インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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お久しぶりです。
旧型スマホの私にFGOやグラブルは重い・・・・。
グラブれません(憤慨)


第五巻
新学期と悩みの種


アイアンマンの襲撃があった次の週、夏休みが開けた。

先日の件に関してはアメリカ人のダリル先輩に探ってもらったところ、

 

『ウチの政府は関係ねーよ。シールドって言うのは、自分勝手に活動する気紛れ部隊でよォ・・・アベンジャーズのリーダー・・・ああ、先代のアイアンマンな? は、今じゃペンタゴンの技術開発のトップってハナシだ』

 

―――だからアメリカに弱味を作るような安い攻撃は仕掛けてくるはずがない。

だそうだ。

そうすると、あの襲撃は本当にあの子供っぽいアイアンマンの独断行動って線が有力だが・・・、また来るとか言ってたし、今度はお仲間を連れてくるかもしれん。要注意案件だ。

 

そんなことを考えつつの始業式が終わり、IS学園はいきなり授業へと移る。

今日は実習のない教科授業の日なので、クーラーの効いた教室で授業を受ける。

ちなみにだが、あの夏コミでの戦闘、学園内じゃ全く噂になってない。

だてに普段から銃器やら刀剣やらに触れてるぶん耐性があるし、クラスによってはガチの戦争経験者がISの教育を受けているのだ。

一年ならまだしも、二年になってドンパチで騒ぐようなヤツは居ないのである。

外から聞こえるISの駆動音や銃声、剣戟の音に混じって、ドォン、ドォンという破砕音が微かに聞こえる。

あれは、衝撃砲の着弾音だ。

たしか午前中は専用機持ちの一年で実戦訓練が組まれていたはず。

つーことは今戦ってるのは鈴とアイツらの誰かか・・。

 

「―――この積分問題を・・・今日は3日だし三番、安住。やってみなさいよ」

「はい」

 

大倭先生に指された安住が黒板に立ち、見事正答する。

・・・・授業の合間に度々聞こえる衝撃砲の音。

なんか花火みたいに聞こえて、妙な記憶が掘り起こされちまうな。

イカン、集中だ集中。

数学は苦手教科だし、呆けてると新学期早々にチョークをくらうぞ。

背筋を伸ばし、数学の授業なのに妙に気合いの入った俺をクラスメイトが意外そうに見てくるが、そんなの気にしてられん。だって積分、分からないんだもの。

しっかりやらねば中間で赤点だろうし、なによりあの異常に勉強のできる一年女子どもに舐められたくない。

確かなプライドを胸に、黒板の板書を書き写す。

 

「え、ええと、柊くん? 熱中症なら保健室行く?」

「・・・・・・」

 

早々に大倭先生に茶々を入れられた。

 

 

要らん心配をしてくる教師の授業を終え、昼休み。

食堂に向かうため、渡り廊下を歩く。

今日の日替わり定食、サバの味噌煮らしいから早く行かねば売り切れてしまう。

IS学園食堂のババ様のサバは最高だからな。

なんて、いまだに真夏の様相をみせる海の風景を見ながら歩いていると・・・、

 

「―――フフッ、久しぶりね。柊クレハくん」

 

ゾクッとくる吐息の掛かった声。

声の主はどうやら俺の背後に立っているらしい。

いつの間に?という疑問は持たなかった。

この女なら俺に気づかれずに接近することができるという候補がちゃんと居るからだ。

 

「ああ、久しぶりだな―――更識楯無」

 

首に添えられた青い扇子を払うと同時に背後へ肘鉄を繰り出すが―――避けられた。

 

「相変わらず喧嘩っ早いわねぇ・・・もっと余裕を持たなきゃダメよ? 女の子逃げちゃうじゃない」

「さっそくイラつくセリフをどうもな。だけど安心しろ。猫女は女の子の範疇に無いからな」

 

振り返った先にいる女子生徒。

口元に『挑発』なんて書かれてる扇子を広げ、不敵に笑うこの女こそ、青髪こと更識楯無。

学園最強の名を持つ生徒会長様だ。

長袖の制服を肘まで捲し上げて立つその姿は今の俺の素人目で見ても隙がなく、撃ち込んだところでカウンターを喰らいそうな迫力がある。

 

「あら、いってくれるじゃない。半年振りなのに私のこと覚えてくれてるようで良かったわ『女装男子』君?」

「いつまでそのネタ使ってるんだよ。いい加減に昔のことは忘れようぜ生徒会長サマ?」

 

・・・見てわかる通り、俺たちは仲が悪い。

理由としてはスッゴいくだらないんだが、とてつもなく難しい事情があったりする。

 

「長期任務、無事終わったようで何よりだぜ」

「ええぇ、無事に終わったわ。私の活躍で! 私の働きで!」

「ああーうるさいうるさい。あと扇子を振るな。熱風がマジでキツイ!」

 

更識のあの扇子。

アイツのISの待機モードだったりするんだが、紙の面に普通に文字書いてあるし、大丈夫なんだろうか。

 

「で? 何の用だよ。俺はこれからサバを食いに行くんだ。邪魔するなら無理やり通るぜ」

「あら、それなら急いだほうが良いわね~。今日は生徒会の面々が友達誘って食べに行くって言ってたわよ?」

「・・・あくまで邪魔をするつもりか更識」

「何のことかしら? 私はただみんなにサバの素晴らしさを語っただけよ?」

「俺がサバ好きだって知ってて語ったんだろ。確信犯じゃねぇか」

 

俺の中でイライラが高まっていく。

まて、落ち着け。俺たちの間じゃ精神攻撃は基本だ。

だから・・・耐えろッ!

だが、更識は嫌な笑みを浮かべて懐から何かを取り出す。

 

「そしてこれが―――――――今日最後のサバ定食の食券よ」

「食べ物の恨みを舐めるなよォ!」

 

更識の持つ食券に狙いを定め、飛び掛かろうと足に力を籠める。が。

 

「アホなことしてんじゃないわよクレハ。暑いのにさらに暑苦しく感じるわ」

「放せ鈴。俺はこれからあの女に食べ物の恨みを―――――」

「それをやめろっつってんのよ」

 

いつの間にか横に立っていた鈴に頭をシバかれた。

 

「それで? アンタだれよ?」

 

鈴が懐疑的な目を更識に向ける。

 

「ふふっ。誰とはご挨拶ね。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

「一学期からいるけど、アンタみたいな目立つ頭初めて見るっての」

 

目立つ頭・・・まぁ確かに色彩豊かになってきた日本人だが、金髪や茶髪は多かれど青髪ってのはほとんど居ないな。

・・・・あ、いやそういやミナトが青いが、あいつは超界者だ。例外例外。

 

「あー、鈴。こいつは―――」

「良いわクレハくん。こういうちょっとナマイキな感じは好きだけれど・・・ちょっと教育してあげる必要がありそうな娘ね」

 

更識が、それこそ猫のように目を細め、鈴をみつめる。

いや、見つめるなんて生易しいものじゃない。

鈴も、どうしてかは知らんが攻撃的な構えを取っている。

や、やる気か二人とも・・・。

 

「やめろ鈴。さっきはちょっと挑発に乗っちまったが・・・更識とは止めとけ」

「うるさいわよクレハ。あの女とはやり合う必要があるわ」

「な、なんでだよ・・・?」

 

鈴の意図が分からず聞き返す。

鈴はちらっと俺を見て・・・更識に向き直る。

 

「―――――あたしもサバ狙いなのよ」

「・・・・あぁ、そう」

 

よく見れば鈴が見てるの、食券だわ。

いつの間にかサバの評判が広がっていてうれしい反面、なんでこれで争いが起こっているのかすげぇ不思議。

 

「良いわね。それじゃあ掛かってらっしゃい鈴ちゃん。おねーさんに勝てたら食券をアゲル」

 

更識がビッと扇子を突き出し、迎撃の構えを取る。

 

「その言葉。忘れるんじゃないわよ―――――!」

 

鈴が床を蹴り、ツインテールをなびかせて真正面から更識に迫る。

更識はクスリと笑うと、扇子で払うのか握っている右手を左肩に寄せた。

 

「―――――見えてるわよ」

 

更識の腕が届く70センチ手前、鈴が払われた右手をよける。

い、今の・・。

角度のある前傾姿勢だったのに、急停止からのバックステップを完全に制御しきっていた。

更識と鈴は性格が猫みたいと評されているが、鈴の場合、身体能力も猫みたいに柔軟だ。

バックステップで更識のカウンターをやり過ごした鈴は、シューズを鳴らして回転し、更識の左側から手を突き出す。

狙いは――――襟。

いいぞ。鈴。

突っ込んでくる相手へのカウンターが得意なヤツに対しては、できるだけ距離を開けないのが鉄則だ。

できるだけ相手に付いて動く。そうすることで相手の動きも封じられるし、得意な技も封じられる。

だからなんとか接近して投げ技に持ち込んだのはいい判断だと言える。

しかし――――それが学園最強の異名を持つ更識の場合、悪手になりえる。

 

「速いわね鈴ちゃん。足運びも良いし、戦い方をよくわかってる」

 

更識が扇子を放り投げ、空いた右手で鈴の腰を固定する。

二人の顔が近くなり、更識が勝利を確信する。

 

「――――でも、私だって得意なのよ? 投げ技」

 

更識が回転し、身長の低い鈴を腰に乗せてブン回す。

―――――跳ね腰。

大きい相手が小さく素早い相手と戦う時の技を、片手だけでやりのけたのだ。

しかし、お前ら。

投げ合うなら下になんか穿け。

 

宙を舞う鈴が地面に叩きつけられる際、更識が左手で鈴を引き寄せ、衝撃を軽くする。

そのおかげか着地した瞬間、両手で更識を弾き、鈴は跳ねるように距離を取った。

 

「・・・・・ッ」

 

見かけは完全に鈴の負け。

組み手で負けて、投げられた後も手加減されたのだ。

だが、顔をゆがめたのは―――――更識だ。

 

「・・・・やってくれるじゃない」

「こっちのセリフだっての。初めにアンタに掴み掛ったとき、もう食券を狙ってたのに」

 

そう言って立ち上がる鈴の手には――――――食券。

そういえば・・・更識は鈴の身体を左手で引き寄せていた。

右手には扇子があって、鈴の腰を固定していた。

すると左手は食券が握られていて、自由に使えないはずだった。

 

「近づけば、あんたの左手に届くと思ってたけど・・・投げられたのは予想外だったわ」

 

鈴は勝って食券を手にしようとしたのではなく、始めから食券を狙って勝負していたのか。

更識の左側から迫ったのも手の長さや身長のハンデを補うため。

急接近したのも食券を奪取するため。

始めっから鈴のヤツ・・・食欲のために戦ってやがった!

 

「驚いたわ~。試合に勝って勝負に負けたのは初めてよ。」

 

制服をパンパン叩きながら語る更識は・・・・笑っている。

更識のヤツ、アレはアレで負けず嫌いなフシがあるから、鈴に出し抜かれたこと、結構気にしてるっぽいぞ。

 

「まぁ良いわ。今回は負けを認めてあげる。けど―――またやりましょ」

 

そう言って、更識は食堂とは反対方向に消えていく。

 

「ふん、別にあたしはキョーミないっての」

 

鈴はその背中に向けて、べぇーっ。

思いっきりアッカンベーを繰り出していた。

 

 

「お前、スゴいな。更識相手に・・・」

 

更識が消えたあと、食堂に足を向けた鈴を追いかける。

 

「別にスゴくないわよ。あの女、本気じゃなかった」

 

・・・・だろうな。

更識が本気を出せば、鈴なんて相手にされてなかっただろう。

更識楯無。

アイツはロシア代表のIS操縦者で、IS学園の生徒会長だ。

候補生ではなく、立派な代表と言う立場で・・・それ故に仕事で学園を空けることが多くある。

去年の12月から長期任務で海外に出ていて、どうやら今日が学園復帰の日だったらしい。

ちなみにだが、この学園における生徒会長と言うのは一つの事実を体現する存在だ。

それは、最強という存在。

学園の創立時からのしきたりで、生徒会長はその年の最優秀の人物が努めることになっているのだ。

それで、更識は去年前生徒会長を私合で倒して生徒会長になった。

いつでも誰でも生徒会長に襲い掛かれるという校則もあって、アイツのまわりにはよく倒された生徒の屍(過剰表現)が転がっている。

生徒会長にもっとも強い人物を据えるというこの学園のシステムも、恐怖政治みたいなのを産みそうで十分にトチ狂ったシステムなんだが、意外と上手いこと回っているのはヤツの人望のおかげなんだろう。・・・・俺はゴメンだね。アイツの近くに行くなんて。

 

「じゃ、なんでクレハはあの女と喧嘩してるワケ?」

 

対面に座ってメシをかっ込む鈴が、箸をくわえて訊いてくる。

それに、後からやって来た一年の面々が加わった。

 

「だね。聞いていれば、学校の生徒会長さんなんでしょその人? 何かしたの?」

「・・・・・」

 

興味深そうにしているデュノアは、ラウラと一緒にカツレツを食べている。

一方ラウラは俺の話なんか目もくれず、もくもくと食べ進めている。まぁ、ラウラは知ってるもんな。

 

「いや、俺がしたってワケじゃないんだが・・・・」

「じゃぁ向こうが勝手に私怨をぶつけてきたってワケ?」

「いや、そう言うわけでもないんだ」

 

どう説明したものかと悩む俺を見かねたのか、

 

「・・・・ならば私から説明いたしましょう。兄さん」

「・・・だな。頼む」

 

ラウラが察して助けてくれたので有りがたく便乗した。

コホンと咳払いをして、ラウラは説明を始めた。

 

「・・・あれは兄さんがまだドイツ軍にいた頃の話だ。バディを組んでいた私と兄さんのいる部隊は、ロシア軍からのIS技術開示要求に拒否するために直接、ドイツのシュヴェットまで出撃していたのだ」

 

・・・思い起こせば、あれは俺がドイツ軍にいた二ヶ月の中でも最悪の悪夢と言えるなぁ。

 

「シュヴェットは当時ロシアと技術共有を図っていたポーランドとの国境の街だ。隣には雄大なウンターレスオーダータール国立公園が存在し、素晴らしい自然が・・・・」

「いいから。そう言うとこ」

「・・・・分かった。続けよう。―――簡潔に言えば、奴らはこちらのISを鹵獲する気でいて、それを察した我々と交戦したのだ。ロシアが送り込んできたISは、専用機一機にそれの元となった試作機体が五機。対して、こちらの編成はドイツの量産機『シュヴァルツェア』が三機と歩兵が十。数だけで見れば圧倒的に不利な状況だった」

 

ロシアが送り込んできたIS六機とは、総数が隠されていて分からないが恐らくロシアが持つISの半分の数だ。

ドイツはIS技術に関しては閉鎖的だったから、なにが何でも手に入れるつもりだったのだろう。

 

「奴らは深夜の闇に紛れて行動し、我々の陣地に忍び寄った。運良く私の瞳が気づいてくれたが、次の瞬間にはグレネードが投げ込まれ、歩兵の半分が吹き飛んでいた」

 

あー、思い出すなぁ・・・。

街の郊外にキャンプしててホントに良かったと思うぜ。じゃなきゃアレはマジで街ぶっ壊してた。

俺が腕を組んで思い出に浸るなか、ラウラは淡々と続ける。

 

「我々もISを展開し応戦したが、当時AICは未完成。着実に戦力は削られていった」

「・・・・なに? そのまま負けるわけ?」

 

鈴がジト目で投げ掛けるが・・・・良く考えろよ鈴。

負けてたら俺とラウラはここにはいないんだよ。

 

「なんとか撤退戦に持ち込み、撤退に成功した我々だったが、帰還の途中にあることに気がついた」

 

あー、来たよ。

俺のトラウマ第二号が。

 

「朝日が昇る空を飛行中に、当時の最年少13歳で戦略部隊に配属となったクレアレット・フォーハウンド準尉が言ったのだ――――――」

 

―――――――すみません、クレハ特佐を拾い損ねました・・・・

 

「「「「「マジで!?(ホントですのッ!?)」」」」」

 

五人の声が揃う。

 

「・・・・ああ、マジだよ。脱出用コンテナなんて無かったからな。作戦では緊急時の離脱にはラウラが敵の侵攻を食い止め、歩兵回収班が歩兵を抱えて脱出するはずだったんだ」

 

ISは三機。グレネードで歩兵の半分が吹っ飛んでたから数は五人。

IS一機に二人以上を抱えれば脱出出来るハズだった・・・・んだが、

 

「クレアレットはこの任務が初陣でな、相当に混乱してたらしい。脱出するのを優先して兄さんの存在を忘れていたと言うわけだ」

「じゃ、じゃあどうやってクレハさんは生き延びたのですか!?相手はIS六機なのでしょう!?」

「あー、えーとだな・・・・」

 

俺はラーメンのスープを飲み干し、コトンとテーブルにどんぶりを置く。

 

「まぁ、なんだ。俺たちの陣営には歩兵が居たわけだから、電磁パルス弾や大型貫通弾とか歩兵用の対IS装備が一応なりともあったわけだ。おいてけぼりを食らった俺は、それらを使って一晩生き残ったっつーハナシだよ」

「それだけでは無いでしょう? 兄さん」

「おい、もうこれでいいだろ!?」

「まだよ。あの女との関連は?」

「ぐ・・・」

 

鈴の奴め・・。余計なことを・・・。

 

「私が街に戻ったとき、ソコには―――」

「やめろ」

 

ラウラが話そうとしたその先を、俺は鋭い口調で止めさせる。

ここまではいい。

ここまでは良いんだが、これ以上はダメだ。

俺にだって言ってほしくない事はある。

 

「とにかく俺はあの夜、なんとかして生き延びただけだ。流れで分かるかもしれんが、相手には確かに更識がいた。アイツは初めからロシアの候補生だったわけだし、いても不思議じゃないだろ。更識は俺を仕留めきれなかった事を根に持ってるだけ。オーケー?」

「あ・・・・うん。わかったわよ・・」

 

俺の勢いに気圧されて、鈴が首肯する。

 

「ラウラも。これ以上は言うなよ」

「分かりました。兄さん」

 

よし、これで良いだろう。

シメるつもりで睨みを利かせて言ったからか、皆少しだけビビってるようだ。

女尊男卑の世の中だが、睨まれてビビるのはいつの時代も一緒ってことか。

だが、何故かセシリアが未だに興味深そうに俺を見ている。

 

「・・・・・なんだセシリア。これ以上は言わないぞ」

「あっ、いえ・・・・・・ふ、ふんっ」

 

両手をパタパタとふり、思い出したように顔を背けるセシリア。

そう言えばセシリアとはまだ(わだかま)りがあったんだっけ・・・。

話題が終わると、各々の食事に戻る。

話題はお菓子の話へと移っていった。

 

 

「おーい。束さんいるかー?」

 

昼休みが終わり五時限目。

授業を久しぶりにサボった俺は、第三アリーナ地下。

束さんの工房を訪ねた。

 

「おー、クーちゃん。なんかよう?」

「なんかよう?じゃないだろ。つーかごちゃごちゃし過ぎだ。片付けろよ」

 

足場のないほどに散らかった工房内をなんとか歩いて束さんを探す。声が聞こえるから居るんだろうが・・・・どこだ。

カンカンキリキリと工具の音が聞こえる方に歩いていくと・・・いた。

 

「治ったのか?」

「うん、瞬龍ならばっちり仕上げといたよ~。最後にデータ計測したの二年前だからクーちゃんの身体データも微小ながら差異があったし、コアからのエネルギー伝達処理も初期化と最適化の影響で圧迫されてた。多分結構使いやすくなったと思うよ」

「おお、ありがとな束さん」

 

珍しく油まみれのツナギ姿でいた束さんが、装甲だけ取りはずした瞬龍を見上げながら言った。

・・・普通、ISの整備は待機形態のISをポンと渡せばそれでいいのだが、俺はそうもいかない。

心臓とコアが一体化している俺の場合、一度展開してから脱ぐ必要がある。

だから、格納する場合にも一度着て展開を解除しなければならず、ちょっと面倒くさいのだ。

制服のままでコックピットに座り展開解除を指示すると、瞬龍は粒子となって消え、俺の体が宙に浮く。

 

「よっと」

「ちょっとくらい動かしてみればいいのに~」

「この狭い整備室でどう動かせっていうんだよ」

 

アリーナにでれば良いんだろうが、今は五時限目。

俺はサボってここにいるのだ。

 

「・・・で?何の用でクーちゃんはサボってきたのかな?」

「・・・・」

 

そう、瞬龍を取りに来たのはあくまで次いで。

本題は別にある。

俺と束さんは手近なパイプ椅子に腰かけると、俺のほうから切り出す。

 

「あんたは盆からこっち、ニューヨークの委員会にいたから知らないと思うが・・・・アイアンマンが攻撃してきた」

「・・・・・へぇ・・・」

 

あの夏祭りからこっち。

束さんは国連にあるIS委員会の呼び出しに応じ、連合本部のあるニューヨークに渡っていた。

きっと経公が委員会で超界者について証言したために呼び出されたんだろう。

 

「先週なんだが、お台場にアイアンマンのマーク44あたりかと思われる機体がコンテナに梱包されて置いてあった。おそらく遠隔操作だと思って撃退したが、敵にかかわる物体は回収できなかった」

「だろうね。スターク氏とはペンタゴンで会ったっけれど、そんな話は聞かなかった。息子がいたという話も聞いたことがないし、そうとう情報管理がうまい人か、はたまたアメリカ全体で行った攻撃なのか・・・」

「・・・息子がいない?」

「え?・・あ、うん。先代のアイアンマンは無精子症でね。妻はいるけれど子供はいないって聞いてるよ」

 

束さんの言葉に首をひねる。

・・・あいつは自分を息子のように喋っていたが、あれはブラフだったのか?

 

「・・・まぁ、今はいい。それより、奴はまた来るとも言っていた。なにか情報はないか?」

「情報って言われてもねー。間違いなくアイアンマンのアークリアクター技術はISからすれば時代遅れも甚だしい技術だし、超低速ロケットミサイルも多重追尾(マルチロックオン)システムもアイアンマン自身が技術提供をアメリカにしてる。もう今更言えるような事実はないんだけどなー」

「そうか・・・」

 

落胆の気持ちとともに束さんの工房を出る。

とりあえず束さんには新情報があったら伝えてくれと言ってあるし、一応アイアンマンの基本的な資料ももらった。

いつ来るかわからない相手に備えるのは正直イライラするが、来る以上何らかの対策してないと最悪死にかねない。

バサバサと大量の資料をまとめながらアリーナの通路を歩いた。

 

 

あの後、六時間目の暇を瞬龍の調整で潰した俺は寮への道をとぼとぼ歩いていた。

アリーナと寮の道の最中には校舎の昇降口があり、俺はそこでセシリアの姿を見つけた。

 

「・・・・・はぁ・・・」

「わかりやすく落ち込んでどうしたよセシリア?」

 

鞄を前に提げ、かすかに消臭スプレーの香りを漂わせているところを見るに、一年は六時間目も実習だったらしいな。

 

「・・・・いえ、お話しすることではありませんわ」

 

俺を一瞥すると、セシリアはそう一言告げて歩き始める。

・・・・アイツ、まだ俺に対して腹でも立ててるのか?

正直、夏休みの手合わせの一件。

あれで、なんでセシリアの機嫌が悪くなってるのかわからない。

確かに二年として一年に負けるのはみっともないと思うが、セシリアのあの過剰な避け方にはそれ以上の理由があるようにしか思えない。

しまったな。

調整中に思いついた頼みごとがセシリアにはあったんだが、あれじゃ断られるだろう。

・・・・なにか悩んでるみたいだし、ご機嫌取りの一つとして聞いてやるのも良いな。

 

「なんに悩んでるんだよセシリア」

「クレハさんには関係ございませんわ」

 

歩く速さを速めるセシリアに合わせて歩みを速める。

 

「悩んでるんだろ。打ち明けてみろよ」

「下級生に負けるような先輩には打ち明けても仕方がありませんわ」

「・・・・・」

 

・・・・存外、キツイ言葉にちょっとひるむ。

 

「昼の時は普通だったよな。実習でなにかあったのか?」

「・・・・・」

 

セシリアが下を向き、唇をかむ。

心なしか、ちょっと目が潤んでる気がする。

あ、ここだな?

 

「・・・・負けたのか」

「・・・・そう、ですわ」

 

いつの間にか立ち止まり、セシリアが吐露した。

 

「・・・まぁあんまり気にするなよ。お前はまだ一年だしこれから経験を―――――――」

「―――――そんな悠長なこと言っていられませんのッ!」

「――――ッ」

 

セシリアが・・・叫んだ?

突然の叫びに、周囲の生徒の目がこちらを向く。

しまった。ただでさえ注目を集めるのに、これ以上・・・それこそ泣かれたりしたらやばい気がする。

見ればちらほら二年や三年がいるし、セシリアにもいい影響があるとも思えない。

 

「―――――ちょ、ちょっとこっち来い!」

「え・・・?ええっ?ちょっとわたくし、待ち合わせが―――――!」

 

セシリアの腕をつかんで移動したのは、食堂とは別にある学園島隅のカフェテリア。

木製の落ち着いた内装で太平洋が望める好ポジションなんだが、授業の合間に行くには通すぎて、上級生でも知ってる人は少ない店だ。

お互いにエスプレッソに口をつけ、落ち着いたのかセシリアは自分から切り出してきた。

 

「最近、模擬試合の結果が芳しくありませんの」

「最近?」

「ええ、あの福音事件からこちら、一年生の専用機持ちの実力がある程度固まってきましたの」

 

そう言って見せてきたのは模擬試合の結果表。

もちろん専用機持ち限定だが、セシリアはその中で―――――最下位だった。

 

「理由はわかってるのか?」

「はい、機体制動に問題があるとは思っていません。問題は―――――ブルーティアーズの特性ですわ」

 

BTの特性・・・・。

 

「まさか、適合率が下がってるのか?」

「いいえ・・・って、いえ、はい。その、最近は落ち気味でして・・・言い訳のようになってしまうのですが・・・」

 

セシリアが膝の上でスカートを握ったのが伝わってくる。

 

「・・・一夏さんの白式には第二形態以降、雪羅が標準装備されていますの」

「ああ、資料は読んだぞ。盾にも粒子砲にも近接爪にもなる攻防一体の装備だったな」

「はい。そして雪羅は光学兵器を分散してしまう特性があります。つまり――――」

「―――――光学兵器しか積んでいないBTとは相性が最悪ってわけか・・・」

 

これは・・・キツイな。

セシリアの攻撃はすべて無効化され、逆に遠隔砲撃を撃ち返されるのだ。

加えて、爪による近接攻撃の充実はセシリアにとって最も嫌な進化だっただろう。

さて、どうするか。

BTとの適合率が下がってる問題については、おそらく心因的な理由があるだろう。

気にする気持ちはわかるが、それによって適合率を下げてしまっては元も子もない。

前のセシリアを見る。

おそらく実弾兵器でも追加するつもりなのだろうか、武装のカタログから目を離さない。

と、そこへ――――

 

「もうっ、セシリアこんなところにいた!」

「・・・デュノア?」

 

目立つ金髪を揺らして店内に入ってきたのは、一年の専用機持ち、シャルロット・デュノアだった。

 

 

 




微妙ですがカットで。

読んでくださってありがとうございました!

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