なんか今回ちょっとエロさが漂う感じになりました。
え? 変態スケベ? 鈴ちゃんにいってもらえるなら本望ですが、嫌われたくはないです。
「ちょっと出るぞ。付いてくるか?」
アオの名前が決まってからすぐ、俺は次の行動を考えた。
アオは超界者である。
今はその素性を隠し、俺と行動を共にする気みたいだが、いつ俺の嘘がバレるとも限らない。
よって俺はその嘘に協力者を付け加えることにした。
餅は餅屋。超界者には超界者を、だ。
職員室に行く前に、アオのことを知らせておこうと思って向かうのは毎度お馴染み第三アリーナ、旧射撃訓練場。言わずもがなミナトの住んでる部屋だ。
俺の誘いに無言で頷き、後ろをついて歩くアオは外の風景に強い興味を持っているらしく、アリーナに入った今も擂り鉢状の観客席を仰ぎ見ている。
コツンと足元に何かが当たったので見下ろしてみると・・・・げ。
どこのどいつか知らんが、でっかい空薬莢がゴロゴロ転がってやがる。
弾種だけでも数十種類あり、それらを一度に扱えるのはラファール・リヴァイヴくらいなもんだ。
誰かが訓練機使ってから片付けしてないんだな。
俺はそれを蹴散らしながら地下階段へ急ぐのだが、背後から「ぐぴゃ」という悲鳴が聞こえたので振り返れば、案の定アオが転んでいた。
その際、短いワンピースがM字に開かれた足のせいで大変なことになっていたが・・・って、白っ!
転んだ拍子に捲れたスカート部分から覗く真っ白なアオの太股が目に飛び込んできて、俺は驚きのあまり思わずその場から飛び退いた。薬莢踏んづけて転びそうになっちまったよ。
だが、幸いにもその奥は見えていない。大丈夫だ。つーか幼女に興奮してどうする。
「おい、大丈夫か。競技用の第三アリーナでは珍しく散らかってるが、他じゃよくあることなんだ。蹴りながら歩けよ」
アオに手を差し出すと、その手を見たアオはキョトン。またもや首をかしげた。不可解そうな、意外そうなだ。
「何だよ。手を握るのがいやだってか」
「い、いやそういう訳じゃないんですが、アオには経験上初めての事だったので・・・・」
「あー、どうすればいいか分からなかっただけか」
アオを引っ張り起こしながら納得する。
記憶が一部ないんだっけか。超界者には握手とかの風習は無いんかね。
だが、少しだが分かるぜその感情。
俺の場合、記憶はあるが、そのすべてが偽物だって言うんだから驚きだ。いやになるね。
「よし、アオ。一つだけ教えておいてやる」
「教える・・・? ああ、接続ですか? それなら後で・・・」
「違う。そうじゃない。耳で聞いて、頭で覚えろ。それが人ってもんだ」
「・・・・・私は人じゃないんですが」
「て、敵のことを知るのも重要なことだろッ」
いかん、早速疑われつつあるぞ。
俺は一つ咳払いするとアオに教えてやる。
「目の前の相手から手を差し出されたら取り敢えず握っとけ。握手ってやつだ。仲間や同族が大事だっていうならそれが親愛の証になる」
「親愛、ですか?」
「そうだ。敵味方、皆仲良くっていうのは無理かもしれんが、せめて仲間内だけでもイザコザは無い方がいいだろ?」
「・・・・そうですね。一つ一つが独立しているのがアオたちとは言え、互いに連携をとる必要も増えてきていますしコミュニケーションは大切かもしれませんね。新しい概念です」
現在進行形で仲違いしている俺の言葉に、アオはウンウン頷いている。
いや、別に連携の話じゃないんだけどなぁ・・・・まぁいいや。理屈は通ってるんだし。
その後、どうしてかは知らんが、急にアオからの質問が増えた。
「この施設は?」「戦闘訓練所だ」「どうして楕円形に?」「しらん、設計者に聞け」「そういえば貴方の名前は?」「クレハだ」「どうして男性体である貴方が作戦に?」「男女差別はよした方がいいぜ」・・・などなど。
気がつけば聞かれるままに答えてやる状態になっており、アオの質問攻めはミナトの部屋の前にたどり着くまで続いた。
「おい、ミナト。入るぞ」
前に入ったときは蹴破った扉を丁寧に押し開ける。
「クレハさん・・・と、そちらの人はどなたですか」
部屋の中ではミナトが重火器の手入れを行っていた。
拡げられたブルーシートの中央にちょこーんと座っているミナトの回りには、バラバラにされた各種兵装がピカピカに磨かれて並べられていた。
「あー、今日はちょっとこの子の用事で来たんだ。
「
油を塗布するために使っていた布巾を折り畳んだミナトは、右目前にホログラフウィンドウを表示し、それ越しにアオを眺めた。
人見知りな性格をしているのか、アオが俺の背後に少しだけ隠れる。
それを見たミナトが・・・・なぜか、不機嫌そうに眉を寄せた。微妙に。
何だろうか、あの目。
普段なら1ビットたりとも情報を発さないミナトの瞳が「アタイのモノに触るんじゃないよ」的に怒ってる気がする。
何で俺が所有物扱いになってんだ、と此方からも視線で返すと、つーん。いつもの無表情に戻ってそっぽ向きやがった。反論すらさせてくれないんだな・・・。
「確かにその少女の体内からエネルギー反応が見られます。どういった事情ですか」
「お前と同じだ。もともといた部隊とは別行動中らしい」
俺はミナトに「話を合わせろ」とまばたきで和文モールスを送る。
訳すのに手間取っているのか、しばらく返答がなく―――
「分かりました。つまり私の時と同様に身分偽装のために一枚噛め、と言うことですか」
「話が早くて助かる。やってくれるか」
「問題はありません」
よし、ミナトの協力は取れた。
適当に名前と設定をミナトに伝えると、ミナトはこの場ですぐに戸籍情報の上書きを始めた。
去年の入学の際、不測の事態に備えて束さんに架空の戸籍を幾つか作って貰ってたらしい。
「そう言えばクレハさん、凰さんと喧嘩されたそうですね」
キーボードを叩きながらミナトが言ってきた。
「・・・ん、ちょっとあってな。部屋にも帰ってこないんだ」
射撃のレーンを弄くっているアオを放って、自分も適当にその辺にあった銃器を手に取る。
IS用に一回り大きくグリップが作られたこのハンドガン、『シュタイナー』は、44口径マグナム、S&WのM29をモデルに設計されたリボルバータイプで、なんと一般的な大きさの銃弾がそのままコレにも使える。その流通のよさからテロやゲリラで使用される野良ISの代表的な拳銃と言うことで知られている武器だ。
さらに特筆すべき点といえば、この拳銃はバレル内部にレールガン機構を備えており、一般的なサイズの銃弾でもISに対抗しうる威力が出ると言う点だ。言ってしまえばラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンの縮小版みたいな感じだ。・・・こんなゲテモンまであんのかよここは。
「まぁ、彼女の性格から考えるにすぐに仲直りとは行かないでしょう」
「だよなー。俺もちょっと焦ってるんだが、居場所に心当たりが無いんだ。なにか知らないか」
手持ち無沙汰を埋めるためにガチャガチャ弄ってると・・・うおっ。シリンダー出てきた。
「クレハさんが知らないことを私が知り得るわけがありません。・・・・ですが―――」
「ですが?」
そう聞き返すと、チラッとこっちを見たミナトが一つウィンドウを滑らせてきた。
真意が読めず眉を寄せ、それを見てみると・・・・なんだこれ、学校の上空写真か。
「―――最近の学園の様子です」
「見りゃわかる。コレがなんだよ?」
「普通に見ても異常は見られませんが、こうすると・・・・」
ミナトが一つキーを叩くと、画面が切り替わる。
あまり変化が内容に見えるが、よく見ると島を囲むように赤い線が僅かに見える。
まるで何かの残留物のように僅かな反応を示すそれは、まるで戦場に置ける防衛線を彷彿とさせた。
「―――そのラインはシールドエネルギーの残滓です。今年の夏休みに入ってから島の周囲を覆っていました。今はもう用済みなのか反応が薄れていますが、この夏休みの間に何かの細工がされていたのは間違いありません」
ミナトが予想立てた反応の変化を辿っていくと・・・・なるほど、丁度夏休みに入った日にシールドが展開された計算になる。
「細工についてなにか調べてみたのか?」
「はい。ですが今のところ何も異常はありません。そこの彼女に関係するとしてもシールド・・・いえ、あえて結界と言いますが、これが張られた時期は8月初旬。関係性があるとは考えにくいです」
ミナトはそう言いながら整備の終わった『サイレント・スコール』をスチャッと構え、その照準を静かにアオに向けた。スコープに当てた右目でチラッと俺を見たミナトからは「・・・排除できますが?」という雰囲気が感じられた。
流石に速攻で撃つことはないだろうと鷹を括っていた俺も、ミナトの分かりやすい敵意には内心驚き―――
「おいおい、待て、やめろ。
―――アオに気づかれないようにそっと銃身を上から押さえる。
その対応にミナトは一瞬眉を寄せつつ、
「・・・・ウェルク・ウェルキンの時のように何か考えがあるのですか?」
「いや、アオが本当に敵として俺の前に立つならその時はホントに剣でも交えるさ。ただ、今はなにもしない。十分な警戒を払いつつ、超界者ってものを観察するんだ。弱点の一つや二つくらいなら拾えるかもしれないだろ?」
「・・・・超界者という存在自体に綻びがあるなら
「・・・・」
ミナトの呟きに一瞬ウッとなったが、一度決めた方針は貫くぞ。別にミナトの発言に意地になってる訳じゃない。
「とにかく、暫くは様子見だ。俺はアオを見張るからミナトは学園島に何か異常があればすぐに報告しろ。取り敢えずは夏休みいっぱいだ。―――それと、千冬さんや束さんにはこの事を秘密にしとけ。あの二人結構嘘つけないタイプだからな」
早口でそう巻き上げる俺をシラーっと見つつのミナトが、「・・・了解」と呟くのを確認した俺はアリーナを後にする。
さて、次は職員室―――と思ったが、よく考えれば迷子だ、といったところで学園で保護できないのは自明の理。アホか俺は。
迷子っつって報告しても警察に保護されて終わりだし、とすると部屋で密かに匿うしかないのだが・・・・丁度いい。鈴は暫く帰ってこないだろうし、超界者と接触することで鈴の脳内に刻み込まれた『女王の心』が変な反応を示さんとも限らない。
いつかは説明しなければならないと思うが、取り敢えず今は鈴がいないこの状況を有効活用させてもらおう。
アリーナを出た俺たちはそのまま部屋には戻らずに、島外に脚を運んだ。
理由はもちろん生活必需品の調達である。
アオの持ち物といえばワンピース一着に下着のみ。
下着について尚も言及しちゃえば、昨日から付けっぱなしの状態であって、衛生上も宜しくない。
しかも上の方は着けてらっしゃらないというデンジャラスな出で立ちだったので俺は早急に決断を下し、幼女連れて台場のアクアシティに行くことにした、と言うわけだ。着の身着のまま過ぎますよアオさん・・・。
学園島から直で行ける青海駅に降り立ち、バスで移動している最中のアオはまるで普通の子供のようだった。
ダイバーシティの横を通過する際にちょっとだけ見えた実物大ガンダム像が気になったらしく、なんとアオはそのままダイバーシティでバスを降り、ガンダムを見に行くと言ってきたのだ。
しょうがないから俺も連れ添って下車して、いまだに人気のあるガンダム像をアオと一緒に見てやった。
タイミングよくガンダムが光ったりしてくれたからアオは大喜びで満足してくれたみたいだよ。
一通りガンダムを満喫したので、午後の散歩がてらフジテレビの横を歩いてアクアシティに向かう。
潮風に白髪を靡かせながら、家族で遊びに来ているらしい同年代の女の子とゴキゲンで手を振り合ったアオは新鮮味に溢れた体験ができてご満悦のようだ。
「・・・そんなに楽しいか?」
「はいっ、待機任務中だと言うことを忘れてしまいそうなほどに刺激的な体験が出来ています! あっ、見てくださいモノレールですよ!」
はー、今時珍しいくらい感受性豊かな子だなぁ・・・。
アオのハツラツぶりに、「さっき乗ってきただろ」と言えない俺は財布からカードを取り出してアオに渡す。
「・・・これは?」
「一応、二万円分使えるように設定してるが必要なら言ってくれればもう少し出す。それを資金に必要なもの買ってこいよ」
「・・・・?」
アオが気兼ねしないようにお小遣い気分で渡してみたんだが、アオに渡したあのカードはプリペイドカード。
俺がこなした仕事の報酬が入ってる口座には、この間の福音事件並びに双龍事件の解決報酬が十二分に振り込まれていたので、学園を出る前に今日の活動費に、と作っておいたのだ。
贅沢する気はないが、今の俺に一万や二万は軽い軽い。
だが、察するにアオはそのカードが何なのか分かっていないご様子。
くるくる回して下から覗き込んだり、太陽にかざしてみたり、二つに割ろうと――――おいおい。
「資金だよ資金。任務には必要経費が付き物だろ」
「資金、ですか?」
「そうだよ。買いたいものレジに持っていって電子処理機に押し付ければ、それで決済されるから心配するな」
「ほ、本当ですかそれは! 凄いです! カードでお買い物なんて! 普通のお買い物だって未体験なのですよ!?」
アオはそういってキラキラした目でカードを見つめる。
そのはしゃぎっぷりに少しこそばゆい気分になった俺は、
「あー、わかったらさっさと行ってこい。俺はここで座ってるから」
そばの段差に腰かけて、さっさと行ってこいと促す。
だが、アオは俺がついてくるものと思ってるらしく・・・。
「え? 一緒には来ないのですか?」
なんて言ってくる。
「・・・いくわけないだろ。見た目10歳くらいの女児の買い物に付き合う高校生なんざ、いまの日本から見りゃ即職務質問ってくらいにアヤシイんだよ。アオは確りしてるみたいだし、一人でも大丈夫だろ」
「・・・・・・・」
・・・・・うう、すげぇ分かりやすくしょぼんとされてる。
心なしか白い髪の毛までふにゃりとしぼんでる気がする。
でも実際マズイのだ。
今は夏休みでショッピングモールや何やらに人が集まる昼下がり。
まず、間違いなく学園の生徒に出くわす。
国際的な学校という雰囲気のせいで誤解されがちだが、IS学園の生徒の約七割は日本国籍を持つ生徒なのだ。
もちろんここ、東京を地元とするやつもいるし、普段から此処に来ているという女子もクラスメートに六人ほど居ることを俺は知っている。
もしそいつらに、アオと一緒に女物の子供服を物色している所を見られたとしよう。
アオはちっこい上にちっこいゆえの可愛さを備えている、見る人が見れば一発で
間違いなく誤解されて、俺の立場はさらに危ういものと成るだろう・・・・。
「・・・・・・・・・ぅ・・・」
―――――だが、アオの瞳は「一緒に来てほしい」と無言の訴えを放っている。
コイツ、ガキのくせに高校生の保護欲を煽るとはナマイキだな。
そんな目で見られたら拒絶することも出来ん・・・。
「・・・・・・・」
あー、もう。畜生。ズルいだろそれ。
「・・・・・道案内くらいは年上が担当すべきだな」
俺はそうぼやいて立ち上がる。
「ほら、行こうぜ。誘っておいてなんだが、ほしい服とかってあるのか?」
店選びの参考とするためにアオの趣味的なものを聞き出そうとしたんだが、俺が一緒に来る流れになったからか、アオは満面の笑みを浮かべるだけで答えてくれない。
あー、腕にくっつくな。身長差で歩きにくいんだよ。
@
店選び?
よくよく考えれば俺が女物の服を売ってる店なんてチェックしている訳もなく、ウィンドウショッピングという方向性に決まった。
だが、当初俺はアオが迷子にならないための目つけ役か何かだと思っていたんだが、
「クレハっ! これなんてどうですか?」
そう言ってハンガーに掛かった服を自分の肩に宛がうアオ。
初めに着てた清楚なワンピースも中々の物だったが、今手にしているポップでガーリーな感じの服も、溌剌としている今のアオに似合っていて申し分ない。
「ん、まぁ。良いんじゃないのか?」
生返事を返した俺に、アオはちょっと不満顔。
いや、だってねぇ・・・。
俺は店先に掲げられた店舗名を見上げる。
・・・・ここ、俺でも名前知ってるくらいに有名なブランド店なんですけど・・。
確か原宿にも同じ店があったぞ。
気になって手近な値札をくるっと見てみると・・・・げ。秋物なのか店頭のマネキンに掛けられた薄手のコートの値段が四万弱って・・・。金が吹っ飛ぶぞ。
しかし、アオはアオでちゃんと値札を見て購入を検討している。
今ある限度額が二万円と言うこともあってか、気に入ったと見られる服の値段を見てそっとハンガーラックに戻してる。
ごめんな、買ってやれなくて。
しばらくすると買い物のコツを分かってきたのか、アオは安い店を狙って買うという所帯染みた買い物テクを身に付け始めた。
すると貯まるわ貯まるわ紙袋が。
複雑な構造の建物も大体覚えたのか、俺が教えなくても一人で歩いていく。
ノイタミナショップの前を通ったときは怪訝そうに顔をしかめたけどな。
「はー、疲れましたぁ」
どっかりと腰を下ろすアオ。つっても地面に足ついてないけどな。
アクアシティで一通り買い物を終えた俺たちは屋外に出て、自由の女神像のミニチュアが眺められる展望デッキのベンチに座った。
俺のとなりに座ったアオは買った物の袋を眺めてニコニコしながら、新品の女の子っぽいスニーカーを履いた足をぷらぷらさせている。
・・・・幸運にも、知り合いには会わなかったな。ひと安心だ。
ただ、行く先々の店員さんからは兄弟見たいに見られて凄くむず痒かったけどな。義妹なら別にいるんで。
これからどうすっかなぁーと悩んでいると、アオがこっちを見ていることに気がついた。
「・・・随分と楽しそうだったな」
「当然です。初めて見るのもに初めて体験すること。楽しまずに居られましょうか! それに、クレハも一緒に来てくれたので、尚楽しかったです!」
「そいつは良かったな」
そう返して、スタバのコーヒーを口につける俺。
ちょっとぞんざいすぎたかな?と思ってると、案の定アオは少しご機嫌を損ねた様子だ。
・・・・折角楽しんでたのに、機嫌損ねるのもアレだしな。
俺にしては珍しく、ちょっと気を利かせてやろう。
「よし、アオ。学校に帰るぞ」
「分かりました」
ちょっと疲れた様子のアオが立ち上がって歩き出す。
俺はその背後からアオの胴を掴み、頭の上に持ち上げる。
「きゃ、ギャーーっ!」
「う、うおっ、案外キツいなこれっ!」
突然のことで驚いたアオが頭上で暴れたが、俺は何とか体勢を保ち、アオを肩車する。
転けたら格好付かないだろうからな。
「――――ッ・・・・・って、え?」
落ち着きを取り戻したアオが頭の上で何かに気づいたように呆ける。
・・・・時間的には危ないかと思ったが、大丈夫だったみたいだな。
アオの目線の先にあるのは西の空。
丁度、東京のビル群の向こうに太陽が落ちようとしていた。
「・・・・・キレイ、ですね」
「だろ?」
アオよりも低い位置からその光景を見ながら、俺は言った。
アオは超界者だ。
自分達の女王を甦らせる為にこの世に現れ、破壊する正体不明の生命体。
だけど、コイツらはなんの因果か人の形を取っている。
それがどういう事なのか、俺の頭では考えられないが、少なくともアオやミナトと言った超界者たちはこの世界にたいして攻撃的な感情以外の感情を向けることが出来る。
今日を振り返ってみても、困惑や安心、喜びや不満と、様々な感情をアオは見せた。
だから、知ってもらいたかった。この世界を、人を。
果たしてこの意図がどこまで伝わってるかは知らんが、取り敢えず今日はやれることをやりおえた。
「よし、帰って晩飯食べようぜ」
「―――――ですね」
そう言って俺の頭を細い腕で抱えるアオ。
歩き出した俺の頭の上にいるアオは凄く優しい笑顔を浮かべていた。
@
人の少なかった昼とは違って、夜になると相応に食堂を利用する生徒が多くなる。
だから俺はアオの事を尋ねてくる女子たちに「先生に言ったら殴るぞ」と脅して口を封じた後、昼間同様に一つのうどんを二人で分けて食べた。同じ釜の飯を食うとか言うし、なかなか信頼されてきた感じだ。
飯をくって部屋に戻った後、アオは
「接続のために身体を洗浄します」
なんて意味わからんことを言ってその場でワンピースを脱ぎ捨てかけた。ので、
「服は風呂場で脱ぐもんなんだよ」
――と言ってシャワールームに押し込んだから現在部屋には俺だけの状態だ。と言っても隣から水音が聞こえるが、鈴のお陰で慣れたもんだよ。
暇潰しにチャンネルをくるくる回すんだが、日曜洋画劇場も今週はやってないみたいだしで非常に暇だ。
ISの簡易メンテナンスでもしようかと思ってパソコンを立ち上げたんだが、いつの間にか全く関係ないサイトを観たりしていた。
いっそ今のうちに例のアレを確認しておくか、とサラに教えられたサイトを一通りチェックしてメモを取り終えるといよいよする事が無くなった。
まだ夏休みだし、久しぶりに早寝するのも一興か。
そう思った俺は、今日は大浴場が男子の日だったことを思い出して、ひとっ風呂浴びに大浴場に向かう。
前回内緒で使ったときとは違って凄いゆっくりできて良かったよ。
身体の疲れも取れて、今ならセシリアにも勝てるんじゃねぇの?ってくらいに回復した俺が意気揚々と部屋に戻ると・・・・あれ、電気が消えてる。
常夜灯は点いていたので、アオが先に寝たのかな? と思いながらベッドを見ると確かに窓側のベッドではアオが静かに眠っている。
折角眠ってるんだし、俺が騒音を出して起こすのも忍びなかったので、アオ同様に大人しくパジャマに着替えてベッドに潜り込む。
いい加減、鈴の居場所も突き止めて合流しなくちゃならんし、ミナトの言ってたシールドエネルギーの残留反応も気になる。アオの事だって気にかける必要がある。
(ぜんっぜん休まらねぇ夏休みだなぁ・・)
襲ってきた眠気を受け入れるように大あくびをぶちかますと、モゾモゾ。
隣のベッドから、身をおこす音がした後、
「・・・・・・・・」
・・・・・なんか、アオが無言でこっちの布団に手をかけた。
「まてまてまて、なんでこっちに移ってこようとする? そっちで寝ればいいだろ!」
「? 接続するために、そっちにいこうとしてるだけですよ?」
そう言いながらアオは・・・プチ、プチ。
今日買ったばかりのチェック柄のピンクいパジャマのボタンをはずし始めてる! なんで!?
ね、寝てると思ってたが、狸寝入りだったわけか・・・!
「せ、接続って、なんの話だ!」
「昼間に言ったじゃないですか、アオのデータベースには異常があってここ数日間の情報が無いので接続して
アオは咎めるような目をした後、俺が布団の端を押さえているので潜り込めないと判断したのか、うっ、上に乗ってきたぞ・・・・!
なんだ、何が起こっている。さっきはセシリアにもリベンジ出来るかもと思ってたが、いきなりアオに組み敷かれてるんだけど!?
動揺している俺をよそに、アオはどうやってかは知らないが、動くために力を入れる要所要所を布団の上からでも的確に抑え、身動きを取れなくしてくる。
ちっこいアオは俺との身長差のせいか、自分の足で俺の足を抑えているため、胸に顔を埋めるようにして俺の上にねそべってくる。
夜の時間帯のIS学園ではお馴染みである女子特有の風呂上がりの香り。
鈴の使ってるシャンプーとは別に、アオ自身の体臭であると推測される若草の爽やかな香りが鼻先をくすぐり、アオの存在をより近くに感じさせる。
ああ、変な分析をしてる間にも両手まで固定された・・・っ!
「では先ず、口腔内粘膜から・・・・・」
アオはそう言って赤くなった頬を隠すためか、伏し目がちに俺を見つめ、
「――――――!」
キス、をしてきた。
身長差を補うために精一杯背伸びしているアオ。
―――はぁ・・という甘い吐息を交えながら唇を離したアオは、赤らんだ頬を隠そうともせず、先程より堂々としている雰囲気がある。
俺はというと、いきなりのことだったからか、余り胸の高鳴りは感じない。今の段階では困惑の方が勝っているようだ。
「――――接続には粘膜接触が一番効率が良いのでまずは口腔内粘膜から、と思ったのですが失敗のようです」
そりゃそうだろうな。唇を合わせただけでは粘膜接触をしたとは言えない。
どうもちょっとませてる性分をしていたみたいだが、これ以上好きにさせるわけにはいかないッ――――なんて思っていたら。
「―――もう一度行きます」
再びのキス。
しかし、今度のは違った。
アオは俺の抵抗を押しきり、その小さい舌を絡めて、より深く、激しく俺と繋がろうとしてくる。
俺の後頭部が枕に埋まるほど、強く押し付けられるアオの唇。
比べるのはどうなんだ、と言われてしまいそうだが、あの瀕死の鈴の唇よりも温かく、柔らかい。
美人の卵。美しい
そう実感してしまったのが失敗だった。いや、実感するしかないだろうなこれは。
鼻梁の通った白く、美しい顔が俺の目の前にある。閉じられた目を縁取る睫毛、形のいい眉。さらさらの髪。
その全てが、俺の手の届くところにある。
手が動かせないのがもどかしい。思わずそう思ってしまった所で―――
ドグン
―――来たぞ。胸の痛みが。
心臓の一拍一拍が手に取るように分かり、視野が狭まっていく。
今回のは、あれだ。間違いなくセシリアパターンだな。アオが気に入ったかエリナ。
ぷは、と唇を離したアオ。
「はっ、はっ・・・また、しっぱいみたいれすね・・・」
荒くした呼吸を落ち着かせながら、垂れた唾液の糸を拭いながら呂律の回っていない台詞を口にする。
失敗、つまりは次がある。
アオの言っていた接続は、人体の粘膜を接触させることで成立する行為らしく・・・・・って、まずいだろこの流れ。いやもう詰んでるかもしれんがとにかく――――
――――人体において接触させられる粘膜組織は二ヶ所しかないんだぞっ!
「おい、待てっ! 次はダメだ! 本気でマズイ!」
「? どうしてですか?」
その二ヶ所を知っているであろうアオはその事実にノーリアクション。
ダメだ・・・・
いい加減、胸が痛い。苦しくて息が荒くなる。もうなんでもいい・・・とは言わないがどうにかして切り抜けねば。
俺がだらだら汗をかいて二の句を探していると・・・
「ああ、怖いのですねクレハは。心配ないですよ。初めては誰だって怖いものです。事実、私だって初めてに恐怖を感じています。ですが、相手がクレハなら安心して臨めます――――」
なんて、アオは怖くなんてありません風に俺を諭してくる。
そしてアオは俺の腕をまとめて、片手で抑えると、空いたもう一方の腕で俺の上から布団を剥ぐ。
おい、頼むから下半身の布団までは剥いでくれるな。見られたが最後俺は死ぬぞ。
布団を剥いで、露になった上半身のパジャマのボタンを外したアオは同じように自分のボタンも遂に外しきった。
露になったのはライムグリーンの下着に包まれた慎ましやかな胸。畜生、小学生程度の体躯のクセにちゃんとありやがるぞ・・・!
「では、次は下に・・・」
俺の願い虚しく、アオの視線が自分が跨がっている部分に向けられた。
いよいよ限界だ。もう何の動悸かは分からないが激しく脈打つ心臓。
そして、アオの手が布団の下の下に潜り込みかけたその時―――――
―――――Bシステム、起動します。
―――――エラー。対象のコアとネットワークを構築出来ません。対象のコア識別・・・不可
珍しく、瞬龍がエラーを吐き出した。
だが、しっかりとBシステムは起動してくれたので・・・・
「――――アオ。少し俺の話を聞いてくれ」
右腕の指先に展開したキーボードでエラーをチェックしつつ、時間を稼ぐ。
「なんですか?」
「アオはこの学校での経験が浅い、言わば新入生だ。だから、先輩が一つ教育しようと思うんだ」
「教育、ですか・・・?」
よし、良いぞ。興味を持ったのか、アオの意識がこっちに向いた。
熱に冒された様に赤い顔だが、話は聞いてくれそうだ。
「ああ。教育だ。――――一つ、地理の勉強だ。この世界には多種多様な文化があり、それぞれがそれぞれの特徴的な文化を発展させてきたんだ。さっきやった接続方法の一種、口腔内接触にも文化によって様々な意味を持つ」
・・・・・自分で言っててなんだが、凄い雲行きが怪しいぞ。このお勉強会。
「―――我々にとっては自分を保つための重要なプロセス。もしくは女王のみが行える種の繁栄という意味を持っています」
「―――――確かにそうかもしれない。だが、俺もこっちの暮らしが長くなったんでね。郷に入りては郷に従え。こっちの世界での意味の方が情熱的で美しい。俺はそう思うんだ」
アオの気を引きながらさっきのエラーの詳細を確認する。対象となったコアは間違いなくアオの心臓だ。だが、なぜセシリアのブルーティアーズよりも、素材的な意味での親和性が高いであろうアオのコアが弾かれたのか、俺はそれが気になる。
「い、一体何なのですか、こちらの意味は・・・?」
これは、賭けだ。
うまくいけば俺を信頼しているアオを傷つけずに済み、失敗すればきっとアオを傷つける。
アオはまだ幼い。口ぶりは大人びていても中身は見た目相応だ。
子供の手は大人が引いてやらねばならない。
それに、きっとこの言葉はアオを含めた超界者全員に理解できるだろう。彼らは仲間意識の強い、お互いを想える人たちなのだから。
「―――――あなたを、愛している」
――――そう、言い切った次の瞬間―――――ぼんっ!
俺の言葉を理解したらしいアオが爆発したように身体を揺らした。って、マジで爆発したんじゃないだろうな。頭から湯気出てるぞ。
「あっ、あ、あ、ああああ、あい!? 愛!? そ、そんな積極的な意味だったのですかッッッ!?」
マシンガンのように「あ」を連呼したアオは、フラフラ~、ドテン。
ゆらゆら上体を揺らしたあとベッドから転げ落ちちゃったよ。どんだけ動揺してんの。
「そ、そんなまさか・・・アオはもうそんな事まで・・・・!?」
自由になった両腕ではだけたパジャマを正すと、俺は極力見ないようにして、呆然としているアオのパジャマも直してやる。
・・・・どこまで重要な意味を持つ言葉か分からなかったが、予想以上の効果だなこれ。
「う、ううぅ~。でもアオは、アオはただの一兵士ですし、そんな女王の領域を犯す事なんて・・・・ッ!」
未だ、動揺のアリ地獄から抜け出せないアオを見てると、なんか、こう。やっちゃった感あるな。言うなればアオが大事に大事に取っておいた物を無理やり奪っちゃった感じ。
続けて、挨拶程度の意味も含むって言おうと思ってたんだけど、言っても意味無さそうだしなぁ・・・。
アオの変化にすっかり落ち着きを取り戻した俺は目をグルグルさせているアオの前に座る。
Bシステムも止まったみたいだし、どうしようかな。
「・・・・まぁ、さっきの言葉の意味については一晩ゆっくり考えてみろよ」
フォローに詰まった俺は伝家の宝刀、現状維持を抜刀と同時に降り下ろす。
よし、寝よう。あとは明日考える。
アオはアオでマジで何事か考え込んでるらしく、ぷしゅーと知恵熱まで出しちゃってる。
ベッドに寝かせて、はい終わり~。
明日からは鈴の足取りも掴まないといけないからハードな日々になるぞ。
今のうちにしっかり寝溜めしておこうかな!