死神と閻魔と悪と   作:(゚Д゚≡゚Д゚)?

2 / 5
四季映姫・ヤマザナドゥのターン


死神と閻魔と悪と 2

「あら、小町最近は良く働いているようですね」

小野塚小町を監視、もといさぼり癖を矯正しようと無縁塚に訪れた四季映姫・ヤマザナドゥは思わず感心の言葉を零した

彼女の目の前には、長らく彼女が望み、しかし、決して叶うことがなかった光景が広がっていた

「ねぇ、どこかに連れて行ってない魂まだあるかい?」

「おお、小町、助かるよ

なんか今日は上手くいかなくてさ

もしかすると運賃が少ない奴が多いのかもしれないけど、大丈夫か?」

「あいよ!!まかしときな!!」

いつもはこの辺で人里近くの甘味所へ行っていたり、そこらへんの木陰で一眠りをしていたり、博霊の巫女の所に遊びに行っているような時間なのに、小町は予想に反して勤勉に働いていた

いや、正確に言うならばそれは働いているという程ではない

ものすごく、有能に、まじめに、積極的に働いているのだ

地獄の船頭という職業は基本的に均等に仕事を割り振られる

別にその人にしか出来ない仕事というような職種ではないが、いないと困るという縁の下の力持ちという面が強い

そのため、誰かがやらなかったのなら他の人に再度割り増えられる

さらにおかしなことに、この船頭という職業は仕事は分配制であるのに、賃金は歩合制というおかしな形態をとっている

ましてや給料はスズメの涙ほど

これではさすがに勤勉な業務成績を求めるのは難しいだろう

現に、常日頃から船頭たちは少しづつ手を抜き日々の業務をこなしている

さすがに小町ほどさぼっていれば上司である閻魔にこってりと説教(三時間~十時間程度、又回数、状況にもよる)されるものの、軽度の物は目をつぶってもらえる

さすがの閻魔もそこまで締め付けてしまっては意味が無いと思い多少の悪事、四季映姫的に言うのならば『白』では無いが『黒』というには必要的であるという『灰』とされる部類のことは注意をすることも無い

しかし、そんな偉大な閻魔様といえども

「ありがとよ、小町!!」

「さっきは助かったぜ!!」

「なんかあったら、是非言ってくれよ

この借りを返してやるからさ」

「おうよ!!

またなんかあったら相談に来いよ

何とかしてやっからさ!!」

彼女的な言葉を使うのならば『黒』(有罪、悪人)であった人物が『白』(無罪、善人)中の『白』(純白、模範的人物)に成ってしまったという事を簡単には飲み込むことは出来なかった

 

~少女移動中~

 

「小町、私はとても嬉しいです!!」

何時もは冷静沈着な顔と態度しかしない四季映姫が満面の笑みを浮かべ今にもスキップをしそうな軽い足取りで自身の部屋へと向かう

「そんな事言われましてもねぇ、あたしはただ自分の出来る事を全力でやっていただけですからねぇ」

そんな映姫の後ろを苦笑を浮かべながらおとなしくついていく小町

なぜ、こんなことになったか

何時もとは正反対のキャラと何時もどおりのキャラ

こんな状態の二人が何故一緒に歩いているのか

そんな疑問の答えをを小町はふと思い出してみた

 

~少女回想中~

 

昼ごろには冷静に現実を受け止めることができた映姫ではあるが、よくよく考えてみるとそれはあまりの事の大きさに時々ではあるが仕事の手が止まってしまうほどの物であった

閻魔の業務は膨大である

いくら映姫の業務処理速度が速いといっても、限度がある

受けとめることが出来なかった時間と、思い出して時々止まる手のロスタイムのせいで、映姫は珍しく残業することになってしまったのであった

「ええと、この書類は後回しで・・・この書類は印を押して、明日出して・・・」

しばらくぶり(就任当時)に行う残業なので、捗らない、焦る等々の理由により映姫は若干オーバーヒート気味に成っていた

そんな時、天からの助けが舞い降りた

「ええっと、四季様の机は、っと」

手に書類を持った小町がひょっこりとやってきた

どうやら、映姫がいないと思い机に書類を出しておこうと思い、此処にきたようだ

しかし、映姫は絶賛仕事中

その為

「あ」

「あ」

こんなニアミスがおこってしまうのであった

 

~少女仕事中~

 

「すいませんね、小町

私が不甲斐ないばかりに仕事を手伝わせてしまって」

「いえいえ、四季様の事ですからきっと何か事情があったのでしょう

ならば部下であるあたしが手伝うのは当たり前の事ですよ」

このとき、映姫は心の奥では焦っていた

(いえない

決してこれが自身の不甲斐なさから来ている残業とは、口が裂けてもいえない)

しかし、生真面目な映姫である

自身の尻拭いを一緒にやっている部下に労いをしなくてはいけない、という強迫観念にかられてしまう

「あの、小町、今日この後に何か用事はありますか?」

「え、この後ですか?

う~ん、総務課に二、三枚申請書類を出してくるくらいですけれども」

「えと、、その、それは、三十分くらいで終わりますか?」

「ええ、いや、はい

まぁ、別に今日じゃなくても良いものなんで別に大丈夫ですよ」

しかし、旗から見れば、又は会話のみを聞いてみれば片思い中の上司と、そんな上司を意外と好意的に思っている部下のような会話

これでもし、地獄へといった彼がいたのならば

「なんだ、お前らそういう関係だったのか、ハハハ

良いねぇ、イイねぇ、そそるものがあるよ」

とでも言っていたであろうがあいにく彼は今この場に存在しない

ましてや、二人の邪魔をするものなど誰もいない

まぁ、しかし、そのせいで気がつくことが出来なかったのだろう

視界の端に何かが動いていることに

誰もいないが故に、認識出来なかったことに

そう酒がホンの二十リットルばかりなくなっていることに

 

~少女移動中~

 

―さて此処で一つ質問をしてみよう

―皆様におきましては国語の教養はおありですか?

―あるという人もないという人もそれぞれいらっしゃるでしょう

―堅苦しい言葉は此処までだ

―簡単に言っちまうと、こんな言葉に覚えはあるかって話だ

―『酔いが醒める』

―似たような言葉に『百年の恋もさめる』なんてものもあるが、ようするに、あまりの出来事に驚いて、今までの上機嫌な事も何処かに吹き飛んでしまうってことさ

―具体的な例を挙げれば事欠かないな

―例えば、そう、今、目の前にいる閻魔様とか正にぴったりじゃねえか?

―金魚みたいにパクパク口をあけたりしめたり

―まるで窒息しそうな人間みてぇな目で見てきてな

「あ、あ」

「いやいや、閻魔様

教養の無い俺じゃ、あ、だけじゃ何を言いたいか分からないな

それとも、四季ちゃんとでもよんでやろうか?」

―あぁ、それはそれで面白そうだな

―しかし、ものの見事にこれから先の展開が読める

―あの腹黒シスターとは全然ちげぇ

―一つだけ似ているとすれば

「良い女、だって事くらいか」

―おっと思わず口から出ちまったか

―相手には聞こえてないみたいだし問題ないだろう

―ふむ

―そろそろ、耳でもふさいで見るか

―そっちのでけぇ乳の姉ちゃんも塞いでおいた方が良いぜ

―なんてったって、もうすぐ、そこのお嬢さんが

「なんで!!あなたが!!ここにいるのですかあぁぁぁぁぁ!!」

―叫びだすぜ、って言っても遅いか・・・

 

~少女冷却中~

 

さすがにこんな真夜中に大きな声を出す事は近所迷惑である

そのことは怒り心頭の映姫にも分かっていたのか、冷静になると自ら周囲の部屋の人々に謝罪をした

もちろんその原因はその後ろでニヤニヤと笑っているだけであり、小町はといえば映姫と一緒に頭を下げて回った

そんなこんなで一刻後

やっと映姫の部屋に戻って来た三人は部屋の中央に置かれたテーブルを囲んでいた

向かって扉から奥側に当たる上座には何故か驚かせた犯人が、手前側には小町と映姫が並んで座っている

「まず、先ほどは失礼しました」

「別に、気になんてしてねぇよ

むしろ、可愛い悲鳴を聞かせてもらって役得って感じだ」

「むしろ気にして欲しいのですが・・・

まぁ、良いでしょう、此処からが本題です」

「あぁ、なんでも聞いてきなよ、子猫ちゃん」

まじめに話をしようとする映姫と、ひたすらにそれを茶化そうとする男

当事者達でしか分からない感覚

噛み合わないテンションと会話

しかし、本人達からしてみればこれがいたってまじめな話を、自身の素の話し方で話そうとしているのだ

まぁ、そうは言ってもである

「まったくせっかちでしょうがねぇな、子猫ちゃんは」

片やニヤニヤとしながら、酒をあおりながら話す

「貴方のように不真面目に人の話を聞く方にそう言われたくは無いですね」

片や正座をして一直線に相手の目を見ながら話す

対極の話し方で二人の対話は進む

「貴方に聞きたいことがあります」

「なんだい?

女の趣味なら何でもだぜ」

「そういう事を聞いているのではありません

何を言いたいか予想はついているのでしょう」

笑っていた男の目が細まる

しかしそんな様子も気にせずに映姫は話を続ける

「あなたは確か、自主的に地獄へ行きましたね?」

「そんな事もあったけなぁ?」

「しらを切るつもりですか?

こちらが調べれば直に証拠を出す事は出来るのですよ

せめて嘘をつくなとは言いませんが、意味の無いことはやめてください

話が進みません」

「わかったわかった

ああ、そうだよ

俺は自主的に地獄へ行きました

これで良いか?」

明らかに喧嘩を売る男

そんな態度の男に対し本来の姿勢を崩さない映姫

「そうです、おとなしく言っておけば良いのです・・・

さて、結局は貴方が言った事が全てなんです

何故、貴方はこちら側に戻ってきたのですか?

現世に何か思い残した事でもあったのですか?」

映姫の言葉に一瞬言葉に詰まる

その脳裏には一人の女性の影がチラつく

長身でスーツに身を固め、髪を短くし、拳と家宝のみで戦う女

しかしその幻影を振り払い、何時もの様な態度を繕い、映姫の言葉に何時もの様に言葉を返す

「そんな物あるわけねぇよ

強いて言うのなら俺が勝手に行った場所だ

勝手に帰ってくるのも自由なんじゃねぇか?」

さすがにこの返答には映姫の堪忍袋の緒も切れてしまう

彼女達閻魔、又死神たちにとって地獄は一種の神聖な場所

聖域とも言って良いほどの場所をそんな風に踏みにじられては声を荒げずにはいられない

「そんな!!軽い!!気持ちで!!帰ってきてはいけません!!

貴方の犯した罪は重いですよ、アンリ・マユ!!」

男―アンリ・マユは何事も無かったかのように酒を杯に注ぎながら、その言葉に「おっ」と反応を返す

まぁ、その反応も映姫の期待した物ではないのだが・・・

「そっちの巨乳の姉ちゃんも飲もうぜ

大丈夫大丈夫、さっきそこの倉庫からかっぱらってきた物だからださ」

そういって手にしていた杯を小町に差し出す

さしだされた小町も小町で

「おや?ありがたいねぇ、さっぱり話がわかんないし、話をするにはやっぱり酒がないとね」

といって杯を受け取り一口飲む

それはただの酒ではない

いや、最早ありふれた酒ではなくなったというべきか

その理由は彼の混ぜた「毒」にある

 

古今東西、どの場所にもどの時代にも、どのような状況でも存在していた物

その種類は膨大な量におよび、その効力や用途ですら数え切れない

弱められた物は薬として使われ、治療道具にもなっている

そんな物を彼は混入したのだ

 

彼が混ぜた物はその中でも、最も強力で、最も甘美で、そして最も古い一品

その力は天使に一滴でも飲ませれば堕天させる程の物である・・・本来であれば

さすがにそれを酒に混ぜると一緒に飲んでくれる人がいなくなってしまうので、彼も多少の使い方は心得ている

現に彼はそれを数億、数兆、数京倍まで薄めた物を多少混ぜたぐらいである

それでも、そんじょそこらの一級品の酒には負ける事はないほどの味である

そんな訳で異様に上手い酒を勧められて断る人もいないだろう

何かを言いたげな映姫を置き去りにして二人は何杯も勢いよく飲み始めた

 

~|悪人(アンリ)飲酒中~

 

「聞いていますか、アンリ・マユ」

「あぁ、大丈夫だよ、聞こえてるって」

ほどよく酒が回りアンリも小町も何時もの調子に戻ってきた頃、映姫は完全に酔っていた

しかも、はた迷惑な事に絡み酒である

「貴方は周りの都合も考えず勝手に行動ばかりしすぎです

その影響でどれだけの人が迷惑をこうむっているのか分かっていますか?

前回の貴方の行動のせいで遅れた裁判の件数は十五件、つまりその裁判一つ一つに関わりのある人に対して申し訳ないとは思わないのですか?

悪を無くせとは言いません

たしかに善行を積めと私も言いますが、人として生きて行くのにそれだけでは上手くいかない事も有るというのは分かっています

そも飲酒も宴も広義的な目で見れば、他者に迷惑をかける、堕落するといったような悪行である、とさえ言えます

しかし、私達も行っているように多少の悪事を認めるという事にしています

それでも多少は罪の意識を持って善行を積むという気にはならないのですか?」

「おい、巨乳の姉ちゃん

コイツ剥がしてくんねぇか?

布団の上から抱きつかれるっていう状況自体は願ったり叶ったりなんだが、それに説教がついて来ると成ると勘弁したいな」

後ろに敷いてある布団の上からアンリに向かって抱きつきながら説教をしている映姫

この酔い具合から少々|酒(毒)飲ませすぎてしまったかと、アンリ本人も考えたが、小町が平然としている事から単純に映姫が酒に弱いと判断する

それにしてもと、アンリは思う

(釈迦に説法、孔子に学問とまでも、俺に説教なんて・・・あまりに滑稽だな

水に油を混ぜようとする行為だ・・・いや、あれ、この使い方間違えてねぇか?)

少なくとも説教を受ける事は善行に当たるはずだ、と変な方向に行き始めた思考を打ち切るアンリ

しかし、善意でやっているその行為も、アンリが関わる事により全てが変わってしまう

彼においては、彼女の話を聞く事が悪、彼女の話を聞かない事も悪、という矛盾した結末になってしまうのだ

つまり彼は決して善行を積めないという事になる

まぁ、彼の出自を考えれば納得する事は出来るのだが・・・生憎此処には理解できている人は本人以外誰もいなかったりする

それでも、それでも彼女は

「そう、貴方は少し反省しなさ過ぎる」

そんな事を理解しないまま彼を諭そうとする

その姿に不意に、先ほどとは別の女性―シスター服で毒舌ばかりはいてた少女が重なる

酒を一口飲み、そしてもう一度映姫を見てみると、先ほどの幻影はすっかり消えていた

そのことに一抹の何とも言えない気持ちと、当たり前とホッとする気持ちが混ざり合う

それを打ち消すかのようにもう一度酒を飲む

ただ、それでもと思う

(そんな事もたまには良いかもしれねぇな・・・)

そう思える位には彼は、人間だった

 

~少女飲酒中~

 

「なぁ」

いきなり酒を飲む事に集中していた小町がアンリに話しかけた

そもそも勤務態度が激変したからといって、決して性格が変わったという結果になるわけではない

そのことを今日の映姫は色々あったせいで、考え付かなかったのであった

「そんな風にしているだけじゃ、つまらないんじゃないかい?」

ん?と二人が小町のほうを見るが、その顔は相も変わらずニヤニヤとしていて・・・何故だろう、少し何かを企んでいるかの様な表情だった

悪事に人一倍聡いアンリも気がついたのか、こちらもニヤニヤと笑う

ニヤニヤ

ニヤニヤ

一人、理解できていない様子の映姫は、なんだろうと考え始める

もしかしたら自身に何かおかしなことをされているのではないかと

考え事に頭を使う分、アンリに抱きついている腕の力を少々緩めながら・・・

「かかったな」

「え?」

ボソッと言ったアンリの一言につられて完全に無防備なってしまった映姫

その隙にアンリは抱きついていた映姫の腕を素早く外し、体を持ち上げ、自身の前側に映姫自体を持ってくる

説明をしてはいなかったがアンリは片膝を立てて胡坐を崩した形で座っていたのだが、その片膝をたたみキチンとした胡坐の形に戻し、その真ん中に映姫を置いた

「え、え?」

「いぇーい、大―成―功―」

「あぁ、悪くない」

してやったりと笑うアンリと小町

そのノリについていけない映姫はあたふたとうろたえながら、何事かと考えて、そして一つの結論に何とか行き着く事に成功する

「小町、貴方謀りましたね!!」

そう、この計略は小町がアイコンタクトのみでアンリに伝えた作戦であった

しかし、さすがにその場のノリと勢いで行動すると定評の有る小町でもこれには理由があった

「いやぁ、でも、四季様

一応宴会やっているんですよ、しかも四季様の部屋で」

「な?!

それがどういう風にこの行動とつながるんですか!!

それに私は別に好き好んで自らの部屋で宴会をやっているわけではありません!!」

「おいおい、元を正せばあんたがそこの巨乳の姉ちゃんと部屋で飲もうとしたのが最s-」

「あなたは呼んでません!!

というよりも、貴方はその時点で話を聞いていたのですか?!」

「まぁまぁ、四季様

とりあえず落ち着いて下さいよ」

「これが落ち着いていられますか!!」

焼け石に水とは正にこういう事で、映姫はあまりの事に混乱して、取り付くしまもない

と、その時であった

奴が動いたのが

ポンッ

そんな状態で喚き散らす映姫の頭の上にアンリは手を置く

そしてもう一方の腕を胸を回すように通すと、体を抱きしめるように固定する

少しずつ少しずつ、手のひらの温かさを伝えるように、ゆっくりと映姫の頭を撫でる

「ふわ・・・」

「おおー、さっすが女誑し

ひゅーひゅー」

「ハハッ、ちょろいもんだな」

あまりに気持ちが良いのと、酔っているのとが組み合わさり映姫は最早何も言い返さない

それを見てのほほんとしている小町とニヤニヤしているアンリは、さらっととんでもない事を暴露し始めた

「そういやぁ、アンタ

一応は神霊なんだってな

聞いたよ、獄卒の連中から」

「チッ

何だよ、聞いてたのか」

「まぁね

アンタほどの大物なら何で裁判なんか受けた、って聞きたいくらいだけど」

「単純だよ」

あえて口にしなかった正体

その身の罪状を数えてもきりが無いわけ

決して許される事のない者

そう、彼こそがゾロアスター教最大の神の一人にして、全ての悪性を司る神、|アンリ・マユ(この世全ての悪)

なのだが・・・

「あっちには酒飲んでくれるような奴がいねぇんだよ」

「は?」

その彼が地獄に訪れたのは極めて単純な理由からだった

「だから、一緒に酒を飲んでくれるような奴がいなかったんだよ

全く俺っちは嫌われ者だからねぇ」

自嘲気味に言って更に酒を飲む

既に用意されていた酒の半分ほどは無くなってしまっている

「ってことは何かい?

この間、此処に来たのは」

「そう、面白い飲み仲間を探しにきたって訳さ

天国よりも地獄のほうが面白そう奴が多いし、何より俺が行くのに困らねぇからな」

小町は思わず頭に手をやる

そんな事で地獄に来るような神がいることもショックではあるが、そもそも目の前の人物が神である事が信じれない

ましてやその神格は最上級の悪徳の神だ

「なんだい、もっとこう、悪性の神ってもんはガラが悪いって思ってたんだけどねぇ

なんかアンタはずいぶんと普通だね」

荒御霊しかり、病しかり、本来人に敵対的な神格というものはそもそもが、災厄の形態をとっている事が多い

その為、悪性といわれるのだが

「いやいや、俺っちは、ほら、あれだよ

元々普通の人だからさ

普通の一般ぴーぽーと一緒なのさ」

「へ?」

「いや、だからさ、元々は普通の人間なのさ

まぁ、色々あってこうなっちまったんだけどな」

遠い目をして、過去を思うアンリ

その姿に小町は自身でも意識せずに思わず口から言葉が零れ落ちていた

「なぁ、アンタの話を聞かせてはくれないかい?

最初っから全部さ」

「・・・酒の肴にしてはちっと重いぜ」

「それを軽くするのが酒だろに」

皮肉げな言い返しに、同じくどうだっという感じで小ネタで返す小町

その様子に呆気を取られたのか、一瞬素に戻り、しかし直に元のニヤニヤ顔になり酒を飲みながら話し始めた

そう、何処かにあったはずの歴史を

 

~悪人談話中~

 

そこからは様々な話がなされた

彼の英霊になるまでの経緯

第三次聖杯戦争

そして偽りの月による聖杯戦争の事

バゼット・フラガ・マクレミッツの事

カレン・オルテンシアの事

他の神々への愚痴

それら全てが彼が此処に訪れるための理由

しかし、皮肉にも彼はその最中は英霊としてのアンリ・マユであったはずなのに、ある時気がついたら神霊のアンリ・マユと融合していたとなったらしい

らしいというのもそもそも悪性の神であったアンリ・マユ自身が既にどこにいるのかも分からない常態で全ての事が動いていたというのだ

さすがにこの話を聞いたときには、小町も映姫も何も言うことは出来なかった

ただあえて言うのならば、彼の皮肉げな笑みが更に深くなったという事だろうか

「それにしてもアンタ程波乱万丈な経歴を持つ奴はいないと思うよ」

全てを聞き終えた小町がまず最初に言ったのがこの言葉だった

まぁ、こんな経歴の人間がゴロゴロと転がっているようならばそれは何処かの世紀末の世界のようなものなのだろう

「全く、私の説教で善行にならないとは何事ですか」

途中から起きていた映姫は自身の説教に何の意味もない事に落胆を隠せないようだ

まぁそもそも閻魔自身も亡者であるので人間の括りに入る

死神はそも罪人が罪を償うための仕事である

そんな二人が曲がりなりにも神であるアンリの存在を揺るがすような事を個人で出来るわけないのである

「いやぁ、でもお前らのほうがスプンタよりも何倍もましだと思うぞ」

相変わらず映姫を足の上に乗せ、酒を飲んでいるアンリはぼやく

「スプンタの奴なんかは人のためとか言って、素面のまま大飢饉とか起しやがるからな

まぁ、それも全部強き人を選別するためらしいが、こっちにしたら堪ったもんじゃねぇよ

なんだよ、飢饉で死んだ人は全て俺の責任とか

酒飲みながらじゃなきゃ殴ってたな、あれは」

さらりと神の裏事情を話されるもんだから他の二人的には大迷惑である

捕捉をするならばスプンタ―スプンタ・マンユはゾロアスター教において善性を司る最高神である

「神様って奴にも色々な事情があるんだねぇ」

しみじみと言う小町の言葉には、全くと言って良いほど気持ちが篭っていない

こんな上手い酒をのめるんだ、少しぐらいは苦労したほうが良い

そんな事を彼女は心の中で思っているのである

「それよりも、そこまで強力な神であるなら何かしら能力を持っているのではないですか?

一体、それはどんな物なんです?」

酒のせいで目元がウルウルしている映姫(上目遣い)に尋ねられて、女好きであるアンリは簡単(?)に能力を教えてしまう

「あぁ、俺の能力と俺自身の能力

どっちが聞きたい?」

あえて、難しい言い回しを使い彼は、映姫を混乱させる

それにあっさりと引っかかり映姫は「あれ、俺の能力と俺自身の能力って意味一緒なんじゃない?、いやでも違う?、あれ?」と悩みこんでしまう

「おいおい、そりゃぁねえんじゃないかい

アンタがおとなしく教えるって言ってやったんだから素直に教えなよ」

さすがにこれはまずいと感じたのか、映姫に助け舟を出してやる小町

「さすが小町、船頭をやっているだけはありますね」

「・・・もうちょっと悩んだほうが良いみたいだね」

映姫は早速助け舟を転覆させた

これにはさすがのアンリも笑うしかない

「ハハハ、さすがに、これは、俺にもきついな

クックックッ、笑いが、止まらないぜ」

「ちょっとそれは無いですよ」

声を出して笑い続けるアンリに向かって胸をポカポカ叩き続ける映姫

その光景がつぼに入り小町まで笑い出す始末

「そんなぁ」

映姫に至っては若干涙目になってくる始末であり、さすがにこの場は何とかしなくてはいけないという雰囲気になってくる

とりあえず切っ掛けとして酒にアンリが手を伸ばすが

「あぁ?」

その中身は空であった

ない物は掬えない

あたりまえのことである

「っち、今日は此処で終いか」

映姫を退け、立ち上がるアンリ

その姿に不満を隠せない映姫と小町

「まだ、話は終わってないだろう」

アンリにのみ聞こえるような声で小町が追求するものの

「いや、酒が無い話なんて女を口説く時ぐらいしかねぇもんでな」

「じゃぁ、あたしか四季様を口説いていけば良いじゃないかい」

「残念、今日はそういう気分じゃないんだ、これが」

扉を開け、その向こう―二人の手の届かない場所に行こうとしている

それを引き止めることは、もうできない

「あ、そうだ」

そんな風にするくせに、そうやって少し希望を見せようとする

(ホント悪い男だな)

こんな奴に引っかからない様にしないと、と小町は決意を新たにする

「俺の能力は―」

そんな人の気持ちも知らずにアンリは話を続ける

最後の言葉をしっかりと聞こうと、小町も映姫もしっかりとアンリのほうを向く

「            」

 

~少女思考中~

 

あの後、少し二人でお茶を飲んでいると、映姫がいつの間にか机で眠ってしまっていた

そんな姿をみて小町は、穏やかな気分になるが、ある一つの物を発見する

手に取ってみるとそれはどうやら書類のようだった

「あちゃぁ」

内容は獄卒からの報告書

それも明日中には提出しなくてはいけない類のもの

判子の欄は全部で十個

それを見て、小町はひそかに思う

(四季様、明日の仕事どうするんだろう?)、と

その答えは白み始めた空の先に確かに存在していた

最悪の結末として

 

 

 

 

 




どうも年末ですね
お約束していたPart2です
実はこの作品を書いてちょうど半年ぶりになります
えぇ、あんまり上手くないですね(笑)
この作品書いているせいで他の作品にも遅れが出ましたしね
実は作者は、手書きで全て書いてからパソコンに打っているもんでやたら時間が掛かるんです
本当にすいませんでした


さて本題解説を
前回は小町の方が色々されたので、所変わって映姫様をいじってみたんですけど・・・幼くなっちゃいましたね
どうしましょう
終わり


さてこの辺で巻きに入りましょうか
この作品は次回更新があるかは分かりません
今回みたいに何か切っ掛けがあって、一ヶ月ぐらい掛けてあげるかもしれないし、何も無いかもしれないです
まぁ、短編ですからね
書くとしたら次は、他の誰かが出てくるかもしれません
ダメットさんかもしれないし、カレンさんかもしれないし、アチャ男さんかもしれない
確率変動の性で他作品・・・球磨川君とかもあり得ますね
まぁ、誰かしら出てくると思います
まぁ、きっとアンケートにして出すと思うので、暇があったら答えて下さい
では、またいつかお会いしましょう
さようなら

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。