艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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すみません・・・早くするとか言って二週間かかってしまった・・・

一応言い訳させてもらいますと、今回過去最高に長くなってしまったからなんですがね

と、言うことで、今回は長いです

とんでもなく長いです

本当に長いです

大事なことなので(ry

どうかお付き合いお願いします


近海防御

環太平洋通商防衛機構

 

二○三五年に設立されたこの機関は、その一年前に突如として出現した謎の生命体、深海棲艦による通商破壊から、太平洋上を航行する船を守るために、アメリカ合衆国によって提唱された。

 

各国の軍が協力し、各海域において貿易船団の護衛を行うことを主任務としたこの組織は、やがて下位組織として環太平洋防衛軍を創り、深海棲艦との戦闘において最前線に立たせていく。

 

設立当初の参加国はアメリカ、中国、韓国、オーストラリアなど七つ。日本が不参加だったのは、例によって憲法や自衛隊の独自性云々の話が上がったからだ。

 

一年後にようやく参加を表明した日本は、ガダルカナル沖海戦、第一次、第二次マリアナ作戦、ハワイ救出作戦などの各作戦に参加していく。しかし、多勢に無勢の状態で為すすべも無く、多くの護衛艦とクルーを失うこととなった。

 

結局、世界的な通信障害の発生と海域の完全封鎖によって、自然消滅するその時まで、大国間の思惑に左右されることとなってしまった。

 

 

支援母艦“佐世保”から、一通の報告書が届いていた。

 

重巡洋艦娘“摩耶”の名前が添えられた報告書は、昨夜から未明にかけて生起した一連の戦闘についての、簡易的な経過と各艦娘の証言が書かれている。明朝の帰還予定となっている南西諸島邀撃艦隊―――南邀艦が経験した海戦の情報を、いち早く手に入れるために、即席でいいからと提出してもらったものだ。

 

その場にいる人数分、といっても提督と秘書艦の扶桑の二人分だけだが、印刷された報告書を読み、彼は険しい表情を浮かべていた。

 

彼は今、執務机でにらめっこをしながら、内容を整理していた。少なくとも、手放しに喜べるとは思えない。

 

「夜戦における、重巡洋艦の優位性は証明されましたね。ですが・・・」

 

先に口を開いた扶桑も、わずかに眉根を寄せた。

 

「それは深海棲艦も同じ、か」

 

報告書を机に置き、提督は腕を組んで唸った。

 

前衛部隊、そして主力の戦艦部隊。二つの戦闘は、どちらも似たような経過を辿っている。そして南邀艦は少なからぬ損害を出しながらも、双方に勝利を収めている。そこは間違いない。問題は―――

 

「夜戦になると、ここまで重巡がしぶといとは・・・」

 

「深海棲艦側にも、夜間補正が存在するのでしょうか」

 

「その可能性は高いかもしれないな」

 

以前、工廠長が考察していた、艦娘の艤装―――つまり妖精の技術と、深海棲艦の艤装の関連性が頭をよぎる。いまだに仮説の域を出ないが、あながち間違っていなかったのかもしれない。

 

「今後の戦闘では、その辺りも考慮する必要がありそうですね」

 

「まだ仮説でしかないけどな。でも、用心に越したことは無い」

 

そう言って、提督は立ち上がる。

 

「いずれにせよ、細かい考察は高雄たちが帰ってきてからだ。新型の重巡も気になる」

 

軍帽をかぶり直し、扶桑を見据える。

 

「新型機の試験に立ち会ってくる。少しの間、執務室を頼んだよ」

 

「了解です。何かありましたら、夕張さんに伝えます」

 

「すまない、よろしく」

 

微笑んで見送る扶桑に後を任せて、提督は工廠部へと歩き出した。今日は試作機の第一回試験飛行が行われる予定だった。

 

 

結局、南邀艦の出立は予定より三時間ほど遅れていた。高雄の応急修理に予想以上に時間を費やしたからだった。

 

支援母艦“佐世保”で簡易的な修理と最低限の補給を受けた後、合流した第八駆逐隊の面々と共に摩耶たちは鎮守府を目指していた。“佐世保”については、この後南西諸島方面への遠征部隊に補給を行うとのことで、海域に留まるという。護衛役には、第二十一駆逐隊が付けられていた。

 

残留する彼女らと乗組員に見送られて“佐世保”を出発してから、結構な時間がたっている。臨時で旗艦を務めている摩耶は、海岸に沿って一路鎮守府へと向かっていた。チャートの読み方を間違えていない限り、後一時間ほどすれば鎮守府沿いの砂浜が見えてくるはずだ。

 

「高雄姉、機関部は大丈夫か?」

 

摩耶たちが海岸沿いに進んでいるのには理由があった。未だに機関が本調子とは言えない高雄に万が一の事態が起こっても、すぐに座礁させて陸路で帰還させられるようにだ。ただしその場合は、艤装を後から送り届けなければ置けなくなるが。

 

幸い、彼女の機関は比較的平常に動いていた。もっとも、出力は出ず、巡航速度を維持するのがやっとといったところだ。

 

高雄を終始労わりつつ、摩耶は先頭に立って艦隊を誘導する。鎮守府は、もうすぐそこだ。

 

 

早歩きで作戦室に向かった提督は、勢いそのままにドアを開いた。その第一声は、

 

「状況は?」

 

簡潔且つ、切迫した響きを伴っていた。

 

先に作戦室に入った三人のうち、大淀がヘッドフォンを押し当てたまま振り返って答える。

 

「十分ほど前に、南邀艦からの緊急信を受信しました。『我、空襲を受く』です。現在は対空戦闘中と見られ、交信は途絶えています。海域コード1-4、Dです」

 

そのまま大淀は、壁の前に据えられた大型の通信機に向き直った。一つも信号を逃すまいと必死だ。

 

「規模はわかるか?」

 

鎮守府近海―――通称第一海域と呼ばれる範囲の海図の前に立つ赤城に、提督は尋ねた。

 

「最後の通信時に、六十機前後の艦載機を捉えたとありました」

 

「とすると、正規空母一か、軽空母二といったところか」

 

「これが全力攻撃かどうかはわかりませんが、仮にそうだとすれば、敵航空戦力はその程度になるかと」

 

海図の上に、南邀艦の位置を示す青い模型が置かれている。そして枠外には、深海棲艦を表す赤い模型が、手持ち無沙汰に置かれていた。こちらはまだ、敵の位置を掴んでいない。

 

「沖ノ島に、軽空母の展開が確認されていました。おそらくそれが追撃をかけてきたと思われます」

 

もう一人、クリップボードにいくつかの資料を挟み込んだユキが、一つの可能性を示唆する。おそらく、霧島たちが確認した敵の編成だ。

 

―――いったい、なんのためだ。

 

ユキが言ったとおり、襲撃してきたのは沖ノ島に展開していた部隊だろう。しかし、今まで一貫して、制海権を失った海域に立ち入らなかった奴らが、今回はなぜ。何かよほどの理由があるのか。

 

いや、考えるのは後だ。今は南邀艦と八駆を無事帰さなければならない。

 

「稼動空母は?」

 

「正規空母は五航戦の二人、軽空母は祥鳳と龍驤が航空隊の編成を完了しています」

 

「・・・十八駆の子たちが、出撃準備をしてました。やる気満々です」

 

若干の溜息が混じったユキの声に、提督も赤城も苦笑する。これで、メンバーは決まった。

 

「五航戦、及び十八駆に緊急出撃命令を」

 

「わかりました」

 

メモ用紙にさっと命令文を書き、ユキはそれを大淀に手渡した。鎮守府内の放送に切り替えた大淀が、六人の艦娘を呼び出す。

 

「敵艦隊の予想位置は出せるか?」

 

「はい」

 

ユキが画面を操作し、海図台に南邀艦を中心とした円を表示する。

 

「敵艦載機の航続半径から割り出しました。こちらの哨戒線や、“佐世保”とニアミスしなかったことから、敵艦隊の予想位置は、この辺りになるかと」

 

指し示されたのは、1-3海域と呼ばれる辺りだった。過去、これほど鎮守府に深海棲艦が近付いたことは無い。

 

―――やっぱり、何かある。

 

癖になってしまった分析を、慌てて振り払う。目の前の状況に集中しなければ。

 

「現在同方面に、一一航艦が索敵を行っています」

 

一一航艦は、鎮守府に併設された陸上運用の航空部隊、所謂基地航空隊だ。近海の対潜哨戒と非常時の迎撃戦力として創設され、全国に配備された基地航空艦隊―――基地航艦に所属している。

 

使用航空機は零戦と一式陸攻が主力だ。この他に、対潜専用機として九六陸攻、そして少数配備であるが局地戦闘機“雷電”と“紫電”がいる。現在は双発爆撃機“銀河”と、艦載型と平行して“紫電”の改良型が開発されていた。

 

ちなみに、これらの機体もまた艦娘が操作する。正確には艦娘と同じ能力を持った少女たちで、鷹娘と呼ばれていた。一一航艦のメインオペレーター鷹娘は“雲鷹”と言う少女が務めている。

 

「もう間もなく見つかるかと思いますが・・・」

 

「・・・時間的には微妙か」

 

どんなに早くても、索敵機が見つけた敵艦隊に向けて五航戦の攻撃隊がたどり着くのは三十分以上掛かる。それまでに、間違いなく南邀艦はもう一度空襲を受ける。

 

「一一航艦から零戦隊を出せるそうです。ただし、後二十分は掛かります」

 

つまり、その間は南邀艦単独で攻撃隊を迎撃しなければならない。

 

「っ!摩耶より通信来ました。敵第一波帰投。被害は高雄大破、愛宕、三隈中破です」

 

「高雄が狙われたか・・・っ!」

 

大淀の通信を聞き届けた提督は、深海棲艦の狡猾さに唇を噛む。応急処置だけで、満足に回避運動が取れない高雄は敵の集中的な攻撃を受けたのだろう。二度目は、きっとこれ以上に困難な戦闘となる。

 

「続いて一一航艦より入電です。敵艦隊見ゆ。海域コード1-3、Fです」

 

大淀の報告は続いた。一一航艦が放った一式陸攻が、敵艦隊を捉えたのだ。

 

「編成は?」

 

「軽空母二、軽巡一、駆逐三。その前方に重巡一、軽巡一、駆逐四の高速部隊。三○ノット近い速力で、南邀艦に接近しています!」

 

「・・・まずいですね」

 

赤城が呻く。防空に専念すれば、敵艦隊に捉えられる。敵艦隊を攻撃すれば、南邀艦はもう一度空襲を受ける。

 

一瞬の沈黙が、作戦室に満ちた。

 

「・・・摩耶に打電してくれ」

 

黙考状態だった提督が、まず口を開いた。

 

「海域コード1-2、Bに進路を取れ。そこで迎撃する」

 

「それは・・・っ!」

 

近過ぎる。赤城もユキもそう思った。最悪、この鎮守府そのものが空襲を受けかねない。

 

「わかりました、打電します」

 

「頼む。それと、通信機を一機、貸してもらえるか」

 

「いいですけど・・・」

 

どうするんですか。大淀は一瞬戸惑ったが、すぐに自らの職務を果たすべく、雑念を振り払う。摩耶へ打電しつつ、小型の通信機を一機、準備した。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

受け取った提督は、つまみを弄って周波数を合わせ、最初に出撃ドックを呼び出した。

 

「翔鶴、聞こえるか」

 

『―――こちら、五航戦翔鶴。聞こえます』

 

わずかに割れているが、妖精さんのお手製だけあって、感度は良好だ。通信機からは、凛とした女性の声が返ってくる。

 

「敵艦隊の位置が判明した。詳細は後で送るが、深海棲艦は艦隊を二つに分けている。二人には、これを叩いてもらいたい」

 

『ちょっ、それじゃ南邀艦はどうするのよ』

 

割って入ってきたのは、翔鶴の姉妹艦、瑞鶴の声だ。

 

「それはこっちでなんとかする。君たちには、こっちが奴らを抑えてる間に根本を絶ってほしい」

 

『・・・わかりました。最優先目標は、いかがしますか?』

 

「軽空母部隊を叩くことを優先してくれ。水上艦隊はなんとかできる」

 

『了解』

 

手短に終わった通信を、素早く切り替える。次に繋いだのは工廠部だ。

 

『はーい。どちら様?』

 

答えたのは夕張だった。いつもの通り、工廠部に詰めていたのだろう。それなら都合がよかった。

 

「夕張、俺だ。頼みがある」

 

『提督?どうかしましたか?』

 

「南邀艦を襲撃している艦隊を、1-2、Bで迎撃する」

 

『あー・・・それはもしかして、“アレ”を出せってことですか?』

 

“アレ”ってなんだ。作戦室に二つの疑問符が浮かぶ。

 

「やれるか」

 

その疑問に対する答えを与えることなく、提督と夕張の会話は続いた。

 

『・・・十分あれば、準備できます』

 

「頼んだ」

 

そこで通信が終わる。なんとなくだが、赤城もユキも、提督がやろうとしていることに気づいてきた。

 

離れた位置にいる軽空母部隊は五航戦の艦載機で、接近してくる水上部隊は“鎮守府の戦力”で迎撃するつもりだ。夕張の言っていた“アレ”というのは、おそらく陸上支援型の兵器なのだろう。そういった類の代物を工廠部が研究しているという噂は、赤城も、もちろんユキも知っていた。

 

通信はそれで終わりかと思ったが、もとあった場所に通信機を返そうとする提督の手が、ふっと止まった。一瞬考えるような表情を見せた後、それをもう一度引き寄せる。

 

「・・・これからの通信は、一切他言無用だ。折を見て俺の方からみんなに公表したい。今は、聞かなかったことにしてくれ」

 

提督は、海図台の前の二人を見、そして大淀を見た。赤城が小さく頷く。

 

「わかりました。私は何も聞いてません」

 

他の二人も首を縦に動かす。それを確認して、提督は新たな通信相手に回線を開いた。

 

「秘匿回線使用。認証コード、エンゼルランプ。こちら提督、どうぞ」

 

やや間が空いて返ってきた回線使用了承を告げる声は、三人が今まで聞いたことの無い人物のものだった。

 

 

損傷の激しい二人を中心に構成された輪形陣、その最後尾で振り返った空を睨めつけ、摩耶は歯噛みした。

 

輪形陣中央で煙をたなびかせているのは、高雄と愛宕、特に損傷のひどい二人の艦娘だ。三隈も中破の判定だが、航行や戦闘には支障なしとのことで、未だに輪形陣の一角を形成したままだ。

 

元々損傷を応急修理しただけだった二人は、速力が出せない。もう一度攻撃を受ければ、どうなるか。

 

―――ぜってー、守る。

 

鎮守府が迎撃戦の準備をしていることは知っている。その旨、大淀からも通信があった。しかし彼女たちが救援に駆けつけるまでは、摩耶が艦隊を守らなくてはならない。

 

すでに、敵攻撃隊が引き上げて十分強。いつ、第二次攻撃が来てもおかしくない。

 

艦娘も、深海棲艦も、航空戦における空母のサイクルは通常空母よりも遥かに早い。通常空母が攻撃隊を収容してから次の攻撃隊を出すまでにどんなに頑張っても二時間近く掛かるのに対し、わずか十数分、赤城や加賀などの熟練空母になれば十分を切るほどのタイムで、次の攻撃隊を放てる。それは、単に発艦作業が矢を放ったり式神を変化させたりするだけというのも大きい。

 

もっとも、実戦では損傷機の補充や予備機の組み立て、攻撃隊の再編成などが複雑に絡まってくるので、二十分近く掛かるが。

 

そのタイムリミットが、刻々と迫ろうとしている。そしてそれよりも早く。

 

「対水上電探に感!!」

 

横の鳥海が叫んだ。その習性を持って、わずかに水平線の向こう側へ回り込んだ電波の目が、接近する敵艦隊を捉えた。

 

推定速力は三○ノット。一二ノットを少し上回る程度の速度しか出せない南邀艦が追いつかれるのは、時間の問題だった。

 

今は、逃げ続けるしかない。

 

水平線にその姿を現した敵艦隊を一瞥して、摩耶はそう割り切る。もうしばらくすれば、一一航艦から上空直掩の零戦隊が来るはずだ。そうすれば、高雄たちを任せて、八駆と敵艦隊を迎撃することが出来る。それまでは可能な限り逃げ続け、敵機を追い払わなければならない。

 

敵艦隊とは反対側、波の先端に、微かに建物の上端が見える。鎮守府は、もうすぐそこだ。

 

だが、状況は甘くなかった。

 

摩耶の二一号電探が影を捉えるのと、ゴマ粒みたいな何かが見え始めたのはほぼ同時だった。

 

「第二次攻撃来襲!!」

 

声の限り叫んで、脅威の接近を知らせる。その間にも、それは敵艦隊よりずっと速い速度で近づき、すでに小豆ほどの大きさになっている。同時に羽虫を思わせる、低い唸り声のような音が響きだした。

 

敵の第二次攻撃隊が、早くもやってきたのだ。

 

―――間に合わなかったか。

 

未だに上空に現れない零戦隊のことを思うが、それを容赦なく振り払う。戦闘では、全てが想定通り動くことなど絶対にありえないのだから。

 

「主砲、零式弾装填」

 

零式通常弾は、戦艦及び巡洋艦用に開発された対空砲弾だ。時限信管式で、設定した時間が経つと火薬が炸裂し、四方八方に高速の断片をばら撒く。この鋭い破片が敵機を切り刻み、撃墜あるいは攻撃を断念させる。もう一つ、三式通常弾と言うのも開発されているが、これは零式弾とはまた別の方法で敵機の撃墜を狙ったものだ。

 

摩耶が搭載していたのは、零式弾だった。ある程度の砲口径がないと効果が疑問的な三式弾と違って、零式弾は高角砲弾とほとんど同じのために、摩耶の二○・三サンチ砲でも成果を挙げられる。一網打尽とは行かないが、高角砲だけよりも濃密な弾幕が張れるはずだ。

 

もっとも、主砲の発射速度では限界がある。さらに先の防空戦闘で、摩耶はかなりの数の零式弾を放っていた。残弾が心もとないのだ。

 

それでも、無いよりはましだ。いざとなれば、いつぞやの長門みたいに、殴ってでも敵機を撃墜すればいい。

 

「対空戦闘用意!朝潮、八駆はさっきと同じ雷撃機を迎え撃て。爆撃機はあたしと鳥海に任せろ」

 

『八駆了解。対空戦闘用意』

 

第八駆逐隊の司令駆逐艦娘“朝潮”が応える。艦隊の両側に展開している第八駆逐隊の面々が、それぞれに対空戦闘の準備に入った。

 

―――さあ、正念場だぜ。

 

後ろを振り返り、摩耶は敵機の位置を確認する。距離は一万を切ろうとしている。すでに小さな虫ほどに大きくなった異形の艦載機に向け、摩耶は両腕の主砲を構えた。

 

その時。

 

『全主砲、撃てえーーーっ!!』

 

入りっぱなしだった通信機から、女性の声が響く。凛と張った声音に摩耶が疑問符を浮かべている間に、目の前で劇的な事態が起こった。

 

接近を続けていた敵編隊の正面で、まるで夏の夜に花開く花火のように、三つの火焔が上がった。何本も光の尾を引いて拡散していくそれに触れた敵機が、炎上、あるいは錐もみ状態となって落ちていく。ただし、数は少ない。それでも突然の出来事に、編隊内に動揺が走り、その動きが鈍る。

 

そこで二度目の爆発が生じた。今度は黒い花を思わせる爆炎が三つ、敵編隊のほぼ中央で炸裂した。先程と同じく、即座に火を噴いた機体は少ない。それでも花の近くにいた機体は、まるで操縦系統を失ったかのように、フラフラと海面へ降下して行った。やがて、いくつかの水柱が上がる。

 

「三式弾と・・・零式弾?」

 

目の前の光景に唖然としていた摩耶は、慌てて鳥海に探索を命じる。あれが三式弾と零式弾の時間差射撃なら、あれを撃った艦娘が近くにいるはずだ。敵艦隊に指向されていた二二号電探が回転し、発射母体となったであろう艦娘を探し当てるのに、十秒もかからなかった。

 

同時に、摩耶自身もあることに気がついた。それの意味するところを知って、にやりと微笑む。

 

完全に不意を突かれた敵編隊は、ようやくの思いで再編と進撃を始めた。だがそれも後の祭りだ。その歩みは、すぐに頓挫することとなる。

 

ほぼ真上にまで上っていた太陽の中から、金属的な光が落ちてくる。隕石とは違う、人工的なそれは圧倒的な加速度を持って、敵編隊へと突き刺さった。瞬く間に十数機の敵機がオレンジ色の火球に姿を変え、破片をばら撒く。

 

「たく、かっこつけた登場の仕方しやがって」

 

上空を見上げた摩耶は、苦笑を浮かべた。そこには、よく見慣れた海鷲が―――腹を明灰白色に、背を濃緑色に染め、自己主張の激しい赤丸を描いた猛禽が飛んでいた。

 

接近した一機の零戦が、摩耶に向かってバンク―――翼を左右に振る。遅れてすまない、そう言っているようだ。

 

約五十機の零戦隊が敵機を蹂躙していくのを見届けた摩耶は、ほんの少し余裕の出来た心で、電探が捉えた艦影―――先程三式弾で救援してくれた、二つの艦影を見つめる。

 

水平線の手前側、長い髪をたなびかせる艦娘と、それを守るように控える小柄な艦娘が見える。前者が戦艦級、後者は駆逐艦級の艦娘だろうか。

 

それだけ確認した摩耶は、もう一度敵機に目をやる。数を大きく減じた敵編隊の残りが撤退を始めたとき、摩耶は次の行動について考えを巡らし始めた。




今回は分割すると流れが・・・

いえ、うまい引き際が見つからなかっただけです

まあ、書きたいだけ吹雪ちゃんが書けたので満足です

航空戦については、どこかで一度ちゃんと書いてみたいですね

ついでに防空戦闘もおもしろそう

とりあえず、書くスピード上げます、はい

できればGW中に次を書きたいです

ということで、イベント頑張っていきましょう!!

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