インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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最近映画を見ました。
アニメ映画もいいけど、アクション映画もおもしろい。


夏の終わりと終わらない騒動

八月末日。

入院生活が終わり、気がつけば夏休みも残り一週間もない。

夕日が傾く時間に病院から一人帰ってきた俺は、自室のドアを開けた瞬間、立ち込めるシャンプーの香りに顔をしかめた。

 

「あらクレハ。タイミング良いじゃない。丁度みんな出たところよ」

 

三階からぶん投げられていたハズの鈴が、ベッドに腰かけてその艶やかな髪をタオルで撫でながら言う。

・・・・俺は病院に担ぎ込まれたってのに、なんでこいつは無傷なんだ。

 

「あ、クレハ。お帰り。ごめんね。僕あの時ちょっと動転してて・・・」

「入院中の見舞いでイヤというほど聴いたから、もう謝るなデュノア。キリがないぞ」

 

鈴の口ぶりから察するに、何人かで風呂に入っていたらしく、首にタオルを掛けたオレンジジャージ姿のデュノアが申し訳なさそうに俺の入院中の荷物――鈴に借りたボストンバックだ――を受けとる。

せめてもの罪滅ぼしのつもりか知らんが、どうせなら病院まで迎えに来てくれれば良かったのに。

ボストンバックって言っても、折れた肋骨にキくんだから。

そんな俺たちのやり取りを椅子で本を読みながら聞いていたラウラが、読書を止めて足を組んだ。こいつはこいつでロングTシャツ一枚というミナトの寝巻きと同じ服装で日中を過ごしている。おい裾。捲れるぞ。

 

「ふふん、だから言っただろうシャルロット。私の兄さんは寛大だと。部下の不始末の責任を体でとれる、それが上官の素質だ」

「テメーらは部下でもないし、俺は上官でもないぞ・・・・・・って―――」

 

あー、疲れたと、肩をぐるぐる回しながら見渡した俺の部屋。

あまりにも馴染んでいたため、違和感を感じなかったが、百歩譲ってデュノアとラウラがいるのはいい。

鈴と同じ一年だし、遊びに来ることもある。

だが、今回はそれだけでは終わっていなかった。

 

「――――なん、だよこれ・・・」

 

俺は部屋に横たわる四つのベッドを見る。

四つと言っても、横に並べられる訳もなく、二つで一組の二段ベッドが部屋に置かれていた。

 

「ああ、これ? 二人ともこの間の襲撃で部屋壊されちゃったから一時的にウチに来てるのよ」

 

鈴は元のベッドと同じ位置にある窓際の下段で、ツインテールを結う。

その上がラウラで、隣の上がデュノア。となるとその下が俺の場所か・・・。

にしても、スゲー圧迫感だな二段ベッド。

在るだけで部屋の狭さが普段の二割増し位に感じる。

 

「学園はなにもしてくれなかったのか」

「あー、えーと。一応ウェルキン先輩のところに行くようには言われたんだけど・・・・」

「? なんかあったのかデュノア。サラのやつ、一人部屋だっただろ?」

「いや、アオちゃんが同室になったんだよ。ほら、ウェルキン先輩かなりアオちゃん気に入ってるみたいでね・・・」

 

顔に影が射したデュノアによると、サラは部屋にいるときはずっとアオにべったりな状態らしい。

人形のようにとまではいかないが、まるで妹であるかのようにアオを可愛がるもんだから部屋に居づらいのだと言う。

 

「あー、アイツなら飛び付く外見だもんなぁ・・・アオって」

 

アオにストレスが溜まっていくと思うが、サラに捕まったからには諦める他ない。

 

「そこでウェルキン先輩の部屋の前で佇んでる二人を見つけて、ここに来ることをあたしが提案したってわけよ」

 

鈴がフフンと自慢気に言ったが、それをスルーして、下段のベッドへと潜り込む。

優しさを自慢するなよ鈴・・・・。

試しに寝転がってみると、案外悪くないと思った。

手の届く距離に上の段のベッドがあり、この閉塞感に安心を覚えてしまう。

 

「なに? アンタ気に入ったワケ?」

「ああ、案外元のベッドで寝るよりか熟睡できるかもだ」

「変わってるわねぇ」

 

最後にツインテールの両房を手で整えた鈴が「よし」と満足げな声を出す。

 

「さて、クレハ。あたしたちは既にご飯も食べたしお風呂にも入ったわ」

「ん? ああ、メシか。んじゃ俺は食堂で―――――」

 

入院した日から逆算して今日の日替わり定食を思い浮かべながら起き上がる。

 

「―――ーと言うわけでこの四人で徹ゲーするわよ」

「ふざけんなテメェ「その言葉、待ってたよ鈴!」「ふっ、遂にこのマイコンの出番ということか・・」っておい二人とも。なに意気揚々とハード用意してんの? 俺は食堂にいくぞ?」

 

ヤバイ空気を肌で久々に感じた俺は、着替えも程ほどにして逃げるように部屋から出ようとする。が、鈴に指示を出されたラウラに俺は停止結界で動けなくされた。

四肢が動かせないため眼球だけでラウラを睨むと、その際、部屋にある様々な変化にようやく気づくことができた。

まず、部屋の中央に置かれていたハズの小ぶりなモニターがいつの間にか一般家庭に置かれているような大型のものになっている。配線回りも完璧だ。オンライン接続のための有線ケーブルが壁の接続口に刺さっていて、無線LANが各部屋に備え付けてあるにも関わらず有線にすると言うことはラグを嫌うガチゲーマーの仕業だと見える。。

こ、この周到な用意は・・・!

ゲームで夜更かしする鈴を主導に、軍で稼いでいるラウラが高額機材の調達、エンジニアとして優秀なデュノアによって適切に整備されたシステム。

文句なしのゲーム環境が、俺のいない間に出来上がっていた。

 

「ほら、やるわよクレハ。この間の一件で学園からもお小遣い(・ ・ ・ ・)貰えたからソフトは心配ないわよ」

 

鈴の格好が前のように薄いものになっているため、ディスクを入れる際の四つん這いの姿勢にヒヤリとさせられる。

黒のピッチリしたノースリーブは、鈴の残念な部分をこれでもかという程に強調しているが下のホットパンツから伸びる太ももが、ほっそりとした艶かしさという言語化しにくい魅力を放っている。

ついでにディスクがうまく入らないのか、小ぶりなお尻をフリフリするもんだからたまらない・・・・い、いや耐えられない。

 

「あれぇ? もしかして負けるのが怖いのかなぁクレハは?」

 

いつの間にか俺のベッドに寝転がってコントローラーを握っているデュノア。

身体の下に敷かれた俺の枕によってデュノアの胸が持ち上げられ、緩んだジャージのジッパー部分からふっかぁーい谷間がチラチラと見えたり見えなかったりしている。

肩から前に垂らした長い金髪が女子らしさを更に高め、ジャージという一見ダサい服装を「無防備さ」という強力な武器へと変えている。なにをいってるんだ俺は。

挑発するデュノアの妖しい表情が違う意味を持っているような気がし始めた俺は、男に対して毒過ぎる二人に奥歯を噛み砕く勢いで歯軋りをしつつ、ラウラに逃げ場所を求める。

 

「わびとさびに始まり、ゲームと言えば日本を代表する文化の一つ・・・。クラリッサに教え込まれたウメハラ持ちを見せる時です」

 

左手で俺の動きを止めつつ、もう片方の右手で鞄を探るラウラ。

水平に構えた左腕は、鞄を漁るために姿勢を低くしたせいかやや斜め上になっており、俺の方から手首下部、前腕下部、上腕下部と、真っ白なラウラの腕が一望できるポジションにある。

加えて、ラウラの着ているTシャツは誰のものか知らんが男物でラウラには大きすぎ・・・余った袖口からラウラの腋まで見えてしまった。

じょ、女子の腋って案外綺麗なんですね・・・・。

いつものISスーツではおっぴろげにされている部分だが、なまじシャツで隠されている分輝きが違う。

つーか、なんでお前アケコンなんか持ってんだ。

 

女子三人のあられもない姿――勝手に俺が注視してしまっただけだが――から目を閉じて己の精神を静める。

そうだ。今日は退院直後なんだ。キレて身体に無理を掛けるのも良くないことだ。

完全に心を滅した俺は目を開き、ラウラに解除しろと伝える。

解放された俺は鈴の言うように大人しく座布団に座る。

まぁ、一戦やってコイツらをボコれば大人しくなるだろう。

食堂がしまる時間まで十分にある。一戦くらいなら些末な問題だ。

 

そう軽く考えて呑気に定食の予想を再開した俺には、この三人が夜な夜なゲーム大会を開いて、ゲームの腕をしこたま磨いていたことなど知るよしもなかった。

 

 

翌日、床で寝落ちした三人をベッドに放り投げた俺は、部屋の引き出しから本屋のロゴの入った紙袋を取り出すとサラの部屋にむかう。

それにしても、あいつらのせいで寝不足だ。

空腹の方は買い置きの菓子パンで凌いだが、こればかりはどうしようもない。

メジャーな『IS/VS』に始まり、古いゲームアーカイブから引っ張ってきた格ゲーにレースゲーム。取り分け格ゲーが一番白熱したな。

ラウラのやつ、マジで奥義13連撃を相殺するとは思わなかったぞ。もちろん全部通常攻撃で、だ。ウメハラの再臨かもしれんな。

格ゲーでは歯が立たなかった三人に、仕返しとしてレースゲームで青甲羅を全部当ててやった記憶に浸っているうちにサラの部屋につく。

・・・・・静かだな。

時刻は8時。夏休みの朝としては静かなのも頷けるが、ここはあの生真面目なサラの部屋だ。

いつも通り6時には起きているはずだが・・・・・寝てるのか?

取り敢えず、ドアをノックする。

木製のドアの柔らかな音が二回響いてしばらく、反応がない。

あれ? 留守か? アオも居るんだよな?

仕方ないので携帯に連絡を入れようと取り出したところで―――ードアが開いた。

 

「は、はぃぃ・・・どちら様ですか・・・?」

 

もともとか細い声を更にか細くして出てきたのは―――アオだ。

ドアノブに寄り掛かる様にして体を支えるアオは、俺よりも体調が悪そうに見える。

 

「あぁ、クレハですか・・・おかえりなさいです・・・」

「お、おう見舞い以来だなアオ・・・・大丈夫か?」

「は、はぃ、少々血糖値が危険域を越えるほどに減少してまして・・・・おうどん食べたいです」

 

希望を言い切ったアオは、ふらふら~ぱたん。い、行き倒れた・・。

一体何やってるんだサラのやつ。ルームメイトの体調くらい見てやれよ。

 

「サラー? 入るぞー」

 

アオを小脇に抱え込み、紙袋を持った手でドアを開く。

散らかった部屋を慎重に進むと、大量の布に埋め尽くされた部屋にサラはいた。

 

「・・・・あら、退院したのね・・・。おめでとうぅ」

 

・・・こいつもこいつでげっそりしてやがる・・。

 

「何してるんだお前ら? 三日目は明日だぞ。体調整えろっつったのサラじゃねぇか」

「・・・そう、もう明日なのね・・・」

 

作業をしていたのか、手にした布と針を見ながらしみじみと呟くサラ。

アオをベッドに寝かし(なんで朝っぱらから四人も介抱してるんだ)ポケットのあめ玉をアオの口に押し込んだあと、サラの様子を伺う。

手にしているのは針と布・・というよりは、どこもかしこもヒラヒラした未完成の服のようだ。

サラはそれらを手に、ふふふ、と虚空に向かって笑っている。ヤバい。コイツヤバい。

 

「・・・もしかしてこれ、コスプレってやつか?」

 

サラの口にも飴玉を放り投げ訊ねる。

しばらくもぐもぐ糖分を補給したサラは、幾分か楽になった様子で答える。

 

「ん・・そうよ、明日は勝負の日。コミックマーケット三日目よ」

 

―――と、サラはキメ顔でそう言った。

・・・いままで明言は避けてきたが、サラは一年の頃から漫画を描いている。

ジャパニメーションについて詳しかった兄ウェルクさんの影響か、サラはドイツのクラリッサ並みに濃い知識と情熱を持つ玄人だ。

本の趣味は主に女性間での恋愛。サラらしい綺麗な絵柄で人気もある。

なんで知っているかと言われれば、去年その本の売り手を手伝ったからだ。

 

「三日目にコスプレって・・・売り子どうするんだよ。去年はフォルテが手伝ってくれたがアイツは今ダリル先輩とアメリカだぞ」

「売り子についての心配は要らないわ。今年は印刷部数も少なめにしたし、私たちで十分に捌ける量よ」

「・・・じゃなんでコスプレなんか・・・・」

 

そこで気づいた。

サラの持っている服。

肩幅が、サラが着るには大きいサイズだ。

 

「・・・・柊君、貴方去年はなんの服装で参加したかしら?」

「え? ああ、確か夏服だったな。男物持ってなくて」

 

男だとバレて直ぐに手伝えと命令されたので、仕方なく学園の制服を着て参加したんだっけな。

あっけらかんと言うとサラはため息をついた。

 

「貴方、自分が公の立場に無いと解っているの? コスプレだと思って貰えたから良かったものの、場所が違えば一気にバレるわよ」

「・・・もしかして俺、危ない橋渡ってた?」

 

こくんと頷くサラ。

その脇には今縫っているジャケットと同じ色のスラックスが見えた。

 

「今年は私服もあるでしょうけれど、折角なのだからこれを着て参加してみなさい。午後には回る余裕もできると思うからコスプレブースに行って写真でも撮りましょう」

 

刺繍をしていた糸と裏側で丁寧に切り、朝日に照らしてジャケットの完成具合を確かめる。

・・・・・俺が着る服なのはいい。去年の時もコスプレの写真とりに嫌々見に行ったからどうすればいいのか分かる。

だが・・、でもな・・・。

 

「・・・・・そっちのアイドル見たいな服は絶対に着ないからな?」

「ッ!」

 

布の上に畳まれた状態で置いてある赤と白のフリフリ衣装。

それを素早く片付けたサラは、後で俺が逃げられない状況を作るつもりだったのか悔しそうな顔だ。

・・・ある程度予想していたが、現在進行で作っている服が男物だったので油断していた。材料布をカムフラージュに使ってやがったぞ。

何も言わないサラに止めを刺す。

 

「・・・・まさか、お前が着るのか?」

「ッッ!」

 

自分が着た姿でも想像したのか、顔を真っ赤にしたサラは衣装を鷲掴みにして―――バスッ!

ゴミ箱に投げ込みやがった。

あーあ、もったない。

その後、俺の衣装を握りこんだ拳が、お俺の顔に叩き込まれた。

ありがとう。イベント終わったらお礼に仕返ししてやるからな。楽しみにしてろ。

 

 

そして翌日。

朝、9時。

俺は去年と同じ光景にゲンナリしていた。

 

「朝からすげぇな・・・」

「同感するけれど、私たちはサークル参加よ」

 

西ゲートのサークル専用入り口から、一般入り口に並ぶ列を見て、俺は呆れともつかない声を出した。

声がちょっとイラついてしまったのは、抱えている段ボールが重いからだ。

段ボールに入っているのは、先日サラの閃きによって追加された頒布物で、四ページ程の冊子となっている。

パラッと開けばアオに似ているような似てないような女の子がチュッパやらうまい棒やらを口に含んでいる絵がお目見えするのだが、実際の人物を題材に描くのはどうなんだサラよ。

ついでに言えば、今日は異様に暑い。

午前中だと言うのに30度に迫る勢いだ。

後で着替えるので取り敢えず服装はシャツにサマーベストを着てきたが、軽装にも関わらず汗がだくだく出る。

 

「はい、入場パスよ」

 

そう言ってホルダーを渡してくるサラは全く汗をかいているようには見えない。

青いワンピースのお陰か、視覚的にも涼を与えてくれている。

しかし、いつもの涼しげな表情が今日は一段と鋭くなっているところを見るに、暑くないなんてことはないみたいだ。

サラから手渡されたホルダーに入ったサークル専用パス。

俺はそれを首にかけたあと、荷物を持ち直してサラの後を追った。

 

幕張内部に入ると、外よりは幾分か暑さも和らぐ。日差しがないからだ。

サラが応募して勝ち取ったスペースは所謂『島』で、隣のスペースの人と挨拶を交わす珍しいサラも見ることができた。

っと、ぽけーっと突っ立ってる場合じゃない。

段ボールからテーブルクロスを取り出すと、机に敷き、ソコに本を数冊置いておく。

新作だけじゃ足りないので、過去の本も並べておいていく。

うう・・・は、肌色が多すぎる・・・・。

百合本なのが災いしたのか、肌色率が通常の二倍だ。

それに追加してアオがモデルの表紙まであるぞ。もう逃げていい?

 

「設営は終わったかしら?」

「ああ、今終わったところだ。全部裏返していいか?」

「ダメに決まってるでしょう。 そうね・・・開場まで二十分だし着替えてきてはどうかしら?」

「あれをホントに着るのか? いっちゃなんだが中二臭さ全開なんだが」

「大丈夫よ。普段の貴方も十分に中二臭いわ。ほら、いつも斜に構えている所なんて痛々しくて―――」

「―――わかったっ! 着替えてくる!」

 

サラが差し出した衣装をふんだくると、表示に添って男性用更衣室を目指す。

・・・・こうしてみると色々な人がいるな。

スタッフにコスプレイヤーにガチガチに緊張したサークル参加者。

多くの人がこのイベントに参加し、楽しみを求めているのだろう。

そう思うと、自然と口元が緩むのを感じた。

・・・・二回目にして俺も空気に慣れ始めたって事かな。

寮を出る前にトイレには行っておいたので、更衣室のある階へ行こうと階段に差し掛かる。―――と。

 

「ん? あれ、柊? なにやってんのこんなところで」

「お、大倭先生ッ・・・!?」

 

丁度、下から上がってくる大倭先生と鉢合わせた。

し、しかも服装が・・・・!

 

「ああー、柊もコスプレ? いやー、ビックリだね。あたしも今回はサークル参加でコスプレ担当!」

「いや、テンション上げてる場合か先生!? 生徒にメイド服姿見られた教師ってそんな気楽なのか!?」

「いやーねー、今のあたしはヒミコよヒミコ。本名だけど源氏名なら名乗れるわ」

 

先生は、メイド服だった。

俺のイメージではメイドはもっと慎ましい存在だと思っていたが、こ、この人の衣装はどこもかしこも短いガチのコスプレ用だ。

大人の成熟した肢体がこれでもかと強調されて、目のやり場に困る。

しかも俺は今見下げているんだ。

視界の中には否応なく先生の胸元が目に入り、デュノアと同等か、束さんサイズの谷間が見えているッ!

す、すげぇな。ジャージのチラチラ感も強力だが、逆に見せつけることで大人の余裕を演出することができている!

・・・・・いや、この際凄いと讃えるべきは大人と対等に渡り合えるデュノアの方か。さらに一説には箒は別格だと言う噂をフォルテから聞いたことがある。

 

「で?で? 君はどんな衣装なのかな? コスなのかなーッ?」

 

放心している俺からするりと衣装を抜き去る大倭先生改めてヒミコ。

流石はIS学園教師といったところか、反応が出来なかったぞ。

階段の踊り場まで後退した先生はそこで衣装を広げる。

 

「うっわ、凄い出来じゃない。誰が作ったのよ?」

「・・・・本人があまり言いたがらないので言いません」

「とするとあたしにバレる危険のある人かー、生徒なのは間違いなさそうね」

 

今回の衣装は、ドイツ軍の軍服風なものになっている。

何がインスピレーションを与えたのか、サラは時たま『Briah!(創造)』や『Atziluth《流出》!』なんて呟きながら作っていたとアオは言っていた。

更なる高みへと導かれちまったみたいだな。

先生から衣装を引ったくるとさっさといけと視線で訴えかける。

 

「それにしてもいいコス作るわねこの人。作品選びもなかなかお目が高いわね――――――っと、そんなに先生を睨まないでよ。言いふらしたりしないから大丈夫よ」

「・・・俺が先生をバラす可能性はありますけどね」

「あははっ、そんなことしたら――――――(バラ)すわよ」

 

そう言って先生はミュールの脚でスキップしつつ去っていった。

・・・・・あの目、殺りかねんな・・。

 

 

 

今年の夏コミは、発表によれば会場の事故とかで例年通りの盆辺りには行われず、やむ無く月末にずらしたらしい。

お陰でサラも頒布物を作る余裕が出来たとか嬉しがっていたが、ネット上では嘆く声も多く見かけた。地方民ってヤツか。

そして午前十時。開場の時がやって来た。

日にちがずれたとはいえ、約20万人もの人が参加するイベントだ。

開場時の勢いには戦くものがある。

一斉に開かれたゲートに人が飛び込み、目的のサークルまでダッシュで駆けていく。

スタッフの声なんかガン無視で駆けていく彼ら彼女らは闘牛を思わせた。

数十年前にあったと言う注意書には『押さない駆けないドラゲナイ』ってのが有ったらしいが、何なんだ。ドラゲナイ。

 

「呆けないで! 第一波来るわよ!」

「わかってる!」

 

サークルからサークルへと移動する人たちに片っ端から声を投げ掛けていく。こんな肌色、さっさと売れてしまえ。

時折ここを目当てに買っていく人もいて、サラが案外名の知れた人物だと再認識する。

しばらくすると忙しなく駆けている人も見なくなり、落ち着いた雰囲気が会場内に流れ始めた。

 

「さて、しばらくは落ち着けるわね。私は後から委託版を買うつもりなのだけれど、貴方は?」

「俺は買うつもりはないよ。どこか行きたいなら店番は任せとけ」

 

新刊売り切れの札を出したサラが、なぜかソワソワしながら言う。

泳ぐ視線を追いかければそこには・・・・見慣れない段ボール。

・・・・追加分なんかあったのか?と思いつつそれに近寄っていくと・・・。

 

「そ、それにはさわらないでッ!」

 

サラが、叫んだ。

あまりの大声だったので近くのサークルの人たちも驚いており、サラは顔を伏せて「スミマセン・・・」と座った。

しかし、目だけで「さっさとどっか行けコノヤロウ」と凄まれるので、俺は。

 

「あー、んじゃ俺はコスプレ会場にでも行ってみようかな・・・・しばらく回ってくる」

 

そう言ってスペースから出ていく。

・・・アイツがあそこまで焦った声を上げるとは思わなかったな。

去年はどこかでよそよそしい感じの手伝いだったから新鮮な感じだ。

でも、サラは何に焦ってたんだ?

コスプレ会場までの道のりでも、そのなにかを俺は導き出すことはできなかった。

 

 

屋外に指定されたコスプレ会場は、カメラを持った人たちで溢れかえっていた。

場所が場所なだけにもっとコスプレしてる人とかもいて良いと思うのだが・・・・。

 

「視線くださーい!」

「肩組んで! そうです!もっと攻め受け意識して!」

「ローアングラ―? つまみ出せ!」

 

・・・多分、あの壁の向こうなんだろう。

カメラに囲まれたコスプレイヤーがいる反面、囲まれていないコスプレイヤーももちろんいる。

道端でどうすれば良いのかわからずにおろおろしているやつが一人いるが、隣のメイド服を見てみろ。

齢30に達しそうにも関わらずノリノリでポーズ決めてるぜ。関わらんとこ。

もともと来るつもりは無かったのに、サラの視線に耐えかねて逃げてきた俺だ。

同じようにする事もないので、道端に佇む。

暑い。

日差しがきついって言うのに、サラに渡された衣装は長袖の軍服だ。

色も黒いのでガンガン体感温度が上がっていく。

しかし、被っていた制帽を脱ぎ、汗をぬぐってかぶり直したときだ。

 

「・・・・く、くず兄さんだ」

「あ、ほんとだ。くず兄さんだ」

「キルヒアイゼン卿は?」

「いやいや櫻井ちゃんでしょー」

「どうでも良いけど、完成度高くない?」

「ホントだな。くず兄さんらしさでてる」

「くずっぽいくずっぽい」

 

・・・・・なんて罵倒が囁かれ始めた。

聞こえはしないが、超界の瞳が全て文字に起こしてしまうのだ。

つーかクズクズって・・・。

思わず入学してからの自分を振り返って納得しかけたじゃねーか。

たぶん、彼らが言っているのはこの服装のキャラについてなのだろう。

後半の数人の発言については俺自身の素体についても言ってるみたいだが、安定のスルーだ。

 

「クズだ・・・」

「クズだ・・・」

「クズよ・・・」

 

・・・・・スルー・・・してやる・・・!

聞こえるたびに、自身の覗きやセクハラまがいのことといった罪を思いだし、テンションが下がっていく。

自分を保つために必死に周囲からの囁きに抵抗する・・・・だが。

 

「あの、写真撮っても良いですか!?」

「・・・・・そうか・・・俺は・・・いや、僕はクズだ・・・」

「台詞ありがとうございましたァ――――――ッ!」

 

俺は、罪の意識に完敗していた。

ははっ・・・どうせクズですよぉ・・・もう殺せば良いんだ・・・。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

「・・・・貴方、意外とノリノリね」

「ッ!?」

 

気がつくと、目の前に呆れ顔のサラが立っていた。

何故か俺の目の前で写真を確認しつつ、「よし・・げっと」と小さく呟いている。

 

「お、俺は・・・いったいなにを・・・!?」

「覚えていないの? あれだけファンサービスしておいて?」

 

サラが俺のポケットを示すので、手を突っ込んで中の紙を取り出すと・・・。

 

「・・・・・名刺、か?」

「そう。こんなに人気出るなら貴方も作っておくべきだったわね。活動の幅が広がるわ」

「・・・いや、このままレイヤーとして生きていく気はないんで」

 

冷静に思い返してみれば、少しだけ思い出せるぞ。

人から教えられた長台詞をつらつらと唱える・・・・・俺の姿が。

自分のしたことに愕然としていると、時計を確認したサラが訊いてきた。

 

「もうお昼ね。私の方は予定が終わってしまったのだけれど、貴方、食事は?」

「要らん・・・食欲ねぇ・・・」

 

正気になった拍子にいままで感じていなかった暑さにあてられて、ちょっと吐きそう。

サラが空いているかも分からないトイレにいったので、木陰に座り込み休んでいる。と。

 

「・・・・・なんだこれ?」

 

会場の隅に置かれたコンテナを見つけてしまった。

デカイコンテナだな・・・。車の走行コースだったかここ?

辺りを見ても、コンテナの持ち主らしき人は一人もいない。

・・・・・なんか、嫌な予感がするな。

元々このイベント。

延期になった原因が発表されておらず、ネット上では様々な憶測が飛び交っていた。

事故と言われても単なる事故では納得がいかず、実際に会場に赴いた人もいた。

そいつらは揃って同じことを言っていた。

明らかにスタッフじゃない人たちが走り回っていた、と。

会場の事故なんだからイベントスタッフ以外が居るのは当たり前だろうと思ったが、こいつを見るとあれらの書き込みがただのお騒がせ情報とは思えなくなってきたな。

それに、春の例もある。

いちおうセンサーで改めたところ、内部にIS反応は無し。

今のところ動きがないので、今のうちにサラに連絡しておこうとISの回線を開いた―――その瞬間。

 

「ッ!?」

 

内部から巨大なアームが突き出てきて、俺に向かって手を伸ばしてきた。

瞳が反応しきれない高速過ぎる起動に、不意を突かれた俺はその手に掴まれ持ち上げられた。

まさか、ISがあったって言うのか?

頭をよぎるのは四月の出来事。

あの時逃がしたゴーレムの残りかと思ったが、こ、これは・・・違うぞ!

突然の出来事に、周囲の人たちが蜘蛛の子を散らすように走り出す。

そんな中、コンテナから全貌を明らかにしてきた敵の正体は異様の一言に尽きた。

ISではない。 

瞳もIS反応を認めてはいないし、これ程巨大なISを俺は見たことがない。

ゆうに五メートルは越える全長に、アメフトの防具のような肩。

まるでこれと同じサイズの敵と戦うために作られたかのようなデザインだ。

加えて、印象的なのが胸の中央で輝く青い光と、赤と金色の装甲。

装甲の素材は金とチタンの合金。硬く、コーティングがなされているようだ。

敵のロボットは、胸と同じく青く光るアイカメラで、俺の顔を見ている。

 

『・・・・おお、これは驚いたな。ボクにしては珍しく運が良いようだ』

 

外部スピーカーを通して聞こえたその声は、変声が掛かっていて相手が読めない。

体の内部に人の反応は・・・・ナシ。遠隔操作か・・・ッ!

 

「何の運が良いんだよ・・・。 機嫌良いならこいつを放してくれないか・・・ッ?」

『それは無理な相談だ。ボクは君を探すためにここにいたんだから』

「そうか・・・―――ソイツは良かったな!」

 

放す気がないと分かったので、瞬龍を緊急展開―――――あ。

 

「―――――あ、IS・・・整備中じゃねぇか・・!」

 

ISを展開し、こいつの手の中から逃げてやろうと思ったが、先日の戦いで壊れた瞬龍は束さんが整備中だ。今、俺の中にはない。

 

『? どうしたんだい? 君の武器があるだろう? はやく展開するといい』

「・・・・・生憎、あんたみたいな名乗りもしないヤツに見せる武器は持ってなくてな。出直してこいよ」

 

相手はどうやら俺を知って狙ったようなので、適当に話を伸ばす。

時間を稼いで、サラの到着を待つんだ。

 

「――ああ、これは失礼したねミスター柊。社交性の大切さは父さんから学んでいたハズだったのに失念していたよ」

 

ロボットが大きな仕草で自分を指す。

 

『―――ボクがアイアンマンだ』

 

・・・・ぜ、前時代のヒーローが俺にケンカを吹っ掛けてきやがった・・・。

 

 

 




ちなみに私は夏コミ童貞です。
いつかいきたい。

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