ガンダムGジェネレーションオンライン   作:朝比奈たいら

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第三章『インパラの親友、インパラが親友』(2)

インパラとイドラ隊は再び北米大陸へと飛んだ。

ゲーム内掲示板によれば、ジオンは北米大陸を完全に制圧するべく動いている。

中でもメキシコに多く人が集まっているという話だ。

インパラ達はミデア輸送機をレンタルし、メキシコシティへ向かう。

ガンキャノンアライブはフォイエンに返しておいた。

せっかくネームドさえ撃墜したのだから、壊す前にオグレスという人に渡すのが良いだろう。

 

買い直したジム・ライトアーマーで出撃しようと思ったのだが、

フォイエンが一機のMSを譲ってくれた。

通常型のガンキャノンである。

 

「あんたの持ち機体は何にするんだ?

 まさかライトアーマーを使い続けるわけじゃあるまい」

 

出撃前に、フォイエンはそう聞いてきた。

 

「私としては何でも構わんが、

 最終的には完全オリジナルの機体を作るつもりだ。

 課金は必要だがな」

 

ジェネオンでは、松下のザクゾルダートの様に既存の機体を改造出来る。

その他にも、正式サービス後には

課金によってゼロからまったく新しい機体が作れるというシステムが実装される。

インパラはそれで自分にふさわしい機体を作る予定であった。

 

「そいつは、何か元を意識した機体じゃ無いのか?

 例えば、ガンダムタイプだとか」

 

「ああ。一応ガンダムの名は付ける予定だ」

 

「なら、俺のガンキャノンを一機やろう。

 こいつからプロトガンダムに開発出来る。

 完全オリジナルと言っても、ガンダムを知っておくに越した事はないだろう」

 

フォイエンが言うと、インパラは驚いたように目を見開いてから

わずかに頬を赤らめた。

 

「フォイエン……君はツンデレだな」

 

「どうしてそうなる!?」

 

「プレゼントをしたいのならば、

 最初から素直にそう言えばいいのだ」

 

この会話を聞いていたイドラ隊の一部、

主にサノザバスが二人を腐った目で見つめているのに気付き、

フォイエンはすぐに部隊ルームを立ち去った。

 

そんなこんなで、インパラは通常型のガンキャノンに乗っている。

機体色はもちろん銀色だ。

フォイエンから受け取った際には既に塗装済みだったので、

彼は元々この機体をインパラに渡すつもりだったのだろう。

 

「そういえば、イドラ隊とフォイエンは付き合い長いのか?

 こんな美少女達の中、黒一点というのは珍しい」

 

メキシコ行きのミデア機内でインパラが聞く。

ソールチーム、ルーナチームときたら次は第三小隊のステルラチームと組むべきだと考え、

それらと行動を共にしていた。

出会いが昨日の今日な為、各人がどのような人物であるか把握しなくてはならない。

 

「美少女なのは確かだけど、他人からストレートに言われると違和感あるわね。

 フォイエンは一応リア友ではあるわよ。

 それほど付き合いは長くないし、

 本人がソロでやるって言ってるからイドラ隊には入ってないけれど」

 

ステルラリーダーのシャイネが返す。

どうやらフォイエンはイドラ隊にまったく無関係な人物ではないらしい。

 

「これだけ女に囲まれてるのも駄目なのか。

 私にもチャンスがある事か」

 

「……そういうネタは、サノザバスの前で言った方が喜ぶわよ」

 

「存外、ネタでもないし君達の方もそうであって欲しい」

 

「この変態!」

 

シャイネは苦虫を噛み潰したような顔をした後に言うが、

インパラはからからと笑いながら「あざっす!」と返した。

 

フォイエンがリアルでどのような人物なのかは気になるが、

それは個人情報である。

間接的だろうが直接的だろうが、聞いたところで教えては貰えないだろう。

仮に現実で会っていても良い親友になれただろう事が、少しばかり残念であった。

情報が氾濫しているネット上には個人の感情を持ち込んだところで埋もれてしまうからだ。

 

「……出来れば、現実で君達に会いたいと思っている」

 

「インパラのにいちゃん、さすがにそりゃあ出会い厨だよ」

 

釘を刺す様に言うアリエルに、インパラは口を真一文字に結ぶ。

そう言われる事を予想していたものの、年下の子供から常識を注意されるのは怖い。

だが、彼とて彼の常識があった。

 

「私は友達が居ないからな。

 人間、独りでいるよりも人脈があった方が早く成長出来る。

 それは覚えておけよ」

 

実際、そうなのだ。

独りでは全てを独学でこなさねばならない。

それよりは友人と共同で当たったり、人生の先輩から効率の良い方法を教えてもらった方が

より早く世間を知れるというもの。

自分は一人で何でも出来ると達観し仙人ぶっている独りぼっちな人よりも、

そこら辺のチンピラの方が頭が良かったりするのはそういう事である。

人は一人で生きれなくもないが、他人の力を借りる方が楽なのだ。

 

「私達は、大丈夫です。絶対に」

 

普段おとなしいステルラ2のサクラが、珍しくはっきりとした口調で言った。

イドラ隊はリア友の集まりだというが、現実でどういう間柄なのかはインパラは知らない。

しかし、彼女達からは何か強い絆だとか結束力だとかいうものを感じられる。

楽しいのだろう、と、インパラはうらやましく思った。

 

「あんた、私達と長く付き合いたかったらそれなりに努力する事ね。

 入隊条件は厳しいわよ。

 ……ステルラリーダー、シャイネ、出るわよ」

 

シャイネはにひひっと笑うと、ミデアのハッチを開け

桃色のザクFS型でメキシコシティへ降下していった。

 

「いったい何を頑張れと言うんだ?」

 

「下僕になれってゆーんじゃないの。

 アリエルが先に行くよ」

 

「んじゃ、兄ちゃんミデアそこら辺に置いといて」

 

アリエルとマリエルのジムも続いて降下する。

このミデアのレンタル代はインパラが出したので、

操作する権利は一応インパラのものだった。

もう一方のミデアからもサクラ機が降下する。

ステルラ隊は4機編成であり、インパラも加わった事により二機のミデアが必要だった。

インパラはミデアに後方待機を指示すると、白銀のガンキャノンで降下する。

先程の戦闘で現れなかった松下太白星という銀色のエースを求め、機体を走らせて行った。

 

 

 

イドラ隊は全機ともメキシコに居た。

だが彼女達は全機が一つの区画で戦うのではなく、

各小隊単位で分かれた戦闘を行っていた。

インパラは第三小隊ステルラチームと共にメキシコ市街地の一つを担当する事にする。

桃色のザクを使うジオニストのシャイネと、黄色いジムに乗るアリエルとマリエルの双子。

白いアッグに乗るサクラの四人というチームである。

 

そう、ステルラ2のサクラはジオンのアッグに搭乗していた。

両腕がドリルになっている機体で、性能はお世辞にも良いとは言えない。

むしろ手が無い分、ジムやザクと比べて悪い方である。

彼女もジオニストかと思われたがそうではなく、

単にドリルという武器を好んでいるとの事であった。

インパラは彼女の父親が工事現場の親方であるという噂を聞いている。

自分が使うには不便だが、見ている分にはかっこいいとは思っていた。

 

「もうすぐ戦線よ。各機、適当にやってましょう」

 

「ヒャッハー! 連邦は消毒だー!」

 

「アリエル、今うちらジオンじゃなくて連邦軍!」

 

アリエルが先陣として突出する。

マリエルがそれを援護するように付いていき、

シャイネはビルを盾にしつつの機動を開始した。

 

「まぁ、野良試合に作戦も無いか」

 

先行するジオニストの三人を見て、サクラもそうであるのかとインパラが振り返る。

そこには地面にボコッと開いた穴しか存在しなかった。

サクラのアッグがドリルで地下に潜ったのだろう。

地下からどうやって攻撃するというのだろうか?

 

「まったく……まったく!」

 

特に意味は無くとも、インパラはそう叫びたい衝動に駆られていた。

 

 

 

ステルラ隊の実力は決して悪いものではなかった。

シャイネは冷静に周りを見れていたし、

アリエルとマリエルも双子らしい連携で敵を撃破していた。

サクラもそうである。

味方のジムと敵のザクが対峙しているところへ、地下からドリルを突き上げて飛び出してくる。

股間からドリルを喰らったザクはそのまま吹っ飛んで爆発した。

突如現れた異質なジオン系機体に驚くジムを横目に、

アッグはまた地面の下へドリドリと戻っていった。

 

インパラのガンキャノンは前に出ている。

乱戦に前も後ろも無い事を考えれば、

アウトレンジ戦法を捨てて混戦の中に飛び込んでいたと言った方がいい。

ガンキャノンアライブと違い、ビームピックやビームガンは持っていない。

武装は240ミリキャノンと狙撃用ビームライフル、頭部バルカン砲である。

 

両肩のキャノンはスプレーミサイルランチャーという

近接戦闘用の武装に換装可能であったが、インパラはそれを使おうとは思わなかった。

ガンキャノンの長所は高威力のキャノン砲での一撃必殺だと考えていたからだ。

例え近距離でも問題ないと、彼はキャノン砲の力を過信していた。

連邦VSジオンで彼の持ち機体がガンキャノンだった事も関係しているだろう。

 

ザクマシンガンを射撃してくるザクへキャノンを放つ。

ザクは右肩のシールドでそれを防いだ。

シールドは破壊されたが、本体にダメージは無い。

 

「狙ってやがる」

 

インパラは原作の台詞を呟くと、ガンキャノンを前進させる。

恐らく、ザクのパイロットは不思議に思っただろう。

ガンキャノンは近接武器を持っていない。

それで対応が遅れたのか、ザクはマシンガンからヒートホークへ持ち替えてはいなかった。

 

インパラはガンキャノンの両手両足を開いて後ろへ向ける。

そしてそのままスラスターによる体当たりをかけた。

陸上の選手が、ゴールの瞬間胸を突き出す要領である。

ガンキャノンの上半身の装甲は、ドムのジャイアントバズを受けても平気な程には厚い。

手で殴るより、厚い胸板をぶつけた方が良いと思ったのだ。

ザクは衝撃で吹っ飛び、仰向けになって止まった。

パイロットが揺さぶられて動けないのだろう。

倒れたザクのコックピットにキャノンを撃ち込み、撃破する。

 

さすがに、ガンキャノンアライブの様にはいかないなと感じた。

通常のガンキャノンも決して悪い機体ではないが、

どうしても支援機の枠を超えられないと思う。

せめてビームピックぐらいの近接武器を買っておくべきだったと少し後悔した。

手でメインカメラやコックピットを破壊する事も出来ないではないが、

その場合は指がひしゃげる事を覚悟しなければならない。

それでも気分的には、コズン機を殴り倒したアムロ・レイの真似事はやってみたかった。

 

次の敵を探す為周りを見渡すと、背後にヒートサーベルを持った機体が立っていた。

グフかと思ったが、指揮官型のザクである。

ヒートサーベルは別個に購入したのだろう。

その指揮官型ザクは胸からピンク色の何かを生やしていた。

あまり見慣れない形だなと思った瞬間には、そのザクは前のめりに倒れていた。

 

「にいちゃん、貸し一つだよ」

 

そう言ってアリエルの黄色いジムがやって来る。

アリエルはザクの背中に突き刺さった長い棒を引き抜くと機体を走らせ続けた。

乱戦の中で止まるのは自殺行為だからだ。

 

「ビームジャベリンとはマニアックな」

 

長い柄の先端を球状のビームが覆い、そこから三つの突起が突き出ている。

主にガンダムに装備されている近接装備、ビームジャベリンであった。

アリエルはこれをザクに投げつけたのだ。

 

双子の姉妹はビームジャベリンを装備し、近接戦闘により敵機を撃破している様子であった。

時にはジェットストリームアタックの真似事までしながら、ザクを翻弄し撃破してゆく。

子供が良くやる、とインパラは直感的に感じたが、すぐにその考えを撤回した。

子供だからこそ、新しいタイプに近いのかもしれないと。

 

建物の影に隠れつつ、他のメンバーの様子をうかがう。

シャイネは特別何かが得意というわけでも無さそうだったが、

既に何機かのザクを撃破していた。

サクラも地下からの奇襲で同様の戦果を挙げているようだ。

 

しかし、北米を奪還するにはどうしたものかと考える。

いくらイドラ隊がエース級であろうと、

十機やそこらの部隊でキャリフォルニアベースは陥落させられないだろう。

そうなると、このメキシコは常に連邦とジオンとの最前線となる。

掲示板で呼びかけて大掛かりな攻略作戦とするべきか。

インパラが思案しつつ機体を移動させると、

遠距離から乱戦エリアに向けて前進してくる二機の敵MSを見つけた。

 

そのMSを見たインパラはまず自分の目を疑う。

次にデータを見ようとしたが、

そのプレイヤーは機体情報を非公開にしているらしく

MSについてのデータは見れなかった。

公開しているのは部隊名だけであり、

そこにはグリーンミスト隊と書かれている。

そして彼らが乗っているMSは、MS‐09ドムの外見をしていた。

 

「ステルラチーム! ドムが居るぞ、固まれ!」

 

「はぁ? ウソでしょう!?」

 

そう返したシャイネも、ドムを発見したらしい。

「皆、集まりなさい!」と指令を飛ばすと各機は乱戦エリアを抜けて後方に下がった。

 

「おー、いるねぇ、ドム」

 

「マリエル達より上の機体とか、よっぽど暇人なんだねぇ」

 

双子がぼやくように言う。

それはイドラ隊の皆も暇人だという意味でもあるのだが、

そんな事よりも目の前の強敵をどうするかだ。

 

「まあフォイエンでもガンキャノンを持っている事だし、

 敵にドムが居てもおかしくはないが……

 ガンキャノンでドムに機動戦は無理だ」

 

インパラが言う頃には、ドム二機は乱戦エリアに到達していた。

ドムはステルラチームに構わず、

乱戦エリアの外側からバズーカやマシンガンで味方のジムを狙い撃ちしている。

 

「アリエル達全員で囲めば倒せるんじゃないかな?」

 

「いえ、突っ込んで来ない分相手は大人ね。

 そうそう上手くやらせては貰えないでしょう」

 

ほう、とインパラは感心する。

どうやらシャイネは中学生かそこらにしては頭の良い娘らしい。

冷静に物事を捉えられている様子だった。

 

「じゃ、じゃあどうするんですか?」

 

「相手が来ないなら、こっちから突っ込めば良いのよ!」

 

「……何も解決していないぞ、それは」

 

インパラが先程の感心を撤回しようとするが、シャイネは自信満々に続けて見せた。

 

「どの道戦うしかないわ。

 ここで逃げれば味方に被害が出るし、だったら戦って勝てばいいのよ。

 もちろん他のチームにも連絡はするわ」

 

そう言うとシャイネはドムへ向けて前進する。

ステルラチームもそれに続いた。

インパラも一応は納得する。

まったく勝ち目の無い相手ではないし、自分の腕が悪いとも思っていなかった。

キャノンの残弾を確認すると、ステルラチームの後に続く。

負けるわけにはいかない。

自分はエースであるし、この機体はフォイエンからのプレゼントなのだ。

 

 

 

ステルラチーム以外のイドラ隊員も、メキシコでの戦闘に参加していた。

ソールリーダーであるカナルは、味方の陸戦型ジムを撃破した指揮官用ザクに狙いを付ける。

相手もこちらに気付き、ザクマシンガンを放ってきた。

それをシールドで防ぎ、ビームサーベルでザクを薙ぎ払おうとする。

しかし、初撃は跳躍されてかわされた。

 

「むっ、さすが隊長機」

 

その指揮官用ザクはノイルの機体であり、別に部隊長でもないのだが

カナルには指揮官用という部分だけ分かれば後はどうでもよい事であった。

 

「ライフルどーん!」

 

カナルはビームライフルを取り出して撃つ。

だが敵も素人ではないらしく、これも回避されてしまう。

敵のザクは建物を障害物として回避機動を行なっていた。

時折、マシンガンによる射撃が飛んでくる。

 

「こりゃエースですよ、エース!」

 

実の所、ノイルは牽制射を加えるのが精一杯だったのだが、

カナルは自分の攻撃をかわし続ける敵をただ者ではないと判断した。

 

それはソール3のコリーンも同じ事で、お互い決定的な打撃を与えられない敵を

自分達以上のエースだと感じていた。

ジムキャノンという機体の特性から格闘戦が不利だと見られたのだろう。

通常のザクよりも無骨な深緑色のザクは

どうにか距離を縮めようと接近を繰り返してくる。

ビルからビルへ隠れ続けるのも疲れ始めてきた。

 

「ザクゾルダートだって? どういう機体なんだろう」

 

ゾルダートの両腕から放たれたショットガンが壁代わりのビルをえぐる。

こう引っ付かれては、キャノンの狙いが定まらない。

 

「コリーン、フラム! 敵のエース見つけたよ!」

 

「それはこっちもだよ……おっ」

 

攻撃を避けつつカナルの通信に返していると、

敵のゾルダートは攻撃を止めコリーンを無視してどこかに向かおうとしていた。

弾切れで撤退でもするのだろうか。

チャンスと見たコリーンは、頭部のバルカンを撃ちつつ機体を突進させる。

ゾルダートは腕で顔をかばったが、それは目を塞ぐという意味でもあった。

 

「やああッ!」

 

コリーンはゾルダートに飛び蹴りを仕掛ける。

そして着地し、キャノンをゾルダートに撃ち込んだ。

この距離なら外す方が難しい。

 

果たしてキャノンはゾルダートの腕に命中した。

関節がスパークを起こし、皮一枚繋がっているといった状態である。

止めを刺そうと思ったが、ゾルダートはスラスターを噴かして撤退してゆく。

深追い出来ない事はない。

コリーンはゾルダートの後を追ったが、敵も分かっているのだろう。

わざと乱戦の中を潜り抜けて行く。

 

「普通のが邪魔で!」

 

追尾を通常型のザクらに阻まれる。

乱戦の真っ只中に飛び込む事の危険性を感じ、

コリーンは横に跳躍して離脱するも、ゾルダートは既に戦闘エリアを抜け出していた。

 

「くそう、逃げられた」

 

「こっちも。フラムは?」

 

カナルとコリーンは追撃を諦める。

フラムは撤退する一機のMSに狙いを定めていた。

陸戦高機動型ザクという珍しい機体であるが、

フォイエンに徹底して改造された高機動のジムなら追いつく事が可能である。

 

「おー、速い速い」

 

カナルが面白そうに成り行きを眺めている。

敵のザクはショットガンで応戦するも、フラムは散弾をローリング機動で回避してみせる。

フラムの高機動型ジムは敵の陸戦高機動型ザクに迫り、脚へ向けてビームガンを放った。

ザクは脚から小さな爆発を起こし、衝撃でバランスを崩して転倒する。

 

「逃がしません!」

 

フラムはジムを跳躍させると、ビームサーベルでザクの胴体を両断する。

二つに分かれたザクは爆散する。

ゲームの仕様なのか、核爆発は起きなかった。

 

「ざまあみろ、です!」

 

「そんな名ゼリフあったっけ?」

 

どうやら、いつの間にか戦況は連邦優勢になっているらしい。

ソールチームは残存する敵――ほとんどが通常のザク――の掃討戦にかかる。

何機かのザクを撃墜した頃、ステルラチームより文章チャットによる通信が入った。

内容は、ドムを二機見かけたので援護を向けて欲しいとの事だ。

 

各小隊長といくらかやり取りしルーナチームが援護に向かうと決まりかけたが、

ルーナリーダーのリュイがそろそろ皆帰還してもいいだろうという案を述べる。

カナルを初めとした何人かが反対したが、

彼女のビームライフルはエネルギーが切れていたし

他の機体もそろそろ補給が必要だったので全機でドムを倒し戦闘を終える事に決まった。

そうなれば、早くドムに乗れるほどの敵を倒して見せようとカナルなどが張り切って向かう。

気持ちは先行するものの、ビームライフル抜きでどう戦うかは考えていなかった。

 

イドラ隊各機がステルラチームのエリアへ向かい始めた時、

ドムの一機はインパラのガンキャノンへ向けてヒートサーベルを

水平に構えて突進してきていた。

インパラは腰部からビームピックを取り出そうとして、二度目の後悔をした。

この機体はガンキャノンアライブではない。

 

咄嗟に機体を横に動かす。

ドムのヒートサーベルはガンキャノンの横っ腹をいくらか削ぎとっていった。

ビーム系の兵装ではないが、ジム程度なら数秒とかからず真っ二つに出来る威力を持つ。

ガンキャノンの装甲でもまともに受ける事は出来ない。

 

ドムはそのままインパラの後ろに抜け、

建物を壁にしつつ離れていく。

もう一機のドムもステルラチームとの銃撃戦を止めて後退していった。

逃げたというより、逃がしてもらったのだなとインパラは思う。

相手は途中からジャイアントバズを撃たなくなったから、

弾が切れたというのもあるのだろう。

周辺には敵味方の残骸が転がっているから、マシンガンの一つ二つなら手に入るはずだった。

それをせずに退いたという事実から、敵は慎重な性格なのだなと推測出来る。

 

ドムはまったく被弾していなかった。

それに対しこちらは味方のジムを何機か撃破されている。

敵の勝ち逃げとも言える行為に、インパラは素直に感服していた。

 

「ステルラリーダーより各チーム、ドムは撤退したわ。

 ステルラ全機とも何発か当てられたから、一旦ミデアに戻るわね」

 

シャイネの通信を聞きつつ、インパラは機体を後退させる。

モニター越しに夕日を眺めながら、

自分はまだニュータイプになれていないのかと自己嫌悪を感じていた。

 

 

 

戦闘後、イドラ隊とインパラはジャブローに帰還する。

イドラ隊の皆は部隊ルームへ帰って行くが、

インパラはまずメニューウィンドウからフォイエンの居場所を探した。

 

彼がジャブロー基地にあるMS格納庫の一つに居ると分かり、そこへ向かう。

格納庫にはMSがずらりと並んでおり、このどこかにフォイエンが居るはずである。

ただ機体を置いておくだけなら自分のマイ格納庫を使えばいいのだが、

こうやって多くのプレイヤーが基地の格納庫を使っているのは

単なる自己アピールや交流目的の他に

プレイヤー同士で機体のやり取りを行なう為だと考えられた。

 

知り合いにMSを譲渡している人物もいれば、

自分が改造したMSを売りさばいている奴もいる。

インパラが歩きながら周りを見渡すと、

コックピット周りの装甲を強化したジムや

グフのヒートロッドを両手に取り付けたジムなどが売られていた。

 

機体を改造するのは誰にでも出来る事だ。

パーツを買ってどうしたいかを決めたら、後はNPCなりCPUが要望通りにやってくれる。

誰にでも出来る事ではあるが、その機体が実際に役に立つかは別の事である。

こうやって売られているMSを見ると、ただ装甲を盛れるだけ盛った機体や

ザニーに外部ジェネレーターも付けずにビームライフルを装備した物もあった。

どう見ても、実戦で使えるようには見えない。

 

そのような劣悪なバランスの機体を見ていると、

フォイエンがどれだけ凄い事をやってのけているのかがよく分かる。

彼はジムを高機動型や重装甲型など色々改造しているが、

本来ジムが持つ安定性は失っていなかった。

彼にそれを言えば、それは元々ジムが持つポテンシャルの高さだと謙遜するだろう。

 

格納庫のMSをざっと見渡すが、

ガンキャノンアライブなどフォイエンの機体と思われる物は無かった。

入れ違いになったかとメニューウィンドウを開こうとした時、

前から歩いてくる二人の男が目に入った。

その二人には見覚えがある。

彼らは先日までインパラの部隊に所属していた奴らだ。

 

「お前達!」

 

インパラが声をかけると、二人は一瞬驚いた顔をした後に敵意のこもった視線を返す。

 

「お前達、何故突然部隊を抜けたんだ」

 

彼らが脱退した時、話し合いの余地は無かった。

フレンド登録していたのもブロックされ、

どこで何をしているのかも分からなくなったのだ。

いったい自分の何が気に入らなかったのかという疑問にも答えてもらえなかった。

 

片方の男が、インパラを睨みつけながら返す。

 

「クセェんだよ、人を道具にしか使えねえ奴がよ!」

 

そう言うと、男は立ち去ろうとする。

インパラは道を遮って止めようとしたが、顔を拳で打ち払われて床に尻餅をついた。

二人はインパラをゴミでも見るかのような目で見下した後、

早歩きでその場を去っていった。

 

インパラが何が何だか分からず呆然としていると、

整備兵が近づいて来て無言で手を差し伸べてくる。

手を取り礼を言おうと相手の顔を見ると、それはフォイエンであった。

 

「お前の部隊に居た奴らか」

 

インパラは立ち上がり、尻の埃を払う。

そして憮然とした顔で返した。

 

「ああ。しかし、何故あいつらが隊を抜けたのかが分からん。

 会えば分かると思っていたが、道具とはどういう事だか」

 

「噂では、あいつらを盾や踏み台にしたり

 度々暴言を吐いていたそうじゃないか」

 

噂というが、情報の出所はこのゲームの中で

素行の悪い者を晒し上げる晒しスレ内で行なわれていた会話であった。

†白銀のインパラ†という厨二臭いハンドルネームの隊に入っていたが、

そういった行為を受けて脱退したという内容だ。

フォイエンはインパラのフレンド登録を受けた後、

そうやって彼についての情報を集めていた。

どんな方法を使おうと、友人の事を知っておくのは当然だからだ。

 

「暴言だと? 私はそんな事一言も言っていないし、

 踏み台にしてもあれは作戦の話だぞ」

 

「仲間を使い捨てにする作戦か?」

 

「違う! 私が敵陣に特攻せねばあいつらは助からなかったんだ!」

 

それを聞いて、フォイエンは何がしかの食い違いを感じた。

晒しスレでは先程彼らが言ったように、

道具として使われたという話しか出ていなかったからだ。

 

「詳しく聞かせてくれ」

 

「あの時敵は増援を呼び反撃に転じようとしていた。

 だから敵を全滅させねば戦域から離脱できない。

 私はライトアーマーだったが、彼らは足の遅いザニーだったからな。

 一回の跳躍でサーベルの間合いに入るにはザニーを踏み台に飛ぶしかなかった。

 私が一機でも道連れにしている間にあの二人は逃げれると思った。

 ザニーは脚に被弾していたようだが、スラスターは無事だったろうからな」

 

「それはあいつらと相談の上か?」

 

「何をだ? あの時の状況を鑑みれば、それ以外の方法など思いつかんぞ」

 

フォイエンはインパラが本気で言っているのかを疑った。

だが彼が嘘を言っているようには見えない。

しかし、もしもこれが本当だとしたら今度はインパラの正気の方を疑う事になる。

 

「お前はそうかもしれんが、あいつらはそんな事思いつかなかったんじゃないか。

 理由も説明されずそういう事されたら、普通は分からんだろうに」

 

「何を言っているんだ。普通なら分からないはずがないだろう!」

 

どうやらインパラの言う普通の定義はあの二人と異なるらしい。

インパラは分かって当然だと言うが、

まともな話し合いもせずに意思疎通が完全に出来るなどありえない。

 

そこまで考えて、フォイエンは一つの単語を連想した。

ニュータイプという言葉である。

 

ニュータイプはガンダム世界において明確な定義はされていないが、

大抵は超能力者や洞察力に優れる者の事を言う。

しかしニュータイプの本質は単なるエスパー能力ではなく、

人が齟齬なく相互理解出来るという点にあった。

テレパシーなどを使い、心と心で通じ合う。

人類が宇宙に出れば今まで半分しか使ってなかった脳細胞が活性化して

そういう事が可能になると、ニュータイプであるハサウェイ・ノアは言った。

 

当然これはガンダムという架空の世界の概念であり、

フォイエンはそれが現実に存在するなどとは信じていない。

だがインパラと話していると、

彼の過程を省く喋り方はニュータイプに近いものがあると感じた。

恐らく、あの二人が晒しスレに暴言を吐かれたと書いたのもそういう事だろう。

インパラにそんなつもりは無かっただろうが、

彼の無自覚による不遜な喋り方が敵を作るのは簡単に想像出来た。

 

「お前はクェスみたいな奴だな」

 

「クェス? 私はそこまで頭良いと自惚れちゃいないさ」

 

普通の人からすれば偏屈なわがまま娘にしか見えないクェスを頭良いというのか。

本当に変わった人物だとフォイエンは両手を広げて見せた。

元々変な奴だとは思っていたが、一般人とは全然違う方向でしか物事を見れないらしいと。

 

「そういう考えをしてると――」

 

本当に味方がいなくなるぞ。

 

そう言おうとした時、一機のMSが格納庫に入って来た。

フォイエンが作ったガンキャノンアライブである。

機体の色は元の赤に塗りなおされていた。

ガンキャノンアライブはフォイエンの傍にある固定台に機体を置くと、

動力を停止させてコックピットハッチを開いた。

中から連邦士官用の制服を着た女性が姿を見せ、リフトで降りてくる。

 

「フォイエン、これインパクト無いわね」

 

インパラはフォイエンが小声で何か呟くのを耳にした。

よく聞き取れなかったが、多分「冗談じゃねえ」と言ったらしい。

 

「オグレスさん、アライブは今それ以上改造出来ませんぜ」

 

「なら正式サービスが始まったら課金すればいいじゃない。

 もちろん金は私が出すわよ」

 

地面に降り立った女性がフォイエンの前まで近づいてくる。

一見高校生ぐらいにも見えるが、フォイエンがさん付けで呼んでいる事や

未成年独特の幼さが見えない事からそれなりの年だなとインパラは推測した。

 

「こちらは?」

 

「インパラ。あなたのガンキャノンアライブをテストした奴ですよ」

 

「おお、じゃああんたうちの部隊に入りなさいな」

 

どこかで似たような展開を見たなと、フォイエンは呆れるように目を細めた。

インパラは特に驚く風でもなく、普段通りの顔をしている。

 

「残念ながら、私は部隊長なので」

 

「じゃあしょうがないわね」

 

そう言うと、オグレスは当たり前の様にメニューからインパラへフレンド申請を行なった。

そしてインパラも当たり前の様にそれを承認する。

これは果たして大人の対応なのだろうかと、フォイエンは少しばかり胸に鈍痛を感じていた。

何事であれ理解出来ないというのは辛い事だ。

先程のニュータイプ論が頭を過ぎったが、

仮にその概念が実在していても自分とは関係ない話だと溜息を吐く。

自分は達観者ではないのだ。

 

「機体は?」

 

「今はガンキャノン、後でオリガンダムですね」

 

「私も。設計図は」

 

「これを。……おお、格闘型ですか」

 

「ふうん。じゃあ、この設定は私にも――」

 

二人はフォイエンそっちのけで

自分のオリジナル機体についての情報を交換しあっている。

見てる方が不思議に思うくらいにはポンポンと話が弾んでいた。

フォイエンは二人から離れ、近くに放置されていた工具箱を蹴っ飛ばす。

周囲の人間から何事かと目を向けられ、

自分はまだ精神的に幼稚なのだと気付いた時にはもう一度同じ事を繰り返していたのだった。

 

 

 

第二次降下作戦の翌日、インパラとイドラ隊は再びメキシコへ向かっていた。

皆それぞれ現実の生活はあれど、基本的に暇人なのだ。

 

インパラは昨日オグレスと話した後、

CPU戦や連邦プレイヤーとの模擬戦を続けてガンキャノンの経験値を稼いだ。

恐らく第三次降下作戦後には正式サービスが始まるだろうから、

その前にガンダムの一つぐらい開発しておこうと思ったのだ。

オグレスとの会話の後、何故かフォイエンが不機嫌な態度であったのが気にかかったが、

今日の彼はいつも通り飄々とした男であったので一時の事だったのだろう。

 

イドラ隊は着々と戦果を挙げつつあった。

彼女達は当面ジムタイプを中心とした改造機を使っていく予定らしいので、

既にカナルの指揮官型などは派生機に開発せずひたすらレベルを上げ続けていた。

 

インパラの予想通り、フォイエンはジムの潜在能力、拡張性を高く評価していた。

元々派生機を作る事前提の機体であり、

上手くいけばガンダムを下手に改造するよりも能力は高くなるはずだと言っている。

元々、ガンダムの高性能さはコストを度外視し何でも出来る高性能機として

開発した事によるものである。

当時の連邦軍技術の粋を結集したとはよく言われる話で、

ビーム兵器の搭載や水中でも行動可能な事などMSが出来る可能性を徹底的に掘り下げている。

 

フォイエンは、ガンダムは最初から完成された機体であり、

改造の余地はジムより少ないと考えていた。

汎用的なガンダムをむやみに改造するより

ジムを陸戦特化や高機動特化として改造すればそちらの方が安上がりであるし、

元々公式設定ではジムはドム並みの性能は持っているのだ。

運営がジムをこれ以上弱体化しないのであれば、

改造したジムは部分的にガンダムを上回ると考えている。

主にフラムの高機動型ジムがその思想を表していた。

あの高機動型ジムは既にガンダム並みの空中戦が可能な推力を持っているのだ。

 

そしてフォイエンから機体の改造という支援を受けているイドラ隊は、

このゲームで特別何かを成し遂げようという気持ちは今の所無いらしい。

仲間達とゲームを楽しく遊んでいるという意識しかないだろう。

 

だがフォイエンやインパラはそうではない。

彼ら――特にインパラ――は元々ガンダムという世界に思い入れがある。

それがガンダムの世界を体験出来るとなれば、

当然個々の野望的なものを抱えているのが普通だろう。

彼ら二人だけでなく、一部のプレイヤーはこのジェネオンという世界で

大なり小なり目的を持っていた。

最も多いと予測されるのが、自勢力を勝利へ導こうというものである。

インパラは連邦のエースとしてトップに立つつもりであるし、

フォイエンもイドラ隊のMSに対してだけでなく

コストパフォーマンスの良い改造機体を量産し、連邦プレイヤーに流通させるつもりだった。

そうしてジェネオン世界を連邦軍の物に出来れば、

自分は――バーチャル世界とはいえ――世界に多大な影響を及ぼした人物となる。

彼らにとって、このバーチャル世界はただのゲームではないのだ。

 

インパラにはイドラ隊以外の人脈は無い。

となれば、今はこうやって激戦地に赴き

敵をひたすら撃破するしか勢力や自分に貢献する事は出来ないのだ。

 

「マキはそんな事どうでもいいの」

 

インパラ達がメキシコ戦線へ向かっていた時、インパラの野望を聞いた娘、

第四小隊アートルムチームのリーダーであるマキは

まるで興味無さそうにばっさりと切り捨てた。

 

「皆でガンダムのゲームを楽しむんだと思う」

 

「それもそうだが、何にだって目的や目標くらいあるさ」

 

「じゃあマキの目標は、ラク~にする事かな。

 このゲームは勝てれば面白いの」

 

どうやら彼女はあくまでゲームはゲームだと解釈しているらしい。

それは正しい見方であるのだが、

バーチャルリアリティという技術が確立してからは

一概にそうとは言えない環境に変化しているのだとインパラは考える。

ただのゲームにしては、このバーチャル空間はあまりにも現実的過ぎた。

 

「例えばあそこのザク」

 

戦線に到達したマキは、適当に敵機を見繕うと接近してビームガンを叩き込む。

ザクは直撃を受け、上半身を爆発させた。

 

「ね? こうなの」

 

「なるほど」

 

普通に考えれば、彼女はただ敵機を撃墜しただけである。

だが、インパラには彼女の言わんとしている事がすぐに分かった。

ゲームなら人は死なない。

ゲームでなければ簡単にこんな事は出来ないと。

 

主義が、無いのだろうと思った。

彼女が仮に本物のガンダム世界に行ったとしても、

戦争という人殺しを行なう理由が見つけられないのだろう。

彼女はあえて深い考えを持たない事で、

余計な感情を制限しているのだろうとインパラは推測する。

 

「難しい話は自分には分からないさ。

 だから、遊びを楽しむのに理由は要らない」

 

アートルム2のガーナが言う。

彼女達の年齢が中学生だか高校生だという事を考えれば、

年相応の受け止め方とも言えなくは無い。

 

しかしインパラはそれで納得する事は出来なかった。

例え年齢が幼くとも、考えるという行為が出来ない人間は人間ではなく動物だ。

彼はただゲームで遊ぶという行為にも『人はどんな主義を持って遊ぶのか』という

普通なら考えなくてもいい余計な事を考えてしまう人物であった。

そんな彼だから、彼女達の「楽しいから」という

抽象的な概念では満足出来なかったのである。

 

「なんちゃって哲学の話はまたにしよう」

 

インパラはその言葉で議論を中断した。

今は戦闘中であり、この状態で議論を続けても齟齬を生むだけだからだ。

帰ったら手始めに『主義の無い人は人ではない』という議論からしてやるべきだろう。

大人はそうやって子供を導く義務があるのだ。

 

乱戦エリアから距離を取り、ガンキャノンの砲を前に向けて索敵する。

出来れば経験値の為に高レベル機を狙いたいが、

片っ端から撃破していった方が効率が良いとも思った。

 

索敵をしていると、ドムを発見する。

二機編成で遠距離からジャイアントバズによる砲撃を繰り返しているのを見て、

データ照合をするまでもなく昨日のグリーンミストとかいう部隊だと分かった。

 

「敵後ろ側に昨日のドムが居る。

 どうする、援軍を呼ぶか」

 

「ドム。ドムなら……自分にいい考えがある」

 

アートルム2のガーナがそう言って作戦を伝える。

ちょっとした小細工程度の戦法であったが、

それは確かに機体の特性を理解したものであった。

 

「ようし、ビッテン突破を図る!」

 

インパラの合図で四機はもっとも手薄な場所を突っ切る。

向かってくる敵のみに反撃し、出来るだけ余計な雑魚がまとわりつかないようにした。

他の敵は味方のジムに任せる。

 

ふと、航空機特有の音を聞いて上を見上げた。

空中では敵味方共に戦闘機も上がっていた。

ジオンの《ドップ》戦闘機や連邦の《TINコッド》戦闘機などだ。

ドップは高レベルになるとモビルアーマー《アッザム》に開発出来るし、

TINコッドもガンダム系列への通り道となる《コア・ファイター》になる。

多分それらを目指しているのだろう。

支援が期待出来るほどではないなと思いつつ、インパラ達は前進を続ける。

 

接近するアートルムチームに気付いたのか、

ドムは距離を取りバズーカの遠距離砲撃を続ける。

このままかわし続ければ弾切れも狙えるが、

そうすればあのドムはきっと撤退してしまうだろう。

あえて強襲を仕掛けるのも必要な事だ。

 

まずインパラのガンキャノンが攻撃を行なう。

敵機はキャノン砲とビームライフルをホバー移動により巧みに回避した。

ドムの長所は、熱核ジェットエンジンによるホバー移動である。

地面をスケートのごとく滑る事により、重装甲と高機動を両立した機体だ。

ガーナはドムを倒すにはその機動力を潰すべきだと考えた。

 

二機のドムはインパラに対して集中攻撃を行なおうとしているらしい。

ジム三機にガンキャノン一機という編成で、

インパラを指揮官機と判断したのかは分からない。

しかしこの中で最も鈍重な機体はガンキャノンであった。

 

ドムは市街地をホバー走行し接近して来る。

それを見たインパラは動きを止めてキャノン砲の照準に集中する。

恐らくドムのパイロットからは、インパラが機動戦闘を止めて

正面からの撃ち合いをしようとしている様に見えただろう。

 

先手を取る為ドムがバズーカを発射しようとした時、

彼らの横にあった高層ビルが倒れこんできた。

ドムに直撃する事は無かったが、

突然目の前に倒れてきたビルをかわす為速度を鈍らせる。

 

その隙を見逃さなかったインパラは、

倒れたビル越しにビームライフルとキャノン砲を連射した。

いくつかの攻撃はビルを突き破り、ドムの前面装甲へ命中する。

被弾したドムは跳躍し退避行動に移った。

ビル越しでは撃墜に至らなかったらしい。

 

もう一機のドムも、状況の不利を悟り後退しようとした。

だが高層ビルは前だけでなく後方にも倒れている。

この囲いから脱出するには、ジャンプして飛び越えるしかなかった。

 

スラスターを噴かし、跳躍する。

そのドムは着地した瞬間、ビーム、マシンガン、バズーカという

三種類の集中砲火を喰らって爆散した。

 

「珍しく上手くいったの」

 

「珍しいってどういう事だ!」

 

ガーナが提案した作戦は、ドムにジャンプを強いるというものであった。

なるほど確かにドムのホバー走行は厄介だ。

ならば、何らかの手段でそれを封じてしまえばよいのだ。

 

インパラが囮として交戦している間に、

マキ、ガーナ、そしてアートルム3のテーネが

ジムのビームサーベルで高層ビルに切り込みを入れる。

ドムが近づいて来たら、手で押すなりテーネ機のハイパーバズーカを使うなりして

ビルを横倒しドムの周辺を塞ぐ。

そうすればドムはビルを飛び越えるしかなくなる。

空中ではドムの機動性は活かされず、

着地した瞬間を狙い撃ち出来るという予定であった。

仮にドムが周辺の建物をバズーカで吹き飛ばし、強行突破するとしても

その過程は撃破するに十分な隙を生むはずだ。

 

この作戦で問題だったのは、

ドムがインパラを無視してアートルムチームを攻める場合だ。

彼女達の機体はマキが金色、ガーナが水色、

テーネが小豆色という目立つパーソナルカラーに塗装されていた為、

ドムが彼女達の行動に気付く危険性は高かった。

インパラは発見されたアートルムチームをどう助けるかまで考えていたところなのだ。

 

「あー、ガーナの作戦はいつも失敗してるのか」

 

「普通は成功しないの」

 

マキの口ぶりから、ガーナがどういう人物なのか予想がついた。

そもそも、自分にいい考えがあるという台詞は大概フラグだ。

 

「今回は良かったじゃないか! ドムが逃げるぞ!」

 

ガーナの叫びと共に、どこからか音声通信が入ってくる。

ミノフスキー粒子が濃くノイズは酷かったが、断片的に内容は聞き取れた。

コリーンの声で、カナルがやられたから救援をと言っているらしい。

 

「ソールチームがやられてる?

 あのチームがそうそうやられるとは思えんが」

 

「きっとゲルググでもいるの」

 

マキの冗談に笑って返そうとして、インパラは舌を噛んだ。

ドムのバズーカが脚部の腰に程近い部分に命中し機体が揺さぶられたからだ。

油断した、と思った。

もう一機のドムは損傷しているものの、まだ爆発はしていない。

後退しつつバズーカで反撃を続けていた。

 

アートルムチームが止めを刺そうと追撃する。

逃げられるか逃げられないかという時、ドムは胴体から爆発を起こして倒れこんだ。

それはアートルムチームがやったのでもなければ、インパラがやったのでもない。

ドムを撃破したのは、どこからか飛来してきた味方のTINコッド戦闘機だった。

 

「ふざけぇ! 横殴り!」

 

インパラは素の口調になって怒鳴った。

ネットゲームでは経験値の為、他人の獲物を横取りする事がある。

横殴りと呼ばれる行為で、好まれるものではない。

劣勢の時加勢するならまだしも、後一歩で撃墜というところでの横取りは

明らかに計算していたものである。

経験値を得たTINコッドはそのまま飛び去ろうとする。

インパラがビームライフルを威嚇射撃するも、まったく動じた様子は無かった。

 

「ぐぬぬ……」

 

「インパラさん、しょうがないの。

 それよりも、ソールチームのとこ行かなきゃ」

 

そう言うマキも、苦笑は隠さないでいた。

まさかたかが戦闘機にドムを横取られるとは思いつかまい。

ガーナも同じ様子であった。

 

「私は後退する。脚の付け根をやられたみたいだからな」

 

「了解なの」

 

そう言うと、アートルムチームはソールチームの援護へ向かった。

インパラはミデアまで後退しつつ、あのTINコッドのデータを見ていた。

あんな事されたのだから、何らかの礼はして貰わねばならない。

彼の腕も、悪くは無いようだったからだ。

 

 

 

「シャワートイレッツの栄光を掲げる為にッ!

 重装型評価成就の為にッ!

 イドラ隊よ! 私は帰ってきたァ!」

 

「冗談じゃないよ!」

 

アートルムチームがドムを倒す少し前、

イドラ隊ソールチームはその台詞を聞いていた。

何事かと声のする方を向くと、

グフ重装型が空高く跳躍しバルカンを連射しているのが見える。

パイロットは奇声を上げていた。

 

「ガトーとシーマの台詞……ロールプレイなの、かなぁ」

 

コリーンが苦笑しつつチーム内に通信を繋ぐ。

グフ重装型はバルカンで一機のジムを撃破してしており、

これを見たカナルが対抗心を燃やさぬかと予想する。

予想というよりも、確信に近いものだ。

 

「あの機体、エースですよ、エース!

 きっとカナルちゃんに喧嘩売りに来てるとな」

 

例のごとくカナルは思い込む。

ノイルからすれば、それはあながち間違いでもなかった。

お互い顔も知らないが、戦場の縁か何かが二人を繋ぎとめている。

コリーンが呆れた顔でグフを見やると、

その後方には昨日見た深緑色のザクが居た。

驚いてデータを見ると、

あのグフとザクゾルダートとやらは同じ部隊に所属しているようだった。

 

「カナル、多分あいつらは昨日のリベンジに来たんだ。

 あの濃い緑のザクはボクがやる」

 

「昨日の……ええっ、あの角付きのザクなのあれ」

 

「わかるんですか?」

 

カナルはあのグフ重装型が昨日戦った指揮官用ザクと同一人物だと気付く。

何故こんな少ない情報でそう断定出来たのかフラムが疑問に思ったが、

カナルとしては特に理由があったわけではない。

ただの直感である。

 

「受けて立ちましょう!」

 

カナルが言うと、ソールチームは前進し火器をグフ重装型へと向けた。

コリーンのキャノンとカナルのビームが放たれるも、敵のグフ重装型は障害物に隠れる。

 

「いぶしだします!」

 

フラムの高機動型ジムが跳躍し、

空中からグフ重装型を燻し出そうとする。

しかし、目の前で何かが炸裂しフラムのジムへ降り注いだ。

 

フラムは自分の機体がどれだけ脆いか理解している。

だから攻撃を喰らった焦りで、敵よりもまず損傷状況を確認してしまった。

その隙を突かれ、フラムは脚に被弾する。

どうやら当たり所が悪かったらしく、

着地は出来たものの走る事どころか歩く事も困難であった。

 

黄色いグフが接近し、ヒートホークを振り下ろしてくる。

この時、フラムは重装型に深緑色のザク以外の仲間が居た事に気付いた。

グフの攻撃をビームサーベルで受け止める。

一応ヒート系よりもビームの方が威力では勝る。

相手がグフタイプとはいえ押し返す事は可能であった。

 

脚が使えない以上、上半身で何とかするしかないと思っていたフラムだが、

銃撃を受ける事で完全に余裕を失う。

どうやら敵の隊員はもう一人いたらしい。

奴らは味方ごと私を仕留めようとしているらしいと。

 

側面からの銃撃により、胴体と頭を損傷した。

メインカメラに被弾したようで、画面がブラックアウトする。

フラムは暗転したモニターから目を離し、機体を跳躍させた。

四機目の敵を確認していないが、今は逃げるしかない。

跳躍の途中で爆発音と共に機体が揺れ、次に更に大きな衝撃がコックピットを襲った。

補助カメラに切り替えると、どうやら自分が墜落しただろう事が分かる。

 

「フラム、生きてるの!?」

 

「な、なんとか……補助カメラがあるから、ジャンプします」

 

コリーンの通信に返しつつ、ペダルを踏む。

その時、アラートが鳴り響きモニターに矢印が表示される。

敵からロックオンされているらしい。

機体を振り向かせると、

そこには昨日の陸戦高機動型ザクがヒートホークを持って突貫して来ていた。

 

「昨日……の、お返し」

 

相手からの音声通信。

敵のパイロットは、どうやら自分と同じく少女の様だった。

 

――次は、負けません!

 

その言葉を発する前に、

フラムの身体は機体ごとヒートホークにより両断されていた。

 

 

 

「今日の俺は……阿修羅すら凌駕する存在だッ!!」

 

カナルはその音声を、確かに聞いていた。

ガンダム世界に疎い彼女は、

それが機体が触れ合う事による接触回線によるものだと知らない。

しかし、相手の声が聞こえたというだけでよかったのだ。

 

彼女は悔しさより何より、この敵が自分より強かったという事。

そして彼の言動は格好良かったという事を感じていた。

当然この台詞がグラハムのものだと知らないわけで、

一般プレイヤーの名言として受け止めていたのだ。

 

酷い金属音と共に一瞬の激痛を感じる。

痛覚設定を忘れていた彼女は、全身が押し潰される感覚を

生まれて初めて体験しながら意識を失っていった。

 

 

 

「誰でもいいから、助けてよ!」

 

そう言うコリーンの口調は、それほど悲観してはいなかった。

それどころか、チームが自分を残して壊滅している現状を楽しんでいるかにさえ聞こえる。

彼女もカナルと同じで、敵は強いほどやりがいがあると感じている。

とはいえ、一人で数機を相手にするのはキツイので他のチームに救援要請を送っていた。

 

ザクゾルダートは接近戦、厳密に言えば本当の格闘戦を仕掛けてきた。

それはコリーンにとって望むところである。

彼女はキャノンタイプに乗ってはいるが、

射撃よりも格闘の方が性にあっていると感じていた。

それでもキャノンタイプに乗っているのは、何となくの好みである。

元々ジムキャノンだろうがガンキャノンだろうが、

支援機とレッテル貼りをされている機体が格闘に不向きだと誰が決めたのだ。

特に根拠は無いが、そういう発想が頭にあったのだ。

 

彼女はキャノンの反動を利用した回し蹴りすら扱ってみせる。

自分でも上手く出来たと思った。

だがゾルダートはそれすら立て直して見せた。

きっとよほどのエースが乗っているのだろうと思う。

 

ゾルダートは突進をかけてくる。

相撲だかラグビーだかのような組み合いになったところで

ゾルダートはコリーンのキャノン砲を掴み、それをへし折った。

ビームサーベルに手を伸ばさせるが、それも蹴り上げられる。

 

もしかしたら、自分は仲間の到着まで持たないかもしれない。

そう思いかけた時、ゾルダートは後ろに下がる。

今の押し合いで機器に異常が発生してくれたのならば僥倖だと思った。

だがそうではない様子だ。

ゾルダートは武装を全て捨て、外部スピーカーで呼びかけてくる。

 

「来いよイドラ。キャノンなんて捨ててかかってこい」

 

自分は芸人ではない。

そう思ったものの、このネタを前にして誘いを断るなど出来るはずがなかった。

この元ネタは、幼少の頃から見ていたのだ。

高揚感を感じながら、同じく外部スピーカーで返す。

 

「てめえなんざ怖くねえ!

 野郎ぶっ殺してやらぁぁー!」

 

さすがに女がぶっ殺すというのはどうかと思ったが、

ぶちころがすとか適当に改変しては興を削ぐに決まっている。

コリーンは叫びつつ、ジムキャノンを走らせた。

 

頭に血が上ってよく覚えていないのだが、

まず最初に自分達はクロスカウンターをやらかしたらしい。

その後派手な殴り合いが続き、止めにゾルダートはサマーソルトを放ったと記憶している。

 

――多分、これにも何か元ネタがあるんだろうな。

 

最後の蹴りを喰らったコリーンは、目の前の計器に頭を打ち付けた。

彼女はノーマルスーツを着ていなかった為、その時点で気を失う。

そして彼女の機体は派手に吹き飛び、爆散した。

 

 

 

「反応が消えた。……多分、全滅」

 

「嘘よ、あっちにはフラムがいるのよ。

 コリーンだっていれば、カナルだって無茶しないでしょうに。

 どっちにしたって実力はあるんだから」

 

コリーンからの救援要請を受け、他の3チーム全員が一堂に会していた。

機体を走らせながら、ルーナリーダーのリュイとステルラリーダーのシャイネが推測する。

 

「シャイネ、私達はただの暇人であって

 別に廃人でもエースパイロットでもないのよ。

 負ける事だってあるわよ」

 

「じゃあ、相手の方が廃人だったって言うの?」

 

「コリーンはドムやゲルググが出たって言ってなかったから、

 相手が特別強いってわけでも無さそうね。

 多分、僅差で負けたんじゃないかしら」

 

そうこう言い合っている内に、ソールチームが居たエリアに着く。

そこにはグフタイプとザクタイプで構成された五機の部隊が居た。

彼らの周りには多数の残骸が散らばっている。

敵部隊も、いくらか損傷を負っている様子だ。

 

敵部隊はイドラ隊の接近を知ると、機体を跳躍させて撤退していった。

直後、サクラのアッグが敵部隊が立っていた場所の地下から飛び出す。

恐らく、先行して奇襲を仕掛けるつもりだったのであろう。

サクラのアッグは再びドリルで地中に潜る。

それに続いてシャイネとクリフが機体の速度を上げた。

撤退する敵を追撃しようというらしい。

 

「待ちなさい! 今から追っても無駄よ。

 私達も撃つ物撃ったら帰りましょう」

 

「相手は損傷しているわ。

 離脱される前に一機ぐらいは――」

 

「敵陣深くに行ったら、帰れなくなる。

 それに私達もミデアで来ているのよ。

 戦線が崩れればこっちのミデアもやられるかもしれない」

 

最も、こちらのミデアまで敵が到達するという事は

敵が組織的に後方を襲撃するか連邦側が圧倒されるかのどちらかだろうから、

それほど確率の高いものではない。

しかしこちらが突出するとなれば、

戦場に着いたばかりの万全な敵と戦う頻度は多くなるだろう。

敵の母艦が密集している所に出くわせば形勢が逆転される。

 

シャイネはフラムと、クリフはカナルとフラムと仲が良い。

サクラもコリーンと一緒の事が多かった。

彼女達を初めとした何人かは友人の仇を取りたそうにしていたが、

年長者のリュイやラストがたしなめてそれを諦めた。

敵部隊の情報を確認し、イドラ隊はその場に居る敵機に射撃武器を連射して帰還した。

 

数日後、シャワートイレッツとイドラという

二つの部隊によるとばっちりを受けたプレイヤー達が

この戦闘をちょっとした噂にする事となる。

それは様々な憶測を呼んだが、その中に事実にほど近い一つの書き込みがあった。

 

曰く、腕は良いが変人のチームが両軍に居る、という話だった。

 

 

 

「嘘だったのか、あれは!」

 

帰還したイドラ隊とインパラは、フォイエンを加えて

ソールチームを撃破した敵部隊のデータを見ていた。

そこでインパラは怒りと落胆の入り混じった声を上げる。

ソールチームを撃破した敵部隊は、第一次降下作戦の時にやり合った部隊であった。

しかもそのシャワートイレッツ隊副長は松下であり、

彼は銀色の機体ではなく深緑色の改造ザクに乗っていたというデータだった。

 

インパラは自分が侮辱されたと同時に、

松下に相手にされてないのではという恐怖を感じた。

同じく銀色をパーソナルカラーとするライバルとなるはずであったが、

彼は自分にも銀色にも興味を失ってしまったのではないかと。

銀色は自分が貰うと言っておきながらそれを捨てるなど、とんでもない話だ。

 

「銀色がお前の物になったんだから、いいんじゃないか?」

 

「よくあるねぇわ! くそう、直接ぶん殴らないと分かんねえだろうな」

 

フォイエンは両手を広げるオーバーアクションを取りたくなるが、

さすがに幼稚な気がして目を細めるだけに留めた。

それにしても、この松下というプレイヤーは上手く改造したものだなと思う。

まだ正式サービス前だというのに、

ザクをグフ並みに強化出来るというのはそれなりに苦労したはずだ。

同じ陣営なら頼もしい人物だったであろう。

敵ではあるが、フレンド登録をしてみたいと思う。

 

「決めましたよ、シャワートイレッツ!

 これが私のライバルですよ、ライバル!」

 

撃破されたカナルなんかも、インパラと同じく対抗心を燃やしていた。

彼女は元々ガンダムオタクではないが、単純な勝負事とすればやる気が増したようである。

それはフラムとコリーンも同じらしく、フラムは高機動型ジムを再び生産し

更に機体性能を高めるようフォイエンに詰め寄っていた。

コリーンもジムキャノンでは力不足と感じたのか、CPU相手の経験値稼ぎに行っている。

恐らくガンキャノン辺りに開発するのだろう。

彼女の事だから、相変わらず格闘戦メインであろう事は間違いない。

 

イドラ隊の多数とインパラが打倒シャワートイレッツに盛り上がる。

どうやらインパラはイドラ隊に溶け込む事に成功したらしい。

元々イドラ隊はぬるい集団であるのだが、

共通の敵が作られた事により仲間意識に決定的な後押しが加わったと思われた。

 

フォイエンは役目は終えたなと安心した。

裏方ではあるが、潤滑油の役をやったと思う。

何がと聞かれると答えにくいのだが、

イドラ隊とインパラに関わる事により自己確立に近づいたと感じていた。

あるいは、これはジェネオン一の整備士になったと同じ位の成果なのかもしれない。

他人に認知される事が自己確立というのならば、そうであろう。

それは少し臆病が過ぎるのかもしれんが。

 

「――だから、主義を保つというのは自信を保つという事だ。

 例え自分を神格化するとしても、それを正しいと思えればそれは立つだろう」

 

「つまりインパラさんは自信が無いの。

 マキ達には、そうしてるんでしょ」

 

「……そうか? そう、いや、お前は何で解ったんだ?」

 

インパラとマキはわけの分からない会話をしている。

以前に哲学っぽい話をする約束をしていたらしい。

二人の話す内容がまったく理解出来ない事にフォイエンは肩を落とす。

 

(減るもんでもあるまい)

 

そう心の中で呟いたフォイエンは、イドラ隊の部隊ルームから去ろうとする。

その時、フォイエン宛てにメールが届いた。

送り主はオグレスからで、新機体ガンダムアライブの設計図が添付されている。

 

「はぁ?」

 

その設計図を見たフォイエンは思わず声を上げた。

内容がガンキャノンアライブの初期設定案よりも突飛だったからだ。

少なくとも正式サービスも始まっていない今、このような改造が出来るはずがない。

いや、仮に正式サービス後に機体改造やオリジナル機体の作成が拡張されたとしても、

ジェネオンのシステム内でこの機体を作れるという保障も自信も無かった。

それくらいには予想外の機体である。

 

「おいインパラ、オグレスさんからこんなメールが来たが、

 お前のオリジナル機体からいくらか設定を貰ったと書いてあるぞ。

 どういうこった」

 

インパラにそのメールと設計図を見せると、

おお、と声を漏らしてそれが当たり前かのような顔をする。

そしてメニューウィンドウを開き、操作した。

 

「昨日話してたじゃないか。

 オリジナル機体の設定をやり取りしたんだ。

 一応私が主導で作る予定だが、フォイエンにも付き合って貰いたい」

 

そう言うと、メニューから一つの設計図を開いた。

そこには銀色のガンダムタイプが描かれている。

オグレスと設定を共有しているのは本当らしく、いくつかの共通点が見受けられた。

だが、どちらかと言えばインパラの方が異常である。

彼の提案する機体は、MSの枠を超えていた。

それが良い事か悪い事かは別にして。

 

「ガンダムシルバー、手伝ってくれるな」

 

フォイエンは迷う素振りを見せたが、それは本心ではなかった。

インパラとイドラに関係出来るというのはそういう事である。

彼は自分を新しいタイプだとは思っていなかったが、

人に関わる事を漠然と大切な事だと判断出来ていた。

フォイエンは呆れた顔を作ると、インパラの胸を拳で小突く。

 

「相棒の相棒は、相棒だからな」






~後書き~
二章の連邦側のお話。

気付かれた方も多いと思いますが、
イドラ隊のキャラはガンダム関係無い他のゲームキャラをモデルにしております。
(詳しくは完結後に設定、裏設定として載せます)
本来ならばクロスオーバーとするべきなのですが、
一応ガンダムの小説であるので似た属性を持つ別人という書き方をしました。
また自分が版権キャラを書いた場合、「このキャラはこんな事言わない!」と
言われる可能性が高い事も関係しています。
キャラの見方は人それぞれとはいえ、自分は少し変わっているようで。
(例えばガンダムではカツやハサウェイが何故嫌われるのか理解出来ない)

以上の事情をご了承下さい。

2015年11月3日改正

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