艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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お久しぶりです

今回から新編のスタートとなります

新シリーズは早めに畳みたいけど、どうなるのかしら・・・

またどうぞ、よろしくお願いします


西方からの来訪者
始まりの予感


一年と半年前の話をしましょう。

 

わたしと、わたしたちの司令官が出会った日のことを。それから始まった、わたしたちの戦いの日々を。

 

振り返るには、丁度いい頃ですから。

 

わたしは吹雪。特Ⅰ型駆逐艦、一番艦“吹雪”です。

 

 

 

人類最初の艦娘となったわたしは、実は司令官よりも数日早く、鎮守府に着任していました。

 

身寄りの無かったわたしは、軍の新型兵器―――艦娘になる資格があると通知が来たとき、二つ返事で了承しました。わたしを引き取ってくれていた施設の園長さんは反対していましたが、わたしはどうしても行きたいのだと、なんとか説得しました。

 

施設を出る日、涙を流して見送ってくれた園長さんと、友人たちのことは、今でもよく覚えています。皆、今でも元気でしょうか。

 

わたしが艦娘になりたかった理由は―――もう少し、後で語ることにしましょう。

 

施設を出て数ヵ月。艦娘としての基礎訓練を終えたわたしは、自分に与えられた“吹雪”の名と艤装と共に、鎮守府に着任しました。

 

 

統合海軍省。参謀会議室。

 

地球ではなく、鯖世界の地図が広げられた机で手を組む上官に、提督は抗議を始めた。

 

「現在の鎮守府に、リ号作戦を遂行する余力はありません」

 

「そうか」

 

上官は全く動じた様子を見せない。内心から噴き出そうになる怒りを情報将校の技術で押さえつけて、提督はさらに続けた。

 

「作戦発動を見送っていただきたい」

 

「それはできない」

 

「なぜです?」

 

体が自然と前のめりになる。が、マトメ少将は顔色一つ変えることなく、提督の目を見ている。それから、物わかりの悪いやつだとでも言うように、理由を説明し始めた。

 

「そもそも、北方作戦はやるべき作戦ではなかった。イレギュラーに対処しただけだ。それに対し、一月後のリ号作戦発動は、既定の作戦計画だ。中止するわけにはいかない。それこそ、鎮守府の沽券に関わる」

 

「沽券のために、鎮守府の戦力が枯渇しては、元も子もありません」

 

「言い掛かりだな。私は、現状戦力でも作戦遂行は十分可能だと考えている。その上で、本来の計画よりも二週間長い猶予を与えたんだ」

 

「最低でも、もう二週間は伸ばしていただきたい」

 

両者一歩も譲らない。マトメは表情をそのままに、背もたれに体重を預けた。

 

「これ以上は無理だ。大体、本作戦を成功させなければいけないことは、貴様が一番よくわかっているだろ」

 

提督は沈黙を選んだ。マトメの追及は続く。

 

「この作戦の成功がなくては、西方航路の確立はありえん」

 

「作戦成功には万全を期すべきです」

 

「物事に万全などない。万全を待ち続けていては、その前に全ての資材が尽きるぞ」

 

今度こそ、二人は黙った。一分近い沈黙が、会議室に満ちる。

 

この参謀長が、一度言い出したことを曲げるような人物でないことは、提督もよくわかっていた。同時に、この人の言っていることこそが、鎮守府司令部―――司令長官と参謀たちの総意だということも理解している。それでも、あれだけの作戦を実行した後に、すぐさま大規模な輸送作戦を実施することは、少々どころではない無理があった。

 

そもそも、北方作戦はリ号作戦による影響を色濃く受けていた。リ号作戦において、輸送船団直衛となる巡洋艦戦力は、なんとかぎりぎりの数を整えている。だが、戦艦と空母なくして、リ号作戦の完遂は叶わない。

 

「・・・わかりました」

 

提督が神妙に口を開いた。

 

「リ号作戦を、一月後に実施します。ただし、作戦の遂行については、鎮守府に全権をもらいます」

 

「作戦を遂行してもらえるのなら、構わない。そもそも、我々は、鎮守府の作戦立案には一切口出ししない」

 

話は終わりだな。そう言って切り上げたマトメに一礼して、提督は会議室を後にする。せめてもの抗議にと、廊下に高らかな靴の音を鳴り響かせて、足早に歩いて行った。

 

 

「やっぱり、ダメでしたか」

 

アマノイワトから出てきた提督を、ユキは残念そうな声音で出迎えた。

 

「ああ。まあ、ある程度予想できてたことではあるんだけどね」

 

低いモーター音と共にゲートが閉じると、提督は苦笑して帽子を目深にした。二人の将校は、並んで歩き出す。

 

「こっちは曇りか」

 

建物の外に広がる空を見上げて、提督はぽつりと呟いた。あちら側の天気は快晴で、秋になろうというのに真夏日を記録していた。

 

「気温が丁度いいので、基礎訓練向きでした」

 

「そうか。俺は最近走ってないなあ」

 

「なまってると、駆逐艦の皆に笑われますよ」

 

「たまには走るかな」

 

「そうしてください」

 

このところ凝り気味の肩から首筋を気にして、ふと思う。そういえばこの辺りは、艦娘に人気のランニングスポットだった。

 

T字になった道の合流点に差し掛かった時、案の定向こうから走ってくる一団がいた。基礎訓練用の運動着とジャージであるから、見紛いようもなく艦娘であることがわかる。先頭の娘には、見覚えがあった。

 

「あ・・・て、提督」

 

鉢巻はしていないが、トレードマークのリボンが揺れている。軽巡洋艦の神通だ。彼女の艤装はまだ修復中だから、海に出れずに体を持て余しているのだろうか。

 

その後ろに続く艦娘は、見かけない顔だった。否、もちろん鎮守府を預かる提督には、誰であるかはわかる。ただ、鎮守府内では今まで見ない顔だ。つい数日前、正式に着任した艦娘たちだった。

 

神通が止まって敬礼したことで、後ろに続いていた艦娘たちも走りを止める。肩で息をしながらも、直立不動となり、緊張の見える顔で神通に倣った。その様子に、提督は微笑し、答礼する。

 

「いいよ。今はそんなに畏まらなくて」

 

神通に目配せすると、頬を綻ばせて腕を下ろした。それを合図に、三人の新任艦娘たちも筋肉を弛緩させる。と同時に、大きく息を吸い込んだ。

 

「はー、心臓止まるかと思ったー」

 

脱いだジャージを腰に巻いた娘―――阿賀野が、息をついて額の汗をぬぐった。その様子を、もう一人―――能代が窘める。三人目の矢矧は、足を解してタオルで汗を拭いた。

 

彼女たちは、阿賀野型軽巡洋艦娘。神通たち川内型に続く、最新鋭の水雷戦隊旗艦軽巡洋艦娘だ。本来は四人の同型艦がいるのだが、最終艦の酒匂は、まだ艤装が完成していない。

 

「自主練かな?」

 

提督の問いに、神通が頷く。

 

「はい。艤装がなくて、体を持て余してましたので・・・陽気も、走るのに丁度よかったですから」

 

そこで、ジャージに着替えて寮を出たところ、阿賀野たちがいたとのことだ。

 

「神通先輩が走るそうなので、ご一緒させてもらおうと」

 

答えた矢矧が、一番楽そうだ。他の二人―――特に阿賀野は、結構息が上がっている。

 

「阿賀野は一周って言ったのに、いつの間にか三週目に入ってるし」

 

「阿賀野姉はもっと走りなさいよ」

 

「えー、やだー」

 

どちらが姉かわからないやり取りに、二番艦の二人が苦笑する。

 

「どうだ、三人とも。鎮守府には、もう慣れた?」

 

「ええ、先輩の皆さんが、ほんとによくしてくださって」

 

「ご飯もおいしいしねー」

 

「もう、阿賀野姉ったらそればっかり」

 

それぞれの答えに、提督も雪も神通も、満足げに笑った。神通の頬には、照れだろうか、少し赤みが差していた。

 

「引き留めて悪かったね」

 

「いえ。それでは、失礼します」

 

「ほら、行くよ阿賀野姉」

 

「えー、疲れたー」

 

「パフェ食べ過ぎるから・・・」

 

何だかんだと文句を言いながらも、三姉妹仲良く走っていく。どこか、川内型に重なるところがあった。その後姿に手を振って、二人は再び歩き出す。

 

「今回も、新任歓迎会は賑やかになりそうだね」

 

「いつも通りです」

 

ユキが笑う。

 

今回、新任艦娘は阿賀野型三人に加えて睦月型の弥生、卯月が着任している。五人が五人とも、個性的な面子だ。さらに来月には、最新鋭駆逐艦の夕雲型が三、四人着任予定だった。

 

「俺も、彼女たちを見習わないとな」

 

「そうしてください。それと、最近顔を出してくれないって、鳳翔さんが寂しがってましたよ」

 

軽空母“鳳翔”が、週三日開けている食事処は、彼女たっての願いで提督が許可した、鎮守府内の飲食店だ。特に大型艦―――年齢が上の艦娘たちに人気で、何かの祝い事や飲み会があるときは、ここに集まる。中には、那智や足柄のように、食事後の純粋な飲みとして、一人、あるいは少人数で入るものもいる。さらに言えば、司令部から視察に来た参謀にも人気で、大酒飲みで知られるタモン少将も気に入ってよく飲んでいた。

 

ここのところ、作戦後の後処理や、輸送船団との日程の折り合い、新たな作戦の前準備と忙しく、顔を出せていない。

 

「今日辺り、行くか」

 

「お、じゃあお前の奢りな」

 

「ん?」

 

突然した声の方向を、二人して向く。そこには、首からタオルを提げ、ペットボトル片手にベンチに腰掛ける水雷参謀の姿があった。

 

「ライゾウ先輩・・・なにやってるんですか」

 

「神通たちと走った。疲れた。休んでる」

 

「端的な解説をありがとうございます」

 

ユキが半目で答える。あまり冷えてなさそうなペットボトルの中身をもう一度煽ったライゾウは、よっこいせと立ち上がって、二人に近づいた。

 

「いや、北方作戦中全く走ってなかったから、体力落ちた」

 

「日々の鍛え方が甘いんです」

 

「うるせいやい」

 

ちなみにユキは、暇さえあればよく駆逐艦たちの自主練に参加しているので、体力はあまり落ちていない。

 

「それで、時化た顔してるってことは、ダメだったのか?」

 

「ああ、まあな」

 

「参謀長は頑固だしな。おまけに、何考えてるのかよくわからん」

 

さすがは黄金仮面。司令部で参謀長を揶揄するあだ名を呼んで、ライゾウは提督を見据えた。

 

「てなわけで、これから、また作戦会議だろ?」

 

「そうだ。せっかく、お前に残ってもらってるしな」

 

「いいんだよ、こっちにいると手当が付くし。それに飯もうまい」

 

あっけらかんと言って見せるライゾウに、ユキが嘆息する。その様子に、提督は苦笑した。

 

「作戦室の準備は整ってる。まずは俺たちだけで、大まかなところを決めようぜ」

 

 

 

電灯のついた作戦室には、三人の将校が詰めている。普段の、戦術的な詳細を詰める作戦会議ではなく、作戦の大まかな骨組みを決める会議だからだ。ただし、工廠部と輸送船団の取り仕切りとして、明石と大淀には加わってもらっている。

 

「まずは、作戦目的から説明する」

 

海図台に広げられた地図を俯瞰して、提督が口を開いた。地図の範囲は、いつものものよりも広い。今回の作戦―――リ号輸送作戦を遂行する西方海域を表示するためだ。

 

「リ号作戦の目的は、西方海域に眠る資源の確保と大規模輸送だ。作戦は三段階に分かれている。第一に、高速打撃部隊と対潜部隊を中心とした前路掃討作戦。第二に、過去最大の規模となる輸送船団と、これの護衛艦隊を編成しての輸送作戦。そして第三に、同時に出撃した機動部隊と砲戦部隊による、西方艦隊の撃滅だ」

 

赤、青、緑、三つの色で、各作戦段階を担当する艦隊の大まかな動きが書き加えられる。台湾を経由した各艦隊は、インドネシアを通って、その先のリランカ島周辺海域まで進出している。

 

そこで首を傾げたのは、明石だった。

 

「あの・・・根本的な質問をいいですか?」

 

「もちろんだ。どんどん聞いてくれ」

 

「そもそも、どうしてリランカ島まで進出するんですか?資源獲得だけなら、インドネシアまでで十分ですよね?」

 

明石が指差したのは、大陸の南に浮かぶ島だ。ベーグル湾にぽつりと浮かぶその島には、確かに資源が眠っているものの、わざわざ取りに行く必要は感じられない。第一、採掘施設も港湾施設も整えられていないはずだ。

 

「将来を見越した作戦だ。もっとも、優先度は低いが」

 

そう言った提督の後を引き継いだのはユキだ。

 

「リランカ島には、西方海域でもあそこでしか手に入らない貴重資源があります。そしてそれは、高速修復剤の改良に関わるんです」

 

「なるほど、ユズルさんが言ってたやつですか」

 

明石が得心したように頷いた。ユキの説明は続く。

 

「それと、将来的に中東からの石油輸入も復活させなければなりません。その際のことを考えれば、リランカ沖の敵性艦隊を排除しておくことは、今後発動が予想されるカスガダマ島攻略作戦への大きな布石になるんです」

 

鯖世界と地球には、不思議な関連性がある。それは、それぞれの世界に展開する深海棲艦の勢力圏が、完全に一致するということだ。例えば、現在鎮守府のある鯖世界側の日本は、本土近海の制海権を完全に回復している。するとどういう訳か、地球側の日本近海からも、深海棲艦が姿を消すのだ。現在では、民間船もある程度自由に航行できるまでになった。

 

理屈はよくわかっていない。バタフライ効果だのカオス理論だの色々と言われているが、そういった理論的なことは、この場にいる全員の専門外だ。

 

「結構重要に聞こえるんですが、なぜ優先順位が低いんですか?」

 

明石がさらに尋ねた。

 

「中東の現状がまだわかりませんから。交易を開ける状態かどうかがわからない限りは、輸送路の回復を優先できません。現在の海運網維持を優先します」

 

これは、大陸との航路回復時の教訓から来たものだ。日本海の深海棲艦を排除した鯖日本政府は、早速大陸との交易を再開しようとした。ところが、当の大陸は、航路封鎖による物資の途絶や、寒波の発生から、少ない食糧を巡る紛争が勃発しており、航路回復時ですでに十年近くも戦い続けていた。再開の見込みがなかった港湾施設は軒並み寂れ、手入れもされていなかった。

 

なんとか機能を維持している港を見つけ、今はそこを通して交易を行っているが、当初の想定を遥かに下回る、かなり限定されたものとなっている。

 

地球側はもっと複雑だった。中国は、共産党への不満を抑えるため、これ以上食糧事情を悪化させないようにと、鎖国に近い状態となっていた。朝鮮半島では北朝鮮が暴走、一時韓国と戦争状態にまで陥り、現在はロシアの仲介で休戦中となっている。そのロシアも、ヨーロッパ側とアジア側で小競り合いが頻発している始末だ。ここに、世界的通信障害が拍車をかけている。

 

そして、どちらの世界でも、中東やヨーロッパの情勢を知ることはできなかった。地球側も鯖世界側も、大陸の国家は自国のことだけで精一杯であり、他国のことなど詳しく知るはずもなかった。

 

同じ轍を踏むわけにはいかない。情報は何よりも大切だ。

 

「でもって・・・。ここまでは、“当初の”リ号作戦の概要だろ?」

 

ライゾウは断定的な口調で、提督とユキに尋ねた。二人が頷き、代表してユキが話を続ける。

 

「北方作戦の結果、リ号作戦の完全遂行、特に第一、三段階の遂行が困難となりました」

 

明石に提出してもらった『艦娘入渠状況』を、タブッレトから海図台に反映させる。その半分以上―――殊に、大型艦の欄は、文字で埋め尽くされていた。つまりはそのほとんどが、現状で行動できないことになる。

 

「稼働可能な戦艦はゼロです。二週間後に榛名と霧島の改装完了が予定されていますが、それ以外は一月は動けません。作戦発動までに回復できるのは、どう頑張っても伊勢と日向だけです」

 

「大和は?彼女はほとんど損傷していなかったはずだが」

 

ライゾウの疑問に答えたのは明石だ。

 

「大和型の艤装修復は、今回が初めてです。予想外の事態も、十分に起こりうると思います。それに、大和型の艤装は、輸送作戦向きではありません」

 

工廠部らしい指摘だった。現状、外洋において大和型の艤装を扱える艦娘母艦は“呉”一隻だ。現在定期整備中の“呉”の装備類なら、満足に大和型を扱うことができる。

 

が、当然制約も多い。何といっても、大和型の艤装は巨大で、専用の整備工具等も含めると、駆逐艦六隻分の格納スペースを占拠する。どこかに拠点を構えて攻略作戦を遂行するならまだしも、移動する輸送船団を航空機や通商破壊部隊、潜水艦から守るなら、大和型一隻より駆逐艦六隻の方が遥かに有用だ。

 

「空母はどうだ?」

 

「こちらは、何とか整えることはできます。ただ、正規空母は軒並み行動不能なので、軽空母を主軸とした防空部隊になるかと」

 

「まあ、そうだよな・・・」

 

話の腰を折ってすまなかった、とライゾウが謝り、ユキもまた提督に続きを託す。頷いた提督は、海図を指差して、そのいくつかに×を入れた。

 

「これらを元に検討した結果、リ号作戦の規模を縮小することにした」

 

「具体的には?」

 

最初に聞いたのは大淀だ。輸送船団の総括を任されている彼女からすれば、この作戦の何を縮小するのか、気になるところだろう。

 

「第三段階は全面的に削除。その上で、第一、二段階を統合し、輸送船団の守りに徹する」

 

「前路掃討を行わない、と?」

 

「前路掃討部隊と、輸送船団本隊の間隔を、計画よりも短くする。むしろ、ほとんど合併させる」

 

「それは危険ではありませんか?前路掃討部隊は、輸送船団を背負って戦うことになります」

 

大淀も、自らの意見は遠慮なく述べる。提督はその一つ一つに真摯に答えた。

 

「むしろ、現状戦力では二つに分離する方が、各個撃破の危険があると判断した。ならば背水の陣になるとしても、守りを一カ所に固めた方がリスクは低い」

 

「どちらにしろ、航空戦力の低下は否めません。敵機動部隊の空襲を受けた場合、それを守ることはできても、敵機動部隊を叩く術がありません」

 

大淀のさらなる指摘に、何かを得心した様子だったのは、その隣の明石だった。大げさに柏手を打つ。

 

「なるほど、それで“アレ”の準備をさせてたんですね?」

 

“アレ”ってなに?との疑問符は、提督と明石を除いた三人から吹き出た。

 

「そういうことだ。また話の腰を折ってすまないが、錬成はどの程度進んでる?」

 

「もともと、鷹娘の資質もありましたからね。基礎訓練は終わってますから、二週間後にはほとんど完了予定ですよ」

 

「なんの話だ?」

 

話についていけない三人を代表して、ライゾウが尋ねた。提督が頷くのを見ると、明石はユキからタブレットを借り受け、新しい情報を海図台に表示する。

 

映されたのは、一枚の写真と設計図だ。一目で船だとわかるが、その甲板はまるで空母のようにまっ平らで、右舷中央付近に申し訳程度に艦橋があるだけだ。が、その割りには艦型が小さく、ずんぐりとしたシルエットからは、軍艦というよりも、輸送船に近い印象を受けた。

 

「これって・・・」

 

三人とも、この船には見覚えがあった。なにせ、三ヶ月前に竣工したばかりのこの船は、現在鎮守府の港湾施設に陣取っているのだから。

 

「航空支援母艦“鹿屋”・・・?」

 

船の種別と名前を、大淀が口にした。

 

改めて、明石が説明を始める。その口調はどこか得意気だ。

 

「この、航空支援母艦“鹿屋”は、艦娘の航空支援を目的とした、謂わば移動航空基地、浮かぶ飛行島ですね。艦娘収容能力は低いですが、代わりに浮いたスペースを、洋上での基地航空隊運用に必要な設備と格納庫に割り振っています」

 

設計図に記されている、艦の全長の半分を越えるスペースを指差して、明石が言った。そこが、格納庫と航空管制室などが入っている場所だ。

 

「搭載数は約百機。一一航艦には劣りますけど、それでも正規空母一隻より上です」

 

「でも、“鹿屋”で航空隊を運用するには、鷹娘が必要ですよね」

 

大淀の疑問はもっともだ。

 

現在、鯖日本全体で十人の鷹娘がいる。しかしこれでも、防空体制としてはギリギリだ。一応、キス島を担当していた“神鷹”は、今手空きとなっているが、三二空の強化と再展開が決まったことで、新しい航空隊の錬成が待っていた。つまり、現状では“鹿屋”航空隊を運用できる鷹娘がいないはずなのだ。

 

しかし明石は、問題なしと言いたげに、片目を瞑った。

 

「航空隊の管制は、艤装修復中の飛鷹さんにやってもらいます。彼女は、一応鷹娘の資格も持ってましたので」

 

「飛鷹さんに?」

 

「式神型の航空機運用艤装は、鷹娘の操る基地航空隊と非常に近いんです。そこで今回は、艤装修復が作戦に間に合いそうになかった飛鷹さんに白羽の矢が立ったんです。すでに、慣熟訓練に入ってもらってます」

 

ね?そう確認を取る明石に、提督が首肯する。二週間前、北方作戦終了から一週間後に、この方針を指示したのは、他ならぬ提督だった。

 

「この“鹿屋”航空隊と、残存の軽空母部隊、ここに修復完了した水上部隊を加えて、輸送船団を守り抜く。これを、改定リ号作戦の骨子としたい」

 

新たなリ号作戦の基本方針を、提督はそう示した。




基地航空隊出したいんだけど、艦これだと出しにくいのよね・・・

でも基地航空隊書きたい・・・一式陸攻で雷撃したい・・・

そんな、作者の身勝手な理由から、航空支援母艦という艦種が誕生しました(おい)

それと、新シリーズ(西方海域編)は、本文の前に、吹雪の回想を入れていこうと思います。実験的試みなので、どうなるかはよくわかりません(ちょい待て)

また次回もお楽しみに

(あれ、そういえばビスマr・・・協力勢力は何やってるんだろう?)

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