ガンダムGジェネレーションオンライン   作:朝比奈たいら

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第一章『シャワートイレッツ降下作戦』

 

ガンダムGジェネレーションオンライン。

それがこのゲームの名前である。

 

限りなく現実に近い仮想空間を作り出すバーチャルシステムが普及した今日、

とあるゲーム会社が社運を賭して開発したバーチャルオンラインゲームがこれ、

通称ジェネオンだった。

 

ガンダムオタクである高校生、榎本亮は必然的にこのゲームを予約、購入した。

以降、彼は青春など知ったこっちゃなくジェネオンに没頭する毎日を続けている。

 

まだサービス開始して間もなく、

実装されているのはファーストガンダムの地球連邦軍とジオン公国軍のみである。

しかしジオン公国を何よりも好む者、

通称ジオニストである亮にはその程度の事は支障ではない。

彼はザクⅠからザクⅡに乗り換えられるまでプレイし、

イベント『第一次降下作戦』へ備えていた。

そして、前哨戦を終えて地球へ降下して行ったのだった。

 

 

 

「降りられるのかよ!」

 

ザクのコックピットの中で、ノイルは思わず叫ぶ。

咄嗟に原作の言葉が出てくるのはさすがマニアというところか。

ただ一つ問題があるとすれば、

このセリフを言ったジオン軍は作戦に失敗しているから縁起は良くない。

 

地上へ降下するジオンのHLVに向けて、激しい対空砲火が行われていた。

せっかく宇宙で被害が軽微だったのに、ここで落ちては意味が無い。

ノイルはHLVのハッチを開き、ザクを飛び降りさせる。

同乗していた味方にもそれを伝えようとしたが、

その前にHLVは対空ミサイルによって撃墜された。

 

プレイヤーが居やがるな、と予想する。

このゲームでは、人型兵器であるMS(モビルスーツ)以外にも

様々な兵器に乗る事が出来る。

それどころか、歩兵やメカニックとしてのプレイも可能だ。

CPUが操る対空兵器がこれほど命中精度が良いわけがない。

 

スラスターを噴かせてなんとか着地すると、

まず味方達にHLVから飛び降りるよう通信を送る。

後は手近な敵を叩きつつ全軍の降下を待つべきだろう。

ただ運の悪い事に、ノイルが降りた場所が荒野のど真ん中。

遮蔽物のまったくないこの場所ではMSの特性が活かされない。

 

MSというのはレーダーなどの電波を無効化するミノフスキー粒子影響下で、

その機動性による近接戦闘を行う場合に真価を発揮する。

その他人型の利点として手足を持つ事で高い汎用性と踏破性を持つ事が挙げられるが、

遮蔽物の無い開けた場所ではでかい的であった。

戦車砲に耐えられる程度の装甲はあるものの、

同じ箇所に集中して砲撃を受ければザクとて持たないだろう。

 

ノイルはなけなしのスモークグレネードを二つ投擲する。

煙幕がどの程度効果あるのかは分からないが、今は少しでも時間が欲しい。

ザクをしゃがませて攻撃をやり過ごしている内に、味方が着陸してゆく。

味方も状況は理解しているようで、

前線を突破出来る数が揃うまで姿勢を低くしてその場に留まっていた。

それでも敵《61式戦車》や固定砲台による砲撃で

損傷ないし大破する機体も続出していた。

 

しばらくして、単独で前進する無謀なザクが目立ち始めた頃、

やっと戦線を構築できるだけのザクが揃う。

さてここでどうするかと考えたものだが、

ノイルは咄嗟の思いつきとしてはそこそこな台詞を思い出す。

その台詞を近辺エリアの仲間に文章で送った。

すなわち、「固まっていけ! 戦いは数だよ兄貴!」である。

原作の名台詞を使ったのが功を奏し、

味方はノイルの提案通りに単独突撃を控える者が大半となった。

自分は指揮官の才能があるのかもしれないと錯覚しそうになる。

 

敵の先頭は主にジムや陸戦型ジムが大半であった。

我がジオンのMSがザクⅠやザクⅡであるように、

この時点での連邦軍の主戦力はジムであった。

そもそも原作では第一次降下作戦の時点で連邦にMSは存在しないのだが、

ゲーム上成り立たないということで最低限の機体が配備されている。

戦闘機や戦車しか操縦出来ないガンダムのゲームなど、ガンダムである必要が無い。

 

本来戦争後期に登場するはずのジムは、

同じく後期の主力MSとなるジオンの《MS‐09ドム》に匹敵するパワーを持つ。

しかしながら、ゲームバランスを取る為にある程度の調整が入り

性能はザクをわずかに上回るほどに過ぎない。

問題なのはパイロットの腕と機体のレベル、改造である。

 

このゲームは機体を改造する事ができ、その自由度は高い。

機体スペックによりある程度の制約はあるものの、

ザクに外部ジェネレーターとビームライフルを装備させるなどして

ワンオフの機体を作る事も可能である。

 

今はまだオープンベータテスト中なのであまり突飛で規格外な改造は実装されていないが、

ジェネオンの醍醐味はそれとなるだろう。

公式サイトにもデカデカと宣伝文句が並べ立てられている。

身体中至る所にキャノンやミサイルランチャーを追加したガンダムや、

宇宙空間を泳ぐ水中用MSなどの画像が載っていた。

 

ノイルはまだ機体の改造をしたことがない。

ゲーム内通貨である資金や資源はいくらか貯まっているのだが、

元々バランスの良いザクを思いつきで弄くるのは得策ではない。

とりあえず、指揮官用ザクである《MS‐06S》を手に入れるまで

大幅な改造は控えるつもりであった。

 

もちろん、今のザクを改造しているプレイヤーも多数存在する。

最前線に仁王立ちして両手に装備されたザクマシンガンを乱射するザクⅡを見たノイルは、

思わず下がれと叫びそうになった。

だがそのザクは機動性を殺す代わりに前面装甲を強化しているようで、

マシンガン装備のジムと正面から撃ち勝って見せた。

なるほど、バランスを壊していても長所が活かせる状況なら問題ないわけだ。

 

芸のない正面突破を試みるジオン側に対し、

連邦側も鉱山地帯の塹壕に陣取ってはいるもののそれ以上の戦術は無いかのように見えた。

ノイルは前方のジムや61式戦車などの兵器群に対し

ザクマシンガンを単発射撃する。

敵の総数が分からない為、弾薬の浪費は避けたい。

決して装甲の薄い背面を晒さず、正攻法で味方機と共に前進する。

 

少しでも狙いをそらす為に斜め移動するのだが、

この時点でノイルは自分のザクの動きが予想以上に鈍い事に気付く。

このザクは初期量産のC型だ。

まだ条約によって核兵器が禁止される前の機体であり、対核装備を備えている。

核が禁止されたとなれば、この対核装備はただの余分なデッドウェイトである。

その上、元々地上での活動をメインと据えた機体ではない為、

ザクC型の動きはジムと比べて緩慢なものであった。

 

自分のザクに比べて素早いザクがいるが、

あれは通常量産型のF型か地上仕様のJ型だろう。

もしくは、改造によって陸戦向けにカスタマイズしたものか。

何にせよ、あれら陸戦型をメインに据えて援護しつつ進むのが得策だろう。

そう思い、出来るだけ味方機と連携を取りつつ突撃をかける。

ノイルのマシンガンがジムの頭、メインカメラを捉え、

混乱するジムに味方のザクバズーカが止めを刺した。

 

ジオン側もかなりの損害が出ていたが、

連邦は先程宇宙でHLVを失った事と鉱山基地を守る為全方位に戦力を配置した事により

ノイル達が攻めるエリアの趨勢は決していた。

このまま掃討戦を行いつつ各機を集結させようかという時、

モニターに一つの文章が流れた。

 

――ザク3機、鉱山基地中央にて敵に包囲されつつあり。救援を

 

運悪く敵の中枢にHLVが落ちたのか、

後先考えず突撃した結果孤立したのかは分からない。

どちらにせよ、絶望的な状況である事はすぐに把握出来た。

普通なら無視するべきだろう。

現実でもそうするべきだし、ましてやこれはゲームだ。

本当に人が死ぬわけでもなし、ちょっとデスペナルティを受けてもらうだけである。

 

だが、そういうわけにもいかないのがノイルという男であった。

彼はジオニストであり、この世界に感情移入している。

味方の危機とあっては助けて当然、やらいでかという気合の入りようだ。

倒れた味方機からマシンガンのマガジンとザクバズーカを拾い、

弾数を確認するとノイルは単身救援へと向かった。

 

途中で、味方を連れてくべきだったかなと後悔しかける。

音声にしろ文章にしろ通信は送れるものの、

オンラインゲームのプレイヤーというのは大抵自分の利益しか考えない。

個々で動くプレイヤーを結託させるのは、

先程の様な大局的な戦法に関わる事態でない限りは難しい。

 

それでもジオン軍人のモラルを信じ、ノイルは文章で通信をばらまく。

「敵中枢で孤立するザク部隊を助ける。支援を!」と。

期待は、出来ないだろうが。

 

 

 

ザクC型が出せる全速力で急行するも、途中でジムと出くわす。

ジムはビームサーベルを抜き突進してくるが、いかんせん距離が開きすぎていた。

先程拾ったバズーカを喰らわすと、一発でそのジムは動けなくなる。

それもそのはず、敵は訓練用のジム、

《RGM‐79Tジム・トレーナー》であったからだ。

この訓練用ジムは通常機よりもいくらか性能が劣る。

 

奴が後方に引きこもっていたのか、

MSの性能的不利を考えて優勢になってから前線へ出ようとしたのかは分からないし、

今のノイルにはどうでもいい事であった。

このC型では救援に間に合わんかもしれんという事しか頭にない。

 

「まだ、生きててくれよ……」

 

声に出して言う。

この瞬間、ノイルはこれがゲームの中である事を完全に忘れている。

 

祈りつつ進むと、やがて銃声が聞こえた。

ということは、まだ彼は生きているのだ。

 

その場所ではザクが一機、基地を障害物として善戦していた。

いや、奮戦というのが正しいのかもしれない。

彼の周囲はジム3機によって包囲されていたが、

周辺に散らばるジムの残骸からすると彼はかなりの数を撃破している事となる。

ノイルは一機のジムを不意打ちのバズーカで粉砕しながらザクに接近する。

 

「助けに来た! お前だけか!?」

 

ザクに通信を繋ぐ。

彼はモニターにコックピットを映した。

 

「本当に来るとは……感謝する。

 私の他に後二機、後ろで持ちこたえているはずだ」

 

彼ではなかった。奴は、女だ。

 

水色の髪と目をした自分と同い年くらいの少女は、

この状況だというのに涼しげな表情を崩さずに言う。

 

「退路は?」

 

「俺が通ってきた道が開いてる」

 

「ならば、潮時だな」

 

彼女は手にしていた砲、戦車砲を流用したマゼラトップ砲を構えると

建物から身を乗り出して射撃、一機のジムを吹き飛ばした。

 

よく見ると、彼女のザクは随分と重武装。

というより、フル装備もいいとこである。

通常のF型ではあるが、

マシンガン、バズーカ、マゼラトップ砲その他を装備したその姿は物々しさ満点だ。

 

「下がっていろ」

 

彼女は手榴弾であるクラッカーを投げ、真上へとスラスターを噴かし跳躍。

空中でロケット砲シュツルムファウストを最後のジムへと放ちつつ

機体の各所から煙を吹き出させた。

故障ではない。

煙と共に飛び出した物体は空中で炸裂し、周辺へ鉄の雨となり降り注いだ。

対人用跳躍散弾地雷、Sマインだ。

これで基地周辺の歩兵は全滅であろう。

 

第一印象。まずこいつは恐ろしい女だ。

 

「援軍なんていらなかったんじゃあ」

 

ノイルが気の抜けた声で言う。

 

「いや、退路を探していたところだ。

 仲間のところへ向かう。ついてきてくれ」

 

いまいち何かが納得出来ない表情を隠さず、

ノイルは走り出した彼女のザクを追っていった。

 

 

 

彼女に付いて行きながらデータを見てみる。

本人が非公開設定にしていないのならば、

敵だろうが味方だろうが大まかなデータは見れるのだ。

 

データを見るに、随分やり込んでいるプレイヤーのようだった。

彼女のザクはF型だが、レベルは高い。

これなら改造してF型のまま使い続けてもしばらくは第一線で活躍出来るだろうし、

他の機体に進化させられる開発システムで

指揮官用ザクや次期主力機の《MS‐07グフ》にアップグレードする事も出来るだろう。

 

名前は『ルミ』とあった。

水色の髪と目はキャラの外見を弄っているのだろう。

現実と同じ外見にする事も出来るが、

ゲームの中ぐらいロールプレイ(なりきり)をしたい人は多い。

ノイルとて髪と目は赤色に設定している。

 

ルミのザクはフル装備だったのでC型のザクでも付いて行く事は出来た。

しばらくすると、鉱山の山々を盾に応戦する三機のザクが見える。

 

「む、知らぬのが一機居るな。

 銀色のザクⅠか」

 

「銀色?」

 

見ると、通常のザクⅠ、砂色のザクⅠ、そして銀色のザクⅠが

遠巻きに射撃してくるジムにマシンガンで応戦している。

ザクマシンガン以外にもジムが使う100ミリマシンガンを持っているのは

倒した敵から奪った物だろうか。

そしてノイルは銀色のザクⅠに見覚えがあった。

あの機体は、HLVに突撃をかけて無事生還した奴だ。

 

「そこの銀色! さっき一緒にHLVに突撃しただろ!」

 

そう言うと、銀色のザクは驚いた口振りで音声通信を返してくる。

 

「あの時のザクか? センチメンタリズムな運命だなぁ」

 

確かに、こういう縁は気分が高揚する。

戦闘が終わったらフレンド登録するのもいいかもしれない。

もう少しレベルが上がり実力がついたならば、

どこかの部隊(クラン)に所属するのもいいとも思う。

 

「宇宙で派手に突っ込んだのは君達だったか……

 いや、まずはここから退こう。

 セイレム、スミレ、彼が抜けてきた退路から逃げるぞ」

 

「勝てそうとは思うけどね」

 

『スミレ』と呼ばれた通常のザクⅠが言う。

これだけの戦力ならある程度は戦えるだろうというのは理解出来た。

なら、敵の戦力がいくらかである。

 

「敵は何機だ?」

 

聞くと、『セイレム』と呼ばれた砂色のザクⅠから返事が来る。

彼女のデータを見てみたが、どうやらザクⅠを陸戦仕様に改造した機体の様だ。

機体名は、《陸戦型ザクⅠ》とあった。

 

「120ミリ砲……の、ザニーを二機支援に置いてる。

 後は隊長機らしい銀色のライトアーマーが一機。

 他のジムは全部壊したわ」

 

「ライトアーマー!? そいつがエースって事か。

 ……ギャリー・ロジャースが乗ってるわけじゃないよな?」

 

「NPC……じゃ、ない」

 

《RRf‐06ザニー》はジオンのザクを連邦が鹵獲し、実験機とした機体である。

これが後にジムとなるらしいのだが、

だとしたらこのザニーはジム以下の性能であるはずだ。

注意点としては、120ミリの低反動キャノン砲を持っている事ぐらいであろう。

 

しかし、《RGM‐79Lジム・ライトアーマー》は別格だ。

これは通常のジムから可能な限り装甲を削ぎ落とし、

高機動による一撃離脱に特化した玄人向けの機体である。

普通、この機体を扱うプレイヤーはほとんどいない。

レベル的にまだ普及していないのもあるが、

このライトアーマーはマシンガンの一発二発でも致命傷になる。

武装も専用のビームスプレーガンとビームサーベルが一丁のみ。

それならば、陸戦型ジムの方がはるかに丈夫で武装も豊富だ。

そのライトアーマーを使いこなすとなれば、

そのパイロットは相当な実力者であるだろう。

特に機動性を活かした格闘戦は脅威だ。

 

ちなみにノイルの言った『ギャリー・ロジャース』とは

プラモデルなどのデザイン企画『MSV』によって作られたキャラクターである。

このゲームではNPC

――ノン・プレイヤー・キャラクター、

つまりはプレイヤーでなくコンピュータが操作するキャラクター――

も登場するが、あのライトアーマーはギャリー・ロジャースの乗機ではないらしい。

 

「何とか落とせないか?」

 

銀色のザクが言う。

原作キャラでなくとも、この時点でライトアーマーを使ってる様な

エースパイロットに打撃を与えられれば戦況も有利になるし、

レベルもその分上がるだろう。

 

「ふむ。当てられれば何とかならんこともないが、

 あれが廃人だったら目も当てられん事になるな」

 

言い合っている内に、敵が前進してくる。

数的にはこちらが有利であるが、後はパイロットの腕次第だろうか。

 

「どの道ライトアーマーには追いつかれる。

 近寄ったら、ショットガンで何とかやってみるか」

 

銀色のザクはそう言うと、

崖から上半身を乗り出してマシンガンを射撃する。

ノイルもそれにならったが、どうやら相手は連携が取れているらしい。

ザニーに陸戦型ジムが持つクローシールドを持たせ、攻撃を防ぎつつ前進してくる。

ライトアーマーも通常型の盾を持ちザニーの後ろに隠れていた。

 

「ザニーを崩さにゃあね!」

 

スミレの言う通り、まずは盾役のザニーを行動不能にするべきだ。

ライトアーマーに当てられる状況を作らねばならない。

ノイルがザニーの脚を狙ってバズーカを射撃する。

さすがにザク五機分の射撃は耐えられなかったのか、

前列のザニーは損傷を受けて転倒した。

これならライトアーマーに射線が通ると思いきや、

ライトアーマーはザニーを踏み台に跳躍し一気に距離を詰めてきた。

 

「ザニーを踏み台にしたぁ!?」

 

ノイルと銀色ザクの声がハモる。

ライトアーマーは銀色ザクに対してスラスターを噴かし、

盾による体当たりを試みた。

銀色のザクⅠと銀色のジム・ライトアーマーが衝突し、

金属の悲鳴を上げながら数メートルの崖を落下する。

ライトアーマーがザクに馬乗りになる形となった。

敵はこう重なっていては援護射撃が出来ないと確信したのだろう。

ビームサーベルを抜き、銀色ザクに止めを刺そうとする。

 

敵にとってもノイルにとっても予想外であったのは、

セイレムのザクが銀色ザクもろともライトアーマーに

ショットガンを叩き込んだ事である。

味方ごと撃つと思わなかったのか、

サーベルを持っている右腕に直撃を受けたライトアーマーは

慌てた様子で飛び退いた。

何にせよ、この時点で彼の生死は決まっていた。

生還したいのなら、彼は銀色のザクという盾を捨てるべきではなかったのだ。

 

銀色のザクがスラスターを噴かして先程落としたショットガンを掴むと、

それをライトアーマーに向けて連射する。

脚に被弾したライトアーマーは転倒。

スプレーガンもサーベルを抜く時には捨てていたし、

サーベルもセイレムが放った弾丸により右手ごとどこかへ吹っ飛んでいた。

 

「銀色は私のだぞ!」

 

ライトアーマーが外部スピーカーで叫ぶ。

通信は繋いでないので顔は分からないが、男の声であった。

 

「ざぁんねんでした。銀色のエースは自分が貰います」

 

銀色のザクが同じく外部スピーカーで返す。

彼らは銀色をパーソナルカラーとしているのだろう。

ノイルはジオンの銀色と連邦の銀色で分ければいいのではないかと思ったが、

空気を壊すような気がして口にしなかった。

 

「うう、覚えたぞ松下太白星!」

 

どうやら相手はデータを見たらしい。

銀色ザクのパイロット『松下太白星』は相手にならい、名前を参照する。

 

「そっちは……『†白銀のインパラ†』って、これは酷い厨二」

 

唐突に、これが現実ではなくネットゲームだと思い知らされる。

それでも俺の勝ちだと、松下太白星は白銀のインパラとやらが乗る

銀色のジム・ライトアーマーのコックピットに向けて

近距離からショットガンを撃ち放した。

 

 

 

「いやぁ、何とか死なずに先生きのこれたなぁ」

 

「ノイル君に感謝だな」

 

オデッサ基地の一角で、ノイル達は作戦を終えていた。

 

ルミ、セイレム、スミレの三機は同じクランに所属しているらしい。

HLVで降下した時、対空砲火によりHLVは敵陣中枢に落下してしまったとの話だ。

どうにかして包囲網を抜けたかったが、

最初は敵の数が多くとても突破出来る状況じゃない。

ある程度数が減った時、救援要請と共にルミが退路の確保に向かった。

同じく孤立していた松下太白星も加わって、

あのライトアーマー隊と戦っている所にノイルが現れたという事だ。

 

あの後、五人はノイルが来た道をそのまま後退していた。

退路を断たれる可能性もあったのだが、

事前にノイルが味方へ向けて通信を送っていた為、

前進して来た味方達によって後退は容易なものとなっていた。

それからしばらくして、この第一次降下作戦が成功したとの知らせを聞く。

このイベントは、ジオン側の勝利に終わったのであった。

 

ノイル達各機体の損傷は軽微。

セイレムに敵ごと撃たれた松下は機体の左半身に損傷を負っていたが、

大破するほどの傷ではなかった。

 

「まあまあよかったんじゃあない?

 あれだけ敵倒したからレベルも上がったし」

 

スミレの言う通り、彼女達のザクは派生機に開発出来るほどの経験値を得ていた。

J型と言わず、指揮官用かグフにするか。

何にせよこの作戦で彼女達は他のプレイヤーをかなり引き離した事になる。

ノイルはというと、指揮官用のS型に少し届かぬ程度のレベルであった。

このくらいなら少しCPUを相手にすればすぐ上がるだろう。

 

「まあ、楽しかったよ」

 

ノイルは自分の言葉とは裏腹に寂しさを感じていた。

オンラインゲームは一回の試合が終われば後は解散だ。

この面々とは、いずれまたどこかで会うだろう。

相手が飽きて辞めていなければだが。

 

「そうだな。楽しかった。

 ならそれは、捨てるべきでないと思う。

 というわけだ」

 

ルミの言葉にノイルは首を傾げる。

というわけ、とはどういうわけだろうか。

 

「縁は大切にという事で……ノイル君、松下君。

 もしよろしければ、私達の部隊に入らないか。

 一応私は部隊長をやっているのでね」

 

背筋が震える自分に気付いて、ノイルは息を飲んだ。

願ってもない話なので歓声を上げそうになったが、必死に堪えて冷静な声で返す。

 

「マジか? 俺で良いなら、こちらとしても嬉しい」

 

「自分も。センチメンタリズムは好きなんだよ」

 

人間素直が一番。

本音だけは言っておくものであるとノイルは思う。

二人が了承すると、ルミは微笑を見せて歓迎した。

 

「なら決まりだ。

 ようこそ、『シャワートイレッツ』へ」

 

「……何だって?」

 

「部隊名だろう?」

 

何の問題ですかと言わんばかりのルミの表情に、ノイルは頭を抱えた。

セイレムは無言だし、スミレと松下はからからと笑っている。

世の中こんなもんだと、ノイルは自分で自分を納得させるのであった。







~後書き~
2015年9月25日改正

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