インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

8 / 53
ちょっとした集まりに呼ばれている。
行くべき? 断るべき?
そんな選択肢が頭を過ります。
新キャラです。



クラス代表と暗がり少女

「それで、一夏はどこ?」

 

食堂のドアを蹴破る勢いで入ってきた鈴は、口ではそう言ったものの、目ざとく座ったまま呆然としている一夏を発見。

嬉しそうな笑顔で駆け寄っていく。

 

「り、鈴・・? お前鈴か!?」

 

女子に囲まれている一夏が鈴の姿を見て驚愕した。

 

「うわ、久しぶりだな! どうしたんだよ急に!」

「それはこっちの台詞よ。しばらく見ない間にIS操縦者なんかになって。それこそどうしたのよ?」

「うーん。少し説明がめんどくさいんだが・・・・・。って、鈴こそここにいるってことは・・・」

「そうよ! あたし遂に中国代表候補生になったの!」

 

鈴が胸を張って言う。

なるほど、鈴がIS学園に来ることができた理由は候補生だからか・・・。

 

「代表候補生かー・・・。ってことは専用機持ちか?」

「うん。あたしのISは中国製第三世代『甲――』」

 

「「ちょっと待ったぁあああ!」」

 

一年一組女子、入魂の叫び。

 

「なになに!? あなた織斑くんとどういう関係!?」

「随分と親しげじゃない!」

「あーん、またライバルが~」

 

その叫びは様々で、興味に目を輝かせる者(黛とか)も居れば、ショックに肩を落とす者もいる。

その中で一見冷静だが、肩をプルプルと震わせる者が一人。

 

「あー、一夏? そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「ああ、悪い箒。今するよ」

 

一夏がそう言うと群がっていた女子は佇まいを直した。

人の波にテンパっていた鈴ももとの調子を取り戻す。

 

「こいつは凰 鈴音。俺と小五からの付き合いでさ、箒がファーストなら鈴はセカンド幼なじみって所か?」

「「なんでわたし(あたし)に訊くのよ?」」

 

二人の幼なじみがキレイなユニゾンを見せる。

 

「まぁセカンド幼なじみがが鈴。鈴は中二の冬に中国に帰っていったから、会うのは一年ちょっとくらいだ」

 

鈴の紹介を終えた一夏は次は箒の紹介を開始した。

 

「んで鈴。こっちは箒。前に話したこと覚えてるか? 小学校からの幼なじみで俺が通っていた剣術道場の娘さん」

「へー、そうなんだ」

 

二人の幼なじみが互いをじろじろ見つめあう。

その迫力に一組のテンションは隠れぎみだった。

 

「こうしちゃいられないわ! 早く部屋にかえって記事にしないと! それじゃクレハ君! 謝罪記事の話はまた今度で!」

 

黛・・・お前は逞しいなぁ。

黛が去ったことで、正座から解き放たれた俺は、背後の喧騒をBGMに、落とした食器の片付けを開始する。

あー、なんだこれ。妙に悲しい。

 

「・・・一夏さん、二人も幼なじみが居たのですね」

 

一人寂しくカチャカチャしていると、目の前にセシリアがやって来た。

スカートが舞って、チラッと見えた脚からは目をそらす。平常心。

 

「お前は加わらなくていいのかアレに?」

 

後ろを見てみると、食事がどうたらで箒が鈴に食って掛かっている。

その様子をクラスの女子たちは楽しげに眺めている。

 

「いいんですの。一夏さんのことは精一杯サポートして差し上げる所存ですが、プライベートにまで突っ込む気はありませんので」

「はー、しっかりしてんな」

 

よし、欠片は集め終わった。あとはこれを盆に入れて・・・・。

 

「そう言えば、あんた。夜のコンテナ集積所で何やってたのよ?」

 

ぎく。

 

「コンテナ? 夜? なんのことだよ?」

「隠さなくていいのよ? 夜の町で遊びたいって言うのは分かるけど。IS着てドンパチは不味いんじゃない?」

 

それ、俺です。

 

「いや、ここに来てから一歩も敷地の外へは出てないぞ? 何かの間違いじゃないか?」

「いや、確かにあれは男だったわよ? 話したのも一瞬だったけど間違いなく男。あんたじゃなきゃ誰が居るのよ?」

 

そんな鈴の疑問に答えるように、その場にいた全員が背中を丸めた俺を指差した。

おい、なんだその息の合った動きは。

 

「え? え? 男じゃない! なんであんた以外に居るのよ!?」

「俺の前例がいたんだってよ。因みにあの人。二年生だぞ」

 

鈴は混乱した様子で俺の背中と一夏の顔を交互に見ている。

仕方ない。場を抑えるためだ。少しの接触は大丈夫だろう。

俺は立ち上がり、鈴と向き合う。

 

「・・・柊 クレハ。二年生だ」

「・・・・なによ?」

 

あー、もう分かれよな。

にぶちん。

 

「自己紹介だ。お前だけ知っていて、俺が知らないのもズルいだろ」

「あ、ああ。そうね」

 

鈴は咳払いをひとつしてややオーバーな態度で自己紹介をする。

 

「私は中国代表候補生、凰 鈴音!」

「・・・・・・・・何かっこつけてんだ鈴?」

「う、うっさいわね! 準備してたんだからやらないともったいでしょ!」

 

シンと静まった空気に一夏の突っ込みと鈴の大声が響く。怪獣か。

 

「そ、それで。あの時のIS乗りはあんたなのね?」

「ああ、俺だ。それがどうかしたのか?」

「話が分かりそうな人で良かった。忠告するだけよ」

「忠告?」

 

すると鈴は声の大きさを抑えて、俺だけに聞こえる声量で言った。

 

「知ってても知らなくてもいいわ。今後『双龍』という言葉を聞いても、関わろうといった気は持たない方が良いわ」

 

双龍・・・・?

それだけ言うと鈴は俺から離れていった。

 

 

双龍。

俺のIS『瞬龍』と鈴のIS『甲龍』の開発計画のコードネームだ。

それがなんで鈴の口から出てくる?

確かに彼女はあの日のことは忘れてしまったハズだ。甲龍を持つに至った経緯も適当なものにすりかわっているだろう。

だが、俺のことが分からない所から見るに、全てを把握している訳じゃ無さそうだ。

どうして知ってるのかは知らんが、何にせよ。関わらない方が良さそうだな。

鈴のためにも。俺の為にも。

 

 

織斑一夏クラス代表決定パーティーから一夜明け、翌日には鈴が正式にIS学園に転入してきたようだった。

クラスは一年二組。当たり前の事にホッとする。

 

だがしかし、目の前にはもっとゾワゾワくる催し物が迫っていた。

 

「えーっと。今年もクラス代表対抗戦が行われます。このクラスの代表は一応篠乃歌雨さん、と言うことになってるけど・・・・・って、篠乃歌!? 誰!? 勝手に決めた人!!」

 

朝のホームルームで大倭先生が騒いでいる。

クラスの皆はこう思っただろう。

 

(あんただよ)

 

・・・と。

 

「せんせー。確か先生が始業式の日に急ぎの用事があるって言って決めたじゃないですか?」

 

一人の女子(名前覚えてない)がそう告げる。

 

「え、本当に? 不味いなぁ・・・・。流石に雨に対抗戦出てくれって言うのも可哀想な話だよね・・・・?」

 

先生は少し上目使いでクラスを見渡す。

「誰か代わりに対抗戦でろや」と言うことだろう。

確かに雨は座学では優秀な生徒だが、実習となると少々ミスが目につく生徒だ。しかも気が弱い。

 

「クレハくんクレハくん。どうッスか?」

「なんだよフォルテ。出てみないかってか?」

「そのとおりッス! 今年は織斑一夏くんが一組の代表ッスからね~。ここでクレハくんが名乗りを上げれば話題性抜群ッスよ?」

「アホか。対抗戦は学年別だろ。当たる確率なんて有るわけがない」

「それはどうっすかねー?」

 

フォルテはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。

なんだ? こいつのこういう顔にいい思い出なんて一つもない。

 

「あ、対抗戦について変更点が一つ」

 

壇上に立つ大倭先生が連絡用のプリントを見ている。

 

「今年から対抗戦、全学年総当たり(リーグ)だからね!」

 

・・・・・・・マジで?

瞳を輝かせた女子の圧力に勝てず、二年一組の出場は俺になった。

ざけんな。

 

 

放課後、昨日と今日でかなりのストレスを溜め込んだ俺は、気晴らしにとアリーナ地下の射撃訓練室を訪れた。

アリーナにホログラフのターゲット表示機能が備わってから一気に利用者が減った施設らしいが、俺にとっちゃ都合がいい。

雨からはゴメンねゴメンねと謝罪の言葉がびっしり書かれたメールが届いたが、怖いので気にしてないと返信し無視を決め込む。

 

(さあ、鬱憤を人差し指に込めて引き金を引いてやる!)

 

そう意気込み、薄暗い廊下の突き当たり。訓練室とプレートの掛けられた扉を開く。

中は、縦100メートル。横50メートルほどの大ホールで、壁際には個人兵装用の重火器から、IS用のライフルまでかなりのモノが揃っていた。しかも全て手入れが行き届いている。

しかもその隅っこには脱ぎ捨てられた制服と、綺麗に畳まれた制服二着が置いてある。

どうやら一応生きてるみたいだな。

 

俺はそう決めると、ここの住人であるある生徒の名を呼ぶ。

 

「おい、湊! ミーナートー! 居るんだろ? 出てこいよ!」

 

声がホールじゅうに反射する。

すると傍らの布に覆われた箱がモゾモゾ動き、人が出てくる。

 

「なにか用ですか?」

 

ニュッと木箱から顔を出して言うのは渚 湊(なぎさ みなと)。

俺と同じ二年生だ。

湊のトレードマークである青みの掛かっているショートヘアーの髪が機械油で汚れてる。

因みにこの学園に青い髪の女子生徒は二人いる。・・・いや、一年に妹が来たらしいから三人か?まいいか。

俺は手早く用件を告げる。

 

「適当に射撃がしたい。ライフルよりはハンドガンの方が良いな。IS用ってあるか?」

「あります。250番のロッカーからIS用のハンドガン兵装になるので、自由に使って・・・・・」

 

と、そこで湊の声が途切れる。

 

「クレハさん。訓練がしたければ、まずは私の訓練に付き合って頂けますか?」

 

 

 

五分後、射撃訓練室に二機のISを纏った二人が佇んでいた。

 

「相変わらずゴツいスナイパーライフルだな」

「クレハさんこそ、いつもとISが違うようですが?」

 

互いに互いのISに口を出しあう。

湊は専用機を自分で(・・・)作った、珍しいケースで。一応日本の代表候補生と言うことになっている。

ISは第二世代型で名を『サイレン・チェイサー』という。

完全な長距離射撃型らしく、装備もライフル一丁だけらしい。片寄ってんな~。

スナイプの為だけに無駄を削ぎ落とした装甲なので、軽く、結構な移動速度も売りなんだとか。

そんな射撃特化のISが細いフォルムを照明の光に照らされながら、長距離実弾ライフル『サイレントスコール』を構える。

対して俺は瞬龍を展開し、湊の管理する重火器の中から、あまり出回っていないハンドガンタイプの火器を選択。

 

「それではクレハさんはここから真っ直ぐ、前だけを見て射撃してください」

 

湊が入り口にもっとも近い、要ははしっこの射撃台を指して言う。

 

「それだけか? 的持って走れ、とかじゃなくて?」

「はい。それだけで構いません」

 

そう言うと湊は奥の射撃台へと移動する。

名前通りの無音の移動だ。黙って近寄られても今の俺じゃ気づかないだろうな。

湊は射撃台へつくと、システムを起動。射撃訓練システムのスコア方式を選択した。

しかも・・・・・。

 

「・・・・最高難易度って、本気かお前」

「ええ、本気です」

 

・・・・古今東西、狙撃主には変人が多い。こいつもその例に漏れなかった、ってわけか。

 

「開始と共に好きなタイミングで撃ってください。なるべく不意を突くように」

 

その言葉を最後にカウントダウンがゼロを切り、目の前に的が出現。

俺は一拍遅らせてから引き金を引く。

しかし。

(・・・・・ん?あれ?)

 

俺のはなった銃弾は何事もなく的を通過。俺に10ポイント加算される。

 

(なんなんだ一体・・?)

 

続いて、丁度真ん中のレーンに的が出現。

俺はただただ、引き金を引く。

 

手元の銃口から現れた銃弾はマズルフラッシュとともに真っ直ぐ飛翔する。

しかし次の瞬間、ISのプライベートチャンネル越しに、湊が息を止める気配がする。

湊のライフルから放たれた銃弾は、俺のやや前方に向かって亜音速で飛翔する。

みるみる二つの銃弾の距離は縮まり、そして接触。

ハンドガンの銃弾は超長距離ライフルの放つ、大口径の銃弾に運動エネルギーで負けるため、強制的に進行方向が変えられる。

変えられた進行方向の先には、さっき出現した二つ目の的がある。

そして・・・・・・・・。

 

「ワンシュート」

 

湊の声とともにその的を撃ち抜いた。

 

す、すげぇ。銃弾と銃弾をぶつける技量があるのは知ってたが、その角度まで自由に操れるとは。

その後も最高難易度のなに恥じないスピードとタイミングで、次々と的が出現する。

俺も不規則に銃弾を放つが、湊は一発もはずすことなく、軌道を変えた俺の銃弾で的を撃ち抜いていった。

ただ、俺の真正面に現れた的だけは、手出しすることなく俺に処理させたが。

 

「パーフェクト」

 

湊の宣言通り、表示されたスコアはいつも通り上限いっぱいの99999点だった。

すげぇな。

銃を下ろした俺は、これ迄のスコアを表示させる。

計算システムが地上のヤツと同じだから、他人の記録が混ざってるが、湊名義のスコアはどれも同じ点数だ。少し気味が悪くなるね。

湊はと言うと、いつの通り射撃が終わっても銃を構える姿勢を解こうとしない。

彼女が言うにはそうやって銃の調子を確かめているんだと言う。射撃が終わったあとじゃ意味ないだろ。

 

湊が姿勢を解いたタイミングを見て、俺も瞬龍を解き制服に戻る。ちょっとごわごわするのが気になるが、着替える手間がないから楽だな。勿論授業ではちゃんと着てるが。

ISが解除される音がしたので湊を見ると、ISスーツ姿に戻った湊がいた。落ち着け、あれは歴としたユニフォームだ。

 

「ありがとな湊。お陰で良いもんが見れたぜ」

 

くいくいと整理体操をする次いでに湊に礼を言う。

 

「いいえ、お礼を言うのはこちらの方です。クレハさんのお陰でいい練習ができました」

 

そう言って機械的に頭を下げる。

相変わらずなのは石頭もなのか。

 

「別に、俺じゃなくてもいい練習だっただろ。それこそそこの自動銃座ででも出来る―――」

「いいえ、最近のクレハさんは少し精神に動揺があったので、射撃のタイミングがほどよくバラけていました。それこそ注文通りの不意をつくようなタイミングだったのでいい練習になりました」

「それ、褒めてるのか・・・・?」

 

つまるところ、落ち着いてない。か。

 

「それに、これ迄の傾向から今日辺りにでも来るのではないかと思っていたので」

 

まぁ、そりゃここを見つけたのも、女装の件がバレてみんなに後ろ指指されて逃げ場所を探していた頃だったしな。

俺のなかでここが心のシェルターとして機能してるんだろ。

 

「なんにせよ。いい気分転換が出来たぜ。そうだな。もういい時間だし食堂にでも行くか?」

 

お礼をしようと思い付いたのが食堂でのオゴリ。

そう悪い話ではないはずだ。

 

「クレハさんが良いのならご一緒させてもらいます」

 

そう言いながら、湊はISスーツの肩紐に手をかけた。

俺は出口に向かいながら、オゴリの上限の設定を始める。

 

よしよし、そうだな・・・。今日は気分が良いから結構お高いものでもおごってもいい気分だぜ。

背後で伸縮性のあるものが人間の肌を打つパチンという音が聞こえる。

カツカレーとかどうだろうか?いや、まだ行けるな。カツカレープラス、プリン! とか。

嫌な予感がし始めた俺は、確認のために頭では別のことを考えながら振り向く。

プリン!とか・・・・プリン!みたいな・・・とか・・・・・・プリンみたいな肌とか・・・・って!?

 

この世には二種類の女性が存在する。

即ち、ISスーツのしたに下着を着ける者と着けない者だ。

どうやら湊は後者だったらしい。

 

「お、お前! なんでここで着替えてんだっ! 更衣室行けよっ!」

 

振り返った先には、ISスーツを胸まで下ろしている半裸の湊がいた。

 

―――Bシステ――

 

まて瞬龍、落ち着け、俺! まだ大丈夫なレベルだ! 確かに下着を着けていないと分かるレベルで胸は見えていたがまだソコまでだ! 洋画で女優さんが着てるイブニングドレスの方が露出は幾らか高い!

 

「?」

 

当の湊は何とも思っていないようで、小首を傾げている。

いや、その動作は文句なしに可愛いんだけどな、勘弁してほしいです。

 

危うく動機を大幅に乱すところだったが、何とか峠は越えたらしい。

良かったな俺&湊。

また噂が流れるとこだったぜ。

あと、湊。テメーに奢るメシはカレーで十分だ。

プリンは俺が食ってやる。

 

そんなことを考えながら、悶々と湊の着替えを待つ俺だった。

 




感想評価、正座で待ってます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。