。燃やせ、燃やせ、燃やせ。
狂ったように叫び続ける観客=狂乱/一つの単語を叫び続ける。
にわかに銃声――ナナの仰け反る/銀の粉を撒き、腕を付く。
下がっていく櫓=試合の中止/静まり返る会場/観客――皆、呆然/何が起こったかわかっていない。
急ぎ外に/何が起こったか確かめるために/ナナのところへ。
**/*****
走り階段を下り/櫓の入り口――倒れて伏すナナ。
「大丈夫か、イースターさん!」
所々焦げた衣装/銀の粉が落ちる。
意識がない――息も細い/体が熱を持っていた。
床に寝かして置く訳にもいかず抱える――両腕に熱――焼けた鉄を持ったと錯覚してしまう。
医務室へ/医務室――誰もいない/消毒液の香り/微かに聞こえるナナの息。
ベットに寝かせる/腕を見る――制服に付着する銀色の粉/上着を脱ぐ。
彼女の応急処置/だが何をしていいのか分からない/頭を抱えあたふた/にわかに声。
「冷房を付けろ、一条将輝」
何処からともなく聞こえてくる/発声の元を探す――ナナのチョーカー。
「俺を探すのは後にしろ、今は冷房を付けてナナを冷やせ」
チョーカーの声の通りに従う/電子音声とは思えない肉声/渋みと愛嬌を均等に分けたような男性の声。
冷房の温度を下げれるだけ下げる/チョーカーの声に指示を仰ぐ。
「次は何をすればいい」
「タオルと消毒液を用意しろ」
言われた通りに部屋の中のタオルと消毒液を用意する。
「服を切れ」
「で、できるわけ無いだろ! これは彼女の服だ」
溜め息/彼女のチョーカーがグニャリと形を変える――現れる金色のネズミ。
驚きで片手に持つ消毒液を落としそうになる。
「羞恥で彼女の体調を悪化させるのか」
人の言葉を話す/後ろ足で器用に二足歩行。
「後で説明してやる、今は彼女の服を切れ。この服はいくらでも作れる」
そういい変身/形を変える/ハサミへと姿を変えるネズミ。
恐る恐る手に取る/冷たく金属質――普通のハサミ。
ハサミへと姿を変えたネズミの指示通り服に手を掛ける。首もから一気に切る。
拘束ベルトも白い服も切られ晒される彼女の肌/つるりとしたシミの一つも無い白い肌/応急処置とはいえ罪悪感を覚える。
「下着も切れ」無慈悲にハサミが言葉を出す。
羞恥心がやめろと叫んでいる/だがネズミの羞恥で体調を悪化させるわけにもいかなかった。
目を伏せながらホックに刃を通す/切る――ナナの胸が大きく膨らむ/漏れる吐息――呼吸を阻害していた下着。
どんどん飛んでくる指示/スカートもパンツも切れと。
切ていく/切っているさなか手に付くもの/銀の粉/どろりとした血。
怪我をしたのでわと焦り傷口を探す――その場所に気づき目を離す。
(生理、か)
目を伏せネズミの言うとおり切った服をどけていく/火傷患者のように慎重に。
「消毒液をタオルにかけろ、それで彼女の体を拭け」
タオルに消毒液をぶちまける/彼女の体を拭いていく/全身を拭く――羞恥で死んでしまいそうになりがら。
最後に残った胸と股/目を伏せながら拭いていく――タオル越しに感じる柔らかさ/それがさらに生生しく一条の羞恥を煽る/二~三枚のタオルを使い銀の粉を拭き取った。
これだけの作業で精神を削り取られていく/拭き終わり近くの椅子に座り込む。
「大変だな、女は…」
手に持つハサミがネズミになる/さっきとは違う姿/ズボンを履いており、小さな肩にサスペンダー。
これが言葉を発し、二足で一条の手の上で立っているのだ/何ともおかしく、シュール。
「ネズミ。いい加減、話して貰うぞ、お前のことも、彼女のことも」
「…ああ、今話せる範囲で話そう」
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
無理やり終わらした感がやばい。
目標の4000文字超えたから描くのやめたけど、もっとムフフなシーンを描きたいぞい。
でも俺の表現力が無いからできないぞい。
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