マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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プリモ・ピアット10

 緊張――待ちに望んだ瞬間/それの訪れ。

 静かに撫でるCAD――WOM。

 待つ――決勝戦への入場指示/僅かに痛む腹部/11歳から始まった生体現象。女性特有の生体現象――月経。

 痛む腹部をさする――憂鬱な気分になる。

 ウフコックはその匂いを嗅ぎ取っていた、だが言わなかった。

 理由――女性にとって非常にデリケートな問題/男性の精神であるウフコック/何も言わず沈黙。

 

「心配?」

 

 ナナがウフコックの様子を感じ取る/苦笑い――心配されている気恥ずかしさ。

 沈黙答えるウフコック――反応に困っている/溜め息。

 

「無理だけはしないでくれ」

 

「わかった」

 

 心配そうに変光(カメレオン)ゴーグルに変身(ターン)する。

 こればかりはウフコックでもどうしようも出来ない/WOMをそっと撫でる。

 大会委員の指示――出場の許可。

 痛む腹部を押さえる/WOMを担ぎ静かな足取りで会場に向かう――闘志を己の焦げ付きで燃やしながら。

 

 

 **/*****

 

 

 会場に入る/射台に立つ――隣に相手/名前――北山雫。

 華奢な体型/大人びた顔立ち――真っ直ぐ見据える有効エリア。

 緑のゴーグルから透ける瞳――優勝の決意。

 ナナはグリップを握る――僅かに汗ばむ手。

 反復するように頭で考える――撃ち落すのは白――考えずに感覚する――絶対に勝つ。

 大きく息を吸い、吐く/ゆっくと変光(カメレオン)ゴーグルを着ける。

 会場に鳴るブザー――開始の合図。

 CADを構える――スコープ越しの世界/強くなったように錯覚する。呼吸が嫌なほど聞こえる。

 観客――静かに開始を待つ/残り少し――開始のランプ。

 開始。

 一斉に射出されるクレー――赤と白。引かれるトリガー。

 衝撃と轟音/撃たれる鉄の弾丸――意思を持った弾丸。有効エリアに向かい飛ぶ。

 飛び込む弾丸――軌道を変化させ飛び交う/有効エリアで変化。収束系魔法を肌が検知。

 大規模な振動――強烈な音と振動。空気を揺るがし、肌が揺れる。

 飛び込んだ弾丸は振動で軌道が逸れる。赤クレーが複数個同時に破壊される――咲く粘土の破片で出来た赤の花。

 逸れた弾丸はあらぬ方へ飛んでいく、そして振動。音を立て壊れる。

 ナナの口笛――三日月のような口。笑いが漏れる。

 作戦変更。

 弾丸を宙に向ける――制御を離れた弾丸は晴天の大空へ飛んでいく。別の魔法。構築/インストール。

 

 ――ウフコック振動の震源わかる?

 

 《複数ある。震源の数は恐らく9つ、距離が空いていて読み取りにくい》

 

 ――位置はわかる

 

 ウフコックの鼻が鳴る/相手選手の意図を読む。

 

 《有効エリア内にもう一つエリア......その頂点と中心だ》

 

 ――正確な辺の長さとかわからないの?

 

 《十メートルだ、有効エリア内で正方形を作っている》

 

 ――了解(コピー)

 

 通信を切る――感覚を研ぎ澄ませ、震源の正確な位置を確かめる――検知。

 サイオン波魔法は振動で掻き消される――別の魔法を検討/該当魔法検索。

 識閾下に刷り込まれたUSNAが持つ全魔法知識。それを使用し新たな魔法の構成。

 北山雫の使用魔法は振動系――振動数を肌とウフコックの脳を借り割り出す。時間の掛る作業。

 エリア内で再度振動――クレーが砕ける。割り出す間、別の方法で時間を繋ぐ。

 エリアに向け『共振』を撃つ――北山 雫の魔法が相殺される。

『共振』の作用/空間であれ物体であれ、基底現実で存在する物が『共振』に当たった場合は共振現象が起こる。それが例え空間の波である振動でもあってもそれは変わらなかった。

 エリア内にある震源を相殺される北山雫――繋ぎの魔法一つ目、構築/インストール――起動。

 CADの形が変化――『魔弾』を使用したような変化ではなく、機関部に中心にした変化。

 内蔵した機能――MIS/マジック・インスタレイション・システム(Magic installation system)

 機関中央のディスクを覆うように変化――収束、放出の複合魔法。

 発射された音速気流の高熱――真っ直ぐ白のクレーに/着弾と共に融解する白のクレー。

 凄まじい熱気と衝撃――巨大な爆発。有効エリア内にあるのは赤だけ。

 爆轟現象――気体の急速な熱膨張の速度が音速を超え衝撃波を伴いながら燃焼する現象。これを利用した破壊魔法。もはや爆発に近いそれの衝撃を収束魔法に利用し白だけに作用させた結果生まれた現象/この光景。

 起こった衝撃に体を縮こまらせる北山 雫/頭を振り現実に戻る。再度クレーを砕く。

 爆轟現象により銃身が加熱されたナナ――ヒートタイムまで『共振』で対抗。

 エリアで大きな振動/相殺/また振動/相殺。不毛な射撃――また虚無が囁く。

 

 

   綺麗にしてやる。お前を綺麗にしてやる。

 

 

 甘く、苦しそうな声/ブルーダイアのように澄んだ輝きが頭に広がる。

 

 ――誰?

 

 思わず考える/あまりにも悲痛で痛々しい声――衝撃/現実に戻る。

 

 《ナナ、意識を保て》ウフコックの声。

 

 ――わかってる。

 

 振動数を割り出す作業がもう少し/魔法構成も――再び振動を相殺が始まる。

 焦燥感。80対74。

 空いた点数を埋めようとまた撃つ――爆発。

 轟音と地鳴りのような振動――熱。勝利への固執。

 

 

   おお、炸裂よ(エクスプロード)――!

 

 

 また聞こえる声/七草先輩の時と同じ声。

 体の火照り/血が煮立つように熱い――脳が焼けるように加熱する/振動の割り出す影響――他の要因。加速(アクセラレーション)――意識、肉体が加速する。本来の目的が体から乖離する。

意識が切り替わる――虚無の囁き。

 

 

   おお、炸裂よ(エクスプロード)――!

    

     塵は灰に。おお、炸裂よ(エクスプロード)――!

 

 

 頭の中で響く大合唱――炸裂を讃えるかのような歓声。

 熱と衝撃に呼ばれたか如く騒ぎ出す声――聞いたことのない大勢の歓声と大合唱。

 虚無が全てを無へと返そうと騒ぐ――何処からとも無く聞こえてくる。

 引き金を引く――爆発。巨大な爆音――爆弾でも落ちたような轟音――赤しか残らない有効エリア。

 また引く――炸裂――感情が凍るのがわかる/たた虚無が私という殻に入るような感覚。

 ウフコックが身近にいることが酷く安心する/かつて離れたことがあるような喪失感――寂しさ/悲しさ。

 

「おお、炸裂よ(エクスプロード)

 

 同じ言葉を囁き、引き金を引く。

 

 

 

 **/*****

 

 

 

「ナナ、大丈夫?」

 

 鈴玉の声――現実に戻る。

 

「ナナ、どうしたの。ぼーとしてるよ?」顔を覗きこむ鈴玉。

 

「え、うん。ちょっとね」歯切れが悪く答える。

 

 徐々に意識がはっきりする/周囲の状況が入ってくる――第三高の出場選手/エンジニア。

 誰もがソフトドリンクの入ったグラスを持っていた――ナナの手にも。

 

「もしかして、勝利の高揚ってやつ」

 

 はっとするナナ/試合結果が覚えてない――焦り鈴玉に聞く「鈴玉、私負けた?」

 

「何言ってるの?勝ったじゃないナナ」不思議そうに答える。

 

 記憶がすっぽり抜けている/何処まで覚えているか思い出す――あの言葉から覚えていない。

 

   

    おお、炸裂よ(エクスプロード)――!

 

 

 何のことかわからない/言葉の意味も今まで起きたことも。

 

「調子悪いの?」鈴玉――心配そうに聞く。「明日はピラーズもあるんだから」

 

「大丈夫、もう少しいる」

 

「そう......無理はしないでね」

 

 鈴玉はナナの空になったグラスを取る「新しいもらってくるわ、ちょっと待ってて」

 

 グラスを渡す/はっきりとしない記憶をもう一度思い出す――虚無の囁きを言った先の記憶。

 記憶の整理がつかず頭を白黒させる。

 スピード・シューティングの結果――勝利。

 勝利への過程/周囲の声を聞く限りクレーを全て爆発させた。

 その後の行動/一条将輝、吉祥寺真紅郎、大隅大樹、王鈴玉、三島灯子と共に行動。

 試合の様子/あの言葉――おお、炸裂よ(エクスプロード)――!

 系統を着け一つ一つ段々と思い出していく/ずきりと痛み――腹部の鈍痛=月経。

 今日になって始まってしまった生体現象/仕方ないと割り切るがやはり痛い。

 試合が始まる前よりも酷く響く――痛み/腹の内の皮を剥がされるような感覚。思わず顔が歪む。

 

「ナナちゃーん」

 

 懇親会の時に着ていたメイド服――灯子/その後ろに吉祥寺真紅郎、大隅大樹、王・鈴玉(おう・りんゆう)

 

「どうしなの? ナナちゃん、苦しそうだよ」

 

 窮屈そうな灯子の胸――ひらひらしたスカートをはためかせ目の前で止まる。

 振り回されていたであろう吉祥寺真紅郎――疲れた笑い/灯子を見て鼻息が荒く気持ち悪い大隅大樹/それを小突く鈴玉――私の様子に同じく気づく。察する。

 

「もしかして来ちゃった、あの日」

 

「うん、来ちゃった」

 

「あー、そっか。だからぼーとしてたのか。気がつかなくてごめん」

 

 申し訳なさそうな鈴玉/両手にグラスが揺れる。

 

「うー、あの日きついよねー。灯子もあれ嫌い」

 

 その言葉――あの日の意味に気づく吉祥寺真紅郎/赤面し咳払い。

 

「あの日って何?」まったく気づかない大隅大樹。

 

「気づきなさいよ。バカ」白い目で大隅を見る鈴玉。

 

「そうだよー。アニメばっかり見てる大樹くんにはわからないよー」

 

 小さい手をぱたぱたさせる灯子――そっと頭を撫でてやる。くすぐったそうに笑う。

 

「ありがと灯子。一条君は?」鈴玉からグラスを受け取る/オレンジのソフトドリンク。

 

「将輝なら、あそこ」吉祥寺真紅郎/指差す――その方向に一条将輝。

 

 女子に囲まれていた/吉祥寺真紅郎――いつものことのよう/大隅大樹――羨ましそうに暗い眼差しを送る。

 

「行かないの?」期待の眼差し――鈴玉が背中を押す。

 

「いい、調子が悪いし」素っ気なく答える。溜め息を漏らす鈴玉。

 

「そんな感じじゃあ取られちゃうよ」

 

 その言葉に何故か不快感を覚えた――取られるとは恐らく一条将輝/取られる?

 言葉の意味がよくわからない/彼はナナの所有物ではない――そう考える。

 だがその言葉があまりにも不快で心の中を乱した。取られてしまう。

 一瞬、心の中かで怒りが沸いた。周囲の女子/一条将輝に。

 

「あっつ!」

 

 グラスから熱――思わず放す。

 グラスが砕ける――音が響き、会場の目線がこちらに一斉に向く。

 

「どうしたの、ナナらしくない」しゃがみ落としたグラスの破片を拾う鈴玉「あつ、何これ」

 

 持っていた手を見る――少し赤くなっていた/ひりひりする指先。

 

「大丈夫、ナナちゃん?」心配そうな灯子。

 

 吉祥寺と大隅も破片を拾う。

 

「ごめん。ちょっと部屋に戻るね」しんどくなり伝える。

 

「あ、うん。温かくして寝るのよ、お休み。ナナ」

 

「ありがと、ごめんね」

 

 鈍痛と指先の痛みを感じながらナナは部屋に戻った。




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

私は思っていた。何故アニメや漫画、ライトノベルや小説で出てくる女性キャラクターは生理が来ないのか。
劣等生のような設定がちゃんとしている物でさえたぶん無い(原作見て無いから断定は出来ない)何故なんだ。
と言うことでナナには人間らしいことをしてもらいました。おかしいでしょう生理が来ない人間なんて新人類か、理由として女性から反感を買うなどもありましょうが私は書きました。
ちなみに作者は男です。不快になった方はごめんなさい。

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