死神と閻魔と悪と   作:(゚Д゚≡゚Д゚)?

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にじファンからの移転です


死神と閻魔と悪と

三途の川のほとり

そこに、その日も、かったるそうに仕事をしている小野塚小町がいた

彼女は仕事の面でも優秀なのだが、同時に非常に優秀なサボり魔としても有名である

今日も今日とて、上司である四季映姫・ヤマザナドゥにしかられて渋々仕事をしているに過ぎなかった

「それにしても、今日はひまだねぇ」

そもそも、管轄が幻想郷のみということも相まって、一日に霊が来る数はさほど多くはない

今日も例に漏れず、退屈だった

「あ~あ、誰か話しできる相手がいればなぁ」

それは無理がある話しだ

霊体となった人は、皆話すことが出来なくなっている

そもそも、そんなことが出来れば会話が好きな小町は仕事をサボらなくなるだろう

さてさて、彼女がこんなことを言い出したら、行うことは一つ

「ちょっとぐらい抜け出してもかまわないでしょ」

サボりだけだ

決めた後の行動は極めて迅速だった

船を河岸に寄せ、近くの木とロープで固定し動かないようにする

周りの船頭たちに声を掛け、フォローを頼んでおく

そうしてやっとサボれる、という時に小町に声を掛ける人物がいた

「なあなあ、ここらでお話好きの死神船頭がいるって聞いたけど、どこにいるか知ってか?」

その声の主は、此処幻想郷でも取り立てておかしな格好をしていた

黒く焼けた肌に、赤いバンダナ

上半身は裸で、下半身にはバンダナと同じ布を腰に巻いているだけ

何より目立つのが、その体のいたるところに描かれた奇妙な刺青だ

一言で言えば怪しい

目的も格好も、言動すらも怪しい

しかし、その態度はその怪しんでいることさえも許容して聞いているという、一種の風格のような物さえ感じさせた

「その噂だと多分あたしの事だけど、何かようかい?

生憎、こちとら今から仕事をサボろうとしているんだけど」

態度をなるべく出さないように話しかける

相手の正体が判らないときは出来るだけ刺激しないほうが得策だ

しかし、彼女は非常に困ったことに、初対面の人を脅すという癖があった

「それとも何かい?

あんたが今此処であたしに殺されて、仕事を作ってくれるって言うのかい?」

持っていた鎌を、相手の首に当てながら言う

大抵の人間は、これで恐れて逃げ帰る

その大抵に入らない人間も、快くは思わず不満を顔に出す

(さぁ、どう出る)

小町は内心わくわくしていた

少なくとも、相手が逃げれば、自分はサボれる

戦いになれば退屈はしないはずだ

どちらに転んでも小町には得しかない

だがそれも思惑から外れた相手の言動により、おもいっきし外されてしまう

「へぇ、初対面の相手からも脅されるとか、マジで俺の英霊としての風格ねぇな

いやむしろ、俺に風格なんてあったらおかしいか」

なんと目の前の相手は、そのどちらでもなく、いきなり自嘲し始めた

あまりのことに思わず態度に素が出てしまい、相手に笑われる

「な、何がおかしいんだい」

「いやはや、やっぱり何も知らない処女(オトメ)を辱めるのも良いが、成熟した女性を弄くるのもまた良いな」

「な、な、なああああ!!」

あまりに恥ずかしい事を言われ、小町の羞恥ゲージが遂にMAXを突破した

その弊害として、相手の首に当てていた鎌をそのまま横に動かす

それを紙一重で交わすもののその後に迫り来る鎌の猛攻撃をさすがにかわしきれない

「はぁ、俺ってば女難の相でもあるのかな

いや、まぁ、何か悪事を働いていないといえばそれもまた嘘になるんだが」

ため息をつきながら男は迫り来る刃をかわすのではなく、

キンッ

自身の手の中に出現した得物でガードすることにした

「早く死ね、直ぐに死ね、死んで全てを忘れろぉぉぉぉ!!」

止められても尚、男を切り殺そうと鎌に力を加える小町

それに対して男は精一杯力を加えているものの、如何せん相手は両手持ち、男は片手持ちというハンデは覆らない

徐々に男の首に近づく小町の鎌

それを見て、露骨に男は怯えた

「ちょ、どういうことだよ

膂力がおかしいでしょ、どうなってんの?!」

それもそのはず

男とは違って小町は死神という名のれっきとした神の一種なのである

いくら成人男性といえども、片手で拮抗できるほど力は弱くはない

「あぁ、もう

こんなことになるなら、きちんと情報を集めてくればよかったよ」

そうぼやきながらも、反撃にでる男

片手でおさえていた鎌を、刃で流すように受けその隙に、小町の懐に入る

すると、鎌という得物の特性上、刃が地面に突き刺さり引くことができなくなる

更に追い討ちを掛けるように男の武器を持っていないほうの手が小町のみぞおちに突き刺さる

その一撃は小町の意識を刈り取るには十分すぎる物だった

 

―少女気絶中―

 

「は、此処はどこだい?」

小町は起きると周りを見回す

起きた直後はわからなかったが、よくよく見てみるとそこは、自身でも良く知るところだった

「三途の川の河岸…

しかも、あたしの船の上じゃないか」

律儀にも船を木とロープで結んである

一体何が起こったのか?

「あたしは確か、何時もどおりにサボろうとしてー」

記憶を思い出していくと、徐々にあの男のことがよみがえってくる

それと共に、腹部にも鈍い痛みが戻ってきた

小町は勢いよく体を起し、あたりを見回す

「あいつは、どこだ!!」

横にあった鎌を手に取り、あの男を捜す

しかし、その男はあまりにも簡単に、しかも、あっけなく見つかった

「あぁ?

呼んだか?」

そういって船の縁から顔をだす男

しかし、よくよく見ると武器を持っていない

その状態に若干の気のゆるみを見せる小町

「あんた、あたしに用が有るって言ってたね

一体何だい?」

先ほどは勢いで襲いかかったが、そもそもの原因は自分にあると判断し男の依頼を聞いてみる事にした

「あぁ、なんせ向こう側にわたるのに時間がかかるって聞いてね

それならと、暇潰し程度に聞いたんだが、なんでも話し好きの船頭がいるって言うじゃないか

なら俺はそいつに頼んでみようか、と思ってな」

そういって、悪びれもせず六文銭を取り出す男

しかし、当の小町は驚きを隠せなかった

「なんだい、あんた死んでたのかい?

じゃぁ、何でそんな風にはなせるんだ?」

未だかつて、そう船頭歴が長い小町でもこんな人物を見るのは初めてだった

霊とは基本的に話す事は出来ない

僅かな例外として亡霊がいるが、そもそも亡霊は三途の川に近寄らないし(魂が引っ張られるため)、なにより幻想郷には一人しかいない

その人物はそもそも女性で、冥界を納めているはずだった

「いや、ね

こんなんでも、一応英霊の端くれでさ

形を保つのは意外と簡単なんだぜ」

そう、話す男の顔はどことなく自虐的だ

英霊

それは人類の願望、あるいは夢の結晶とも言って言い存在

偉大なる人物に信仰される事により、人ならざる位へと進化した者のことを言う

ならば、当たり前の事だと小町は考えた

「そうかい

英霊の頼みとあっちゃあ断れないね

乗りなよ」

そういわれて、船に乗る男

乗るときに、ボソッと「なんか勘違いしてるけど、まぁ良いか」と言っていたのは残念ながら小町には聞こえていなかった

一方の小町はと言えば、ご機嫌に愛用の鎌でロープを切り、船を三途の川に戻す

「さて、あんたは何が聞きたいんだ?」

お話好きの船頭を探したと言うことは、道中会話をしたかったという事だ

そう判断し、小町は男に船を漕ぎながら話しかける

しかし、男は

「いや、話が聞きたいんじゃなくて」

そこで一度言葉を句切り、持ってきた荷物の中から何本もの瓶を取りだして

「酒盛りをしに来たんだ」

そういった

「あんたも結構奇抜な事を考えるねぇ

でも、そりゃあ無理な事だよ」

男の話に心では乗りたくても、一応の立場から乗れない小町は恨めしそうに瓶をみて言った

「なんで?

こんだけ有るから俺一人じゃ、飲みきれないし、たのしくねぇじゃん」

文句を男が言い始める

しかし、それでも乗れないと小町は言った

「一応今あたし、仕事中だよ

そんなコトしたら四季様にまた説教を食らう羽目になるよ」

それに、私が舵を手放したら着くまでに時間が掛かっちゃうじゃないか、と苦笑しながら小町は言った

それが男の琴線に触れたのか、男の顔から先ほどまでのような薄い軽薄な笑いが消えた

なんだと小町が男を見ていると、男はおもむろに立ち上がり、小町に近寄ってきた

「何だ―」

い、と続けようとした言葉は出せなくなった

男は小町のそばに来るなりその体を抱きしめたからだ

「!!!!!」

あまりに突然な事で、小町の頭の中は真っ白になる

抵抗らしい抵抗も出来ずに、空っぽな頭の中に男の声が滑り込んでくる

「そんな、ことか

それがどんな罪だって言うんだよ」

小町には既に分かっている

男の言葉は毒だ

甘くて淫らで、たまらなくほしくなるような、溺れていたくなってしまう、甘く深い猛毒だと

しかし、すでに小町にそれを拒む事は出来ない

「お前の罪は俺が許容する

お前の存在を、思考を、行動を、全てを許容する

受け入れてやる、抱きしめてやる

お前が望むなら、恋人のように囁いてやる」

既に小町の頭の中には、男の言葉しか存在しない

ましてや、それを拒む思考など、存在しなかった

「だから、一緒に堕ちようぜ」

その提案を小町は断る事は出来なかった

 

―少女宴会中―

 

それからおおよそ一日後

二人を乗せた船は対岸に行き着いた

あれから、一昼夜ぶっ通しで飲んでいたので、二人はふらふらだ

「絶対に、あれは二人でのむ量じゃないよ」

痛む頭を押さえながら小町が言う

本来なら決して彼女が酔いつぶれるという事は無いはずだが、いつの間にか彼女は眠ってしまっていた

初めての体験だったよ、とは彼女の言葉である

それに対して男は、平気そうな顔をしていて、笑いながら小町を見ている

「いやあ、傑作だったよ、あんたの寝顔

やっぱ、年上のお姉さんも言いもんだねぇ」

照れ隠しに小町が持っている鎌を振るうが、それを余裕で男は回避する

クククッ、と笑う男の言葉をムシして彼女は上司のいる場所まで連れて行く

彼女の上司は閻魔である

死後の世界を司る彼女の審判は、どのような人物も生前の行いを暴かれる

それでも、と小町は思う

彼は英霊になる程の器を持った者だ

絶対に天国行きだと

その儚い幻想が打ち砕かれるまでもう少し

小町の目の前の扉の先に閻魔―四季映姫・ヤマザナドゥがいる

扉を開けている小町には見えなかった

その後ろで狂気に満ちた笑みを浮かべる男の顔を

 

―少女審議中―

 

「小町、そちらの方が今回の霊ですか」

裁判員席に座った少女が小町に語りかける

それに対して小町は片膝をつき答える

「はい、四季様

此度の霊は、人間の中でも取り立てて良き魂

英霊でございます」

恭しくはなす小町の態度から、先ほどのまでの軽薄そうな態度は見えない

それに対し男は

(かったるいな、行き先は分かっているっていうのに、審議なんてしなくちゃいけねぇんだよ)

と心の中で持っていた

さすがの男も、閻魔の前で軽口を叩く気はないようだ

そんな男をさしおいて審議は滞りなく進んでいく

そして遂に閻魔が浄瑠璃鏡を使う場面となった

浄瑠璃鏡とはその人物の生前の善行と悪行を映し出す閻魔の道具である

それを閻魔が取り出すのを見た男が、遂に審議に口を挟んだ

「あの、お嬢ちゃん

それをのぞくのはやめておいた方が良いぜ」

「その意見は失礼ですが認められません

閻魔としての規則で、今後の行き先を決めるのに重要な点ですので

今の貴方に積める善行は、ただ黙って判決を待つ事だけです」

男の意見を映姫は認めなかった

それを聞いて、男は「ちゃんと言ってやったぜ」と言いながらも、それ以降口を挟まなかった

「それでは、見てみましょう」

浄瑠璃鏡が輝きその中に、彼の生前の行いが全て写される

が、しかし

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

映姫はそれを見たとたん、浄瑠璃鏡を投げ捨てた

「四季様!?」

そういって映姫の元に駆けつける小町

それとは対照的に全く動かない男は、「だから言ったのに」と言っていた

「あ、あなたは何なんですか?」

子供のように小町に捕まりながら、映姫は震える声で男に質問を投げかける

映姫の瞳に浮かんでいるのは、おびえの色だった

しかし、当の本人である男は態度を崩さなかった

「ん?

いや、見たじゃん、それ

それが俺だってば」

男は浄瑠璃鏡を指さしている

あまりの映姫の怯えように小町がたずねる

「四季様、何を見たんですか?」

その質問に体を震わせるが、残った僅かなプライドを振り絞り、小町に答える

「あれは、この世の悪

悪と名の付く物、全てが映っていた

あんなものあり得ない」

その答えを聞き、小町は男に目線を向ける

そこには何一つ態度の変わらない男が、「何だ?」という顔していた

「一つだけ、最後に一つだけ聞かせてくれ」

男は「OK」と言った

「あんたの名前は何て言うんだい」

その質問に思わず、男は笑いを堪えきれなかった

あまりの事に唖然とする小町だが、今までの態度から必死に答えを探る

全てを許容する、悪徳にまみれた人生、そしてまるで今まで名前が分からなかった事がおかしいような笑い

全てのピースが、奇妙に当てはまっていく

しかし、それは人の名前を形作らなかった

その答えを今正に裁判を無視して地獄に歩いていこうとする男に投げかける

「悪…」

答えが返ってくるとは思ってもいなかった問いかけ

しかし、男は立ち止まり、首だけをこちらに向けていった

「当たり

俺の名前はこの世全ての悪(アンリ・マユ)っていうのさ」

その答えを返すと男は再び地獄に向かって歩いていった

地獄の門が閉じる最後の瞬間、男は手だけを振った

あばよ

そう男がまるで言っているかのように

そして最後には、そこには小町と映姫しかいなくなった

 

 


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