吹雪ちゃん改二だよ、やったね。
なお、本作中で改二になるかは未定であります。
なにはともあれ、今回もどうぞ、よろしくお願いいたします。
~対深海棲艦用新型兵器の開発について~
・小型且つ軽量であること。
・戦艦型や空母型などの深海棲艦に対抗、これを撃破出来るだけの攻撃能力を有すること。
・量産性に優れること。
・人間が一人で操作できること。
『鯖世界』には、我々地球人類と同じ種族以外に、妖精と呼ばれる小型の人種が存在する。
『鯖世界』に残る言い伝えによれば、妖精は神から授かった技術を有し、それを何千年も前から人類に伝えて来たという。そのおかげで『鯖世界』は大きな戦争を経験することなく、今日までに高い技術力を得ることになった。地球のように、戦争の歴史がそのまま技術革新の歴史ということにはならなかった。
妖精の技術には二つの種類がある。科学に基づいた技術と、妖精にしか扱えない技術だ。人類に伝えられたのが前者、艦娘を艦娘たらしめているのが後者である。
艦娘の建造に当たって、両世界(と言っても、諸外国とは未だに音信不通のままなので、実際には日本と鯖世界側の日本に該当する国家のみである)の技術陣は妖精の技術に着目した。
元々妖精は、この世界に(他世界から)流れ込む死者の魂を集め、鎮魂するのを生業としていた。で、あるならば。同様に流れ込んだ船魂―――“あの戦争”において沈んでいった艦船たちの魂を集め、具現化することは出来ないであろうか。
妖精側の答えはいたってシンプル且つ明確だった。
「できる」
資材も時間も払底していた地球、鯖世界の両日本政府は、これに飛びついた。この技術を、対深海棲艦の切り札にしようとしたのだ。だが、妖精側の提示した条件は厳しいものだった。
まず、船魂そのものが、集めることが困難な代物だった。
二つ目に、集めた船魂を安定した形に具現化させるには、そのための宿主となるものが必要だった。
三つ目に、具現化した“艤装”を扱えるのは、妖精の言葉を理解し、彼らとコミュニケーションの取れる限られた人物(具体的には、純真無垢な少女)のみだった。
これらを簡潔に、素人にもわかりやすく纏めるとこうなる。
『船魂に選ばれた少女を素体とし、軍艦の艤装を纏わせる』
対深海棲艦用兵器開発計画の骨子となるこの少女たちは、この時から“艦娘”と呼ばれるようになった。
◇
「たく、ツイてねえよなあ」
洋上を航行していた彼女は、溜息を吐くようにぼやいた。
軽巡洋艦“天龍”。天龍型軽巡洋艦一番艦の彼女は、短くカットされた髪を掻く。
彼女の率いる艦隊は、定期的に派遣される南西諸島方面への輸送船団護衛を務めていた。この辺の海域は、数ヶ月前に生起した海戦の結果確保した、現在の勢力圏の中でも特に端に近い場所だ。そのため、未だに索敵線から外れたはぐれの艦隊が迷い込むことがある。
そういった敵の艦隊から船団を守るために、彼女たちのような護衛艦隊がつけられている。実際彼女も、幾度となくそうした艦隊と遭遇してきた。自慢ではないが、これでも一応鎮守府最古参の軽巡洋艦だ。状況への対処は、誰よりも心得ているつもりだ。
が、今回は状況が大きく違いすぎた。
「一、二、三・・・巡洋艦クラスが四に、駆逐艦が二。その奥により大きな艦影、少なくとも二」
早期警戒用の電探に映っている艦影を確認する。もっとも、決して精度が高いとは言えないので、手前の巡洋艦を主体とした艦隊はともかく、奥の主力と思しきものについてはもっと接近してみないと詳しいことはわからない。
さて、どうしたものか。
彼女が思考を巡らせていると、後方から推進機音の混じった波音が近づいてきた。長らく新任駆逐艦の教導をしてきた彼女には、その音だけで相手が誰かわかる。たとえ同型艦でも、機関や推進機の音は一隻ごとに違うからだ。
「船団の退避が完了したよ。雷と電が護衛についてる」
思ったとおり、彼女に寄せてきたのは、銀髪にセーラー服の小柄な少女―――駆逐艦“響”だった。その後ろには、同型艦で姉に当たる“暁”も続いている。今回の船団護衛には、彼女たち第六駆逐隊の面々が一緒だった。
「おう」
天龍は、短く応答する。目線は敵艦隊がいる方から離さない。
間違いなく、こちらに気づいているはずなのだが、未だにこれといった動きはない。とすれば、手前の巡洋艦隊は、早期警戒部隊である可能性が高い。
「それで、どうするんだい」
響が尋ねる。
普段の天龍ならば、迷わず撤退を選択しただろう。所詮は護衛艦隊、敵警戒部隊でも荷が重い。が、今回は多少条件が違った。
「―――とりあえず、鎮守府に打電できればなあ」
彼女はそうぼやいた。今一番重要なのは、敵艦隊の存在を鎮守府に知らせることだ。その最低限の義務さえ果たせば、後は割りと自由に動ける。だが、この状況でそんなことをすれば、さすがに敵も黙ってはいないだろう。
「あ、それなら問題ないわ。雷たちには、安全な海域に入ったら鎮守府に打電しといて、って言っといたから」
ほう。天龍は、青みがかった長髪をはためかせて、澄ました顔をしている暁を振り返った。なかなか、やるようになったじゃねえか。
天龍の心は決まった。
「よーし、ちょっくら強行偵察でもして行きますか」
軽く伸びをして、意思を伝える。そして、暁たちとは逆側にちらと視線をやった。いつもならそこには、姉妹艦で、同僚の軽巡“龍田”が控えているのだが、今は別の艦娘が配置についている。
「私も、異論はありませんよ」
天龍よりもごつい、重厚感のある艤装。両腕を覆うようにして取り付けられたそれは、金属的な輝きを軍艦色の下に秘めていた。
重巡洋艦“古鷹”。今回の護衛役に編入された中で、最も火力の高い彼女は、普段どおりの柔らかな声で賛意を述べた。
未だ完全に内海化できたとは言えない南西諸島海域を抜けるに当たって、従来の軽巡・駆逐艦のみの編成ではなく、対空・対水上の要として、汎用性の高い彼女ら重巡が配置されたのだ。
「そうと決まれば、まずは作戦会議だな」
天龍は残った四隻の護衛艦たちを集めた。と言っても、四人で出来ることは限られる。一撃離脱で、後は速力に物を言わせて逃げるという、非常に大雑把な方針に纏まった。
「俺と古鷹が火力支援担当、暁と響は偵察と、万が一の時の雷撃担当だ」
いいな。と確認して、すぐさま陣形を組む。天龍を先頭に、古鷹、暁、響と続く単縦陣だ。丁度、先頭の二人を盾にして、駆逐艦娘二人が敵艦隊の動向を探る位置関係となる。
「各艦、艤装を戦闘モードへ」
天龍は僚艦に命じると共に、自らの背負う艤装に火を入れた。背部の発光機の明滅パターンが切り替わり、彼女の艤装に艦船としての力を与える。同時に、体の中央をエネルギーが貫き、力がみなぎって来た。
「うっしゃあ、一丁大暴れして、お土産持って帰っか」
口角を吊り上げて、彼女は笑う。こういうのは、嫌いじゃない。むしろ困難な状況ほど、燃えるというものだ。やる気満々の天龍に、古鷹は苦笑をもらす。
「くれぐれも、無理はしないでくださいね?全員無事でいることが、一番ですから」
「当ったり前だろ、ちゃちゃっと行って帰ってくるだけだ。誰も、沈めたりしねえよ」
「・・・そうですね、皆で一緒に帰って、またおいしいご飯を食べましょう」
古鷹は、そう言って微笑んだ。
「お、おう、そうだな」
天使か。思わず見とれそうになって、慌てて前を向いた天龍は、もうまもなく日が沈みそうなのを確認して、艦隊の進路を変えた。
四隻の艦影は、迫る夕闇に紛れて、敵艦隊の内懐へと侵入して行った。
◇
日替わりのB定食を頼んだユキは、からりと揚がったからあげから立ち上る湯気に心を躍らせて、手近な席に腰掛けた。
鎮守府食堂『間宮』。艦娘たちの憩いの場として、甘味処も兼ねている大食堂は、今まさにお昼時であった。遠征帰りや、近海での演習、あるいは自主トレーニングなんかを終えた艦娘たちが、思い思いにくつろいでいる。午後の課業までをここで過ごす娘も、少なくないらしい。
ユキは、ほくほくと立ち上る香りにのどを鳴らし、手を合わせて「いただきます」と食べ始めた。
こちらの配属となって早一週間。鎮守府の生活にも、かなり慣れてきた。とはいっても、そもそも候補生時代の生活とあまり変わりはない。あるとすれば、周りが全て女の子であることぐらいだろうか。
何も味の付いていないキャベツを咀嚼する。変わってるとよく言われるが、ユキはソースも何もかけずに食べる方が好きだ。それにここの野菜は、瑞々しくて、これだけでも十分おいしい。
「ユキさん、ここいいですか?」
向かいの席に、影が差した。見ると、すらりとした少女が小首を傾げて立っていた。
丁度さっきまで、一緒に自主トレをしていた、駆逐艦“陽炎”だった。オレンジ色っぽい髪を左右で結んだ、いかにも快活そうな―――実際とても元気で威勢のいい子だ。
「ええ、もちろん」
ユキは食事の乗ったトレーを手前に引いて、着席を促す。陽炎は満面の笑みだ。
「よかった。おーい、みんなこっちこっち」
そう言って、陽炎は何人かの駆逐艦娘を呼んだ。
戦艦や空母と違い、駆逐艦は何人かで一つの隊を組んで動いている。この繋がりは非常に強く、部屋割りや日課の訓練、さらには休暇や食事、自由時間までも一緒にいるということまであるらしい。
そんな駆逐艦娘の集まり―――駆逐隊の中にあっても、陽炎たちの隊は特に、変わった面々の集まりでありながら、仲のいい隊として有名だった。
「あら、ユキさんじゃないの」
「お食事中、失礼します」
陽炎に呼ばれて集まったのは、第十八駆逐隊。彼女の他に、“霰”、“霞”、そして“不知火”の計四名だ。四人とも、各自の昼食を確保して顔を揃えている。
「はーい、じゃあ座って座って」
陽炎は椅子の一つにさっさと座ると、手を合わせて仲間の着席を待っている。それに習って、三人も各々の席に腰を下ろした。そして四人揃って「いただきます」。すぐにご飯やおかずを頬張り、合間に「おいしい!」と言葉が漏れる。ユキも止まっていた手を、再び動かし始めた。
からあげのジューシーさと、お米の相性がまた堪らない。
「ねえねえ、そのからあげ一つ頂戴よ、不知火」
A定食―――今日はエビフライのランチを頼んだらしい陽炎が、B定食を頼んだ不知火におかずをねだっている。不知火はまたですか、と言わんばかりに溜息を吐いた。
「それならば、Bの方を頼めばよかったではないですか」
「えー、だってエビフライおいしそうだったんだもん。でも、からあげも食べたいの」
「それならば、霞に貰えばいいではないですか」
「嫌よ。不知火に貰いなさい」
不知火の溜息が、さっきよりも深いものとなった。
「それなら・・・もう一度Aの方を頼んだら・・・?」
「やめなさい霰、午後の課業で陽炎が屍になるわよ」
「それもいい・・・かも」
「ちょっ、霰!?」
完全になげやりな問答に、いちいちちゃんと反応する陽炎であった。この会話だけでも、十分箸が進むほどに、微笑ましいとユキは思った。
「わかりました。・・・そのかわり、不知火にもエビフライを一口ください」
ついに不知火が折れて、決着となった。陽炎の陽炎たる所以が、ここにある気がする。
「やった」
「・・・相変わらず甘いわね、不知火」
「陽炎にだけ・・・激甘・・・ずるい」
「言わないでください、自覚がありますから」
暫くして始まった「あーん」の応酬に、どこからともなく「また十八駆がイチャついてる」との苦笑交じりのお言葉が聞こえてきたのは、気のせいだろうか。
いい物を見せてもらったと、最後のからあげとご飯を一緒に胃の中へ流し込んだユキは、お茶を一杯飲んで、食堂を後にした。
午後の課業までは、まだ時間がある。食堂を出たユキは、いつも通りに、その足を鎮守府の書庫へと向けた。
こちら―――鯖世界については、まだ知らないことが多い。鎮守府の書庫には、兵法や船舶等の専門書に混じって、こちらの世界について記された書物がいくらかあった。
廊下の角に差し掛かったところで、前から少女たちの一団が歩いてきた。見知った顔、しかし彼女たちは普段の制服ではなく、ラフな私服に身を包んでいた。
「吹雪ちゃん」
手を振って声を掛ける。相手の駆逐艦娘―――吹雪と、同じ隊に所属する白雪、初雪、深雪も気がついて、こちらへ手を振り返した。
「ユキさん!」
年相応におしゃれをした四人が、小走りで駆け寄って来る。
「今日は、非番?」
「はい!普段はごろごろしていることが多いんですが、今日は久しぶりに、皆で出掛けようかと」
ね、と彼女は姉妹たちを振り返る。うんうん、と彼女たちもまた、頷いた。
「なんでも、近くに新しくショッピングモールというものが出来たそうで、一緒に行ってみようかと思いまして」
そう答えたのは、白雪だ。
こちらの世界と、地球とでは、文化的な差異はほとんどない。ただ、外国との流通が途絶えた時間が、こちらの方が長いために、それがちょっとしたところに影を落としていた。
ショッピングモールというのもその一つだ。貿易の寸断によって、ありとあらゆるものが集まる、という状態のなかったこちらでは、そうした大型商業施設が置かれる意味合いが薄かったのだ。白雪の言うショッピングモールも、地球との交易や、艦娘たちの活躍によって細々と再開された大陸との取引という下地があったからこそ、実現したものだ。ちなみに、こうした物のノウハウは、地球側から提供している。食料自給率が百パーセントを越える鯖世界の日本から輸入している、食料品の対価だ。
「いいなあ。最近満足にショッピングとか、できてないんだよね」
商品の欠乏状態になって久しい地球側では、そうしたことを楽しんでいる余裕はなかった。しかし最近は、この現状も打破されようとしている。ある意味、艦娘の反抗の証が、最も強く出ている場所かもしれない。
「大丈夫。予算はたっぷり」
「こら、そういうことは言うなよな、初雪」
普段は暴走を止められる側であることの多い深雪が、初雪を窘めている。白雪は苦笑い気味だ。
「あの、ユキさん・・・」
吹雪が、先程のはきはきとしたしゃべり方とは打って変わって、声のトーンを少し低くした。
「何?」
「その、こんなことお願いできる立場じゃないんですけど」
若干の間があって、吹雪は続けた。
「司令官のこと、よろしくお願いしますね・・・」
込み上げて来る笑いを、寸でのところで堪えた。成程、この鎮守府の提督は、なかなかに艦娘たちに慕われているようだ。
「了解。吹雪ちゃんに心配されるようじゃ、先輩もまだまだね」
「あ、いえ、その・・・」
吹雪は慌てたように両の手を振った。が、その否定は、あえなく切り捨て御免となってしまった。
「吹雪は心配性だよなー。あー、でも司令官限定か」
「え、どういうこと深雪ちゃん」
最初の一太刀は深雪。
「・・・あれは、過保護とか、ノロケとか、そういう部類」
「まあ、吹雪ちゃん、司令官のこと好きだしねえ」
「ほえっ!?」
二太刀目の初雪と、最後は完全に爆弾発言である白雪のとどめで、溶鉱炉のごとく真っ赤になった吹雪は、そのままその場に沈んでいく。
「まあ元気出せって。吹雪可愛いし、勝機はあるよ」
「いざとなれば、ことに移すのもあり」
「青葉さんに一役買ってもらってもいいですしね」
「もう!!何言ってるの皆!?」
緊急ダメコンを発動した吹雪は、大破状態のままで反撃するが、さすがは熟練の駆逐隊、効果はなきに等しかった。押し殺したような笑い声が響く。
「あれ、こんなところで、みんなどうしたの?」
と、ここで登場したのは、予想だにしない人物だった。吹雪の肩がビクッと跳ね上がり、ぎこちない動きで振り返った。
「し、司令官・・・」
「やあ。確か、吹雪たちは、非番で出掛けるんじゃなかったか?」
ユキの先輩、この鎮守府の指揮官を務める彼は、ツカツカと廊下を歩いてくる。
「お、司令官じゃんか」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。みんなもう、ご飯は食べた?」
海軍規範が染み付いた佇まいで、彼はすっと立っている。別段背が高いわけではないが、すらりとした背格好に第一種軍装が相まって、独特の静けさを持った存在感があった。
「ん、食べた」
「そっか。俺はこれから―――吹雪?どうかしたのか?」
「ええっと、それはです・・・むごっ」
「し、白雪ちゃん!!だ、大丈夫です、なんでもありませんから」
慌てて同僚の口を塞いだ吹雪は、引きつった笑みを浮かべる。
「それならいいが・・・どこか具合でも悪いのか?」
が、通じなかった。激ニブ、もとい鉄壁の防御によって、吹雪のささやかな抵抗は弾かれてしまった。
彼女の司令官は、そっと手を差し出す。
「熱はなし、か」
「いえ、その、大丈夫、ですから」
「しかし、」
「大丈夫ですからああああああああああああっ!!」
三人を曳航して、吹雪は最大船速で駆け出す。航跡は瞬く間に、廊下の外へと消えて行った。
「おおう・・・なんだったんだ?」
「・・・先輩は、相変わらずですね」
期待の情報将校として名を馳せていた男は、後輩の一言に盛大にはてなマークを放出しながら、食堂へと向かって行った。
◇
店内のカフェで軽い昼食を済ませた後、私は連れと別れて買い物へ向いました。
この新しく出来た、ショッピングモールというのは、なかなかに便利で楽しいものです。食品、衣服、書店まで、ありとあらゆる店舗が、非常に広く取られたフロアの中に並んでいます。これもまた、交易の回復によって、多少なりと物品の流通がよくなったおかげでしょう。
ひとまず私は、広い店内をぶらぶらと歩いてみます。これはこれで、楽しみ方としてはありでしょう。
休日であるせいか、フロアには人がごった返しています。しかし、各店舗間が程よく大きいので、動きにくいといったことはありません。とても細やかに設計がなされているのですね。
小一時間、これといって留まることなく、一通り見て周った私は、当初の目的通りに服を見る事としました。
―――うーん、悩みどころですね。
いくつかを手に取ります。いえ、予算はあるのですが、これだけたくさんあると、そう簡単に決めていいものか。こういう時、先程まで一緒だった連れならば、迷うことなく幾つかを抽出するのでしょうが。そんな彼女とは逆に、どうも私は優柔不断なようです。
とにかく、迷ったなら試してみることが大切です。私は気に入った何着かを試着しようと、掛かっている洋服を取り上げました。
と、その時です。私の背中に、柔らかなものがボスッと音を立ててぶつかりました。
「きゃっ」
振り向くと、短い黒髪を後ろで結んだ中学生ぐらいの女の子が、ほのかに頬を上気させて立っていました。ちなみに、本当にちなみにですが、これはどうかと言う位ふりっふりの洋服を持った少女が、まるで獲物を追い詰める猛獣のように、私に衝突した女の子へじりじりと近づいていました。
「す、すみません」
反射的に離れた彼女は、大きく頭を下げて謝ります。ふと、微かな潮の香りが感じられました。
もしかして、この子達は―――。
今の日本において、わずかに海の匂いがする少女というのが意味するのは、一つしかありません。
「いえ、大丈夫です。―――あなたたちは、もしかして艦娘、ですか?」
少女はわずかに目を見開いて、それから小さく頷きました。
「はい、そうです」
やはり、そうでしたか。
別に、珍しいことではありませんね。そもそもここは、海軍さんの鎮守府から、徒歩で来れる程度には近いですから。
「そう。がんばって、ね」
私はふっと微笑んで、一言だけ、彼女に声をかけました。
「は、はい。頑張ります」
右手でガッツポーズを作って、彼女は答えます。そうして私と彼女は、買い物の続きへと、戻っていきました。
―――頑張ります、か。
いつか、自分もそのように口にすることがあるのでしょうか。胸を張って、誰かに頑張りますと言えるのでしょうか。
少女たちの会話が聞こえてきます。どうも未だに、あのふりっふりの服を着せようとしているようです。誰がこの子達を、深海棲艦と戦える唯一の存在と思うでしょうか。
そこにいるのは、今を普通に、懸命に生きているだけの、どこにでもいる少女です。先程の決意とは打って変わった、年頃の女の子です。
―――今すぐに、答えを出す必要はないのかもしれませんね。
優柔不断な私ですが、あくまでポジティブに捉えれば、よく考え、最適の答えにたどり着くということです。無理せず、身の丈にあった答えを見つけるのが賢明というものです。
雑念を振り払い、私は試着室のカーテンの向こうへと、その姿を隠しました。
「しっかしさっきの人、美人だったな」
「とても大人らしい、雰囲気と対応でしたね」
「ああいうのは、ちょっと憧れる、かも」
「もう、そもそも誰のせいであんなことになったのか、わかってるの?」
「わー、あそこのたこ焼きうまそー」
「ドーナツ」
「丁度、一息入れたい頃合ですね」
「・・・もう、いい」
古鷹っぽさが出ているか、そこが勝負だと思ってます。
これから出来るだけいろんな子を出したいけど、難しいよなあ・・・。
それと、今回はもちろん、吹雪ちゃんがいる意味はあった。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
今後の参考のためにも、感想をお待ちしております。