マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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プリモ・ピアット12

 2095年8月8日(月)アイス・ピラーズ・ブレイク会場

 

 頭痛/セロトニンの減少で起こる痛み。

 生理がピークに達する――ここ三日の最大の痛み/決勝戦前なのに気が散ってしまう。

 苛立ちが続く――生理現象とはいえ割り切れない/衣装の拘束具が揺れる。

 壁伝いに櫓に向かう/準決勝を抜け決勝、なのに気分はすこぶる最悪だった。

 

「大丈夫か?」微かに聞こえるウフコックの声。

 

「無理はしないほうがいい、棄権するのも――」

 

「冗談。ここまで来て棄権はしないわ」

 

 痛みを堪え言葉を搾り出す/目には余裕は無く、今にも痛みで転げまわりそうな感じであった。

 ネズミの困惑――ナナは言い出したらそうそうには言葉を曲げなかった/それを知っているためどうにか負担を減らす方法を探る。

 

「朝食もあまり喉を通ってなかった、せめて何かを腹に入れてくれ」

 

「もう試合開始3分前よ、何を食べろってのよ」

 

 ウフコックの言葉を聞き入れず櫓に進んでいく。

 

「君は忘れているかも知れないが、一応言っておく。君は委任事件担当捜査官だがその前に保護証人だ、君が倒れたりしたら俺達の有用性を証明できない」

 

「もし倒れても私は09(オー・ナイン)に責任を擦り付けようなんてしない。これは自己責任よ」

 

 どう止めればいいのか分からず唸り続ける/小言を言われる前にナナは早足で櫓に向かう。

 歩くたびに振動が腰に刺さる/痛み――薬を飲んでいればよかったと後悔する。

 櫓に着く/CADを抜き強く握る/決勝――早撃ちとは違う緊張/責任/義務感。

 数日前に見た夢も燻りだす――焼かれた子供達/あの姿は今でも確りと思い出せる。

 肌が黒く染まっていく瞬間/肉が焼ける匂いと髪が焦げる匂い/焼かれた時の絶叫/筋肉の収縮で骨の折れる音/助けを求める悲壮で遺恨の視線。

 一人一人の言葉も声も全てが鮮明に思い出せた――何故このときに思い出す?/あの瞬間はもう終わったはずなのに。

 焼かれた子供たち/今もナナを『煉獄』に招こうとしている。

 楽しく綺麗な焔は今でもナナを焦がし続けていた。

 忌々しく愛おしい者達/フラッシュバックする記憶/全てはレイプのトラウマと生理の痛みが見せる現象。

 腹部に手を当てる/爪を立てる――子宮を抉り出したい衝動に駆られる。

 上昇を始めた櫓=試合の開始/動き出したことでハッとする。

 今は憎しみよりも責任の方が優先――上昇した床/会場が見えた。

 大勢の観客/24本の氷の柱/相手の櫓/相手の姿。

 白の単衣/赤の女袴=巫女服/顔とも合い神秘的にも感じられた。

 背後のディスプレイに表示される名前。

 司波深雪。

 相手は冷ややかに見つめてくる/柱と同じ氷を連想させる瞳――黒くどろりとした感情があふれ出す。

 身体的な要因もあった/だが、それ以外に大きな殺人衝動が襲い掛かってくる。

 

    

     俺が全てを消す

 

 

 ナナに囁きかける虚無/試合中に何度も響いた声――強烈な(ハード・コア)爆弾を思い起こす声。

 声の主はナナと入れ替わろうともがく/頭痛が増し頭の中で騒ぐ。

 

「......黙っ......てッ!」

 

「どうしたナナ?」

 

 ウフコックの声/ポールに明かりが点く。

 冷静になろうと強くCADを握る/グリップを握り潰しかねない力で。

 赤/黄/青――三回点灯したポール=試合開始。

 CADを構える/活性化したサイオンに反応するCAD/『膨張』を撃つ――ビジョンがCADに重なる/重厚なリボルバー=六四口径/ウフコックの過去のパートナーの愛銃/はっきりとビジョンが現実を覆う。

 ビジョン――柱が少女になる/幼さが残るナナと似た衣装の早熟の幼女(ニンフ)

 爆音の幻聴――CADが怪物の咆哮のように聞こえた。

 真っ直ぐに柱を目指す光の弾丸/CADから生まれた破壊の申し子――空を引き裂き突き進む/防がれる。

 障壁魔法が『膨張』を防ぐ――幾重にも折り重なった障壁魔法。

 相手が汎用型CADを操作――サイオンか光を放ち煌めく/フィールドの全面を覆う魔法。

 中規模魔法――熱気と冷気――灼熱と凍土=氷炎地獄(インフェルノ)

 振動系の魔法――膨大な熱がナナの陣を覆い燃やし尽くす。

 柱が溶け出す/内部で気泡が発生し亀裂が入る。

 身に纏わり付くような熱――再度ビジョン/今度は『煉獄』実験。

 自陣の溶ける柱が子供達に/相手の柱が研究員に。

 ぐるぐる回る記憶=フラッシュバック/血の気が引く/吐き気がこみ上げてくる。

 CADが手から落ちる/会場がざわめいた――気分が悪くうずくまる。

 さっきまで騒いでいた虚無も消えうせる――別の声――幼く嬉々とした声。

(どうしたの、燃やさないの?)

 子供の声が問いかける――言葉の意味が分からない。

 声=燃えた『三番』/ビジョンが躍り出て現実を染める――半身を燃えしながら遊ぶ子供。

 

(燃やしてよ、新しい友達をちょうだい!)

 

 顔の半分が溶けて爛れている――もう半分が笑い手を伸ばす。

 

(早く!僕も新しい友達がほしい!)

 

 もう無い腕を伸ばす『四番』/動かすたびに炭化した身体が崩れ落ちる。

 

(燃やせないの?なんで、もう持ってるよ僕たち同じ炎を!)

 

 血が沸騰する感覚――体が熱くなる/脳が煮え立つ/頬を伝っていた汗が蒸発する。

 息が苦しい/過呼吸のように息が途切れる/ビジョンがはっきりと見える/燃えた子供達の背後――失敗した子供達も/血を振りまきながら。

 近寄ってくる/ナナの手を取ろうと必死になって手を伸ばす――どれだけ酷い顔になっても友達がほしくて。

 半分が焼け焦げた顔/血を流し続ける顔/顔/顔/顔/顔/顔/顔/顔。どの顔も笑顔。

 燃えた腐臭を漂わせ友を欲する――子供たちは手を伸ばす/ナナを攫おうと。そして唱える呪文(モージョー)

 

煉獄よ(パーガトリー)、浄化の炎を――!)

 

 子供達は(ナナ)へと手を伸ばす/その全ての羨望を向けて/虚栄な姿――苦悶の表情で快楽を貪る姿。

 美しく激しく終わりへの炎、炎、炎、炎。

 

煉獄よ(パーガトリー)、浄化の炎を――!)

 

 叫び続ける/子供たちの大合唱=浄化を、浄化を、浄化を。

 ウフコックの叫び声――もうナナの耳には聞こえていなかった。

 一つの言葉を耳にした時から。

 

煉獄よ(パーガトリー)、浄化の炎を」

 

 

**/*****

 

 

スタッフ用観客席――観戦中の一条将輝/顔面蒼白のナナを見て焦っていた。

身体計測モニターが警告を発する/心拍数が異常に上がる。

36.5℃であった体温が上昇し800℃を示す/体温800℃/これは熱の低い火と同じ温度。

これ以上試合が続けば彼女が死んでしまう。

三高のスタッフ/パニック――大会委員に試合の棄権を知らせようと何人か部屋を出る。

にわかに衝撃/窓を揺らす振動――フィールドを見る。

火を纏う者がいた。

火を着込むように/佇む――踊り舞う炎=形を成し九人の子供。

フィールドを走り回り/遊びまわる――無邪気な子供のように。

火を着る彼女=ナナ/神々しささえ感じるその姿――走り回る子供のように嗤う。

何も持たず手を振る――フィールドを覆っていた灼熱が逆転する。

手を振ると同時に熱気――悪意と純粋さが混じる何か/咄嗟に障壁魔法を展開。

抜けていく熱気/フェイールド全てに通った風――突如、声。

 

「燃やせ!」

 

観客の一人の声/それが波紋のように広がる。

徐々に巨大な合唱のように会場を支配する/燃やせ!/燃やせ!/燃やせ!

障壁魔法を張っている人間もいた――どの人間も困惑/この光景に/この事態に。

CADを使わずナナは魔法を発動/灼熱が消える――自陣にあった冷気が流れ込む。

粉砕――爆音と共に氷の柱が押しつぶされる/熱の影響で柱に気泡が発生していた――流れ込んだ冷気=大気圧を利用した圧縮。

いくつもの柱が砕ける/対抗――CADを操作する司波深雪。魔法を発動、展開。

子供達が踊りでる/発動した魔法へ/動作――何かを掴み引っ張る。サイオンが光を失う。

子供達が群がり/それを取り合う――おもちゃのように。

気づく――奪い合っている物=エイドス。

子供たちはエイドスを引っ張り、司波深雪の改変したエイドスをぐちゃぐちゃにしていた。

破壊された魔法――爆発/別の人間の干渉=ナナ。

引き裂かれたエイドス=複数事象の混在――それを決定するナナ。

爆発した柱――爆風を発生させる。会場がさらに大きくコール。燃やせ、燃やせ、燃やせ。

狂ったように叫び続ける観客=狂乱/一つの単語を叫び続ける。

にわかに銃声――ナナの仰け反る/銀の粉を撒き、腕を付く。

下がっていく櫓=試合の中止/静まり返る会場/観客――皆、呆然/何が起こったかわかっていない。

急ぎ外に/何が起こったか確かめるために/ナナのところへ。

 

 

**/*****

 

 

走り階段を下り/櫓の入り口――倒れて伏すナナ。

 

「大丈夫か、イースターさん!」

 

所々焦げた衣装/銀の粉が落ちる。

意識がない――息も細い/体が熱を持っていた。

床に寝かして置く訳にもいかず抱える――両腕に熱――焼けた鉄を持ったと錯覚してしまう。

医務室へ/医務室――誰もいない/消毒液の香り/微かに聞こえるナナの息。

ベットに寝かせる/腕を見る――制服に付着する銀色の粉/上着を脱ぐ。

彼女の応急処置/だが何をしていいのか分からない/頭を抱えあたふた/にわかに声。

 

「冷房を付けろ、一条将輝」

 

何処からともなく聞こえてくる/発声の元を探す――ナナのチョーカー。

 

「俺を探すのは後にしろ、今は冷房を付けてナナを冷やせ」

 

チョーカーの声の通りに従う/電子音声とは思えない肉声/渋みと愛嬌を均等に分けたような男性の声。

冷房の温度を下げれるだけ下げる/チョーカーの声に指示を仰ぐ。

 

「次は何をすればいい」

 

「タオルと消毒液を用意しろ」

 

言われた通りに部屋の中のタオルと消毒液を用意する。

 

「服を切れ」

 

「で、できるわけ無いだろ! これは彼女の服だ」

 

溜め息/彼女のチョーカーがグニャリと形を変える――現れる金色のネズミ。

驚きで片手に持つ消毒液を落としそうになる。

 

「羞恥で彼女の体調を悪化させるのか」

 

人の言葉を話す/後ろ足で器用に二足歩行。

 

「後で説明してやる、今は彼女の服を切れ。この服はいくらでも作れる」

 

そういい変身/形を変える/ハサミへと姿を変えるネズミ。

恐る恐る手に取る/冷たく金属質――普通のハサミ。

ハサミへと姿を変えたネズミの指示通り服に手を掛ける。首もから一気に切る。

拘束ベルトも白い服も切られ晒される彼女の肌/つるりとしたシミの一つも無い白い肌/応急処置とはいえ罪悪感を覚える。

 

「下着も切れ」無慈悲にハサミが言葉を出す。

 

羞恥心がやめろと叫んでいる/だがネズミの羞恥で体調を悪化させるわけにもいかなかった。

目を伏せながらホックに刃を通す/切る――ナナの胸が大きく膨らむ/漏れる吐息――呼吸を阻害していた下着。

どんどん飛んでくる指示/スカートもパンツも切れと。

切ていく/切っているさなか手に付くもの/銀の粉/どろりとした血。

怪我をしたのでわと焦り傷口を探す――その場所に気づき目を離す。

 

(生理、か)

 

目を伏せネズミの言うとおり切った服をどけていく/火傷患者のように慎重に。

 

「消毒液をタオルにかけろ、それで彼女の体を拭け」

 

タオルに消毒液をぶちまける/彼女の体を拭いていく/全身を拭く――羞恥で死んでしまいそうになりがら。

最後に残った胸と股/目を伏せながら拭いていく――タオル越しに感じる柔らかさ/それがさらに生生しく一条の羞恥を煽る/二~三枚のタオルを使い銀の粉を拭き取った。

これだけの作業で精神を削り取られていく/拭き終わり近くの椅子に座り込む。

 

「大変だな、女は…」

 

手に持つハサミがネズミになる/さっきとは違う姿/ズボンを履いており、小さな肩にサスペンダー。

これが言葉を発し、二足で一条の手の上で立っているのだ/何ともおかしく、シュール。

 

「ネズミ。いい加減、話して貰うぞ、お前のことも、彼女のことも」

 

「…ああ、今話せる範囲で話そう」




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

無理やり終わらした感がやばい。
目標の4000文字超えたから描くのやめたけど、もっとムフフなシーンを描きたいぞい。
でも俺の表現力が無いからできないぞい。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。

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