艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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どうもです

イベント、アイオワさんは取りました・・・が

親潮と春風が出ません・・・出ないよ・・・

どうぞよろしくお願いします


狼煙を上げて

解放された出撃ドッグの外に躍り出たわたしの前に、蒼々と雄大な海が広がっていました。今日は波も穏やかで、静かに揺れる海面に太陽の光が反射してきらめいていました。

 

艤装の力によって海を征くわたし。脚部艤装は快調に動いており、原速を発揮する機関が心地の良い振動を伝えます。

 

不思議なものですね。わたしは今、二本足で海面に立っているんですから。脚部艤装に当たった波が、白い飛沫となってわたしの後ろに延びていきます。

 

『吹雪』

 

開いておいた回線から、司令官の声がしました。たった今出てきたばかりのドックの方を見ると、無線機を片手に持った司令官が、建物の天辺からこちらを見ていました。

 

あらゆる通信手段が遮断され、外国との情報のやり取りがままならない今日ですが、これぐらいの近距離ならまだ繋がるみたいです。

 

『艤装の状態は、どうだ?』

 

「異常は見られません。航行に問題なしです」

 

『了解。今日は慣らし運転にしよう。舵の利きと増減速を確認。速度は強速まで』

 

「わかりました」

 

と、いうわけで。初めて海に出たその日は、鎮守府前の演習海域を、わたしの自由に動き回ることができました。司令官に指示された内容以外にも、海図上の暗礁の位置を確認したり、潮流を見たり、魚の群れを見つけたり。ちょっとした遠足気分で楽しかったです。

 

何より。深海棲艦が現れてから、人類はまともに海に出ることができなくなっていましたから、とても新鮮な心地でした。

 

「どうだった?」

 

出撃ドックへ戻ったわたしへそう尋ねた司令官に、わたしは興奮を抑えきれずに答えました。

 

「とっても綺麗でした!」

 

 

 

翌日。訓練課程である程度慣れていたとはいえ、初めて扱う本物の艤装は、わたしに普段使わない筋肉を使わせていました。そのせいで、筋肉痛がひどいことになりました。ううっ、恥ずかしいです・・・。

 

 

リ号作戦部隊は、苦境に立たされていた。

 

始まった第二次空襲は、一次の時よりも多いのべ二百機近い敵機が来襲した。

 

もちろん、こちらも全力で応戦する。祥鳳と瑞鳳、そして“鹿屋”から飛び立った“烈風”が敵編隊を切り崩し、龍驤、千歳、千代田、隼鷹所属の“紫電”改二が逆落としに襲いかかる。二十ミリ機銃をまともに受けて、撃墜される機体は多数に上った。

 

それでも、その防空網を突破して船団に接近する機体は存在する。まして今回は、先の第一次よりも物量がある。敵戦闘機の妨害も大きく、“烈風”隊も“紫電”隊も十分な防空戦闘ができたとは言い難かった。

 

戦闘機の銃撃を越えてきた敵機は、第一次とは異なり、今度は船団を取り囲む艦娘たちを狙ってきた。いきなり本丸を落としにかかるのではなく、まずは外堀を埋めることにしたのだ。

 

特に、対空能力が高く、対空射撃の中核となっていた艦娘は執拗に狙われた。

 

摩耶も例外ではない。対空砲台を展開する摩耶は、こと高角砲の門数だけに限れば、船団中央で修復中の伊勢や日向と変わらない。対空専用艤装であるため、むしろこちらの方が対空能力は高いと言えるかもしれない。まさにハリネズミの如く対空兵装を纏った摩耶に、敵機は群がってきた。

 

雷撃機、爆撃機、時には銃撃をかけてくる戦闘機もある。それらに、摩耶は高角砲を向け、機銃を乱射し、対抗していた。

 

すでに、全弾をかわすことは諦めている。であるならば、より危険度の高い雷撃機の撃墜を優先することを摩耶は決めて、鳥海以下の僚艦にもそう伝えおいた。

 

仰角を下げた高角砲が、海面を這うようにして迫る雷撃機に向けて火を噴く。真っ黒い花が絨毯のように波頭の上に広がり、高速の断片が敵機を巻き込んで引き裂いた。

 

上空で虎視眈々と機会を窺う爆撃機のことに、摩耶は気づいている。一四号電探は、その影をバッチリと捉えていた。だが、手を出すことはできない。

 

―――来るなら来い・・・っ!

 

高角砲を再び放ちながら、奥歯を噛みしめる。今、この弾幕を緩めるわけにはいかない。回避運動を取るのは、敵機が摩耶に向けて降下してきてからだ。ギリギリまで、高角砲を撃ち続ける腹づもりだった。

 

濃密な弾幕を受けて、敵雷撃機が落ちていく。摩耶の対空砲台に搭載している高射装置は、鎮守府内でも最高精度のものだ。リ号作戦には間に合わなかったが、搭載した一四号電探との連動射撃も視野に入れている。

 

摩耶の精密な対空射撃が、襲い来る雷撃機を火達磨に変えていく。一機、また一機と数を減じていく雷撃機が、間もなく機銃の射程圏内に入ろうかという時、それは始まった。

 

上空の爆撃機が、機体を傾けて急降下を開始する。間違いなく、その軸線上には摩耶がいた。

 

―――くそがっ!

 

内心で罵って、摩耶は回避運動に入った。

 

爆撃機は、雷撃機同様に摩耶の右前方から、彼女の未来位置に向けて急降下してくる。これを回避するためには、その真下に向けて舵を切る必要がある。すなわち、雷撃機が向かってくる方向へと。

 

「目標、前方雷撃機!対空機銃群撃ち方始め!」

 

回避運動に入った摩耶が、ほぼ正面に捉えた雷撃機編隊に向けて対空砲台の二五ミリ機銃を乱射する。細く鋭い火線がまっすぐに延びていき、猛吹雪となって敵機を押し包んだ。たまらずに火を噴くかに思えたが、そんなに都合のよいことは起きなかった。激烈な弾幕の中を、敵機は怯むことなく突き進んでくる。

 

機銃弾が一機を絡めとり、機体を引き裂いて焔を上げた。二五ミリ機銃は炸裂弾だ。まともに喰らえばひとたまりもない。

 

操作を誤ったのか、高度を落としすぎた一機が波に掴まれ、飛沫を上げて海中に引き込まれた。逆に、高度を上げすぎてまともに弾雨を浴び、黒煙を噴く間もなくバラバラに解体された機体もある。

 

敵機は低空の雷撃機だけではない。上空からは、甲高いダイブブレーキのメロディーを響かせて、爆撃機が降ってくる。摩耶たちには、そちらまで弾幕を張っている余裕はない。今は雷撃機の撃墜が最優先だ。

 

―――当たるなよ・・・!

 

自らに迫りつつある爆撃機を、電探の影で確認しながらも、摩耶には祈ることしかできない。

 

また一機、雷撃機が落ちる。その瞬間、爆撃機の動きが変わった。投弾を始めた機体から、引き起こしにかかったのだ。

 

ダイブブレーキの代わりに、今度は爆弾が大気を切り裂いていく。真っ逆さまに迫る狂想曲の音が極大にまで達した時、摩耶の左舷に白く染められた海水の柱が立ち上った。敵弾の落下が始まったのだ。

 

立て続けに、二発目と三発目も落着する。四発目は右舷に落ちた。飛び散った断片が艤装と擦れて異音を上げ、降りかかる水滴が頭を濡らす。摩耶は目を閉じることなく、ただ目の前の雷撃機を睨み付けていた。

 

五発目が落下する。瞬間、衝撃は足下の海からではなく、後方からやってきた。一瞬、背中に焼けるような痛みが走る。五発目の敵弾が、摩耶を捉えたのだ。

 

その後も、白濁の瀑布が林立し、命中弾炸裂の衝撃と破砕音が摩耶を襲う。それらを、摩耶は歯を食い縛って耐えていた。

 

最後の弾着が終わる。最終的な投弾数は十二発。内、命中弾は三発。摩耶の艤装は、それだけの被弾にも耐えていた。

 

だが、それで終わりではない。目の前には、今まさに投雷しようとする雷撃機が迫っている。

 

急降下爆撃から数秒と経たずに、先頭の敵機が投雷した。それに続いて、各機が投網状に魚雷を放つ。雷撃機の腹から離れた鋼鉄の槍は、キヨ全体を包むように、不吉な白線を引いていた。

 

「射撃止め!回避運動!」

 

摩耶は即座に下令する。刻々と迫る鉄製の肉食魚を避けようと、鳥海や十一駆も魚雷と正対する方向へ舵を切った。

 

だが、駆逐艦である十一駆はまだしも、重巡である鳥海は舵が利き始めるまでに若干のロスがある。魚雷への正対は、わずかに遅れがちだ。

 

―――間に合ってくれよ・・・!

 

最も信任を置く僚艦の無事を祈った摩耶は、前から迫りつつある白線に意識を集中する。

 

爆撃機に対する回避運動を取ったことで、摩耶はキヨ内で最も魚雷に近い位置にいる。真っ先に魚雷が到達するのは彼女だ。

 

―――チャンスは一瞬だ。

 

両腕の二〇・三サンチ連装砲を構える。対空戦闘用に装填していた零式弾は、遅延信管に設定していた。

 

その砲身を、海面に―――驀進してくる魚雷に向ける。俯角となるこの位置では測距儀が意味を成さないため、照準は目視で定める他なかった。

 

―――今!

 

二〇・三サンチ砲が火を噴く。反動が腕を伝い、わずかに体が浮き上がる感覚がした。

 

放たれた砲弾は、狙い違わず海面へ突き刺さる。運動エネルギーのロスがほとんどない状態では、海面とて固い壁となる。装甲にぶち当たったと勘違いを起こした砲弾は律儀にも遅延信管を作動させ、摩耶の狙い通りに海中で炸裂した。

 

四発の二〇・三サンチ砲弾が、自らの弾け飛ぶ力で海水を持ち上げた。急激に増した温度と圧力が海水を煮立たせ、その一部を瞬時に蒸発させる。同時に空中の五倍という強度と速さを持った衝撃波が広がり、海中に見えざる壁を形成した。

 

摩耶が狙ったのは、砲弾による魚雷の誘爆だ。

 

以前、爆雷によって魚雷の進路を変える方法を試みた。これは成功し、魚雷のいくつかを破壊、またその進路を破壊することができた。それを、今度は砲弾でやろうとしたのだ。

 

爆雷と違い、炸裂深度の調定ができない砲弾では、難易度は格段に上がる。が、敵潜水艦の襲撃も考慮すれば、吹雪たちに搭載されている爆雷を、できるだけ温存したかった。

 

―――どうだ・・・っ!?

 

飛沫を散らして進み続ける摩耶は、じっと砲弾の爆発によって泡立った海面を見つめていた。その中から、白線が伸びてくる。目算では、二、三本数が減っているだろうか。

 

今更できることはない。後は、正面からくる魚雷が、当たらないことを祈るだけだ。

 

透明度の高い海面には、青白く光る魚雷がよく見える。摩耶との距離は、すでに二百を切っていた。

 

高速で接近する白線の行方を見つめる。額に冷たい汗が伝う感覚がした。

 

魚雷は、摩耶を掠めて、通過した。左右を挟み込むように、白い航跡が過ぎていく。命中するものはない。摩耶は、魚雷の回避に成功したのだ。

 

だが、それで終わりではなかった。摩耶を通過した魚雷が、今度は鳥海と十一駆に迫りつつあった。

 

その様子を、摩耶はただ祈りと共に見つめているしかなかった。

 

『魚雷・・・通過っ!』

 

戦闘中に落ち着いた声音を崩すことのない鳥海が、喜色を滲ませて報告した。魚雷の白線は、鳥海や十一駆の各艦娘を捉えることなく、通過していった。馳走距離の短い魚雷は、間もなく航跡を消し、海底へと誘われていくはずだ。

 

極度の緊張状態から解放され、摩耶は安堵の溜め息を吐く。キヨはまだ、致命的な被害を受けていない。

 

筋肉を弛緩させたのは、その一瞬だけだ。空襲はまだ続いてる。摩耶たち以外の各隊も、敵機と交戦中だ。もしかしたら、まだ残っている敵機が摩耶たちを着け狙っているかもしれない。

 

電探の反応を頼りにして、摩耶は周囲を見回す。その時。

 

『五十鈴、被弾三!機関に損傷、戦闘航行不能!』

 

痛みを堪える切迫した声が、すぐ近くから通信機を通して聞こえてきた。

 

ナガの陣取る方角。そこから、明らかな黒煙が上がっていた。

 

五十鈴は軽巡洋艦だ。第二次改装を受けたとはいえ、装甲は摩耶ほど厚くない。三発の被弾は、当たり所によってはその能力を大きく損ないかねなかった。そして今回、命中した敵弾は、五十鈴の機関部を抉り、その航行能力を奪ったのだ。

 

五十鈴が欠けるのは痛い。同型の名取が対空兵装の増設に留まっているのに対し、五十鈴は高射装置も刷新している。彼女自身、対空戦闘の経験が豊富であり、摩耶と共に船団防空の要と位置付けられていた。

 

対空電探の機影から、第二次空襲が終息に向かいつつあることが窺える。船団にはまだ大した被害は出ていないようだが、輪形陣を構成する部隊の各所から、薄い黒煙が噴き上がっていた。

 

 

「被害が蓄積しているな」

 

寄せられた被害報告を集計しながら、ライゾウは唸った。作戦指揮室に設置されている海図台の液晶パネルを囲む面子も、その表情は険しい。

 

「敵が、目標を艦娘に絞ってきたのは明白だな」

 

長門が指摘する。

 

第一次空襲は、船団の輸送艦を狙う敵機に向け、各部隊が対空砲火を集中することができた。ところが、第二次空襲では、船団を守る各部隊がそれぞれに狙われたため、各部隊ごとに自らに迫る敵機を相手取るので精一杯となった。数が増加したこともあり、被害は第一次空襲の時よりも大きい。

 

間違いなく、深海棲艦の機動部隊は、攻撃を艦娘に集めてきていた。

 

「敵機動部隊の位置は、捕捉しているのか?」

 

「はい。三十分前に、“鹿屋”から報せてきました。正規空母二、軽空母一を含む機動部隊が二つ確認されています。おそらく、付近の西方海域封鎖艦隊が、接近してきたものと思われます」

 

そう答えた大淀は、機動部隊が発見された位置を海図台の上に示す。船団からは、航空機で片道一時間だろうか。

 

「・・・攻撃隊を出すか、微妙なところですね」

 

第二次空襲が引き上げ始めて三十分が経過している。通常空母に比べて遥かに回転率の高い深海棲艦の空母なら、こちらの放った攻撃隊が編成を終えて到達するまでに、第三次攻撃隊を出せる。規模は第二次より小さくなるだろうが、それでも第一次並みのはずだ。攻撃隊に護衛の戦闘機を付けなければならない以上、船団の防空体制が甘くなったところで第三次空襲を受けるのは、かなり厳しかった。

 

選択肢は二つ。このまま守りに徹するか、攻撃隊を出すか。もしも攻撃隊を出すなら、タイミングは早い方がいい。

 

「・・・攻撃隊を出そう」

 

おもむろに口を開いたのは、それまで静かに作戦指揮室の様子を見ていたタモンだった。この船団の中で最先任はタモンであり、必然的に最終的な船団の方針を決定するのは彼だ。また、タモンは航空戦の専門家でもある。

 

“大湊”から救出艦隊を率いていた彼は、輸送艦隊と合流した時点で作戦指揮室のある“横須賀”に移っていた。以後は、輸送艦隊の最高責任者であるライゾウと参謀役として作戦指揮室に詰める艦娘たちに敵艦隊の邀撃を一任して、自らは特に口を挟まなかった。

 

「戦闘機隊の収容は完了しているか?」

 

「はい。タケ及び“鹿屋”の戦闘機隊は、収容と補給を終えています。現在の稼働率は、七割です」

 

航空機関連の事柄を総括する赤城が、タブレットから資料を海図台に示した。二度の防空戦闘で被弾、損傷や整備不良をきたした機体は、現在予備機の組み立てに入っている。一方、攻撃機については、西方海域突入時の強襲作戦でのみ使用したため、そのほとんどが無傷で残っている。航空攻撃力は十分過ぎるほどだ。

 

「“鹿屋”の基地航空隊、及び千歳、千代田、隼鷹の航空隊で攻撃隊を編成する。龍驤、祥鳳、瑞鳳は引き続き防空に専念」

 

タモンの決断は、すぐさま“鹿屋”とタケに伝えられた。千歳、千代田、隼鷹からはすぐに攻撃隊が飛び立ち、敵機動部隊へ向けて進撃を開始する。飛行甲板に機体を出す必要のある“鹿屋”からの発艦は、まだ時間がかかりそうだ。

 

リ号作戦は、今まさにその佳境を迎えようとしていた。




また中途半端なところで・・・

次回はまた基地航空隊です

・・・そういえば、今回のイベントで基地航空隊実装されてるじゃないですか。熟練度が上がらなくてヒーヒーしてました

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