ガンダムGジェネレーションオンライン   作:朝比奈たいら

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第六章『オデッサの友人』(1)

 

連邦軍宇宙基地、ルナツーは厳戒態勢に入っていた。

それは近々行なわれるイベントを考えれば当然の話かも知れない。

ルナツー司令官のワッケイン少佐は、小惑星を改造した基地内から

周辺に展開する連邦部隊、及びジオン部隊の両者を眺めていた。

彼我の戦力差は明らかに連邦優勢に見える。

少なくとも、数だけでいえば到底負けるとは思えない程度の差はあった。

 

「この世界は本物ではない。だからこそ、現実の様な悲惨な光景を見る事も無い。

 イベント戦で我々が死亡……ストーリー上の削除が行なわれる可能性はあっても、

 そうでない戦いでNPCが死ぬ事は無い。

 少年兵すら、遊び感覚で戦場に投入する事が出来るのだ。

 しかし、いくら戦えど戦えどそれは本物の人間にとってのスパイスでしかない。

 ギレン・ザビではないが、プレイヤーを盛り上げる為でしか我々に存在価値は無いのだな」

 

「寒い時代、とお考えで?」

 

「戦って無残に死ぬのと、存在意義を他人に決められて生きるのとでは

 いったいどちらが不幸なのかな。

 我々はその両方を体験しているわけだが」

 

ワッケインは副官にそう返すと、胸のポケットから煙草を取り出す。

ジェネオン世界に生まれる前、原作の記憶では特に愛煙家というわけではなかったが、

こんな世界に生まれたNPCの数少ない娯楽がこれであった。

煙草を口にくわえ、オペレーターに指示を飛ばす。

 

「ルナツーを抜かせなければいい。

 中央の艦隊は主砲4連斉射後に後退させろ。

 両翼の艦隊は輪形陣を維持。追って指示を出す。

 モビルスーツ隊に防衛線を張らせ、敵の侵攻を阻止。

 迂回する部隊には、第75から79MS中隊を遊撃に当たらせる」

 

「司令、ワッケイン司令!」

 

「問題無い。人死にが出ないのだから、正面は数の多く安価なモビルスーツに任せる。

 あまり頼るのもなんであるが、それなりの人材も割いてあるからな」

 

「いいえ司令。私が言いたいのは、戦術の良し悪しではなく常識の良し悪しであります。

 ここは禁煙なんですよ」

 

 

 

シャワートイレッツ隊とグリーンミスト隊はルナツー攻撃に参加していた。

この作戦はジオン軍NPCが主導で行なっているものの、多数のプレイヤーも参戦している。

ルナツー基地はジオン公国サイド3から見て正反対、地球の裏側に存在する基地だ。

だからジオンにとって、この基地を攻略する必要性は必ずしもあるわけではない。

戦略的価値の無い基地に攻撃を仕掛けるのには、ある理由があった。

今日開始されるイベント戦である。

 

ファーストガンダムのアムロ・レイは民間人であった。

彼が住んでいたサイド7に連邦の新造艦、《ホワイトベース》が入港した事から、

サイド7は赤い彗星と異名を持つ『シャア・アズナブル少佐』の部隊に攻撃を受ける事となる。

戦火の中、アムロは偶然にも新型MSガンダムを発見し、それに乗り込むのだ。

 

そのサイド7はルナツーの後ろにある。

ジオン側が考えたのは、ルナツーを突破しサイド7へ到達。

原作通りのイベントを起こさず、事前にガンダムを破壊してしまおうという作戦であった。

後にジオンのエースパイロットをことごとく撃破し、

戦局を変えてしまうほどの力を持ったガンダムとアムロを今の段階でどうにか出来れば

ジオンの未来も大きく変わるだろうとの話だった。

 

もちろん連邦も黙ってはいない。

正史通りに進めれば、連邦はジオンに勝利するのだ。

イベントを成功させる為、連邦軍はルナツーに防衛ラインを引いた。

こうしてルナツー周辺は大規模な戦場と化したのである。

 

トイレッツとミスト隊はヨーツンヘイム級を足に、戦線へと到達した。

既に艦隊は砲撃戦を終えてMSによる競り合いを始めている。

トイレッツ達は機体を出撃させ、近接戦闘に参加すべくスラスターを噴かして向かった。

各隊は編隊を組み、お互いの位置を把握する。

 

「よし、今日もぼちぼちするとしよう」

 

「まぁそうだな。いつも通りだ」

 

ルミと松下がそう言ってみせる。

既に彼らにとってジェネオン世界で戦争を行なうのは日課であり、

オープンベータからプレイしている彼らはそろそろこの世界に慣れてきていた。

アップデートで仕様変更がなされても、MS戦を行なうのは同じだ。

まだまだ先は長いので飽きたというわけではないが、

緊張感よりも娯楽としての感覚が勝っているのは必然的な事である。

 

慣れたといえど、ジェネオンでの生活に変化が無いわけではない。

その証拠は、ノイルとセイレムの機体に現れていた。

二人は以前とは違う新型機に乗り換えていたのだから。

 

セイレムの機体は当然ながらリックドムである。

ノイルを囮に生き残ったおかげで、無事開発が完了した。

この件に関して、ノイルは話題をぶり返すような事をしていない。

思春期の男の子はええかっこしいをしたいので、

女子のセイレムを責めるような真似は出来なかったのだ。

 

そのノイルは今、恐らくトイレッツ隊で一番性能の良い機体に乗っている。

高機動型ザクから開発したのは、ジオンのザクやドムに代わる主力機。

一説にはガンダム並みの性能を持つと言われる、《YMS‐14先行量産型ゲルググ》だ。

ノイルは高機動型ザクの経験値をひたすら稼ぎ、

間の《MS‐06R‐2高機動型ザク後期型》を経由してやっと開発にこぎつけたのだった。

 

ゲルググの開発を急いだのには理由がある。

一つはとある作戦に高性能機が必要だった事。

もう一つは、インパラやオグレスのガンダムを見て

それに匹敵する機体を作らねば対抗する事は出来ないと判断したからだ。

ノイルがこれを開発出来たという事は、

既にドムやゲルググは上級者だけが持つ最新鋭機ではないだろう。

中堅どころもそろそろ高性能機を所持していてもおかしくはないし、それは敵だって同じ事だ。

下手すれば、一年戦争が終わる頃には

プレイヤーの全員がガンダムやゲルググに乗っているかも知れない。

 

他のトイレッツメンバーは以前と変わらない機体に乗っている。

ただし松下のザクゾルダートは、

彼が発明した武装エレクト・ピックを装備する事で一応の完成を見せた。

本来なら喜ぶべき事であろうが、松下はいまいち満足していない。

ザクS型の改造では拡張性に限界があり、これ以上のスペックアップは不可能だ。

一応グフ並みの性能が出せる時点で改造機としては優秀なのだが、

ガンダムタイプを相手とするには少し力不足であろう。

そう思う根拠に、前回インパラに一瞬で撃破された事を引きずっていた。

 

そもそも松下は、オープンベータ中にザクゾルダートを作る予定は無かったのだ。

本当はもっと高性能な機体に改造するはずだったのが、

オープンベータ時は改造の自由度が低かった為実現しなかったのだ。

正式サービスが始まった今日では、ゾルダートを超えるオリジナル機の作成が可能である。

しかし、仮に今考えている設計案に基づいて機体を作ったとしても

ガンダムタイプより高性能な物にはならないであろう。

だから松下は自分の不器用さに悩んでいる。

誰か優秀な技術者の助けを借りられれば、ゾルダートよりも良い機体が作れるはずだった。

だが嘆いていてもしょうがないもので、松下はこのザクゾルダートを使い続けていた。

 

「それにしても、ミスト隊。

 シェランも思い切った選択をするもんだな」

 

「そう……そうですか?

 スペック的にもプリティニズム的にも正解だと思いますが」

 

「プリティニズムって何ぞや!?」

 

トイレッツ隊の機体が成長すると共に、

グリーンミスト隊の機体もそれなりのものとなっていた。

地上でアッガイを操っていたシェランは今回、

宇宙戦用に《GPB‐04Bベアッガイ》を使用している。

これは『模型戦士ガンプラビルダーズ』という

ガンダムのプラモデルを物語の主軸としたアニメに登場したMSで、

ガンダムをまったく知らない少女が見た目の可愛さでアッガイのプラモを選び、

突飛な改造を施した機体だ。

ビームが出る縦笛やミサイルを搭載した赤いランドセル、

(MS用のコンテナという意味ではなく、小学生の通学用の物)

他にも目がメガ粒子砲となっているなど、遊び要素の多い機体である。

 

遊びの改造とはいえ、機体スペックはそれなりに高い。

仮にもビーム兵器を装備しているわけであるし、

通常のアッガイと違って宇宙空間での活動が可能である。

シェランの言う通り、見た目もコミカルだ。

それを可愛いと呼ぶかどうかは、松下には理解出来かねたが。

 

ケオルグとビガンの二人は、地上でのドムに引き続き宇宙でもリックドムを使っていた。

これは単純に性能を見て選んだもので、レベルが上がれば他の機体に変えるつもりだ。

ただ、この二人はセイレムより早くにドムとリックドムを手に入れていた為、

彼女は大いに嫉妬する事となる。

これで二人が再びセイレムに先駆けて

《MS‐09R‐2リックドムⅡ》でも開発しようものなら、

彼女からの理不尽な嫉妬を受け止めねばならない。

ビガンはその事情からゲルググタイプへと開発先を移すつもりであったが、

ケオルグは逆にセイレムを出し抜くようにしたがっていた。

彼は40代後半だが、大分大人気ない人物なのだ。

 

その他、フェクトは変わらずザクキャノンに乗り、

クルネはザクS型から《MS‐06FZザクⅡ改》に開発している。

中でもBタイプと呼ばれる物で、頭部の形状がフリッツヘルム型になっていた。

『統合整備計画』というMSの部品や操縦系統の規格を統一する計画で生まれた機体であり、

従来のMSよりも生産性や整備性、機種転換のしやすさが向上している。

ザク改は一年戦争におけるザクの最終型であり、その性能はドム並みとも言われている。

S型で異常な戦果を挙げられたクルネが乗るのだから、

当然この機体に変えた事で更なる一騎当千ぶりが期待されていた。

 

かくして、両部隊は確実に戦力を増強しつつある。

だがそれは他の陣営とて同じ事だ。

各員が戦闘エリアへ到達すると、敵陣には通常型ではないジムの派生機も目立って見えた。

トイレッツとミスト隊は編隊を維持しつつ、戦線へ突入する。

 

「新型と言ったって!」

 

ノイルのゲルググがビームライフルを放つ。

ビームはジムの性能向上機、

《RGM‐79GSジムコマンド宇宙戦仕様》の胴体に命中する。

こちらも新型のゲルググだとはいえ、

カタログスペック的にはガンダムを超えるジムコマンドへ初弾を命中させられる程度に

ノイルのパイロット能力も成長していた。

二発目のビームを直撃させると、ジムコマンドは大破する。

 

やはり、ビームライフルを装備したのは正解だとノイルは思う。

マシンガンも悪くないが、撃破するには多くの命中弾が必要だ。

その点ビームは一発の威力が高く、分厚い装甲でも貫徹出来る。

唯一問題があるとすれば、エネルギー切れが早いという事だろうか。

 

ゲルググが前に出てきたのを見て、やや後方に居たジムがそれに照準を付ける。

その機体、《RGM‐79SCジム・スナイパーカスタム》は

名前に反して完全な狙撃用MSではなかった。

エースパイロット向けの機体であり、全体的な性能が引き上げられている。

 

ジムスナイパーはノイルのゲルググに向け、狙撃を行なおうとする。

しかし精密照準スコープを覗いて狙撃態勢に入っていた為、周囲への視界が狭まっていた。

ジムスナイパーのパイロットは

側面に回り込んだルミの有線式メガ粒子砲に気付かず直撃を喰らう。

咄嗟にスコープを外して索敵するが、ルミを発見する前に二射目を喰らって爆発した。

 

「これは経験値が美味い」

 

「そう思うのは、上級者様だけだって。

 俺みたいな平凡なパイロットには!」

 

ジムコマンドと射撃戦を行なっていた松下が叫ぶ。

今回、ゾルダートのショットガンは両手ではなく左手のみに装備されていた。

90ミリのブルパップ・マシンガンを避けつつ、ジムコマンドに接近を試みる。

ショットガンを放つと、散弾はジムコマンドの右腕に命中し、マシンガンを吹き飛ばす。

偶然のチャンスに、松下はゾルダートの右手を握らせる。

これはガッツポーズという意味ではない。

 

「モードセレクト、インファイト! エレクトピック!」

 

ジムコマンドに接近し、右腕をコックピットに叩き込む。

直後、ゾルダートの右腕部から二つの突起が飛び出した。

突起はパイルバンカーとなり、ジムコマンドのコックピットを貫く。

そして突起から高圧電流が流れ、ジムコマンドは電気系統を破壊されて機能を停止する。

松下が機体にずっと付けたがっていた武装であった。

 

「ハーハァ! やっぱり俺は秀才かも知れん!」

 

「でも、それってヒートロッドの方が長くて便利ですよね?」

 

丁寧口調で直接的な皮肉を言うスミレに、松下が沈黙する。

 

「っていうかそれ、ジェットマグナムのパクリじゃあ――」

 

「やめろォ! オマージュだ、オマージュ!

 俺達ロボットマニアには、設定を受け継いで後世に伝える必要がある!

 何でもかんでもパクリ扱いする世の中はあかんて!」

 

「どうでもいいけど、セイレムの奴はどこいった?」

 

ノイルがセイレムを探すと、リックドムのジャイアントバズで

ジムタイプを二機ほど撃破しているのを見かける。

やはり、彼女の実力はトイレッツの中でも一番に位置するだろう。

 

「やるな、もう二機か」

 

「今の……で、四機目。次五機目」

 

「ちょっと何言ってるか分かんないっすね……」

 

リックドムを手に入れたセイレムは水を得た魚として、

今までより遥かに生き生きしているように見えた。

彼女ならば、本当にドムだけでジェネオンを最後まで生き残れるかも知れない。

ゲームオリジナルの新型ドムなどが登場するとしたらどうなるか、

考えただけでもおっとろしいものだ。

 

セイレムを始め、シャワートイレッツ隊は優勢を保っていた。

しかし彼らは、敵を撃墜するのが以前より難しくなっていると感じる。

松下は二機目のジムコマンドと接敵するが、敵はショットガンをことごとく回避した。

やはり日が経つごとに敵プレイヤーの実力も上がっている。

これは下手すればあっさり落とされるやもなと、松下は自分のパイロット能力を呪った。

精神的に優れた秀才でも、MSが上手く動かせるのとは別問題だ。

 

「スミレ、後ろをバック!」

 

「承知の!」

 

何でもかんでも一人でやるのは悪い癖だ。

自分にはシャワートイレッツという仲間が居るのだから、彼らと協力しない手はない。

ジムコマンドを引き付けているうちにスミレが後方に回り込み、

リックグフのヒートロッドをジムの腕に巻きつけた。

スミレはあまり戦果が目立たないが、銃を持っている方の腕を狙うくらいの頭はある。

ジムコマンドは右腕を封じられ、その隙に接近してきた松下のショットガンを喰らった。

 

「敵もやってくるぞ!」

 

ルミの声の通り、ジムコマンド二機が連携してスミレへ上下から襲い掛かる。

ルミは機体を横に90度傾け、ジムコマンドを左右に捉える機動を取った。

両手の有線メガ粒子砲が片方ずつに命中し、ジムコマンドはシールドを展開して後退する。

 

それを見ていたノイルには、ルミのニュータイプ能力の程度を判断しかねた。

サイコミュ兵器でオールレンジ攻撃を仕掛けるには、それなりの能力が必要だ。

ニュータイプではない者がサイコミュ兵器を扱ったとしても二次元的な運動がせいぜいで、

上下左右から三次元機動で攻撃を仕掛けるのは難しいだろう。

特に有線式の準サイコミュはそうだ。

 

ルミは機体を横にする事で、『上下』のジムを『左右』としていた。

これがニュータイプの機動なのか、オールドタイプでも可能な応用技なのかが

サイコミュを扱った事のないノイルには分からなかったのだ。

ジェネオンでは一般人でもサイコミュを起動させるだけなら出来るので、

なおさらルミが本当にニュータイプなのかが判別出来ない。

 

ただ、トイレッツのメンバーはルミにニュータイプ特有の雰囲気を感じ取っていた。

特にどうというわけではないが、口調や物腰から何となくそう思う。

ノイルは特に、ルミが特別な存在だと感じている。

彼女と居ると、その雰囲気に飲み込まれそうになるのだ。

だがそれは、ニュータイプである事以外にも何か理由がありそうな気がして仕方がなかった。

トイレッツに入隊した時から、ノイルの心にルミの何かがずっと引っかかっているのだ。

 

戦場で迷っていてもどうしようもない。

ノイルはゲルググを駆り、通常タイプのジムを一機撃墜する。

自分にはやるべき事があるのだ。

ルミがニュータイプなら自分はスーパーパイロットだとは前に冗談のつもりで言ったが、

それを実現させるのも悪くは無いと思い始めていた。

ならば、このゲルググで十機や二十機のMSは落として見せよう。

 

そうして戦闘を続けていると、不意に通信が入った。

味方からではなく、連邦からだ。

 

「言った通り、レベルは上げてきたみたいね」

 

「あんたか……!」

 

通信を繋いできたのは、エールステップ隊のオグレスであった。

彼女はガンダムアライブに乗り、ノイルの近くを旋回して見せる。

不意打ちをしてこない事から、正々堂々の殴り合いを求めているのが分かった。

 

「ゲルググなら、どっちも不足無しだわ」

 

「そったらぁ!」

 

ノイルが先にビームを放ち、オグレスがそれを回避した事で火蓋は切って落とされた。

両者は周辺の機体を無視して一対一の攻防を行なう。

それを許すほど、他のトイレッツメンバーは甘くなかった。

ガンダムタイプが現れたのを見て、ルミを始めとした全員がノイルの援護に向かう。

 

「あなたがオグレスさんか。悪いが、邪魔させてもらう」

 

「なら邪魔の邪魔よ。皆、トイレッツにかちこみ!」

 

オグレスを包囲しようとしていたトイレッツ隊に、五機ほどの機体が射撃を仕掛ける。

恐らくこれがエールステップ隊なのだろう。

攻撃を受け、オグレスへの包囲が解かれる。

後は両部隊全員での乱戦となった。

 

砲撃を仕掛けてくるエールステップ隊のガンキャノンに対し、松下がショットガンを放つ。

それは直撃したが、ガンキャノンはさほど怯まずキャノンを撃ち続ける。

キャノンはゾルダートの左脚、膝から下を吹き飛ばした。

脚部の装甲は厚く作ってあるはずなのにダメージが大きいのを見て、

回避機動を取りつつ相手のデータを参照する。

 

「こっちの攻撃が効かなくて相手のが効く!

 ああくそ、やっぱインパラにやられたのがだめだったか。

 ……300ミリの、ガンキャノンアライブだって!?」

 

「インパラさんには悪いですけど、潰させてもらいます!」

 

ガンキャノンアライブのパイロットがオープンチャンネルで通信を送ってくる。

声からすると、少女のようだった。

キャノンを回避しつつ、松下は不利な状況だと理解する。

キリマンジャロでインパラに撃破されたので、

ゾルダートのレベルが最初からやり直しになっていたのだ。

データによると相手のガンキャノンアライブはかなりレベルが高い。

こちらがやられる前に撃破するには、接近戦で早期決着をつけるべきだろう。

 

ならばと、松下はゾルダートの右手に拳を作る。

何とか接近出来れば、エレクト・ピックでダメージを与えられるだろう。

そう思い接近した瞬間、ガンキャノンアライブは腰部から何かを取り出し、

それをゾルダートの右腕へ向けて振り上げた。

ゾルダートの腕がちぎれ、切断された手が爆発する。

 

「ビームサーベルだとぉ!?」

 

まさかガンキャノンにビームサーベルが装備されているとは思わなかった。

右手と左脚を失ったゾルダートにまともな戦闘力は無い。

松下はスラスターを噴かし、全速で後退する。

撤退して修理をしたかったが、ガンキャノンアライブはそれを許してはくれない。

グリーンミスト隊に援軍を要請し、彼らが到着するまで何とか持ちこたえようとした。

 

他のトイレッツ隊員も苦戦している。

相手は通常タイプのジム四機であるが、

おそらく彼らもオープンベータからプレイしているのだろう。

機体の性能差を腕でカバーしている様子だった。

 

「私はニュータイプではないのか……?」

 

ジムの攻撃をかわしつつ、ルミが反撃を試みる。

側面から敵を狙うものの、相手である紺色のジムはそれをAMBAC機動の宙返りで回避した。

ただのジムに直撃を当てられない事にルミは苛立ちを感じる。

苛立ちは対戦ゲームをやっていれば誰でも感じる小さなものであったが、

自身にニュータイプの素質を感じていたルミにはちょっとした衝撃である。

 

ジムはビームスプレーガンを放ち、ルミのサイコミュ試験用ザクの頭部にかすらせる。

MSの頭部はメインカメラであり、センサーの塊だ。

ビームがかすった事で、一瞬だが僅かながらモニターにノイズが生ずる。

こちとらとてジェネオン歴で言えば十分古参プレイヤーなのだ。

本当にニュータイプの素質があるのならば、同じ経験のプレイヤーに負けはしない。

そう信じていないと、ルミはやっていられなかった。

 

「――あんた、嫌な戦い方するわね」

 

「それはどうも」

 

一方ノイルはガンダムアライブから距離を取り、射撃戦を続けていた。

アンバットでの二刀流や今現在彼女が接近戦を行なおうとしているのを見て、

ガンダムアライブと彼女が格闘を得意としているのに気付いたのだ。

ガンダムアライブは通常のガンダムよりもいくらか強化されている様子であったが、

ゲルググならば何とか動きについていく位は出来る。

オグレスのパイロット能力は高かったが、アムロ・レイほどの化け物ではない。

アンバットで事前に戦っていたからこそ対抗が可能だった。

強引に接近して振るわれるビームサーベルから、ノイルはスラスターを噴かして逃れる。

 

だが、いつまでもそれが続けられるわけではない。

ビームライフルのエネルギー量は後僅かとなっている。

それは相手も同じであろうが、ライフルの残弾がゼロになればサーベルでの格闘戦となろう。

それまでに何とか状況を打開せねばならなかった。

 

「負けられないんですよ。ジオンの栄光の為に!」

 

「はぁ、あんた、ゲームに感情移入するタイプなの。

 止めときなさいそういうの。

 楽しむだけならともかく、主義主張をバーチャルに持ち込むもんじゃないわよ」

 

「んなこたぁ解ってる。それでもネットは現実だ。

 バーチャルを通して人と付き合う現実だ。

 架空の問題ならまだしも、実際の主義をネットで主張して何が悪い!」

 

「なら現実でやりなさいな!

 ネットで個人の主張をばら撒いたって、誰が見てくれるっていうのよ」

 

その言葉を聞いて、ノイルはハッとする。

以前掲示板に悪評を書かれた時に、松下やルミはバーチャルの問題について指摘していた。

個人の意見など、ネットという大きなコミュニティーの前では形骸化してしまう。

誰も見てくれないかも知れない。

誰かが見ていても、それが正しく理解されないかも知れない。

だから松下とルミは、世間が賢くなる事を諦めているのだ。

 

それはノイルだけではなく、世の中の誰にとっても恐ろしい事だ。

自分の意見、主義主張が相手に伝わる事は無い。

そう分かると人間は主義を捨て、世渡りだけに力を注ぐようになる。

自分がどんなに確固たる意思を持っていても、

周囲の人間が「そんなの知ったこっちゃねぇ」と言って認めなければ

その意思は社会に通用しない妄言として扱われてしまうのだ。

松下はこれを嘆いていたのだろう。

 

こんな事が許されていいのか。

何も考えず、適当に食って寝て働いて。

主義主張を持たず、相手の機嫌を取って要領良く過ごしていれば生きられる。

そんな人生を、価値あるものだと言えるだろうか。

いや、あるはずがない。

ジェネオンのNPCですら、自己の存在意義の為に生きているのだ。

彼らに比べれば、主義を持たない人間など動物以下でしかない。

 

「俺はあんたほど、ジオンや……人間に絶望しちゃあいない!」

 

ノイルはゲルググを突貫させる。

オグレスは予想外のチャンスに笑みを浮かべると、

エネルギーが残り少なくなっていた右手のビームライフルを捨てて二刀流とした。

接近戦ならガンダムアライブは負けはしない。

 

だがノイルはスラスターでフルブーストをかけたわけではない。

前方に一瞬噴かしただけなのだ。

サーベルの射程に入る直前、今度こそ最大出力で上方へ回避する。

そしてオグレスの頭を取ると、上からビームライフルを浴びせた。

ビームはガンダムアライブの後頭部へと直撃する。

 

正直に言って、勝つつもりはなかった。

ガンダムならばビームの一発程度耐えられるし、

ビームライフルのエネルギーはこれで最後だ。

一矢報いる事が出来ればそれで良かった。

何故なら、自分は生き残れると確信していたからだ。

 

オグレスが反撃しようと態勢を立て直した時、不意に銃弾が飛んでくる。

回避しようとするが、弾丸はガンダムアライブに続けて何発も命中し耐久値を削っていった。

避けようとはしているのだが、相手のパイロットの腕が相当らしい。

撃たれた方向を索敵すると、桜色に塗装されたザクⅡ改の姿があった。

 

「シャワートイレッツ、生きてるか!」

 

ビガンの声が届く。

援軍にやって来たのはグリーンミスト隊である。

これで数は相手の倍となった。

エールステップ隊は誰もがそれなりの実力者らしいが、

オープンベータ時からの古参プレイヤー二部隊は捌きかねるであろう。

 

「たかがザク程度で……!」

 

「だめだよ母上、アライブを壊したらフォイエンさんに怒られるよ!」

 

ガンキャノンアライブのパイロットが、オグレスをなだめる。

やはりガンダムタイプとて無敵ではないのだろう。

しかし、その台詞に松下が疑問を口にする。

 

「母上? 部下にお母さんて呼ばせてるのか?」

 

「主婦がゲームやっちゃいけないって誰が決めたのよ。

 ……トイレッツ、またやりましょうね!」

 

オグレスはそう言い残すと、エールステップ隊を伴って後退して行く。

クルネが追撃をかけようとするが、ケオルグに制止された。

 

「待てクルネ、周りを見ろ。味方が後退を始めている。

 このままでは取り残されるぞ」

 

「ガンダムくらいなら落とせます!」

 

「ガンダムくらいって……とりあえず、君が実力者なのは理解している。

 その能力はもっと上手く使うのだな。

 でなければ、キリマンジャロのようになるぞ。

 エースパイロット、クルネ・ジョペインになりたければ自重する事だ」

 

第三次降下作戦の時、クルネはイドラ隊のマキと一騎討ちをした。

何かしらのシンパシーを感じて熱くなってしまい、

彼女達はトイレッツとミスト隊が全滅した後も戦い続けていた。

マシンガンの弾が切れた後もヒートホークとサーベルで斬り合いを続け、

イドラ隊メンバーが見守る中最後には相打ちとなったのだ。

 

それからというもの、クルネはイドラ隊の金色ジムに対して興味を持つようになっていた。

どうやらあのパイロットはイドラ隊の中でもエースクラスであるらしく、

大規模な戦闘が起これば確実に参戦するだろう。

自分も腕を磨き、再び至福の時を感じる為、

クルネは前にも増して努力という行為を行なうようになる。

だからこそ、ケオルグの言葉は彼女を押さえるのにそれなりの効果があった。

 

味方が後退し始めているのは本当らしい。

中でもNPCの部隊は素早く撤退して行った。

ジオンの野良プレイヤーが何機か取り残され、撃破されてゆくのが見える。

今すぐにでも下がらねば、彼らと同じく包囲殲滅されるであろう。

トイレッツ隊とミスト隊はヨーツンヘイムへの帰還コースをたどる。

 

「ノイル、さっき言ってたのは本心か?」

 

「何だ松下、人類に絶望してないって、そんなに悪い話じゃねえ」

 

「そうだと良いけどなぁ……

 ところでシェランさん、随分と被弾されているようですが」

 

ノイルは松下が自分に何か言いたげであるように感じたが、

松下は話題を掘り下げる事をせずに話を逸らす。

それは少し不自然であったから、ノイルは帰ったらこの話をもう一度してみようと思った。

話題を変えた松下だが、彼の言った事は嘘ではない。

シェランのベアッガイはゴミ捨て場に置かれていても不自然ではない

ボロボロのぬいぐるみのようであり、

目の片方は内部の機器が露出し、ランドセルは爆発したのか屑鉄の塊となっていた。

 

「ええ、集中攻撃を受けて。

 連邦も可愛いものをいたぶるくらいに色々と溜まっているのでしょうか……」

 

「いや、シェランさん。あんたが目立ってるだけや」

 

宇宙空間でアッガイを見かけて注目しない方がおかしい。

それがランドセルと縦笛を持った熊耳ならなおさらだ。

この女性は、本気で自分が狙われた理由が分からないらしい。

グリーンミスト隊で一番変わっているのは、クルネではなく彼女なのかもしれない。

 

「それにしても、ジオンは劣勢だったのか。

 エールステップと戦ってたから気付かなかったが、

 今のこの陣形はどこかおかしい。NPCの動きが不自然だ」

 

「松下、あっちを見てみれば分かるさ」

 

ルミの言う方向を望遠で見ると、ジオンのMSを次々と撃墜していく機体が見えた。

見間違いでなければガンダムタイプである。

土色に塗装されてはいるが、背部にブースターユニットを装備し

ジャイアントガトリング砲を連射している事から

《RX‐78‐5[Bst]ガンダム5号機》と推測出来る。

データを見ると、パイロットは掲示板で時々話題に上がる連邦の上級者だ。

 

「上級者様が無双したってわけか」

 

「あれ一機だけでもあるまい。

 イベントの成否がかかっているとなれば、

 NPCの司令官が上位のプレイヤーを集めるくらいの事はするだろう。

 さすがに、廃人達にはかなわないからな」

 

「そらそうよ。俺達は平凡から過ぎないからな」

 

例えトイレッツの全員でかかっても、あのプレイヤーには敵わないであろう。

クルネや、仮にイドラ隊があれとやりあっても勝てるかどうかは疑わしい。

自分達は中堅どころのプレイヤーであって、戦局を変えるほどの力は無い。

少なくとも、松下はそう思っている。

ルミとノイルはニュータイプやスーパーパイロットになりたがっていたが、

今度どれだけ頑張ったとしてもあのような廃人プレイヤーには永遠に敵わないであろう。

現実であれゲームであれ、そうそう簡単に世界一になれるはずがない。

 

そういったエース達のせいでジオン軍は後退したのだろうか。

もしそうだとしたら、ジオン上層部のミスである。

こちらも廃人プレイヤーを集めてぶつけておけば、戦局は違ったはずだ。

アムロ・レイのガンダムを破壊出来なかったのは後々大きく響くであろう。

イベントが史実通りに進めば、ジオンのネームドがことごとく戦死する。

 

「こうなったら、今後プレイヤーの誰かがアムロを潰してくれる事を祈るしかねーな」

 

「それは俺の事か?」

 

「何だって?」

 

ノイルが笑いながらそう言う意味を、松下達はその時理解出来なかった。

 

 

 

民間人の少年、アムロ・レイは走っていた。

サイド7がジオンの攻撃を受け、コロニー内部に敵MSがやって来たからだ。

新造艦ホワイトベースのクルーが有線ミサイルカーや対ザク用の自走砲で迎撃するも、

MSにはまったく効果があらず次々と撃破されていた。

 

先程も一台の電気自動車、エレカが流れ弾に当たり跡形もなく吹き飛んだ。

だというのにそれに積まれていたガンダムのマニュアルが、

何故か傷一つ付かずにアムロの目の前へと舞い落ちてくる。

とりあえず、アムロはそれを拾っておいた。

本当なら未来の記憶があるアムロにそんな物は必要無いのだが、

もしもこのイベントが映像として記録されているのならば

後々公式サイトで公開されたりするのだろう。

原作マニアを喜ばせるという意味でも、ある程度お約束は守るべきだ。

下手な事をしてプレイヤーの反感を買い、運営に存在を削除されるよりマシである。

 

技術士官の父親、テム・レイがガンダムを乗せたトレーラーの前で怒鳴っている。

避難民よりMSの方が大事なのかとあらかたの茶番を終わらせ、

いざガンダムに乗り込もうとする。

その時、友人のフラウ・ボゥが避難民の列を離れてアムロへ駆け寄ってきた。

 

フラウがアムロへ駆け寄った瞬間、彼女の後ろに居た避難民の列にビームが撃ち込まれた。

MSの装甲を溶かすほどの威力を持つビームは、

生身の人間をアスファルトへこびり付いた影へと変貌させる。

その中には、フラウの家族も居た。

 

「か、かあさん……おじいちゃん……」

 

「フラウ!」

 

「ああ、大丈夫。多分イベントが終わったらリスポーンするでしょ。

 先にホワイトベースに荷物運び込んじゃうわね」

 

フラウはあっけらかんとした顔で言い、

風呂敷袋を背負い直すとホワイトベースへ歩いて行った。

その足取りはまるでちょっと旅行に出かけると言わんばかりの軽さである。

残されたアムロは、彼女の後ろ姿を呆然と眺めた。

 

「リスポーンって言ったって、イベント戦に負けたらどうなるか分からないんだぞ!

 ……くそっ、しょうがねえな」

 

アムロは幻の漫画版の台詞を吐きつつ、ガンダムを乗せたトレーラーへ登る。

コックピットに入り、機体に火が入っているのを確認するとすぐに起動準備にかかった。

エネルギーゲインを確認し、メインカメラを作動させる。

すると目の前に、コロニー内を攻撃中のジオンのMSが見えた。

 

「これが、ジオンのゲルググか!」

 

サイド7へ侵入して来たのは、ザクでは無かった。

ジオン軍の最新主力MS、ゲルググだ。

ビームライフルとビームナギナタを装備しており、その攻撃力はザクとは段違いである。

ゲルググはアムロがガンダムに乗り込んだのに気付き、ビームライフルを放った。

まだ動いてすらいないガンダムに、ビームが直撃する。

 

「いくらガンダムでも、ビームの直撃には持たない……!」

 

「なんてモビルスーツだ、ライフルが効いています!」

 

ゲルググのパイロット、ジーン兵長はガンダムではなくゲルググの性能に驚いていた。

当然だろう、彼はMSといえばザクにしか乗った事がない。

前世の記憶ではザクマシンガンをまったく受け付けなかったガンダムが、

ゲルググのビームライフルで損傷を重ねていく姿には驚愕する。

 

「やってやる、いくら装甲が厚くたって、このビームライフルなら」

 

「動け、ガンダム、動け!」

 

ビームの直撃を受けつつ、ガンダムは立ち上がろうとする。

その時、突然目の前に赤いゲルググが現れた。

もはや懐かしくすらある前世の記憶が蘇る。

テキサスでの戦闘と、死に際に分かり合えたララァ・スンとの戦い。

アムロにはこの場の戦闘よりも、彼の今の気持ちの方が気にかかった。

 

「シャア、お前は!」

 

「アムロ、前世での物言いは撤回させてもらう。

 モビルスーツの性能の差が、戦力の決定的な差ではない。

 だが、性能が良いに越した事はないのだ!」

 

赤い彗星、シャア・アズナブルはビームナギナタを抜き、

ガンダムのコックピットへと突き立てた。

アムロは装甲と共に融解し、電子データとなって消えてゆく。

明らかにアムロが消え去った後、シャアの脳内にふっと彼の心が流れ込んでくる。

 

「貴様はそれで満足なのか……」

 

「決着という意味では、違うな。だがアムロ。

 この世界で、私は私なりのやり方でニュータイプの有り様を探すよ。

 お前とガンダムが敗れたおかげで、ララァも死なずに済むだろう。

 前のように急ぎ過ぎず、ゆっくりやるとするさ……」

 

シャアは目を閉じ、シートに身体を預ける。

瞼の裏には、アクシズを導く緑色の光がはっきりと見えた。

 

 

 

――ガンダム、大地に立たず。

 

その報はジェネオン世界全土に、一瞬にして広まった。

ジオン軍は歓喜の声を挙げ、連邦は未来が変わってしまった事に恐怖した。

シャワートイレッツの部隊ルームで、ノイルは得意げに胸を張る。

この結果をもたらしたのはシャア・アズナブル一人のおかげではない。

 

「本当にガンダムをやりやがって……」

 

松下はそう言って溜息を吐く。

シャアの部隊はザクではなくゲルググに乗っており、

そのゲルググを渡したのがノイルだったのだ。

彼は直接ガンダムを倒すのではなく、シャアに高性能機を与える事で

イベントの内容を変えてしまおうと考えていた。

 

シャア率いる部隊がガンダムを倒せなかったのは機体の性能差だ。

少なくともアムロが初めてガンダムに乗った時はそうだった。

では、シャア達がこの時ガンダムに匹敵するMSに乗ってたらどうか。

ゲーム、ギレンの野望ではランバ・ラルがグフではなくドムに乗っていた場合、

ガンダムとホワイトベース隊を撃破するというイベントが起こる。

ならば、この時点でシャアがゲルググに乗っていれば歴史は違ったのではないか。

 

そう考えたノイルは高機動型ザクのレベルを上げ、ゲルググを開発する。

ジオニスト仲間で資金を出し合い、シャアの部隊をザクではなくゲルググとした。

これを行なった場合、連邦も同じような手で報復するだろう。

しかしガンダムとアムロをあらかじめ倒しておくというのは、

ジオンにとって最も必要な事であった。

 

「我々シャワートイレッツも目を付けられたものだな。

 どうしてくれる、この始末」

 

トイレッツ隊長のルミはそう言って書状をひらひらと振る。

そこにはノイルこと『ノイル・アルエイクス大尉』を

ジオン公国の正式な軍人とする旨が書かれていた。

今ノイルの胸にはジオン十字勲章がきらめいている。

ルミは相変わらずの独断行動を咎めたつもりであったが、

ノイルは何の問題ですかと言わんばかりの顔をしていた。

 

「勝手にやったのは悪かったよ。でも、これでガンダムは倒せた。

 ジオンの敗戦が一気に遠退いたんだ」

 

「そうだといいがな、敵もそうやってくるかもしれんぞ」

 

「原作ほど国力の差も無くてガンダムも居なけりゃあ、どういうことでも。

 出来ろうがなあ、松下」

 

ノイルは有頂天で松下の肩を叩く。

だが松下は神妙な顔でウィンドウを操作し、席を立った。

 

「ん。ああ。悪い、ちょっと出てくる」

 

「何だ、湿ってるな。誰からのメールだ?」

 

「俺は独立するって言っただろう。

 部隊作るのに、色々頑張ってんの」

 

松下はそう言うと部屋を出て自分の機体へ向かう。

後姿を見送ったノイルは少しばかり残念な顔をして見せた。

 

「松下、トイレッツを抜けるのか。

 俺が勲章くらい貰ったなら、部隊の名前も知れてるぞ」

 

「勝手に私の部隊を宣伝されては困る。

 それに、松下も奴なりの主義があるだろう。

 今生の別れでもなし、好きにすればいいさ」

 

「主義……主義ねぇ。そういえばあいつにゃ聞き忘れてたな。

 なあ、ルミは何か主義とかあるのか?」

 

「無い方がおかしい。人間誰だってあるものさ。

 これを無くしたら、自分が自分で無くなってしまうというくらいの決まりがな。

 それについては、私はみだりにばら撒いたりはしないが」

 

「けど、何も考えてない人間だって居るだろ。

 食って寝て遊んで、それが出来れば良いって連中もさ」

 

「ノイル、それは人間じゃなくてただの動物というんだよ」

 

その物言いに、ノイルは鼓動を速める。

もしかしたら十字勲章を貰う事よりも嬉しかったかもしれない。

ルミの考えている事と、自分がオグレスに対して思った事が似ていたからだ。

自分がルミと同じ思考をしていると頭が理解した時、何か胸に暖かいものがこみ上げてきた。

最初、その気持ちはニュータイプ的なルミに近づけた事への自惚れだと思う。

だが心の中を整理するにつれて、その可能性は薄れていった。

自分は自分が好きなのではない。

恐らく、多分、彼女を特別視しているだけなのだ。

そして、自分のルミに対する感情が単なる尊敬でない事に、徐々に気付いていった。

 

――ああ、俺はこいつに惹かれているんだな。

 

ノイルは少年である。

思春期の少年が女子に惹かれるものといえば、恋愛感情がほとんどだ。

例え元々がそうでなくとも、彼女に惹かれているという事実に気付いたノイルには

今の感情を恋以外のものだと考える事は出来なかった。

少年とは、そういうものであるからだ。

 

ルミから慌てて顔を逸らすと、セイレムやスミレと目が合った。

二人は一瞬ぽかんとした表情を作り、次に挑発的な微笑を浮かべた。

あのセイレムまでもがだ。

この状況を面倒な事になったと思うくらいには、ノイルの心は幼かった。

 

 

 

「初めまして、でよろしいでしょうか」

 

松下はサイド3ズムシティに居た。

いつものコネクションを使ってトワニング准将に会い、彼を通して公王庁ビルへと入った。

いかにも悪の本拠地ですと言わんばかりに刺々しい形をした公王庁は、

ジオン国の中枢でありザビ家の巣窟でもある。

ここはジオン公国公王であるデギン・ザビや、総帥ギレンの主な仕事場だった。

 

だというのに、松下は予想よりも随分あっさりとこのビルへと入る事が出来た。

一応最低限の警備はなされているが、

それでも一プレイヤーがこんな簡単に入れて良い場所ではない。

いくらNPCが死亡しないとしても、ボディーチェックが一回だけとはどういう事なのか。

その理由に心当たりがあるからこそ、松下は不安を募らせていく。

 

トワニング准将と共に謁見室へと入る。

外には警備兵が二名ほど居るのだが、部屋の中までは入ってこない。

確信を抱きつつ、松下は問題の人物に曖昧な挨拶をする。

椅子の背もたれによりかかり気だるそうにしているその人物こそ、

ジオン公国総帥のギレン・ザビであった。

 

「どこかで会ったかな」

 

「いえ、初対面でありましょう」

 

「では、覚えておこう。私が忘れるまでな」

 

松下はギレンの物言いに違和感を感じた。

この人物は仮にもジオン公国の全権を握る支配者であり、

地球すらその手に収めようとする野心家だ。

IQは240であり、本来なら一般人が彼の思考に付いていく事など出来るはずがなかった。

そんなギレンからは、まるで覇気が感じられない。

彼の投げやりな喋り方もそうだ。

 

「随分疲れておいでで」

 

「疲れる? 私が疲れるはずがない。

 私はここ最近、骨休めをさせてもらっているのでな」

 

ギレンらしくない卑屈な言動に、松下の頭に血が上った。

ギレンへ近づき、彼の机に手をかけてもギレンとトワニングは無反応である。

松下は少し様子を見る予定であったが、それを忘れるくらいには苛立ちを感じていた。

一国の総帥に対して、松下は声を荒げる。

 

「それはおかしいですね。イベントでのルナツー攻撃は、あなたの作戦だったはずです。

 サイド7まで抜けると見せかけて、ルナツーへ陽動をかけた。

 うちのノイルがゲルググを渡したって分かってるから!

 なのにその陽動では、戦力も戦法も引き際も、全部がおかしかった。

 あれはね、後退じゃない、敗走って言うんですよ」

 

喋っているうちに、段々と敬語が保てなくなってくる。

ギレンは目の前で騒ぐ青年をじっと見つめていたが、その目には鋭さが無い。

松下の知るギレン・ザビの瞳は、もっと猛禽類のような力に満ちていた。

全世界の、支配者としての力に。

 

「貴君は戦略家を目指しているのかな?

 そうでなければ、私の戦略を云々するのは意味の無い事だ」

 

「思うんですがね、総帥。

 ルナツーの陽動は、実は陽動じゃなかったんじゃないかって思ってんですよ。

 いくらNPCが死なないとはいえ、大した意味も無く戦力を浪費する理由が無い。

 もしかしたらあれは、ルナツーの宇宙艦隊を潰すつもりでかかったんだってね。

 にしては、随分あっさり退いたじゃあないですか。

 敵の廃人プレイヤーに押されたせいかと思ったが、そうでもない。

 あの戦いからは、子供が気まぐれに遊んでいるような感覚を感じる。

 自分は天才じゃないから分かりませんが、秀才の意地はありますよ」

 

「秀才の貴様がどう考えようと、天才の私には及ばないと言いたいのだろう。

 であるなら、勉強する事だな」

 

「あんた、諦めたのか」

 

「トワニング、客人をお連れしろ。私も暇ではないのでな」

 

でたらめが過ぎる言葉の流れに、松下は目眩すら感じる。

トワニング准将が松下の肩を掴むと、そのまま部屋から追い出した。

いっその事、警備兵から銃を奪って乱射すれば何かが変わるかと思ったが、

それが実際に意味の無い事だと判断するのに時間はかからなかった。

帰り道の廊下で、トワニング准将は呟く。

 

「この世界が出来て、プレイヤーは満足なのだろうな」

 

それに対し、松下は何も答えなかった。

トワニングと別れ、公王庁から出る。

振り返ってビルを見上げてみせるが、それで何があるわけでもなかった。

移動手段である艦へ戻るまでにいくつかの考えをめぐらせる。

 

ルナツー攻撃の真意はギレンにしか分からない。

だが、そのギレン・ザビは明らかに気力を無くしていた。

何故そうなったのかは分からない。

そもそもギレンがこの戦争をおこした目的は、ザビ家による独裁政治を敷く為だったはずだ。

しかしそれは地球圏の頂点に立つ支配欲だけであろうか。

もしかしたら、ギレンは彼なりに地球の未来を憂いていただけなのかも知れない。

腐った連邦高官を排除し、人類がよりよく分かり合う事を求めていたのかと。

しかし、それが出来なくなったこの世界への希望を失ったのか。

ジェネオンに生まれてすぐ、彼はジオンの為に動いた。

その頃から、ギレンはこの世界の現実を分かっていたのかどうか。

最もそれは松下の予想であり、ギレンが実際何を考えているのかは彼にしか知りえないのだ。

 

――俺は、天才じゃないからな。

 

自称秀才の松下には、天才のギレンの心は理解しかねた。

だが、彼がもう少し周りを信用し自分の意思を示していたならば、

松下はギレンとお友達になれたのではないかという思いが拭いきれなかった。

 

 

 

「出来ない? 私のガンダムが出来ないとはどういう事だ」

 

マルファスを用いてオデッサ戦線に参加していたインパラは

フォイエンのマイ格納庫に機体を戻すと、

イドラ隊の機体を整備中のフォイエンに詰め寄った。

フォイエンはNPCの整備兵に交じり、機体改造の指揮を執っている。

改造ジムのコックピットでメインコンピューターを弄りながら、

目を細めて不遜な顔をするインパラに返した。

 

「お前の言うガンダムシルバーは、この時代にとってオーパーツって事だ。

 考えてもみろ。ファーストガンダムだって一年戦争時としては化け物なのに、

 お前の発明した人工筋肉その他はそれすらも上回る。

 下手をすれば、デンドロビウムを超えるやもしれんぞ」

 

「当然だ。私は最初からこのジェネオンで最強の機体を作るつもりだったのだ。

 フリーダムやダブルオークアンタ、∀ガンダムすら超える機体をな。

 私のガンダムは、それらを上回って当然なのだ。

 最強のガンダム論議に終止符を打つのは、私のガンダムシルバーだ!」

 

「それが簡単に出来たら苦労はしないんだよ。

 いいか、お前は忘れているみたいだが、オリジナル機体の設計は難しい。

 機体のバランスを保つには装甲の厚さをミリコンマ単位で調節しなきゃならんし、

 ジェネレーターの出力からメインコンピューターまで全てを上手く合わせなきゃいかん。

 俺だって神様じゃないから、そうホイホイと現代の技術を超えるもんは作れない。

 お前が言っているのは、一年戦争時の技術者に

 ユニコーンガンダムを作れと言ってるのと同じなんだよ」

 

「その為に、私はこの時代にとってのオーパーツを発明したんだ。

 後はそれを組み上げて、機体に搭載すればよい。

 コストが高かろうが何だろうが、一度完成してしまえば

 それでこの世界が終わるまで戦い抜いて見せるさ」

 

フォイエンはどうしたものかと溜息を吐く。

実のところ、彼の言う最強のガンダムとやらを作る事はまったく不可能なわけではなかった。

ただしイドラ隊の改造ジムを全部合わせても敵わぬほどのコストがかかるし、

未知のシステムを導入する為信頼性という意味では皆無に近かった。

そんな物を作るぐらいなら通常型のジムを百機作った方がマシと言える。

組み上げてからやっぱり使い物になりませんでしたとなれば、

時間も金も無駄に消費した事になってしまう。

博打に賭けるよりも、フォイエンにとっては改造ジムを流通させた方が有意義だ。

 

仮にそのガンダムシルバーを完成させられるとしたら、

どこかから莫大な資金の援助を受け、腕の良い技術者を雇い、

一世一代の大勝負に出て初めて可能性が出てくるであろう。

フォイエン一人の力では、マルファスを作るのがせいぜいの限界である。

 

スポンサーに関しては、当てが無いわけでもなかった。

ただ、その相手に対して全面協力を要請出来る立場にないのが現状だ。

だからフォイエンはマルファスのデータを取りつつ

今後実装されるであろう様々な技術を待つ事しか出来なかった。

最もその頃には、ガンダムシルバーの基本スペックに匹敵する量産機が作れているであろうが。

 

「フォイエン、私は大真面目なのだよ。

 例えどんな事があろうとも、白銀の名にかけてそれを作らねばならんのだ。

 連邦一のエースを超え、ニュータイプをも超越し、

 『達観者』となる為にはその機体がどうしても必要なのだ。

 ……お前が今作ってる変態ジムよりはな!」

 

そう言ってインパラはフォイエンが乗る改造されたジムコマンドを指差す。

ジムコマンドの頭部には、金色に塗装された細長いコードが無数に伸びていた。

コードは肩にまでかかるほどの髪の毛となり、

先程からNPCの整備兵がその髪の毛をちまちまと弄くっている。

また胸の乳首に当たる部分には一門ずつバルカン砲が付けられ、

あまつさえ股間からはヒートロッドが伸ばしっぱなしでぶら下がっていた。

 

「何だこれ、何だこれ!

 頭の毛は放熱フィンだからよしとして、このおっぱいバルカンはどういう目的だ!

 ヒートロッドはもう……運営に通報されても知らんぞ!」

 

「いや、髪の毛も放熱関係ないただの飾りだ。

 サノザバスさんがな、言うのよ。

 戦艦の艦長も良いが、自分も他の隊員みたいに改造ジムに乗ってみたいと。

 そんでこんなのを作ってほしいと言われたからやってるんだ。

 さすがに股間にヒートロッドは無いと思うから、いっぺん実物を見せれば考え直すだろう」

 

後にこの変態ジム、《RGM‐79GPLジムプレイ》を見たサノザバスが

本気でこの機体に乗るか悩みだした為、

フォイエンは慌てて股間のヒートロッドを腕に付け直すはめになる。

さすがにインパラの言う通り、アカウントをBANされるのは御免だった。

 

ともあれこの時の議論は、ガンダムシルバーを開発するのが難しいという話に落ち着いた。

インパラは不満を隠さなかったが、フォイエンの機械技術は認めている。

彼が難しいというのならそうなのだろう。

マルファスも作ったばかりであるし、しばらくはそれで我慢するしかない。

もしも今後条件が揃いガンダムシルバーが完成したならば、

それを用いて戦局すら変えて見せよう。

自分の白銀という名がジェネオン世界に轟くのはそう遠くない事と思えた。

 

 

 

ジオンがルナツーに攻撃を仕掛け、アムロのガンダムがシャアに破壊されてからしばらく。

インパラはオデッサ戦線でマルファスに乗り、戦闘を続けていた。

ガンダムシルバーが無くとも、人工筋肉を装備したマルファスは

地上戦においてザクやストライクダガーなどを圧倒する事が出来た。

 

そう、地上戦に限っての話だ。

陸上では人工筋肉により、人間と似た動きが出来る。

しかし宇宙空間では、地上に比べるとさほど筋肉の意味は無いように思えた。

宇宙で移動を行なうには、推進剤を使いスラスターを噴かす必要があったからだ。

既存の機体よりは柔軟な動きが出来るものの、

宇宙における人工筋肉の効果はほぼ無きに等しい。

実際、人工筋肉を装備したガンダムアライブは宇宙でゲルググと互角だったという。

要塞内部での戦闘なら効果があるかとも思われたが、

そもそも宇宙要塞の通路全てがMS用の大きさに作られているわけではない。

マルファスやガンダムアライブが真価を発揮出来るのは、筋肉の四肢を活かせる陸上なのだ。

 

だからインパラはその日もオデッサ周辺地域で狩りを続けていた。

残念ながら、インパラには上層部の知り合いが居ない。

どこにどの程度の敵が居て、味方がどのように動いているのかが正確には分からなかった。

それ故進攻を行なうにはゲーム内掲示板や一兵卒から情報を得て、

独自の判断で行動を行なっている。

リュイやフォイエンなどはNPCとの連携を重要視している様子であったが、

インパラは単独行動を行なう事が多かった。

そのせいで敵のMS一個中隊と遭遇し、機体を中破させた事もあったが、

マルファスの性能のおかげで何とか逃げ出す事に成功していた。

 

ある日インパラが敵MS小隊と戦闘を行なっていると、味方のNPC部隊が加勢に現れた。

この大規模な戦場ならそれも珍しくないのだが、その時は少し様子が違う。

味方部隊はインパラが見るに大隊規模であり、

おおよそ二十機を越えるMSとその他多数の地上戦力による混成部隊と思われる。

味方部隊はその戦力で敵のMS小隊を蹂躙すると、インパラには目もくれず前進を続けた。

 

瞬時に、これは大きな作戦となると判断したインパラはその部隊に追随し、

陸戦型ジムのパイロットに話しかけて指揮官を探した。

もしオデッサ攻めが本格的なものとなるのであれば、

自称連邦のエースであるインパラが出向かないわけにはいかない。

そう思い、部隊が一時停止した頃を見計らって指揮官に顔を合わせる事にする。

この部隊の前で大立ち回りを演ずれば、おのずと自分の名は知れよう。

そしてホバートラックに乗る指揮官の顔を見た瞬間、

インパラは何もかもを忘れてマルファスを降り、その人物に駆け寄っていた。

 

「少佐、コレマッタ少佐ぁ!」

 

大隊の指揮官、『ミケーレ・コレマッタ』少佐は

見たことの無い機体から降りてきたプレイヤーがやって来るのを怪訝そうに見やる。

息を切らせながらインパラがホバートラックによじ登ると、

コレマッタは両腕を後ろに組みインパラを見下すように顎を上げた。

 

「見慣れない機体だな。プレイヤーが何か用かね」

 

「インパラと申します!

 以前より、コレマッタ少佐のお傍で戦う事を夢見ておりました。

 微力ながら、この新型機と共にお手伝いさせていただきたく存じます!」

 

フォイエンやイドラ隊員が居れば、インパラの言動に呆然とするであろう。

いつも尊大な態度を取るインパラが敬語を使い、

自身を微力と称するなど普段であれば正気を疑うレベルである。

それほどにインパラはコレマッタの事を好いていた。

 

コレマッタは原作で特別有能な描写はされておらず、

むしろ上官として嫌われ役であったと言えるだろう。

だが、その嫌味ったらしい皮肉屋な人間性を一部のファンは好意的に受け取った。

また、ただの無能である描写も無かったのだ。

彼の能力については憶測が憶測を呼ぶのみであるが、

少なくともインパラはコレマッタの性格には大きく惹かれていた。

今まで誰にも言った事は無かったが、宇宙世紀で最も好きな人物が彼である。

もしも自分が誰かの下で戦うとしたら、真っ先にコレマッタの名を挙げるだろう。

そう思うインパラであったから、彼は頬を赤く染めてコレマッタに見事な敬礼を送っていた。

 

「ふむ。その新型機とやらがどの程度の物かは知らないが、こちらも戦力は不足している。

 我々はこのまま戦線を押し上げ、数日中にオデッサ鉱山基地まで到達させる。

 その為にはプレイヤーの協力も必要だ。分かるな」

 

「理解しております!

 私の友人が、モビルスーツ一個中隊分の戦力を所持しております。

 それをもって、大隊の支援に当たる事が出来ます」

 

「よろしい。貴様達には我が独立混成第44旅団のフォワードを務めてもらう。

 存分に経験値とやらを稼ぐがいい」

 

「了解しましたぁ! では、あれをお願い出来ますか」

 

「……ああ、そうだな。

 旅団前へ! 一気にファーストダウンだ!」

 

コレマッタの号令を受け、インパラはホバートラックから飛び降りてマルファスへ向かう。

フォイエンとイドラ隊にメールを送り、コレマッタに追従する。

勢いで受けた任務がオデッサ本拠点攻略の先鋒だと気付いたのは、その数秒後であった。

 

 

 

「――そんでよ、ビームサーベルで俺を討つのにこだわるガンダムアライブを、

 こう……上へかわしてビームライフルをちゅどんとな。

 いやぁ、あれはゲルググだからこそ太刀打ち出来たんだろうなぁ」

 

ノイルこと榎本亮は、現実の学校で友人の福留充にジェネオンでの出来事を話していた。

相変わらず福留は秘密主義であり、ジェネオン内で何をやっているのかは教えてくれない。

亮が分かっているのは、オープンベータからプレイしているので

連邦かジオンに属しているはずだという事だけだ。

それでも、別アカウントで他陣営に移った可能性も無いではない。

ただし、福留は先日のルナツー戦を始め、連邦とジオンの戦況を理解している様子だった。

 

「ほう、ガンダム。ガンダムアライブにねぇ」

 

「で、そっからはご存知の通り。

 ルナツー攻撃は陽動で、本命は俺がシャアに渡したゲルググだったって話。

 ジオン十字勲章だぜ、俺ぁ」

 

「ゲーム内でそれを知った時、そりゃあ驚いたよ。

 お前がそんな事してるなんて知らなかったからな。

 ……それにしても、ガンダムとやり合うか。

 お前はニュータイプの素質、あるのか?」

 

「多分、ねぇとは思うけどなぁ。

 同じ部隊にそれっぽい奴が居るから、俺とは違うって分かるよ。

 って言っても、ニュータイプ能力があるから雰囲気や喋り方が変わるわけじゃないけどな」

 

ニュータイプ能力を持つ事でそういった変化は起こらないであろう。

運営が与えたのはサイコミュを効果的に扱えるという能力だけで、

ジェネオンでニュータイプになったからといって、

テレパシーなどの超能力的なものを使えたり口調が変わったりするはずがない。

しかし、ルミを見ているとニュータイプ特有のオーラを感じる。

これが偶然なのか、それともそういう人間の脳波に対して能力を付与しているのか。

どちらにせよ、彼女は特殊な人間だと感ずる。

 

「俺もな、居るんだよ。知り合いにニュータイプみたいな奴が。

 そういうのを見ると、自分が価値の無い人間みたいに感じる。

 俺は『達観者』じゃないんだなって」

 

「そうさなぁ……そのニュータイプの仲間が言ってたんだけど、

 人間には誰だって主義があるんだってさ。

 お前も、そういうのあるのか? 例えばジェネオンでどうするとか」

 

亮がそう言うと、福留はしばし考え込む。

 

「主義はある。だけど、それが高等なものかは分からんな。

 現実でもゲーム内でも、自分の目標やルールってのは少しぐらいあるさ。

 だから俺は、オールドタイプからニュータイプな人間になりたいんだよ」

 

「それの具体的な内容も秘密なのか?」

 

「お察しだな。なぁ、勲章もののノイル大尉よ。

 バーチャルとリアルの区別をきっちりしとかないと、いつか問題を起こすぞ」





~後書き~
2015年11月18日改正

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