マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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プリモ・ピアット3

 放課後俺はイースターさんに引っ張られ、買い物の荷物持ちをしていた/モノリス・コードの練習じゃ......、と思ってついて行けば、行った店は――ドラッグストア。

 大量の熱冷まし、他に湿布、スポーツドリンクなどを買って持って彼女の家に運んでいる。この時代、体外がオンラインショッピングで調達できるのになぜ?

 確かに実際に食材見て買いたいと言う人もいるらしいが、湿布や熱冷ましはオンラインショッピングでいいのではと思う。それを察したのか彼女は目に付く熱冷ましを片っ端から入れながら応えてくれた。

 何でも彼女の住んでいたマルドゥック市ではあまりオンライン、ホームオートメイションはあまりないらしい。

 それに加え彼女はオンラインシュピングはあまり好きではないらし/彼女らしい回答になんとなく納得してしまう。

 

「~♪」

 

 微かに聞こえる鈴の音のような声。

 彼女の首にある音声変換機(チョーカー)が喉の振動を広い微かに音を出している/ポップスやロック、アニメソングでもないテンポ/何だっかうまく思い出せない/頭の記憶を掘り起こし――思い出す。

 

「カルメンの『闘牛士の歌』か?」

「え? あ、あぁ、そうですよ」

 

 驚き振り返る彼女は少し、恥ずかしそうだった/だが、何処か嬉しそうだった。

 

「よくわかりましたね『闘牛士の歌』だって、聞いた事はあっても題名を知らないって人、結構いるのに」

 

「興味本位だよ、俺も最初は題名を知らなかった」

 

 彼女は感心するように俺の顔を見る/その目はいつものどこか焦げ付いた感じではなく、

 好奇心に溢れたきらきらした目だ。

 

「オペラが好きなのか?」彼女に聞く。

 

「オペラに限らず音楽は大体好きよ。ロック系は特に好き」

 

 彼女の回答に驚く/まさかロック系が好きとは/男性的思考で女性はロック系の音楽をあまり好まないものだと決め付けていた/ロック系が好きだったのか......。

 

「なんで好きなんだ、他にもジャンルがあるのに?」好きな理由を聞いてみる。

 

「好きな理由ね......、何だろう、エレキギターの音かな」

 

「音、か」呟くように言葉が出る。

 

「そう音、あの音が嫌な気持ちを消してくれそうだから」

 

 陰りのある声で彼女は答える/彼女は単なる気分転換という意味だろう/その回答はどこか嘘のように感じられた、だが彼女の言うことを今は信じるしか出来ない。

 会計を済ませドラッグストアを出る。

 学校の方へ戻り彼女の家へ向う徒歩で三十分ぐらいの位置に彼女の家はあった。

 このあたりは見覚えがあった――何せ俺の家から数ブロックしか離れていなかった。

 何とも言えないこの感情/数ヶ月前引越して来た人は彼女だったのか。

 敷地に入れば綺麗に長さが揃えられた芝生/家の大きさは俺の家ほどではないが平均の一軒家よりは間違いなく広かった。

 

「先に地下の射撃場に行って、私は動きやすい服に着替えて来るから」

 

 彼女はそう言い地下に降りるドアを教え二階上がって行った。

 地下へ降り室内、射撃場へ向うが明かりをつける電源が見当たらない/薄暗い部屋を壁伝いに進む――突如、発電機が動き出し電灯がつく。

 徐々に明るくなり地下室の全体が見えてきた。俺は最初この部屋の全体が見えた時こう思った。

 

「秘密基地?」

 

 地下室の中にはフレーム加工機材やCAD調整機がある/奥の辺りには彼女の言うとおり、室内射撃場もあった/その辺り壁には日本では法に引っかかるのではないかと思う銃の山/拳銃に小銃(ライフル)散弾銃(ショットガン)。壁に立てかけられている対戦車ライフル(アンチマテリアルライフル)

 これだけの銃器、彼女は戦争でもする気なのか。

 

「それはお父さん(ドクター)が税関を無理やり通した物よ、護身用だって」

 

「えらくすごい護身用武器だね......」

 

 少し顔が引きつっているのがわかる。

 これだけの物を通したのかと思うと彼女のお父さんはかなりの変わり者だろう。

 彼女を探し周囲を見ると、いつも間に近づいたのか彼女は俺の隣にいた/音も無くここまで近づかれるとさすがに心臓に悪い。

 彼女はさっき買ってきた湿布やスポーツドリンクを入れた袋を持っていた。

 服も着替え彼女なりに動き易くしたのしたのか、下は膝より上の内腿の生地を切り取ったジーンズ、上はTシャツという格好だ。

 彼女は俺より小柄なためどうしても見下ろす形になってしまう/今、見下ろしてしまえば彼女の胸元が見えてしまう。

 普通よりも色香の強い彼女――十代には持ち得ないものがあった。

 彼女は射撃場へ行き射台を越え奥へ進む。

 彼女の後ろ姿は何とも現しにくい/ジーンズの中に押し込まれたお尻はその存在を主張している。歳相応に成長している肉体がより情欲を誘う。

 一昔前ではレイプされかねない扇情的格好だ――青春真っ盛りの学生には目のやりばに困る。

 彼女について行き射台の奥へ行く/彼女は自分の出場競技の練習はいいのだろうか/俺のモノリス・コードの練習だと言っていたが。

 

「本当によかったのか、モノリスの練習と言っていたが」

 

「いい、私の方はもう準備は出来てる。だから貴方がどの程度か気になったの」余裕

 綽々といった感じに答える。

 

「オーケー。試合方式はモノリスと同じか?」

 

「いいえ、この練習は魔法は使わない、ただの組み手よ」

 

「え?」

 

 拍子抜けしてしまう回答。

 魔法力が同格でも体術の経験差で勝ち負けが決まったって例はあるかもしれない。

 だが、彼女との組み手?――論理的にも体格差的にも彼女の方が不利ではないか。

 

「君の方が不利ではないのか」

 

「これでいいの、勝敗はどちらかが倒れたらでどう?」

 

 これでいいの――語彙を強め彼女は言った。

 相当な自信――面白そうに笑う彼女/余裕すら感る態度。

 

「オーケー、わかった」

 

 俺は制服の上着を脱ぎ適当に構える/彼女は俺の正面に立ち構えを取る。

 拳を顔の辺りまで上げる/ボクシングの基本姿勢の構え――その表情から余裕は消え、真っ直ぐ俺を覗いている。

 

「始め」

 

 彼女の声と共に組み手は始まった――距離を詰める/頭の中で思い描く動きをで来るだけ正確に体に写す。

 想像――柔道の構え/彼女の胸倉とTシャツの袖を掴む俺の姿。

 動き――左足を彼女の右足の真横へ/右足を彼女と俺の間を通し、彼女の左足を払う/それと同時に、自転車のハンドルを左に引く要領で袖を引き胸倉を押す。

 結果――彼女は足を払われ背中から倒れる。

 柔道の足技の代表的なものの一つ――大外刈(おおそとがり)

 体を動かし彼女の胸倉、袖を掴もうとする。

 だがそれは失敗だった/俺は知らなかった――彼女はその技は熟知されていた。

 

 体を動かし彼女に手が届く距離――彼女は後ろに下がる。

 あまりにも自然な動き/近づいて来たから下がったような動作に俺は彼女の動きに合わせ下がった。

 距離を詰めようと動く――その判断が間違いだった。

 自然に二歩下がる彼女、俺も合わせ二歩進む/一歩目――二歩目で状況が変わった。

 二歩目の足――左足を着く瞬間、俺の重心はすごい勢いで横に倒れる。

 あまりの勢いに咄嗟に受身を取る/手を突き地に触れる。

 何をされたのか解らず目を白黒させている俺を見て彼女は面白そうに笑っている。

 

「さあ、一条君立って。これは彼方の練習なんだから」

 

 起こったことを理解しないまま彼女の言うと通り立ち上がり構え直す/頭を回転させ今起きたことを整理する。

 彼女が下がる――着いて行く――俺が倒れる。

 この動作の中、記憶を掘り返し彼女の細かな動きを思い出し――そして解る。

 

(足を払ったのか......)

 

 柔道の足払いにとても似ていたが彼女のアレンジが加えられた足払い/組み手をせずにあれだけの体重移動をよく制御したものだ/そして何より、足払いの早さ――途轍もない速さ/あの速さで体の軸が一切ぶれていない=相当なバランス感覚+それを支える肉体の強靭性。

 俺の中から同年代の少女との組み手が格闘術の経験者との組み手に変わった。

 今の状態は不利、俺は中学に通っていた頃、体育の授業で柔道して多少の知識を持っているぐらいだ。

 彼女は恐らく違う/育った国の違いもあるのだろうが/足裁き/体の動かし方/目の動き/どの動きも素人では無い。

 

「呼吸、落ち着きましたか」

 

「あ、ああ」

 

 俺の一呼吸を見逃さない目/蛇や獅子、猛獣の狩りの最中を彷彿とさせる目。

 

「では、始め」

 

 彼女の声で二回戦の開始――集中力を高め、ただ彼女の動きを確かめる。

 相手はただの少女ではない、格闘術の経験者――そう必死に思い込まなければ間違いなく負ける。

 二人の動きの探りあい少しの間/膠着状態が続く――として動き出す。

 先に動いたのは彼女――腰に手を回し、『何か』を取ろうとする。

 

(武器......!)

 

 思考が武器(えもの)と勝手に思い込む/彼女の腰の後ろに回した手に意識が集中する。

 

(何が来る! 魔法かそれとも銃!)

 

 必死に対処法を模索し彼女の腰の辺りから視線が離れない/意識が統一され周囲の音が徐々に消え、最後に自分の息遣いだけが聞こえてくる――途端、彼女が消える。

 

「何!」

 

 視界内から彼女の姿が突然消える――視界が開け周囲を探す。

 

(何処だ何処に行った!)

 

 見失う事が恐ろしく命取りであると感じてしまう――草食動物が肉食動物に襲われる心境とはまさにこのことだと思う。

 

「ここですよ」

 

 彼女の声は俺の真正面――懐近くに一気に近づいていた。

 

講義一(レッスン・ワン)、全体を見ること」

 

 彼女は素早く、俺の脇の下に手を通し背中に回す――右足を股の間に置かれ/俺の股関節辺りを腰に当てそのまま前方へ投げた――空中に舞うさなか脳は処理能力を上げどう受身を取るかを考えていた。

 だが、彼女の使った技は受身を取りづらくする技だった。

 地面を叩こうとするが体勢的にきつい――このままでは右腕を自身の体重で敷いてしまう形になる――どうもする事も出来ず成すがまま投げ飛ばされる/俺は出来るだけ背中で着地することにした。

 鈍い衝突音=地面に着地――コンクリートから伝わる衝撃/肺の空気が一気に吐き出させる。背を襲う鈍痛/肺を踏み潰すかのような衝撃――痛みは永遠に続くかに思われた。

 息が出来ず頭が朦朧とする最中、更に腹に衝撃が走る=彼女が馬乗りになっていた。

 

講義二(レッスン・ツー)、とどめはきちんと刺す」

 

 彼女の細く白い両腕が俺の襟元を掴む――右腕が左の襟を掴み、引く――左腕が右の襟を掴み体重を倒し前腕部で俺の喉元を押さえようとする――動きが止まり彼女はそのまま俺の上に倒れ楽しそうに笑っていた。

 

「あはは、一条君の必死な顔。可愛い」

 

 彼女のいたずらっ子のような笑顔/彼女の体重とその柔らかを感じる。

 

「がはッ......やめてくれ。君との組み手は現役兵士としているのかと思ったぞ」

 

「それ、あんまり嬉しくないな」

 

 ささやかな反抗に彼女は少しむくれる/彼女は俺の上から降りて立ち上がる。

 

「少し休憩しましょ」

 

 彼女は持ってきていた袋からスポーツ飲料を取り出し渡してくる。

 俺は体を起こし打ち付けた場所を確認する/背中で受けたかと思ったが脇の辺りが痛む。

 

「まさか、君がここまで強いとは思わなかったよ、どこかで習ったのか?」

 

「......いいえ、解るの無意識的に」

 

「もう体に染み付いてる訳か」

 

 多少、声が暗いかったが/体術を習いたくなかったのだろうか。

 スポーツ飲料に口を付け喉を潤す/あの組み手の間、緊張で思いのほか汗を掻いていたようだ。

 その後も練習は続き俺は投げ飛ばされ続けた。




どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。

今回もオリジナル続き、そろそろクロスさせたい。
次回は九校戦を開始させて、本格的なクロスと魔法の使用した戦闘描写が書けるぜ。
でも横浜編から先のクロス予定は決まってないです、オリジナル編挟んで第三校の出るスティープルチェース編を書くべきだろうか悩む。

誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。

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