艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

35 / 52
お久しぶりです

リ号救出作戦が始動、今回はあきつ丸たちの上陸戦です

そして、相変わらず十一駆が圧倒的に強い


リ島強襲上陸

さて、秘書艦に任命されたのはいいんですけど。もちろん、それまで書類仕事なんてやったこともなかったので、最初の二日間はとにかく手順と書類の見極めの仕方をひたすら覚えました。

 

三日目からはぎこちないながらも捗り始めます。倉庫で見つけた机を引っ張り出して司令官の隣に並べ、書類に目を通してペンを走らせます。

 

そういえば、この頃から秘書艦の権限って結構大きかったですよね。どうやら司令官は、秘書艦を艦娘の総括役のような位置付けにするつもりだったみたいです。今でも、そんな感じですよね。長門さんや赤城さんが、基本的に艦娘全体を取り仕切り、各艦種ごとの代表者がその下にいるといった感じです。

 

書類の山と格闘を続けていると、さすがに疲れてしまいます。ふと顔を上げて時計を見たわたしは、時間が丁度いいことに気付いて、席を立ちます。

 

こういう時のために、給湯室があるんですから。

 

「お茶、淹れますね」

 

「ああ、ありがとう吹雪。助かるよ」

 

まだまだ手馴れていない手つきで二人分のお茶を淹れ、束の間の休息を楽しみました。

 

 

夜闇の中、二隻の船がカレー洋を西に向かって進んでいた。深海棲艦の活動が少ない大陸沿岸に沿って驀進する二隻の支援母艦が目指すのは、大陸から突き出たインド沖に浮かぶ、リランカ島だ。

 

リ号救出作戦に参加する、高速艦隊を率いる“大湊”の艦橋には、この艦隊を指揮するタモン少将の姿があった。そしてもう一人。

 

暗闇の中、艦首で割れる波を、タモンと同じようにして見つめている横の人物を、彼はチラリと窺った。

 

きらめく眼鏡の奥の目は細められ、好々爺とした印象を抱かせる。実際、性格も物腰も穏やかそのものなのだが、なにせ陸軍の重鎮だ。階級的にも上である件の人物がこの艦橋内にいることに、一種のやりにくさを感じるのも事実だ。

 

ヒトシ中将。リ号作戦の陸軍側の責任者である彼が、この艦隊に乗り込むこととなったのは、出港ギリギリに決まったことだった。

 

―――「急で申し訳ない。何卒、よろしくお願いしたい」

 

陸軍の思惑が透けて見えるこのねじ込みだったが、ヒトシにそう言われては誰も何も言えない。良くも悪くも、穏健な彼は敵に回したくない人物だ。

 

もっとも、そうした上の思惑とは別に、ヒトシの存在はありがたい。タモンは海軍、さらに言えばその前は空自の人間であり、上陸戦にはあまり詳しくなかった。あきつ丸たち陸軍艦娘への細かな指示は、ヒトシに任せるのが最良だ。

 

「そろそろ、ですかな」

 

ヒトシが言う。表情は変わらないが、瞳に宿る色が変わったことに、タモンも気付いた。

 

「陽の出までの時間は?」

 

タモンが“大湊”艦長に尋ねる。

 

「後一時間ほどです」

 

洋上出撃であることを考慮すれば、丁度よい頃合いだ。

 

―――始めよう。

 

リ号救出作戦。過去に例を見ない上陸救出戦の幕開けだ。

 

「“鹿屋”へ、索敵機準備。全艦娘は出撃準備にかかれ」

 

タモンの指示は、すぐに各所へ伝えられる。すでに全員が起床して待機していた艦娘たちは、格納庫に用意された自分たちの艤装が、出撃準備を整えるのを待つばかりだ。夜間照明で薄暗い艦内が、にわかに慌ただしくなるのを、タモンは肌で感じていた。

 

「艦長、ここを頼む。我々は作戦指揮室へ向かう」

 

「了解しました」

 

“大湊”艦長が答える。深海棲艦による海上封鎖が地球側よりも長い鯖日本において、非常に貴重な艦船勤務者である彼は、海軍が艦娘支援母艦の艦長に任命するだけの状況判断能力を持っている。艦の運行に関して、門外漢のタモンやヒトシが指示を出す必要などない。

 

ここは任せてください、とでもいうような自信ありげな表情に満足して、タモンは頷く。ヒトシも軽く会釈をして、艦橋を後にした。

 

「波に頭を立てろ。少しでも、艦娘の出撃をやりやすくするんだ」

 

艦長が乗組員に出す指示を背後に聞きながら、二人の将校は階段を作戦指揮所へと下りていった。

 

 

艤装の装着が終わった吹雪は、真っ先に外へと出るため、格納庫後部の出撃レーンに待機していた。ハッチは、もうすぐ開くはずだ。

 

隣には、僚艦の白雪がいる。その向こうには初雪、そして深雪も。上陸支援艦隊の出撃に当たって、最初に駆逐艦である彼女たちが出、次いで出てくる艦娘たちの、その間の周辺警戒を担う。あきつ丸たち上陸部隊本隊の出撃は、そのさらに後だ。

 

『諸君、艦隊の指揮を預かるタモンだ』

 

頭上のスピーカーから、タモン少将の声が聞こえた。司令官から、この救出艦隊の指揮を任せられている。

 

『非常に困難な任務であることは、皆も承知していることと思う。だが、諸君が来るのを心待ちにしている人たちがいるのだ。彼女たちの希望を、我々は守らなくてはならない』

 

噛みしめるような間があった。格納庫に控える全艦娘が、静かに息を呑んだ。それが、この艦隊の、覚悟の証だった。

 

『必ず成し遂げよう。彼女たちに、希望を届けよう。それができるのは、諸君らしかいない』

 

健闘を祈る。そう言ったタモンの言葉に、全員が応える。一つの想い、守りたい希望。波の向こうに待つ仲間たち。横の白雪と目が合った。頷き、その手を繋ぐ。白雪は初雪と、初雪は深雪と。十一駆四人が一つに繋がり、作戦への決意を誓った。

 

「やろう。わたしたちならできる」

 

「そうだね、できる」

 

「ん・・・やってやる」

 

「任せとけって!」

 

手を解き放つ。隣の温もりが確かに残る手を、吹雪は再び強く握りしめた。

 

『ハッチ、開きます』

 

吹雪たちの背後で、重厚な音と共にハッチが開いた。その先は、まだ闇だ。太陽は登っていない。

 

吹雪たち四人を乗せた台が、エスカレーターの要領で降りていく。ウェルドック方式の出撃レーンに徐々に降り立ち、脚部艤装が海水に着いたところで固定される。出撃準備は整った。

 

「吹雪、出撃準備完了!」

 

「白雪、出撃準備完了!」

 

「初雪、出撃準備完了!」

 

「深雪、出撃準備完了!」

 

四人が叫ぶ。

 

『全艦抜錨。暁の水平線に、勝利を』

 

管制室からこちらを見守っていた工廠部員が敬礼する。それに吹雪が応えた瞬間、出撃レーンの台座が動きだした。吹雪の脚部艤装を乗せた台がレールの上を滑り、後ろ向きに吹雪を海へと吐き出す。すぐに脚部艤装の出力を上げ、半速、さらに原速へと増速する。

 

白雪、初雪、深雪と続く。海上に出た四人はお互いに頷き、それぞれの持ち場へと着いた。一度に四人しか出撃できない“大湊”の出撃レーンでは、救出艦隊全艦が出撃するのに三十分はかかる。その間、周辺の警戒は吹雪たち十一駆にかかっている。

 

吹雪たちの出撃後、数分して次の艦娘が出てくる。高雄、愛宕、神通、那珂、巡洋艦娘の四人だ。四人とも、巡洋艦の中では、特に火力に優れている。

 

それからさらに数分。続いて出てきたのは、白露型の四人だ。白露、時雨、村雨、夕立。特別練度が高いわけではないが、駆逐艦の中ではいち早く大規模改装を受けた時雨と夕立がおり、士気も高い。リランカ島を包囲する敵艦隊を喰い破るには、適任と判断されたのだ。

 

最後となったのは、金剛型の二人だ。吹雪も、その艤装試験には同行している。姉二人に続いて大規模改装を受けた榛名と霧島は、艤装が一新されており、新式の主砲システムをもってすれば、Flagship級戦艦との撃ち合いもできると期待されている。救出艦隊の大黒柱だ。

 

その後には、あきつ丸率いる陸軍艦娘たちが続く。彼女たちの艤装は、元々洋上で支援母艦から早急な展開ができるように考慮されており、艦娘たちよりも素早く洋上に解き放たれていく。ものの数分で、二十人全員の展開が終わった。

 

最後に、ナビゲーション役として、U-511が出撃した。それを受けて、“大湊”の後部ハッチが閉じる。

 

『打ち合わせ通り、上陸部隊を囲んで進撃します。陣形を組んでください!』

 

旗艦を務める榛名が、通信機に呼びかける。出撃した全艦が陣形を形作る。複縦陣を作った陸軍艦娘たちを囲むように、左舷に神通と吹雪、白雪、右舷に那珂と初雪、深雪。その前方に、残った火力担当が陣取る。まるで巨大な矢印のような陣形だ。

 

そして上空には、“鹿屋”から飛び立った“烈風”八機が展開し、上空に睨みを利かせている。この他、“彩雲”が艦隊の前方に向けて飛び立っており、敵艦隊を探していた。

 

現在時刻、〇五五〇。予想上陸時刻は一〇〇〇。その間、どれだけの敵艦隊を突破しなければならないのか。

 

―――やるしかない。ううん、わたしたちなら、できる。

 

決意も新たに、吹雪は周囲を見渡す。昇り始めた朝陽の中、陸軍艦娘の先頭を行くあきつ丸と目が合った。

 

「頼んだであります」そう言うように、力強く頷いた。吹雪もそれに応えて、大きく頷いて見せる。

 

艦隊の向かう先を見つめる。水平線の向こう側には、吹雪たちの到着を待ち望んでいる仲間がいるはずだ。

 

 

あきつ丸たちは、U-511に続いて、速力を上げた。護衛の艦娘たちはすでに左舷方向で交戦に移っており、砲声と爆炎が見て取れる。上空を航空機が入り乱れ、断続的に攻撃を仕掛けてくる敵攻撃機に対して、各艦から対空砲火が迸っていた。

 

「こちらあきつ丸!支援感謝するであります!これより、上陸に移る!」

 

口頭マイクに向かってあきつ丸は叫び、対空射撃で加熱したK砲を構える。弾倉はすでに二つ撃ち尽くし、残すは三つだ。

 

『了解しました!作戦の成功を!』

 

通信機の向こう側で、敵戦艦との砲撃戦を繰り広げる榛名は、その旋律に負けじと声を張り上げ、あきつ丸たちを激励した。今まさに、自らの盾となって上陸を支援する艦娘たちに、ひたすら頭の下がる思いだった。

 

「行くであります!」

 

『『『了解!』』』

 

陸軍艦娘たちが応える。高い気合いに満ち溢れた声だ。あきつ丸は満足げに頷いて、目前に迫ったリランカ島へと一直線に針路を取った。

 

『ギリギリまで援護します!』

 

そう言ったのは、あきつ丸たちにピタリと寄せて護衛する吹雪以下十一駆の四人だ。制服は所々煤汚れているが、被弾はない。すでに三度もの襲撃を退けているにもかかわらず、だ。さすがの練度と連携と言えた。

 

目の前で深海棲艦の快速襲撃部隊を手玉に取り続ける歴戦の駆逐隊の奮戦ぶりを、まるで手品でも見ているかのような心持ちで、あきつ丸たちは見てきた。

 

あきつ丸の右舷に、墜落した“飛びエイ”が飛沫を上げる。『陸上型』と呼ばれる、リランカ島に展開している深海棲艦―――港湾棲姫の機体だ。“鹿屋”から飛び立った“烈風”は、十分に艦隊の上空を守っていた。

 

―――ですが、問題は・・・。

 

チラリ。リランカ島の、かつて『独立艦隊』の基地があった廃墟に見える人型の港湾棲姫と、その艤装を見遣る。陸上型が、いわゆる港湾施設―――要塞の役割を果たしているとしたら。

 

あきつ丸の心配は、現実のものとなる。

 

港湾棲姫から、真っ赤な砲炎が沸き起こった。敵の要塞砲が、接近するあきつ丸たちに向けて、発砲したのだ。

 

弾着の水柱が沸き立つ。大きさからみて、重巡級の八インチ砲だろうか。あきつ丸たちを撃ち負かすには十分すぎる威力だ。それに、陸上からの砲撃ともなれば精度は高い。波間で不安定なプラットフォームとなる船と違い、安定したグラウンドのある陸上からの砲撃は、観測機器は同じでもより精度が高くなる。そもそも、その観測機器に関しても、事実上大きさの制限がなくなるのだから、さらに制度はよくなる。

 

『あきつ丸さん、最低限の之字運動を!煙幕で誤魔化します!』

 

吹雪の判断は早かった。あきつ丸もそれに賛同し、之字運動に入る。こうした事態を想定した訓練もやっていた。連携に問題はない。

 

―――欲を言えば、砲撃による支援が欲しいでありますが。

 

手元のK砲を見る。だが、これは一四サンチ砲相当の威力しかない。それに、まともな観測機器も射撃指揮装置も持っていないあきつ丸たちでは、そもそも撃ち合うことすら困難だ。

 

今は耐えるしかない。煙幕の効果と、この之字運動。弾が当たるかどうかは、運試しだ。

 

艦隊の前方に出た十一駆のうち、初雪と深雪が煙幕を展開する。右から左に吹いているので、あきつ丸たちの前方視界はなくなるが、敵からもこちらが見えない。之字運動を繰り返しつつ、なおもリランカ島への接近を試みた。

 

『っ!敵艦隊!』

 

―――こんな時に・・・!

 

新手は、左舷後方八時の方向からやって来る。白露型の四人は、他の艦隊に対処中だ。

 

『初雪ちゃん、深雪ちゃんは煙幕展開を続けて!わたしと白雪ちゃんで迎撃する!』

 

言うや否や、吹雪と白雪は同時に身を翻す。きれいな弧を描いて、接近してくる敵艦隊へと向かっていった。

 

敵艦隊の編成は、軽巡一、駆逐三。本来なら、駆逐艦二隻では抑えるのがやっとだ。

 

だが、吹雪たちは違う。

 

先頭に位置していた軽巡が発砲した瞬間、二人の駆逐艦娘は縦列を解き、V字に分かれて針路を取る。一拍を置いて発砲。主砲から放たれた一二・七サンチ砲弾は、高速で海の上を飛翔し、軽巡のすぐ後ろにいた二隻の駆逐艦に突き刺さる。そのまま連続斉射。瞬く間に海の藻屑となった駆逐艦は、断末魔の声すら上げることなく、波間に没していった。

 

軽巡の動揺は、ありありとわかった。圧倒的に優位と思って発砲したら、狙っていた駆逐艦が素早く避けただけでなく、次の瞬間には配下の駆逐艦二隻が同時にやられたのだ。怒り狂ったように咆哮を上げ、その砲口を吹雪へと向ける。

 

だが、その判断は遅すぎた。

 

二隻の駆逐艦を仕留めた吹雪と白雪は、次の目標をそれぞれ軽巡と残った駆逐艦に定めた。旗艦である軽巡と離れた位置におり、且つ目の前で僚艦を撃沈されたばかりの駆逐艦は、一瞬判断を迷っていた。そしてそれが、命取りとなる。

 

まあ、迷わなかったところで、結果が変わったとは到底思えないが。

 

吹雪と白雪が、ほぼ同じタイミングで発砲する。まるでお互いの心を共有し、シンクロしているかのような華麗な砲撃戦は、先頭の軽巡よりも一拍早く始まっていた。軽巡は、明らかにダンスに乗り遅れた。

 

白雪の砲撃で、残った駆逐艦は瞬く間に撃沈される。そして吹雪と軽巡の戦いは、第一射の成否が勝敗を分けることとなった。

 

一拍遅れたとはいえ、お互いの距離は五千を切っている。弾着修正を行うことを考慮すれば、ほんの誤差程度だ。

 

相手が、普通の駆逐艦なら。

 

吹雪の容赦ない砲撃は、一発目を外した軽巡に、弾着修正の機会など与えなかった。斉射に次ぐ斉射。装弾機構の性能が許す限り続けられる、正確無比の砲撃。『豆鉄砲』とも揶揄される一二・七サンチ砲が上げる橙色の砲炎は、確かに戦艦に比べれば小さく、儚くさえある。だが五〇口径という長砲身ゆえに発揮されるその性能は、対艦砲としては非常に優秀だ。

 

敵軽巡にとって、それはまさしく悪夢だったはずだ。第一射から、吹雪の砲撃は軽巡を捉え、その艤装を抉る。二射、三射。弾着修正の時間などない。第四射の後には、駆逐艦を撃沈した白雪も加わり、軽巡は両舷からズタズタに引き裂かれていく。その足が止まった時、軽巡は全体に満遍なく被弾し、燃え盛る火の塊となっていた。もはや、その存在があきつ丸たちにとって脅威となることはない。

 

―――恐ろしいほどであります。

 

あまりの一方的戦闘に、あきつ丸はごくりと唾を呑んだ。一部の艦娘たちが、十一駆を「絶対に敵に回してはいけない駆逐隊」と呼ぶ意味を、理解した気がする。

 

彼女たちと戦うならば、一個連合艦隊が必要かもしれない。

 

美しく華麗なダンスは、あっという間に終了した。最早あきつ丸には、時折至近に落下する要塞砲の衝撃など、全く気にならなかった。彼女たちがいる限り、大丈夫。そんな、妙な安心感と恐怖が、彼女を支配していた。

 

そして実際、要塞砲は何とかなった。問題は、解決されようとしていた。

 

『あきつ丸さん、上陸を支援します!目標、敵要塞!』

 

榛名の声だった。霧島と共同で敵戦艦を沈黙させたらしく、傷つきながらも、今度は要塞砲を相手取ろうとしていた。

 

少し後に届いた砲声が心地よい。島まで後五千。要塞砲の砲撃は止んでいた。

 

「吹雪殿、ここまでの護衛、感謝するであります」

 

『あきつ丸さん、後をお願いします。美味しいご飯を用意して、待ってますから』

 

煤で黒い顔で、吹雪は笑った。あきつ丸も自然と頬が綻ぶ。それから、その笑顔に陸軍式の敬礼で答えた。

 

煙幕が晴れる。榛名と霧島は、要塞砲と激しく撃ち合っている。どうやら、砲撃で滑走路も叩いてしまおうという腹づもりらしかった。

 

榛名の艤装に火柱が噴き上がる。要塞砲が着弾したのだろう。だが、その艤装が堪えた様子はない。八インチ砲など、彼女たちにすれば降ってくる雨粒と何ら変わらないらしい。

 

お返しとばかりに、長砲身三六サンチ砲が咆哮する。二人合わせて十六発の砲弾は、港湾棲姫の艤装に食い込んで盛大に弾けた。その合間に、要塞砲のものと思われる細い砲身が舞い散る。

 

―――さあ、今度は自分たちの出番であります!

 

あきつ丸は気を引き締める。

 

「上陸準備!」

 

目前に浜がある。丁度、基地施設の残骸で、港湾棲姫からは死角となっていた。上陸目標点だ。

 

陸に上がる際、微妙な違和感と浮遊感が襲う。動く歩道から下りる時のあれだ。今回は色々と重いものを持っているから、細心の注意を払う必要がある。

 

あきつ丸から順に上陸し、近くの物陰に隠れる。全員が上陸したところで、洋上の吹雪に手で合図する。彼女は頷いて、他の艦娘たちとの合流に向かった。

 

「ユーさん、現在位置は?」

 

案内役のU-511に確認する。広げた地図の一点は、目標とする秘密ドックへの入り口―――作戦指令室とは、基地施設を挟んで反対側だ。距離にして約二キロ。これを、深海棲艦の目を避けながら行かなければならない。

 

特に厄介なのが、施設内に位置取る港湾棲姫だ。戦艦部隊が滑走路を叩いてくれることを祈るしかない。

 

「全員、残弾を確認するであります」

 

二十人の陸軍艦娘たちは、それぞれがK砲の残弾を確認する。それまでの狙撃砲シリーズよりも格段に携行弾数が上がったとはいえ、弾倉にして五つ、七十五発が限度だ。無駄撃ちは許されない。

 

「残弾よし!」

 

全員が頷く。

 

あきつ丸は、手ぶりで指示を出す。元々基地があった場所だ。物陰はいくらでもある。それらを利用しながら、港湾棲姫に気付かれないように、二キロの間進んで行かなければならない。入口は林の中にあるそうなので、とりあえずそこまでたどり着ければ何とかなるはずだ。

 

上陸した陸軍艦娘たちは、案内役であるU-511を守りながら進んで行く。その頭上では、“烈風”が“飛びエイ”と戦い続け、榛名と霧島は港湾棲姫と壮絶な撃ち合いを続ける。

 

あきつ丸の長い一日は始まったばかりだ。




次回は、艦これなのに陸上戦になりそうです

作者も陸上戦は勉強中です。果たしてどこまで書けるのか・・・

それでは、また

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。