インフィニット・ストラトス~オーバーリミット~   作:龍竜甲

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夕日の光景

ガシャン・・・ガシャガシャ・・・

 

閃刃と斬空の併せ技である閃空刃を放った右腕の装甲が崩れ落ちる。

電磁加速による圧力と、ブレーキとして使った瞬時加速の圧力に耐えられなかったのだ。

剥き出しになった右腕も、青く痛ましい圧迫痕が残っていた。

 

「クッちゃん・・・! 大丈夫なの!?」

「なん・・とかな。ちょっと無理しすぎたかもだ」

 

不利な状況下での戦闘に加え新技三本という無茶をすれば、ISにもダメージがでるし、リンクしている俺にも心的ダメージがでる。

かなりギリギリだったが、なんとか勝てたな。この戦い。

 

「ごめん・・・! ごめんなさい・・・! わたしクッちゃんに酷いことを・・!」

 

ISを解いた俺の横で、同じように零式を解いた雨が泣きじゃくる。

俺はその震える頭を左手で軽く撫でてやった。

 

「まぁ、なんだ。なんでもかんでも仕方がないで済ませる気はないが、今回ばかりはお前だけのせいじゃないと思うぞ。だから、気にしなくていい」

 

記憶がしっかりした状態で俺と戦っていたのだ。精神的にも辛かったと推測できるので雨を責めることは出来ないだろう。

 

「もし、他のやつがお前を虐めたりしたら俺に言え。責任はとるよ」

 

俺は、記憶を書き換える手段を断っちまったんだからという意味で言ったのだが、凄い赤面してる雨を見て、ハッと気づく。

 

「も、もちろん幼馴染みとしてだぞ!? 知り合いが虐められてるのを無視はできんし、幼馴染みだったら尚更ほっとくわけにはいかないからな!」

 

慌てて追加した文句をきょとーんとした顔で聞いてる雨。

あー、なんか蛇足だったのかな・・・。

・・・なんて思ってると。

 

「ぷっ。ふふっ・・・。焦りすぎだよクッちゃん。そんなに慌ててるところ初めて見たかも」

 

雨は、笑った。

俺の焦りようがそんなに面白かったのか、肩を震わせて慎ましやかに笑いをこぼす。

それを見て、俺は安心した。

 

「・・・俺だって、お前が涙溜めて笑うとこなんか久しぶりにみたぜ」

 

自分の恥ずかしいところを笑われたので、嫌みっぽく言う。

雨は、そっぽを向いた俺の背中を見ているらしく、背中に視線を感じる。

 

「・・・うん。こんなに笑ったのは初めてかもね。わたしの人生初だよ」

 

そんなことは無い、と言おうとして止めた。

俺の記憶のなかでは、雨は太陽のような笑顔を浮かべて生活しているが、それは偽物。

今の時点で政府の一員として仕事をこなしてきた雨に、あんな幼少期は無かったのだろう。

だから、初めて。

初めて雨は心のそこから笑っていると自覚したのだ。

 

「ねぇ、クッちゃん。約束、守ってくれる?」

「ああ、IS操縦だろ? 任せとけよ。リヴァイブは散々だが、瞬龍なら――――」

 

「――――ううん。約束。護って、くれる?」

 

そう訊いてきた雨の顔は、俺の記憶にある太陽の様な笑顔を浮かべていた。

質問の真意が理解できた俺は気恥ずかしさを覚え、一瞬答えに窮するも、なんとか応える。

 

「ああ、任せとけ」

「・・・ありがとう、クッちゃん」

 

まぁ、なんだ。結局のところ雨が言っていたように、経験と記憶では一番多くの時間を過ごしているのが雨だ。

いまさら黙って居なくなられるのもイヤだし。学園にいる間くらいは、俺が護ってやるよ。

心労と疲労で気を失う一瞬前。

俺はそんなことを考えていた様な気がするが、抱きついてきた雨の感触で全て吹っ飛んじまったよ。

 

――――IS、零式。特殊コアネットワーク構築。登録、完了。

 

・・・・・・あーあ。

 

 

目が覚めると、保健室のベッドの上だった。いい加減併設の病院連れてけよ。

外を見ると夕暮れだったが、保険医の先生によると戦いが終わった昨日の昼から、丸1日以上眠っていたのだという。

山田先生から送られてきた瞬龍のダメージレベルはB+。

束さんによる完全解体修理(オーバーホール)中だってさ。

起きてから初めに面会に来た千冬さんによると、あの日教師部隊には自衛隊最高指揮権を有する日本国首相、稲村十志から秘密裏に厳重な待機命令が出されていて動くに動けない状況だったらしい。

 

『我々はISの運用に国際的な責任を以てあたっている。幾ら母国とは言え国が干渉するのは条約違反だが、どういうわけか委員会でも問題視されていないようだ。連中が言っていた亡国機業という組織、根が深いみたいだぞ。気を付けろ柊』

 

そう言って保健室からかっこよく出ていった千冬さん。

・・・でもさ、俺が割ったガラスの修理費を負わされたからって膨れっ面はねーよ。内心大爆笑だったよ。

と、あの顔を思い出してまた吹き出しそうになった所に。

 

「クレハっ! 無事で・・・無事で良かったです・・・!」

 

すとーんと頭から突っ込んでくる小さい人物。

「おフッ」なんて変な息を洩らしつつ、膝の上にうつ伏せになったソイツを抱き上げる。

 

「おい、アオ。てめえ、良くも胃に頭突きなんかかましてくれやがったな・・・・!?」

「そこでキレる元気があるなら大丈夫そうね」

 

はぁ、と安心したのか呆れたのか分からない息を洩らしたのはサラだ。

サラはパッケージのインストールが未だに終わっていないらしく、パーソナルロックされたサニーラバーを首に着けていた。

昨日も戦闘自体出来なかったらしく、なんで加勢に来なかったと責めてやる気満々だったのだが・・・・このやり場の無い憤り、どこに向けてやろうか。

そばにあった丸イスに足を組んで座ったサラは、俺をじっと見てくる。

 

「・・・・バースと戦ったのよね」

「ああ、今度は日本にも中国にも引き渡さずに、委員会と学園で見張るってよ」

「そう・・・」

 

そう呟いたサラはなんだかよく分からない微妙な顔をしていた。

バースの身体は元々サラの兄、ウェルク・ウェルキンの身体だったのだ。

今回の戦いで女性体になったバースには最早ウェルクさんの面影がなくなっていた。

だから、俺には想像もつかない感情を抱いているんだろう。

下手に声をかけると失敗しそうなので放っておこう。

 

しばらく、アオをグリグリ弄くりまわしていると外から騒がしい喧騒が聞こえてきた。

 

――あ、あんたたち!押さないでよっ!――そうですわ!わたくし、別に心配など―――はいはいお二人さん、ちょっとは素直になった方が身のためだよー?―――シャルロットの言う通りだな。それに兄さんは一度の喧嘩を引きずるほど狭量ではないから心配するな。ほら、箒も急げ―――何故私まで見舞わねばならんのだっ!

 

「・・・・」

「・・・・・」

「・・・あー、サラ。とりあえず落ち着かせるの頼めるか」

「便利屋みたいに使わないで頂戴」

 

そう言いつつも保健室の外へと足を向けるサラ。

扉から出る前、こちらを振り返った。

 

「・・・ええと、柊君。今月の末は・・・」

「分かってる。今回もちゃんと手伝ってやるから心配すんな。この間カタログも通販しておいたし今度持っていってやるよ」

「そう、悪いわね」

 

そう最後に言うと扉の向こうへ姿を消すサラ。

・・・時期にあいつらが来る。

顔を会わせるのは正直言って気まずいが、いつまでもギクシャクするのもあれだしな。

心の準備くらいはしておこう。

そう考えながら、アオの頬っぺたをぐにぐにむにむにしていると、だ。

 

「・・・・アオは完全な機械、というわけではありませんでした」

 

膝の上で、アオが喋りはじめる。

 

「篠ノ之博士に診てもらったところ、超界者特有の遺伝子構造は見られませんでした。博士の弁に依れば、アオもクレハと同じように、生後間もなくコアを埋め込まれた特殊適合者、とのことです」

「特殊適合・・・? 人工的なIS適性者か」

「はい。クレハが男性のまま操縦者となっているもの、博士の実験的な試みだったようです」

 

おいおい、じゃああれか。

半年ほどコアと一緒に育てていると男性でもISが扱えるように成長することができて、俺の場合それでも暴走が起きたから体内に埋め込んだって訳か。

そう要約すると、アオが頷く。

 

「そういうことになりますね。しかし、現代では男性操縦者の発掘より、高い適合者を発掘する方が優先される傾向にあるので、進んで博士のようなマッドな研究に勤しむところは無いと思います」

 

つまり、俺や一夏、経公のようなケースは本当に稀ってことか。

話題が終わり、再び静かになったところで、アオに聞いてみる。

 

「なぁ、不安じゃないか? 自分の今までを否定されて」

「不安じゃありませんよ」

 

意外にも、アオは即答してきた。

 

「聞かされた時は流石に怖くなりましたけど、よく考えればアオはもともと記憶が無かったですし、女王の為に動くことしか知りませんでした。それに、記憶云々ならクレハが先輩としていますから。アオはちっとも不安じゃありませんよ先輩(・ ・)

「・・・・?」

 

少しニュアンスが違ってそうな『先輩』に首をかしげると、

 

がらがらがらがら――

 

「その子。学園で預かるみたいよ。表には出さないけれどインターン扱いで」

 

サラが、背後に一年ガールズを連れて戻ってきた。

 

「やっほークレハ。元気そうだね」

「この有り様で元気はないだろデュノア」

「昨日は無様な敗戦をお見せしました兄さん。この次は、必ずや」

「お前はどこの魔王配下だ」

「・・・・ふ、ふんっ! 一夏ならばあんなやつら、一掃していたぞ!」

「お、おう。一掃する中に先輩居るけどな?」

 

個性豊かな見舞いの文句をそれぞれが口にするなか、揃って素直じゃない二人がいた。

 

「・・・・・・手こずった様ですわね」

「・・・・・・べ、別に心配なんて始めからしてなかったし!」

 

セシリアとはこないだよくわからん喧嘩をして気まずいし、鈴とはプールの一件以来昨日まで話してすらいなかった。戦場のテンションが無ければ言葉につまってしまうのだ。

しかし、チラチラ俺の顔を窺っているのは分かるから、心配はしてくれてるんだろうが・・・。

 

「――――ひぃっ」

 

アオに向けられる二人の睨みがすごいことになってる。

怯えたアオを、アオが気に入ったらしいサラに預ける。

 

「お前ら、そんなに睨むなよ。かわいそうだろ。そう言えば一夏はいないのか?」

 

珍しく顔を見ないので気になって二人に訪ねる。

 

「・・・・一夏さんなら一昨日から実家に帰省しているそうですわよ。なんでも、掃除をしなければならないだとか」

「主婦かあいつは」

 

帰省の理由に呆れていると、鈴がなにか言いたそうに俺を気にしているのがわかった。

 

「少し、鈴と話がしたい。外で待ってて貰えるか?」

「――ーッ!」

「良いけど・・・・あっ」

「デュノア、そのニヤニヤ顔やめろよ・・」

「なんのことかなぁ~?」

 

デュノアはイヤな笑顔を浮かべながらも、部屋にいる皆を廊下に追い出し、その後自身も扉も向こうに消えていった。

追い出される全員が全員、俺と鈴を睨んでいたが・・・・・。

どうも、互いに変な抑制があったらしく大人しくデュノアに従っていた。

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

そして出来上がった二人きり。

おいおい、なんだよこの雰囲気。

ちょっと話がしたかったからとはいえ、自分で自分の首絞めることはなかったな・・・。

 

「ま、まぁ座れよ」

「・・・・そ、そうねっ」

 

ぎくしゃくぎくしゃく。

そんな擬音が着席する鈴の動作から聞こえてくるようだ。

話を切り出すタイミングが見つからず、視線を右往左往させる俺。

そんな俺を鈴がチラチラと見てくる。

何かを期待している。そんな目だ。

 

「・・・・あー、一先ず、昨日は助かった。ありがとな」

 

取り敢えず発した俺の言葉に、鈴がホッと一息つくのが聞こえた。

 

「お、お礼を言われるようなことじゃ無いわよ。が、学園のトラブルなんだから、私だってできることはしたいし・・・・。それに・・・」

「それに・・・?」

 

我ながら意地の悪い事をすると自覚しつつ、聞き返した。

 

「それに、クレハと仲直りしたかったし・・・・・!」

 

そういった鈴が、下唇を噛んで顔を赤くする。

あ、こら。シーツとるな。顔隠すなら言わなきゃ良かっただろうに。

俺も鈴と同じように、鈴の言葉で少し安心した。

仲直り。

俺も、それをしたいと思ってたからこの場を設けた。

仲直り出来なくとも、何とかして糸口は掴めないかと考えていた。

思い起こせば、鈴とプールへ行ったあの日。

俺は、鈴が求める何かを見誤って鈴を傷つけた。

 

「・・・・俺も、鈴と仲直りしておくべきだと思ってたんだ」

 

俺生来の見栄っ張りが、口にしようと思っていた言葉をねじ曲げる。

ああ、くそっ。やっぱり、鈴の前だと素直に成りきれない。

どうしたいか心では分かっているのに、理性が邪魔をする。

あのときと同じだ。

 

俺の煮え切らない台詞に、鈴が顔をしかめる。

きっと鈴も思い出したのだろう、あの日の夕暮れを。

偶然にも今も夕日の見える場所にいる。

あの日と同じ。

でも、きっと口にする言葉があの日と同じでは、俺たちの溝は埋まらないままだ。

だから――――

 

「・・・・鈴、俺はお前に言わなきゃならないことがあるんだ」

「・・・?」

 

そう前おいて、語り始める。

 

「今の俺では、お前の期待に応えてやることはできない」

 

鈴の顔が歪む。

違う。分かってたとはいえ、俺は鈴を悲しませたい訳じゃない。

 

「俺は・・・、産まれて二年しか経っていない遺伝子強化体だ。しかもその二年の間に色々な出来事があった」

 

まずはその事を打ち明ける。

鈴が驚くのを見ながら、今までのことを思い出す。

成長促進装置から出てきた直後に見た、母さんの顔。双龍の実験で俺が殺めた命。超界者の存在と俺と鈴の関係。

こんな俺が、鈴と一緒に居られるのか? 

そんなことを何度も考えた日もある。

 

「詳しくは話したくないんだが・・・その過去のしがらみのせいで俺は、自分を許すことができない」

 

鈴と再会したのは全くの偶然だった。

双龍を追いかけるためのパートナーとして、鈴に選ばれたのも俺の力の及ばないことだ。

しかし、共に過ごすうちにいつしかそれが当たり前になっていた。

二年前のあの日々に戻ってきたかのような錯覚だった。

そして、それが今。

その日々が今、俺のもとから去ろうとしている。

 

考えてみれば、当然の帰結なのかもしれない。

俺と鈴が別々にいれば、それだけで女王の因子が二つに分かれる。

俺が学校を辞めてドイツ軍にでも戻れば超界者との戦いは収まるのかも知れない。

 

「昨日の奴等がアオを狙ったことから、女王の復活に一番近いのは俺を捕らえることだ。だから危険度的に言えば俺から離れることが一番安全なんだと思う」

「で、でもそれじゃああんたは・・・」

「俺なら心配は要らない。自分の身ぐらい自分で守るさ」

 

肩をすくめて心配ないとアピールすると、真正面に鈴の浮かない表情があった。

――――しまった、と思った。

俯いて、剥き出しの肩を震わせた鈴が、ガバッと顔を上げる。

 

「そう。じゃあ、クレハはあたしなんか要らないってわけね」

「・・・・・」

 

鈴の言葉に、言葉を返せない。

返す言葉を持ち合わせていない。

仲直りしようとしたはずが、糸口すら掴めないままに終わろうとしている。

鈴が席を立つ。諦めたような、自分達は終わってしまったのだと解っているような足取りだ。

・・・・事実、俺の前に鈴が居ないことは、鈴のためにもなり、俺のためにもなる。

しかし、分かれるとしても、こんな形では納得できない。

どうにかして鈴を止めるんだ俺。

自分の素直な感情はなんだ。頭で言葉を並べるのは簡単なのだからそれを――――

 

「・・・・!!」

 

―――そう、考えていたのに。

気づけば俺は立ち上がり、鈴の腕を掴んでいた。

口より先に、行動してしまった。

自分を引き留めた腕に驚いた鈴が、目をまんまるにして俺を見上げる。

汗が吹き出るようだ。

何を言えばいいか考えていたのに、一気に吹っ飛んでしまった。

鈴の、不安げに濡れた瞳に引き込まれそうな錯覚がする。

つまり、俺は鈴の瞳を直視出来ている。

今しかない、と思った。

 

「―――俺は、お前に負い目を感じていたんだ」

 

俺の独白を、鈴は黙って聞いている。

 

「お前は、強い。自分に正直に、相手に立ち向かえるその強さが、堪らなく眩しかった」

 

両親のため、正体不明の組織に単独で立ち向かえる鈴は、間違いなく強い。

ただただ、力を振るうだけの俺とでは、比べ物にならないくらいに。

 

「でも、今は違う。感謝している。鈴のお陰で俺は、自分の過去を知ることができた。俺自身がその過去を飲み下せなくとも、その事実は変わらない」

 

何も知らずに、ただ記憶から逃げていた俺にちゃんと向き合うチャンスをくれた。

散々好き勝手に振り回されたが―――それだけは本当に、感謝しているんだ。

 

「だから、鈴。俺のパートナーとして一緒に居てくれ」

 

意外に、口を突いて出た言葉は素直な気持ちだった。

言ってることは無茶苦茶だ。別れた方がいいのに、そうはしたくないと言っている。

鈴と離れたくない。二年前に抱いた感情を引き摺っているのかもしれないが、そう思ったのだ。

 

「・・・・今度も、クレハから誘ってくれたわね」

「・・・・そう、なるな」

 

鈴も思い出したのだろう。5月末の月夜の事を。

あの時も、俺が鈴を追いかける立場だった。

まるで俺を待っていたかのような演出だったが、あの夜に俺と鈴は確かなパートナー関係を成立させた。

そして、今度も。

 

「まぁ、あれだ。学園に提出した書類の類いもあるしな。途中でペア申請破棄したってなったらウワサになる」

「は?」

 

捲し立てて並べた建前に、鈴がキレ気味の声を出す。

うおっ、さっきまでのしっとりした雰囲気どこだ。目の前にライオンいるみてーだぞ。

内心ビビった俺が、顔を引き吊らせていると・・・。

 

「・・・・はぁ、あんたって、ほんっとに素直じゃないわね」

「・・・・ツンデレが言うなや・・・」

「誰がツンデレよ」

「お前だこのツンツン女」

 

いつもの調子で掛け合いをすると、呆れた表情だった鈴がふっと微笑む。

 

「そう、だったらちょっとデレてあげるわよ―――――クレハ、あたしの味方になってくれる?」

 

その台詞と表情に、どきりと俺の心臓が跳ねた。

そう言えば、あの日の宣言、開放回線に流れてたんだっけな・・・。

今度の鈴は、不安そうな顔をしていない。

俺の答えが分かっていて、それを待っている。

 

「ああ、俺は鈴の味方だ。超界者だろうが何だろうが、お前と一緒に戦って、一緒に解決する。絶対に離れたりしない」

 

鈴の目を見て、言い切る。

これからきっと、俺たちを取り巻く状況は激しい変化を迎える。

だから、乗り越えていくんだ。鈴と言うパートナーとともに。

その覚悟が、ようやく決まった。

そんな感じだよ。

自然と、俺たちはお互いに笑みをこぼす。

だが、俺はその時、見つけてしまった。

―――鈴の背後に・・・忍び寄る影―――!?

 

「・・・えっと、クレハは・・・その、前の遊歩道での続ぎイぃ―――ッ!?」

 

その影は、何かを言おうとした鈴の首を締め上げ、一瞬の間に絞め落としてしまった!

き、キレイに極ってたな・・・・というか、部屋にまだ誰か居たのか? この会話を聞かれてたのなら恥ずかしいことに――――!

 

「―――心配しないでクッちゃん、ここにいるのはわたしだけだからねェ」

 

鈴の首をチョークで絞めたのは、俺の幼馴染み雨だった。

 

「わたし、人様に言えないようなお仕事も多かったから、気配を隠すの得意なの。それで、ちょーっと高校生の節度を外れた兆しが見えたからね。お邪魔させてもらっちゃった。あ、お邪魔じゃないか~。別に大事な話じゃ無かったもんねぇ凰さん?」

「・・・・・・・・」

 

カッ開いた眼で鈴をガクガク揺する雨。

お、おい・・・鈴を揺すったらヤバイんじゃ・・・・!

俺が雨を止めようとしたとき、

 

―――――バッッッッッッ!!

 

保健室のドアが、何かで弾き飛ばされる。

い、今の炸薬音は・・・ラファール・リヴァイヴの灰色の鱗殻(グレースケール)

ってことはつまり・・・・。

 

「よく見ておいて下さいねクッちゃん――――これが嫉妬に狂った女の姿だよ」

 

雨が訳のわからない事を言った後、どうやら一発で弾切れになったらしいシールドピアスをガッチャンと棄てたヤツを先頭に、全員が姿を現した。

 

「扉の外で聞いてはいたけど・・・ちょっと糖度高すぎだよね~。・・・・カロリー消費のために運動しようよクレハ。今すぐ。そう、今すぐッ!」

「ふ、フフフ。わたくしのブルーティアーズがもっと痛め付けろと囁いてきますわ・・・。フフッ。クレハさんはどれだけ撃てば穴だらけになるのでしょう。わたくし、気になりますわ」

「わ、私がペアを組んでいたと、あんなこと一言も言ってはくださらなかったと言うのに・・・。何故ですか! あの頃のストイックな兄さんは一体何処に!」

「―――――殺すわ」

「アオがクレハを殺して、女王となった暁には世界を壊してアオも死にます」

「わ、私は何もしていませんよ!? 知らぬ間に全員がおかしくなっていたのです!」

 

きっと散々皆を止めるために手を尽くしたのだろう。箒が可哀想だ。

あとサラ。お前が一番怖い。

それぞれがそれぞれのメイン装備を展開しつつ、俺に向かって歩み寄ってくる。

こ、コイツら・・・。

俺はというと、ぶっ壊れた瞬龍は整備中で展開できず、後ずさった際にベッドの縁に躓き、その場に座り込んでしまう。

用心のために持っていた銃も・・・・ない。

 

「それじゃあみなさーん。先ずは明るい新婚生活のため、浮気なんて出来ないようにしっかりと旦那様の心に鎖を付けておきましょうね~」

「「「「「はい! 先生!」」」」」

「そして~。幼馴染みの間を引き裂くぺったんこは~こう!」

 

お、オイッ! 鈴! 窓から投げ捨てられたぞ!?

気を失っている鈴はなす術なくベランダから落下していく。

外でドチャッという気味の悪い音が聞こえたが・・・・そ、それどころじゃない。

目の前に迫った悪魔たちに滅多うちにされる!

瞳も諦めているのか、活路を計算しようともしないで―――

 

――――病院へ予約の電話をしますか?

 

なんて言ってやがる。

 

「「「「「「・・・・・・・・・・よし、殺ろう」」」」」」

 

その後、俺はガチで島外の病院へ搬送された。

 

 


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