インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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大乱闘楽しいですね~。
メタナイトとか復帰技が素早くなってて、二度攻撃加えられますね!
ゼロスーツサムスさんかっこよすぎる。


柊 クレハ

俺が学校内で見慣れない女子と共に夕食を摂っていることが珍しかったようで、数奇の目にさらされながら夕食をとってから早30分。

湊と別れた俺は、一人寮の廊下を歩いていた。

 

時刻は既に八時を回った。

ここの寮には門限はないが、恐らく大概の人物は部屋にこもって宿題でもしている時間だろう。

そういうわけで静かな廊下を一人進み、部屋の前まで着いた、が。

 

(・・・・・ん? なんだこの荷物?)

 

俺の部屋は四階の角部屋になっており、片側にしか隣人がいない。

しかし今現在、その隣の部屋と俺の部屋の扉の間にポツンとひとつ、ボストンバックが置いてあった。

・・・・・・ふむ。

見たところ女物だ。

ていうか男子の割合が1%に満たないこの学園で、自分の物以外の男の荷物を見ること自体稀なことだ。

隣の部屋のヤツが、部屋変えでもしてるのだろう。

結構な頻度で起こることなので、そう納得する。

 

俺は部屋の鍵を開けようとカードキーを差し込んだが、ここで有ることに気がついた。

部屋の鍵が空いているのだ。

IS学園のセキュリティーは堅牢だ。

マスターキーでもない限り、他人の部屋を解錠するなんてまず不可能と言い切れる。

でも、この部屋のキーを持っているのは俺と、特例で雨だけのはずだ。

最新の注意を払って慎重に部屋のドアを開ける。

去年サラに呼び出された際、ドアノブにトラップを仕掛けられていた経験が有ったので、イヤでも慎重になる。

無音でドアを開け、室内に侵入。あれ? ここって俺の部屋じゃなかったっけ?

室内を見渡しても変わった様子はない。

強いて言うなら、テーブルの上に雨が置いていったらしい弁当が有るくらいだ。

 

・・・・・・閉め忘れか?

いや、部屋の鍵はオートロックだし・・・・。

と、ソコで。

 

「――ったく、早く帰ってきなさいよね同室のヤツ! 荷物置けないじゃない!」

 

キッと、シャワー室の扉を開ける少しくぐもった音と共に、怒りの声が聞こえた。

本日二度目の嫌な予感に駆られ、振り向いてはいけないはずなのにそーっと後ろを振り返ってしまう。

 

「「・・・・・・・」」

 

目と目が合う~瞬間に~、()は叫び声を上げるでもなく、瞬間的にISを部分展開し、その腕で俺の顔にアイアンクローを極めた!!

 

「痛い痛い痛い痛い!! 見てない! 見てないぞ俺は!」

「うるさい! 乙女の自室に無断で入った時点で有罪よ!!」

 

手加減しているのか、羞恥のあまり力が入っていないのか、鈴のアイアンクローはギリギリ俺の頭を潰さないレベルで止まってくれている。

 

「だっ、だったらお前こそなんでここに居るんだよ!」

「はぁ!? バカなの!? ここはあたしの部屋よ!」

「ここは俺の部屋だッ!」

 

俺の証言に鈴の動きが止まる。

視界は掌で潰されていて見えないが、恐らくキョトンとしているんだろう。

 

「・・・・・オーケー。良いわ。話を聞いてあげる」

 

おお、どうやら交渉に出てくれるみたいだぞ。

よし、そうと決まれば早速この手を・・・・・。

 

「記憶を消した後でねッ!」

 

―――握り閉めたのだった。

 

 

「なぁ、(ファン)。俺の頭、なんか歪んでないか?」

「気のせいよ」

 

気がつくと、俺は自室の床に横になっていた。

俺が使っているベッドでは、何故かチェックのパジャマを着た鈴が当たり前のように寝転がってマンガ雑誌を読みふけっている。

妙に頭が痛かったので鈴に聞いてみたんだが、この通り素っ気ない返事が帰ってくる。

 

まぁ俺の頭はこの場では大きな問題ではない。

なぜ当たり前のように鈴がここにいるかが問題だ。

 

「おい、凰!」

「名字で呼ぶの、止めてもらっていい?」

「・・・・・・・じゃ、鈴」

 

俺はテーブルから椅子を引いて座る。

 

「まず、どうやってここに入ったか教えてもらおうか」

 

そして出来ればいつ俺が帰ってきたのか教えてほしい所である。

 

「簡単な話よ。カードキーがあるからよ」

「どうして持ってるんだ?」

「あー、もう質問ばっかりするんじゃないわよ! ここがあたしの部屋だからよ!」

 

つまり、俺のルームメイトが鈴だと・・・?

いやいや。空き部屋なら沢山あるだろ。わざわざ男子と同居させなくても・・・・・。

そう言ってみたが、鈴は一夏と箒が同室だから同じ扱いなんじゃない?と言う。

以前の俺なら問題はない。

だが、今の俺じゃ問題が大アリだ。

何かの拍子にBシステムが起動したりすれば、鈴の身の安全と俺のイメージ(既に最悪)の不変は保障出来ないぞ。

 

「それに、あんたが同居者だって分かって、逆に良かったわよ」

「は? どういう意味だよそれ」

 

俺には不安しか無いんだがな。

鈴はマンガをポンと放り、ベッドから立ち上がった。

 

「あんた、あたしとチームを組みなさいよ」

「・・・・え?」

 

チーム? ISで?

ISは元々旧兵器の大軍を相手に一機で立ち向かう事が前提に設計された兵器だと、束さんから俺は聞いた。

故にISはISじゃなければ相手に出来ないと言われている。

公式大会でもタッグマッチはあれど、スリーマンセル以上の競技なんて聞いたことがない。

 

「ていうか、二人でチームって・・・・・あともメンバーは?」

「え? あたしとあんただけだけど?」

「・・・・アホ、そりゃペアって言うんだよ」

 

あまりの考えなしの発言に少し頭がいたくなる。

突然俺の前に現れて、部屋に侵入し、更にはペアを組め?

絶対に嫌だね。ていうかお前には関わりたくないんだよ。

 

「あんたをあの夜に見てビビッと来たわ。あんた・・・いやクレハならあたしの目的に着いてこられる」

「あの夜って・・・・」

 

あの夜と言えば、俺が鈴と再開した夜。瞬龍が起動した夜のことだろう。

あの時に瞬龍はBシステム上の登録コアを更新し、鈴のIS甲龍と特殊なコアネットワークを築いている。

恐らくその際、使用者である鈴に何らかの影響が出て、こいつの目的が何かは知らんが、俺なら着いてこられると思っているのだろう。要するにカンチガイだ。

 

「お前があの時の俺をどう見たかは知らんが、ただの敵性ISを一機潰した位だぞ。そんなの二年生なら一般生徒でも出来る」

「でもあんたは敵のビームを受け止めながら、ISを切り替えたわよね。並の技術じゃ出来ないと思うけど」

 

・・・・ぐ、見られてたのか。気づいてないと思ってたんだけどな。

 

「・・・・あの時は気合いでどうにか出来ただけだ。今やれと言われてもたぶんできん」

「それじゃあ、数日前に行った模擬戦の件はどう説明するのよ?」

 

そう言いながら鈴は一枚のプリントを取り出した。

見出しにはアリーナ使用報告書、とある。

そこには俺がセシリアと戦った記録と、セシリアと一夏が戦った記録が表記されていた。一夏、負けてんじゃねぇか。

 

「映像資料も見たけどクレハ、あんたは専用機を使ってから動きが格段に良くなってたわ。それこそ、あの夜の戦闘並みにね」

 

そこで鈴は別のことに興味を持ったらしく、質問を変えてきた。

 

「そう言えばあんたのISって、何処の?」

 

・・・・・・・なんと答えようか。

ほんとのことを言えば、中国製だ。

しかし、今はその存在自体、中国では抹消されているだろう。

代わりに千冬さんがISだけは日本のISとして登録してくれたが。

そういうことで、同じ双龍シリーズの二機でも呼び方が違う。

俺の瞬龍は、日本語読みでしゅんりゅう。鈴の甲龍は、中国語読みでシェンロン、となっている。

 

「日本製だよ。名前は瞬龍」

「ふーん、聞いたことない機体ね」

 

そりゃ、表沙汰にはされない機体なもんで。

 

「それより、ペアの件よ。どうなの?承諾してくれるの?」

「絶対しない。て言うか先輩には敬語使えよ」

「ペア組んでくれるならいつでも使ってあげるわよ」

 

一歩も譲らない姿勢が、鈴の瞳から伺える。

こいつ、何をムキになってるんだよ・・・。

終点の見えない会議って、こう言うことを言うんだろうな。

そう思うほどに長い時間、俺たちはにらみあう。

そして、五分ほど経ったときだ。

 

「クッちゃーん。お弁当箱取りに来たよ~」

 

ドアのす濃き間から漏れる光で、俺が居ると分かってるからだろう雨が、ノックもチャイムもせずにいきなりドアを開け放った。

IS学園の部屋は言ってみればホテルのような部屋だ。

入り口からベッドまでの距離が遠いとは言えない間取りとなっている。

だから・・・・。

 

「・・・・・え? クッちゃん・・・・その子誰?」

「あんたこそ何よ?」

 

鈴、テメちょっと生意気だな。

 

「こないだ編入してきた一年生。凰 鈴音だってよ。今日からルームメイトになるんだそうだ」

「そ、そうなんだ・・・。知らない子がいたからビックリしちゃったよ」

「んで、鈴。こっちは俺の幼馴染みで篠乃歌雨って言うんだ。二年生だぞ。敬語」

「あんたがペア組んでくれるならね」

 

初対面であろう二人を、中間に位置する俺が紹介する。

何でだろうな。俺が年上だからだろうか、鈴が生意気な態度を取っても、少しイラッとするだけで怒ろうとは思えない。二年前からそうだよ。

 

「い、一年生か・・。こ、後輩キャラ・・・・」

 

・・・・・ん? なんだか一瞬雨の様子が・・・・。

しかし、様子がおかしかったのは一瞬だけで、今はもう鈴を見てニコニコしてるいつもの雨だ。

 

「・・・・・がんばれ雨・・・! 後輩妹キャラなんて幼馴染みの下位互換クラスよ・・・! 勝負にならないわ・・・!」

 

なにやら雨がぶつぶつ言ってる。

本人は小声のつもりだろうが全部聞こえてるぞ。誰も妹キャラなんて言ってないだろ。

 

「で? 弁当だったか? 悪い雨。今日は食堂で食べたんだ。明日の朝にでも食べようと思ってたんだが、それじゃあ、ダメか?」

 

テーブルの上に鎮座する荘厳な重箱弁当を見やる。

 

「ううん。持って帰るよ。わたしまだお夕食食べてないんだ。クッちゃんには明日朝一番で美味しい美味しいお弁当作ってきてあげるねっ!」

 

おおう、なんか知らんが勝手にヒートアップしてらっしゃるぞ。伊勢海老とか入りそうな勢いだな。

それと美味しいのは分かってるから、そこまで強調する必要無いだろ。

雨はその後、重い弁当箱を一人で持って、ガンバるー! とか叫びつつ部屋に戻っていった。

なんだあいつ? アブないな。

 

「ふー、まあ今日は良いわ。同じ部屋だし機会はたくさんあるしね」

 

俺と雨の様子を静観していて、毒気を抜かれたのか鈴はいそいそとベッドに潜っていく。

・・・・・まだ夜九時だぞ? 夜更かしの趣味はどこにいったんだよ。

 

「それじゃ、あたし寝るから。電気消しておいてね。おやすみ」

 

それっきり、鈴が言葉を発することは無くなった。

部屋には、準備されていない予備のベッドと、制服のまま呆然とする俺が残されていた。

 

 

あの日の事は、今でも鮮明に思い出せる。

真っ白い部屋に、俺と彼女は二人きり。

彼女が纏うISは彼女のイメージにピッタリのピンク色のISで、俺の纏うISはこの部屋と、俺の心を表したような真っ白なISだった。

頭上にある展望窓には俺の両親と、彼女の両親。そして束さんに千冬さん。そして研究員として参加したイギリス人のオルコット夫妻。

 

室長の合図と共に、俺はBシステムを起動。元々は随意的に操れるシステムだった。

実験は順調に進んだ。

瞬龍のエネルギーも順調に消化されていき、それに比例して、各駆動部のエネルギーも増幅していった。

目の前にいる彼女はそんな俺を憧れるような目で見ていた。

 

止めろ、と言いたくなる。そんな目で俺を見るな。俺は誰かにそんな目で見られるような人間じゃないんだ!

 

そんな感情が胸の中で渦巻き、爆発した。

エネルギーは臨界を越え、無くなったハズのエネルギーゲージがマイナスを示し始める。

それのタイミングを見計らったように流れ込んでくる黒い集団。

瞬龍の腕が勝手に動き、その集団の半分を凪ぎ払った。白い壁が真っ赤に染まる。

 

その光景に彼女は驚愕し、意識を消失。ISが解除された。

瞬龍は俺の意思とは無関係に動き回り、拘束具を千切り、回りにいた人間全てを攻撃した。

彼女の父親、自身の両親、親しかった研究員のメンバー。

 

そして遂に、俺の腕が彼女に向けられたとき、銃声が鳴り響いた。

胸元を見れば、白いスーツに紅いシミができていて、瞬龍が操縦者の負傷の警告を表示した。

負傷したのは心臓。

ハイパーセンサーが捉えたその銃撃者は―――――千冬さんだった。

崩れ落ちる俺の手のひらに、待機形態の瞬龍がキューブの形で収まった。

そのキューブを拾い上げる手。束さんだ。

束さんの手の中で、キューブ型の瞬龍が形を変えていく。

俺は破れた心臓で呟く。

 

―――変わりたかったなぁ、と。

 

その声を聞いたのか束さんが聞いてきた。

 

―――なんで変わりたかったの? と。

 

それに俺は確かこう言ったんだ。

 

―――だってさ、鈴が見てくるんだよ。まるでヒーローを見るような目でさ。

 

―――だったらなれば良いじゃん。ヒーローにさ。

 

―――ムリだよ。変わろうと思ってそれ(瞬龍)を着たのに、また悪い方向に変わった(・ ・ ・ ・)

 

段々と重くなってきた瞼の隙間に、それまでの人生を思い浮かべた。

幼い頃は、活発で何にでも挑戦して、何回も失敗してきた。

段々と年を重ねると失敗すると怒られることが多くなってきて、両親の存在が心の支えだった。

そんな時に入ってきたのが、俺のIS適正を嗅ぎ付けた外国の研究者達で、世界を変える少年だ、とその中では持て囃された。

嬉しかったよ。楽しかったよ。やっと俺でも成功させることができる事が見つかったと思ったよ。

でも、現実はそれほど簡単じゃなかった。

失敗するたびに身体の調査、調整が行われて、再び実験に駆り出される。

吐いても吐いても、血ヘドを吐いても俺は続けた。

 

何故なら、彼女が見ていたから。

 

中学二年生だという彼女は、俺を見ると直ぐ様スゴいじゃん!と俺自身を評価してくれた。

 

―――男のIS操縦者なんてスゴいじゃん! なんで言わないのよ!?

 

その目はただただ珍しいモノを見る目で、学校の先生のように俺の残した結果だけ見るでもなく、研究者達のような俺の残すであろう結果を見ている訳でもなく、ただただ俺自身を見ていた。

彼女と過ごす時間に救われた。まるで遠い故郷にある我が家に居るようだった。

彼女と過ごすうちに親しい研究者も何人か出来た。

失敗しても彼らに励まされ、歯を食い縛った。

 

だからこそ希望が持てたんだ。

 

 

『そうなんだ・・・・・』

 

俺の話を聞き終えた束さんは一言そう言った。

もう瞼は開けない。音だけの世界だ。

そんな冷たい身体の俺に、冷たい刃物が押し当てられる。

切り込まれる感触。

 

「――――だったら」

 

束さんが言う。

 

「変わり続けようよクーちゃん!」

 

その言葉は、一見すると俺が今まで繰り返してきた事を続けろという意味だろう。

 

だが、満面の笑みの束さんの顔と共に、心に深く、深く突き刺さったのだった。

 

 




クレハは元々落ちこぼれているの側の人間だったんです。
そんな彼にプレーンな態度で話してくれる人間が回りに少なかったんです。

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