30分後。
コーヒーと紅茶のカフェインで完全に覚醒した俺たちは今一度問題に向き合った。
「ていうか、なんでこの子俺の部屋に居たんだよ?」
「知らないわよ。それを今から聞き出そうとしているんじゃない」
部屋に戻った俺達は壁際の簡易テーブルを引っ張り出して、座っていた。
食堂で寝てしまった少女は起きそうにないのでそのままベッドに寝かせてある。
「名前も聞き出す前に眠ってしまいましたから、捜索願の確認も出来ませんわね・・・」
「・・・やっぱり千冬さんや束さんに報告すべきだったかなぁ・・・」
飲み干したインスタントコーヒーのカップをテーブルにおく。
・・・教師に報告っていうのは実は真っ先に思い付いた選択肢だが、俺は二年生。
IS学園では一年次を教育期間として、二年次を実習期間。そして三年次を実戦期間として見ている節がある。
だから通例、二年の生徒は基本的に訓練のメニューや任務の受注発注は学校が取り仕切るのではなく、個人でやらされる。
将来、どこのIS企業でも一人でやっていけるように自立を促されるのだ。
そしてそれは任務中の問題についても同じで、俺達は基本的に教師の手を借りることをあまりしない。
この前の福音事件のような外交的思惑が絡む事件ならそうはいかないが、よほどのことじゃない限りは、自分の力で状況を打破しなくてはならないのだ。
「やはりそれが一番良いんじゃないかしら。情けない話だけれど、学園寮にこんな小さい娘が入り込んでるなんてどう考えてもおかしいことだわ」
「やはりそうですわね・・・・」
二人の意見は揃ったようだが、俺はまだ少し考えていた。
この少女は、昨日アクアマリンで見かけた少女だ。
その少女が俺の部屋にいた。
本当に偶然か? 教師の方に丸投げして解決する問題なのか?
俺の脳裏には昨日感じた嫌な悪寒が甦っていた。
・・・・決まりだな。
「俺は、まだ少しこの子から何かを聞き出した方が良いんじゃないかって思う」
「・・・・・貴方、よく分からないイレギュラーを放置するって言うの?」
「それに関しちゃ言われる筋ないぞサラ。一緒に食堂で飯食った上に眠りこけたのはどこのどいつだよ」
「なっ・・・それは確かにそうでしょうけど・・・。ていうか、見てたの?」
サラが手の甲で口元を隠しつつ、なんでか俺を睨んでくる。
「おかしいわね・・・。柊君より後に寝て、先に起きたはずなのに・・・写真も・・」なんて言ってるサラは放置し、セシリアにも確認をとる。
「サラに同意って感じだったが、お前はいいのか」
「・・・・わたくしも危険分子は早めに取り除いた方が良いと思いますが、先程までのこの子の様子を見る限り、わたくしたちにとって危険に感じられるような事は有りませんでしたわ。話を聞くというなら、反対は致しません」
「そうか」
・・・・セシリアはその生まれからか、物事をハッキリさせることに躊躇いがない。
新聞部部長、黛 薫子のデータによれば・・・セシリアの実家、オルコット家とはイギリスの貴族の家柄で、セシリアの祖父が男爵家の位を賜ったらしい。
そしてその祖父が他界し、そのすべてを相続していた親夫婦も双龍の事故で命を落とした。
するとその遺産はどこにいく?
一人っ子であるセシリアは若くして莫大な遺産を相続し、家名を護るために年齢にそぐわない立ち振舞いを身に付けたという。
そのせいか、高圧的な態度と口調で相手を圧倒する人格が形成され、大人の世界で培った高い判断力と分析力を買われてISのテストパイロットになったのだ。
「・・・・まぁ、セシリアがいうなら私も敢えて反対意見は出さないわ。言っておくけれど、私はセシリアの意見に賛成したのであって、貴方の意見に賛成した訳じゃないわよ」
「いや、そこ確認する必要なくね・・?」
そういうセシリアの生い立ちを知っているからか、サラもセシリアの考えには耳を貸す。
よし、方向性は決まったな。
俺は何となく、ベッドで眠っている少女を見る。
・・・普通の女の子だ。
風貌こそ現実味のない輝くような姿をしているが、眠っているあどけない姿はとてもじゃないがここのセキュリティを掻い潜って来られるようなやり手には見えない。
つーかなんだろうね。
殺伐とした雰囲気の学園にこんな子供っぽい娘がいるとすげえ違和感感じるんだが、それと同時にすげぇ癒されるね。
毎日毎日鈴やセシリア、サラや千冬さんと言った「クレハ絶対殺すウーマン」どもに囲まれた生活を送る俺にとってはとてつもなく重要な時間だよ今。
「はぁ・・・天使かよコイツ・・・」
「・・・・キモいわね」
「やっぱりわたくしの見立て違いだった様ですわね・・・気持ち悪いですわ」
外野の発言を華麗にスルーしていると、起きそうなのか少女が身じろぎし始めた。
「ん・・・・んぅ・・」
そして、ごそごそ。
何かを探すようにベッドのシーツをまさぐり始め・・・ぎゅ。
ベッドの縁に手をついていた俺の人差し指を握りしめた。
「・・・赤ちゃんみたいな子ね・・・」
「クレハさんに襲われないか心配ですわ」
「流石に傷つくぞセシリア・・。つーか、これ。どうすればいいんだよ?」
思いっきり振りほどくわけにもいかず、おろおろしていると少女が握った指を顔に近づけて匂いを嗅ぐようにフンフンし始めた。
寝ぼけているのか起きているのか知らんが、身体を勝手にされるのは気分の良いものじゃない。
そう思った俺は少しずつ指の解放に向けて行動を起こそうとしたが、その時。
―――――はむっ
・・・何の擬音かというと、俺の指が少女の口に消えた音だ。
いきなり俺の指をくわえた少女は、まるでアメでも舐めるかのように舌で指先を転がし続ける。
「う、うぇっ!? ひ、柊君って・・・・もうッ!」
「し、知らん知らん! 俺が突っ込んだわけじゃないぞ!?」
突然なことに仰天したのか、若干キャラが変わったサラは少女を止めるでもなく―――は、え? なんか、スケッチブックを取り出して絵を描き始めたぞ!?
「おい、ちょっと待てお前! なに描いてやがる!? ――――は、おいやめろ!
「黙りなさい柊君! もうこれは仕方がないわ。一種の罰なのだから甘んじて受けることね。新刊は二限で売り出す予定だから、おまけとして出してあげるわ!」
「おまけ扱いかよッ!」
サラの行動の真意が察せてしまった俺は必死になって指を抜こうとするが・・・イテテテッ! 歯が引っ掛かって抜けないぞ!?
サラと言い合いをしている間にも少女の寝ぼけ方は酷くなっていく。
「ちゅぴっ・・・あぁんふ・・・あふ・・」
おい、おい待て。それ絶対にアメの食い方じゃねぇぞそれ!
アメの舐め方からソフトクリームを舌先でなぞるようにし始めた少女は未だに寝ぼけた目のままだ。
まずい。このままでは非常にまずい。
なんか知らんが瞬龍が反応して、胸が痛いほど脈打ってやがる。
このままじゃ、Bシステムの起動条件を知っているサラにはロリコン性犯罪者の汚名を着せられ、フォルテによって拡散され、セシリアには白い目で見られてしまう! いや、最悪全生徒からそういう目で見られてしまう!
――――そんな時だった。
バタンッ!
「――――お願いリヴァイヴッ!」
力強い声と共にIS、ラファール・リヴァイヴカスタム2の装甲をまとい、顔を真っ赤にしたデュノアが部屋に現れた。
ドアを蹴破って出現したデュノアは、俺に55口径アサルトライフル、ヴェントを向け――む、向けられた!?
「ちょっと待てデュノア! これはだな―――」
「クレハがこれ以上暴走しないためにも、ここで終わらせるッ!」
――――なにをだ!?
言い終わると同時に引かれるトリガー。
突如人生の危機に陥った俺はなすすべもなく飛翔する弾丸を見つめるしかない。
これ以上暴走って・・・一番暴走してるのお前じゃねぇの―――――――!?
顔を守るために突き出した両腕に――――弾丸は飛んでこなかった。
痛みもない。
衝撃もない。
恐る恐る目を開けようにも・・・・なんだこれ。瞼が重くて中々視界が開かない。
「――――全く、監視者が一番先に取り乱してどうするシャルロット。監視対象のいる部屋に飛び込むなど言語道断だぞ」
やっとこさ開いた目に写ったのは、黒く、巨大な腕。
このISは・・シュヴァルツェア・レーゲン。
とすると俺を守ってくれたのは・・・・
「怪我はありませんか兄さん」
「あ、ああ。ナイスタイミングだ
デュノアと同じようにドアから現れたラウラは発射された弾丸を俺ごと
いきなりだったからか停止結界の効果範囲設定が出来なかったらしく、俺ごと止めたようだが・・。ラウラ、AICの扱い上手くなってんな。複数対象の同時停止・・・、出来るようになってんじゃん。
マジで命の恩人であるラウラには兄としてハグの一つでもしてやりたい所だがラウラ、
ラウラは俺が無事だったことに胸を撫で下ろすと、「そう言えば・・・」と言って部屋の四隅を興味深そうに眺め始めた。
なんだよ。間取りは一緒だぞ。
眺めるだけでは終わらないのか、椅子を取り出したラウラは眺めていた部屋の壁や天井を確認していく。
一連の行動を理解できない俺とサラとセシリアがハテナマークを浮かべる中、デュノアが一人だけ「ギクッ」て言った。
その瞬間、一時的にだがBシステムが発現しかけた俺は瞳の処理能力を使って高速で思考する。
・・・・寮のセキュリティは確かに堅牢だが、実は建物にはいるのが難しいのではなく、個人の部屋にはいるのが難しいのだ。
そこにいる少女は俺の部屋に居たのだから何らかの方法でそのロックを解除したと言うこと。
考えられる方法は二つ。
まずひとつ目に、少女特有の特殊能力。
超界者なんてトンでも生命体がいるんだ。考えられない方法じゃない。
次に、第三者の介入。
少女自身にはなんの技術もなく、部屋への侵入が困難な場合、第三者が関わっていることは間違いない。
その第三者として考えられる人物の条件は、部屋の鍵を開けられる人物であること、そして俺の部屋に入る必要がある人物であることだ。
少女の様子から言って、第一の方法ははずしていいだろう。もし特殊な能力があったとしても俺の部屋には言った時点で何かしらのアクションを起こしていたハズだし、呑気に昼寝する訳もない。
だとしたら必然的に二つ目の方法になるわけだが・・・・・。
「・・・・・おいデュノア。午前中何してた」
「ギクッ」
二つ目の方法における第三者の人物像において当てはまるのは二人くらいしかいない。
まず鈴だが、これは無いだろう。帰ってきてたらわかるハズだし、帰ってきてたら多分そのまま寝てる。この部屋にいないと言う時点で鈴は帰ってきてないし、部屋に入ってもいない。
次に出てくるのは、カードキー無しでも部屋には入れるデュノアだ。
こいつは六月にラウラの部屋のセキュリティを突破している。一度できたんだ。二度目は造作もないだろう。
部屋に入る理由は知らんが、入れると言う時点で疑うには十分だ。
「・・・・デュノア、何してた」
「・・・・・・ッ!」
ダラダラと汗をかきはじめるデュノア。
マジかコイツ・・。
両手をクロスし、何かに備えたようにデュノアに語りかける俺と、汗を垂れ流し続けるデュノアという現実味のない(悪い意味で)光景が展開される中、何かを発見したラウラが言った。
「・・・・・流石だなシャルロット。私でも見つけるのに苦労するとは並大抵の技術ではないぞ」
椅子から降りてきたラウラの手にはなにやら四角い機械が・・・・って。
「・・・・トレプス製の超高度集音マイクを搭載した
「おう、サンキューなサラ」
「べ、別に大した情報じゃないわよ・・・」
エンピツをサラサラしながら付加情報を提供してくれたサラに礼を言う。
素直に礼を言った俺に戸惑いを覚えたのか、サラがスケッチブックで顔を隠したが・・・違うからな?
今の俺はコイツへの怒りに駆られて色々どうでもよくなってる状態だからな?
「ラウラ。それと同じやつあと何個くらいありそうだ? 電波傍受出来るだろ」
「はい。シャルロットの端末を見た際に確認できたカメラの数は11台。マイクの数は6台あります」
「ら、ラウラ~。秘密にしてくれるって言ったよね~・・・・」
正直なラウラの証言に、デュノアが涙目で訴える。
ふっ、今のラウラに泣き落としなんか効くもんか。
今現在、俺からラウラへのプレッシャーは千冬さんの通常状態のそれを裕に越している。
そんな俺を前にラウラが逆らえるわけがない!
――――と、その時。
「・・・・・・・・・ほぇ?」
少女が、目を覚ました。
周囲の喧騒のせいかもしれんが、そう言えば俺は少女の口から手を無理やり引き抜いている。そのせいかもしれん。
・・・・ちっ、命拾いしたなデュノア。
少女に対して警戒心を持っているサラはISを展開するそぶりを見せたが、俺がそれを制する。
「まぁ待てって。イザとなったら俺が対処する」
そう言った俺に、サラは渋々ながらも取り出していたサニーラバー(今は体外にありネックレスの形態を取っている)を胸ポケットに納めた。
少女はいきなり現れた集団にビビってるのか、キョロキョロして忙しない。
・・・・さて、質問を始めようかね。
俺は少女と目線をあわせるためにベッドに腰かけた。
「おい」
「っ!」
「いや、そんなビビるなよ。遅くなったがさっきは悪かったな。いきなり銃なんて突きつけて」
「そ、その事は気にしてない、です・・・・」
おお、会話できてる。
さっきまでは一言も喋らなかったが、腹が脹れたのと一眠りのお陰で幾分か精神状態も安定しているようだ。
「会話は出来るな? どうしてこんなところにお前はいたんだ?」
「どうしてって・・・・」
俺を見る少女がキョトンと目を瞬かせる。
何かを言い淀んでから、周囲の顔を見渡すようにして、また黙る。
? なんだ?
不可解な素振りに俺は頭を悩ます。
「はぁ、どうやらその子自身、なんでここにいるのか分かってないみたいね」
「どうにもそうっぽいんだよね。ボクが工作しに来たときもドアの前でボーッとしてただけだし」
サラがため息をつき、デュノアがなんかもうぶっちゃける。
「ドアの前でボーッとしてた? 午前中の話か?」
「うん、なんだか入りたそうにしてたからクレハの親戚かなにかだと思ったの。いろいろ聞いてみようと思ったけど、喋らないし、ボクも仕掛けるのにいっぱいいっぱいだったから・・・・」
しゅんと肩を縮こませるデュノア。
いや、他に何か気にかけることなかったんか。倫理とか。
「えーっと、この部屋にはそこのお姉ちゃんが入れてくれたってことでいいのか?」
そう確認すると、こくこくこく。
小刻みに首を降って肯定する。
「・・・・どうする? 特に問題も無さそうだし、このまま迷子ってことで警察呼ぶか。色々不可解な点はあるが、それらは専門に任せようぜ?」
後ろを振り替えって皆に確認する。
一様に眉を寄せているが、それが最善の手だと解っているらしく、誰も異を唱えない。
さてと、そんじゃ千冬さんかね・・・。
と、思ってた時だ。
『えーっと、校内にいる各学年の専用機持ちは至急第二整備室に集合。二学期にあるキャノンボールファスト用のパッケージが届いた、とのことなんで急ぐように。以上。』
天井のスピーカーがジジジとノイズを発したと思ったら、続けて大倭先生の気だるげな声が流れた。
放送を聞いた一同は直ぐ様端末を開いて、諸々の確認を取っている。
「こんなタイミングで悪いけれど、私たちは行くわね。一応『
「ん? サニーラバーって双龍が独自開発したんじゃねぇの?」
「バカね。甲龍だって中国が面倒見てるでしょう? 双龍が
「ああ、そういやイギリスも一枚噛んでたんだっけな・・・」
そう言って俺の部屋に溢れていたメンバーは波が引くように居なくなり、俺と少女だけが残された。
「えーと、んじゃ職員室の方に行ってみるか?」
いきなり二人っきりにされた俺はどうすればいいのか分からず、取り敢えず目先の問題解決へと足を進める。
だが、腰かけていたベッドから立ち上がろうとするが、ん? 何かに服が引っ掛かって立てない。
不振に思い、制服の腰の方を見てみると・・・・。
「・・・・・どうしたよ?」
少女が、ブレザーを着ていない俺のシャツを小さく摘まんでいたのだ。
何となくそう言ってみると、次の瞬間、少女の顔が俺の目の前に迫ってきた。
一瞬キスでもされるのかとビビったが、そう言うわけでもなく少女の口許が俺の耳に寄せられ、こう呟いた。
「――――――まだ気づかないのですか?」
「――――――」
自然と、意識が戦闘のそれに切り替わっていく。
「・・・・なんの目的があってここにいるんだ」
「それはこちらの台詞ですよ。どうして貴方はこんなところで人間に紛れているのですか? 上から指令を受けているなら達成目標を教えてくださればお力添えしますよ」
急に饒舌になった少女は、まるで俺が兵隊であるかのように問いかけてくる。
暫くは様子見だな。話をあわせよう。
というか、背中を取られている以上ヘタに動くと頭が吹き飛びかねん。
「―――そうだ。俺は上からの命令でここに潜入している。目標は不明、追って通達するそうだ」
「なるほど。そう言うことですか。・・・・それで、モノは相談なのですが、実は私ちょっと問題があって内蔵データが一時的に参照不明になってるんです。行動を共にしてた分隊ともはぐれてしまいましたし。我々としての集合意識は健在なのですが、現在私が受けている指令の内容が思い出せなくなってるんです。良ければ接続してリストアしても宜しいですか?」
・・・これは、なにか変なものを招き入れたみたいだぞ。
言ってることの半分は分からんが、なんだかこいつ、言ってることが機械じみている。
もっとだ。もっとしゃべらせて情報を吐かせろ。
Bシステムも使えない俺に腹芸が出来るとは思えんがやるしかない。
「問題ってなんだ。何が起こった」
「分かりません。ただ、気がついたときにはあの場にいました」
あの場、と言うのは聞くまでもなくアクアマリンだろう。
「直前の記憶のみ欠落してたため、状況を把握すべく周囲のコア反応を探査しました。その結果、最も近かった反応が貴方にあったため、合流したのです」
「・・・だが、今の俺は単独行動中だ。分隊に戻ろうとしてもお前の所属は分からねぇぞ」
「構わないでしょう。私たちは私たちがするべきことをして、成すべきことを成すだけです。女王の復活と言う大願を掲げて、そこに至るまでの過程は特に重視されません。組織される隊も形だけのことで特に統制はされていません」
「それじゃあ何か? 必要と思うことをしているってだけなのか」
「そういうことになりますね。過去に人類と手を組んだ派閥も有ったようですが、我らが女王を崩御せしめたのは彼ら。手を取り合うなど女王への侮辱同然です」
「なるほどね」
話の端々から察するに、この少女もミナトやウェルクと同じ『
しかし、どうやらコイツ。
もといた部隊から
超界者とは、彼らの女王を復活させるために俺と鈴の身を狙う
その心臓はコアとして機能し、肉体はそのまま装甲として形を成す。
現在のISの基盤となった技術を持つ特殊生命体だ。
その超界者が、今、俺の後ろにいる。
さらに言えばどうやら人間に対しては対立的。
俺のことはどうも超界者と勘違いしているようだが、人間な上に攻撃対象だとバレたら速攻で銃口がお目見えするだろうよ。
サラ達の前では無口で通したのも数的不利を危惧して情報を与えないためだろう。
記憶がないから行動できない的なことも言ってたが、どうやら超界者達の作戦とは結構適当らしく、やりたいことをしてもいいって感じだ。
そう言うわけでどうしようかと迷ってたときに俺が現れたんでそのままついていこうって思ったのか。
・・・・さてと、コイツの事情は分かったわけだがどうしたもんかな。
上手いこと自分のことを偽れたみたいだが、今の俺を「次の行動に向けて待機中の超界者」としたせいで、付いてくるっぽいぞ。この子。
接続して
ていうか、直したら直したで更にめんどくさいことになりそうだし止めとこう。
「そう言えば、名前はあるのか? 俺の場合、必要だったんで自分でつけたが」
名前を聞いていないことに気がついて、適当に取り繕って聞いてみる。
「そうですね・・・・」
考え込む辺り、持ってないんだろうな。名前。
ていうかコイツらって、名前すら持たずに女王女王言ってのな。デュノアじゃないが、もっと気にすることあるだろ。
名前っつったら第一に自分を定義するモンだぞ。
よく無しで生きていられるもんだ。
少女は周囲を見渡して何か名前になりそうなものを探している。
釣られて視線を追っていると、窓の外で視線が止まった。
「・・・・・・」
窓の外の空を、食い入るように見つめている。
夏らしく、昼間の空には雲ひとつなく、青い空がどこまでも広がっている。
「・・・・安直に
「――――驚きました。貴方には思考を覗き見るプラグインでも積まれてるのですか?」
「ねーよ。んなもん」
どうやら少女も同じように考えてたらしく、アオ、アオと繰り返し呟いている。
・・・気に入ったみたいだな。
「それではアオは貴方と共に潜入状態での待機に入ります。カムフラージュのために人類における親族の設定を通した方が良いとアオは判断しますが、どうしましょうか」
「要らないだろ。さっき話してたみたいに迷子設定を通してろ。捜索願なんて出てるわけないんだし、なぁなぁで此処に匿ってやるよ」
「そうですか。分かりました」
迷子設定を了承したらしく、そのままアオはぽけーっと外を眺め始めた。
・・・・思わぬ出会いをしちまったな、俺。
でも、俺がコイツを匿うのはアオに俺が女王のコアを持っていると悟らせない為だけじゃない。
逆に監視してやるんだ。超界者という存在を。
コイツと話してみてはっきりとわかった。
未だに、俺と鈴を狙う奴等はごまんといる。
喧嘩なんかしてる場合じゃねぇな。今後の身の振り方を考えないとだな。
そう言えば、と、俺は少し気になったことを聞いてみることにした。
「なんであのプールで俺のことを兄呼ばわりしたんだ? 取って付けたのか?」
「・・・・・そんなの決まってるじゃないですか」
そう言って、アオは少し安心したように微笑んだ。まるで家族に会えた素朴な喜びを感じたように。
「超界者にとって、同族、仲間というのは兄弟かそれ以上の関係だからですよ」
読んでくださってありがとうございました。