インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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人の夢と書いて、はがない······いや儚いと書く。


銀対白(蒼編)3

セシリアの放ったミサイルが真っ直ぐ俺に向かって飛んでくるのがわかる。

けれども今の俺には防ぐ術はなくて、ただ流れる時間が体感的には遅くなっているのを感じていた。

そんななか、俺の中のもうひとつの意志がこう命じてくる。

 

――――――『斬れ』、と。

 

 

俺は胸の高鳴りに従い、IS『瞬龍』を展開開始。

その展開中に瞬龍の基礎武装である黒い近接ブレード、『時穿(ときうがち)』を無理やり展開する。

 

「っぁらっ!」

 

迫り来るミサイルを一閃。

時穿に切り裂かれたミサイル二本はその場で爆発を起こした。

端から見れば俺に当たったように見えるだろう。

爆発と同時に瞬龍の完全な展開を終えた俺は、立ち込める煙を突き破って、セシリアに猛攻を仕掛ける。

完全に墜ちたと思われていた俺の復活に、アリーナの生徒が歓声を上げた。

 

「な、なんですの!? そのISは!?」

 

インターセプターで辛うじて俺の斬撃を受け止めたセシリアは目を見開いた。

そう思うのも無理はない。

さっきまで訓練機体で戦っていたヤツがいきなり見たことないISを纏っているんだ。

恐らくブルーティアーズのデータベースにものってはいないだろう。

 

俺は時穿でセシリアを押し退けると、そのまま前進。

すれ違いざまにスターライトMk2を破壊する。

 

「私の銃が・・・・!?」

 

呆然とするセシリアに対して、シールドエネルギーを削るため再びブレードを構える。

 

「これで分かっただろ。自分の実力が」

 

事実、セシリアはリヴァイヴの俺にも幾らか遅れをとる行動をしていた。

そして、瞬龍が出てくればこの様だ。

まだ、このレベルの操縦者には遅れはとらない。

 

しかし、当のセシリアはまだ闘気を失っていないようで、炎の灯った瞳で此方を睨み付けてくる。

俺はその目を覚悟と受け取った。

 

瞬間加速で飛び出し、セシリアの首めがけて時穿を振るう。

――――獲った――!!

 

ガキンッ!

 

短い金属音がなり、俺の剣は何かにその動きを止められた。

その何か、とは・・・・。

 

「ふー、ちょっと血の気が多すぎませんかね先輩?」

 

何の特徴もない近接ブレードで俺の剣を止めたのは、1年1組織斑一夏だった。

 

「何いってるんだよ1年。これは訓練だぞ。本気でやらなくちゃ意味がないだろ」

「いやいや、その本気が妙に真に迫るものがあったので、思わず手が出てしまいましたよ」

 

そう言う一夏が纏っているのは訓練用ISではない。

 

(専用機・・・・・・一次移行(ファーストシフト)前って感じだな)

 

色が塗られる前のプラモ然としたその灰色のボディは日光を浴びて、鈍く光っている。

 

(そんなことより、マズイな・・・・・。もうエネルギーが切れかかってる(・・・・・・・・・・・・・・)

 

瞬龍での戦闘開始から三分。今はこれが限界って事だろう。

俺は時穿を納めると、瞬龍の展開を解いた。

 

「おい、1年二人。ていうか、特に金髪」

 

俺はピットに向かいながら二人に言う。

 

「あんまり簡単にノせられるな。嘘や八百長、まぁちゃんと考えて動けよ」

 

一夏は困惑の表情を浮かべていたが、セシリアは辱しめを受けた見たいに顔を憤怒の表情に歪めている。放送できない顔だな。

 

・・・・っと、こんな感じで良いですかね。千冬さん?

多少の、一夏の乱入はあったが、うまくセシリアをさばけたはずだ。

そういう視線をオペレーションルームに向けると、窓越しに千冬さんが頷いたような気がした。

 

『――――――それではこれより、クラス代表決定戦を執り行うッ!!』

 

千冬さんの宣言のあと、セシリアの叫び声が上がった。

 

 

 

「・・・・・んで? なんでここが分かった」

「新聞部の方に聞いたのですわ♪」

 

俺は試合が終わり、山田先生にリヴァイヴを壊したことを謝ってから、新聞部の質問攻めを避けたのち、やっと夜になって安住の地にたどり着いた訳だが・・・・。(因みにさっきまで雨がいた)

・・・・・報復に来たと・・・・・。

いや、限界まで瞬龍、ていうか心臓を使ったせいでちょっと動きたくないんですが・・・。

ていうか新聞部・・・・。

去年からここに居るため、その悪名は耳に入ってくるが、戦った相手を部屋に寄越すってどういう神経してんだあいつら。

 

「それで、セシリア(・・・・)。一体何の用があってここに来た? やり過ぎたのは謝るからさっさと帰ってくれ」

 

突然の訪問者にそう言うが、セシリアは表情を崩さない。その笑顔、絶対怒ってるだろう。

 

「取り敢えず話は中で聞いてやる。終わったら帰れよ」

 

無理矢理そう言うと、セシリアは「はい♪」と言う。なんなんだ一体・・・・。

 

 

「単刀直入に申し上げます。昼間の件は本当に申し訳ありませんでした」

 

部屋にいれ、イギリス人と言うことで紅茶を出したんだが、その瞬間セシリアは土下座した。

日本伝統の謝罪方法、土下座である。

 

「先ほどサラさんにお話を窺った所、わたくしに伝えたことは真っ赤な嘘、冗談だと仰ったため、謝罪に参りました・・・・」

 

ああ、そう。

まぁそれに関しちゃ、さっきサラの端末にグロ画像ウイルス送りつけたからもう気にしてなかったんだが・・・・・まさかあの高飛車な態度から一変、ここまで大人しくなるとは・・・・。根は素直なのかもしれん。

 

「別に、もう気にしてない。去年ちょっと色々あって、ああいうのには慣れてるんだ」

 

着席し、俺のぶんの紅茶を一口飲む。うん。ばりっばりのリプトンだ。

 

「それに、千冬さんも俺にIS使わせるために呼んだんだろうし、新学期の肩慣らしになって良かったぜ?」

 

そう言うとやっとセシリアは立ち上がり、席についた。

 

「そう言われるのなら私も胸を撫で下ろす気分なのですが、質問、宜しいでしょうか?」

「・・・・・答えられる範囲で、ならな」

 

一応そう言っておく。

 

「なぜ貴方とあのISは世界中のどのデータバンクにも記載が無いのですか?」

 

・・・・・・答えられない範囲だな。

 

「悪いがノーコメントだ。俺がここにいる理由にも繋がるんでな」

「では何故貴方は御自分の存在を公表されないのですか? この学園には居場所が有るようですが、このままでは生活しづらいのでは?」

「それも答えるわけには行かない」

 

特に、イギリス人のお前にはな。

 

「そうですか・・・・」

 

セシリアは俺の反応に落胆したのか、肩を落とした。

 

「・・・・まぁ、なんだ。俺もまだ未熟でな。学ぶことがあるんだよ。ここで」

 

二年前に起こした事故で、俺は大切なものを失ったし、失わせた。

ここにいるのはその償い的な意味もあるが、将来を共に生きていく瞬龍(コイツ)を制御するためにも、ここでの知識は必要だ。

それに、千冬さんもいる。あわよくば束さんにだって会えるかもしれない。

 

「俺は自分の目的の為だけにここにいる。まわりがどうかは知らんが、それだけが、俺自身の理由だ」

 

こういうことを言うが、最近ちょっとグータラが過ぎたかな? 

答えられない質問の代わりに、と言ってみたが満足してくれないかなぁ・・・?

 

「・・・・そう、ですの・・・・。ご立派ですわね」

 

意外にもセシリアは満足したように頷いた。

って、あれ? セシリアさん? さっきまでバカを見るような目じゃ有りませんでした?

セシリアの瞳は、さっきまでの疑ったような目ではなく、後輩が先輩に向ける目、即ち尊敬の目をしていた。

 

「ま、紅茶飲めよ。リプトンなのは勘弁してくれ」

「い、頂きますわ」

 

少しむず痒い空気を感じた俺は、セシリアに紅茶を勧める。冷めたら勿体ないもんな!

 

「って、あら?・・この紅茶・・・?」

「? どうした? なんか不味かったか?」

 

一口含んだセシリアが改めて香りを確かめるのを見て、不安になる。

雨が持ってきてくれたのをそのまま使ったんだが、淹れ方間違えたか・・・?

 

「い、いえ。我がオルコット家の紅茶と同じ茶葉の様でしたので、すこし意外に・・・・」

 

え?貴族様と同じ紅茶?

 

「確かイギリスでも専門の業者がつくほどの名品で、香り、味、色。全てが揃った最高級品ですのに、一体どうやって・・・・・・?」

 

・・・・雨、お前なにもんなんだよ一体?

 

「・・・・因みに、値段は?」

「ええと、確か100グラムじゅ・・・・ほどでしたと思います」

 

値段を聞いた瞬間、目の前の一杯の紅茶が札束の海に見えた。

 

 

何とかちびりちびり紅茶を飲み、夜も遅いのでセシリアが帰ると言いだした。

 

「本日はご迷惑をお掛けしました。紅茶まで頂いてしまって、このお礼は何時か必ず致しますわ」

「何度も言わせるなって、別に良いって言ってるだろ。あんましつこいとあの紅茶一気に使ってやるぞ?」

「ふふっ、お優しいのですね」

 

優しい? どこが?

 

「同じ寮の中だし、送らなくても良いだろ? 気を付けてな」

「・・・・・・・やっぱり、優しくないです」

 

小声でそう呟いたセシリアに、やっぱり送っていこうかと提案しようと思った瞬間、瞬龍が起動した。

起動したといっても、視界内に各パラメーターが表示される位で、見た目には分からない。が。

 

(・・・・なんだ!? また、胸が・・・・・!)

 

ずきずきと、締め上げられるような痛みに見舞われる。

俺の様子に気がついたのか、心配そうにセシリアが顔をのぞきこんでくる。

だめだ、今の俺に近づくのは―――――!

 

―――Bシステム、ファーストシークェンスで固定。対象のISコアを確認。登録します。

 

なんだ・・・・・? 何をやっているんだコイツは!?

 

―――既に登録されたコアが一件あります。上書きしますか?

 

視界のなかに、Y/Nという選択肢が表れる。

何をやっているかは知らんが、とにかくこう言うときはNoだ!

眼球運動でNを選択。処理が再開される。

 

―――それでは、上書きせずに強制的に登録を開始します。

 

なん・・・だと!?

 

そこから先は更に痛みの奔流が激しくなった。

心臓が跳ね回り、鼓動が早くなる。身体中に血液がまわり、顔が熱くなる。

何なんだよ・・・・この感覚ッ!!

 

―――登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。登録。

 

目の前で流れていく登録という文字の流れ。目が回りそうだ。

 

―――登録、完了。登録済みのコアは二件です。

―――特定のISコア反応を確認。Bシステム、通常起動します。

 

そして、痛みが嘘のように消えていく。

突然起こった事に驚きはしたが、別に変わったことはないな。

あるとすれば、何故か俺の手がセシリアの肩に―――って、え?

 

「夜は危ない。やっぱり俺がセシリアの部屋まで送った方が良いみたいだ」

 

俺の意思とは無関係に勝手に喋り出す俺。いや、意味わからん。

だが、送っていこうかと提案しようとしていたのは事実だ。

だが問題なのは、自然にセシリアの肩に手を回しているところである。

 

「え?え? ええと・・・・?」

 

あー、ほら。セシリアですら戸惑い出したぞ。

て言うかなんかキモいぞ。俺。

 

「さぁ、行こう。俺も早くシャワーを浴びたいからね」

 

なんでシャワーを浴びる必要があるんだ。

一方でセシリアはというと、

 

「はっ!? ぁぅあぅぁうぁう・・・!?」

 

なんか顔が真っ赤で一杯一杯って感じだ。

何をテンパってるんだよお前。

 

「お手をどうぞ、お嬢さん」

 

と、遂に俺が死にたくなる台詞を吐いたとき、その者は現れた。

 

「・・・・・・く、クレハくんが、篠乃歌さん以外の女性と・・・・!? くぅー、これは新聞部に高く売れるッスよーーーーーーッ!!」

 

ふぉ、フォルテー!!!

まずい! 他人が現れたのはいいが、なんで噂大好きフォルテッシモ♪なんだよ!?

ああ、写真を撮るな! 録音するな!

 

「やぁフォルテ。こんな夜遅くにどうしたんだい? 俺になにかようかい?」

「いや、別に用事はなかったッスけど、たった今出来ました! うひょー、しかもお相手は一年生の専用機持ちじゃないッスかー! レベルたけー!!」

 

まずい、さすがにこれ以上はまずい。何とか体の制御を・・・・・!!

 

「フォルテ、君の声を聴けるのは嬉しいが、回りを見てごらん。もうベッドに入っている時間だ。もう少し囁くように俺に喋ってくれ」

 

うん、フォルテの厚かましい声はこれで抑えられるが、全然解決してない!

手元の僅かな振動に気づくと、セシリアが何故か涙目で俺を見上げていた。

俺はそれに純度100%。混じりっ気なしの笑顔を向ける。うわ、俺キモすぎ・・・・。

 

「あ、貴方はそうやって色々な女性に声を掛けるのですか?」

「いいや、今はセシリアだけを見ているよ」

 

と、俺は事実を伝えたが・・・・。

 

「えー、じゃあアタシや篠乃歌さんはどうなるッスかー? 遊びだったんすかー?」

 

フォルテが適当なことを言ってかき回す。

 

「み、見損ないましたわッ!」

 

そう言うと、セシリアは俺の拘束を振りほどき、廊下を駆けていった。

・・・・・・・。

・・・・・・・・ちょっとまて。

今までの俺の行動を振り返ってみると、俺がセシリアの部屋に行く流れになりかけてなかったか!?

ようやく自由に動かせるようになった体で、頭を押さえる。

ああ、頭いたい・・・・・・。

フォルテも居なくなってるし、胸のウズきも消えた。

 

―――Bシステム、待機モードへシフト。瞬龍、停止します。

 

遂には瞬龍も停止し、俺は完全に孤立した。

この場においても、明日からの学校生活においても。

 

「ああ、やっぱ退学しようかな・・・・・・」

 

 

同時刻、IS学園校門まえに一人の少女の姿があった。

潮風に靡くツインテールに、今流行りのパーカーにスポーティーな脚線美を際立たせるホットパンツ。

少女のすぐそばにはたったひとつだけのボストンバックがおいてある。

 

「やっと着いたわよ、IS学園!」

 

彼女の手首には、ピンク色に輝くブレスレット。

IS『甲龍』の待機形態だ。

 

「お待ちしていました。凰 鈴音さん。用務員室は此方です」

 

彼女、鈴に応対するのは一年一組の副担任、山田摩耶だ。

彼女は、鈴の鋭い瞳に気圧されながらも、轡木用務員の待つ用務員室に鈴を案内する。

 

「それじゃあ、確かに一夏はここにいるのね?」

 

鈴は轡木用務員から編入の詳細を聞くと、表向きはISを動かせる唯一の存在として公表されている、織斑一夏の所在を聞いた。

 

「ええ、貴女の四組とは違うクラスですが、確かに一組に在籍していますよ」

 

そう言うと鈴は誰の目で見ても喜んでいると分かる笑顔を浮かべた。

しかし、何かに気づいたのか表情を引き締めた、凛とした雰囲気を出す。

 

「もうひとつ聞いていい? 一週間程前の事なんだけど・・・・・・」

 

彼女、凰 鈴音は何も件の織斑一夏に会うためだけにこの国に来たわけではない。

その目的のために、彼女はあることを轡木に問い掛けた。

 

そして、彼と彼女の加速し続ける物語(オーバーリミット)は幕開けを迎える――。

 

 




・・・・・え? クレハと一夏の戦闘?・・・・見たい?

分かりました。今度サブタイを「銀対白(全体の約20%編)」に変えておきましょう(冗談)。

すいません。力不足で上手いこと出来ませんでした。
でも蒼編が有るってことはきっと何時か白編やると思うので・・・・。

そろそろ設定整理しようかなっ☆
鈴ちゃん出てくるぞ!

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