艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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どうもです

予告通り、軽空母回になりました

・・・が、瑞鳳と祥鳳がここまでイチャイチャ、百合百合しだすとは思いませんでした・・・。この瑞鳳、そのうち「祥鳳お姉様」とか言いそう・・・

と、とりあえず、どうぞよろしくお願いします


姉妹の心意気

散々迷子になった挙句、ようやくそれらしき道を見つけたわたしは、丁度そこに差し掛かった将校さんを見つけました。

 

真新しくも、きっちりと体に合った制服。まっすぐに被った制帽は、左右に動いて、それからわたしを捉えました。

 

「お待たせしましたー!!」

 

司令官を見つけて、わたしは手を振りながら駆け寄ります。ですがその途中で躓いてしまい、バランスを崩して倒れこみました。

 

司令官の、腕の中に。

 

初日から何やってるんですかわたし!?なんて、今のわたしなら間違いなくツッコミを入れてしまいますね。そんなドジなわたしを受け止めた司令官は、

 

「大丈夫ですか?」

 

今と同じように、優しく言葉を掛けてくれました。

 

 

たん。

 

乾いた音が、弓道場に木霊した。

 

自分が狙っている的の、隣の的に矢が突き立てられたのは、何を見ずともわかった。心地よい音だ。あらゆる無駄なしがらみを取り払った、澄みきった音色を、瑞鳳は一先ず頭のすみに追いやった。

 

静かに、ただゆっくりと。呼吸さえも、空気のごとく。

 

引き絞られた弓からは、キリキリと音が聞こえてきそうだ。

 

瑞鳳は、一杯まで張りつめた弦を、解放してやる。張力を発揮した弦は、そこに番えられていた矢に勢いを与え、見据える先の的へと飛ばした。矢が空気を切り裂き、的へと突き刺さる。

 

たーん。

 

軽快な音を立てた自らの矢を見て、瑞鳳は内心で首を傾げる。

 

―――うーん、やっぱり違う。

 

ちらっと、隣で同じように弓を射る艦娘を見る。同じ弓道着を模した制服でも、デザインの違う二人だが、こう見えて姉妹艦だ。丁度、再び矢を番えた祥鳳が、その矢を放つところだった。

 

ひゅっ。たん。

 

寸分違わず、的の中心を射抜く。無駄な動きは全くない。微塵の揺るぎもない姿勢に、瑞鳳はある種の憧れとライバル心を滾らせた。片袖を脱いで露わになったそのすっとした背中に、惚れ惚れと視線を送る。

 

「・・・?」

 

瑞鳳の視線に気づいたのか、祥鳳はゆっくりと、優美に振り向いた。艶やかな黒の長髪が揺れて、優しさと慈しみを湛えた双眸が、コテンと首を傾げる。

 

「どうかしたの?瑞鳳」

 

「うえっ!?あ、ううんっ、なんでもないよっ!」

 

慌てて目線を誤魔化す。あなたの背中を見てた、なんて知られたら、恥ずかしさで悶え死んでしまいそうだ。

 

頬が熱い。もう秋だというのに、それを気温のせいにはできず、瑞鳳はなんとか早鐘のような心臓を抑え込もうとした。

 

「・・・そろそろ、お昼にしましょうか」

 

そんな瑞鳳の様子に、祥鳳は優しく語りかけた。その誘いをありがたく受けることにして、瑞鳳も頷く。ニコリと微笑んだ祥鳳は、弓を置いて、片袖を元に戻した。

 

滑らかな肌が隠れてしまったことを、瑞鳳は少し残念に思った。

 

的に向かい、そこに刺さった矢を引き抜く。これを全てまとめて片付け、軽く掃除をして鍵を掛ければ終わりだ。今日は、彼女たち以外に道場を使っている者はいない。

 

施錠を二人で仲良く確認して道場を離れ、昼食を取るべく食堂へと足を向けた。

 

 

 

「うー、なんでかなー」

 

昼食に麻婆豆腐をチョイスした瑞鳳は、適度な辛さの刺激を感じつつ、レンゲを器に突き刺した。そんな彼女の様子を、祥鳳はただにこやかに眺めている。

 

「なんやなんや、どないしたん?」

 

今日は唐揚げが付く、A定食のシャキシャキキャベツを箸でつつく龍驤が、面白そうに尋ねた。

 

「なんかこう、上手く的に刺さらないのよ」

 

「ほうほう」

 

瑞鳳のぼやきに頷いて、龍驤は先を促す。

 

「祥鳳のはね、たん、って感じなんだけど。私のは、たーん、って感じになっちゃうのよ」

 

「・・・違いが全っ然わからへん」

 

「だからね。なんとなく、的に当たった時の音が違うのよ」

 

ほーん、と首を傾げた龍驤は、いまいち瑞鳳の言う意味を捉えきれていなかったようだ。それでも、もう一度キャベツを口に含みながら、自分なりの解釈を口にする。

 

「それはつまり、射ち方の問題、っちゅうことか?」

 

「多分・・・」

 

「自信無いんかい」

 

真面目やなあ。龍驤は呟いて、本命の唐揚げとご飯に箸を移した。瑞鳳も、麻婆豆腐が冷めないうちに、レンゲで口に運ぶ。ほろほろと崩れる豆腐に、ほっぺたが落ちそうだった。

 

「・・・なあ、祥鳳。ええ加減教えてやったらどうなん?」

 

唐揚げを咀嚼する龍驤は、ニコニコと姉妹艦を見守るだけだった祥鳳に言う。瑞鳳とお揃いの麻婆豆腐を口にする祥鳳は、その提案に困ったような顔を向けた。

 

「私は問題ないんですけど・・・」

 

チラッと向けられた視線は、同じように麻婆豆腐を堪能する瑞鳳へのものだ。当の悩んでる瑞鳳は、龍驤の言にフルフルと首を振る。

 

「祥鳳には教わらない。絶対に、私が自分で見つけるの」

 

「ということなんです」

 

瑞鳳の言葉に優しく微笑む祥鳳を見て、龍驤も苦笑するしかなかった。仲のいい姉妹艦なのだが、お互いに努力家で頑固な面を持つために、それぞれで譲れないところというのがあるのだ。

 

「おもろい姉妹やなあ。ま、ええけど」

 

龍驤もあまり他人に干渉する性質ではない。それは後輩指導に関しても同じだ。赤城や加賀と同時期に鎮守府に着任し、以来機動部隊の一翼を担ってきた軽空母は、空母に限らない多くの後輩の指導に定評はあるものの、基本的には放置することで、自分で考えさせるやり方を取っている。世話焼きではあるが、こと技術等の習得に関しては、一切の妥協を許さない厳しさがあった。

 

そんな先輩の指導を受けたのは、祥鳳も瑞鳳も同じだ。艦載機の運用方法こそ違うものの、空母戦のノウハウは、全てこの先輩を見て会得したものだった。

 

鳳翔を機動部隊の母とするならば、一航戦と龍驤は機動部隊の育て親と言えよう。

 

「ひょういへば」

 

唐揚げを頬張ったまま、龍驤は話題を切り替える。

 

「アンタら新型機の慣熟中なんやて?」

 

祥鳳も瑞鳳も頷く。リ号輸送作戦の発動に先駆けて、その主力となる軽空母部隊にも、次々と“紫電”改二や“天山”、“彗星”が配備されていた。祥鳳と瑞鳳も同じだ。ただし、二人にはそれに加えて、さらに二つの新機種が搭載される予定となっている。

 

一つは、新型艦戦だ。本来“紫電”改二は、零戦の後継機ではない。基地航空隊用に開発された局地戦闘機を、場つなぎ的に艦載機として採用しただけだ。零戦の正統後継機となる新型制空戦闘機は、ようやく開発段階を終え、先行試作機が作られ始めた。名を“烈風”というこの戦闘機の先行試作機隊が、リ号作戦に当たって祥鳳と瑞鳳に配備されることとなったのだ。

 

もう一つは、偵察機だ。“彗星”を元にした二式艦偵の後に続くこの機体は、戦闘機並みの速度を持つ俊敏な機体だった。また、最初から偵察機として開発されてきたため、単純な索敵能力はもちろん、防空戦闘時の早期警戒と誘導の能力も大きく向上している。艦上偵察機“彩雲”の採用は、鎮守府機動部隊の能力底上げに欠かせないものだ。

 

元々搭載能力の小さい祥鳳と瑞鳳は、“烈風”と“紫電”改二の戦闘機隊を多めに積み、“天山”の代わりに対潜哨戒用の九七艦攻を小数機、搭載することになっていた。これに加えて、防空戦闘時の早期警戒機として機能する“彩雲”を六機ずつ。

 

完全に『防空専門空母』である。

 

瑞鳳としては、当然不満もあった。船団を守ることがどれだけ大事なことか、頭では理解できても、いざ敵機動部隊と遭遇した時のことを考えると、どうしても反撃の手段を持っておきたくなる。守りではなく、自らの手で、一矢報いたいと考えてしまう。

 

それでも、祥鳳が一緒だった。同型艦とはいえ、艤装の関係で着任時期が二ヶ月遅れた瑞鳳は、姉妹艦で同僚、そして先輩でもある祥鳳に全幅の信頼を置いている。そんな彼女と同一任務に当たるのは、実は初めてのことだ。

 

落ち着いた雰囲気。柔らかい物腰。端正な容姿。優しさに満ちた眼差し。

 

祥鳳が「二人で頑張りましょう」と笑顔で言ってくれたのだ。俄然やる気が出てきた。“飛びエイ”だろうが何だろうが、かかってこい。エイヒレにして、千歳と隼鷹の酒の肴にしてやる。

 

「うちも使いたかったなー、“烈風”」

 

残念そうに笑って、龍驤は体を前に傾けた。

 

「で、どないなん?新型機は」

 

「もうね、すっごいの!」

 

瑞鳳は興奮気味に目を輝かせる。そんな姉妹艦の様子に、祥鳳が眉を八の字に下げていることは、今の瑞鳳が知る由もないことだ。

 

この後、自他ともに認める航空機オタクの怒涛のような話に、龍驤の外見が心なし細くなったのは、また別の話である。

 

 

 

「はあああ・・・。生き返るー」

 

一日の訓練を終えた瑞鳳は、浸かった湯船の中で声を上げた。程よく熱くなっている大浴場の浴槽は訓練上がりにはもってこいだ。疲れて、節々痛くなった体に、お湯の熱が染み入る。

 

「いいお湯・・・」

 

息を止めて腕を伸ばした後、それを開放して溜息を吐く。より一層、お風呂の温度が感じられた。

 

この時間帯、大浴場は大変な賑わいを見せる。夕食前に一日の疲れを落とそうという艦娘たちでごった返す広々とした空間を、蕩けた視線で瑞鳳は眺めていた。

 

「本当に、いいお湯ね」

 

そう呟く声は、すぐ隣で聞こえた。ふと見上げれば、長い髪をまとめて、タオルで胸元を隠している祥鳳が、上気した表情で微笑む。

 

「隣、いい?」

 

「も、もちろん!」

 

思わずドキリとしてしまったことを懸命に隠して、瑞鳳は答える。ありがとう、と言った祥鳳は、そのままゆっくり、湯船に腰を下ろした。タオルが取り払われ、形よく盛り上がった胸元が露わとなる。

 

「ふう・・・。今日もお疲れ様」

 

「祥鳳も、お疲れ様」

 

二人して笑った。

 

「晩御飯はどうする?私は、久しぶりに鳳翔さんのところに行こうと思ってるけれど」

 

祥鳳がそう言って首を傾げた。

 

「わあ、行く行く!鳳翔さんのとこの出汁巻きがおいしいんだあ」

 

「瑞鳳は、本当に卵が好きね」

 

口元にこぶしを当てて祥鳳が苦笑する。上品に八の字となった細い眉が、小刻みに震えた。

 

「基礎訓練の時を思い出すわ」

 

「そ、それは!お願いだから忘れて!」

 

お風呂のせいだけでなく熱くなった頬を押さえて、瑞鳳は抗議する。それでも彼女の姉艦は、上品に笑い続けるだけだった。

 

祥鳳と瑞鳳の艤装には、差異が多い。これは、瑞鳳の艤装が後の新型空母艤装―――翔鶴型のテストベッドを兼ねていたからで、そのせいもあって、ほとんど同時期に艦娘の候補生になった二人は、瑞鳳の方が二ヶ月、鎮守府への配属が遅れることとなった。

 

艦娘として正式に鎮守府への配属がされるとき、ささやかな卒業式が執り行われるのは、基礎訓練教習所の伝統のようなものだった。なんでも、始めたのは天龍型の二人だったとか。そういう訳で瑞鳳は、先に鎮守府配属となった祥鳳を送り出している。祥鳳が笑っているのは、その時にやった余興の内容だ。

 

当時から卵料理、特に卵焼きが好きだった瑞鳳のことは、候補生の間でもよく知られていた。そこで、それを余興のネタに提案したのが、候補生なりたての隼鷹だった。

 

ニワトリの着ぐるみを着せられて踊る瑞鳳に、祥鳳が盛大に吹き出してお腹を抱えて笑っていた。

 

―――意外と楽しかったけど!祥鳳が笑い転げる、珍しいところが見れたけど!

 

恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「どうして?とってもかわいかったのに」

 

笑う祥鳳は、完全に瑞鳳をいじるモードだ。状況が状況とはいえ、不意打ちのように発せられた「かわいい」の一言に、不覚にも赤くなる頬を誤魔化そうと、湯船に顔を半分ほど埋める。ついでに頬を膨らませて、拗ねてるアピールだ。

 

「―――コケッコー♪」

 

が、そんなことは完全にお見通しの祥鳳が、当時の踊りのまねを始めたため、瑞鳳は慌てて止めに入ったのだった。

 

祥鳳の笑顔が、益々大きくなったのは言うまでもなかった。

 

 

『いいのか、吹雪?』

 

洋上で臨戦態勢の吹雪に、重巡洋艦娘の通信が入る。吹雪は確かに頷いて、

 

「はい!お願いします!」

 

元気よく答えた。

 

『はいよ。そんじゃ、始めるぜ』

 

摩耶の言葉を最後に、通信が切れる。吹雪は自らの艤装を唸らせた。

 

「十一駆、突撃用意!」

 

自分に続いている僚艦に下令すると、「了解」の短い返答があった。白雪、初雪、深雪。鎮守府最古参の駆逐隊に所属する四人の艦娘は、心持ち姿勢を低くして、脚部艤装の出力上昇に備えた。

 

『これより、船団護衛、及び船団襲撃演習を始める!』

 

相手艦隊―――輸送護衛部隊に守られている、船団を模した観測艦から、監督艦の長門の声がした。それを合図として、吹雪たちが動く。

 

「最大戦速!十一駆、突撃!」

 

主機の回転数を上げる。途端に、その反動が吹雪に速力を与える。続く三人も同じだ。十一駆は三四ノットの高速力を発揮して、前方の船団と、それを守る護衛艦隊に突撃を敢行した。

 

この演習は、リ号作戦時の船団護衛戦を想定したものだ。船団の側面から襲撃してくる敵艦隊に対して、巡洋艦を主体とした護衛艦隊がどのように対処していくか、それを確かめるためるものとなっている。

 

午前中は、那智と足柄を中心とした部隊が、十八駆の襲撃を防ぐことに成功した。重巡の二人が、船団近くから支援砲撃を行い、その援護の元、軽巡と駆逐艦が襲撃を防ぐ。これで、完全に抑えることができた。

 

そして午後は、吹雪たち十一駆が襲撃艦隊を務める。護衛艦隊の方は、摩耶、鳥海、長良、陽炎、不知火、黒潮の六人だ。

 

この他、巡洋艦部隊、艦載機、潜水艦、あらゆる襲撃に対する護衛演習が実施、あるいは予定されていた。

 

―――手加減はなし。

 

右手の一二・七サンチ連装砲を握りしめる。こちらとしても、敵の補給部隊等の襲撃を想定した訓練になる。手を抜くつもりは微塵もなかった。

 

―――それに、皆で動くのは久しぶりだし。

 

自分の後ろにしっかりと付いてくる僚艦を感じて、ふっと表情を緩める。なんだかんだで、十一駆での演習は一月ぶりだ。

 

「敵艦見ゆ!」

 

水平線上に、船団を捉えた。電探にも影がくっきり映っている。瞬間的に目を凝らし、その配置を確かめた。

 

「重巡二、軽巡一、駆逐三を確認。邀撃準備に入ってる」

 

『了解。強行突破?』

 

「もちろん。皆、気合い入れて!」

 

その掛け声で、吹雪たちは一本槍となって護衛艦隊に襲い掛かった。その様は、まさに羊の群れを狙う狼だ。

 

「砲戦用意!」

 

吹雪たちの砲撃では、大した威力にはならない。重巡洋艦には損傷と判定される打撃を与えることはできなかった。それでも、必殺の雷撃を邪魔する敵艦を遠ざける役割は十分果たせるはずだ。

 

まあ、どんな状況でも、必ず投雷位置に取り付いて見せるが。

 

水平線の手前で、砲炎が上がった。この位置からでもはっきり見えるオレンジ色の炎にも、吹雪は特に気を留めなかった。

 

「敵艦発砲」

 

一応通信機にそう吹き込むが、おそらく全員同じものを確認しているはずなので、返信は短いものだった。深雪に至っては、「了解」ではなく「ほーい」だった。

 

十数秒後、放たれた二〇・三サンチ砲弾が弾着の水柱を噴き上げた。海水の柱が林立し、接近を試みる襲撃艦隊を妨害せんとする。しかし、歴戦の駆逐艦娘たちは、その程度で怯むような柔ではなかった。

 

「舵そのまま!強行突破する!」

 

弾着などこれっぽっちも気にしていない。その意を示すかのように、吹雪たちは降り注ぐ弾雨の中を、ただただ一直線に突き進んでいた。

 

「距離一八〇(一万八千)!」

 

吹雪は、船団との距離ではなく護衛部隊との距離を読み上げる。意図は簡単だ。輸送艦は一二・七サンチ砲弾でも十分な損害を与えることができるが、護衛艦隊を一掃するには吹雪たちの太ももに装着された魚雷が必要だからだ。護衛艦を叩いてしまえば、鈍足で装甲のない輸送艦など、海に浮かぶ標的と変わらない。

 

摩耶と鳥海からの砲撃は続く。距離が近づいたからか、精度はいくらか上がった。彼我の距離は一万六千。吹雪は、突撃針路に影響を与えない程度に、主機の出力を変えたり、舵を切ったりしてその砲弾に空を切らせていた。

 

その代りに、長良以下の水雷戦隊が接近してきた。こちらの接近を阻むためだ。同じように高速力を発揮していた彼女たちは、急速に回頭すると、吹雪たちに対して丁字を描くように陣取った。

 

が、そんなものは、吹雪たちにはお見通しだった。

 

「砲戦始め!目標は先頭の軽巡洋艦!」

 

号令と発砲は同時だった。全員が吹雪の意図は察しており、すでに測敵は終えていた。

 

駆逐艦クラスとはいえ、派手な砲声が四つ重なると、随分頼もしく聞こえる。飛翔した砲弾は、距離四千の第一射にもかかわらず、狙い違わずに長良に着弾した。演習用のペイント弾が長良の艤装に付着し、それを元に被害計算が行われる。が、そんな暇など与えずに、吹雪たちの猛射が続いた。

 

長良たちも慌てて応射するが、いかんせん、軽巡と駆逐艦の砲戦距離としては、本来ならそんなすぐに命中弾が望める距離ではなかった。そうこうしているうちに、長良は大破判定を喰らって、戦線を離脱する。

 

「散開!」

 

次の瞬間、一つにまとまっていた十一駆の四人が、吹雪と白雪、初雪と深雪に分かれた。それぞれが残った三人の駆逐艦を挟み込むように展開し、主砲を構える。予想だにしない動きに、陽炎たちの対応はほんの一瞬遅れた。

 

再び発砲。吹雪は左の黒潮、白雪は真ん中の不知火、初雪と深雪は右の陽炎を狙い撃つ。それぞれが命中弾を与え、そこから連続斉射。瞬く間に、三人の駆逐艦を大破判定にする。一方、十一駆の被弾は、反撃した不知火の一発が、白雪の吸気口にピンクの塗装を着けただけだ。判定は小破。戦闘航行に支障はない。

 

「自由回避しつつ集合!雷戦距離は六○!」

 

摩耶と鳥海が、それぞれの小隊に弾丸を浴びせかけるが、何の妨害もない十一駆にとっては、その射弾を自由回避するなど朝飯前だった。それは、一万を切ったことで高角砲の射撃が加わっても変わらない。

 

距離八千で、四人は再び一つにまとまる。この辺りでは、二人の重巡洋艦からの射撃もかなり正確だ。至近弾落下の衝撃は、一度や二度ではない。それでも吹雪は、その弾道を的確に見極めて、回避を試みる。わずかに射線をずらしては、効果の懐疑的な一二・七サンチ砲弾をばら撒き、爆雷を投げつけて射撃の妨害を試みる。

 

「六○!」

 

吹雪はすぐに投雷を指示しない。わずかに舵を切り、その瞬間を待った。

 

―――今!

 

「投雷始め!」

 

吹雪がそう指示した瞬間、摩耶と鳥海の弾丸が落下し、吹雪たちの姿を覆い隠した。瀑布は吹雪たちの視界を奪うが、同時にその姿を白いカーテンで匿ってくれるのだ。おそらくこれで、摩耶と鳥海には投雷の瞬間が見えていない。

 

投雷の瞬間、四人が一瞬だけ斜めにずれ、前方に向けた魚雷発射管から酸素魚雷を放つ。量産に移行した水雷戦隊用の高速型だ。六千の距離を疾走するのに、およそ三分。

 

すぐには反転しない。投雷のタイミングは悟らせてはいけない。万全を期して、結局それから一分ほど回避運動を続け、反転離脱にかかった。

 

それでも、自分たちの戦果確認は怠らない。到達時間、振り向いて目を凝らす。

 

魚雷の命中判定―――吹雪たちの放った魚雷が重巡洋艦娘の真下を通過したことを示す赤旗が、二人ほぼ同時に上がった。当然のように大破判定、行動不能だ。

 

護衛部隊を一掃したことを確認して、吹雪は十一駆に反転を命じる。丸裸となった船団の運命は、風前の灯火も同じだった。

 

 

 

「マジで・・・半端じゃないぜ・・・」

 

撃沈判定をする判定機を艤装から取り外しながら、摩耶が一人ごちた。そんな演習相手だった重巡洋艦娘の言葉に苦笑を浮かべ、吹雪は謙遜気味に答える。

 

「た、たまたまですよ」

 

「いやいや、たまたまじゃねえだろ」

 

ちらっと、摩耶が護衛艦隊を見る。重巡二、軽巡一、駆逐三。一個駆逐隊を相手取るには十分すぎる戦力だ。それが全員、大破行動不能判定を喰らって、輸送艦を全て撃沈されたのだ。奇跡では説明が利かない。

 

「相変わらず、すごい練度と連携よね・・・」

 

艤装の着色が激しい陽炎が、腕に着いた妖精さん謹製の特殊塗料を拭き取りながら呟く。

 

「さて、これで我々と吹雪たちの勝ちだな」

 

「ぬぐぐ・・・」

 

そう摩耶に宣言したのは、先に護衛部隊を率いた那智だ。何を隠そう、彼女がこの演習への参加に吹雪たちをオファーした張本人だった。

 

この二人が演習で競うとき、何かしらを賭けているということは、鎮守府の艦娘―――特に駆逐艦娘の間で有名だ。今回も、丁度予定されていた船団護衛演習にかこつけて、摩耶が那智に提案したらしい。

 

ルールは簡単だ。護衛時に船団を守り切り、且つ襲撃時に船団を攻撃できた方が勝ち。勝敗が付かなかった場合、襲撃時に損害を多く与えた方が勝ち。

 

結果として、吹雪たちがあっさり船団を全滅させてしまったので、那智陣営の勝利となった。

 

ポンッと那智の手が摩耶の肩に乗る。

 

「鳳翔さんのところで奢ってもらおうか」

 

「クッソう・・・お、女に二言はねえ・・・」

 

摩耶が心底悔しそうに吹雪を見た。吹雪は頬を掻いて、

 

「えっと・・・ご馳走様です?」

 

苦笑しながら、そう言うのだった。




十一駆が、もはやチート級なんですが・・・

すっごい強いね、最古参って恐ろしい

まあ、うちの吹雪もこれぐらい強いし、当然だよね。うん

次回辺りから話が動き出します(多分)

そろそろビスm・・・協力勢力にも動いてもらうことになりそうです

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