マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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プリモ・ピアット9

 2095年8月6日(土) - 横浜中華街

 

 六角形の吹き抜け/首の無い竜を壁に掲げられている/五人の男達――どの目線も一人の男に。

 部屋の隅に立つ者/誰もサングラスを掛けスーツ姿=ジェネレーター。

 

「どういうことだ、説明をしろ(ラウ)!」

 

 男/机を叩く――大きく揺れ、コップの水が零れる/青いネクタイ細身の男――ジェームス=(チュー)

 怒気を孕んだ声――(ラウ)と呼んだ男に説明を求める。

 

「説明?何を説明しろと?」

 

 (ラウ)――他の五人とは違う人種/黄色人(モンゴロイド)に混じる白人(コーカソイド)/白い肌にあわせた白いスーツに跳んだ水を丁寧にふき取っていく。

 

「何をだと。貴様が送り込んだ軟体型(シェイプシフター)のことだ!」ジェームス――劉の態度にさらに腹立つ。「あれにどれだけの金を出したと思っている!」

 

「人員、(ボディー)回収、復元費、改修費。あれに入れた人間の脳改造。大体、9千万ドル程度でしたかな」平然と答える。「それが何か?」

 

「何かだと。『迷彩コート』を着せたシェイプシフターで選手を棄権させる件だ。発想自体はよかったが、あの蛸自体が帰って来なければ意味が無いではないか」ダグラス=(ウォン)――落ち着いてはいるがその目は不信感が窺がえる。「あの『迷彩コート』も四十崎(あいさき)教授に多額の資金を提供してわざわざ作ってもらったものだぞ」

 

「おやおや。無頭竜の東日本支部の支部長であるダグラス=黄(ダグラス・ウォン)ともあろうお方が、たったの9千万ドル程度のコート一つでここまで嘆かれよとは。”王”の見込み違いでしたかな」シニカルな笑い――教え子の呑みの悪さを嘆く教師のようだった。

 

「貴様......あれだけの資金があればソーサリー・ブースターがどれだけ作れると思っている」

 

「ふむ......、魔法師の誘拐でかなりの資金がかかりますからね。5~6個がいいところですかな」

 

「それだけの数でどれだけの需要があると思っているのだ!」ジェームス――また机を叩く「大亜細亜連合に流せばさらに多くの金を産んだと言うのに」

 

 資金を劉に渡したことを悔いるジェームス/それを目じりに憫笑する劉「ソーサリー・ブースターもいいですが、機械化も忘れないでいただきたい」

 

 ジェームス。「魔法師に勝てない機械化が何だ、あんな物作って自慢したかったか」

 

「確かに旧世代機械化はお世辞にも魔法師との勝負はよいものではない。だが今の機械化はなかなかのものとなっていますよ、その例があの軟体型(シェイプシフター)ですが」

 

「主人の下に帰ってこない蛸が何だというのだ」ジェームス――負け惜しみかと思ったのだろうその瞳は悦に浸るような目。

 

「あなたは私が提出した報告書を読んでいなかったのですかな?」腕を組む劉――説明を続ける。「旧世代機械化の魔法師戦闘前提は魔法を使わせる前に殺すもの、機械化ならではの戦法です。奇襲か強襲などが殆ど、そのためまともな戦闘に持ち込まれたら貧弱もいいところ。ですが今回、九校戦に送り込んだ軟体型(シェイプシフター)四十崎(あいさき)教授の知識を使い、脳の98%を機械化したにもかかわらず魔法を使える物」

 

 その言葉に皆が驚愕――劉が説明を続ける。「皆様は魔法の使用条件はもちろんご存知ですよね、魔法は魔法演算領域。魔法式を構築する際に使われる領域で、魔法の才能に直結する部分を使い魔法を使っている。そのため脳の殆どを機械に置き換えている者は魔法を使うことができませんでした。しかしながら我らが天才科学者にしてソーサリー・ブースターに必要な脳の調達を手伝ってもらっている四十崎(あいさき)教授が脳の機械化した者でも魔法を使える技術を今回の九校戦で初めて使ってもらった」

 

「ではなにか。機械化した者でも魔法が使える時代が来るとでも言うのか」ダグラスは劉に問う――不信と期待が混ざった目。

 

 劉は答える。笑顔で。

 

「その可能性はあるかと」

 

 

 

 2095年8月6日(土) - 新人戦スピード・シューティング控室

 

 

 キーボードを叩く大隅大樹/その目は血走っている。

 原因=イライジャからのCAD/WOM――私しかいない道(ウェイ・オンリー・ミー)

 通常の競技用CADの調整台には収まらず、コードを直接差し込み調整中。

 隣には吉祥寺真紅郎/彼も私のCADに興味を示し調整を手伝っている。

 

「大隅に調整を任せていいのか? 中をぐちゃぐちゃにされるぞ」

 

 一条将輝――彼もCADに興味を示し驚いている/その巨大さに。

 

「いい、他のエンジニアに任せるより彼のほうが頼りになるから」

 

「そうか、君がそれでいいならいいだ」不安そうな一条。

 

「将輝は前に大隅に調整を任せて、ぐちゃぐちゃにされたもんね」苦々しく笑うを浮かべる吉祥寺真紅郎。

 

「あれは酷かったな、違和感は無かった。でも起動式を変えられて余計に疲れたな」

 

 ナナの抗議。「試合前に嫌なこと聞かせないでよ」

 

 試合中にそんな事が起こっては嫌だ/大隅に任せたことを後悔する。

 

「楽しそうでよかった」

 

「え?」一条の言葉に声が漏れる。

 

「ようやく笑ってくれた、さっきまで怖い顔してたから」

 

 頬が僅かに緩んでいたことに言われて気づく。

 

「怖い顔って、そんなにしてた?」

 

「してたよ。モノリスの練習見たいに兵士の目をしていた」

 

「一条君。私は兵士じゃないわよ」

 

「そうだった。君は我らが”歌姫(ディーヴァ)”だったな」

 

「わかればいいのよ。王子(プリンス)

 

 表情を緩めにこりとするナナ/嬉しそうに一条の周りを回る。

 

「それで、君はこんな巨大な猟銃を抱えて何を取りに行くのかな?」

 

「もちろん。勝利よ、七草先輩との対戦で感覚は掴めたし、今回は優勝(アガーテ)を取るわ」

 

「アガーテはマックスの恋人だろ? 君はレズビヤンだったのか」

 

「まさか、私はいたってノーマルよ。そうね、じゃあこういうのはどう?」

 

 ナナの悪戯的で淫靡な視線/子供の視線に混じる大人の視線。

 

「あなたが私にとってのアガーテになるってのどう?」

 

 驚きで体が動き、彼の甘く凛々しい顔が崩れる。

 困惑してしまう将輝――同年代の目線か? と思ってしまうぐらい大人びた顔の表情。

 子供のようで大人、かと思いきや子供のように恥らう時もある/掴み所があやふやなナナ。

 

「そういうことは心に決めた人に言うべきだぞ。イースターさん」

 

「......そう、ね」歯切れの悪い言葉。

 

 ナナもなぜこのような事を言ったのかわからない――時としてナナ自身も驚く言葉が自分の口から出てしまうことがある。「アガーテになるってのどう?」普通なら恥ずかしく言えない様な言葉――精神を誰かに渡したように意識が切り替わる症状。

 検診結果――過去のトラウマ/長年の不安。

 変なところで言ってはいけない言葉などを言ってしまいそうで怖い。

 

「で、できたよ」おどおどした声――大隅が調整を終わらす。

 

「ありがとう。大隅君」

 

「い、いいよ。『魔弾』のサイオン消費を抑えた、だ、だけだよ」

 

 WOMを手に取る/重みは相変わらず重い。

 変化――前の時より違和感が無い/イライジャの見立ての調整は少しはずれ多少の違和感があった。

 大隅の調整は一切の倦怠感や違和感を感じさせなかった。

 大隅の能力――マニアルの調整は彼自身からは比較にならないくらい美しいかった。

 標準機を覗き込む――レンズ越しの世界はナナの心を安心させる。

 早く使ってみたい/好奇心と高揚感で心を躍らせた。

 

「そのCADを作った人、本当にすごいね。標準補助の演算速度、何より機関部それの機構、普通なら考え付かないよ」吉祥寺――興奮気味「ねえ、それを作った人はどんな人なんだい?」

 

 起動式の即時インストールできる機能に吉祥寺は興味を引かれていた。

 どんな人が作ったのか/どんな人物なのか/魔法師なのか違うのか/興味の全てがイライジャに向いていた。

 

「えっと、どんなね」

 

 回答に困る/基本的、09メンバーの情報は出さないように言われていた。

 だが吉祥寺との間柄、無碍にもできなかった。

 

「女性よ、これを作った人は。でも彼女はあまり人に自分を知られたくない人だから」

 

「そうなのか残念だな。一度会ってみたかった」残念そうに答える。

 

 実際は懇親会で見てはいるが、これを言うべきかは判断に困る。

 アラーム音――新人戦の開始時間を教える。

 

「時間ね。行ってくる」

 

 ポケットの中のウフコックを変光(カメレオン)ゴーグルに変身(ターン)させた。

 

 

 

 **/*****

 

 

 

 会場/巨大なディスプレイ――表示されるナナの名前/0の数字。

 観客席は大勢のギャラリーで覆いつくされている。

 原因=『魔弾』の影響/七草先輩との対戦が反響を呼んだ、さまざまな視線に当てられ落ち着かない。

 静かに開始を待つ――会場に響き渡る開始の角笛/CADを抱え手に持つ弾倉/WOMに押し込む。

 開始を知らせるライトが一つ点く/排莢口のコッキングレバーを引く/金属がガチリと噛み合い音が響く。

 二つ目が点く/構える――金属繊維が力を貸す/巨大なCADを支え垂直になる。

 三つ目が点く――意識を統一し会場の全てを感覚する。

 会場のギャラリーひとりひとりの口がどの様に動くまでわかる。

 四つ目が点く/標準機を覗き込む――変光(カメレオン)ゴーグルがなでしこ色に変わる。

 五つ目が点く/引き金に指をかける――冷たく固い感触。

 ナナだけしかいない道を作る感覚。

 会場に開始のブザーが鳴る――同時に引き金を引く。

 轟音――地響きにも似た銃声/ナナが撃ち出した球状の弾丸は宙に向かい飛び出す。

 連続で撃ち出される弾丸――有効エリアに入る途端、軌道を変える。

 弾丸達は有効エリア何週か回る/公転のような綺麗な旋回――すぐに軌道変更。

 上に飛び上がる七つのフライクーゲル/急降下を開始し有効エリアに飛び込む。

 全ての弾丸が別々の軌道を描き、粘土製のクレーを砕いていく。

 意思を持ったように飛び回る弾丸(こども)たち。

 一発目――かくかくとした直角的な軌道をしてクレーを壊す。

 二発目――流線的な滑らかな動き/並走しているクレーに突撃し砕く。

 三発目――螺旋を描き楽しげに飛び回りクレーを穿つ。

 四発目――渦を巻くように有効エリアをぐるぐる回りクレーを粉砕する。

 五発目――急上昇、急降下を繰り返しクレーを毀つ。

 六発目――蛇腹な動き/有効エリアの中を跳ね回りクレーを破壊。

 七発目――有効エリア出たり入ったり一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)をして撃ち抜く。

 個性を持ったような動き/ナナの集中が徐々に上がっていく。

 アドレナリンが脳からあふれ出すのが解る――消える音/聞こえる呼吸/鼓動。

 大隅の調整の成果/倦怠感が一切感じられず弾丸達もサイオンをあまり取られない。

 速度変化(ヴェロシティ・チェンジ)/自身の限界値(クリティカル)を越えようとする。

 加速度(アクセラレーション)――体感世界が加速する/弾丸達もそれに反応して速度を上げた。

 激しさを増す弾丸の動き/有効エリアがクレーの破片が覆い隠される。

 低空で花火が炸裂したような有効エリア/目標の完全破壊(グランド・ゼロ)

 最後のクレーが有効エリアに飛び込む/弾丸の軌道が変わる――七発全て、一つのクレーに群がる。

 最後のクレーを七発の弾丸が同時に砕く/弾丸同士で当たり合い甲高い金属の砕ける音を響かせた。

 

 

    ハイ、終わったわ

 

 

 頭に囁く虚無――前とは違い女性の声/落ち着いた声――挑発的で官能的な響き。

 会場に響いた終了のブザー/会場からの喝采――ギャラリーの声。

 酷い虚脱感/淋しさ/自分でも解らない感覚。

 ウフコックには何故かこの匂いだけは嗅がれたくない気持ちになった。




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

今回は新人戦の予選を書いてみました。
七草先輩との対戦より薄い内容だったと思います。
あと、あらすじがハチャメチャだったので変えてみました。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。

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