艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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ご無沙汰しています。

本当にご無沙汰しています。

少しは早くするって、あの話はなんだったんですかね・・・

今回はお休み回です。

ただ、深海棲艦の侵攻が止まるわけではありません。果たして、次の海戦は・・・

どうぞ、よろしくお願いします。


大和着任

北方海域、キス島。

 

この島は、鯖日本が北米大陸との連絡路を確保するために、二ヶ月前から統合陸海軍が占領していた。

 

この島には、住民がほとんどいない。深海棲艦の侵攻が始まった段階で、キス島含め北方AL諸島のほとんどの住民は、北米かユーラシアの両大陸に避難していた。だから鯖日本側は、様々な理由でこの島に残っていた住人と交渉し、土地の一部を借り受けるという形で北方海域の橋頭堡を築いていた。

 

この島に駐屯する統合陸軍の特務師団、それを統率する陸軍艦娘“あきつ丸”は、同じくこの島に配備されている第一二航空艦隊第三二航空団の鷹娘“神鷹”の下へと向かっていった。

 

陸軍艦娘というと不思議な響きだが、ようは陸上でも戦闘能力をある程度維持できる艦娘のことだ。統合海軍からの技術供与で、統合陸軍が組織している。

 

海の上ならば深海棲艦とも互角に戦える艦娘だが、一度陸に上がるとどこにでもいる極々普通の少女になってしまう。しかしあきつ丸は、陸上であっても艤装の力を扱うことが出来た。

 

ただし、そもそも深海棲艦と戦う能力は無きに等しい。せいぜい対潜哨戒機を飛ばす程度だ。

 

だから彼女たちは、専ら輸送と物資の揚陸を主任務としていた。このキス島における上陸作戦が、その初陣となった。今後は西方や南方における作戦にも参加が予定されている。

 

そんな彼女が海軍所属の三二空に向かっているのは、二日後に入港予定の定期船団について打ち合わせるためだ。

 

北方独特の風が、薄い霧とともにあきつ丸に纏わりつく。この辺の特徴的な気候で、艦載機が飛ばせないほどに霧が濃くなる時がある。その天気は気まぐれそのものだ。

 

―――また、一苦労ありそうでありますな。

 

予報では晴れるとあった今日の天気がいきなり大外れになったことで、あきつ丸は二日後の入港もまた、一悶着あると溜め息をつく。軽く空を睨むが、お天道様が答えてくれるはずもなかった。

 

風で飛ばされそうになった帽子を押さえて、彼女はまた歩き出した。とりあえず、目の前の仕事を片付けなくてはならない。

 

 

「お姉ちゃんって呼ばれたい」

 

もうすぐ一時を周ろうとしている、鎮守府の昼下がり。午前の課業を終えた艦娘たちが集まる食堂でいつも通りに昼食を取っていた第十八駆逐隊の面々は、隊内で突然発せられた言葉に一様に怪訝な顔を浮かべ、声の主を振り向いた。

 

からあげを咀嚼していた陽炎は、口の中身を空にすると視線に反応してもう一度口を開いた。

 

「お姉ちゃんって呼ばれたい」

 

「・・・は?」

 

霰と不知火は、より一層怪訝な表情になる。霞に至ってはもっと露骨だ。

 

「ねえ不知火、うちの司令駆逐艦は狂ったわけ?」

 

「いえ、そんなことは。朝は変なものは食べていませんし、どこかに頭をぶつけてもいません」

 

「あんたたち、なかなかに好き勝手言ってくれてるじゃない」

 

陽炎は次のからあげに手を出す。さくっとした衣と、溢れる肉汁のジューシーさが口一杯に広がった。

 

「それでまた・・・どうして?」

 

霰は一瞬箸を止めて尋ねる。

 

「ほら、軽巡とか重巡の人たちって、姉妹艦を姉さんとか呼ぶじゃない」

 

「はあ・・・」

 

姉妹艦とは言っても、本当に姉妹である艦娘は少ない。しかし巡洋艦以上の艦娘には、そうしたことを抜きにして、自分よりも番数の若い姉妹艦を姉と慕うことが少なくなかった。

 

あまり踏み込んだことは話せないが、第一次深海棲艦戦争において親を失った孤児であることが多い巡洋艦以上の艦娘には、そうして身近にいる人を家族のように考えることがあるのかもしれない。

 

「その点駆逐艦って、姉妹って言うか、単に仲間っぽいじゃない?」

 

「それでいいのでは?」

 

「いや、不満はないわよ?みんなのことは、仲間として信頼してるし、大好きだから」

 

妙な沈黙が流れる。春の陽気が、食堂の一角を満たした。

 

「・・・そういうことを、恥ずかしげもなく言うんじゃないわよ」

 

霞はそっぽを向いてしまった。その耳は僅かに赤くなっている。

 

「あ・・・霞が照れてる」

 

「照れてないわよ」

 

「照れてますね」

 

「・・・もういいわ」

 

不利を悟った霞は、話の続きを促した。

 

「でさ、うちは姉妹艦多いじゃない?」

 

現在、陽炎を筆頭とした陽炎型駆逐艦娘は、各型式の駆逐艦娘の中で最も人数が多い。大きな括りで見れば、吹雪をネームシップとした特型が一番多いが、Ⅰ型からⅢ型にかけて艤装の差異が大きく、各型式ごとに分けられていた。

 

「そうですね。不知火を始めに、黒潮、初風、雪風、舞風、秋雲。ああそれと、近々天津風と谷風、浜風が着任するそうです」

 

「そうそう。だからさあ、一人ぐらいお姉ちゃんって呼んでくれる娘がいてもいいと思うんだけどなあ」

 

「・・・不知火は遠慮します」

 

「ええー」

 

陽炎型一、二番艦の至極どうでもいい押し問答に、霞も呆れ気味だ。いや、もともと呆れてはいたか。

 

「―――どう思うよ、朝潮」

 

流れ弾もいいところの陽炎の言葉に、不運にも昼食のトレーを片付けようと横に差し掛かった朝潮型の一番艦は、きょとんとした顔で足を止めるしかなかった。

 

「・・・満潮。今朝潮は、トレーを片付けようとしたところで陽炎から話題を振られたのですが、どうするべきでしょう」

 

「・・・勝手にしたら」

 

隣の満潮は、もう完全に呆れて、興味のない視線を送っている。しかし、いついかなる時においても、常に真面目なのが彼女の姉であった。

 

「そうですね。陽炎のように考えたことはありませんでしたが、霞に呼ばれるのはなんとなく心惹かれます」

 

ばっ。当然の如く、その場の全員の視線は、霞に集まった。霞はわずかに後ずさる。

 

「な、なによ」

 

「・・・霞、呼んであげて・・・」

 

「ちょっ、霰!あんたあたしを身代わりにしたでしょ!?」

 

キッときつい視線を向けるが、当の霰はそっぽを向いている。霞は低い唸り声を上げ、ちらと、一番上の姉を見やった。

 

どうでしょうか。ほんの少し期待を含んだ目線が、こちらを捉えている。

 

「いっ、言わないわよ」

 

「まあまあそう言わず」

 

「・・・ちゃっちゃと言っちゃいなさいよ。別に減るわけでもなし」

 

なんだかんだで、全員この状況を楽しんでいるようだった。それもそのはず、いつも冷静沈着で辛口コメントの多い霞が珍しく押されぎみなのだ。陽炎なんかは、包み隠さず、満面の笑みである。

 

「あー、もう!うざいのよっ」

 

霞は完全に自暴自棄、今度の演習で全員まとめてぼっこぼこにすると誓って、せめて道連れをと、口を開いた。

 

「あたしが言ったら、不知火もやりなさいよ!!」

 

「えっ」

 

「OK、それで決まりね」

 

「ちょっと、陽炎待ってください」

 

唐突に巻き込まれて慌てる不知火を、霰が押さえ込む。不知火もまた、演習で全員まとめて海の藻屑に変えると誓ったのだった。

 

霞は深呼吸で息を整える。

 

「・・・あ、・・・朝潮・・・お姉ちゃん」

 

「・・・よく聞こえなかったので、もう一回お願いします」

 

「っ!あーわかったわよ!いつもありがとう、朝潮お姉ちゃん!!」

 

顔を真っ赤にして横を向く霞に、獲物を狩るチーターか何かの如く、陽炎が飛び掛った。

 

「霞可愛い!妹にしたい!!」

 

「ちょっと、やめなさいよ!大体、あたしの方があんたより先輩でしょうが!!」

 

「えー、いいじゃない」

 

「よくない!いいから、離れろ!」

 

たこの様に絡み付いて離れない司令駆逐艦を、何とかして引き剥がそうとする霞であった。

 

 

機械の駆動する低い音と、それを支える機関部の響きが心地よい。その音に呼応するかのように、足元の白波が飛沫を飛ばし、巨大な連装砲塔が砲身をもたげる。

 

扶桑はその様子を、少し離れたところから見守っていた。

 

鎮守府の午後、演習海域では、戦艦娘の砲撃訓練が行われていた。修復なった艤装の調整を兼ねて、いち早く感覚を取り戻すためだ。

 

監督を務める彼女は、先に一連の訓練課程を終えていた。同じく全行程を終了した僚艦の山城は、一足先に工廠へと艤装を収めに行っている。扶桑は、この後も監督役として残ることになっていた。

 

今、彼女の前で訓練を始めようとしているのは、大規模改装からようやく出渠した二人の高速戦艦娘だった。出渠時の最終調整で静止目標への射撃を終えていた彼女たちは、今日から全速運転での動目標―――標的船を用いた実弾射撃訓練に移行する。三○ノット前後の高速力を発揮する彼女たちには、扶桑では追いつけなかった。代わりに、搭載した水上機が二人の様子を確認する。

 

『ヘーイ、扶桑。どうデスカ?』

 

「感度良好。よく見えてます」

 

金剛型戦艦一番艦“金剛”。彼女の陽気な声に、扶桑も微笑んで応える。長い茶髪の後姿が、視界にしっかり入っていた。

 

『了解デース。それではこれより、金剛、比叡両名の射撃訓練を開始しマース!』

 

そう高らかに宣言した彼女は、高く掲げられた主砲身に最終的な誤差修正を行った。

 

『撃ちます、ファイアー!!』

 

八門の三六サンチ主砲から、褐色の炎が沸き起こる。しばらくして、その轟音が扶桑にも届いた。

 

今回の大規模改装により、金剛型の艤装は大きく様変わりした。

 

まず、特徴的な可変式の艤装を改め、戦艦娘としてはオーソドックスな砲台型にした。これは横方向に駆動可能で、差し詰め高雄や愛宕の艤装を戦艦級にしたといったところか。これによって、従来の弱点だった砲塔周りの防御力が大幅に強化されている。集中防御方式―――バイタルパートを採用できたのだ。

 

また、機関関係も小規模ながら向上が図られ、浮いた出力の分装甲厚も厚くなっている。

 

防御だけではない。以前から威力不足が指摘されていた主砲は、対深海棲艦用に開発されたより威力の高いものへと換装されている。さらに主砲そのものも強化され、長砲身―――それまでの四五口径から五○口径の三六サンチ砲になっていた。四一サンチ砲の採用案もあったが、重量的な問題から却下されている。

 

長砲身化による散布界の拡大等の問題があったものの、結果はおおむね良好だ。そして、最大の改良点は―――

 

『次発装填完了!誤差修正OK!第二射、ファイアー!!』

 

新規に採用されたのは砲身だけではない。新型砲塔には、同時に新しい装填機構が採用されている。斉射の間隔は、扶桑の手元のストップウォッチで二十秒を切っている。驚異的な速さだ。

 

斉射は続く。次々と立ち上る水柱が、確実に標的艦を捉えていた。

 

 

 

「完了デース」

 

五分間の全力斉射を終えた金剛と比叡は、ゆっくりと速力を落としながら、扶桑へと寄せてきた。着水した水偵を改修した扶桑は、訓練の結果に満足げに頷いて、二人に微笑んだ。

 

「お疲れ様。艤装の調子はどうかしら?」

 

「はい、とてもいい感じです」

 

「これならバッチリネー!」

 

ぐっと親指を突き出す二人もまた、新しい艤装に手ごたえを感じているようだった。

 

「まあプロブレムといえば、砲身の加熱ぐらいですかネー」

 

「確かに、五分以上の連続斉射は難しそうです」

 

主砲には冷却装置が取り付けられているが、さすがに全ての熱を逃がしきることはできないようだ。その辺りは、この先改修が必要だろう。

 

「さあ、今日はこの辺で上がりましょう」

 

扶桑につられて、三人の戦艦娘は工廠へと進路を取った。と、その背後で、大気を揺るがす雷鳴が響き渡った。

 

二人の戦艦娘が、海上に立っている。一人は長い黒髪を艤装の後ろになびかせ、もう一人は見たことないほど巨大な艤装を背負って、砲撃を行っていた。

 

大和。数日前に正式に艦隊に加わった、新鋭の戦艦娘と、それを指導する長門だった。

 

―――やっているようね。

 

今まで、新しい戦艦娘の指導を行ってきたのは扶桑だった。金剛にしろ、伊勢にしろ、長門にしろ、彼女たちに砲撃戦のノウハウを教え込んだのは、鎮守府に始めて着任した彼女だ。しかし今回はその役目を、長門に譲っている。

 

扶桑と大和では、性能が違いすぎる。性能差がまだ小さい長門に任せるべきと進言したのは、他でもない扶桑自身だった。それに今の彼女は、改装を施されて航空戦艦になっている。今はその運用について、伊勢や航空巡洋艦の最上たちと試行錯誤中だ。

 

「そういえば、今回は扶桑が指導してないんですネー」

 

「そうね。もちろん、将来を期待される新艦娘を指導するのは楽しいことよ。でも、やはり適材適所というのがあると思うの」

 

扶桑の言葉に、金剛はそんなものですかネー、と答えた。どうやら、自分が着任したての頃を思い出しているようだ。

 

これからの艦隊を支えていく戦艦娘。そして、航空戦艦として新しい力を与えられた自分。スタートに立ったのは、ほぼ同じかもしれない。

 

「だからこそ、伊勢と日向には負けてられないわね」

 

もちろん山城にも。自らを慕ってくれる姉妹艦を思い、新たな決意を抱いた古参戦艦娘は、大和の着任した時を思い返していた。

 

 

「彼女が、新たに配属になった大和だ」

 

新艦娘着任時の恒例行事となっている食堂での集会。そこには長距離遠征で鎮守府を留守にしている以外、全ての艦娘が集合していた。彼女たちの前で、提督は新しく配属になった艦娘を紹介する。

 

今回は、陸奥以来となる戦艦娘だった。それだけに、注がれる視線は期待と好奇心に満ちたものとなる。そういうものに慣れていないのか―――そもそも慣れている人間というのはあまりいないが、大和は気恥ずかしげに提督の横で居場所を探していた。

 

「って、まあ知ってる娘も多いと思う。この間の鎮守府沖邀撃戦にも参加していたからね」

 

年頃の少女たちの口に、蓋なんて無理だ。噂というのは、恐ろしいほどの勢いで彼女たちの情報網を駆け巡る。軍隊だろうと何だろうと関係ない。

 

「彼女には、これから色んな編成で演習に参加してもらうことになると思う。なお、細かな指導については長門にお願いしたい」

 

「私なのか?」

 

驚いた声を上げたのは、他でもない長門だった。目の前の料理に、どれから手を付けようかと照準を定めていた彼女は、突然の流れに目をぱちくりとさせている。

 

「その通りだ」

 

「扶桑ではなく?」

 

「扶桑から直々に推薦があったんだ。俺も長門なら、十二分にやってくれると思っている」

 

しばらく思案顔だった長門は、やがて力強く頷くと、不敵に微笑んだ。

 

「わかった。その役目、しかと引き受けさせてもらおう」

 

「よろしく頼む。―――とまあ、俺からはここまで。後はみんなに任せるよ。それで、今回は・・・?」

 

「木曾だ。お前たちに最高の晩餐を与えてやる」

 

一通りが終わったところで提督の代わりに前に出たのは、片目に特徴的な眼帯をした軽巡洋艦娘だ。制服で球磨型だとわかる。

 

「期待しよう」

 

「・・・いや、期待されてもやることはいつもと変わらないんだが・・・。まあいい、任せてくれ」

 

そう言って後を引き継いだ木曾は、軽く咳払いをして司会を始める。

 

「という訳で、大和が着任したわけだが、呑兵衛共、まだだからな。折角だから、抱負なんかを聞いていこうと思う」

 

「・・・いつも通りにゃ」

 

「代わり映えしないクマ」

 

「うっせ」

 

姉たちの突っ込みに苦い顔をして、那珂から借り受けた探照灯型のマイクを差し出した。その先には、まだ緊張気味の大和が立っていた。

 

「えっ、と・・・」

 

すぐに言葉が出てこない。こうして大勢の人、まして自分の先輩に当たる艦娘を前にして、より一層の緊張が大和の背筋を駆け抜けた。

 

「まあそんなに緊張するなって」

 

様子を悟った木曾が、自分よりも背の高い後輩に苦笑する。

 

「取って食ったりしないさ」

 

「鮭なら食べるかもしれないクマ」

 

「それよりめざしだにゃ」

 

「お前ら、ネタだよな?」

 

前の席で茶々を入れた姉たちに呆れた表情を見せる木曾だが、実際は二人が、新入りの緊張を緩和するためにやっていることはわかっていた。魚だけに、身をほぐすのだ。

 

まあ、半分ぐらい素が入っているかもしれないが。

 

個性派軽巡のやりとりに、会場からも小さな笑いが漏れる。それを見た大和もまた、顔に笑みを浮かべていた。そして、その綺麗な唇を開く。

 

「大和です」

 

澄んだよく通る声で、話し出す。

 

「超弩級戦艦大和型、その一番艦として、皆さんと共に精一杯頑張ります。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

柔らかい物腰で一礼した彼女に、暖かい拍手が送られる。照れているのか、大和はわずかに頬を染めた。

 

「おう、丁寧なあいさつをありがとうな。さて、それじゃあお待ちかねの乾杯と行こうじゃないか。総員グラスを掲げろ!」

 

木曾の号令。食堂によく通る声が響いた。

 

その場にいた全員が、前の液体が入れられたコップを持って立ち上がった。戦艦や空母、重巡はお酒の入ったものもいる。当直の者だけが、ジュースや麦茶だ。軽巡や駆逐艦は全員ソフトドリンクになっている。

 

木曾と大和もその場でコップを受け取る。

 

「乾杯の前に、間宮さんはじめ食堂のみんな。今回もこうして新任艦娘着任の会を開けたこと、心から感謝する。いつもおいしいご飯をありがとう」

 

台所の入口、暖簾の向こうから、割烹着姿の給糧艦娘が微笑む。あまり表には出てこないし、まして戦闘なんてできないが、鎮守府を影から支える頼れる仲間だ。

 

目礼で応えた木曾は、改めて右手を高く掲げた。

 

「大和着任を祝して、乾杯!」

 

乾杯。艦娘万歳。いくつもの声が重なり、そしてコップの中身を飲み干したため息が響く。ここからは無礼講だ。

 

「とまあ、こんな感じだ」

 

木曾は、隣の大和に苦笑してみせる。会場では既に、一部の正規空母が“食う母”と化していた。

 

「みなさん楽しそうですね」

 

「安心しろ、すぐにあっち側に慣れるさ」

 

駆逐艦は駆逐艦で大変そうだ。なにせ一番数が多い艦種なのだから。

 

「あんまり堅くならないようにな。俺たちは確かに、人類最後の希望として戦わなきゃならない。けど鎮守府に―――我が家に帰った時ぐらい羽目をはずさなくちゃな。できるものもできないさ」

 

肩に手を置く。

 

「ま、楽しめよ」

 

にやりと、挑戦的な笑みを口元に浮かべて、木曾もまた宴の中へ加わる。代わって長門が、大和を戦艦勢の中に引き入れた。

 

ふと、一人の艦娘と目が合った。大和のよく知る彼女は、他の駆逐艦娘に混じって、何やら質問責めにあっていた。彼女がこちらに苦笑いする。どうも、大和について色々訊かれているようだ。

 

「はーい、新しくからあげ、揚がりましたよ。駆逐艦の娘たちから、取りに来てね」

 

間宮、伊良湖と共に暖簾をくぐった大皿に、温かなからあげが山のように載っている。

 

駆逐艦娘たちから、黄色い歓声が上がった。




霞好き好き~

霞可愛い!!

すっ





っごい可愛い!!

大好き!!

・・・いえ、言いたかっただけです。

次回も頑張ります。

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