インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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学園祭はもうちょっとあと。


多難な学園祭

セシリア、シャルロットの二人とアメリカ行きの計画を話した翌日、全校集会が執り行われた。

時期を考えると学園祭について生徒会から連絡があるくらいだと思うので、俺はのっそり講堂へ赴き二年の列最後尾へ並ぶ。

ガヤガヤと騒がしい講堂だったが、妙齢の女性教頭教員、高柳先生がマイクを手に取ると静まり返る。

先生の司会で集会は進み、議題は学園祭に移った。

先生に代わって一人の生徒会役員がマイクを手に取る。

 

「これより、今年の学園祭について説明させていただきます。二週間後の土曜日、九月十七日。例年通り開催期間は一日として学園祭は開催されます。しかし、今年は二人目の男子入学によりだいぶ勝手が変わってくるかと思われます。去年は秘匿扱いだったので通常の人数でしたが、今年は大量にIS関係者や企業の方も来られるかもしれません。話し合った結果、一般開放こそしませんが皆さん、自分が注目されている学校の一員という自覚をもって行動してください」

 

役員の説明を聞き流しつつ、俺は去年の学園祭の思い出を振り返る。

校庭に設置するテントを運搬機で運び、ISも使わずすべての設置をこなし、音響機材の準備、撤収片づけ清掃エトセトラエトセトラ・・・・俺はスタッフか。

今年は一夏もいるし、楽になるといいなぁとか考えるんだが・・・二、三年にとっては都合の良い駒扱いなので楽する夢を見るだけ無駄かもしれんな。

 

「続いて、今年は公式の男性操縦者、織斑くんがいるので一つ催し物を追加することが決定しました。」

 

その発言に、講堂内がにわかにざわつく。

催し物の追加ぁ?

これ以上準備物の増加は俺が過労死するぞ。

 

「去年は何も無かったみたいっすけどねー? 扱いが違いすぎて不憫っすクレハさん!」

「おう、お前だったかフォルテ。話すのは前の電話ぶりか」

「そうっすね。クレハさんが妙に長電話するもんだから待ち合わせに遅刻したあれ以来っすね・・・絞め殺しますよ」

「前向け前。絞め殺す前にお前が更識に目ぇつけられるぞ・・・・俺はいない扱いだったから何か大々的にやるわけにもいかなかったんだろ。つーか俺の扱いが最低だったし」

「準備で走りっぱなしでしたもんね。普段からダルそうなクレハさんが働いてるなんて違和感ある光景でしたっす」

「絞め殺すぞ」

 

と、ここまでフォルテと駄弁っていると、スコーン。

どこからともなく閉じられた扇が飛来し、フォルテの後頭部に激突する。

 

「そこの二人ぃ? うるさいわよ」

 

おっと。生徒会長の登場だ。

俺は痛みに悶えるフォルテを置いて姿勢正しく前を向く。知らんぷり知らんぷり。

 

「やぁみんな。おはよう」

 

壇上に上がった更識は会長らしく堂々と切り出した。

 

「さてさて、今年は私自身立て込んでて一年生の入学式にも出ていなかったわね。初めに自己紹介と行きましょ。私が更識楯無。君たち生徒の長よ。以後よろしく」

 

そう言って頬を釣り上げて笑うと、周囲の女子たちが魅了されたようにため息をつく。

なんであれにうっとりできるんだ。俺には豹かなんかの肉食獣が笑ったようにしか見えんぞ。

 

「書記の(うつほ)ちゃんから話はあったけど、今年はイベントを一つ追加するわ。」

 

満足そうに俺たちを見下ろした肉食獣こと更識は、そのデカい瞳をライト以上に輝かせてそのイベントを発表する。

きっと騒動に巻き込まれることになるだろう。

超界者とかアベンジャーズといった問題を抱える俺としては無駄な負担は御免被りたいね。できれば普通に学園祭してほしいところだ。

そう願うが、きっとこの望みは叶わない。これまでの例から俺はそれを直感した。

 

「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!!」

 

意外なことに、俺には微塵も関係のない話だった。

 

 

更識を始めとした生徒会は、俺の知る限り三人で運営されている。

生徒会長、更識楯無。書記、布仏虚。会計、布仏本音。の、三人だ。

姉妹そろって生徒会入りしていることにも驚く布仏姉妹だが、なんと会計の妹は一年整備科ののほほんさんであるのだ。

あのちゃらんぽらんした女子がどうやって生徒会に入ったのか気になるところだ。

整備科に入るあたり、頭が良いかもしれないからいい勉強方法教えてもらおうかな。

 

・・・なんて現実逃避気味に益体もないことを考えていたのはワケがある。

 

「三年が重要よ! 引退したんだから一人でも多くうちの部活に呼び込むの!」

「筝曲って毎年演奏会と体験会だったわよね?今年は和風喫茶にしない?」

「投票一位の魅力は大きいケド、どうせなら織斑くんに楽しんでもらえる出店にしな~い?」

 

現在、クラスの希望で開催された放課後の特別ホームルーム中だ。

本来俺は無所属なので争奪戦なんかにゃ全く関係ないのだが、一応クラスでも出し物をしなければならないので残っているのだ。

始めこそ、雨の司会で話し合いが進んでいたのだが、時間が経つにつれ脱線。

くわえて早めに終わったクラスから部活の出店連絡が来るもんだから、女子たちはもう雨の話を全く聞いていない。

 

「み、皆さん・・・! まだ出し物決めてないのうちだけですよ~!」

 

騒々しい教室に黒板を背にした雨の声が消えていく。

ああ、悲しき雨よ。どうしてお前がクラス代表になってしまったんだ(大倭先生の独断

 

「ちょっと皆、はやく決めちゃってよ。あたしもう職員室帰っちゃうよ?」

「「勝手に決めてください! それどころじゃないんです!」」

「え?・・・あ、あぁ。・・・・なら王道にコスプレ喫茶じゃない?」

「「それ先生が私的にコスプレしたいだけでしょう」」

「なんで知ってんのよあんた達ッ!?」

 

・・・という風にして遅々として会議が進まないのが我がクラスの状況なのだ。

その時だ。

 

ヴヴヴヴヴ・・・ヴヴヴ・・

 

スラックスに入れた端末が震える。

すぐに止まったからメールかショートメッセージかな。

取り出した端末を机に隠して開き、確認すると―――――お、サラからだ。

メッセージは・・・『私のクラスの現状』?

サラのクラスと言えば何故か部長が多く集まってしまったことが夏休み以来有名になったな。

何の用だろうと首を傾げていると、次のメッセージが表示される。

・・・写真だ。

俺みたいに机に隠した端末から壇上の様子を隠し撮りしたらしく、そこには各部の部長たちが集まってなにか書いているのが見てとれた。

何だろうか。わざわざ送ってきたからには意味があるはず・・・。

少しぶれている写真を画面をこすって拡大していく。

・・・・・・ん?各部の名前の下に日付と時間、そしてメモっぽく小さい記述がある。

読み取れたのは、「吹奏楽部 九月五日 15:00より楽器運び」。

なんだ。部活ごとの準備予定表か。

サラも無所属だったはずだが、いったい何の意味が?

懸命に画像を拡大し文字を読もうとしていると、追加のメッセージ。

 

『これ、貴方の労働時間割よ』

 

・・・・は?

おい、待て。

なんだそりゃ。

そりゃ去年もやったからなにか手伝わされるんだろうなっては思ってたが、これ、どう見ても深夜まで時間割入ってるんだが!?

IS学園の総組織数は百以上。

そこから学園祭に出店するのは公認部だけなので、半分くらいある同好会は消える。

そ、それでも五十は名前が挙がってるぞこれ!? 

ヤバいぞここの女子ども・・・!俺を去年以上に使い潰す気だ・・・・ッ!

 

『みんな取り合うようにして時間を取り合ってるわ。よかったわね色男さん』

『よくねえ。なんで俺が労働力扱いされてるんだ』

『去年は私たちのクラス展示と校庭の準備だけだったから、どこのクラスや部活も都合のいい労働力が欲しいんでしょう』

『え? まだクラスもあんのか?』

『ええ、このあと抽選で決定する運びになってるわ。篠ノ歌さんも出席することになってるはずよ?』

 

俺は立ち上がり、壇上の雨に詰め寄る。

 

「おいおい、雨さんちょっとこれについて説明してもらいましょうか」

「ごっ、ごめんねクッちゃん。で、でも安心してね。絶対私当選して見せるから!」

「じゃなくて、なんで俺に知らせてくれなかったんだよ・・・っ」

「・・・だって、ちゃんとルールに沿わないと誰かがクッちゃん拉致しちゃうかもしれないし・・・」

「・・・・・ん」

 

なるほど、一理あるな。

ちゃんと決まりを作っておけば無理やりってことはないだろうし、混乱も起きにくいことは確かだ。

しかし、手伝うこと自体が強制的なんですけど、それはどうなんですかね?

ここで雨に文句を言っても仕方がない。

諦めて逃走方法を瞳でググろう。

 

しかし、今年の学園祭。

イベントの件も含めて関係ないと思っていたが、案外忙しくなりそうだな。

 

 

結局、クラスの出し物は普通の休憩所に決定し、各々部活に注力するため店員の数は最小限。俺は午後のみシフトということが決定した。のみっていうか、午後はずっとと言った方が正しいな。

部活や他クラスの手伝いは知らん。教員に言われればやるが、そんな無理やりやらされてはいそうですかって手伝うと思ってるのかアイツら。

 

「じゃあ、頼まれればやるのね?」

 

ホームルームが終わって、アメリカにわたる都合の良い仕事がないか情報室で遅くまで調べていた俺は、部屋で待ってた三人と食堂で飯を食っていた。

今日あった無茶苦茶な出来事を鈴、ラウラ、デュノアの三人に愚痴る。

 

「まぁ、勝手に時間決めてやらせるよりは何倍も良いだろ。アイツら俺のことを何だと思ってる」

「「「女装男子」」」

「お前ら追い出すぞ」

 

三人と部屋を共同にして数日が経つ。

鈴との生活もすぐに慣れたが、なんつーか、女の匂いが強く香る部屋になれるってなんか自己嫌悪だな。

 

「私たちのクラスはとくに重労働はないので大丈夫ですが、部活のほうが・・・」

「ん?ラウラお前、部活に入ったのか?」

「はい。クラリッサの勧めで漫研なる部活に入部しました。兄さんも一緒にどうですか」

「・・・いや、遠慮する」

 

そうかぁ、クラリッサの影響かぁ・・・。

 

「あたしのクラスも問題ないわよ。中華喫茶するんだけど、テーブルなんかは自分たちでやることにしたから」

 

トレードマークのツインテールをみょんみょんさせている鈴は、自分の希望で中華喫茶にできたことを相当喜んでいるようだ。

 

「中華喫茶ってことはチャイナ服とか着たりするのか?」

「いやね、着ないわよ。しっかりしたものは案外良い値がするし、恥ずかしいのよ」

「ってことは食いモンに集中か」

「そ、中華料理店の娘監修だから期待してなさいよ」

「そりゃ楽しみだ」

 

その後はラウラが去年の学園祭の様子を聞きたいというので、俺の苦労話を聞かせてドン引きさせたりしてると・・・

 

「そういえば生徒会長と一夏って仲いいのかな?」

「一夏が? 入学式も出てないし、集会が顔合わせじゃないのか?」

「ううん。この間知らない青い髪の上級生と会話してて授業に遅れたって言ってたよ」

「あんな目立つ髪はアイツかミナトくらいしか知らないし、たぶん会ってたんだろうな。なにかあったのかデュノア」

 

みそ汁を置いたデュノアは更識と一夏の関係について疑問を呈した。

 

「今日偶然みたんだけど、放課後一夏と会長が二人で会ってたから怪しいと思って着いていったんだ。そしたら・・・」

「「「そしたら?」」」

「突然大勢の生徒が会長を取り囲んで一斉に襲撃してたんだ」

「あー、毎年この時期じゃよくあるヤツだ。一夏は居合わせただけだろ」

「よくあるってなによクレハ」

 

鈴が聞いてくる。

 

「お前ら、生徒会長はどういう存在か知ってるか?」

「どういうって・・・クレハとは犬猿の仲?」

「そうじゃなくて・・・じゃあ、生徒会長になる条件は?」

 

質問を変えると、ラウラが「人気投票で決まるのでは?」と答えたが、違う。選挙を人気投票というな。

 

「――――最強であれ。ってやつ?」

「正解だデュノア。前に言った気がするな。生徒会長は前生徒会長を倒した人間が就任するんだ」

「なによその少年マンガみたいな制度・・・」

「知らん、初代生徒会長を倒した二代目に聞け。・・・話を戻すと、生徒会長は最強じゃないとダメなんだ。じゃないとすぐに会長の座を奪われて自分が描く学校にできなくなる」

「学生の会長なのにそんな特権があるの?」

「あるんだ。生徒会長は同時に、学園の最高戦力っていう肩書でもあるからな。色々駆り出される代わりに自由は効かせてくれるんだよ」

 

此処までの雑把な説明でデュノアは更識が襲撃されていた理由を悟ったらしく、確認するように口に出す。

 

「つまり、学園祭で自分の都合を通すために会長の座を奪おうとしてたってこと?」

「そうだ。大方一夏争奪戦についてだろ。集客が見込めない弱小部は望み薄だから潰したいんだろうな」

「生生しいわね・・・」

「全くだ」

 

全員で茶を啜り、一服。

 

「で、昼間の件考えてくれた?」

 

思わず吹き出すかと思った。

にこやかにどす黒く話題を切ってきたデュノアのしたたかさに肝が冷える。

瞬時にほか二人の視線が俺に向いた。

 

「昼間ってなんのことよ」

「何のことですか」

「二人で食べたクッキー、おいしかったねクレハ」

「食ってねぇし、セシリアも居ただろ!」

 

俺の発言に疑問の眼だった二人の眼が鋭くなる。しまった!

 

「ちょっと食堂で飯食ったんだよ」「離れのカフェでお茶でしょ?」「コーヒーとカフェオレいただきました!!」

 

ダメだ。

なんでか知らんが、デュノアはここで答えを出せと言っている。

だがなぁ、まだ向こう行ってなにするかどうするか以前に、日にちすら決まってないんだぞ。

正直に言ってもいいが、それだと大所帯で乗り込むことになるし、IS乗りが大勢で入国とか絶対許可でないぞ。

 

「シャルロットと仕事の話でもあったの?なら今度はあたしも混ぜなさいよね。あんたについていけば超界者に会えるかもしれないし」

 

すぐに会えますよ。サラの部屋と第三アリーナ地下射撃場に巣くってます。

そうやって逃げようとしても、ふたりの事は鈴にも知られているので大したネタにはならない。

 

「お前なぁ、どっちかって言うと接近しない方が安全なんだぞ」

「分かってるわよ。けど、攻撃は最大の防御よ。相手が迫ってくるならむしろこっちから行ってやるわ」

「はぁ……鈴らしいというかなんというか」

 

きっと鈴は、俺が隠していてもいつかは嗅ぎ付けてくる。それこそ勝手にアメリカまで来ないとも限らん。

だったら、ちゃんと訳を話して現状を理解してもらった方が安全そうだ。

 

「アメリカのスタークインダストリーに、超界者との繋がりがある可能性が見えてきた。この間襲われた借りもあるし、潜入して探って来ようと思ってる。向こうで生活するにあたって、英語が堪能なセシリアと情報戦が出来るデュノアに応援を頼んでたんだ」

 

仕事の話は内密に。

その了解に沿って俺は鈴に近づき、耳打ちするように説明する。

……が、なんだ?

鈴が耳を押さえて……俺を睨んできた。

 

「……近いのよ」

「え? あ、ああ悪い」

 

珍しい反応に面食らった俺は、ちょっと驚きつつ席につく。

鈴は短く息を吐き、顔色を朱色にしたまま顔をあげる。

 

「仕事の内容はわかったわ。あたしは潜入に向いていないユニットだし、付いていけば足を引っ張ることも……。だからアイアンマンに関してはクレハの仕事とするわ。あたしもこっちで自分の仕事をする」

「自分の仕事?」

「学園から各国専用機持ちに依頼が入ったのよ。学園祭中の即応戦力として学園祭の警備をする仕事。二人もクレハについていくなら忙しくなりそうだわ」

「人の出入りが増えるからな……一夏目的で来る連中も増えるだろうし」

「そう。だからこっちはあたしに任せて、クレハは向こうでしっかりやって来なさい。結果、期待してるからね」

 

そう言って鈴は、はにかんだ。

ちょっと腹になにかありそうな、困ったような笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 




いつも読んでくださって有難うございます。

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